一度装甲車に戻った後に全員で会議を始めることになった。
もちろん議題は「プロトコル333」なる謎のアナウンスについてだ。
「こっちの車の中でもなんか急に喋りだしたんだけど」
エリちゃんの言うところによると、突然にこの装甲車内で謎のアナウンスが流れたようだ。
話を聞いてみると、おそらく俺たちが聞いた物と全く同じだ。
発生時刻も、俺たちが監視ルームの中で音声を聞いていたのと、同時刻のようだ。
「エンジンを切っても鳴り始めたと?」
「いえ、いつでも動かせるように、車のエンジンは起動したまま町の調査に向かいました。無線もオンのまま出発したのでそれが功を奏したと」
装甲車は元々運営が使用していた兵員輸送用だ。
それを考えると、おそらくは運営に関係する全ての施設と機器に対して同時刻に同じアナウンスが流れているのだろう。
「本部との通信が途切れた」というのは運営が撤退したことに関係していそうだ。
問題はその既知事実ではなく、プロトコル333とやらの内容だ。
「カナベラルという言葉に聞き覚えは?」
ハセベさんが尋ねてきた。
「おそらく米軍の空軍基地や宇宙センターなどがあるフロリダのカナベラル基地のことだと思います」
俺は車のモニターに白地図を表示させた。
それをスクロールさせて、アメリカ東海岸の南部を表示させる。
アメリカ東海岸のフロリダ半島にあるのが米軍のカナベラル基地だ。
北アメリカ大陸内に複数ある米軍基地のうち、最も赤道に近い場所である。
大西洋にも面している場所なので、そこには宇宙センターも作られて、人工衛星の打ち上げなども行われている。
「なぜそんなところに運営の拠点が?」
「多分、エリア51と同じでしょう。俺たちが運営に反旗を翻した時に迎え撃つための場所。米軍基地と同じ場所にあるのは、分かりやすさを兼ねてかと思います」
俺はハセベさんに答えた。
これはエリア51との共通点でもある。
参加者が反旗を翻し、邪悪な運営に対して攻め入ることも、おそらく連中の想定通りだ。
そして、攻め入ってきた襲撃者を返り討ちにして、その無念に散っていく様を中継して、見世物にするのだろう。
悪趣味極まりない。
クロウさんたちはキューバ、第4チームはドミニカとゲームの参加者たちはカリブ海周辺に集められている。
そこから近い拠点として選ばれた……のかもしれない。
他の理由は現状だとわからない。
「アナウンス自体が罠の可能性は?」
「罠の可能性はほぼないと思います。たまたま運営の施設に入って、たまたまアナウンスが流れる時間で、たまたまそれを日本語で聞いた」
「偶然の要素が強すぎるな」
「はい。そういう理由で、俺たちに対して罠を張ったと考えるのは無理がありすぎます」
「罠ではない。だが、もし行かなければ何かが起こる。それが良いことなのか、悪いことなのか」
「単に運営の基地が自爆して消えてなくなるとかなら、歓迎なんですがね。問題は、この世界に対して何か迷惑なことが起こることです」
「せめて何が起こるかくらいは知っておいた方がいいということか。対処するかしないかは後で決めるとして」
まずは作戦会議が必要だろう。
無視するのか? カナベラルまで行って対処すべきなのか?
そこの方針を決めないと、話は進まない。
「どのみち、クロウさんたちと合流するつもりなので、フロリダまでは行くつもりでした。なのでそこはいいです。問題は時間制限です」
「この西海岸からの距離は、約4000キロ。1日200キロ走って20日か」
モニターにはアメリカ東海岸。
フロリダ半島の白地図を表示させている。
ちなみに1日200キロというのは、この装甲車の移動速度と、現在の道路状況を考えて出した暫定の数字だ。
実測値ではないので、200キロより短くなることも考えないといけない。
ギリギリではないが、決してゆとりがあるとは言えない。
「ならば、今から出発ということでいいですね」
「えっ?」
「ああ。どうせこの町では食事も買い物もできないし、留まる理由はない」
モリ君とハセベさんが早速決断した。判断が早い!
「ここからは4000キロなんですよね」
「そうですよ。あまりゆとりはないし、フラニスでもやることがあります。走れるうちはどんどん走って距離を縮めた方がいいでしょう」
「フロリダにはクロウさんたちがいる。何かあれば被害を受けるのは彼らだ。それだけは絶対に阻止しないといけない」
俺が皆の意見を聞こうとしている間に、モリ君とハセベさんとの間でどんどんと方針と今後のルートの話がまとまっていく。
正直頼もしいし、横で聞いていれば済む方が楽ではあるのだが、これはこれで俺が置いてけぼりなので少し悲しい。
「ラヴィ君!」
「ひゃい!」
急に名前を呼ばれたので変な声が出た。
「今すぐに出発しよう。まずはどこを目指すかね?」
「まずはサンディエゴに戻ります。伊原さんに状況を報告してから、対処するのかどうかを考えましょう。今日はそれで終わりです」
翌日の予定は地図と睨めっこをして考える。
ノガレスの町だとさすがに近すぎる。
もう少し欲張りたいところだ。
「明日は湖の町サルナスまで行きましょう。あそこならば勝手も知っていますし、融通も利きます」
「妥当な判断だな。私はそれでいいと思う」
プランは決まった。
早速、車を出発させると、偽物の町はあっという間にバックモニターから消えていった。
◆ ◆ ◆
「それで、半日も経たずに戻ってきたのか」
リーダーであるモリ君たちから偽物の町と、プロトコル333なる謎のアナウンスの報告を受けた伊原さんの表情は渋い。
別に俺たちに対して苛立っているわけではないだろう。
サンディエゴの近くに偽物の町と言う拠点を知らないうちに作られていたこと。
この世界から撤退したはずの運営が、実はまだ残っていて、まだ何かやっているかもしれない。
もしくは、残した仕掛けが動き出すかもしれないという話だ。
「そういうわけです。俺たちは、そのカナリア基地を目指します」
「カナベラル、カナベラル」
モリ君がいきなり言い間違えたので修正をしておく。
「なんでそんなところに運営は基地を作ったのやら」
「現代のアメリカ軍が基地を作った場所だからじゃないんですか?」
「うん……まあ、これは物証がない仮説の段階ではあるが」
伊原さんはもったいぶったように一度言葉を切った。
「アメリカには、旧支配者……人間が誕生する前に地球に来ていた『何か』が遺跡を残していた痕跡があちこちに残っている」
「旧支配者……ですか?」
モリ君が思い出しているのは、ホンジュラスで戦った「蛙の神」と呼ばれていた敵のことだろう。
タラリオンのラティも同類だが、あれは町ごとこの世界にやってきた新参者なので、別枠だ。
「このサンディエゴもそうだ。私たちがこの遺跡に着いた時には、他次元に繋がる次元境界があり、旧支配者がそれを守っていた」
「倒したんですか?」
「ここにいたのはショゴスと『いにしえのもの』の二種だ。ショゴスは駆除したが、もう一方は会話が通じる相手だったので、交渉して今は無人島に住んでもらっている」
「それは、生態的に放して大丈夫な相手なんですか?」
話を聞くだけだと、それは宇宙人だ。
いくら交渉したとしても、野に放って大丈夫なものか少し心配になる。
「そうは言っても人類が地球に生まれる前から住んでいる億単位の先輩だからな。人間の方が外来種みたいなもんだ」
理屈は分かる。
分かるけど、少し分からない。
「だとすると、エリア51の宇宙人の都市伝説って……」
「本当に宇宙人がいたのかもしれないな。運営はそいつと、そいつの持っているテクノロジーを流用するために、基地を上に建てた」
今の話が本当だとすると、俺たちの現実のアメリカも、宇宙人の技術を流用するために、遺跡の上に米軍基地を作ったという話になる。
SF映画で散々見た展開だ。
エリア51の地下には本当に宇宙人の円盤やら、ディセプティコンが囚われて研究されているのだ。
貞子が作られたコンピューターシステムとか時間超人の製造マシンも、モハーベ砂漠のどこかにきっとある。
ただし、ここは人間のイメージが現実化するという
その特有の現象であり、現実は関係ないかもしれない。
「同じ理屈だと、フロリダの基地には、旧支配者がいるってことになりますが」
モリ君の懸念は分かる。
俺も同じことを考えていた。
横に座っているカーターやハセベさんも同様らしい。
「十分考えられる。プロトコル333とはそいつを解き放つ計画なのかもしれない」
ここからフロリダは遠い。
仮に60メートル級の
道中に寄ったサルナスやテロスも同様だ。
だが、クロウさんたちがいるフロリダ半島にある町は違う。
その敵が暴れたら、もろに影響を受けるはずだ。
クロウさんたちは、近くの町が謎の怪物に襲われていると聞いて助けに向かったらしい。
実はその敵と何か関係しているかもしれない。
決して放置していい話ではない。
「大変な旅になるが、行ってもらえるか?」
「もちろんです。俺たちはそのつもりで報告に来ました」
モリ君が代表して伊原さんに答えた。
これは俺たちの中でも事前に決めていたことなので何も問題はない。
「偽物の町は、こちらで追跡調査をしておく。君たちは気兼ねなく調査に向かってくれ。報酬も支払うつもりだ」
まさか報酬をもらえることになるとは思わなかった。
改めて依頼を受けて、俺たちは伊原さんに二度目の別れを告げて、事務所を立ち去った。
◆ ◆ ◆
その日はウィンキーの町で一泊して、翌日の朝から出発することにした。
宿は伊原さんの紹介で手配してもらった空き家を使うことにする。
さすがに10人となると、その宿代だけでもかなりの金額になるからだ。
なるべく節約していかなくてはならない。
「メシはどうする?」
「毎日ピザってのも味気ないし、市場で魚くらい買いましょうか」
料理には一日の長があるウィリーさんも交えて、財布の中身と備蓄の食材とを見比べる。
炊事場で「ああでもない」「こうでもない」とやっていると、空き家に訪問者があった。
「ウィリーさん、ガーネットさん」
空き家の前に立っていたのは短髪の男、マークさんだった。
かつて遺跡で命を落としたが、運営にクローン人間として作られた存在でもある。
ウィリーさんとガーネットちゃんが出迎えた。
「ああ、来てくれたのか。オレたちは予定通り、明日旅立つよ」
「そのことなんですが……」
マークさんは一度ここで言葉を切った。
「俺も旅に連れて行ってもらえないでしょうか?」
マークさんが深々と頭を下げた。
「急にどうしたんだ? お前はここに残るって?」
「あれから考えたんです。俺がこの町にいても何もできることはない。俺は本当は何をしたいのかって」
そう言うとマークさんは入り口の方を見た。
やや遅れて、ばつの悪そうな顔をしたハセベさんのかつての仲間、クリスさんだった。
「同じ境遇のこいつと少し話をしたんだ。僕たちは一体何なのか? この場で全てから逃げて腐っていていいのかって」
クリスさんはマークさんの背中を軽く叩いた。
「日本に帰りたいとは思わない。日本のことなんて何も覚えていないからな」
「それでも、自分たちは何なのか。何ができるのかを一晩じっくり話し合った」
クリスさんもマークさんと一緒に頭を下げた。
「結論として、この町に残ったままじゃ何も変わらないって話になりました。図々しい話なのは分かっています」
「僕はハセベさんをまだ全面的には信じられない」
「それについては弁明の余地もない。私はそれだけのことをした」
ハセベさんがクリスさんに答えながら頭を下げた。
ハセベさんとクリスさんが、競い合うように2人でどんどん頭を下げ合い、どんどん姿勢が低くなっていく。
だが、ここはツッコんだら負けだ。
モリ君からも背後から「やめてくださいね」という無言の圧力をかけてきている。
「それでも、ここで立ち止まったままじゃ何も変わらないと思った。だから……もしよければ、一緒に旅に行かせてほしい」
「皆さんが俺たちよりも多く経験を積んで強くなっているのは聞きました。それでも足手まといにはならないよう努力します」
「お願いします」
そこまで言われなくとも断る理由はない。
元々、復活組は本人が望めば全員連れて行くつもりだったのだ。
旅費は……まあなんとかなるだろう。
「歓迎しますよ。ウィリーさんもハセベさんもそれでいいですね」
「オレは何も問題ない。歓迎するぜ、マーク」
「また3人……じゃない、12人で冒険しましょう」
ウィリーさんとガーネットちゃんがマークさんを迎え入れた。
「私の方こそお願いしたい。謝罪ではなく、ここからやり直したい」
「ああ……僕も少しずつでも、納得はしたい。よろしくお願いしたい」
ハセベさんとクリスさんも握手をした。
これで決まりだ。
かなり大所帯になったが、明日はこの12人で出発をする。
今度こそ、新しい旅の始まりだ。
まず目指すは湖畔の町、サルナスだ。