収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 4 「湖畔の町再訪」

 装甲車を飛ばして、なんとか日没の前にはサルナスの町に到着することができた。

 

 徒歩はもちろん、馬車と比べても移動速度が速すぎるために旅としては味気ない。

 楽なことは楽なので良いのだが、物は善し悪しだ。

 

 ちなみに、装甲車は馬車と比較しても相当大きい。

 そのために、町の中を走行させるどころか、駐車させることもできそうにない。

 

 仕方なく適当な空き地を見繕って停車させる。

 見覚えがある場所だと思ったら、奇しくも、祭りの日に俺たちがテントを張った場所でもあった。

 

「今日はこの町1泊します。急ぎの旅ですが、食料品と日用品の調達も必要ですので、明日は朝から買い物をしたいと思います」

 

 モリ君がそう宣言すると、今回の町での滞在費を小遣いという形で各個人へ渡していく。

 

 マークさんとクリスさんについては、ここで旅の荷物も購入してもらうので、その分も若干多めに渡している。

 

「この人数だと全員が同じ宿に泊まるってのは難しいと思うので、各々予算内で宿を探してください。食事も好みで好きなものを」

「お金はあるだけ使っていいという意味ではもちろんない。余った分は後で返金してくれ」

 

 さすがに12人全員の行動を管理するのは大変だ。

 各個人の裁量で動いてもらうのが一番だろう。

 

 渡した分だけ全部酒に変えそうな約1名を除いてはみんな良識があるので、そこまで無駄遣いはしないはずだ。

 

「前に屋根の上に避難させた人たちがいたのを覚えているだろう。また、あの人たちの店に行こうと思うんだが」

 

 カーターが俺の表情をうかがいながら確認を取りにきた。

 酒場に行くのがそれほど後ろめたかったのか。

 

「各個人の裁量の中なら特に何も言うつもりはないぞ。それに、そういう理由があるなら、むしろ俺たちも行った方が良さそうだな」

「でも、あの酒場は酒以外なかったみたいだからな……頼めば水と軽食くらいは出してくれるだろうが」

「それはさすがにちょっと……子供たちもいるし」

 

 酒を飲めない小学生も含む未成年で大挙して酒場を訪れても、他のお客さんに迷惑だろう。

 ここは諦めよう。

 

「それならばワシも行こう」

「私も興味があるな。この世界に来てから酒とはすっかり縁も切れていたし、久々に酔いたい」

 

 タルタロスさんとハセベさんもカーターの話を聞いて興味を持ったようだ。

 

「ハセベさん、僕もいいですか?」

 

 クリスさんがハセベさんの顔色を伺いながら尋ねた。

 

「クリス君は青年だったか?」

「21です。とっくに成人しています」

「そういうことならば、酒の席でなら語れることもあるだろう。少し話そう」

 

 クリスさんも参加だ。これで少しはわだかまりも溶けてくれると良いのだが。

 

「俺もいいですか? 22歳です」

 

 マークさんも飲み会に参加するようだ。

 少しでも仲良くなれる機会があるのなら、参加してもらえるのはありがたい。

 

「大人組は酒場と」

「オレは大人組だけどパスだ。ガーニーと2人で一緒に町をブラブラとしてくるわ。宿も適当に探す」

 

 ウィリーさんとガーネットちゃんはそう言って装甲車から出て行こうとしたので、慌てて声をかける。

 

「ガーネットちゃんの中の人は中学生だということをお忘れずに」

「忘れてねえよ!」

 

 2人とも年齢のことを完全に忘れてそうで怖いのだが。

 

 もし、未成年に手を出してポリスメン沙汰になっても俺は全く責任を取るつもりはない。

 ちゃんと節度は考えてほしい。

 

「残るはいつものメンツだけど、俺とレルム君、ドロシーちゃんの3人で何か食べに行ってくるよ。モリ君とエリちゃんは悪いけど2人だけで出かけてね」

「ラビさんも俺たちと一緒に行きましょうよ」

「前は祭りが中途半端なことになっちゃっただろ。だから、今度こそ2人で出かけてくるといいよ」

「でも……」

 

 何か言いたそうなモリ君とエリちゃんの2人を半ば無理矢理送り出した。

 

 人数も増えたし、子供たちがいるとどうしても親としての行動を求められてしまう。

 以前のように2人だけでゆっくりとも行かないのだから、今度こそ楽しんできてほしい。

 

「じゃあ2人とも、前回の祭りの続きだ。どこかに何かを食べに行こう。ご希望は?」

「カレー」

「カレーはさすがにないかな……」

「僕はクリームコロッケが良いです。久々に食べたいので」

「そちらはギリギリありそうかな?」

 

 俺は2人の手を繋いで歩こうとして、違和感に気付いた。

 久々に食べたい?

 

 2人のオリジナルは既に死んでおり、ここにいるのはオリジナルの情報から作られたクローン人間だ。

 最低限の知識は持っているようだが、記憶についてはその保証外だ。

 

 食事という日常生活のの記憶まで出て来るわけがないのだが。

 

「ドロシーちゃん、カレーってどこで知ったんだい? 誰かに聞いた?」

「前にうちでママが……あれ? ママ……」

 

 ドロシーちゃんが頭を抱え始めた。

 

「レルム君もクリームコロッケをどこで?」

「僕も家で……あれ、家?」

 

 今の何気ない会話ではカレーとクリームコロッケ。オリジナルが日本で食べたという記憶を、本人たちは引き出した。

 

 どういう原理なのか分からないが、2人にはオリジナルの記憶が多少なりとも受け継がれている。

 

 俺は不安そうな顔をしている2人に手を伸ばして抱きかかえる。

 

「もしかしたら今日は希望のメニューはないかもしれないけど、代わりに何か美味しいものを食べよう。カレーとクリームコロッケは後で俺が作ってやるから」

「本当に?」

「師匠が作ってくれるんですか?」

「ああ。何か記憶の底に残っている食べ物を食べれば、忘れている何かを思い出せるかもしれない。だから、2人ともしばらく頑張ってみよう」

 

 2人がこれからどう生きていくのかについて若干の不安があった。

 だが、オリジナルの記憶を呼び起こすことができるというならば、少しだが希望が見えて来た。

 

 俺が日本へ帰るまで、あまり時間はないかもしれないが、やれるだけのことはやってみよう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町の中はそれなりの賑わいを取り戻せていた。

 

 前に町を出る前は閉まっていた店も今は無事に営業を再開している。

 

 町を哨戒している兵士はまばらだ。

 あれからボクラグたちの襲撃もないのか、以前のような緊張感はないようだ。

 

 果たしてボクラグたちは、あの湖に移転してくれたのだろうか?

 

 攻めてこないのは単に戦力を消耗しすぎたからで「人間の言うことなど聞く必要もない」と今でも刃を磨いているのだろうか?

 

 明日にはこの町を発つ俺たちには顛末を見届けることはできない。

 ただ、両者ともなるべく穏やかな解決をしてほしいところだ。

 

 開いている飲食店を見て回ったが、さすがにカレーもコロッケもないようなので、妥協して適当なレストランに入った。

 

 町のあちこちを流れている水路を眺めながら食事ができる、いかにも観光客向けのオープンテラスだ。

 

「なかなか良い雰囲気じゃないか。肩肘張る感じじゃなく良い」

 

 店の名物料理を注文すると出てきたのはクリームシチューのような料理とパンだ。

 

 カレーとクリームコロッケには微妙にかすっているものの、やはり何か違うのだけが惜しい。

 今日はこれで折り合いをつけてもらおう。

 

「高級な洋風レストランでは皿を持っちゃダメだぞ。スプーンで一口ずつ食べる分だけをすくうんだ。パンは口で直接噛み千切らずに手で一口分をちぎって食べる」

「シチューにパンをつけるのは?」

「高級レストランだとマナー違反だけど、こんな感じの気取らない店でなら気にしなくていい。カリカリのパンはつけて柔らかくした方が食べやすいし美味いぞ」

 

 せっかくなので、レストランに来た時の食事のマナーも教えておく。

 またやることが増えてしまったが、これは仕方がない。

 

 この子たちが今後の生活で困らないように色々と教えておかないといけない。

 

「ラビちゃんってママみたい」

「先生と呼びなさい」

「ラビちゃん先生」

「よろしい。せっかくなのでデザートも注文しよう」

 

 そんな取り留めのない会話しているところに、モリ君とエリちゃんもやって来た。

 オープンテラスなので目立つのだろうか?

 

「2人とも食事は?」

「済ませてきました。久々にしっかり肉を食べましたよ」

「やっぱり肉は美味しいよね」

 

 2人が楽しそうに話すので少し気になった。

 

「どんな感じの料理?」

「塩で焼いただけのザ・肉って感じの肉料理です」

 

 経過時間を考えるに、2人は本当に肉を食べた以外は何もしていないのだろう。

 

 特に関係が進展したとかそういうのはなさそうだが、2人はまだ高校生だ。

 別に急いで関係を深める必要もないだろう。

 

「それで今晩の宿ですけど、もう決めました?」

「いやまだだよ。見ての通り食事中で今からデザートを注文するところ。メニューを見るに、南国のフルーツ盛り合わせがあるらしい」

「デザート? それは私も食べたい」

 

 エリちゃんはそう言うと近くの席から椅子を持ってきてドロシーちゃんの隣に座った。

 

 モリ君はそれを見てため息をついた後に、やはり椅子を1つ持ってきてエリちゃんの横に座る。

 

「なら、みんなで食べましょう」

 

 モリ君が店員を呼んでデザートのフルーツ盛り合わせを5人分注文する。

 少し待つと、オレンジやら南国のフルーツやらが積まれた写真映えしそうな豪華なものがやってきた。

 

「これって貴族用のお高いやつでは?」

 

 お値段もお高そうなので念のために店員に確認する。

 

「旅人さんは知らないだろうけど、この町は定期便で新鮮なフルーツが届くからこれができるんだ。よそではこの値段で食べられないから、食べないと損だぞ」

「そういうことなら」

 

 久々の甘味に舌鼓を打ち、満足のいく食事ができた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 翌日。

 

 マークさんとクリスさんの2人には、自分たちの予備の着替えと野営セットの購入に向かってもらった。

 旅の必需品なので、持っておいても損はない。

 

 続いて全員の衣服の洗濯だ。

 水と時間がある間に済ませておきたい。

 一日車で走りっぱなしの日々が続けば、洗濯をしている余裕がなくなるからだ。

 

「ところでウィリーとガーネットの2人は結局どうなった?」

 

 2日酔いでダウンしているカーターがダルそうに尋ねてきた。

 

「それぞれ別の部屋を取ったそうだ。さすが違法女子の扱いは心得ているみたいで良かった」

「違法って言い方は酷いな……その理屈だとお前は合法女子になるが?」

「14歳ですけど。違法ですけど」

「都合良く年齢を使い分けるな!」

 

 そもそも合法なら何だと言うのだという話だ。

 合意のない異性交遊など絶対にダメだぞ。

 

「それよりも俺はお前が買い出しに参加しないで、こんなところでクダを巻いていることの方が気になるんだけど。大人組はみんな一緒に行ったはずなのにダウンしているのはお前だけだよ」

「オレだけ二次会に参加したからだよ。目が覚めると道端で寝ていて朝だったし」

「何度目なんだよ。そのうち死ぬぞ」

「なら嫁に来て生活を管理してくれ」

「アホだろお前」

 

 洗濯機なしで全員分の服の洗濯となると意外と大変だ。

 ひたすら洗濯板で擦って洗って干すという作業を繰り返さないといけない。

 

 色々と配慮して女性陣の下着は別に手洗いで綺麗に汚れを落とすので余計に手間がかかる。

 

「なんで主婦みたいになってんの? もう女子を通り越してオカンになんだが」

「何とでも言え。だって誰も洗わないし、若い子たちに頼むのも何だし」

 

 効率良く家事をやろうとするとオカンにならざるを得ないのだ。

 これは性別は関係ない。

 別に俺の精神が女性に染まったわけではない。

 

「あと二日酔いなら水を多めに飲んで寝ろよ。ただ水だけだとミネラル不足で水分の吸収効率が悪いぞ。何か食べ物も食え。クッキーなら出すぞ」

「優しいのか厳しいのかはっきりして」

 

 幸いにもカラっとした天気と乾燥した空気のおかげで乾くのは早い。

 

 乾いたものから取り込んで畳んでそれぞれの荷物袋の中に入れていく。

 

 そうやって家事を済ませていると食料買い出し組が戻ってきた。

 モリ君とタルタロスさんが俺の前に袋を下ろした。

 

「頼まれていた小麦粉と大豆です。これで大丈夫ですか?」

「ありがとう。小麦粉と豆さえあれば、あとは補給なしでもゴールまで食事は持つはずだ」

 

 調達してもらったのはコスパのいい小麦粉と乾燥豆だ。

 料理の幅も広がるし、車で運ぶ分には重さも関係ない。

 

 何より、人数が増えた分をカバーできるのが大きい。

 

 ただ、戦士職の筋力は常人より高いとはいえ、さすがに数十キロの荷物を持って歩くのは辛かっただろう。

 

「はい、お疲れ様。ハロウィンですクッキーをどうぞ」

 

 クッキーとカップに入れた水をモリ君とタルタロスさんの2人に手渡すと一息で飲み干した。

 もう一杯注ぐと、今度はクッキーを食べながら水を飲み始めた。

 

「香辛料はどうだった?」

「やっぱりないですね。クミンでしたっけ?」

「そう。ヒマワリの種みたいなやつ」

「ありませんでした。買えたのは唐辛子とパクチーだけです」

「仕方ないか。まあ、何とか探してみるよ」

 

 ドロシーちゃんのご希望のカレーを作ろうと香辛料を探してもらったが、どうやらこの町にもなかったようだ。

 

 どちらもアメリカ周辺で手に入れるのは絶望的。

 異世界の町ならばもしやと思っていたのだが、やはりダメだったか。

 

「クミンってそんなに重要なんですか?」

「クミンはカレーの匂いの素だよ。前にアルバートさんのところで買ったターメリックは色の素。極論だけどこの2つが入っていれば、他は足りなくてもカレーっぽい風味になるし、ないと何か違う料理にしかならない。見た目が大事ってやつ」

 

 この先のルートを考えるが、フラニスで手に入らなければアウトだ。

 別の香辛料への置き換えを考えるべきだろう。

 

「もう少し時間があれば兵舎に行って、ボクラグがどうなったか聞きたかったけど」

「それなら買い物ついでに聞いてきましたよ。やっぱりあれからボクラグは出ていないみたいです」

 

 それならば良かった。

 穏便に解決するならばそれに越したことはない。

 

「あれから1か月も経っていないんだし、これからどうなるかは分かりませんけど」

「まあ、こちらとしてもやるべきことはやったし、後は地元の人とボクラグさんたちに頑張ってもらうしかないか」

 

 通りすがりの旅人が短期間で出せる成果としてはまあ最大だろう。

 本当に平和裏に解決してくれると良いのだが。

 

「ラヴィ君、次の目的地は?」

「東の方に石材加工をやっているテロスという町があります。以前にも立ち寄り、お世話になった方々もいるので、今晩はそこに泊まろうと思います」

 

 モニターに地図を表示させて説明する。

 既に買い物を済ませたので午後を回っている。

 

 昼から出発となると、時間的にもそこにたどり着くのが精いっぱいだろう。

 

「その翌日は街道をひたすら東に進んで、一気にメキシコ湾……フラニスまで出ます。砂漠の真ん中でキャンプなんてしたくないので。走行距離はちょっと長めで辛いかもしれませんが、そこはご勘弁を」

 

 俺はハセベさんにおおよそのルートの説明をする。

 距離にすると500キロ近い。

 ハードではあるが、距離は稼げるうちに稼いでおきたい。

 

「途中にあった廃墟の村も、もちろん寄る予定はなしです。レルム君はどう? 寄りたい?」

「あの動く家のあった場所ですよね。別に何もないし、寄らなくていいですよ」

「ならば話は早い。全員シートに着いたらテロスの町に向けて出発するよ」

 

 装甲車をターンさせてサルナスを後にする。

 

 湖でのボクラグたちとの夜通しの戦闘、フォルテやアデレイドたちの共闘……この町ではいろいろなことがあった。

 もうこの町に来ることはないだろう。

 

 大理石でできた美しい城壁を持つ湖畔の町は、瞬く間にバックモニターから消えて見えなくなった。

 

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