収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Episode 6. What a Wonderful World
Chapter 1 「偽物の町」


前回までのあらすじ

 

 23歳会社員だった俺はひょんなことから白髪の魔女の少女ラヴィ(ハロウィン)になってしまったが、こんな世界から早く日本に帰りたい。

 

 俺達が日本へ帰る方法は分かった。

 

 ただ、どうやらこの世界の次元の壁が壊れかかっており、このままだとこの世界は滅ぶらしいのと、俺達を召喚した運営が残した置き土産が残っているらしいので、まずはその処理をする必要がある。

 

 頼りになる仲間は

 

 元高校生のモリ君とエリちゃん。

 生活態度が悪い公務員カーター。

 

 侍のハセベさん、ガンマンのウィリーさん、中学生のガーネットちゃん。

 力自慢のタルタロスさんと小学生のレルム君、ドロシーちゃんの合計10人。

 

 まずは一番近くから送信されているビーコンの調査を行うぞ。

 

    ◆ ◆ ◆

 

 降水量が少なくて乾燥しているカリフォルニア湾沿いではあるが、流石に海に面した沿岸部はそれなりに湿度があるからか植生が豊かだ。

 

 亜熱帯地帯のような塩に強いマングローブの森を右手に見ながらひたすらに車を南下させる。

 

 運転席の前面に表示されるモニターには電波の強度と向きを表示させている。

 

 東方向からは2か所。

 南方向からは1か所。

 

 南方向の電波発信地点はかなり近くにあるようだ。

 この電波の向きが東なり西なりに変われば位置をある程度特定出来るはずだ。

 

「果たして鬼が出るか邪が出るか」

「ジャガはもう食べ飽きたぞ」

 

 カーターから予想外の苦情がやって来た。

 

「じゃあ今日の昼飯はトウモロコシピザな」

「他にないのか?」

「豆」

「芋、、モロコシ豆でループしてるじゃねえか! なんかないのか?」

「ハロウィンですよ。クッキーをどうぞ」

 

 クッキーを取り出して渡すとカーターが縁を丸くかじり始めた。

 小学生かよ。

 後で掃除するのは俺だから運転席周りにこぼすなよと。

 

 食材は、厳密に言うと有ること有るが、これから旅の道中を考えると温存しないといけないのが実情だ。

 

 旅に出てすぐの頃とは違って今は大所帯なのだ。

 食欲に任せればあっという間に食材が尽きてしまう。

 

 そんなこんなのうちに目的地が見えてきたようだ。

 

「信号の発信源はあれではないのか?」

 

 運転席に手をかけたハセベさんが進行方向に見えてきた町を指差して言った。

 

 市街地には町の象徴であろう6本の尖塔が建ち、合間に町は赤い屋根が載せられた土壁造りの家が立ち並んでいる。

 

 少し小高い丘の上にはレンガ造りの3階建てのこじんまりとした城が建っている。

 

 そのやや下にはまるでギリシャの古代神殿のような大理石で作られたであろう巨大な石柱で支えられた神殿が見えた。

 

 建物からはまるで地中海の小都市という印象を受けた。

 

「これも異世界から来た都市……なのだろうな」

「アメリカって感じじゃないですもんね」

 

 ただ、やはり何か様子がおかしい。

 

 これだけ大きな都市がサンディエゴの近くにあれば、伊原から何か言及が有っただろう。

 

 仮にこの場所に町が飛ばされてきたのが3年前だったとしても、何かしらの交流が有ってもおかしくはないはずだ。

 

 3年という時間は短いようで意外と長い。

 それだけの時間があれば、住民は資源を求めて北か南に移動するはずだ。

 

 だが、南のメキシコ側ではこの町について一切言及がなかったし、北も開発されるどころか、まともに人が歩いて土をついた踏みしめた様子がない。

 

「また無人の町か?」

「変な怪物が出るかもしれません。注意して進みましょう」

 

 中世の馬車基準で作られたであろう町を縦横に走る道は装甲車には明らかに狭すぎる。

 そのため、車は町の手前に停めて歩いていくことにした。

 

 ビーコンは明らかに町の方から出ているが、具体的な位置までは特定できていない。

 あとは自分達の足で探すしかない。

 

 まずは恒例だが鳥の使い魔を喚び出して町へと飛ばす。

 

 ワンパターンではあるが、自分達の安全を確保しつつ状況確認するには最適なので使わない手がない。

 

「何が見える?」

「人は結構通りにいるみたいなんですけどね。妙に活気がないことだけが気になります」

 

 城、神殿、商店街らしき通りなど一通り飛ばしてみるが、空から見ている限り特におかしなことは見当たらないない。

 むしろ普通過ぎることが逆に不気味だ。

 

 違和感があれば報告したいところなのだが、空から見る限りは「城が見えますね」「神殿が見えますね」くらいしか言えることがない。

 

「強いて言えるとしたら建物が綺麗すぎるというくらいでしょうか」

「掃除が行き届いているのでは?」

「いえ、そういうことではなくてですね……」

 

 一度ここで言葉を切ってモリ君を手招きする。

 

「例の人食い洋館を覚えているよな」

「もちろん覚えてますよ」

 

 タウンティンの海岸で初遭遇。

 テロスとサルナスの間の廃村でも出現したモンスターだ。

 

 洋館に偽装して人を誘い込んで捕食。

 強さはさほどでもないが、意外と頑丈な壁がうねって動き出したりと色々と厄介な性質を持っていた。

 

「なぜ急にその話を?」

「雰囲気が同じなんだよ。この町の建物とあの洋館は。不自然に綺麗すぎるというか」

「綺麗すぎるというのは? パッと見た感じ、普通に汚れなんかはあるみたいですけど」

「なんというか……テーマパークの建物エリアやモデルハウスみたいな感じなんだ。人は通りにたくさんいるのに、まるで人が住んでいる気配がない」

 

 改めて鳥の視界で町を確認するが、やはり町に人はいる。

 それだけに生活感がまるでしないのは不気味だ。

 

 町のどこにもゴミは落ちておらず、洗濯物もなければ調理などしているような煙も一切上がっていない。

 

 不自然すぎて、まるでテーマパークのイベントスペースで、どこかに観光客用の売店でもあるのではと思えてくる。

 

「町そのものが罠という可能性があるということか?」

「はい。ですのでここは人数を絞っていきましょう」

 

 出来れば交渉能力に長けるカーターを連れていきたいところだが負傷が気になる。

 

 判断力と洞察力が高いハセベさんには同行を頼みたいとして、他に誰を連れていくべきか。

 

「僕が行きます」

 

 レルム君が挙手して立候補した。

 その手にはマインガルの役場で見つけた金属のバケツが握られている。

 

「僕の電気の力を使えば、ビーコンの信号を拾えると思うんです」

「でも怪我は――」

「――大丈夫です」

 

 体調を心配して声をかけようとしたが、力強い言葉にそれを遮られた。

 

「大丈夫です。僕を信じてください」

 

 そこまで言われるなら、信じるしかない。

 

「お子様が頑張るって言うならオレも行かないとな」

 

 レルム君に続いてカーターが重い腰を上げた。

 

「大丈夫なんですかカーターさん」

「お前よりは軽傷だっての」

 

 2人は軽口を叩き合うと拳を合わせる。

 サルナスで共闘していた時は雰囲気が最悪だったのに、いつの間にそんなに仲良くなったんだ。

 

 ただ、怪我人が多すぎるのは気にかかる。

 もしも負傷して傷が広がると大変なことになる。

 こういう時は――

 

「――俺も行きますよ。防御も回復も出来るので必要でしょう」

 

 俺が誘う前にモリ君がマントを羽織りながら言った。

 

「付き合いも長いし、俺が必要とされる場面は分かりますよ」

「ああ、助かるよ」

 

 俺とモリ君もレルム君達と同じように拳を打ち合わせる。

 

「では調査を開始しよう。特に異常がなく普通の町ならばそれはそれで良し」

「罠ならば速やかに脱出で」

 

 上空を飛ばしていた鳥を一度手元に戻して、改めて進路を先行させながら町へと歩みを進める。

 

「なんでもいいけど、こうやって歩くとラビ助の逆ハーレムパーティーなんだが」

「何をわけわからんことを。お前は女子1人の戦隊を見ても逆ハーレムと言うのか?」

「……言わねえな」

 

 全く……紅一点という言葉を知らないやつは何を言ってもダメだ。

 

「じゃあお前はピンク……じゃないな。ブラックかパープルか?」

「ブラックだとユニコーンで紫だとパピヨン。魔女なのでキズナメイガスだな」

「何の話のネタなんだよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町の中に入ってようやく異様さの正体が判明した。

 

 町を歩いている……否、歩いているポーズの人形が至る所に立っていた。

 

 鳥の目で少し離れた距離から見るだけだと全く気付けないほどの精緻な造形。

 

 至近距離から肉眼で見ているにも関わらず、実は生きている人間なのではと錯覚するくらいだ。

 

「これは素手で触っても大丈夫なのだろうか」

「大丈夫だぞ。こいつに魔力はない」

 

 カーターが大胆にも通行人の人形の顔を指で押していた。

 

「しかしリアルだな。肌の感触も人間に限りなく似せている」

「よく触るな、そんなの。本当の人間が人形に変えられるような何かの魔法だったらどうするんだよ」

「それはないだろ。魔力を感じないし、そもそも人形だけじゃなくこの町全部ダミーだぞ」

「えっ?」

 

 カーターは背負っていたライフル銃を構えると民家の壁に発砲した。

 

 銃弾が当たって民家の壁が……割れる。

 

 崩れ落ちた壁の断面を見ると、まるで発泡スチロールのような真っ白い粒で構成されているように見えた。

 土の塗装……テクスチャが張られているのは表面だけのようだ。

 

「破片の方も同じだな。まるで映画のセットのように見える」

 

 ハセベさんが壁の断面を拾い上げてそのまま握り潰した。

 

「発泡スチロールと石膏の間のような素材だな」

 

 それを聞いたモリ君も槍の柄で地面をガリガリと引っ掻き始めた。

 

 3cmくらいは土だったが、その先はコンクリートのような素材で覆われているようだった。

 

「人形の方も壊してみるか?」

「流石に人の形をしたのを壊すのはちょっと……」

「じゃあ、もう人の形をしていないやつをバラしてみよう」

 

 カーターはそう言うと道を歩き始めて、街路樹の陰で倒れている人形の近くへ移動した。

 

 人形の首は折れて頭部と胴体がバラバラの位置にある。

 断面部からの出血跡はどこにもなく、頭部は胴体から少し離れたところで晒し首のように転がっている。

 それは、まるで俺達を脅かすかのように見えた。

 

「ひぃ」

「うわっ!」

 

 置かれている頭と目が合ったモリ君とレルム君が無表情のまま直立不動の俺に抱き着いてきた。

 

 レルム君は良いとしてモリ君は何なの?

 俺だから別に怒らないけど、これ完全なセクハラだぞ。

 

 その点ハセベさんはすごい。

 未知の存在に対して警戒はしているが恐れてはいない。

 

 モリ君も、いつまでも小学生ではないのだから

 虫が怖い! お化け怖い! ではなく、もう少し頼りがいのある大人になってほしい。

 

「完全に作り物だな。造形は無茶苦茶細かいけど」

 

 そんな中で覚悟が極まっているのか、それとも何も考えていないのか。カーターは転がっている人形頭部の髪を掴んでこちらへと投げてきた。

 

「おい、いくら作り物でも人の頭を投げるなよ」

 

 放物線を描いて飛んできた頭を空中でキャッチするとモリ君とレルム君が「ひぇあ」と奇声をあげて俺から飛びのいた。

 仲が良いな君達。

 

 カーターと同じように髪を掴んで持ち上げて、首の断面を見る。

 

 やはり先程の壁と同じように発泡スチロール製にしか見えない。

 

 見た目もだが重量もだ。

 本物の人間の頭ならもう少し重たいはずだが、やはり発泡スチロール製かと疑うくらい軽い。

 

 俺が頭部のチェックをしている間にカーターは胴体部分にライフルの銃口を当てて躊躇わずに発砲した。

 

 砕け散った胴体の破片が周囲に飛び散ったが、やはり先程の壁と同じように内部はムクで中に内臓などの部品が入っているということもなかった。

 

 服も体と一体化しているようで、やはり発泡スチロールのような素材のマネキンにテクスチャを被せただけだ。

 

 いつまでも生首を抱えていても仕方がないが、そこらに転がすことにも抵抗が有ったので、破壊された胴体の上に置いた。

 

「そりゃ野ざらしなのに野生動物も食わねえはずだ」

「なんなんだ、この町や人形は?」

 

 意味が分からない。

 悪趣味といえども、作るに相当の手間がかかるはずだ。

 俺達を脅かす以外の理由で、こんな地球に厳しい資源の無駄遣いをしたのかが理解出来ない。

 

「運営がここで何かやってたかについて分からないか?」

「オレにもさっぱり分からん。別に何も隠しているわけじゃないぞ。本当に意味が分からん」

 

 今度はハセベさんが居合抜きを一閃。

 街路樹を切り倒したが、やはり断面は同じ構造だ。

 

「斬った手ごたえもまるでないな。燃えないゴミの日の前日に家電の梱包材を潰している感覚だ」

「でもそんな長期間放置されていた感じはないんですよね。町には雑草も生えていないし汚れもついていない」

 

 モリ君が近くの民家の壁を触りながら言った。

 

「普通はこうやったら汚れがつきますよね」

「よっぽど優秀な防汚コーティング剤使ってるんだな。うちの車にもそのワックス欲しいぞ。いいアメ車を買ったんだよ」

 

 冗談はともかくとして、汚れが少ないのは気になる。

 人形だけではなく、俺が不自然だと思った理由の1つだ。

 

 降水量が少ない地域であるため、泥汚れが少ないというのは理解できるが、それを差し引いても汚れが少ない。

 

「つまるところ、この町はつい最近作られたという解釈で良いのだろうか?」

「もしくはつい最近までメンテされていた……かもしれません」

 

 俺はしゃがみ込んで地面に積もっている砂を両手ですくい上げた。

 その砂の中に含まれた、小さな木の枝を摘まみ上げる。

 

「やや湿り気のある海岸近くの砂の中に自生しているマングローブの枝の破片が含まれています。昨日今日出来た町ならば、こうはならないはずです」

「風で砂が積もるにはそれなりの年月がかかると」

 

 俺は無言で頷いた。

 

 最近あった大きな変化といえば、やはり運営がこの世界から撤退したということだ。

 

 その時点でメンテナンスが止まり、町の機能や人形の動作などが終わったと考えるとわかりやすい。

 

「ビーコンの存在を含めて考えると、次元の壁絡みよりも運営の拠点と考えた方が良いのか」

「おそらくは。運営がこの世界から撤退したので、この町も捨てられたのでしょう」

「捨てられても、なお仕掛けが動いているということか」

 

 ということならば、さっさと片付けてしまおう。

 

 レルム君を見ると、マインガルの町から持ち出した空のバケツの底を持ち、左手で針金を握った。

 

「そう言えばずっとバケツを持っていたけどそれは?」

「見ていてください。学校でやった理科の実験です」

 

 レルム君が握った針金に一瞬火花が散ったかと思うと、空のバケツからくぐもっているが音が鳴り始めた。

 バケツを向ける先を変えると音の大きさも変化する。

 

 これならば電波が発信されている位置を特定出来そうだ。

 

「電気の能力の応用で電磁コイルを作ってシンプルなラジオを作ったのか」

「どういう仕組みだ、これは」

「小学校の頃やらなかったか? 紙コップで作るスピーカー。コイルを作ればそいつがループアンテナとして機能するから、それが共振することで電波の――」

 

 不思議そうな顔をしているカーターに説明を始めた時に気付いた。

 

 学校でやった理科の実験!?

 

 オリジナルのレルム君は既に死亡しており、今のレルム君は運営に作られたコピー。

 この世界に来てからの記憶しかないはずだ。

 学校でやった理科の実験の話を知っているわけがない。

 

「レルム君、記憶が……」

「それなんですけど、何故か知らない記憶が色々出てきて」

「それは日本の?」

「はい」

 

 俺はたまらずレルム君を抱きしめた。

 

 レルム君達とは一緒に日本へ帰ろうという話にはなったももの、コピーのためにこの世界に来てからの記憶しかなく、日本で生活をやっていけるのか、元の家族と仲良く出来るのかが心配だった。

 

 そんな状況で日本へ帰ったところで、本当に幸せなのかと。

 

 ただ、理屈は分からないが、今のレルム君にはオリジナルの記憶が多少なりとも受け継がれている。

 

 それならば元の生活に戻ることが出来るかもしれない。

 

「師匠?」

「良かった……本当に良かった……」

 

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