僕……
与えられた能力は解析、空気の圧縮、状態の変化の3つ。
このキャラクターに与えられた役割は錬金術師にして他者の補助強化を担当するバッファー。
自力で戦う力に乏しいこのキャラは、僕よりも明らかに知能が低い体力馬鹿に依存しなくては生きていけない。
バッファーというポジションは正直ハズレだと思った。
何故僕が他人に媚びへつらわないといけないのか?
解析をしたら何だというのか。
だが、能力を使い続けるにつれて分かってきた。
これはSSRを与えられたあいつら
――おかしな服装の連中よりもはるかに強力な、完全に「当たり」の能力だ。
僕たちの元になったゲームでは、解析の能力は単にエネミーの能力や弱点を看破して防御力を低下、強化を解除する程度の能力だったのだろう。
だが、その「解析」の対象がゲーム的な制限から解放されたことで、この世界のあらゆる事象に対して使用できるようになった。
この世界の法則。
キャラクターやクリーチャーと喚ばれるガチャから出てくる存在。
隠しステータス。
生物が命を落とした時に出現するメダリオンと呼ばれるゲーム内通貨。
そして、ショップ機能とランクアップシステム。
僕はその情報を元に、頭と倫理観は足りないが力だけは強いSRの戦士と弓使いを味方に引き込んだ。
名前は何だったか?
余計な情報に脳の容量を割くつもりはない。
呼び名もただの戦士と弓使いでいいだろう。
名前も忘れた弓使いは途中で出会った雑魚敵にやられてしまった。
銀のメダリオン引換券にしかならなかったゴミだったが、戦士の方は実に元気が良い。
適当におだててやれば、こちらの手駒として動いてくれる。
向こうは逆に僕を三下の子分だと思っているようだが、言葉1つで思うとおりに釣られてくれる程度の知能。
逆に僕の思う通りにコントロールされているリモコンのオモチャだと気付いていないバカだ。
その程度の暴言は許してやろう。
殺された弓使いに代わって、僕たちと同じようなPKをしていた暗殺者の男を前衛の壁要員で補充した。
正直何を考えているのか分からないところもあるが、特に敵対する姿勢もない。
手駒としてはなかなか優秀である。
さて、今の問題は目の前の女魔法使いと侍だ。
後ろのR二人は無視しても良いだろう。
所詮はレアリティや能力も低い雑魚キャラだ。
手持ちにはSRのメダリオンが3つ。
この2人を殺害すれば5つ。
SRのランクアップ条件に一歩近づける。自分のレアリティ×5と一つ上のレアリティ×1。
そう考えている間に魔法使いの女はエーテル塊を「3発」放出した。
鳥の形に成形したエーテル塊を発射して目標にぶつける。
おそらくそれがあの女の特殊能力。
能力の1つであろう箒は先程「状態の変化」で無力化した。
あとはこのエーテル塊を無力化すれば勝ちも同然だ。
能力を解析すると「四大元素」のどれかに分類される。
「四大元素」とは何なのかは実のところ分からない。
能力の効果により「そういうもの」という分析結果が得られるだけだ。
まあ、別にどうでもいい話だ。
「解析の完了」という結果さえ得られれば、あとは好きなように状態を変化させたり分解をできるのだ。
女が出したエーテル塊は土属性と分類された。
土?
やはり解析など何のあてにもならない。
鳥のような形状で風を切ってくるエーテル塊のどこに土要素があるというのだろうか。
……どうでもいい。土と分かればそれだけで霧散させることができる。
3発のエーテル塊を霧散消滅させると女の表情が変わった。
いいぞ、その自信が崩れる表情は。
幼児体型は気に入らないが、顔はなかなか悪くない。
このまま追い込んで、絶望の表情に変わるのを愉しんでみるのも悪くな――
――突然に膝の裏に激痛が走った。
意識と関係なく足が前方に跳ね上がり、体が後ろ向きに倒れている。
何が起こった? 足をすくわれた?
エーテル塊が弾けた残骸が足下に漂っている。
膝の裏にエーテル塊の直撃を食らってその衝撃で吹き飛ばされたとしか考えられない。
間髪を入れず右肩に激痛。またもエーテル塊の直撃だ。一体どうなっている?
思考を巡らせる隙もなく、今度はエーテル塊が杖の真上に直撃した。
激しい振動が杖に伝わってきて持っていることができずに手放してしまう。
杖は大きな音を立てて床に落下した。
エーテル塊の3連発!?
能力の発動には最低30秒のチャージタイムが必要なはずだ。
だが、状況から察するに、チャージタイム0で能力を再発動したとしか考えられない。
幸いにもあの女が使うエーテル塊の攻撃力は低い。
直撃を食らったにも拘らず激痛程度で済んでいる。骨が折れたり血が噴き出すような動脈への傷は負っていない。
体勢さえ立て直せば反撃の機会はある。
そう思った直後に虹色に光るレーザー的な何かに全身を覆い尽くされた。
杖――いや箒から放出された光線が僕の全身がチリチリと焼かれている。
次から次に、手を変え品を変えやってくれる!
これがあの女の3番目の能力なのか?
だが、これも威力は相当低い。
全身を覆い尽くすレーザーという派手な演出の割には攻撃力は相当弱い。
レーザーによる熱と圧力で体のあちこちから血が噴き出しいるが、耐えられないレベルではない。
10秒程で光線は消えていた。
全身のあちこちに小さい火傷と裂傷を負っているが、僕はまだ動ける。
能力の再発動の間隔を考えるなら女にできることはもうないはず。
鳥、箒、レーザー、全て潰した。
僕の最大の攻撃……解析からの物質変換。内臓への直接ダメージで死んでもらう!
まずは解析のために目を開けて女を睨み付ける。
強い光を受けたからか、色が抜け落ちて白黒が反転したようになっている。
だが、女がそこにいることははっきりと確認できる。
――見えたのは女の姿だけではなかった。
女の背後には無数の黒い鳥の群れ。
そして巨大な環状列石が立ち並ぶ不気味な光景。
列石の中央には石造りの祭壇が設置され、その奥には黒いシルエットよりなお黒い、果てしない空虚があった。
極彩色の光を放つ球体状の「それ」は、信じられないほど彼方にあるこの世ならざるもの。
これは実体ではない。
「解析」ができる僕だけに見える光景……あの女の心象風景――
鳥の群れは僕が「見えている」ことに気付いたのか、空中にもかかわらず、その羽ばたきを止めて一斉に停止した。
大きな光る目と小さい嘴にそぐわない巨大な口を開けて一斉に僕を視る。
「ひっ」
思わず悲鳴が出た。
その時、首の後ろに激痛が走り、僕の意思は落ちた。
◆ ◆ ◆
群鳥の3羽が、何もできずにいきなり消滅させられた時には焦った。
それでも、表情は崩さない。
念のために後方へと回り込ませていた2羽と、最初に出した2羽。
合計4羽と極光での連続攻撃で敵の魔法使いを無力化させることに成功した。
群鳥の火力は低く、何発か直撃させても死ぬことはないと予想はしていた。
なので、回避できないように四方八方の死角から滅多打ちにしたが、メダルは出現しなかった。
つまり死んでいない。セーフである。
敵の魔法使いなんてものを自由にさせておいたら、何をやってくるか分かったものではない。
全力で速やかに片付けたのは俺の鋭い観察眼の賜物であると言える。
これは決して逆恨みなどではない。
誰がマニアックで幼児体型だ、この陰険眼鏡め!
何度も言うがこれは決して逆恨みなどではない。少しくらい胸もくびれもあるわ!
「何っ!?」
「オタクくん、速攻やられてるじゃねぇか!」
仲間の眼鏡が瞬殺されたことで、鎧男と全身タイツマンに動揺が走った。
その隙に、ハセベさんとエリちゃんが一斉に鎧男へ攻撃を仕掛ける。
2対1なので圧倒的に有利かと思われたが、鎧男は対人戦に慣れているのか、相当上手く立ち回っているようだ。
また、お互いに未知のスキルを警戒してか攻めあぐねているように見える。
ハセベさんが踏み込むが鎧男は剣でそれを受ける。
逆に振りかざされた剣をハセベさんが巧みに刀で受け流す。
エリちゃんが隙をみつけて蹴りかかろうとするも、鎧男が空いた左腕の手のひらをエリちゃんに向ける。
そこへタイツマンがナイフを振りかざして飛び込んでくる。
エリちゃんが鎧男とタイツマンとの2対1になることを警戒して後ろに下がって仕切り直し。
お互いが相手のスキルを警戒して、仕掛けようにも仕掛けられないという地味な牽制合戦が続いている。
ただ、これはどちらかが隙を見せれば一気に勝敗は動くだろう。
モリ君はというと、後方に控えており、たまにプロテクションを飛ばすことで支援に徹している。
俺も割って入りたいところだが、群鳥の誘導弾は、まだそこまで緻密なコントロールができない。
敵も味方も激しく入り乱れている今のような状況だと、誤射で味方に直撃させてしまう可能性の方が高い。
そうしているうちに、いつの間にかタイツマンが姿を消していた。
タイツマンの見た目は忍者や暗殺者の類のものだ。
姿通りならば、陰に潜んで奇襲を得意とするタイプだろう。
姿を消したということは、こちらが隙を見せたタイミングで奇襲してくる可能性は高いだろう。
「魔法使いは既に倒した! 戦局についてはこちらが圧倒的に有利だ。今すぐ引いてくれるならこちらも追撃はしない」
鎧男と近くに潜んでいるであろう黒ずくめに呼び掛ける。
鎧男からの返答はない。
もちろん黒ずくめが声を出して位置を教えてくれるということもない。
「ラビさん、俺の近くに来てください。暗殺者が狙うなら、孤立した仲間です」
とりあえず新しい群鳥を5羽を出現させた。
頭上で旋回させた後にモリ君の近くに駆け寄って、背中合わせに立つ。
いつ奇襲を仕掛けてきても対応するためだ。
相手がどこに隠れているか分からない以上は孤立している方が危険だろうという判断だ。
「モリ君、タイツマンが近くにいるはずなんだが?」
「黒いやつのことですよね。俺も分かりません。少し目を離した隙に突然姿が消えました」
「逃げてはいないだろう。奇襲を仕掛けてくると思うので警戒して欲しい」
鳥を偵察に出すか、それとも極光を手当たり次第に放って偶然当たってくれるのに期待するか。
タイツマンの位置をどのように探すか思考を巡らせる。
だが、これという決め手は思い浮かばない。
その時、鎧男と闘っていたエリちゃんの動きが急に停止した。
蹴りのポーズで足を振り上げたまま一歩も動かない。
顔には苦悶の表情が浮かんでいることから、本人の意思ではないと分かる。
片足だけではバランスを維持できず、バランスを崩して転倒しそうになっている。
鎧男か、タイツマンか、どちらかのスキルを食らったのか?
何にせよ、鎧男の前で無防備な状態のまま動きを止めてしまうのはまずいだろう。
「群鳥っ!」
「プロテクション!」
鎧男からの攻撃を防ぐためにエリちゃんの方へ鳥を飛ばす。
モリ君も同じことを考えていたようで、鎧男とエリちゃんとの間に光る壁が現れる。プロテクションのスキルによる壁だ。
何が起こったのか分からないが、とにかくエリちゃんを一度後ろに下がらせよう。
そう思った刹那――
「まずは一人!」
何もない虚空からタイツマンが突然姿を現した。
姿を消していたのは、戦士との連携のためか!?
鋭く刃先の長いナイフをエリちゃんへ突き立てようとしている。
ハセベさんが慌ててカットに入ろうとするが間に合わない……無防備な体勢のエリちゃんの肩口にナイフが深々と突き刺さった。
エリちゃんはスキルによる硬直で声を出すこともできないのか、鮮血が勢い良く吹き出した後に無言で崩れ落ちていった。
倒れてもなおピクリとも動かない。
吹き出した血の量はただ事ではない。
ナイフが刺さった場所次第では致命傷になる……
「女は潰すなっつってんだろ! 先にこっちの侍をやれよ!」
「お前の事情など知らん。隙の見せた方を潰す」
「
モリ君が追撃を阻止すべく槍を片手に駆け出した。
ハセベさんもタイツマンに刀で斬りかかるが、避けられてしまった。
エリちゃんへの更なる追撃を防げたのは良いが、状況は全く好転していない。
むしろエリちゃんが負傷。
モリ君は治療に専念したいところだろうが、目の前にいる鎧男とタイツマンが邪魔でそれができない。
早く治療しないとエリちゃんを助けられないというのに。
オウカの遺体が脳内にフラッシュバックした時、プチンと何かがキレる音がした。
……いやもういいだろう。
乱戦で味方に誤射する可能性があるからとか、何か話が聞けるかもしれないとか、そんな詭弁は要らない。
俺がさっさと全力でこの乱入者どもを躊躇せずに片付けていればエリちゃんは刺されずに済んだのだ。
群鳥と極光だけならば倒すことはできなかっただろうが、今の俺には必殺技がある。
ハセベさんは2羽までとか言ってたっけ……
エリちゃんの側に飛ばした鳥を手元に戻し、そのうち「3羽」の鳥達を箒の前で高速旋回させる。
「3羽での収穫の範囲は?」
《3羽なら大丈夫。エリちゃんも霧にはならない。それよりも誤射を避けるために集中するんだ》
「俺じゃ味方を巻き込まない精密射撃は無理だ。コントロールはお前に任せる」
《いいのかい?》
「仲間を守るにはそれが最適だ」
頭が妙に冷静になっていく。
昨晩と同じように腕、顔……全身に光る紋様が浮かびあがったが、気にするようなことではない。
痛みはないので、紋様が浮かんだところで集中が乱れる要素はない。
群鳥の2羽を移動させて姿を見せたタイツマンと鎧男の近くに着弾させた。
最初から直撃させるつもりはない。
鎧男とタイツマンの位置を調整するためのあえての空振りだ。
5羽を追加召喚。
鎧男とタイツマンの近くに更に2羽を着弾させ、ハセベさんから距離を取らせる。
同時に残り3羽を誘導して2人を直線上の位置へ誘導する。
カズ君はエリちゃんに駆け寄っているから動かす必要はないね。
ハセベさんは……空気を読んで下がってくれたようで、助かる。
せっかくの水源である泉を巻き込んでしまうが、《他所の神の偶像など消えても良い》し、今はそんなことは気にしなくても良いだろう。
タイツマンはこちらの行動を阻止しようとこちらに向かってきたようだが、既に手遅れだ。
「3羽を
3羽の鳥が霧状になって消えた。
続いて泉の近くに生えていた草や、近くにいた小動物。
エリちゃんから流れ出した鮮血。
僕を中心に次々と周辺の弱い生命から順に黒い霧と化して溶けていく。
霧に溶けた生命は、箒の前に現れた人の頭ほどの大きさの黒い球体へと集まり始めた。
それらを集めた黒い球体は獣のうめき声のような空気を震わせる音をあげている。
僕はこれから発動する能力の反動に備えて箒を両手で掴み直し、視線と箒を、黒い球体ごしに「敵」へ向けた。
「避っ」
もう遅い。
形は変わったとしても極光の性質に変化はない。
極光の速度は「光速」だ。
黒い球体は一度大きく膨れた後に収束し――一条の熱線へと変わった。
刹那、全ての音が止まった。
岩をも溶かす超高熱の閃光は
熱線が作り出した真空状態に一気に空気が流れ込むことで、発生した超高熱は全て押し流された。
獣の断末魔のような音が響き渡り、様々なものが蒸発し、融解し、燃えたことにより発生した刺激臭があたりに漂い始めた。