収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 12 「進む者」

 モンスターの発生源潰しの作業が始まった。

 

 おそらく海中に隠されているであろう発生源を水面に引きずり出して破壊。

 

 その過程で大量に発生するであろうアメーバだか魚人だかを俺達10人総出で倒すというのが今回のミッションだ。

 ここで1日以上かかるのならば、何人かをここに残して旅立つ必要が出てくる。

 

「前回は海底から祠を引き上げることが出来なかったと聞いたが、何か作戦はあるのか?」

「それについては前回の反省を生かして考えてみました」

 

 まずは鳥を召喚して1羽を使い魔として先行。

 2羽目は長く結んだロープの端を持たせて1羽目の後を追跡させる。

 

「こうやってロープを持って行かせて、祠を見つけたら海中で巻き付けます。あとはうちの力自慢が頑張って引き上げるだけ」

「ちょっとした地引網というわけか」

 

 ハセベさんのその発言で気付いた。

 

 もしかすれば、地元の漁師に地引網を借りてそれで引っ張り上げたら早かったのでは……

 ただ、今からやり直しても時間の無駄にしかならないので、このまま作戦を続行する。

 

 ロープの端はタルタロスさんとエリちゃんが握っている。

 

 石で出来た祠は相当な重さだが、この2人の筋力ならば意外とすぐに引き上げてくれるはずだ。

 

「おそらく引き上げる途中で祠から大量にモンスターが召喚されると思います。なので、海面から上がってきたものに対して遠距離から攻撃を仕掛けます」

「攻撃の順序はどうする? 一斉攻撃させると、どうしてもスキルの再使用待ち時間で攻撃が出来なくなるだろう」

「なので、攻撃は随時状況を見ながらある程度分散させてください。近接攻撃が得意な2人がロープを引く以外は何も出来なくなるので、なるべく敵を上陸させる前に決着を。俺は鳥のコントロールで全く動けなくなるので、誰か号令を頼みます」

「では、私が号令を出そう。モーリス君はロープを引く2人をサポートする役目を」

「分かりました。誰かを守るのは得意です」

 

 確かにサポート系の能力を多数持つモリ君ならば中衛には最適だろう。

 

「僕も杖を買ってもらったし頑張りますよ」

 

 レルム君も張り切っている――

 

 ここで重大な事実に気が付いた。

 

「レルム君は今回はしばらく待機だ。指示があるまで何もしないで」

「どうしてですか、師匠」

「今回は水面下にロープを沈めていて、それをエリちゃんとタルタロスさんが引っ張る作戦なんだ。でもその状況で海中に電撃なんて叩き込んだらロープを伝って電撃が――」

「あっ」

 

 早めに気付いて良かった。

 

 少し遅れていたらロープを引っ張っている2人がもろに感電して大惨事になるところだった。

 

 電気系スキルは水中の敵には強いが、デメリットも大きい。

 

「ハセベさんは祠の引き上げ状況を見てからレルム君の攻撃解禁をお願いします。おそらく水中の敵に一番効果がある攻撃を放てるのは彼なので」

「承知した。では各自作戦を開始だ!」

 

 まずは俺が海中に潜行させた鳥から送られてくる映像を頼りに祠を探す。

 5分ほど調査すると、150m地点にフラニスの時と同じような天然石を削って作られた祠を発見した。

 

 鳥の動きをコントロールして祠をロープでグルグルと巻きつけていく。

 簡単に外れないように雁字搦めにしたところで、ハセベさんに手を振って合図を送る。

 

「引き揚げ開始だ!」

 

 号令と同時にエリちゃんとタルタロスさんがロープを引き始めた。

 

 さすが力自慢の2人だけあって、推定200kgはあるだろう石造りの祠が一気に十数センチ動いた。

 

「OK、ちゃんと引き上げは成功している。続けて」

「あんまり強く引くとロープが千切れるか、ほどけるかすると思うんだけど?」

「それは俺が見てるから大丈夫。切れそうになったら早めに伝える」

 

 目を瞑り、使い魔から伝わる映像で地上と海中、両方の動きを追う。

 

 祠は十センチ単位だが、確実に陸へと近付いていく。

 

 そうやって50mほど祠を動かした辺りで異変は起こった。

 

 祠から強い光が放たれたかと思うと、中から粘液のようにドロッとした半透明の液体が次々と湧き出してくた。

 

 その液体の中央には丸い球体が浮かんでおり、人間の眼球がキョロキョロと辺りを見回すような動きを見せている。

 

「アメーバ状の何かが発生!」

 

 ハセベさんに見たままの状況を伝える。

 

「数は?」

「現在も次々と発生中なので総数不明。最低10以上!」

 

 水中ではそこまでクリアな視界はないので、正確な数をカウントするのはほぼ不可能だし、過小に見積もると油断にも繋がる。

 

 なので、数え切れないほど多く発生しているという事実のみを伝える。

 

「私達はどうすればいい?」

 

 ロープ引き上げ組のエリちゃんから行動指針の確認が来た。

 

「まだロープは切れていないから引き上げを続けて! 祠を海面まで引っ張り上げればこちらの勝ちが確定するから」

「わかった!」

 

 エリちゃんとタルタロスさんにはロープの引き上げを継続してもらう。

 あとはハセベさんが上手く指示を出してくれるだろう。

 

「ウィリーさん、いつものアメーバだ!」

「なるほど、いつもの連中か。それなら何匹来ようと楽勝だ!」

 

 ウィリーさんが手に持っていたライフルを背負いなおして腰のホルスターに入ったままの拳銃に両手を添える。

 

「さあ、射的ゲームの始まりだ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ウィリーさんの二丁拳銃が火を噴くと、次々にアメーバが四散していく。

 

 どうやら身体の中心に浮かんだ球体が本体で、それが破壊されると周りの半透明の粘液部分は制御を失って破壊されるようだ。

 

 ウィリーさんはそれらを的確に射抜いていくことで効率良くアメーバを破壊しているようだった。

 

「いつもの」と言っていたので、同様の敵を相当な数倒した経験が活きているのだろう。

 

「撃ち漏らしはドロシー君に任せる」

「分かった!」

 

 ドロシーちゃんが放った超水圧の水流が残ったアメーバを次々と凪ぎ払っていった。

 

 その中から更に漏れたものをカーターがライフルで射抜いて確実に仕留めていく。

 

「こっちももう仕上げだよ!」

「海の中から出るぞ!」

 

 祠の引き上げの方も佳境を迎えていた。

 

 仕上げとばかりにタルタロスさんがロープを勢いよく引っ張ると、石の祠の頭が水面から顔を出した。

 

「ガーニー君、祠に竜巻を!」

「分かりました!」

 

 ガーネットちゃんが手をかざすと同時に竜巻が祠の真下から突如として発生した。

 

 竜巻は周囲の海水や砂浜の砂を巻き込みながら勢いよく祠を宙高く舞い上げる。

 

 祠はそのまま激しい音を立てて地上に落下した。

 

 流石に落下の衝撃だけで粉々に砕けるようなことはなかったが、祠のあちこちには深い亀裂が走っている。

 

「エリス君とタルタロスさんは速やかに退避を。水辺から離れたタイミングでレルム君は電撃を海中に!」

「準備はいつでも出来ています」

 

 2人が退避したと同時にレルム君が杖をクルクルと回して無駄にカッコイいポーズを取った後に電撃を海中へと放った。

 

 魚人の時と違って何かが浮いてくることはなかったが、海中に残っていたアメーバは今の攻撃であらかた倒されたと予想される。

 

 残るはアメーバや魚人を発生させることもなく、中ボス出現の兆しもないまま不気味に沈黙している祠だけだ。

 

 俺はそろそろと祠に近付いて内部を確認する。

 

 内部には魔法陣らしい図形が描かれていたが、細かい亀裂が無数に走っており、もう機能していないように見えた。

 

 奥の方にはやはり落下の衝撃で砕けてバラバラになった石像のようなものが見えるが、こちらは放置で良いだろう。

 

 念のために短剣で魔法陣を無茶苦茶に引っ掻いて機能しないようにしておく。

 

「もう終わりましたか?」

 

 モリ君が周囲を警戒しながら祠に近付いてきた。

 

「中ボスも魚人も出現しなくて呆気ないけど多分終わり。念のためにこの石を真っ二つに割って貰えると助かる」

「割るだけで良いですか?」

「機能は停止してるし、割っておけば後は自然に波に浚われてバラバラになると思う。こんなことで労力を使うのは勿体ない」

「確かに」

 

 モリ君がスキルで強化した槍を叩きつけると、落下の衝撃で既に亀裂だらけの天然石の祠は特に抵抗なくあっさりと真っ二つに割れた。

 

「こんな楽で良かったんですかね?」

「マサムネさん達が地道に3ヶ月間倒しまくってるのが効いてたんじゃないかな。電池切れ寸前で色々出す余裕がなかったのかもしれない」

「それなら良いですけど」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 俺達はマサムネにモンスターの発生源の破壊が完了したことを伝えに集落に戻ってきた。

 

 マサムネは羽織袴に帯刀、ミリアもローブに長い杖で武装しており、昨日に会った時とは別人のように見える。

 

 最初からその姿で会っていれば、俺達も現地人と勘違いすることはなかっただろう。

 

「発生源の方は片付けました」

「もう終わったのですか?」

「何しろ、こちらは10人がかりですので。あと、予想以上に抵抗が少なかったです。マサムネさん達が毎日敵を倒すことで、エネルギーが少なくなっていたのかもれません」

「そう言ってもらえると、苦労した甲斐があったと思えます」

 

 エネルギー不足は根拠のない仮説の域を出ないが、彼らの努力は報われても良いと思うのでそう信じたい。

 

「おかげさまで、今日は集落の方には一匹も来ていません。もう出現はないと思って良いでしょうか?」

「しばらくは警戒はしておいてください。海の底に隠れて潜んでいる敵がいる可能性は否定できませんし、他の地域からやってきたり、天然物が侵攻してきたりするのは、発生源を叩いても解消しないので」

「はい。こちらも注意はしておきます」

 

 あとはこの集落に住み続けるという2人に任せよう。

 

 俺達は所詮は通りすがりでしかない。

 このまま通りすがっていこう。

 

「では、私達は急ぎますのでこれで。これからも色々と大変なことは多いと思いますが、頑張ってください」

 

 軽く挨拶をして別れを告げる。

 

「待ってください。せめて、ささやかな祝勝会でも」

「本当に申し訳ありません。時間に余裕があれば参加したかったのですが、あまり長居はしていられない事情が有りますので」

 

 最後に帽子を取って、深く礼をした後に振り返らずに車へ戻る。

 

「ラビさん、こういう時は本当に淡白ですね」

「俺はもう現地民にはあまり深く関わらないと決めたからな。あまり深く関わると別れが辛くなる」

「現地民じゃなくて日本人ですけど」

「この世界に残ると決めたらしいから、もうあの2人は現地民だよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「ラヴィ君はいつもあんな感じだから悪く思わないでくれ。彼女は見た目の通りで、しっかりしているようで、まだまだ子供なんだ」

「いえ、急ぎの旅ということは分かっていますので。何か時間制限があるんですよね」

「ああ、気付いていたか……実は一時離脱して別の場所で戦っている仲間がピンチかもしれないんだ」

 

 仲間という言葉にマサムネが反応した。

 

「私達は最初の部屋を出てから、ずっと3人だけで戦ってきました。それが2人になり……それでも誰も助けに来てはくれませんでした。なので、昨日、あなた達に会えてどれだけ嬉しかったか」

 

 マサムネがうなだれたところをハセベが肩を掴んだ。

 

「期待に応えられなくてすまない。だが、これだけは約束しよう。いずれ私は仲間を連れてこの町を訪れる。その時は仲間として受け入れて欲しい」

「えっ? でもハセベさんは日本へ帰るんですよね」

 

 ハセベは何も答えない。

 ただ笑みだけを浮かべている。

 

「家庭を持った君達の本当の戦いはこれから始まるのだろうが、挫けずに頑張ってほしい。私もここで生きていくという君達の決断を否定はしないし、むしろ応援していきたいと思う」

 

 ハセベはマサムネと握手をして、その場を後にした。

 

「お世話になりました。来年あたり、気が向いたら遊びに来てください。今度は子供の顔を見せられると思います」

「ああ、楽しみにしている。また近いうちに会おう」

 

 そうやって話していると、突然にラヴィが車から飛び出して、ペタペタと駆け寄ってきた。

 

 本人としては精一杯急いでいて、しかもかなり速く走っているつもりなのだろうが、全く速くないのが微笑ましい。

 

「忘れてました。この集落って出来たのは最近ですよね」

「えっ? ああ。集落は去年の秋に近くの島から渡ってきた人達が真水を求めて作ったらしい。私達は3ヶ月目なので後から来た形にはなるが」

 

 それを聞いたラヴィは「やっぱり」と言って人差し指を立てた。

 

「このニューオーリンズってアメリカの中で一番ハリケーン……台風の被害が大きいところなんです。だから、今のこの集落の家だと台風に耐えきれずに下手すると全滅します。なので、夏までに必ず家を補強してください。日本海側の海沿いの家のように防風用の壁を立てるのも良いかもしれません」

「……えっ?」

 

 あまりの急な話にマサムネが面食らっている。

 

「川もです。大変だと思いますけど堤防も夏までに補強してください。ミシシッピ川が氾濫すると酷いことになるのは地球の歴史が証明しているので」

「分かった。注意する」

 

 マサムネが答えると、それで満足したのか、また車まで駆けだしていき……途中で急に振り返った。

 

「夏までですよ」

 

 それだけ言うとまたトコトコと靴の音を鳴らしながら車の中へ戻っていった。

 

「見ての通り、変人だけど悪い人間ではないんだ」

「確かにオウカさんとは別人だな。似ても似付かない。気配だけはそっくりなのに」

「不思議なこともあるものだ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 全員が車に乗り込んだことを確認したので、早速出発をする。

 

「それで現在位置は? もう半分は過ぎたのかね?」

「ざっと三分の一ってところです。あと1400kmくらいですね。1日300kmであと5日ペースです」

 

 俺は地図を表示させてハセベさんに答える、

 

「1日ゆとりがあるのか?」

「途中でクロウさん達を拾う時間がありますし、舗装された現代の道を走るんじゃなくて荒野を走るので300km移動できない日も出てくると思います。なので余裕は0ですよ」

 

 なるべく海の近くの平野部を走るつもりだが、未開拓のこの北米では何があるか分からない。

 

 余裕を持たせておくに越したことはない。

 

「ところでクロウさん達はフロリダのどの辺りにいるかご存知ですか?」

「キューバ島から北上してすぐの場所なので今のマイアミ周辺だな」

「フロリダでも東側の一番付け根。紀伊半島に喩えると太地か那智勝浦あたりですね」

「いやいや待て待て。紀伊半島に喩えられても分からん。関東の地図で喩えてくれ」

 

 カーターからややこしい注文が入った。

 

「房総だと鴨川。伊豆だと下田」

「分かった」

 

 今の説明で分かったのか?

 

「クロウさん達なら発生源も見付けて破壊できるんじゃないか?」

「陸にあるならともかく、海中に発生源がある場合は短期間で探すのは無理じゃないかと思います。実際ビーコン信号は健在なので」

「まあこればっかりは戦闘力や洞察力でどうにかなる話じゃないか」

 

 ウィリーさんも納得したようだ。

 

「ここから先は特に引っかかるところもないですし、なるべく急いで行きましょう」

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