収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 13 「フィラデルフィア実験」

 マインガルの町から少し離れたところに、駆逐艦が横倒しになっていた。

 

 これは市庁舎から入手した資料通りの情報だ。

 特に驚くほどのことはない……はずだったのだが、実際に目の当たりにすると、巨大な鋼鉄の船が砂漠に横倒しになっているインパクトはかなり大きい。

 

 過酷な環境で放置されていたからか、一部錆止め塗料が剥がれた箇所から錆が広がり、あちこちが茶色に染まっていた。

 このまま放置し続けていれば、そのうち錆びて地に還るのだろう。

 

 甲板にある入り口からはボロボロになった縄梯子が地面まで延びていた。

 

 船員たちは、その縄梯子を使って船から脱出したのだろう。

 

「艦名などは分かるのかね?」

 

 ハセベさんに聞かれたが首を捻るのみだ。

 古い型の駆逐艦ではあるが、種別までははっきりと分からない。

 

 少なくとも現代のイージス艦とは異なるというだけだ。

 

「オレも横須賀のふ頭で駆逐艦は見たことがあるけど、こんな間近で見るのは初めてだな」

 

 ウィリーさんが興味深そうに駆逐艦を眺めた。

 

「ウィリーさんは護衛艦の一般公開には行かなかったんですか?」

「そこまでミリタリー好きってわけじゃないからな。横須賀の桜祭りで軍港近くには行ったことはあるけど。ラヴィはミリタリー好きなのか?」

「浅いファンです。日本海軍の船が女子になるブラウザゲーが流行ってたでしょ。あれの影響で国内の軍港巡りをしたくらいですよ」

「ラビさん、それは十分濃いファンです。普通はゲームで知ったからって全国巡りなんてしません。どこへ行ったんですか?」

 

 なぜかモリ君が割り込んできて厳しい言葉を浴びせてきた。

 

「舞鶴、呉、佐世保、横須賀、大湊」

 

 舞鶴と呉は兵庫西部からだと日帰り圏内だし、横須賀は東京出張のついでに寄っただけだ。

 

「大湊ってどこでしたっけ?」

「青森」

「佐世保は?」

「長崎」

「それは立派なマニアです」

「大げさに言い過ぎだろう。戦車なんて全部四角い箱にしか見えない浅いファンの俺でも、大洗であんこう鍋くらい食うんだから」

「なんで戦車と茨城が関係あるんですか? あんこう鍋は食べたことはありますけど」

 

 ダメだ。まるで通じていなかった。

 これほど考え方に違いがあるとは思わなかった。

 

「でも、地元がアニメの舞台になったとか気にならないか? 近所の市民プールや駅がレジスタンスのアジトになってるんだぞ」

「加古川に何があったんですか?」

「知らない」

「この駆逐艦の乗組員は町に移動したらしいので、この船の中にはたいした情報は残ってないと思うがどうする?」

 

 ハセベさんは砂の中からアメリカの星条旗を拾い上げながら言った。

 砂漠の厳しい環境に晒されていたからか、あちこちボロボロではあるが、それでも駆逐艦の船籍を証明している。

 

「あれ、おかしくないか?」

 

 カーターが星条旗を見ながら言った。

 

「何がおかしいんだ?」

「あのマインガルって町は位置こそアメリカだけどアメリカじゃない国にあった町だろ。町のどこにも星条旗を見かけなかった」

「じゃあ、この駆逐艦と、あの町はそれぞれ別の世界から来てたりするのか?」

「まさか……」

 

 ないとは言い切れない。

 

 駆逐艦の乗組員が町に避難した際に、かなり横柄な態度を取っていたことが気になった。

 その理由が、全く別の世界からやってきたために、どこかでコミュニケーションに失敗した可能性も考えられるからだ。

 

「一応、軽く調べておきましょうか」

 

 ダメ元で使い魔モードで鳥を1羽、艦内に侵入させる。

 

 船が横転しているからか、上下左右が目茶苦茶になっていて、平衡感覚がおかしくなってくる。

 

「内部は人間が入るには向いてないですね」

「歩きにくいのか?」

「船の通路は縦向きで歩ける幅に作られているわけで、横倒しになると、そのまま天井が低い通路になるんです。匍匐(ほふく)前進でないと進めないんじゃないかと」

 

 そうして見つけた船室を調べていくが、どの部屋も必要以上に荷物が少ない。

 

 この船は沈没したわけではない。

 退避するのに時間的な余裕があったので、持ち出せるものに関しては一通り持ち出した後なのだろう。

 

 医務室の棚は空っぽ。

 医薬品や包帯があれば欲しかったのだが残念だ。

 

 船長や士官がつけていたであろう航海日誌の類は見事に持ち去られていた。

 軍事機密にも関係するだろうし、残すという選択肢はなかったのだろう。

 

 見つかったのは、船室に残されていたノートくらいだ。

 

「とりあえず持ち帰ってこい」

 

 手元に鳥を呼び戻してノートを開いてみる。

 対比表を片手に翻訳しようと思ったが、すぐに異変に気づいた。

 

「謎文字じゃない。これって全部英語で書かれている」

「見せてもらえないか?」

 

 ハセベさんに聞かれたので、ノートを手渡して、横から内容をのぞき込んだ。

 あちこちページが貼り付いて読めなくなっている部分もあるが、なんとなく内容は分かる。

 

 どうやら、下っ端水兵が個人的に付けていた日記のようなもののようだ。

 

 斜め読みで概要だけ読んでみる。

 

 フィラデルフィア寄港中に駆逐艦で実験が行われたこと。

 

 実験が行われた日に突然砂漠の真ん中に投げ出されたこと。

 

 無線が通じないので乗員215名全員が、近くに見えた町に避難することが決まったと記載されている。

 

「うん、フィラデルフィア?」

 

 何かがおかしい。

 フィラデルフィアは、ここからまだまだ先の砂漠の真ん中に落ちたはずだ。

 そのフィラデルフィアに寄港した駆逐艦が、なぜこんな離れた砂漠の真ん中で横倒しになっているのか?

 

 ハセベさんはさらにパラパラとページをまくり始めて、その中の一つの単語を指差した。

 

「エルドリッジという船の名前を知ってるかね? この船の名前のようだ。何かヒントにでもなればと思ったのだが」

「フィラデルフィアの駆逐艦エルドリッジ!?」

 

 ノガレスの町で聞いた1943年のフィラデルフィアという話。

 そして、ここで横倒しになっている駆逐艦エルドリッジ。

 

 バラバラのキーワードがここで一気に繋がった。

 

「フィラデルフィア実験ですよ、それって」

「なんだね、それは?」

「都市伝説ですよ。1943年のこと。アメリカの駆逐艦がレーダーに検知されない仕組みを駆逐艦に組み込もうという計画がありました」

「今で言うところのステルスのようなものか」

「そうです。フィラデルフィアの軍港でその実験が行われることになりました」

 

 俺は都市伝説のあらすじを簡単に説明することにする。

 

「実験の被検体に選ばれたのは、たまたま整備のために寄港中の駆逐艦エルドリッジ。ですが実験は失敗。駆逐艦は次元の狭間に迷い込み、乗組員が壁にめり込んだり消滅したりしたという事件が起こったんです」

「待った、待ってくれ。それは現実に起こった出来事なのか? 映画のストーリーではなくて?」

 

 ハセベさんが真面目に尋ねてきたので俺は首を横に振った。

 

「だから都市伝説ですよ。アメリカ軍が極秘でステルス技術の研究開発をやっているという噂に尾ひれが付きまくって発生した根も葉もないデタラメ」

「つまりデマカセか」

「まあ、デマカセじゃない証拠がここにあるわけですが」

 

 俺は駆逐艦を指差した。

 

「この駆逐艦は、都市伝説が嘘じゃなくて現実である世界のフィラデルフィアから異世界転移してきた異世界駆逐艦です」

「信じられんな」

「でも現実なんです。そもそもこれから行こうとしているエリア51というのも都市伝説の産物なわけで」

 

 こんな都市伝説が現実化するなんてまるで悪い夢のようだ。

 イメージが現実になる幻夢境(ドリームランド)というカーターが語った話の真実味がどんどん補強されていく。

 

 俺は振り返って、マインガルの方向を見た。

 

 異世界からやってきたゴーストタウンとやはり異世界からやってきた駆逐艦との会合。

 都市伝説そのものだ。

 

「全部創作なのに、それが現実に起こっていることだから、この世界はおかしいんです」

 

 俺が神妙な顔をすると、ハセベさんとウィリーさんにも俺が冗談を言っているわけではないと伝わったようだ。

 

「異世界モノって漫画やアニメでもみんなそうだから、そういうモンだと思っていたが。他に大変なこともあったし」

 

 ウィリーさんの感想ももっともだ。

 

 俺もただのゲームの世界、もしくはただの気のせいだと思っていた。

 だが、やっぱり何かがおかしい。

 

 単純に空想が現実になるというだけではなく、裏で誰かの思惑が動いていて、そのように誘導されているように思える。

 

「いろいろと推論はあります。ですが、考えても答えなんて出せないし、証明することができません」

「思考停止だけはしないでおこう。もしかすると、それがきっかけで何かの法則を見出せるかもしれない」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 駆逐艦があった場所から数日歩いた場所に、フィラデルフィアの町はあった。

 

 厳密には町と呼ぶには多少無理がある。

 

 町の一部だけが円形に切り取られて砂漠のど真ん中に放置されているという状態だったからだ。

 

 町を分断するような凹んだ谷が広がっており、その北側には住宅がいくつも立ち並んでいるのが見える。

 対して南側は妙にスッキリとした町並みで、家などは少ない。

 

 町全体の半径は10キロほどあるだろうか?

 

 マインガルと似たような雰囲気ではあるが、最大の違いは町のあちこちに自動車が放置されていることだ。

 谷の部分に落下して朽ちている車も多い。

 

「フィラデルフィアの町中に、なんでそんな谷みたいな場所があるか分からないんですが」

「それは、もしかして谷ではなく、川だったのでは?」

 

 ハセベさんに言われて膝を打った。

 

 元々はフィラデルフィアの横を流れているデラウェア川だったのだろう。

 

 それが半径10キロの範囲で綺麗に切り取られて、このネバダ州の砂漠に飛んできた。

 川を流れていた水がなくなり、凹んだ谷だけが残ったのだ。

 

 ただし、ここで大きな問題がある。

 町の中心にある軍港があったであろう場所に巨大なすり鉢状の穴があるということだ。

 

 その破壊状況は、マインガルの発電所の破壊状況と似通っていた。

 

 以上が町に入る前に鳥の使い魔に偵察させた結果だ。

 

「どう解釈するのが良いと思いますか?」

「仮説としては2つだ。装置はケーブルを切断しただけでも簡単に爆発する不安定な代物だったのだろう」

「ああ。オレがスキルで撃って切断しただけであっさりと爆発が始まった」

 

 ウィリーさんが装置停止の状況を改めてハセベさんに伝えた。

 

「この町は軍港を中心に元の町から円形に切り取られていることは明白だ。なので、軍関係者や住民たちも原因がフィラデルフィア実験にあると考えて調査を行ったのかもしれない」

「その時に爆発したということですか?」

「もう1つの可能性は、伊原女史が町の住民を助ける際に、モンスターを倒すついでに装置も破壊した可能性だ」

「どちらにしろ、装置は既に破壊されていて、モンスターが出現することはないということですね」

「別の要因で敵が出現する可能性も残っています。注意しながら進みましょう」

 

 モリ君が締めたところで、馬車を走らせた。

 

 まずは町の中心部にある軍港跡を目指す。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 破壊の中心は、船のドックと思しき場所を中心に発生しているようだった。

 

 建屋は完全に吹き飛び、あちこちにトタン屋根やクレーンなどの整備機器がバラバラになって散乱している。

 

 コンクリは黒く焼け焦げているが、それでも染みついた重油の臭いが消えないのはさすがと言うべきだろうか。

 ここで働いていた人や事故当時にいた人がどうなったかは……あまり考えないようにしたい。

 

 併設されていたであろう事務所も、爆風により完全に倒壊してしまっている。

 コンクリにめり込んでいた何かの部品を拾い上げるが、熱によって成分がボロボロになっていたのか簡単に砕けた。

 

 この周辺施設で情報の入手は不可能と考えていいだろう。

 

「近くに海軍の司令部があるみたいなので、そこに何か残っているかどうかですね」

「それ以外だと市庁舎か」

 

 市庁舎は町はずれにそれらしい建物があるのが見えた。

 古いレンガ作りの建物で、少し離れていても割と目立つ。

 

 ただし、海軍の司令部の方は、もろに爆発の影響を受けたからか、外壁の一部は剥がれて、窓ガラスなどは軒並み割れている。

 軍の施設なので、ある程度は頑強に作られていると信じたいが、それでも少し入るのは戸惑うところだ。

 

「雨は降りそうにないですね」

 

 モリ君が手を空にかざしながら言った。

 空は雲一つない青空が広がっている。

 

 もちろんこれは、仮称ウニが現れる前兆の話だろう。

 

「一応、市庁舎の方を見に行って、何もなければ、どこか密閉された建物を探して、そこで泊まりましょう」

「ちょっと待って、そこの穴の奥に何か見えるんだけど」

 

 引き上げようとした時に、エリちゃんの声で全員が足を止めた。

 

 エリちゃんが指さすのは爆発の中心部だと思われるクレーターのさらに中心部だ。

 そこに太陽の光を受けて赤く煌めく何かが見える。

 

「拾いに行くか?」

「危険があるかもしれません。鳥に取りに行かせます」

 

 油断していて、ついうっかり「鳥だけに」と後ろに付け足すところだったが、なんとか堪えた。

 鳥に掘り起こさせると、それは豆粒ほどの大きさの赤く光る宝石のようなものだった。

 

 その断面は宝石職人が綺麗にカットでもしたかのように綺麗な平面が出ており、中には白い炎のようなものが灯っているように見える。

 自然に発生したものとは考えにくい。

 

「カーター、ちょっと見てくれ。この宝石は何なのか?」

 

 以前に見つけた寄生体のこともあるので、触らせはしない。

 鳥の足に掴ませたまま、カーターを呼んで見てもらうことにする。

 

 それに「どれどれ」と近づいていったカーターの顔が突然青くなる。

 慌てて飛び退いて距離を取った。

 

「危険物か?」

「近づくだけでは危険はない。そいつは高度な次元エネルギーの結晶のようなものだ」

「次元エネルギーが分からん。説明してくれ」

「プルトニウムみたいなもんと言えば分かるか」

 

 そう説明されると危険性が伝わってきた。

 だが、そこらに捨てるわけにもいかず、とりあえず元々あった穴の中心へ鳥を戻らせることにする。

 

「人体で直接触らなくて良かったな。触れていたら何かしら影響が出たはずだぞ」

「それは放射線的な? なんでそんなものがこの爆心地にあるんだ?」

「発電所に謎の装置があっただろ。あれの動力は不明だったが、そこの赤い結晶と同じものが使われたんだろう」

「つまり、今の欠片にそんなエネルギーが?」

「元々は欠片じゃなかったんだろう。爆発で大半が吹き飛んだと考えると分かりやすい」

 

 改めてマインガルの発電所で起こった事件が怖くなってきた。

 

 水力発電に代わって画期的な新動力を導入したという話の大本は間違っていなかった。

 なぜ制御装置が止まるだけで爆発したのかも分かる。

 動力炉の制御装置が止まったことで、炉心が臨界を起こして吹き飛んだ。

 原発と原理は違うだろうが、似たような現象が起こったのだろう。

 

「処理する方法はないのか? 放置していたらまた爆発するかもしれないんだろう」

 

 そう言うと、カーターがスーツの内ポケットの中から、薄い金属板を丸めたものを取り出した。

 丁寧に包みを開けると、中からは紫色の水晶が現れた。

 

「これは魔力を蓄える電池のようなもので、オレはその魔力を使って能力を使っている」

「スキルは使い放題じゃないのか?」

「オレにスキルなんてないんだよ。全部自前の魔術だ。だけど、魔力なんてないので、この電池から魔力を取り出して使ってるんだよ」

 

 カーターはそう説明すると、今度はメモ帳を取り出して、ペンで丸と三角を組み合わせた図形を書き始めた。

 書きあげた後に、そのメモを俺に渡してきた。

 

「そこに描かれている図形と同じものを、このセメントの路面に描いてくれ」

「描いてって、鉛筆でか?」

「お前の持っているバルザイの偃月刀だよ。それは元々魔法陣を描くための儀式用の刀だ」

 

 カーターは俺の腰のベルトにぶら下げている短剣を指差した。

 黒い刃の短剣を取り出す。

 

「ただの武器じゃないんだな」

「武器として使う方が間違っているんだと思うぞ」

 

 この場でたまに魚を捌いたり、野菜を切るのに使っていましたとは言わない方がいいだろう。

 カーターの書いたメモ通りに魔法陣を描いていく。

 

 シンプルな図形なので、簡単に書き終えることができた。

 

 その魔法陣の端に紫の水晶を置く。

 

 鳥を呼び戻して、カーターの指示通りに、魔法陣の中心に赤い宝石を置く。

 

 すると、赤い宝石から何か白い気流のようなものが紫水晶の方へ流れ始める。

 

 全員でその魔法陣をのぞき込んだ。

 

「これが終わるまではどれくらいかかるものなのかね?」

「……分からん。赤い宝石の中にどれだけエネルギーが蓄えられているか分からんからな」

 

 ハセベさんの質問に、カーターが曖昧すぎる答えを返した。

 気の長い話だ。

 だからといって、この場を離れても良いわけがない。

 

「みんな、今の間に今晩の宿と市庁舎の調査を頼んでいいか?」

「ラビさんはどうするんですか?」

「カーターとこの紫水晶の見張りだよ。こいつ一人を放置はできないだろ。万が一、何か悪いことを企んでいるかもしれないし」

 

 今のところ、カーターが悪事を企んでいるとは思えないが、念のためだ。

 ズボラな性格のカーターが、赤い宝石の処理を終わらせずに、中途半端で切り上げるのを防ぐためでもある。

 

「俺も残りましょうか?」

「モーリス君は調査と今夜の宿の確保を優先してくれ。君の今の判断力ならば任せられる」

 

 ハセベさんはそう言うと、俺のすぐ横に腰かけた。

 作業が終わるまで見届けるようだ。

 

「調査を終えて宿が見つかったら一度戻ってきます」

「こちらこそ庁舎の調査を頼む。赤い女関連の資料があったら見つけてきてくれ」

 

 モリ君たちを見送って、再度魔法陣の横に座り込んだ。

 あとはただ作業が終わるのを見届けるだけだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 モリ君たちがいなくなって1時間ほど経った頃だろうか、ハセベさんがカーターの方を向いた。

 

「カーターさん、そろそろあなたの正体について話してもらってもいいかね?」

「どうしたんだ、突然」

 

 赤い宝石から視線を動かさずカーターが答えた。

 ハセベさんはすっと立ち上がり、中腰で立って刀の鞘に手を当てた。

 

「あなたはさすがに私たちの知らないことを知りすぎている。ラヴィ君たちはともかく、私はまだ『運営』のスパイである可能性を捨てきれていない」

「スパイだと言ったらどうするんだ?」

「切らせてもらう」

 

 わずかな沈黙の後にカーターが口を開いた。

 

「オレの親戚の本家筋ってさ、明治時代に海外へ日本の骨董品の美術品を輸出して大儲けした商人だったんだけどさ」

「何の話だ」

「昔話だよ」

 

 ハセベさんも本気で切るつもりはないだろう。

 俺もただドモホルンリンクルのように見ているだけの時間が暇なので聞いておきたい。

 

「何年か前の話だ。本家の当主がくたばったが本家筋に跡継ぎはなし。なので、分家筋のオレたちが相続のために呼ばれて、遺品の整理をしていたんだ。そうしたら、先祖が明治時代に海外から仕入れた古書が蔵の奥から大量に出てきてだな」

「その本が何か曰くつきの代物だったのか?」

「ああ。文学作品や学術書の山の中に、異界の邪神とコンタクトを取るための、本物の魔導書が混じっていた。エイボンの書というヤバいやつだ」

「まさか、それで邪神とコンタクトを取ったのか?」

「取ったというか、事故ったっていうか。ともかく、それを切っ掛けに現代の魔術師というやつになった」

 

 今のところ運営との関係は何も見えないが、カーターの過去は気になるので話を続けてもらう。

 

「そこから、邪神の下でパシリをやらされてるんだよ。今回の仕事が別の世界に飛ばされたやつに助け舟を出すってやつだ」

「邪神本人が助けるわけじゃないのか?」

「本人は人間世界には不干渉なんだと。だからオレみたいなパシリを行かせるわけだ。オレの知識はそのスポンサーから聞いた事前情報ってわけ」

「じゃあ、変なことを知っていたり、逆に知らなかったりするのは……」

「そのスポンサーからの情報が偏っているからだよ」

 

 カーターはここで紙煙草を取り出して火を点けた。

 煙を深く吸って、吐き出す。

 灰がぽとりと落ちる。

 

「なので、オレはあんたらゲームの参加者とは全く別系統で動いているし、運営とも全然関係がない。以上、オレの昔語りは終わり」

 

 ハセベさんはそのまま背筋を伸ばして頭を下げた。

 

「今の話に嘘はないと思う。失礼な態度を取って申し訳ない」

「気にすんなって。オレも自分でも怪しいと思うよ。こんな怪しいやつに近づきたくないし、信じたくないってのは正しい」

 

 そんな話をしていると、赤い宝石が段々と濁っていき、灰色へと変わって、砂のようになって崩れた。

 

「思っていたよりも早く終わったな。これなら全員で待っていても良かったか」

「念のために確認したいんだけど、日本へ帰る方法を聞いていたりは?」

「しないよ。ただの一方通行だ」

 

 カーターは紫の水晶を拾い上げ、また金属板で包むとスーツの内ポケットに入れた。

 

 用事が済んだようなので、俺もバルザイの偃月刀で魔法陣にバツ印を入れて消しておく。

 

「じゃあそろそろ調査組も宿を見つけている頃だろう。合流するか」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 市庁舎では特に新しい情報は手に入らなかったようだ。

 伊原さんがここの住民を助けに来た時に、必要なものは既に持ち帰った後なのかもしれない。

 

 俺たちは近くの頑丈そうなホテルに宿を取り、夜明けと共に出発した。

 いよいよ運営が待つエリア51の攻略が始まる。

 

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