収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 19 「旅の準備」

「馬車の車輪は外して良いのか?」

「外さないと入らないでしょう」

 

 俺達は馬車の前で工作を始めていた。

 装甲車の荷台に何とか馬車を収納して積み込むためだ。

 

「これって積まなきゃダメか?」

「車と別に馬車は有った方が何かと便利でしょう」

「確かにそうだが、何故馬車の車輪を外す必要が?」

「車輪を外すと50cmくらい低くなるんですよ。そうしたらこの装甲車の後部座席へ積めるようになる。日本でもレース用のバイクを車へ積むときに使うテクニックです」

 

 装甲車の後部ハッチを全開。

 荷台の棚やシート兼簡易ベッドを全て畳む。

 

 サイズを測るとギリギリ入りそうではある。

 

「だが、ワゴンは入るとして馬はどうするんだ?」

「あっ」

 

 ここで今更の事実に気付いた。

 ワゴンを載せると馬が入らない。

 

 逆に馬を載せるとワゴンが入らない。

 

「馬を荷台に乗せてワゴンはロープで牽引はどうだ?」

「牽引だとこのボロ馬車は耐えられないと思います。多分走行中、途中でバラバラになりますよ」

「ならば、いっそ屋根に乗せるか」

 

 トンネルも電線もないこの世界だと高さ制限がないのでそれもありだなと思っていると突然に声が聞こえて来た。

 

「なかなか面白そうな計画じゃないか」

 

 声の方を見ると伊原がいつの間にか腕組みしながら立っていた。

 

「こんな面白いことを私抜きでやるとはどういう了見だ? ちゃんと私にも話を通すのが筋だろう」

 

 伊原はそう言うと装甲車へと近づいてきた。

 

 車の周りを見た後にドアを開けて中を覗き込み、そして俺達の顔を見た後に再び口角を上げて形だけの笑顔を浮かべた。

 ただ、目は一切笑っていない。

 

 よりにもよって一番知られたくない人間に見つかってしまった。

 

「こいつはクソッタレ運営の所持品だな」

「はい。運営の拠点から持ち出しました」

 

 正直に答えることにする。

 今更嘘をついても仕方がない。

 

「この世界に在ってはいけないテクノロジーだと理解しているな」

「もちろん」

「これで何をする気だ?」

「日本へ帰るための移動に使います」

「どうやって日本へ?」

「マサチューセッツ州、センティネル丘陵へ向かいます。そこが時空神の祭壇だと聞きました」

「なるほど」

 

 やはり嘘偽りなく答える。

 ここで嘘をついて誤魔化してもすぐにバレるだろう。

 

「こいつと同タイプの車両からフル武装の兵士が二十人くらい出てきて襲撃されたことならある。あれは実に面倒だった」

 

 そう言うと俺のローブの襟を掴むとヒョイと身体を持ち上げた。

 

 そのまま車内へ入ってエンジンを起動。

 手慣れた動きで操作を行い、メニューを表示して各機能をチェックしていく。

 

 俺の知らない機能まで次々と表示させる。

 

 そしてメニューから火器管制を選択するとモニターにガトリングガンと表示された。

 慌てて運転席を離れてドアから車外に出ると、車体前部から機関砲のようなものが飛び出していた。

 

「壊せ」

「壊しても大丈夫なんですか?」

「そんなことは知らん。壊せ」

「ということだけど、誰か頼む」

 

 エリちゃんが挙手した後に機関砲へと綺麗な回り蹴りを放った。

 直撃を受けた機関砲は車体に固定されているボルトごと吹き飛ばされていった。

 

「次はこれだ」

 

 またもかなり複雑な操作を繰り返しているうちに、モニター全面に俺も初めて見る真っ赤に大きく「Danger」と書かれた警告が表示され、警告音が鳴り始めた。

 

「おい、ここを見ろ」

 

 伊原は俺の頭を掴むと、ハンドルに押し付けてきた。

 

「これが自爆機能だ。日本への帰還が確定した時点で速やかに車体を爆破しろ。それで塵一つ残らんはずだ」

「自爆?」

「そうだ。土に埋めるとか海に沈めるなどされると掘り出されて悪用される危険がある。だから、この世界にこんな物を絶対に残すな」

 

 そう言うと伊原は俺の頭から手を離した。

 

「君達がこれを使って冒険者になってひと稼ぎなど言い出したら、この車両ごと全員を次元の狭間に送り込んでやろうと思ったが、バス代わりにしか使わないというならば、見逃してやる」

 

 伊原は再び俺に微笑みかけた。

 だが、その目は一切笑っていない。

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 これは冗談ではなく本気だ。

 

 おそらく俺達がこの装甲車を利益のために使おうと思った瞬間に、何の躊躇もなくそれを実行するだろう。

 

 ここに集まっている面子が束になってかかっても返り討ちに出来る……伊原からはそれだけの威圧感がある。

 

「出来れば次元の壁の修復と調査を何十年か手伝って貰いたかったが、日本へ帰りたいという理由があるならば見逃さざるを得ない……その願いはかつて私達全員の悲願だったからな。死んでいった47人のことを考えてもそれを止めるつもりはない」

「それについては申し訳在りません」

「だから、もしも日本への帰還に失敗したら私のところへ戻ってきて調査と研究を手伝え。瑞穂(みずほ)のところでスローライフなど許さん」

「検討します」

「検討じゃなくて、決定事項なんだよ」

 

 伊原はそういうと、俺の背中をバンバンと叩いた。

 

「君達が老衰で死ぬまで一生手駒としてこき使ってやるつもりだから」

「それは勘弁なので、私達はこのまま日本へ逃げることにします」

「ああ、そうしろ」

 

 もしかしてこれは伊原なりの激励のつもりなのだろうか?

 

「もし私の知らない次元の壁に穴を開ける技術が見つかったなら、すぐに飛んでいくからそのように」

「そんなこと出来るんですか?」

「私を誰だと思っているんだ」

 

 伊原はそう言い切った。

 何の根拠もないのに説得力は凄い。

 

「あと、そこの君」

 

 伊原がモリ君を指差した。

 

「持っているメダリオンを全部私に差し出せ。それらはもう君達には必要ないものだろう」

「メダル?」

「そうだ。これから日本へ帰ろうというやつにはもう必要ないはずだ。逆に私は何枚有っても足りないくらいだから、持っている分を全部寄越せ」

 

 モリ君は俺に助けてと言わんばかりの視線を向けて来た。

 何故そこで決断がブレてしまうのか?

 

「リーダーはモリ君なんだから、自分で決めるんだ」

「そうは言っても、いざという時の治療に使えますし、手放すのはデメリットが……」

「でも、確かに必要ないと言えば必要ない」

 

 俺はモリ君からメダルを入れていた袋を受け取り、中身を確認した後に伊原へ全て渡した。

 

「金が1枚、銀が2枚残っていますが、これは度会(わたらい)知事から頂戴した分も含まれています」

「ゲッ、瑞穂が保管していたやつも混じってるのか……それは流石に困るな。あとで色々と嫌みを言われるのは勘弁だ」

 

 伊原は露骨に嫌そうな顔を見せる。

 それほどあの知事が嫌いなのだろうか?

 

「ならば妥協案だ。金は100万、銀は10万の120万で買い取ってやる。旅の資金が必要なんだろう? 拒否はしないはずだ」

「それは、この世界で使える通貨ですよね」

「銀貨はどこの世界でも使えるだろう。まあ価値は多少変動するだろうが」

 

 伊原はそう言うと俺からメダルを入れていた袋を奪い取った。

 

 左手で袋を持ち、右手を横一文字に振ると、袋の中にジャラジャラと硬貨が入っていく音が鳴り始める。

 

「手品じゃないぞ。全部本物だ」

 

 そう言うと伊原は袋を俺に返してきた。

 持つとズッシリと重い。

 

 何をやったのかは分からないが、ともかく伊原が不明な力を所持していることと、本物の硬貨が出現したことだけは理解できた。

 

 資金が乏しかったのは現実問題だ。

 これは拒否する理由はない。

 

 ただ、知事から貰ったメダルであると言わなければ、タダで没収するつもりだったのだろうか?

 

「あとはこの馬車か」

「馬車まで没収する気ですか?」

「車があるのに馬車は同時に使えないだろう。砂漠の村のナイックが納品するのに便利そうだから良いと思ったんだが……お前はこれをいくらで買った?」

 

 これも正直に言った方が良いだろう。

 

「90万です」

 

 よりにもよってここでカーターが飛び出してきた。

 

 中古68万で買った馬車をおくびにも出さず堂々と90万と言ってのけた。

 

 なんてやつだ。

 

 ただ、馬車は俺達がたまたま安く買えただけで、新品だともう少し高い値段だ。

 90万は割とリアリティのある数字だと言えなくもない。

 

「思えばタウンティンの交易船を出てから移動手段としてなけなしの金でこいつを購入したんです。こいつでジャングルを越え、砂漠を越え、川を越え、山を越え……長い冒険の間にこんなに傷んでしまいました」

 

 それは流石に嘘だ。

 俺達が馬車を買ってまだ2週間ほどだ。

 

「確かにあちこちボロボロだな。余程酷い戦闘に巻き込まれたのか」

「オレ達はミイラとか変な怪人とかトカゲ。それはもう本当に色々なやつと戦ったんだ」

 

 カーターが無言でこちらに訴えてくる。話を合わせろと。

 

「ああ。あの砂漠にあった廃都での戦闘は大変だったな」

「ヘルハウンドとケルベロスもか」

「イモリは大変だったよね」

 

 エリちゃんも話を合わせ始めた。

 

 俺達は単に旅の思い出話をしているだけだ。

 馬車を手に入れてからの話とは一言も言っていないのでセーフだ。

 

「じゃあ半額の45万……だがあちこち壊れてるし37万ってところか?」

「壊れているのは馬車の外装だけで走行性能に支障なしです。やはり68万くらいは」

「それは高すぎる。42万だ」

「63万」

「47万……これが限度だ」

「分かりました。我々も親しくなった馬太郎や馬次郎との名残が惜しいですが、間を取って50万で手を打ちましょう」

「仕方ない。それでいいだろう」

 

 なんて奴だ。

 中古68万で買った馬車を50万で売りやがった。

 

 頼もしいんだか不安なんだかよく分からんがすごいやつだ。

 ほんとうにすごい。

 とてもぼくにはまねができない。

 

 赤城と榛名を仮の名前である馬太郎と馬次郎と呼んだこと以外は本当にすごい。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 というわけで馬車一式は伊原が連れていくことになった。

 

 馬達はあの砂漠の村で第2の人生……じゃない馬生を送ることになるのだろう。

 

 短い間だったが、馬車を引く馬達には本当に助けられた。

 

「今までありがとうな。これからも元気でやれよ」

「2匹とも元気でね」

 

 最後だったので特別にフルーツを振舞った後に馬達と別れた。

 

 それなりに懐いてくれてこちらもかなり愛着が湧いていたが、流石に馬をペットとして連れて行くわけにはいかないので仕方がない。

 

 砂漠の生活は大変かもしれないが、出来るだけ長生きして欲しい。

 

 続いてレルム君達の予備の服などの購入。

 ただ、この町の商店の品揃えはイマイチだ。

 

 サルナスに寄るか、それともフラニスまで行って買い足すかは悩むところだ。

 

「ガーネットちゃん、大変じゃなかった? おじさん二人に囲まれて」

「大丈夫……って言いたいですけど、実は正直大変でした」

「今度は女性が多いから安心していいよ。デリカシーに欠けているのもいるけど」

「はい、助かります」

「オイ、女子会にオッサンが一人混じってるんですけど!」

 

 カーターが何かおかしなことを言ってきた。

 誰がオッサンだというのか。

 

「23歳ですけど」

「年齢の話をしてるんじゃねぇよ」

 

 年齢の話でなければ何だと言うのだろう。

 俺が女子会に混じっていて何が悪いのか?

 

「そんなことより、カーターさんはワシらと一緒に荷物の積み込みと車内の掃除を」

「いや、ちょっと待って、まだ話をしている途中で……」

 

 カーターはまだ何か言いたかったようだが、タルタロスさんの力には抵抗できず、そのまま連れられて消えて行った。

 

 まあ、どうせどうでもいいことだ。

 気にするだけ時間の無駄だろう。

 

「まあ、この町はあまり品揃えがイマイチだし、買い物はサルナスの町に寄って買おう。この近くで一番大きな町はあそこだから、色々な物が手に入る」

「どこの品揃えがイマイチだって?」

 

 いつの間にか俺達の前に伊原が立っていた。

 

 本当にこの人は神出鬼没なので困る。

 

「何もないところに、これだけの町を作るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。向いてないリーダー役までやらされて」

「はい、それは分かります。継ぎ接ぎだらけですが、かなりの規模の町なので驚きました」

「継ぎはぎだらけなのは、別の次元からこの世界へ投げ出された連中を集めているからだよ。それでもまだ綺麗にまとめた方だ。苦労してるんだよ、これでも」

「もしかしてマインガルの住民も?」

「砂漠に逃げ出した奴だけな。100人程だから町の住民の総数に比べると微々たるものだが、全滅よりはマシだろう」

 

 それは朗報だ。

 

 あの町の住民は全員口だけお化けに食われたと思っていたので、助かった人間がいるのは幸いだ。

 

 伊原は頭をかきながら紙袋を何もないところから取り出した。

 

「女子には清潔な下着と生理用品は必要だろうと思って持ってきた。ちゃんと全員分用意してあるから持っていけ。この世界では他に手に入る場所などないから大切に使えよ」

「ありがとうございます。本当に助かります」

「その代わり、絶対に成功させろよ。もし次元間の移動に成功すればそれは私にもすぐに分かるし、それが私の知らない方法ならば、この世界の次元の壁の修復を進めるのにも役立つ」

 

 なんだかんだで伊原は俺達の助けをしてくれるようでありがたい。

 

 砂漠の村の住人達からも慕われているわけだ。

 

 俺は紙袋から下着を一枚取り出し、サイズを確認した後にそっと袋へ戻した。

 

「いやみかー!」

「嫌味だが」

 

 やはり伊原は邪悪だった。

 

 何故同じサイズを3人分揃えたのか?

 

 何をどう見たら俺がエリちゃんやガーネットちゃんと同じサイズだと思うのか?

 ふざけるのも大概にしてほしい。

 

 何故この世界はこうも不公平なのか?

 

「いやあ間違えた。あのドロシーとかいうクソガキと君の分はこちらだ」

 

 俺が突っ込むための前フリを丁寧に添えて別の紙袋を渡してきた。

 念のためにサイズを確認するとキッズ用の下着が入っている。

 

「いやみかー!」

「嫌味だが」

 

 ハハハと笑いながら、伊原はまた紙袋を1つ投げて寄越してきた。

 中身を確認すると、今度はちゃんと適正サイズのものだった。

 

 自分でも計ったことがないので知らないスリーサイズを他人に把握されているのは気持ち悪いが、下着も生理用品も必要な品なので助かる。

 

「準備が終わったら後で事務所に来い。出発前に1つやってもらいたい仕事がある。報酬は払う」

「仕事ですか?」

「とは言っても討伐とかそう言うのではない。ちょっとした調査だ。この中にタウンティンでイソグサと戦った連中は何人いる?」

 

 そう言われて俺とモリ君、エリちゃんが挙手した。

 1人足りない。

 

 カーターが知らんふりを決め込もうとしていたので、俺とエリちゃんで両手を掴んだ。

 

「はい万歳!」

「ばんざーい!」

「? ばんざーい!」

 

 カーターが両手を挙げたタイミングで伊原に告げた。

 

「この4人です」

「ならその4人で後で町外れの研究所へ来い。見てもらいたいものがある」

 

 そう言うと伊原は去っていった。

 

 こういう強引なところは何となく度会(わたらい)知事と似ているところが多い。

 

 昔は相当仲が良かったんだろうと察せられる。

 

 まあ、それ以前の問題として、俺の友人と似ているところも多いのだが。

 正直勘弁して欲しい。

 

「ところで、あの人は私達に合う下着のサイズを知ってるのかな?」

「あの人は攻略サイトを見てるから……」

 

 俺の説明に2人は首を傾げていた。

 

 まあ分かるわけもないだろう。

 

 伊原は俺達のモデルになったゲームのキャラの情報が載った攻略サイトを印刷した紙を持っているから、身体データは全て把握済だなんて。

 

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