収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 10 「砂蟲」

 メキシコの砂漠をひたすら東へ走る。

 

 道が舗装されていれば楽だろうが、人跡未踏の荒れ地では石やサボテンなどの背の高い植物などの障害物が多くて意外と気を使う。

 

 馬車だとこちらが指示しなくとも馬が空気を読んで避けてくれたり、そもそも速度がそれほど速くはないので障害物を避けるのも楽だったが、車ではそうはいかない。

 

 細かくハンドルを切ったりアクセルコントロールしたり、時には豪快に障害物を乗り越えたり。

 まるで耐久のラリーレースでもやっているような気分になってくる。

 

 俺がそうやって装甲車を運転する動きを、ハセベさんはすぐ横についてじっと見ていた。

 

「基本的には乗用車と同じで良いかね?」

 

 どうやら運転に興味を持っていただけたようだ。

 せっかくなので簡単に運転方法を説明することにする。

 

 管理者権限を持っているのは俺だけなので当然エンジンを始動出来るのも俺だけなのだが、運転自体は誰でもできる。

 

 ここで何人かが運転できるようになっていれば、交代しながら負荷を減らせる。

 運転方法を教えておくのは悪い選択ではないだろう。

 

「アクセルとブレーキは足のペダルで操作。ハンドルを切ると曲がるのは普通の乗用車と同じです。オートマなのでクラッチはありません。車と違うのは前進、バック、パーキングのギア切り替えがタッチパネルでの操作ってだけですね」

「前のモニターにやたら表示されている数値は?」

「気圧とか温度とか色々な情報を出せますけど、走行には関係ないですね。基本的に燃料計だけを見ていれば大丈夫だと思いますよ。警告なんてまず出ないので」

 

 俺はモニターを指差して……振動センサーに警告が表示されていることに気付いた。

 

 慌ててメニューを展開。

 

 周辺地形図を表示。

 

 更に振動センサーの結果を重ねると、装甲車の動きに合わせて地面を振動させながら何かが近付いてきていることに気付いた。

 

 ただ、後方モニターには何も表示されていない。

 

 考えられる理由としては……地下だ。

 

「何か地中からこの車を追いかけてきているやつがいますね。地面を掘り進んでいる? いや違う。地面の下にトンネルが有るのか?」

「地中から? 一体何が?」

「分かりません。でも、自然現象ではないと思います。確実にこの車の動きを地中から追ってきているので」

 

 モニター表示を再確認する。

 

「幅10メートル。長さ100メートルほどの細長い何かです」

「かなり巨大だな。一体何なんだそれは?」

「形状からして巨大な蛇かムカデか芋虫……それとも未知の何か。サンドワームとかグラボイズみたいなやつかもしれません」

 

 こちらが加速して時速50Kmになると距離が開く。

 

 障害物を避けるために時速30km台に減速するとすぐに追い付いてくる。

 

「今の移動速度は時速40kmですが、これだとつかず離れずという感じです。速度を上げれば振り切れそうですが」

「加速できるのか?」

「障害物が多いので難しいですね」

 

 言った傍からハンドルを切って巨大なサボテンを回避しながら現状を説明する。

 

 こちらが蛇行運転になって速度が落ちたことから、地中からの追跡者との距離がまたも縮まった。

 

「路面状況も悪くて速度を上げられないのでジリ貧ですね。近いうちに追いつかれます」

「迎撃を考えた方が良さそうだな。作戦は任せてもらって良いか?」

「助かります。こちらは運転で精一杯なので、作戦が決まったら教えてください」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「魔法使い組の魔法にしろ、銃にしろ、相手が砂の中にいては攻撃が通らない。なので、まずは地上に引きずりださないと戦えそうにない。これをどうする?」

 

 ハセベさんが地中から迫る敵の迎撃をするための対策会議を始めた。

 

「囮作戦は?」

「敵の正体が分からないのでリスクが高すぎるな。もっと確実な案は何かないか?」

「そいつの重量は? 軽ければガーニーの風で空に舞い上げられるが」

 

 ウィリーさんがガーネットちゃんの顔を見ながら言った。

 

「ラヴィ君、敵の重量は分析して表示出来るのかね」

 

 ハセベさんに急に話を振られたので慌てるが、車の機能で分析できないかと聞かれていることに気づいた。

 冷静に答える。

 

「えっと……車にはそこまでの解析機能はありません。今は地面からの振動を拾って表示させているから動きを拾えるだけで、X線的なもので分析をしているわけではありません」

「ならば仕方ないか」

 

 サイズについても振動センサー情報だけを頼りにした曖昧なものだ。

 あくまでも参考用と前置きした上で雑に答える。

 

「目安ということであれば計算で出せますが。10×10×100で水と同じ質量と仮定した単純計算で良いなら1万トンです」

 

 生物なら一部は空洞。

 

 虫ならば更に空洞部分が広いはずなので、水よりはもう少し軽いはずではあるが、まあ誤差だろう。

 

「1万トンとか無理ですよそんなの」

「舞い上げるどころか、こちらのスキルなんてまともに通用するのか?」

「近接組が囮になるのもなしだな。質量で押し潰されたら終わりだ」

 

 作戦はまとまらないようだ。

 

 最終的には俺が討って出るしかなさそうだが、その間の運転をどうするのかの問題が残る。

 

 何しろ、少しでも速度を落とすとすぐに追いついてくるので、もし謎の敵を倒したところで装甲車を破壊されたら俺達の旅は移動手段がなくなり詰む。

 

 自動操縦はこちらの意図通りに動いてくれないので、何が起こるか分からない。

 

「質量で押し負けるなら、それ以外で勝つしかないな」

「でもそれ以外って?」

「僕の電気はどうでしょう」

 

 レルム君が挙手した。

 

 確かに電撃ならば、相手の神経、内臓系に直接ダメージを入れて倒すことが出来るかもしれない。

 

「だが、相手は地中だ。電気はそこまで通るのか?」

「そうですね……やっぱり無理ですか」

「なら、ドロシーの水で濡らすのはどうでしょう? それならば電気は通っていくかもしれません」

 

 モリ君の提案にどよめきが上がる。

 

「それなら行けそうだ」という声と「それでも無理だろう」という声に分かれている。

 

「いや、さすがに無茶だ。ドロシーちゃんのハイドロカノンの水量は5トンってところだ。この砂漠へ撒く水の量としては少なすぎる」

 

 冷静に考えると、それこそ霧吹きでたらいに水を垂らすようなものだ。

 全て砂に吸収され、敵に届く前に消えるだろう。

 

「じゃあこうしよう。ガーニーが砂を吹き飛ばす。砂漠の砂はいくら多くても、一粒一粒は軽い砂の集まりだ。一定時間吹き続ける風にはさしたる問題はない」

「はい。それならばできると思います。特定の方向へ飛ばすのは無理ですけど、全部適当に散らせば良いんですね」

 

 俺はガーネットちゃんのフルパワーの風のスキルを見たことはない。

 

 だが、付き合いの長いウィリーさんが言うからにはかなりの威力なのだろう。

 

「そして敵の頭が出たところにドロシーのハイドロカノン。全部じゃなくても頭だけでいい。出来るな、ドロシー」

「もちろんやるよ!」

「というわけです。タイミングは俺が調整します」

 

 ドロシーちゃんの攻撃のタイミングはモリ君が合わせてくれるようだ。

 

「最後のトドメはレルム……やれるな?」

「はい、タロさん」

 

 レルム君が攻撃するタイミングを合わせるのはタルタロスさんがやってくれるようだ。

 

「ラヴィ君、作戦は固まった。あとは車体のコントロールを任せる」

「任されました。では、今から後部ハッチを開きます。車から振り落とされたり、荷物が落ちないように注意してください!」

「なら、荷物は私が」

 

 エリちゃんが車内を素早く駆け回って、床に置いたままの荷物を棚へ納めていく。

 収まりきらない荷物はロープを巻き付けて壁に固定した。

 

 準備が整ったところで後部ハッチを開く。

 車体の後方50メートルほど位置の地面が不自然に盛り上がって、車の動きを追尾してきていた。

 

 先ほどまではこれほど地面が盛り上がってはいなかった。

 車を攻撃するために、先ほどよりも浅い位置に移動したのだろう。

 

「渦巻く旋風!」

 

 ガーネットちゃんの叫びとともに、地面から真上へ竜巻が吹き荒れた。

 砂や石が上空へと舞い上がっていく。

 

 それによって謎の敵の頭部が地中から露出し、姿を現した。

 

 地中を進んでいたそれは、目などの感覚器官は見当たらず、鱗もなく、ぬめりのあるミミズのような不気味な長虫だった。

 

 底面には無数の繊毛がグネグネとうねり、見ているだけで嫌悪感が湧き上がってくる。

 

 相変わらず虫が苦手なモリ君が「ヒィ」という情けない声を上げた。

 

「ドロシー! あの気持ち悪いやつにハイドロカノン!」

「気持ち悪い! 消えて!」

 

 ドロシーちゃんの腕の先から超高圧で水流が放出された。

 

 超高圧の水流を受けた長虫の先端が四方向に割れた。

 どうやらそこが口らしい。

 

 質量差があるので、これだけで倒せるとは思えないが、それなりにダメージは入ったようだ。

 顎をパクパクと開閉させ、体を仰け反らせる。

 

「レルム今だ!」

「エレクトロビーム!」

 

 レルム君の両手の先から青白く光るビームが放たれ、長虫の頭部に直撃した。

 

 長虫の粘性の皮膚から水分が急速に失われて黒く焼け焦げていく。

 

 更にバチバチと青白い火花を飛び散らせながら、長虫の全身に電撃のダメージが広がっていくのが分かる。

 

「やったか?」

 

 おい、誰だ? たった今「やったか」とかいうフラグ満載のセリフを言ったのは?

 

 やはり、電撃だけで即死するようなことはなく、長虫は苦しそうに身体を震わして暴れまわり始めた。

 

 当然、後部ハッチを開けたままの車内にも砂や石が飛んでくる。

 

「おい、スキルを使い切ったのにどうするんだ?」

「問題ない。私が決める!」

 

 ハセベさんが刀の鞘を左手で掴み、腰溜めの姿勢のままで疾風の如く駆け出して長虫に向かって高く跳躍した。

 

 長虫の眼の前まで飛んだ後に、少し離れた場所に着地。

 懐から紙を取り出して刀の汚れを拭った後に鞘へ納刀する。

 

「えっ、いつ刀を抜いたんだ?」

「終わったぞ」

 

 ハセベさんが車の方に歩いてくると同時に切断された長虫の頭がズルリと地面へ落下した。

 

 胴体からは白っぽい不気味な液体がドクドクと流れ出し、やがて胴体も地面に倒れ込み、動かなくなった。

 

「みんな、一度車を停めるぞ」

 

 今のままだと車から飛び降りたハセベさんが置きざりになってしまう。

 

 念のため振動センサーで再スキャンを行い、周辺に他の敵がいないことを確認してから装甲車を停止させた。

 

「他に敵はいません。装甲車の機能で確認済みです」

 

 全員に聞こえるように精一杯の大声で報告した。

 これで一息つけるだろう。

 

 車が停止したことを確認したので、俺は車に向かって走ってくるハセベさんに声をかけた。

 

「ハセベさん大丈夫ですか?」

「ああ。みんなが弱らせてくれたお陰で首を切り落とせたよ。動き回る相手にはこうはうまく決まらないからな」

「凄いですね今の技。いつの間に習得を?」

 

 俺は気になって尋ねた。

 

「ラヴィ君達と再会したあの遺跡にやたら強い敵がいただろう。あいつのような攻撃が効かない相手がまた現れた時の切り札として密かに開発していたスキル三つ重ね合わせだ」

 

 ハセベさんが言うのはホンジュラスの(ヒキガエル)の遺跡にいたあの邪神だろう。

 

 あんなのが頻繁に出てくるとは思えないが、対策だけはしておいても損はない。

 

 俺達もそれなりに強くなったとは思っていたが、ハセベさん達も相当鍛錬と経験を積んだようだ。

 予想よりもはるかに強くなっている。

 

「動き回る相手には当てるのは難しいんだが、まあ決まって良かったよ」

「いやいや、見事に決まってましたよ」

 

 一人で戦うわけではない。

 誰か仲間と一緒に戦うならば、誰かが足を止めるために役割分けをすれば良いのだ。

 

 一人で万能で戦える必要はない。

 

「それにしても、この虫は一体……」

「この世界にもともと住んでいる生物なのか、それとも異世界から連れてこられたものなのか……。まあ、みんな怪我なく倒せて良かったです」

「ああ、そうだな。初の全員参加の作戦だったが、なかなかうまくいったと思う」

 

 本当にその通りだ。

 

 俺達9人全員の力を合わせて無事に事態を解決することが出来た。

 このチームなら、これからどんな困難があっても乗り越えられるだろう。

 

「では先を急ごう。今日中に砂漠を抜けるのだろう」

「そうですね。ただ、車内に砂や石が入り込んだので、まずはその掃除から……聞いてるな10人目」

 

 俺は特に何もしていなかった10人目の仲間……カーターに呼びかけた。

 

「いや、何もしてないんじゃなく、オレのスキルが噛み合わなかっただけだから! やろうとはしていたから!」

 

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