収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 9 「アメリカ東海岸へ」

 余程疲れていたのか、討伐チームが宿のベッドから起き出してきたのは昼頃になってからだった。

 

 タルタロスさんに運んでもらった鎧と洗濯物を直接手渡しをしていく。

 

「ラヴィさんありがとう。服だけでなく鎧も洗ってくれたようで」

「洗濯ありがとう。助かった」

「鎧は海の水を被っていたので、あのままだと錆びそうでしたからね。モリ君の鎧も洗うからついでですよ」

 

 フォルテ達から洗濯の礼をもらった。

 喜んでもらえたようで何よりだ。

 

 こういう時はお互い様。

 持ちつ持たれつ。助け合いの精神で行きたいところだ。

 

「では各自、買い物などがある場合は日が暮れるまでに済ませていてくれ。私とモーリス君は昨日の魚人の報酬を受け取りに行ってくる」

 

 モリ君とハセベさんが宿から出て行こうとしたので慌てて呼び止める。

 

「モリ君、実は子供達の装備の話なんだけど」

「それなら昨日の食事中に聞いたよ。レルム君が杖を欲しがってるんだっけ」

「ああ。レルム君だけに買うと多分ドロシーちゃんが機嫌を損ねると思うので、出来れば2人に買ってあげたいんだけど……」

「それならOKだよ。子供達も頑張ってくれているから、あまり高価なものでないなら買っても良いんじゃないかって」

「無駄遣いは良くないが、それで戦闘の効率が上がるのならば私も良いと思う」

 

 モリ君とハセベさんの許可が出た。

 

 それを聞いていたレルム君とドロシーちゃんの2人は両手をタッチして喜んでいる。

 

「ラビさんが一緒に行くならそこまで高価なものや無駄なものは買わないでしょう。だから任せます」

「子供のわがままの1つや2つは聞いてやらんとな。あとは任せたぞ」

 

 そこまで信頼してもらえるとはありがたい。

 

「ありがとう。では適当に見繕ってくるよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「武具屋というのはここか?」

 

 俺はレルム君とドロシーちゃんの杖を求めて武具屋なる、ゲームの中にしかないと思っていた場所を訪れていた。

 

「へいらっしゃい!」

 

 入り口のドアを開けると同時に店員の中年親父から待っていたかと言わんばかりの景気の良い挨拶が飛んできた。

 

「魔法使いの杖って置いてます?」

「ああ、一通りあるよ。ただし杖の立ち上げなんかはそちらで頼むぜ。ここで売ってるのはあくまでも原型だから」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 杖の立ち上げ?

 

 よく分からない言い回しが飛んできたが、ここは世界が違うので考えても仕方がない。

 

 どうせ俺達が求めているのはただのコスプレグッズなので、細かい部分については分からなくてもOKだ。

 ぶっちゃけ雰囲気さえ合っていればただの棒でも良いくらいだ。

 

 狭い店内にはまるで鎌倉の土産物屋のように剣や槍などの武器が所狭しと飾られていたが、魔法使いの杖はその一角にあった。

 

 長いものから短いものまで。素材も木材から金属製まで多岐に渡る。

 

 俺には必要ないものではあるが、好奇心からつい触りなくなってしまう。

 

 これは仕方がないことだ。

 男の子は何歳になってもカッコイイものに惹かれるものなのだ。

 

「レルム君はどういうタイプが欲しいんだ? 長いの?」

「僕は片手で振り回せる軽いのが良いですね」

「それだとこのあたりか」

 

 短い木を削って出来た棒を取ってレルム君に渡すと、器用にクルクルとボタンのように振り回して、最後に杖の先を突くようにして構える姿勢を取ってみせた。

 

 世界的に有名な魔法学校物の映画に登場する少年魔法使いが使う攻撃魔法、ナントカカントカパトローナムのポーズだ。

 

 確かにそのポーズから電撃が出るとかなりカッコ良いだろう。

 

「これが良いですね。色の種類はあるんでしょうか?」

「その形だと今は黒とオーク、マホガニーの3種類があるな」

 

 店員が3種類の杖を並べて見せてくれた。

 レルム君は杖の前であれでもないこれでもないとしばらく悩み、ようやく一本に絞った。

 

「この濃い茶色が良いですね」

「杖を買うなら、当然それをぶら下げるベルトホルダーも必要だよな」

 

 レルム君が杖を選ぶと店員がすかさず追加オプションのおススメを出してきた。

 なかなかに商売が上手い。

 

「師匠、これは買っても良いんでしょうか?」

「杖とセットなんだから当然買ってもいいよ。他に魔法使い用のローブは何かありますか?」

「うちにはないが、向かいの服屋で扱ってるよ。まあ、うちの兄弟がやってるので実質うちみたいなもんだが」

 

 本当に商売が上手い。

 

 この町に何ヶ月か滞在するならば色々と頼りになりそうではあるが、残念ながら俺達はここで今生の別れだ。

 

「ドロシーちゃんはどんな杖が欲しいんだい?」

「うちはいらない。重そうだし」

 

 予想外の展開だった。

 てっきりレルム君が買ったのを見たら自分も欲しいと言い出すものだと思っていた。

 

「では杖とホルダーの一式をください」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 杖は意外と安く買えたこともあり、せっかくなので向かいにあった服屋で魔法使い風の黒いケープも購入した。

 

 これでレルム君の見た目は立派な魔法学校の生徒さんだ。

 

 レルム君は余程気に入ったのか、杖と体を無駄に回転させるカッコいい動きで振り回している。

 

「このケープも良いですね。師匠みたいで」

「お、おう……」

 

 残念ながら俺が着ている無地のローブの方がはるかにデザイン性では劣っている。

 耐久性や保温性という見えないところの性能では上ではあるが、見た目は完敗だ。

 

「ドロシーちゃんは何も買わなくて良いのかい?」

「うちはあの帽子が欲しい」

 

 武具屋では無反応で興味なしといったドロシーちゃんだったが、服屋に来てようやく目を輝かせて反応した。

 

 陳列されている羽飾りの付いたベレー帽のような帽子を指差して欲しいと訴えている。

 

 値段を見ると、レルム君の杖とホルダーとケープを合わせたよりも高い。

 見間違えではないかと二度見、三度見したがやはり値段は合っている。

 

「何で出来ているんだ、この帽子……金でも埋め込まれているのか……」

 

 生地も縫製もまあそれなりに良いので安物ではないのは分かるが、値段つけはデザイン料込みなのだろうか?

 

「まあいいよ」

「やった!」

 

 正直予算オーバーだが、だからと言って何も買わないのも可哀想だ。

 足りない分は俺の分の小遣いから出しておく。

 

 帽子を被ったドロシーちゃんはこれは自分の物とアピールしたいのか俺とレルム君の前で無駄に脱いだり被ったりを繰り返している。

 

 新しい装備を身にまとってすっかりオサレ集団になった俺達は集合場所へと向かった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 集合場所にはフォルテ達も集まっていた。

 

 サルナスから色々と付き合いのあった彼らだが、ここでお別れになる。

 

「もう旅立つんだな。どうせなら、もうしばらくはここで一緒に冒険を一緒にと思っていたんだが」

「すまない。俺達はまだ旅の途中なんだ」

 

 モリ君が申し訳なさそうに言った。

 

「仕方ないか。そっちも事情が色々あるようだし」

「本当にすまない」

「別の場所に行って魔法陣を潰しに行くんだろう」

 

 フォルテが俺達の次の目的地をあっさりと当ててみせた。

 

「少し考えればわかるさ。君達は別の場所で既に同じことをやっていたから、昨日の行動に迷いがなかった。そして、今日も疲れているんだからゆっくりすれば良いのに、何かに追われるように急いで旅立とうとしている。その理由を考えれば答えは1つだ」

「参ったな。当たりだよ」

 

 本当に察しのいい人だ。

 性格も良いし、仲間にいれば相当頼もしかっただろう。

 

 俺達の状況が違っていれば……彼らの住んでいる世界が違えば、もっと一緒に冒険を楽しむ未来もあったかもしれない。

 

 だが、残念なことに俺達とは文字通り住む世界が違う。

 

 彼らはこの世界で冒険を続ける。

 俺達は日本へ帰る。

 

 この道が交わることはもうない。

 

「短い間だったけど楽しかったよ。君達も頑張って」

「ああ、フォルテ達も元気で」

 

 モリ君とフォルテが握手を交わした。

 

「そうだ、伝え忘れていてたことがあるんだ」

 

 俺は伊原から預かった書類をフォルテ達に渡した。

 

 そこには例のゾス=オムオグの像のスケッチ画が描かれている。

 

「こういう形のゾス神の神像というものがあってだな、これを高く買い取りたいと言っている人物がいるんだ」

「奇妙な像ですね。邪神か悪魔か。かなり禍々しいものを感じます」

 

 レフティがその絵を見ながら言った。

 

「当たりです。これは邪神の像で邪悪な儀式に使われる可能性が高いので世間に出回っているなら回収したい。高く買い取りたいと」

「なるほど。僕達は主に討伐専門で遺跡調査は専門外なんだが、一応は注意をしておくようにする」

 

 フォルテはその書類を丁寧に畳んで鞄に入れた。

 

「今までは討伐中心でやってきたが、遺跡調査も面白そうだ。一度行ってみないか? メリダだっけか」

 

 マルスがフォルテを小突きながら言った。

 

「そういえばアデレイド達も行ってるんだよな。一度様子を見に行ってみるのも良いかもしれない。船に乗ればすぐに行けるし」

 

 話を聞いていたハセベさんが前に出てきてフォルテに説明を始めた。

 

「私もその町に行ったことがあるが、なかなか活気ある町だ。高価な宝石や装飾品が市場で高い値で取引されていて、私も偶然に見つけた小さい銅像をいくつか売ったのだが、金貨50枚くらいになった」

 

 ハセベさんの話を聞いたフォルテがマルスと顔を見合わせる。

 

「有りだな」

「それだけ儲かるなら有りだ。ダメなら船で帰ってくりゃいいんだし、最悪、帰りの船賃くらいは稼げるだろう」

 

 ハセベさんの話を聞いて、何やらメリダの町の話題で盛り上がり始めた。

 

「まあ、うちはいつもこんな感じだけど、これからもうまくやっていくから」

 

 スーリアが俺に握手を求めてきた。

 

「ええ、スーリアも頑張ってください」

「ラヴィもね。誰か良い相手を見付けられるといいね」

「良い相手ねぇ……」

「一見生真面目だけどふざけた性格で護らないと死んじゃいそうな友人さんによろしく」

「ああ、そうするよ」

 

 まだメリダの話題で盛り上がっているフォルテとマルスを尻目に俺達は別れた。

 

 現地人とは深くかかわらないと前に決めたので、振り向きはしない。

 

 彼らは異世界人なので、これから色々な問題に直面するだろうが、この判断力と行動力があるならば、強く生きていけそうだ。

 

「ではそろそろ出発しましょう。明るいうちにアメリカに戻りたいですね」

「今日中にヒューストンまでは行きたいと思う。到着はだいたい20時くらいかな」

「なら明日は?」

「ルイジアナ州ニューオーリンズまで約500km……朝から晩まで車に乗りっぱなしで疲れるだろうけど大丈夫?」

「昨日散々海岸を歩いたんですけど、多分そっちに比べれば軽いものです」

 

 そう言ってもらえるのは頼もしい。

 

 全員が車に乗り込んだのを確認して、フラニスの町を後にする。

 

 さようなら異世界の冒険者達。

 

「では、旅を再開しようか」

 

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