エリちゃんがボスらしき大剣を構えた機械人形に向かっていたのを合図に低予算共との戦闘が始まった。
肩に乗せた鳥の使い魔で奴らの数をカウントする。
「敵の数はボス1、雑魚が41!」
思っていたよりも数が多い。
こちらは7人なので、ノルマは6体ということになる。
ただし、エリちゃんはボスにかかりっきりなので、実質1人7体だ。
「42で『しに』ってことかい、そいつは縁起が良くて結構」
ウィリーさんが軽口を叩きながら、まず迫ってくる低予算へ2丁拳銃の連射を浴びせた。
だが、弾丸は敵の鎧に阻まれたようで怯むことなく迫ってくる。
弾が命中するたびに火花と共に鎧の破片は激しく飛び散ってはいるものの、頑強な鎧を突破できていない。
「こいつ、意外と硬いぞ!」
「そうです、こいつ意外と硬いんです。強化が必要です」
「そうですよ。ラビさん、刀を貸してください」
腰から白木の短刀を抜いてモリ君に渡すと、その刃に青い光がまとわり付いた。
モリ君のスキル、オーラウエポンによる強化だ。
本人から離れても、数分ならば効果が持続する。
「スキルで強化しました。効果時間は短いですが、それで、それなりには接近戦でも戦えると思います」
今回の敵はロボばかりなので、
火力重視となると、バルザイの偃月刀よりも短刀の方が効果的だ。
「ガーニー、オレの銃も強化を頼む」
「もうかけました」
ガーネットちゃんのスキルによって、ウィリーさんの2丁拳銃の銃口が風をまとう。
ウィリーさんがすかさず両手に持った拳銃を連射する。
先ほどまでと異なり、拳銃から放たれたエネルギー弾は追い風を受けて、低予算がまとった鎧を着実に貫いていく。
低予算本体の耐久度はたいしたことがないようで、鎧が砕かれた後は、あっさりと穴だらけになって倒れてた。
「この調子でどんどん倒すぜ」
「ええ。どんどん倒していきましょう」
「ラヴィ君は基本は魔法使いだ。無理はするな」
「そうは言っても黙って見ているわけにはいきませんよ。魔女なりの戦い方があります」
ハセベさんと一緒に近くにいる連中へ短刀を持って切り込んでいく。
体力や筋力は確かに魔女の少女そのものでしかない。
だが、オウカちゃんから受け継いだ剣の技術だけは達人のものとして扱える。
低予算が振りかざしてきた剣をギリギリで体を捻って避けた。
そして剣に短刀を当てて、それをガイドレールのようにして懐へ一気に飛び込む。
疾走の勢いを残したまま短刀を突き立てると、金属同士が擦れる音と共に光をまとう切っ先が低予算の鎧に深く食い込んだ。
もちろんこれだけ倒せないことは承知の上だ。
短刀を引き抜きつつ、開いた穴へ鳥をねじ込むように突撃させて、内側から破壊する。
本業は魔法使いなので、腕力が足りない分はスキルでカバーすればいい。
これで1体。
返す刀で別の個体に斬りかかる。
今度は逆のパターン。
鳥の突撃で鎧を大きく凹ませた後に、すかさず切りつける。
だが、こちらは浅い。
表面を掠っただけでまともなダメージを与えたとは言えない。
まずいな、このままだと反撃が来る。
どう対応したものか。
逡巡していると、ハセベさんが疾風のごとく俺と低予算の間に割り込み、倒し損ねた敵を一刀で切り伏せた。
「踏み込みが甘い! 前に教えた通り、恐怖から相手と距離が開きすぎている。間合いをもっとよく読むんだ」
「前? ええ、アドバイスありがとうございます。踏み込みと間合いですね」
「あ……いや、気にしないでくれ。魔法使いの君がそれだけ戦えれば十分だ」
ハセベさんはすぐに訂正をしてきた。
どうやら他の誰かと間違えたようだが、一体誰と間違えたのだろうか。
「しかし、さすがに数が多いな」
「何か景気良く数を削る方法はないか?」
「一応ありますけどね、隠し技」
俺は近くにいた低予算を切りつけながら答えた。
今度はアドバイス通りに鳥の突撃で低予算の体を高く浮かせて、気持ち一歩前に飛び込むことで切り捨てることに成功できた。
斬撃プラス鳥の連携攻撃で確実に倒せてはいるが、やはり数が多すぎる。
単体だとそれほど強くないが、他の個体を盾に向かってくる命知らずの敵相手には、油断すると一気に押し込まれる。
ウィリーさんとガーネットちゃんに近寄ってきていた敵の前に
「魔女の呪いはなしだぞ。この乱戦だと味方を巻き込む可能性が高い」
「別の決め手があるんですよ。前からちょくちょく練習しているうちに身についた技が。ただ一度使うと3分はアウトなのでフォローお願いします」
「ああ、そこは任せろ」
許可が出たので、隠し玉を使うことにしよう。
使うのは第3のスキル「極光」
ただしこれを普通の方法では使わない。
鳥を高速回転させて突撃させると威力が上がるように、極光の場合は、照射時間を短くすれことで、その分だけ威力が上がる。
持続時間、範囲、攻撃力がトレードオフならば、持続時間を狭めてやればいい。
通常だと30秒間は照射できる極光を手元で溜める。
以前にマインガルで発電所のシャッターを吹き飛ばした時は15秒まで溜めた。
今回は17秒を手元で溜めて、一気に放つ。
13秒の光線の照射。
低予算の集団目掛けて放たれた光線は、範囲内にいた9体の頭部をえぐり取った。
15体ほど薙ぎ払うつもりだったが、さすがに味方に当たらないように避けながら、敵だけを薙ぎ払うのは難しい。
まあこんなものだろう。
「すみません、10体には至らず」
「いや、十分だ」
「なら、こっちも負けてられねぇな。ガーニー、竜巻だ。ただし横方向!」
「分かりました!」
ガーネットちゃんが両手を構えると、そこから横薙ぎの竜巻が巻き起こった。
足を踏ん張って堪えている個体も存在するが、移動中だったり堪えきれなかった7体の低予算が強風に煽られ、吹き飛ばされて壁に強く叩きつけられた。
「よくやった! チャージショットを食らえっ!」
壁に叩きつけられて折り重なるように倒れている低予算目掛けてウィリーさんがスキルによるエネルギー弾を放ち、まとめて吹き飛ばした。
「こっちは連携攻撃で7体か」
「むむむ、やりますね」
ただし、今の攻撃で9+7の16体。一気に三分の一以上を削り取った計算になる。
その前に倒している分を数えると、もう半分以上倒した計算になる。
情勢は一気にこちらに傾いた。
数さえ減れば所詮は烏合の衆。恐れるに足りない。
エリちゃんが一騎打ちでボスを倒しさえすれば、あとはどうとでもなりそうだ。
◆ ◆ ◆
私の身長よりも大きい剣が目の前を通り過ぎていった。
風圧が私の髪をなびかせるがそれだけだ。
剣の腹を叩いて跳ね上げて隙を作ろうとするけど、それは読まれていたらしい。
目の前の剣士はバックステップで私の拳が届く範囲から離れていった。
またやり直し。
相手は私に一発貰えば終わりだと思っているのか、フェイントを織り交ぜて攻撃を絶えず続けてきている。
なので、間合いに飛び込めない。
少しずつ距離を詰めるも、今のように私の射程距離から素早く離脱していく。
敵は本当に戦うのがうまい。
剣も相当速いし強い。
私以外だと剣線を見えないんじゃないかと思うし、食らえばただ事じゃ済まないだろう。
今のところ、私はこの剣士との1対1の戦いに集中できている。
モリ君……
たまにチラチラと見ると、私の方へと近寄ってくる雑魚敵を蹴散らしてくれている。
彼が戦う時は私が背中を護る。
私が戦う時は彼が背中を護る。
こうやって私たちは戦ってきた。
今までも、これからも。
またも剣士が剣を振ってきた。
これを弾き返せたら勝てるのに。
チラリと背後に目をやると彼と目が合った。
そういうことね。
「ああ、そういうことだ」
彼からの返事があった……気がした。
別に言葉を交わしてはいない。
必要ないからだ。
「プロテクション! モードチェンジ!」
彼の声に合わせて飛び込んだ。
「トンファー!」
「トンファー!」
裕和と私の声が重なり合うと同時に……いや、なんかワンテンポくらいズレていた気がした。
まあいい。
よそはよそ、うちはうち。
私たちはマイペースに行こう。
こういうちょっとズレたところが私たちの関係だ。
私の腕の前に、光の粒子で作られた棒が現れた。
グリップ部分をすかさず掴んで、手元で何回か空回りをさせて動きを確かめる……いける。
敵の剣士も、まさか突然武器が現れて、その分だけ私のリーチが伸びるとは思わなかっただろう。
瞬時の判断で、バックステップで距離を取る……それでもなお足りないと判断して、大剣で迎撃しようと反応したのはさすがだ。
だけど、無理なバックステップで崩れた体勢で振った剣が、私たちのトンファーの一撃に耐えられるはずもない。
光のトンファーが大剣を削り、砕きながら大きく弾き飛ばした。チャンスだ!
すかさず高速で剣士の間合いの内側へ飛び込み、腹目掛けて渾身の蹴りを入れる。
腹の鎧が砕けて破片が飛び散った。
敵が大きくつんのめった隙に、邪魔なトンファーを投げ捨てて、剣士に飛び掛かった。
跳び箱の要領で頭を跨いで肩車されるような体勢になった。
両手首を掴んで腕を関節とは逆向きに力任せに持ち上げる。
この体勢になれば剣の腕とか鎧の硬さとかは、もう関係ない。
相手が武器を使うなら、武器を使えなくすればいいのだ。簡単な解決方法だ。
私の足を敵の膝に引っ掛けて腕を強引に引っ張り、剣士を強制的に前屈させる。
敵の腕を関節の曲がる方向とは逆に折り曲げて手首、肘、肩を痛めつける。
その体勢から、さらに渾身の力を込めて足、首、背骨と順に全身の関節を力任せに折っていく。
プロレスのようにギブアップ狙いではなく、これだけで再起不能に追い込む文字通りの必殺技。
「ブラッケンド・オーバーライダー!」
◆ ◆ ◆
「なんでオニキスマンなんだよ!」
思わず声が出た。
待って。
「完全に拳士対剣士の流れだったよね。緻密な読み合いだったよね。パンチかキックかモリ君が出したトンファーを使って、友情だか愛の力で決めると思うよね」
「ラヴィ君、落ち着け」
ハセベさんが声を掛けてきたが、エリちゃんが途中にトンファーを投げ捨てたところから、ツッコミをせざるを得なかった。
「なんでその流れからとどめが
普通なら鎧の強度に苦しめられつつも少しずつダメージを与えて倒す展開だよね。
掴んだ瞬間に相手を拘束しつつ関節を折って倒してるから強いのは分かるよ。
実際低予算のボスは肩、肘、手首と首、脊椎をへし折られるどころか、引きちぎられてバラバラになり沈黙している。
俺に切りかかってきた低予算の攻撃を避けてカウンターで胴薙ぎを入れ、傷口に鳥をねじ込むと、あっさり粉砕された。
今の状況で向かってくるな。空気を読め。
はい、モリ君もゴング代わりに槍で音を鳴らしながら近寄らない!
エリちゃんも右腕を掲げない!
鳥を高速回転させて近くにいた低予算2体を倒す。
えっと残り何匹?
はいはい圧縮極光。これでザコは全滅と。
さて、ツッコミを再開しないと。
まずは何から言うべきか。
「ラビちゃんボスを倒したよ!」
「お疲れ!」
エリちゃんが手を上げながら駆け寄ってきたので思わずハイタッチをする。
「ラビさん、こっちも」
「ヘーイ!」
「ヘーイ!」
モリ君ともハイタッチ。
相変わらず声が合わないがそれはそれだ。
最後に3人でハイタッチ。
「ヘーイ!」
「ヘーイ!」
「ヘーイ!」
もはや恒例行事だが、俺たちのチームワークは無敵だ。
…
……
えっと、何をやろうとしたんだっけか?
まあ、覚えていないということは大したことではないのだろう。
「敵はこれで全滅でしょうか?」
油断はしない。
何しろここは敵陣のど真ん中。
もしかすると、そこらの壁から重機関銃や、毒ガスが現れて追加攻撃をしてくる可能性だってあり得るのだ。
「カーター、他に何か仕掛けがないか調べてくれ」
「あっ? えっ? ああ、分かった……とりあえず、出口のドアのところにも何かの仕掛けがあるな」
「分かった。それは後で対処しよう」
辺りを見回すが、もう敵は残っていないようだ。
手に入ったのは、ボスを倒したことで出現したと思われる銀のメダルが1枚だけだ。
42体もの敵を倒したというのにこれはさすがに報酬としてはショボい。
今さらメダルとか要らんだろうという説もあるが、運営はもう少しバランスを考えるべきだと苦言を申し上げたくなる。
「さて、まだ雑魚を倒しただけです。先を急ぎましょう」
「オイ待てよ。なんかテンションの上げ下げの幅がおかしくないか?」
「何かおかしなところはありましたか? ともかくまだここは敵陣のど真ん中です。気を抜かず、引き締めていきましょう」
入った時と同じように出口の扉に仕掛けられた何かの魔術も破壊しておく。
扉を開けると、やはりまっすぐの通路が伸びていた。
ただ、なぜかハセベさん、ウィリーさん、ガーネットちゃんが付いてこない。
「あの、まだ何か?」
「いや、切り替えが早いなと」
「引っ張っても意味がないですし、決断は早いほうがいいですよ」
◆ ◆ ◆
部屋を出てすぐのところに男が一人立っていた。
全身を黒いタイツのようなスーツで覆い、ナイフを持った黒髪の男。
名前は忘れた。全身タイツマンだ。
「お前たちと――」
「――極光!」
極光は光速で命中する。
比喩ではなくてレーザー光線なので本当に光速だ。人間に避けられるはずなどない。
何か言おうとしていたタイツマンは、もろに直撃を受けて、そのまま倒れて動かなくなった。
「良かったのか、話を聞かなくて?」
「ハセベさんも覚えているでしょう。こいつ、隙を見せたら、姿を消してまた不意打ちをしてきますよ」
「ああ、確かにそれはそうだが……しかし、なぜこいつがこんなところに?」
「眼鏡マンと一緒に、運営側についたみたいなんですよ。眼鏡マンの方はもう倒したので、こいつも出てくるとは思っていたんですが」
「一応、まだ生きているみたいだけど、とどめを刺しておくか?」
カーターが物騒なことを言い始めた。
「一応人間相手なんだから、相手の人権は尊重されるべきだ」
「たった今、人権のじの字もなく倒したやつが言うことじゃないな」
そうは言っても俺はこいつがエリちゃんを刺したことを許してはいない。
あの時にランクアップでの回復がなければ、エリちゃんはそのまま死んでいたのだ。
もしかしたら、悲しげな過去を語ったり、最後の戦闘とばかりに俺たちに向かってくるつもりだったのかもしれない。
だけど、そんな話に付き合う義理はない。
実際、エリちゃんも恨みがあるらしくて全身タイツマンの頭を蹴り飛ばそうとしている。
……それは良くない。
今のエリちゃんのパワーで蹴り飛ばすと、人間の首くらい軽く吹き飛ぶ。
「ウィリーさん、ロープを持っていませんでしたか?」
「ああ、あるぞ」
ウィリーさんが倒れている全身タイツマンの武装を解除した上で、ロープで縛り上げた。
その場に転がした状態で先を急ぐ。
俺たちがかたをつける必要があるのは運営とゲームマスターであって、元日本人ではないのだ。
しばらくまっすぐな通路を歩くと、二股に分かれた道が現れた。
案内表示はないが、左側の通路の先には非常口を示すであろう緑色のランプが点灯していた。
右側は何もなくただ通路が続いている。
「ハセベさんはどちらが正解ルートだと思われますか? 俺は右だと思います」
「根拠は? また心理学とかそういう話かね?」
「いえ、左は非常口に見えるからです」
どのみち、現在の情報だと正解など出せそうにない。
ならば総当たりするしかないだろう。
他に精査するための情報がないのだから、それならば早く決めた方が時間の無駄がなくて良い。
「反対する理由もない。右へ行こう」
決まりだ。
一同で右方向へと歩みを進める。
しばらく歩くと突如として視界に入ってきたのは、壁面に取り付けられた真鍮製のプレートがあった。
艶やかな金属の表面にはこう刻まれていた。
「Relaxation Room」
「なんだこれ、ふざけてるのか? こんな悪の秘密基地めいた場所で何をリラックスするつもりなんだ?」
「一応調べてみます?」
「まあそのつもりだが」
マホガニー色の装飾過多な木製の両開きの扉を勢いよく開けた。