収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Episode 5 Period

 サンディエゴ……ウインキーの町を発つ日がやってきた。

 

 最後になんだかんだで世話になった伊原に挨拶をすることにした。

 

 ここで無言で出ていくのも流石に何か違うだろうと、一応夜なべして袋いっぱいのクッキーは手土産として用意している。

 

 例の塔の下にある事務所にやってくると、窓越しにやはり伊原がバタバタと書類を持って走り回っている光景が見えた。

 

「伊原さん、本日はお別れに――」

「――ああ、もう行くのか。それじゃあもう戻ってくるなよ」

 

 伊原は話の途中で両手で書類の山を抱えたまま、足で器用にドアを蹴ってバタンと勢い良く締めた。

 

 どうしよう……流石にリアクションに困る。

 

「どうしよう、これ」

「流石に今のはあんまりすぎるので少しくらいは挨拶をしましょう」

 

 今度はモリ君がドアを開けようとノブを掴むと、ドアを開ける前にガチャリと中から鍵をかけられる音がした。

 

「忙しいっつってんだろ。ここではそういうマナーとか要らないから早く行ってくれ。私は忙しいんだ」

 

 事務所の中から声だけが聞こえてきた。

 

「それとも何か? ここで私の仕事を手伝ってくれるのか? もしそうなら老衰するまで一生分こきつかってやるぞ」

「それはちょっと……」

 

 流石に拒否を示すと、事務所の窓から手だけが飛び出してきて、帰れと言わんばかりにパタパタと振り始めた。

 ただ、顔を一切出そうとしない。

 

「湿っぽいのは嫌いなんだ。いなくなるやつの顔も見たくもないし、合わせたくもない。さっさと出て行ってくれ」

「本当に色々と助かりました。ありがとうございました」

「だからもう何も言うな。長引かせるな」

 

 窓から出た手にクッキーを入れた布袋を持たせた後に俺達4人は事務所に向かって頭を下げた。

 

 そのまま離れようとすると「頑張れよ」と小さい声が聞こえて来た。

 

 伊原の意向を汲んで、振り向かずにそのまま事務所を後にする。

 

 伊原は結局最後まで事務所から出てくることはなかった。

 

「本当に最初から最後まで面倒くさい人だよ。悪い人じゃないんだけど」

「でも本人曰く、邪神の化身だって」

「使う力からしてそれは事実。ただ、それ以上にこの世界が好きで、それだけに余所者に無茶苦茶にされたくないってことなんだと思う」

 

 俺達に「日本へ帰るのは諦めろ」と言ったのはそういう意味も有ったのかもしれない。

 

 この世界は良いところだから、わざわざ帰らなくても良いと。

 

 老衰するまでこきつかってやるというのもそういう意味だろう。

 自分が死ぬまで面倒を見てやると。

 

 だが、俺達は日本へ帰ると決めたのだから、こんなところで諦めるつもりはない。

 

 最後にもう一度事務所へ向かって頭を下げた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 全員の荷物を車に詰め込んだ後に乗り込んだ。

 

 流石に10人とその荷物を積み込むと若干狭さは感じるが、仕方がない。

 

 負傷していたレルム君、タルタロスさん、カーターの体調は完調とは言い難いので、なるべく無理はしないように言っている。

 

 もう運営はいないので変なちょっかいなどはないだろう。

 

 前のサルナスのようにたまたま立ち寄った町で問題が起こっているなどがなければ基本的には戦闘は回避の方向だ。

 

「フロリダまで行けばマリアさんがいるはずだから治療を頼んでみよう。彼女の回復能力は高い」

「あとはレフティさんですかね。フラニスにまだ居ればの話ですけど」

「しばらくは金を稼ぐとか言っていたからまだいるんじゃないかな?」

 

 まあ会えたら会えた時だ。

 

 まずはエンジンを起動。

 

 モニターが表示されたのを確認した後に地図を表示させる。

 

 おそらく元々は現在位置が表示されてナビのように使える機能があると思うのだが、信号をロストの表示が出て役には立ちそうにない。

 

 運営がこの世界から撤退したためにGPS的な何かが使えないからなのだろう。

 

 ただ、地図が表示されるだけでも十分だ。

 太陽の位置や山や川の形からだいたいの現在位置くらいは分かる。

 

「こいつの速度を考えると今日中にはサルナスにまで戻れそうなんですよね」

「サルナスからはどうする?」

「街道沿いに進んでテロスで一泊。そこからフラニスまで進んで一泊。そこからメキシコ湾沿いに走っていこうと思います。途中にあるミシシッピ川を渡河出来るか問題がクリア出来ればフロリダまでは8日間かと」

 

 地図を動かしてルートを確認する。

 

「来週にはフロリダとか、ここまで来るまでの時間と苦労はなんだったんだろう」

 

 ウィリーさんが悩み始めたが、ここに来ないと車を手に入れることは出来なかったのでそんなものだ。

 

「あとは第4チームにも連絡を取りたいところですね。おそらくタウンティンの軍に保護されたと思うのですが」

「連絡のために無線機が欲しいところだな。この万能の車には無線機能は付いていないのか?」

「運転席には無線用のハンディマイクみたいなのが付いてるから使えると思うんですが」

 

 メニュー欄を開いて見ていくとラジオコントロールの項目があった。

 

 この場合のラジオとは無線通信の意味で良いはずだ。

 

「周波数スキャンで飛んでいる電波をチェックと。この中世の世界で電波を飛ばしている存在なんてタウンティンの軍関係だけだと思うので見付けた周波数に対して呼びかければ大丈夫かと」

「それで検知出来るのかね?」

「この車の無線の性能とタウンティンで使用している無線の電波の強さ次第ですね。まあこの世界には通信衛星も中継アンテナもないので近くに寄らないとダメだと思いますが」

 

 無線機能をオンにすると、いきなり何やら定期間隔で送信されている信号が検知された。

 

 5秒に1回の規則正しい間隔で電波による信号が放出されている。

 

 ただ、音声ではなさそうだ。

 

 ポーン、ポーンというモノトーンの音だけが車のスピーカーから再生されている。

 

 周波数のスキャンはまだ行っていないので、これはこの車のデフォルトで設定されている帯域で使われている電波信号ということになる。

 

 つまり、運営が使用している何かの機能だ。

 

「なんだこれ?」

「ノイズか何かではないのか?」

「いえ、ノイズにしては規則的すぎます。何かの機器が出している信号かと」

 

 念のために1、1,1とカウントを行う。

 

 信号のオンオフの長さは全く同じなので、モールス信号ということもなさそうだ。

 

 そもそもモールス信号なんて知らないので、何かメッセージが発信されていたとしても分からないのだが。

 

 電波の方向と強さからだいたいの発信位置を探ってみる。

 

 白地図を重ねると、信号はカリフォルニア湾に1つ、メキシコ湾沿いに1つ。

 合計2か所から確認できた。

 

 更に東の方にも微弱な反応があるのだが、流石にこちらは信号が微弱過ぎて検知出来ない。

 余程距離が離れているか、電波の発信源が弱いのかのどちらかだ。

 

「ビーコン的な何かだと思います。現在位置を伝えるための何かの信号」

「現在位置を伝えるとしても何のために?」

「この車は元々運営の備品ですよ。こいつで無線信号を受信できるってことは、逆に言うと運営に何かを伝えようと出している信号ってことです」

「運営はこの世界から撤退したはずなのでは?」

「自動的に動作する装置なのかもしれません」

 

 俺はハセベさんに人差し指と中指を立てたピースマークを作って見せた。

 

「ここで考えられるのは3つ。運営は別に撤退などしていなくてまだ何かこの世界で企んでいる。もう1つは運営の意思に関係なく自動実行される機械が動いている。もう1つは次元の歪み的な何か」

「現状はそれ以上情報がないというわけか」

「はい。これは単なるビーコン信号なので、行ってみたら単に自然現象とか、実はタウンティンの機械で無害でしたという可能性がないとは言い切れません」

 

 何を判断するにも情報が不足すぎているのは事実だ。

 まずは現地の情報を確認したい。 

 

「もちろん、これは俺の一存では決められません。そこで多数決を取ろうと思います」

「多数決なんて必要ですか?」

 

 レルム君が不思議そうに言った。

 

「困っている人がいる可能性があるならな助けに行くべきです」

「でもレルム君は怪我が」

「大丈夫です。流石に戦えって言われたら難しいかもしれませんけど」

 

 流石に小学生だというのに覚悟が極まりすぎていないか?

 俺が小学校の頃はゲームの話しか考えていなかったというのに。

 

 良い子なのだが、この年齢でそこまで自分より他人が大事というのは少し心配になってくる。

 

「ワシも大丈夫だ。なぁ、カーターさん」

 

 タルタロスさんはそう言うとカーターと肩を組んだ。

 

「ああ。オレ達のことは気にすんな。やりたいことをやればいい」

 

 負傷している3人がそう言うなら俺としても反対する理由はない。

 

「みんなもそれでいいかな?」

「何もない可能性だってあるんだろう。なら一応チェックくらいはしておくべきだ」

「そうですよ。この車ならすぐに行けちゃうんでしょう」

 

 ウィリーさんとガーネットちゃんも肯定的意見だ。

 

「俺も賛成です。エリスもそれでいいよな」

「うん、大丈夫」

「ということだ。全会一致なので、まずは近くの信号から調査してみよう」

 

 ハセベさんが締めてくれた。

 

 俺は全員に頭を下げた後に運転席へと座りハンドルを握った。

 

「それではこの町でやり残したことは?」

「ありません!」

 

 では出発だ。

 

 まずはカリフォルニア湾、一番近い信号の発信源のところへ!

 

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