収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 16 「ケープ・カナベラルへ」

 俺とハセベさん、カーターの3人で施設内を歩く。

 

 壁も床も部屋もコンクリ打ちっぱなしの簡素なもので、天井は鉄骨がむき出しのままである。

 

 年中が常夏のフロリダでは防寒のための断熱材など不要なのはわかるが、それを差し引いても建物に金をかけていないのが分かる。

 

 施設内には何か所か部屋があるのだが、そこにあったのか空っぽの棚、空っぽの机。

 

 最低限の家具以外は何一つ残されていなかった。

 書類の一つでもあれば、調べようがあるが、これでは何も分からない。

 

 俺達がゲームマスターを倒したタイミングでこの施設は完全に投棄され、資料の類は全て持ち去られたのだろう。

 

「何も成果がなければ途中で切り上げることにしよう」

「そうですね」

 

 しばらく通路を歩くと、突然に鉄格子によって行く手を阻まれた。

 

 鉄格子には重そうな鉄の扉が付いており、そこからしか出入り出来ないようだ。

 

「まるで刑務所か収容所だな」

 

 カーターがぼそりと呟いた。

 

「その場合、誰が誰を捕まえるんだよ」

「この世界だと運営が……召喚したけど刃向かってきた連中とか現地人とか?」

「それも、この先を調べればすぐに分かるだろう」

 

 ハセベさんはそう言って鉄の扉のノブに手をかける。

 

「鍵はかかっていないようだな。引くだけで簡単に開く」

「俺達が中に入ったら勝手に鍵がかかって閉じ込められるとかないですよね」

「確かに。念のため壊しておくか」

 

 ハセベさんが刀を振るうと、扉の一部がまるで竹でも切ったかのように綺麗に切断された。

 

 確かにこれならば、扉が勝手にロックされるようなことはないだろう。

 

 通路の先に一歩また一歩と足を踏み入れた。

 換気が悪いのかかなり湿気臭いが、温度は暑すぎず寒すぎずで一応は配慮されているようだ。

 

 中にはやはり重い鉄扉がいくつも並んでいる。

 

 扉にはのぞき窓が付いていたので、つま先立ちをして中の様子を見ると、トイレと簡素なベッドがあるだけの狭い独房のようだった。

 

 ただ、ここの中だけは壁紙が張ってあったり、床材に樹脂のシートのようなものが敷かれていたりとそれなりには配慮はされているようだ。

 

「鍵は全部開いているな。ドアは全部開くぞ」

 

 カーターが俺が覗いている隣の部屋のドアを開閉していたので、そちらに移動して部屋の内部を確認する。

 

「中はそれなりに綺麗だな。一人暮らしの大学生の部屋よりは綺麗だぞ」

「というより未使用って感じだな。誰もここに収容されていなくて作ったままの状態というか」

「そんなことよりこの水道はまだ生きてるぞ」

 

 カーターがトイレの横についていた蛇口の栓をひねると、そこから水が流れ出した。

 怖いもの知らずなのか、その水に指を付けて舐めている。

 

「カビ臭いが一応は蒸留された水だ」

「臭いは長い間放置されていたからだろう。出しっぱなしにしていればそのうち臭いは消えるはずだ。多分」

 

 カーターは興味なしという顔で栓を閉めて水を止める。

 室内にはそれ以外何も残されていないので、調査のしようがない。

 

「ラヴィ君、生体センサーの検知では人間はもういないはずだな」

「はい。ただ他の生物はあと9体はいるはずなので、もしかしたら敵が潜んでいるかもしれません。注意して進みましょう」

「ああ」

 

 もしや独房から出られずに獄死した遺体が……という事態も想定していたのだが、そんなことは一切なく、どの部屋も空で誰もいなかった。

 

 湿気臭いのは鬱陶しいので、独房のあったエリアから外に出る。

 

「ここは収容所で確定だと思うが、その場合はあの2人は何だったのか?」

「もしかしたらここに捕まっていたのかもしれません。そして、運営がこの世界から撤退したタイミングで解放されたというなら説明は付きます」

「そうなると、あの魚人を操っていたのは?」

「未知の方法で魚人を召喚するあの祠を引き上げて、未知の方法で魚人達を操り、その力で近くの町を襲った……ですかね」

 

 さすがに情報がなさすぎて「未知の方法」という仮定で進めるしかない。

 

 だが、これはクロウさん達が捕縛して町へ運んでいる当人から話を聞けば良いだろう。

 

「あとは生体反応残り9の謎だが」

「もしかしてあれか?」

 

 カーターが指差す方向を見ると、施設内に池のようなものがあり、そこにワニがたむろしていた。

 

「8匹いるから、検知したのはあれか?」

「迷惑な連中だな」

「そうなると、反応が1足りないのだが……」

 

 少し考えて気付いた。

 

「クロウさんが乗ってきた牛車を牽いていた牛だ。あいつを入れたらカウントが合う」

「あの入り口に居た牛か。確かにあの存在を忘れていた」

 

 これで辻褄はあった。町に戻るとしよう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 マイアミの町に戻り、近くの建物を借りて早速捕まえた2人の尋問を開始した。

 傷はモリ君のヒールで最低限は回復させているので、傷が元で死ぬということはないはずだ。

 

「名前はアルフとティナ。どちらも日本人で間違いないな」

 

 クロウさんが2人にカードを見せる。

 

「ああ、間違いない。あんたらも日本人か?」

「そうだ」

「なら助けてくれよ。仕方なかったんだ!」

「何が仕方がないだ。魚人達を操って町を襲っておいて」

「だって当然だろう。俺達を長い間拘束しておいて、嘲笑っていた連中なんだぞ!」

 

 どうやら完全に勘違いをしているようだ。

 

 アルフとティナの2人があの運営の拘置所に拘束されていたことは間違いないだろう。

 

 それが急に解放されたので、このマイアミの町の住民を運営の仲間と勘違いして逆恨みで魚人を率いて襲ったら、クロウさん達に返り討ちにされたと。

 

 尋問を続けると、ほぼ予想通りの内容だった。

 

 こちらから運営と俺達の関係について詳しく説明すると、聞く耳を持たずと言った顔がだんだんと青くなっていた。

 

 自分達のやらかしたことの大きさにようやく気付いたのだろう。

 

 運営に拘束されていたということについては同情の余地はあるが、町を襲撃したことについては全く話は別だ。

 

「解放された時点で町に助けを求めれば良かったのに。そうすれば町の人達も、オレ達も仲間として受けれいたというのに」

「でも……そんなことは……」

 

 何やら言い訳をしようとしていたが、もう何を言っても無駄と分かったのか、そのまま黙ってしまった。

 

「最後に私から1つ確認させていただいてよろしいでしょうか?」

 

 俺は挙手してクロウさんに話かける。

 

「ああ。なんだい?」

「ここから西の方に小さな漁村があります。そこに妖蛆(ユッグ)をけしかけたのは貴方達ですか?」

「ユッグ?」

「牛くらいの大きさの蛆虫です。全身が青白くて粘液に覆われた」

 

 流石にユッグを操りあの漁村を全滅させたとなると、情状酌量の余地はなくなる。

 

 今のところマイアミの町では死者は出ていないが、死者が出たとなると、それなりの対応が必要になってくる。

 

「それは知らない。俺達が襲撃したのはこの町が最初だ。それに出てきたのは魚人だけだ」

「嘘じゃないですよね。もし嘘ならば……」

「本当だ。信じてくれ」

 

 一応その場しのぎの嘘ではないように思える。

 

 実際、あの収容所でユッグは現れなかったので、別件と考えても良いだろう。

 

 ただ、それが正しいと、ますますゾス=オムオグが復活しているという可能性が増してくる。

 

「オレ達からの確認事項は終わりだ。あとはお前達が傷つけた町の人達からのキツい尋問が待っている」

 

 2人は拘束されたまま、町の自警団に連れられて行った。

 

「彼らはどうなるんでしょうか?」

「流石に同情の余地がなくはないし、日本人同士でもある。一応オレからは話をしてみるつもりなので、極刑にはならないだろうが、罰としてタダ同様の低賃金で重労働を科せられるのは免れないとは思う」

 

 まあ罪に対しての罰としてはそれなりの落としどころだとは思う。

 

「まあいきなりバタバタしたが、これで一段落だ。そして、改めて言わせてもらおう。また会えて良かった。おかえりハセベさん」

「こちらも、もしかしたら君達とは今生の別れだと思っていたので、まさか再会できるとは思わなかった。ただいまクロウさん」

 

 ハセベさんとクロウさんは抱き合ってお互いの再会を祝した。

 

「ラヴィさんもお久しぶり」

「改めてですがお久しぶりです。この度はいきなりバタバタして申し訳ありません」

「いやいやそんなことはない。思っていたよりも魚人の数が多くて苦戦していたので助かったよ」

 

 こちらもさすがに抱き合うまでは行かないが、握手で再会を祝した。

 

「それで、なんでこのマイアミの町に?」

「それですが、少し急ぎの用事があります。実は――」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「運営の拠点の基地、カナベラル基地か」

「はい。あと4日の間に基地内に入って、何かの装置をリセットしないと何かが起こるはずです。その何かまでは情報不足のために分からないのですが」

 

 クロウさんに粗方の事情を説明した。

 

「ならば、今晩0時に実際のその音声を聞かせて欲しい。その上で、明日朝にカナベラル基地に捜索へ向かおう」

「ありがとうございます」

 

 これでクロウさん達も協力してくれるということだろう。

 

 仲間の数は13人。さすがに全員で襲撃をかけるのは多すぎるので絞り込むことになるだろうが。

 

「運営があの収容所と同じように拠点を引き払って無人ならば、戦闘はないとは思うが、念のために最低限の戦力は確保した方が良いだろう。その上で人数は……5人だな」

「そのくらいが良いですね。あまり多すぎると大変ですし」

「その上で絞り込むと、誰は必須だと思う?」

 

 少し考える。

 

「別の運営の拠点であるエリア51に行った経験のあり、装甲車を運転できる私と、運営の情報を色々と知っているカーターの2人は外せないと思います」

 

 人数を絞るとなるとこうなるだろう。

 

 モリ君は町の炊き出し要員として残ってもらいたいし、子供達を連れてはいけないのでこうなる。

 

「ならば残りは戦闘担当としてオレと……ハセベさん、頼めるか」

「承知した。任せて欲しい」

「あと1人は回復、防御スキルを使えるサポートとしてマリアさん」

「はい、任せてください」

 

 この5人で決まりのようだ。

 

 後ろの方でレオナさんが「なんで私じゃなくあの小娘を」とブツブツ呟いていたり、カーターが「いやオレ何も知らないんだけど」と絶望的なことを言っていたりするが、変えられたとしても、せいぜいマリアOUTモリ君INで、カーターが外れることはない。

 

 諦めて欲しい。

 

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