収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 22 「旅の準備」

 第16チームの3人は俺たちと一緒に旅立つことが決まった。

 

 だけど、全部がうまく行くわけではない。

 

 俺たちの横の席では、外国人風の侍……なんというか、そうとしか表現しようのない姿。

 クリスさんとハセベさんがすぐ隣で話し合っているが、会話の雲行きが怪しい。

 

 思い出話や交渉という雰囲気ではなく、完全にクリスさんがハセベさんを罵る形になっている。

 

「悪いが、あんたの考えにはついていけない。聞いた話だと、オウカさんまで死んだはずじゃないか」

「それについては弁解の余地もない。だが……」

「しかも、アメリカ東海岸まで半年の旅? 無謀すぎる」

 

 ハセベさんと話がこじれてしまったようだ。

 

 それからしばらく粘っていたが、ハセベさんは肩を落として戻ってきた。

 

「俺たちからも話をしてみましょうか?」

「いや、不要だ。私とは同行したくないというのは彼の選択だ」

 

 ハセベさんがそう言うならば仕方がない。

 

 クリスさんの主観だと、最初の部屋を出た直後に3人でムカデの巣に投げ込まれた。

 しかも、最期に見たのは、ハセベさんとオウカちゃんが自分を捨てて、ムカデの巣から命からがら逃げ出す光景だ。

 

 そこで意識が途切れており、気づいたらこのサンディエゴというわけだ。

 

 話に辻褄が合わない部分が多すぎるし、今さら何様のつもりだとなっても仕方ないところはある。

 

 似たようで別の問題が起こっているのはウィリーさんとガーネットちゃんの仲間のマークさんだ。

 

 2人が積極的に会話をするも、妙に反応が薄い。

 

 何の感情も見せずに、機械的に返事を繰り返しているだけだ。

 知能が働かないわけではないようだ。

 

 ちゃんと会話に対して返事はできているし、応対もはっきりできている。

 ただ、何かをやろうという意思のようなものが伝わってこない。

 

「マーク、また一緒に戦ってくれないか」

「それについてはお断りさせてください」

 

 マークさんはウィリーさんに頭を下げていた。

 

「話は聞きました。俺は一度死んでいたんでしょう。なら、もう危険なことは嫌なんです」

「そんなことはない。今度は仲間が大勢いる。みんなで戦えるんだ」

「無理なんですよ……俺の最期の記憶は真っ暗闇で大量の黒い敵に襲われる場面ですよ……あんなのもう耐えられない」

 

 こちらもウィリーさんは全く悪くない。

 話もこじれていないが、マークさんはもう戦いたくないという話だった。

 

 俺たちの旅は当然ながら危険が伴う。

 多かれ少なかれ戦闘が起こるだろう。

 

 それを避けたいというのは悪い選択ではない。

 むしろ俺たちの方がおかしなことをしているのかもしれない。

 

 まあ、これで旅のメンバーは決まった。

 俺たち10人揃って、まずはフラニスの町を目指す。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 まずは旅の準備だ。

 馬車を再組み立てして、この町で処分することにした。

 

 赤城と榛名、2頭の馬たちともこの町でお別れだ。

 短い間だが頑張ってくれた。

 

「なかなかご機嫌な車じゃないか」

 

 町外れで馬車を組み立てていると、いつの間にか伊原さんが俺たちのすぐ後ろで腕組みして立っていた。

 

「こんな面白いことを私抜きでやるとはどういう了見だ? ちゃんと私にも話を通すのが筋だろう」

 

 伊原さんはそう言うと装甲車へと近づいていった。

 

 俺とカーターしか開けられないはずの自動ドアがひとりでに開いた。

 

 車の中を覗き込み、そして俺たちの顔を見た後に再び口角を上げて形だけの笑顔を浮かべた。

 ただ、目は一切笑っていない。

 

 よりにもよって一番知られたくない人間に見つかってしまった。

 

「こいつはクソッタレ運営の装備品だな」

「はい。運営の拠点から持ち出しました」

 

 正直に答えることにする。

 今更嘘をついても仕方がない。

 

「この世界にあってはいけないテクノロジーだと理解しているな」

「もちろん」

「これで何をする気だ?」

「日本へ帰るための移動に使います」

「どうやって日本へ?」

「マサチューセッツ州、センティネル丘陵へ向かいます。そこが時空神の祭壇だと聞きました」

「誰に?」

「運営を仕切っていた元ゲームマスターです」

「なるほど」

 

 やはり嘘偽りなく答える。

 ここで嘘をついて誤魔化してもすぐにバレるだろう。

 

「こいつと同タイプの車両からフル武装の兵士が20人くらい出てきて襲撃されたことがある。実に面倒だった」

 

 そう言うと俺のローブの襟を掴むとヒョイと身体を持ち上げた。

 伊原さんはそれほど身長は高くないし、細腕で力も強くないように見えるのにこれである。

 

 そのまま車内へ入ってエンジンを起動。

 手慣れた動きで操作を行い、メニューを表示して俺やカーターの知らない機能まで次々と表示させていく。

 

 そしてメニューから火器管制を選択するとモニターにガトリングガンと表示された。

 慌てて運転席を離れてドアから車外に出ると、車体前部からガトリングガンが飛び出していた。

 

「壊せ」

「壊しても大丈夫なんですか?」

「そんなことは知らん。壊せ」

「ということだけど、誰か頼む」

 

 エリちゃんが挙手した後にガトリングガンへ綺麗な回り蹴りを放った。

 直撃を受けたガトリングガンは車体に固定されているボルトごと吹き飛ばされていった。

 

「じゃあ続きだ。運転手は誰だ?」

「私とカーターです」

「なら付いてこい。操作を教える」

 

 伊原さんと共に再度装甲車の中に入って行く。

 

 伊原さんは運転席でまたもかなり複雑な操作を繰り返す。

 そうしていると、モニター全面に真っ赤で大きな「Danger」と書かれた警告が表示され、警告音が鳴り始めた。

 

「おい、ここを見ろ」

 

 伊原さんは俺の頭を掴むと、ハンドルに押し付けてきた。

 

「これが自爆機能だ。日本への帰還が確定した時点で速やかに車体を爆破しろ。それで塵一つ残らんはずだ」

「自爆?」

「そうだ。土に埋めたり、海に沈めると、回収されて悪用される危険がある。だから、この世界にこんな物を絶対に残すな」

 

 そう言うと伊原さんは俺の頭から手を離した。

 

「これを使って冒険者になって、ひと稼ぎしようなどと言い出したら、車両ごと全員を次元の狭間に送り込んでやろうと思った。バス代わりにしか使わないというならば、見逃してやる」

 

 伊原さんは再び俺に微笑みかけた。

 だが、その目は一切笑っていない。

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 これは冗談ではなく本気だ。

 

 おそらく俺たちがこの装甲車を利益のために使おうと思った瞬間に、何の躊躇もなくそれを実行するだろう。

 

 ここに集まっているメンツが束になってかかっても返り討ちにできる……伊原さんにはそれだけの威圧感がある。

 

「できれば次元の壁の修復と調査を手伝ってもらいたかったが、日本へ帰りたいという理由があるならば見逃さざるを得ない」

「それについてですが、後で相談しようと思っていました」

「相談というのは?」

 

 俺たちは、これからどうするかについて話し合って決めていた計画について話すことにした。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「つまり、各地に散った日本人を探して回って、帰還か、この世界の崩壊を止めるための調査を選ばせるというわけか」

 

 かいつまんで説明するとそういう話になる。

 

「日本帰還は、かつて私たち全員の悲願だったからな。死んでいった47人のことを考えても、それを止めるつもりはない」

「それについては申し訳ありません」

「だから、止めはしない。だが、この世界に残るなら、私のところで調査と研究を手伝え。瑞穂(みずほ)のところでスローライフなど許さん」

「検討します」

「検討じゃなくて、決定事項なんだよ」

 

 伊原さんはそういうと、俺の背中をバンバンと叩いた。

 

「君たちが老衰で死ぬまで一生手駒としてこき使ってやるつもりだから」

「それは勘弁なので、私たちはこのまま日本へ逃げることにします」

「ああ、そうしろ」

 

 もしかしてこれは伊原さんなりの激励のつもりなのだろうか?

 

「もし私の知らない次元の壁に穴を開ける技術が見つかったなら、すぐに飛んでいくからそのように」

「そんなことできるんですか?」

「私を誰だと思っているんだ」

 

 伊原さんはそう言い切った。

 何の根拠もないのに説得力は凄い。

 

「次元の異常については、どこにあるかという情報だけでも10万円出すと伝えろ。有力な資料は50万で買い取る」

「事件解決については?」

「要相談。危険度によって金額は変えるし、独断で行動されると危険かもしれんので指示を出すと伝えろ。相場が分からんが成功報酬は300万くらいか?」

 

 俺も相場は分からない。

 だが、高額の報奨金が出るとなれば、動く人間も多いだろう。

 

「とはいえ、このサンディエゴまで金を取りに行ったり連絡するのは大変だと思いますが」

「それもそうだな……では、そのフラニスという町に電波塔を建てよう。無線で連絡があれば、私がすぐに駆けつける」

「えっ?」

 

 伊原さんが何を言っているのか分からない。

 

 俺たちが数日かけて行こうとしているフラニスに駆けつけるとか、電波塔を建てるとか、もう何を言っているのかさっぱりだ。

 

「電力はどうするんです?」

「ソーラーパネルでいいだろう。世界崩壊までの5年先まで持てばいい」

「待ってください。あと5年で世界が崩壊するんですか?」

「何もしなければ崩壊するぞ。だから壊れないように、今からなんとかするんだ」

 

 さりげなくとんでもないことを言い出した。

 

 タイムリミットが短すぎる。

 それはもう今すぐにでも動くしかないだろう。

 

「あと、そこの君」

 

 伊原さんがモリ君を指差した。

 

「持っているメダリオンを全部私に差し出せ。それらはもう君たちには必要ないものだろう」

「メダル?」

「そうだ。これから日本へ帰ろうというやつにはもう必要ないはずだ。逆に私は何枚あっても足りないくらいだから、持っている分を全部寄越せ」

 

 モリ君は俺に助けてと言わんばかりの視線を向けて来た。

 何故そこで決断がブレてしまうのか?

 

「リーダーはモリ君なんだから、自分で決めるんだ」

「そうは言っても、いざという時の治療に使えますし、手放すのはデメリットが……」

「でも、確かに必要ないと言えば必要ない。ランクアップには全然足りないし、この枚数だけ持っていても仕方がない」

 

 そう言うとモリ君は伊原さんへメダル2枚を渡した。

 

「金が1枚、銀が1枚。これは度会(わたらい)知事から頂戴した分も含まれています」

「ゲッ、瑞穂が保管していたやつも混じってるのか……それは困るな。あとで色々と嫌みを言われるのは勘弁したいぞ」

 

 伊原さんは露骨に嫌そうな顔を見せる。

 それほどあの州知事が嫌いなのだろうか?

 

「ならば妥協案だ。金は100万、銀は10万の110万で買い取ってやる。旅の資金が必要なんだろう? 拒否はしないはずだ」

「それは、この世界で使える通貨ですよね」

「銀貨はどこの世界でも使えるだろう。まあ価値は多少変動するだろうが」

 

 伊原さんはそう言うと何もない空間から革袋を取り出した。

 左手で袋を持って振ると、袋の中にジャラジャラと硬貨が入っていく音が鳴っているのがわかる。

 

「手品じゃないぞ。全部本物だ」

 

 そう言うと伊原さんは袋をモリ君に渡した。

 

 何をやったのかは分からないが、ともかく伊原さんが不明な力を所持していることと、本物の硬貨が出現したことだけは理解できた。

 

 資金が乏しかったのは現実問題だ。

 これは拒否する理由はない。

 

 気になったのは、州知事からもらったメダルであると言わなければ、タダで没収するつもりだったのだろうか?

 

「あとはこの馬車か」

「馬車まで没収する気ですか?」

「車があるのに馬車は同時に使えないだろう。砂漠の村のナイックが納品するのに便利そうだから良いと思ったんだが」

 

 それは良い話だ。

 全く知らない誰かの手に渡るよりも、知っている人物に使ってもらえる方がありがたい。

 

「いくらで買った? 買い取るから金額を教えてくれ」

 

 これも正直に言った方が良いだろう。

 そう思っていると俺よりも先にカーターが前に出た。

 

「90万です」

 

 何の悪びれもなくはっきりと言い切った。

 

 中古68万で買った馬車をおくびにも出さず堂々と90万と言ってのけた。

 

 なんてやつだ。

 

 しかし、馬車は俺たちがたまたま安く買えただけで、新品だともう少し高い値段だ。

 90万はリアリティのある数字だと言えなくもない。

 

「思えばタウンティンの交易船を出てから移動手段としてなけなしの金でこいつを購入したんです。こいつでジャングル、砂漠、川、山……いろいろな難所を越えていくうちに、こんなに傷んでしまいました」

 

 それは嘘だ。

 俺たちが馬車を買ったのはサルナスの町なので、まだ2週間ほどしか使っていない。

 

「確かにあちこちボロボロだな。よほど酷い戦闘に巻き込まれたのか」

「オレたちは旅に出てから、ミイラや変な怪人やトカゲ……それはもう、数え切れないほど多くの敵と戦ったんだ。こいつはその勲章だ」

 

 カーターが無言でこちらに訴えてくる。話を合わせろと。

 

「ああ。あの砂漠にあった廃都での戦闘は大変だったな」

「ヘルハウンドとケルベロスもか」

「イモリは大変だったよね」

 

 エリちゃんも話を合わせ始めた。

 

 俺たちは単に旅の思い出話をしているだけだ。

 

 馬車を手に入れてからの話とは一言も言っていないのでセーフだ。

 

「じゃあ半額の45万……だがあちこち壊れてるし37万ってところか?」

「壊れているのは馬車の外装だけで走行性能に支障なしです。やはり68万くらいは」

「それは高すぎる。42万だ」

「63万」

「47万……これが限度だ」

「分かりました。我々も親しくなった馬太郎や馬次郎と名残惜しいですが、間を取ってキリのいいところ、50万で手を打ちましょう」

「仕方ない。それでいいだろう」

 

 なんて奴だ。

 最初の査定が37万の馬車を50万で売りやがった。

 

 頼もしいんだか不安なんだかよく分からんがすごいやつだ。

 

 ほんとうにすごい。

 

 とてもぼくにはまねができない。

 

 赤城と榛名を仮の名前である馬太郎と馬次郎と呼んだこと以外は本当にすごい。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 というわけで馬車は伊原さんが連れていくことになった。

 

 馬たちはあの砂漠の村で第2の人生……じゃない馬生を送ることになるのだろう。

 

 短い間だったが、馬車を引く馬たちには本当に助けられた。

 

「今までありがとうな。これからも元気でやれよ」

「2匹とも元気でね」

 

 最後だったので特別にフルーツを振舞った後に馬たちと別れた。

 

 それなりに懐いてくれてこちらもかなり愛着が湧いていたが、さすがに馬をペットとして連れて行くわけにはいかないので仕方がない。

 

 砂漠の生活は大変かもしれないが、できるだけ長生きしてほしい。

 

 続いてみんなの旅で使う装備品や食料などを購入する。

 ただ、この町の商店の品揃えはイマイチだ。

 

 サルナスに寄るか、それともフラニスまで行って買い足すかは悩むところだ。

 

「ガーネットちゃん、大変じゃなかった? おじさん2人に囲まれて」

「大丈夫……って言いたいですけど、実は正直大変でした」

「今度は女性が多いから安心していいよ。デリカシーに欠けているのもいるけど」

「はい、助かります」

「オイ、女子会にオッサンが一人混じってるんですけど!」

 

 カーターが何かおかしなことを言ってきた。

 誰がオッサンだというのか。

 

「23歳ですけど」

「年齢の話をしてるんじゃねぇよ」

 

 年齢の話でなければ何だと言うのだろう。

 俺が女子会に混じっていて何が悪いのか?

 

「そんなことより、カーターさんはワシらと一緒に荷物の積み込みと車内の掃除を」

「いや、ちょっと待って、まだ話をしている途中で……」

 

 カーターはまだ何か言いたかったようだが、タルタロスさんの力には抵抗できず、そのまま連れられて消えて行った。

 

 まあ、どうせどうでもいいことだ。

 気にするだけ時間の無駄だろう。

 

「まあ、この町は品揃えがイマイチだし、買い物はサルナスの町でしよう。この近くで一番大きな町はあそこだから」

「どこの品揃えがイマイチだって?」

 

 いつの間にか馬車を連れて去ったはずの伊原さんが俺たちの前に戻ってきていた。

 

「何もないところに、これだけの町を作るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。向いてないリーダー役までやらされて」

「はい、それは分かります。継ぎはぎだらけですが、かなりの規模の町なので驚きました」

「継ぎはぎだらけなのは、別の次元からこの世界へ投げ出された連中を集めているからだよ。それでもまだ綺麗にまとめた方だ。苦労してるんだよ、これでも」

「もしかしてマインガルの住民も?」

「砂漠に逃げ出した奴だけな。100人ほどだから町の住民の総数に比べると微々たるものだが、全滅よりはマシだろう」

 

 それは朗報だ。

 

 あの町の住民は全員が仮称ウニに食われたと思っていたので、助かった人間がいるのは幸いだ。

 

 伊原さんは照れ隠しのつもりなのか、頭をかきながら紙袋を何もないところから取り出した。

 

「女子には清潔な下着と生理用品は必要だろうと思って持ってきた。ちゃんと全員分用意してあるから持っていけ。この世界では他に手に入る場所などないから大切に使えよ」

「ありがとうございます。本当に助かります」

「その代わり、絶対に成功させろよ。もし次元間の移動に成功すればそれは私にもすぐに分かるし、それが私の知らない方法ならば、この世界の次元の壁の修復を進めるのにも役立つ」

 

 なんだかんだで伊原さんは俺たちの助けをしてくれるようでありがたい。

 

 砂漠の村の住人達からも慕われているわけだ。

 

 俺は紙袋から下着を一枚取り出し、サイズを確認した後にそっと袋へ戻した。

 

「いやみかー!」

「嫌味だが」

 

 やはり伊原さんは邪悪だった。

 

 なぜ同じサイズを3人分揃えたのか?

 

 何をどう見たら俺がエリちゃんやガーネットちゃんと同じサイズだと思うのか?

 ふざけるのも大概にしてほしい。

 

 なぜこの世界はこうも不公平なのか?

 

「いやあ間違えた。あのドロシーとかいうクソガキと君の分はこちらだ」

 

 俺がツッコミを入れる前フリを丁寧に添えて別の紙袋を渡してきた。

 

 まだツッコミは入れない。

 念のためにサイズを確認するとキッズ用の下着が入っている。

 

「いやみかー!」

「嫌味だが」

 

 ハハハと笑いながら、伊原さんはまた紙袋を1つ投げて寄越してきた。

 中身を確認すると、今度はちゃんと適正サイズのものだった。

 

 自分でも計ったことがないので知らないスリーサイズを他人に把握されているのは気持ち悪いが、下着も生理用品も必要な品なので助かる。

 

「準備が終わったら後で事務所に来い。出発前に1つやってもらいたい仕事がある。報酬は払う」

「仕事ですか?」

「とは言っても討伐とかそう言うのではない。ちょっとした調査だ。この中にタウンティンでイソグサと戦った連中は何人いる?」

 

 そう言われて俺とモリ君、エリちゃんが挙手した。

 1人足りない。

 

 カーターが知らんふりを決め込もうとしていたので、俺とエリちゃんで両手を掴んだ。

 

「はい万歳!」

「ばんざーい!」

「? ばんざーい!」

 

 カーターが両手を挙げたタイミングで伊原さんに告げた。

 

「この4人です」

「待て、オレはまだその時期には参加してないぞ」

「最後の邪神の像を使った儀式潰しには参加していただろ」

 

 伊原さんが何を頼んでくるのか不明だが、カーターの知識は絶対に必要だ。

 参加してもらわないと困る。

 

「ならその4人で後で町外れの研究所へ来い。見てもらいたいものがある」

 

 そう言うと伊原さんは去っていった。

 

 こういう強引なところは何となく度会(わたらい)州知事と似ているところが多い。

 

 昔は相当仲が良かったんだろうと察せられる。

 

 まあ、それ以前の問題として、俺の友人とも似ているのだが。

 図々しくも人のパーソナルスペースに割り込んでくるところとか、どこまでが冗談なのか本気なのか分からないところとか。

 

 正直勘弁してほしい。

 

「ところで、あの人は私たちの下着のサイズを知ってるのかな?」

「あの人は攻略サイトを見てるから……」

 

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