収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 14 「終わりの始まり」

「おい、起きろよ。どうせ狸寝入りしてるんだろ」

 

 俺は最初からずっと倒れたままの眼鏡マンへと近付いていった。

 

「初手でやられたフリをして倒れている方が余計な怪我をしなくて良いもんな」

「なんだ、分かっていたのか」

 

 眼鏡マンは降参と言わんがばかりに両手を上に挙げながらゆっくりと立ち上がった。

 

 先程まで失神していた人間にしては動きがスムーズすぎる。

 倒されたフリをしてサボっていた、もしくは隙を見て逃げ出そうとしたことは明らかだ。

 

「お前にいくつか確認したいことがあるが良いか?」

「ああ」

 

 これだけは聞いておかないといけないだろう。

 運営がやろうとしている新ゲームだの世界がどうだのより重要な問題だ。

 

「俺達の前にドロシー、レルム、タルタロスという遺跡で死んだ人間を送り付けてきた理由は?」

「この施設の研究棟で最適な死体を見つけたので、そこから情報を採取して人造人間を作り上げた。それだけだ。1体は記憶の再生に失敗した欠陥品だったが、名前からして魔女にぶつけるミサイルとしては最適かと思ってね」

「そうか……」

 

 やはり、あのオリジナルの3人は既に死んでいて、別人がすり替わっているだけなのか。

 オリジナルの3人は助けられなくて本当に申し訳ないと思う。

 

 ただ、重要なワードを聞き出せた。

「『この施設』の研究棟」だ。

 

「他に西の魔女を襲撃してきたその他もろもろも同じか?」

「ああ、手元にあるデータから出せる奴をテストも兼ねて出してみた。役には立たなかったがな」

 

 生命を生命とも思えない語り口は正直腹に据えかねるが、ここでキレても仕方ない。

 話を続けさせる。

 

「そうやって作った人間には元の人間のコピーにどうやって遠隔で命令を与えているんだ?」

「この塔から命令信号を送ってやるだけだ。別に難しいことでもない」

「ということは、この塔がなくなれば命令は聞かなくなると」

「まあ、そういうことになるな」

 

 眼鏡マンが協力的で助かる。

 こちらの聞きたいことに全部答えてくれるのは本当に助かる。

 

「それで、今の作られた人間は何年くらい生きるんだ? 創作だと、この手の人造人間は極端に寿命が短いとかありがちだけど」

「さてね。召喚システムを応用して元の人間の情報を上書きしてるから、生体的には元の人間と同じになるはずじゃないのか?」

「生態的には元の人間と同じと。それは良い話を聞かせてもらった。助かった」

 

 とりあえず聞きたい話は聞くことが出来た。

 後は本来の目的を果たすだけだ。

 

「モリ君、エリちゃん、今の話は理解できた?」

「うん、塔がなくなれば命令を聞かなくなると」

「ここが壊れても3人は別に消えたりはしないってことだけは」

 

 2人とも分かってくれたようだ。

 本当に話が早くて助かる。

 

「全部話したし助けてくれるんだろうな」

「お前が俺達に送り込んだ刺客の皆さんもそう思っていただろうな。なのにお前はどうした?」

「いや、むしろ感謝すべきだろう。僕がいたことでこの世界にもう一度生きられるんだから」

「まあそうだな。そういう意味では良いことはしたな。だから交換条件で助けてやってもいい」

 

 俺がそう言うと眼鏡マンは顔を輝かせた。

 

「なら、僕を助けてくれるということで良いんだな」

「その代わりにこちらの頼みを聞いてもらうぞ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 眼鏡マンの案内で「転送室」という場所へやってきた。

 倒れたままのタイツマンとゲームマスターをウィリーさんに運んでもらっている。

 

 室内にはよく分からない装置や機械で埋め尽くされている。

 どうせろくでもない目的にしか使われないのだろう。

 

 それらの機器の中で最も目を引くのは、壁際に取り付けたれた巨大なシリンダーのような円柱だ。

 

 シリンダーにはスライドドアのようなものが付いており、内部へ何かを入れることが出来る仕組みになっているようだ。

 

 その底部には魔法陣らしき紋様が描かれており、それが何かしらの効果を発揮することは分かる。

 

「これの使い方は?」

「そこのモニター横のダイヤルで座標を選択。手前のレバーを上げるとそのシリンダー内に入れた人間を設定された場所へと送り込むことが出来る」

「転送された人間をこの場へ戻すことは出来るのか?」

「その場合は別のアイテムを使う」

 

 眼鏡マンがキャビネットを指差したので開けてみると、中には用途不明の道具が山程詰め込まれていた。

 

 まあ使うことはないだろう。

 悪用されないように後で処分しよう。

 

「それで、送り込むことが出来る距離の制限は?」

「この世界の中ならばどこでも」

「悪用されたら困るな……さすがにこいつで日本へ戻れたりはしないんだな」

 

 一応念のために聞いておく。

 これで日本へ帰ることが出来るのならば、利用する方法を考えたい。

 

「次元を越えられるほど性能はない」

「流石にそんな都合の良い話はないか」

 

 早速、ダイヤルを操作してみる。

 

 モニターに表示されているメッセージは不明の文字であるため意味不明だが、地図も表示されているので、操作は感覚的に理解できる。

 

 近くの机の上に置かれていたメモ用紙を一枚破り、そこに「大悪人。この世界に地球から人間を召喚した運営の一味。ゲームマスター」と書き上げて、ゲームマスターの背中にピンで止めた。

 

「モリ君、ゲームマスターをそのシリンダーの中に」

「分かりました」

 

 モリ君が倒れたままのゲームマスターをシリンダーの中に雑に投げ入れた。

 

「次はタイツマン、このメモを持って」

「……この手で持てると思うか……」

 

 タイツマンの肩は先程エリちゃんにやられたことでおかしな方向を向いたままだ。

 今も激痛が続いているだろうし、その手では何も持つことが出来ないことはわかる。

 

 仕方ないのでタイツマンの額にペンで直接「私はゲームマスターに協力したアホです」と直接書き入れた。

 

 最後にメモ用紙に今の状況のあらましを書いた後に、その紙でクッキーを包んで、眼鏡マンのポケットにねじ込んだ。

 

 これで俺からのメッセージであると伝わるはずだ。

 

「それで、このゲームマスターをどこに送るつもりなんだ?」

 

 ハセベさんに尋ねられたので答える。

 

「この世界で一番こいつに会いたがっている人のところですよ」

 

 目的地は……タウンティンの東、州都チャンカの州庁舎前。

 

 こいつらの処分は、あとは知事が何とかしてくれるだろう。

 

 これは決して丸投げでも、知事に対しての嫌がらせでもない。

 ゲームマスターに何か言いたいのも、手を下したい気持ちも、俺達よりも50年間恨みを募らせてきたあの知事の方が上だろう。

 

 ならばこいつの処分については俺達よりもあの人にあるはずだ。

 

 ゲームマスターはどうなるかは分からないが、眼鏡マンとタイツマンに関しては、それなりに恩情措置が与えられるかもしれない。

 

 少なくとも、西の魔女、伊原さんのところに送るよりはマシだろう。

 あの人は間違いなくその場で殺処分するタイプだ。

 

「2人とも、ついでに知事や……リプリィさんにメッセージを出せるけどどうする?」

 

 モリ君とエリちゃんに確認する。

 おそらくこれが正真正銘、最後の連絡の機会だ。

 

 メッセージがあるならば、この機を逃せばもう二度と連絡する機会はないだろう。

 

「私はもう大丈夫。色々書くとまた会いたくなっちゃうし」

「俺も大丈夫……いえ、少しだけ手紙を書かせてください」

 

 モリ君は急に思い出したように言った。

 俺は無言でメモ用紙とペンを渡す。

 

「簡単にだぞ」

「分かっています。簡単に書きます」

 

 モリ君はメモ用紙に「楽しかった」「ありがとう」「幸せに」とだけ書いた。

 もっといくらでも書けるだろうに、随分とシンプルにまとめたものだ。

 

 だが、一枚一枚にモリ君の気持ちがこもっているのが分かる。

 

 とても良い手紙だ。

 

「あて名は?」

「これで大丈夫です。きっと伝わります」

「そうか」

 

 モリ君が書いたメモ用紙を同じように眼鏡マンのポケットへ、こちらは折れ曲がらないように丁寧に入れた。

 

「モリ君だけ、こいつらを見張るという建前で一緒に戻ってもいいんだぞ。俺は止めない」

 

 一応念のために確認する。

 

 これでモリ君と別れるのは辛いが、それが本人の選択ならば止めはしない。

 

「本当に大丈夫ですって」

「本当に?」

「本当にです。もうとっくに気持ちに決着は付けました。だからこれ以上迷わせないでください」

 

 迷わせない……か。

 

 まあそういうものだ。

 頭では……理屈では分かっていても気持ちはそう簡単に割り切れないものだ。

 

 ただ別に捨てたわけではない。

 モリ君の選択で選んだのだから、あの時の涙を忘れないで欲しい。

 

「最後はお前な、眼鏡マン」

「だから僕はメルクという名前が……」

「はいはい分かったから」

 

 眼鏡マンの額にもタイツマンと同じように「変態」とペンで書いてシリンダーの中に入るように促した。

 

「協力したんだから、ちゃんと助けてくれるんだよな」

「ああ、もちろん。この世界でも住みやすい都会に送ってやるよ。もうゲームのことなんて忘れて平和に暮らすんだぞ」

「……ああ」

 

 3人がシリンダーの中に入ったことを確認したので、転送装置を起動させる。

 

 モニターの横に付いているレバーを上げると、3人の姿は無音でシリンダー内部から消えていた。

 

 モニターには3人の位置がペルー……タウンティンの州庁舎前に移動したのを示すマーカーが表示されている。

 転送は成功したのだろう。

 

「みんなはどこかに行きたい場所とかありますか?」

「往復出来るならあちこち見ていたいんだけどな。ハワイとか」

 

 俺の冗談にウィリーさんが反応した。

 

「コペンハーゲンなんかも見たいと思いません?」

「私は南極を一度見てみたいところだ」

 

 ウィリーさんの発言を聞いてみんなの大喜利が始まった。

 

「私は家に帰りたいかな」

「まあ、それはもうちょっと先かな」

「俺はサンディエゴに直帰したいですね。もう砂漠の移動は暑いし辛いしでもうまっぴら」

「それはそうだ」

 

 俺は鳥を呼び出すと、2羽を雑にモニターに叩きつけた。

 

 モニターが砕けて割れ、中の機械が露出している。

 残り3羽をむき出しになった機械へ叩きつけると、今度は装置に灯っていたランプが消えた。

 

 続いて第3のスキル、極光をシリンダーに放って破壊する。

 

「さて、後始末を始めましょうか」

「ああ、やるか。こんなクソみたいな組織が使っていたクソみたいな施設、全部ぶっ壊してやろうぜ」

 

 ウィリーさんは完全にやる気だ。

 

「だが、どうやって壊す? 自爆装置でもなければ大人しく壊れてくれる感じじゃないぞ」

 

 ハセベさんも破壊したいようだが、そこはやはり冷静だ。

 

「施設の破壊なら俺一人に任せてください。そのための火力です」

「だがラヴィ君一人に任せるのは……」

 

 ハセベさんは何か言おうとしたが、俺の顔を見て言葉を止めた。

 

 流石ハセベさんだ。

 俺が何を考えているかすぐに気付いたらしい。

 

「みんな行こう。ここに残っているとラヴィ君の『収穫』に巻き込まれる」

「でも」

「ハセベさんの言う通り。魔女の呪いを使った方が圧倒的に早いから。そのためには、近くに誰もいない方が使いやすいので、徹底的に遠くに逃げてくれ。離れれば離れるほどいい」

 

 俺はそう言って笑顔を作った。

 

 みんなは何か言いたそうだったが、俺が笑顔のまま無言でみつめていると諦めてくれたようだ。

 そのまま外へと駆けだしていった。

 

 ハセベさんが仕切ってくれるのだから、後はここから全力で離れてくれるだろう。

 

 これからやる仕事をみんなには見せたくない。

 

 特にモリ君とエリちゃんには余計にだ。

 

 こういう汚れ仕事は悪人である魔女(おれ)の仕事だ。

 

「さて、オリジナルのレルム君達は回収されて、この研究棟にいるんだったよな……」

 

 転送室から出た後に、最後に極光を放って室内を焼き払う。

 

「みんな待たせてごめん……俺が楽にする」

 

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