帽子とローブで隠しているものの、やはり全身が光っているか、あちこちから奇異の目で見られている。
だが、細かいことを気にするのはやめた。
ここは様々な人種や国の人間が集まる交易都市だ。
たまたま光る人間が1人くらいいてもおかしくないだろう。
……いや、いねぇよ、全身が虹色に発光するゲーミング魔女なんて。
フォルテたちやアデレイドたちのチームは待ち合わせ場所に既に集まっていた。
「すみません、遅れてしまいました」
「お互い大変だったのは同じだよ。気にしなくていい」
フォルテたちにそう言ってもらえると助かる。
見たところ、全員、大きな怪我などはない。
モリ君やレフティが回復系の能力を持っているので、それで傷が癒えた可能性もあるが。
ただ、俺たちやアデレイドたちのチームは全員が泥まみれだ。
全員の装備品が魚人のものと思われる汚い返り血や、砂や泥で汚れており、しかも湿っている。
髪も海水なのか汗なのか、じっとり濡れている。
ほぼ1日中戦っていたからか、顔にも疲労の色が見られる。
海辺で延々と戦闘を続けていたからだろう。
洗濯と風呂に行って服と体の泥を流したいところだ。
それでも、まずは報告会が先だ。
各チームで何があったのかを簡単に報告し合った。
魚人の巣に向かったアデレイドたちは、とにかく数が多く、しかもあちこち逃げ回るので時間がかかったようだ。
全て片付けたのは、俺たちが町に戻ってきたのと、さほど変わらないタイミングだったようだ。
「倒すには倒したんですけど、見てもらえますか?」
モリ君がテーブルの上に置いたのは「R」の刻印が施された銅色のメダルだった。
しかも2枚だ。
「このメダルは敵を倒しているうちに出てきたものです。明らかに倒した数の方が多かったんですが、出たのは2枚だけでした」
「何体くらい敵を倒したんだ?」
「全員で20は超えていると思います。途中で数えるのをやめましたが」
「メダルの発生は基準が分からないな。出たり出なかったり」
俺も小さな湾で手に入れた「SR」の刻印が入った銀色のメダルをテーブルの上に置いた。
「こいつは魚人たちを召喚する祠を守るボスキャラらしき敵を倒したら出現したものだ。多分」
「なんで曖昧な言い方なんですか?」
「ボスを倒した後に、ドロシーちゃんが潮干狩りをしている最中に偶然見つけたものだからだよ。なので、ボスキャラとは無関係の可能性もある」
「召喚者本人を捕まえたんだが、その所持品に同じものがあった」
フォルテがやはりその隣に置いたのは「R」の刻印の銅色のメダルが2枚だ。
「犯人は最近に潰れた商会の主だった。動機は逆恨み。持っていた船を全て失ったせいで、今も健在で商売を続けられている他の商会を恨んでいたらしい」
「船を失ったというのは、事故か何かですか?」
「この町も別の世界から、この世界に飛んできたんだよ」
カーターがフォルテの代わりに話し始めた。
「多分、商会の船が出払っている最中に、町だけがこの世界に飛んできて、船主である商会だけが取り残されたんだろう」
「カーターさんの言うとおりだ。この町では大異変と呼んでいたが、3年ほど前にこの港町がこの場所に飛ばされてきたらしい」
「また3年前ですか」
異変は本当にあちこちで起こっているようだ。
魚人騒ぎとは別途調査する必要があるかもしれない。
「商会主は魚人たちを召喚するための魔術を教わって、それで他の商会の船を襲うなどしていたようだ」
「教わったというのは誰から?」
「それは今後の調査次第だろうけど、教えた本人がこの町にいるのかどうかは……」
それは期待薄だろう。
もしも運営の関係者ならば、撤退時にこの世界から去っている可能性は高い。
少なくとも、この町に留まり続けている理由はなさそうだ。
「このメダルは、商会主が召喚の儀式の要だと言っていたので、術を使わせないように没収してきたものだ」
「メダルからは魔力を感じません。証言だと、初回に喚び出した魔物が死んだ時のみ出現するものということでしたが……」
スーリアがテーブルの上に置かれた銅のメダルを1枚摘まみ上げて言った。
魔術的な知識や技術では、このメダルの解明はできなかったのだろう。
その上で、俺たちがある程度の事情に精通していると考えて、質問の意味で聞いてきているのだと思う。
死んだときのみというのは分かる。
俺たちの仲間……この世界に召喚された日本人が死ぬ時にもメダルが出現するからだ。
モンスターも同様の理屈だと思うが、初回のみというのが分からない。
「オレたちは勘違いしていたのかもしれないな」
カーターが顎に手を当てて眉間にしわを寄せながら言った。
「オレたちが召喚の魔法陣だと思っていたものは、実はコピーだったのかもしれない」
「どういう意味だ、説明してくれ」
「運営が異世界から喚び出した生物には運営が何らかのエネルギーを与えている。だから死ぬとメダルを放出する」
「じゃあコピーというのは?」
「文字通り複製だよ。最初に喚び出したやつをひたすらコピーする。以降は魂を持たない複製品なのでメダルは出ない」
今まで入手してきたメダルの出所を思い出す。
ワイバーン、オウカちゃん、襲撃者の戦士、低予算モンスター、遺跡のボス、
カーターの言うとおり、初回だけはメダルが出現したが、以降は出てきていない。
魂を持たない複製品という言葉を聞いて、無意識に子供たちやクリスさん、マークさんに目が向く。
運営が生物を複製する技術を持っているのは分かっている。
コピーと召喚、どちらの方がコストが掛かるのかは不明ではあるが、別の世界から生物を喚びだすよりは、複製品を作る方が技術的には簡単なのかもしれない。
「まあ、確証はない。このメダルにどんな技術が使われているのかも分からないからな」
「ありがとうございます。とりあえず、被召喚物のエネルギーが関係しているというのがヒントになるかもしれません。このメダルはいただいてもいいですか?」
スーリアは未知の技術で作られているメダルに興味があるようだ。
俺としては断る理由はない。
むしろ、メダルを調査することで、魔術的なことや、次元の異常に対する知識が手に入るならば積極的に活用してほしいところだ。
それでも俺の一存では決められない。
リーダーに確認してみよう。
「モリ君的にはどう思う?」
「研究も大切ですけど、ランクアップでの回復のためにはメダルを一式持っておきたいところです」
モリ君は俺たちが入手した銀のメダルと、アデレイドたちのチームで入手した銅のメダル2枚を手前に引き寄せた。
「この3枚は俺たちの取り分、フォルテたちの取り分はその2枚ということでどうだろう?」
「モーリスの言う通りでいいと思う。換金もできそうにないし、下手に一か所に集めておくと、また悪用されそうでもある」
「できれば銅と銀の2色ある方がありがたいですが、今は2枚で十分かな」
フォルテとスーリアもその配分で納得してくれたようだ。
「それで、討伐報酬の分割の話なんだが……」
フォルテが申し訳なさそうに言った。
彼らはそれで生計を立てているプロなので、もちろん報酬額は重要な問題だろう。
換金できず金銭的価値はないメダルとは話が異なる。
「サルナスの時と同じくチーム割りでいいんじゃないか? フォルテたち、アデレイドたち、俺たちで」
モリ君が俺たちの方を見た。
頭割りでは俺たちの数が圧倒的に多いので、人数割りすると、フォルテたちやアデレイドたちに報酬がほぼ入らなくなってしまう。
若干不公平ではあるが、金が必要なのは、俺たちよりもそれで生計を立てているフォルテたちの方だ。
「10等分にして3、3、4にするのはどうだね? 人数だと我々が圧倒的に多いし、何もしていないというわけでもない」
ここでハセベさんが意見を述べた。
「不公平感が少ないのはその分け方だろう。人数が多いチームの報酬は少し多い。だけど、他は理不尽に少ないというわけでもない」
カーターがハセベさんの側についた。
どうしても俺が金の計算をすると「いいよいいよ」と全額渡してしまいがちだ。
こういう時の金の計算は、カーターに動いてもらえる方が助かる。
「3、3、3で分けるよりは計算はしやすいか。それで不公平感も減るならこちらとしては問題ない」
「ラヴィのところはそれでいいの?」
アデレイドは若干納得がいっていないようだが、カーターとハセベさんが10等分の4でいいと言っているならば、俺が反対する意味はない。
「最終的にはリーダー判断だよ。モリ君もそれでOK?」
「ハセベさんたちが納得しているならば、それでいいと思います」
リーダーの判断が出たので報酬の分け前も決まった。
フォルテ、アデレイド、モリ君のリーダー3人が手を合わせて、報告会は完了だ。
「この後はどうする?」
「風呂……と行きたいところだけど、まずはメシだな」
モリ君とフォルテが拳を突き合わせて、そのままテーブルに突っ伏した。
2人とも疲労がかなり限界のようだ。
「今回もお互いによく頑張ったよ」
「ああ、もう軽く何か食べて、風呂に入ってさっさと寝よう」
他の面々も
事件の報告会が終わったことで、一気に気が抜けたようだ。
「今日はさすがに疲れたかな。ずっと動きっぱなしだったし」
いつも元気なエリちゃんが弱音を吐いた。
朝からの耐久レースは余程辛かったのだろう。
「汗でドロドロみたいだし先に風呂にする? それとも食事?」
「それともわ・た・し?」
カーターが余計な茶々を入れて来たのでデコピンを入れると、わざとらしくのたうち回り始めた。
面白いのでこのまま放置していよう。
「ついでと言っては何ですが、フォルテさんたちの汚れた服も、夜の間に洗濯させていただきますよ。元々大所帯なので、洗うなら少々人数が増えても同じなので」
「さすがに悪いよ……と言いたいところだが、ご厚意に甘えさせていただこうかな。みんなもそれでいいな」
「あの、ラヴィさん……私の分は?」
「スーリアさんの分は他の女性陣の洗い物と一緒にするから大丈夫ですよ」
俺が説明するとスーリアは顔を輝かせた後に俺の耳元に顔を近づけて来た。
「ちょっと男連中には見せられなくて、洗う機会を逃して貯めてる分があるんだけど、それも洗ってもらえると助かる」
「気持ちは分かるので、それも綺麗にしておきますよ」
小声で返すと、スーリアが俺の手を取って飛び上がって喜んでくれた。
それは良いのだが、少し離れた位置からフォルテさんとカーターが何やら真剣な顔をしながらこちらを見ているのが気になる。
「良いな。実に良い。白黒反転なのもバランスが取れていて実に良い」
「確かに良い。この良さが分かる人に会えるとは僕も嬉しいです。単体だと物足りないものが2つ揃って補われる美しさ……僕はこの光景を忘れません」
「ああ。オレ達は同志だ!」
意味不明なことを語った後に2人は抱き合ってお互いの背中を叩き合った。
何の儀式なのか意味が分からないが、ろくでもないことを考えているのは分かる。
「なんなの君たち」
◆ ◆ ◆
軽く食事を済ませた後に、全員で風呂屋に向かう。
大きな港町であり、港湾労働者や旅人が多く行きかうだけあって、共同浴場もしっかり存在しているようだ。
ゆっくりと風呂に入る機会はあまりないので、助かる。
全員疲労が溜まっているためか、どことなくゾンビの群れのようだ。
「このまま寝ちゃ駄目かな?」
「それはない。ちゃんと風呂に入ってよね」
フラフラと足元がおぼつかないモリ君をエリちゃんが強引に男風呂へ押し込んだ。
その後にハセベさんたち男性陣が続く。
「ワシらはどうするかの」
「せっかくだから入ってきてください。全員分の着替えは持ってきているので。レルム君をお願いしますね」
「ああ、任せろ」
最後にタルタロスさんがレルム君を連れて男風呂へと入っていった。
「それでなんでお前は風呂に行かないの?」
腕組みをしたまま入り口で立って動こうとしないカーターに呼び掛けた。
「いや、お前がどっちの風呂に行くつもりなのかなって気になって?」
「女風呂に行くけど何か?」
「オッサンなのに?」
「3か月間、14歳の少女やってますけど何か? あとお前より5歳は年下だからオッサン呼ばわりはされたくない」
それを聞くとカーターは「後で詳細な報告書を頼む」と言い残して男風呂へと向かっていった。
何の報告書だよ。
「じゃあ私も寝るから」
「あたしも」
「私も寝ます」
「みんなまだ寝るな。風呂に入るまで我慢するんだ」
仕方なく俺とアデレイドでエリちゃん、ガーネットちゃん、スーリア、エヴァニアの4人を女風呂へと運ぶ。
ドロシーちゃんは1人で走って風呂に行ってくれるので助かる。
全員の服を脱がせて、身体を一通り洗わせる。
そして湯船に浸けたところで、ようやくまともな会話が成立するまで回復してくれた。
「ラビちゃんはこの後はどうするの?」
「ドロシーちゃんを連れて一度車に戻るよ。そこで水を出してもらったら、あとは洗濯。装甲車の中はエアコンが使えるし、すぐに乾くと思う」
「迷惑をかけるけどよろしくね。ところでガーネットちゃんがそこで浮かんでるんだけど」
見るとガーネットちゃんとスーリアの2人が浴槽にうつ伏せになって浮いていた。
なぜか「つづく」の文字が右下に見えた。
遊んでいるようには見えない。
「まだ寝るな。ここで寝たら死ぬぞ!」
「はい、まだ寝ません」
「寝てませんよ。少し浮いていただけです」
「2人とも寝てたよ! 普通は風呂で浮いたりしないんだよ!」
風呂から上がり、ドロシーちゃんを拭いて髪をブラシでとかしていると、4人から声がかかった。
「それじゃあ今晩はこれで寝るので、あとはよろしく」
「ラヴィさんも無理しないでくださいね」
「ああ、こちらはうまくやるよ」
洗濯籠に積み上げられた洗濯物の山を掴んで袋に入れて女風呂を出る。
出口には山のような荷物を持ったタルタロスさん、そしてカーターが風呂屋の前に立っていた。
「他の男性陣は?」
「もう風呂から出て宿に向かったよ。残っているのは荷物持ちのワシとカーターさんの2人だけじゃ」
「申し訳ありません、タルタロスさん、もうひと働きお願いしてもいいですか?」
俺は抱えこんだ洗濯物の山を見せた。
タルタロスさんは特に嫌がることもなく、軽々と山のような洗濯物を抱えた。
「ところでカーターはなんで残ってるの?」
「女子が風呂場で何をしていたのか、そこが知りたかったんだが。キャハハウフフとかあった?」
カーターがアホなことを大真面目な表情で言ってきた。
「浮かんでた」
「何が?」
「あと、俺だからセーフだけど、他の女子に言ったらセクハラで一発アウトだからな」
「だからこそお前に聞いたんだが」
「今の発言は聞かなかったことにするので、お前も早く宿に行って寝ろよ」
◆ ◆ ◆
「ドロシーちゃんは寝る前にこの樽の中に水を満タン入れてね。それだけやったら後は寝ていていいから」
「わかった。もう寝る」
ドロシーちゃんが樽一杯に水を満たすと、そのまま眠ってしまった。
昼間頑張ってくれたし、疲れも溜まっていたのだろう。
「では、ドロシーちゃんを宿までお願いします」
「ああ分かった。ラヴィさんも無理はせずに」
タルタロスさんにドロシーちゃんを託した後は、ひたすら洗濯だ。
まず、召喚した鳥を一度水洗いして臭いを落とす。
男性陣の洗濯物と石鹸と水と鳥を入れて、あとはひたすら鳥を回転させると、全自動洗濯機の爆誕だ。
鳥の精密コントロールの練習にもなるので一石二鳥だ。
石はないし鳥は1羽だけだが、ともかく一石二鳥だ。
その間に女性陣の洗濯物を手洗いで洗っていく。
差別ではない。
女性陣の服の方が生地が弱いので手洗いしないとボロボロになる。これはただの区別。区別なのだ。
溜め込んでいたというスーリアの下着や肌着も別洗いでしっかりと汚れを落としておく。
洗濯とすすぎが済んだら、エアコンを全開で効かせた装甲車の中に持ち込んで水分を飛ばして乾燥させれば完了。
最後は残った水で金属鎧をブラシで磨いた後に水気を拭い、やはり装甲車の中に入れておく。
やはり洗濯をすると気持ちが良い。
気分が晴れる。
装甲車内部のモニターで時計を確認すると時間は既に22時になっていた。
この時間から宿に戻るのも迷惑そうなので、装甲車の中で車中泊でもするか……と思ったところで、それは不可能であることに気付いた。
「車内は洗濯物で埋め尽くされてるから俺が寝るスペースがない……」
車内は洗濯物を乾燥させるためにエアコンを効かせすぎて寒い。
身体が芯まで冷えて辛い。
だが、外に出て1人でテントを張って、ぼっちキャンプするのも不用心にも程がある。
仕方ないので運転席で毛布にくるまって、改めて今後の地図を確認する。
この町の滞在は1日のはずが、2日になってしまった。
プロトコル333の期限のことを考えると、残り日数は少ない。
少し多めに進むプランを考えないといけない。
「とりあえず、ニューオーリンズ周辺まで行きたいところだけど、実質上はヒューストンが限界か」
メキシコ湾沿いの地図を見てルートを考えていく。
ミシシッピ渡河を考えると、その手前までは進んでおきたいところだ。
「そういえば無線の信号はどうなった? ビーコン信号はもう出ていないと思うけど」
小さい湾にあった祠は既に破壊した。
もう信号が出ていないと考えるのが自然ではある。
無線機能を有効にすると、はっきりと聞こえる信号音は消えていた。
ただ、ノイズに混じって、小さく信号音が聞こえる。
無線の方角は北東部から発せられているようだ。
ニューオーリンズの地図を表示させると、湿地帯なのか海岸線がうねり回っていた。
この中から小さい祠1つを探すことを考えると既に頭が痛い。
ここと同じように2日を取られると残り日数が厳しい。
最悪は何人かをニューオーリンズに置いて残りのメンバーで出発、後で回収コースになるだろう。
そうなるとすると、誰を残すべきなのか……。