収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 17 「ダゴン」

 右手に大西洋の海を望みながらマイアミの町を北上してカナベラル基地へと向かう。

 

 距離はそれなりにはあるが、この車の速度ならば3時間もあれば到着できるだろう。

 

「しかしいませんね」

「何がいないんだ?」

「オレはアポロ11号だとか言いながらスカイフィッシュを飛ばしてくる人とかアニメのキャラクターが実体化させてくる敵とか」

「寝ぼけているのか君は?」

 

 スカイフィッシュは出て来そうだったのになと思いながら車を進める。

 

 カナベラル基地がある岬へは北のほうが陸続きに成っているのでそこから回り込めそうだ。

 

 8輪の装甲車は少しくらいの湿地ならばスタックせず走ることが出来るので問題ないだろう。

 

 ここからどうやって運営の基地を探すかと思っていると、カーターがクロウさんと地図を見ながら何やら話し合いを始めた。

 

「何を揉めているんだ?」

「行く場所だよ。オレはこのケネディ宇宙センターの方が怪しいと思うんだけど」

「いや、こちらの空軍基地の方じゃないか?」

 

 2人は現在の地球の地図を見ながら話をしている。

 

 もちろん、この世界の地図とは違うので、どちらの施設も存在はしていないのだが。

 

「マンガで見た時はもっと狭い地域だと思ったのに、意外と広いんですね、ここって」

「そうなんだよ。ここのどこかに基地があるのかしらみつぶしに探すとなると、時間がかかりすぎるので、なるべく時間は短縮したい」

 

 もっと狭い地域に施設が密集していると思ったら、意外と広い。

 

 飛行機が離発着するための滑走路がいくつもあるとなると、当然の話ではあるのだが、確かにこの広い中から小さい運営の基地を探すなると骨だ。

 

 時間制限もあるので、あまりここで時間を掛けてはいられないのは事実だ。

 

「前に見た運営の拠点には高い塔があって、そこへ何かの力を送るための巨大な魔法陣がありました」

「高い電波塔があれば一目でわかるはずだが」

「さすがにもう少し近付かないと分からなんじゃないかと」

 

 さすがに今のままだと話が堂々巡りだ。

 

 早めに決断をしないことにはどんどん時間だけが無駄に消費されていく。

 

「この装甲車は一応は運営の装備なので、無線で呼びかければ何かしらの反応があるかもしれません。もし反応があれば、その電波発信源の方向へ向かえば」

「なるほど、それを試してみるか。カーターさん、頼む」

「無線の呼び出しは多分これ」

 

 運転席にもたれかかり、システムメニューを呼び出して「radio」と表記されている機能を有効にする。

 

「なんて言えばいい?」

「どうせコールサインも何も分からないんだし、Hello CQ!とでも繰り返しておけ」

 

 俺が言うとカーターが言われた通りの文言を繰り返し呼びかける。

 

「反応はあるかな?」

「分かりません。あればラッキーくらいのことなので」

 

 しばらく呼びかけると「ガッ」とノイズのような音が一瞬入った。

 

 こちらの呼びかけの反応ではないかもしれないが、ノイズの発生源がわかれば、何かの目安になる。

 

 何回か続けると、こちらの呼びかけに対して何回かノイズが走ることが分かった。

 

 意味のある音声は一切返ってこないが、これはこれで収穫だ。

 

「大西洋側……空軍基地の方ですね。そちらの方向から何かの電波が出ました」

「今のは応答なのか?」

「さあ? ただ、電波を発生する何かの装置があるのはそちらの方向ということです」

 

 どの道、情報などないのだから、出来ることを総当たりで試していくしかないのだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 海岸線沿いをしばらく走ると、突然に舗装路が現れた。

 

 更に、舗装路の脇に何やら赤い光が点滅している。

 この光が誘導する通りに進めということだろうか。

 

「この光って罠だと思うか?」

「この装甲車は元は運営の物だから、本当に誘導されているんだと思う。無理に突破しようとしてセキュリティか何かに引っかかって敵が出現しても面倒だし、このまま進もう」

「了解。敵が出たらその時にまた対応を考えよう」

 

 誘導灯通りに進むと、地面に円形の線が刻まれた場所へ着いた。

 

 周辺には何の建物も見当たらないようだが、誘導灯は、明らかにその円の中へ入れと促しているように点滅を繰り返していた。

 

「ここが基地なのか?」

「立体駐車場のエレベーターなのかもしれない。まずはその円の中に駐車を」

「毒食らわば皿までってか」

 

 円の内部に車を停車させると、円の周囲に取り付けられた誘導灯が点滅を繰り返し始めた。

 

 そして、何かの機械がひそやかに動き始め、車はその円形のプレートごとゆっくりと地下へと降りていく。

 

 薄暗い照明がエレベーターの内壁に反射し、わずかな揺れとともに地下の世界が広がり始める。

 

 上から響いてくるかすかな機械音だけが、現実と非現実の境界を曖昧にしているかのようだ。

 

 エレベーターが地下階に到達すると、再度誘導灯が点滅した。

 

 光の先には武骨なコンクリ造りの駐車場のようなスペースが広がっている。

 

「この先に停めて良いものやら」

「でも、停めるしかないだろう」

 

 カーターの運転で車は駐車場内部へ進むと、再度大きな機械音が響き、今まで乗っていた円形のプレートが再度地上へと上がっていった。

 

「閉じ込められたか?」

「帰る時には流石にエレベーターは戻ってくるだろう」

 

 指定されたスペースに車を停める。

 

 薄暗い照明が照らす駐車場内には他の車は一切停車しておらず、俺達の車だけが停まっている状態だ。

 

 少し離れた壁際に「EXIT」の文字が書かれているのが見える。

 

「さて、ここからが本番だな」

 

 まずは車の機能でスキャンを行うが、いきなりエラーメッセージが表示されて何も分からないまま終了した。

 

 基地内部はさすがにセキュリティか何かで、センサーのスキャン機能を使えないように設定されているのだろう。

 

 ハッチを開いて全員で車から降りて駐車場内に出る。

 

 出てすぐに警戒のサイレンが鳴り響くということはないようで、胸をなでおろした。

 

 EXITと書かれた方へ進んでいくと、その先に金属製の扉が取り付けられていた。

 すぐ横には何やら液晶が付いた電子ロックのようなものが取り付けられている。

 

「これは対応を間違えると侵入者として警報がガンガン鳴りそうだな。どうする?」

「扉はおそらく私が切断できるが……ラヴィ君、何か良い方法はあるかね?」

「まずはこの電子ロックの構造を確認しましょう」

 

 液晶に触れると「retina authentication」の文字と十字のマークが浮かび上がってくる。

 

 下部にはそこに手を置けとばかりの人間の手のひらの絵が描かれている。

 液晶部分が網膜認証ならば、こちらは指紋認証か?

 

「またこれか。カーター、任せたぞ」

「はいはい。それにしてもあいつらのセキュリティってガバガバなんだな」

 

 初見であろうクロウさんとマリアさんはポカンとしていたが、すぐに我に返って内部へと侵入していく。

 俺達もそれに続く。

 

 奥には長く伸びる通路が見え、その先にうっすらと光が射している。

 

 見慣れないコードが壁に描かれているが、意味が分からないのでここは無視だ。

 

 監視カメラの動作はしているようだが、何の反応も示さない。

 やはりこの基地も放棄されて既に無人なのだろう。

 

 構造自体はエリア51にあった基地と酷似しているようだ。

 

 記憶を頼りに通路を進むと、前方からガシャンガシャンと大きな金属音を立てて何かが歩いてくるのが見えた。

 

 頭部は人間の頭蓋骨のようで、胴体は赤銅色の金属鎧のようなものを身に纏っている。

 以前にも見た覚えがある低予算SF映画に出て来そうな謎のモンスターだ。

 

 数は2体。

 

「お願いします!」

「心得た!」

 

 ハセベさんとクロウさんが飛び出し、瞬く間にそれぞれ一体ずつを切り伏せた。

 

「これは私達を排除しに現れたのか?」

「その割には数が少ないので、巡回してるだけじゃないですかね。ただ、これから大量に発生する可能性もあるので注意して進みましょう」

 

 破壊した低予算モンスターの残骸は適当な部屋に投げ込んでおく。

 

 更に通路を進むと「OrderRoom」と記された部屋に辿り着いた。

 

 そこにも電子ロックがかかっていたが、やはりカーターの網膜&指紋スキャンを試すと、なんなく突破できた。

 

 さすがに電子ロックが施された部屋の中に敵は入ってこないとは思うが、念のために内部からロックだけはしておく。

 

 中には中央の大型のモニターが設置されており、壁際に複数のコンソールが取り付けられている監視ルームのような場所だった。

 

 実際、基地内の防犯カメラの映像なども映し出されている。

 

 そのうち一つのモニターだけが点灯していた。

 

 画面には4時間のカウントダウンが表示されていた。

 

 これがプロトコル333とやらのカウントダウンなのだろう。

 

「多分、このコンソールを操作すればリセットが出来ると思うけど」

 

 あからさまにカバーが付けられたボタンがあったので、カバーを外して押してみると、読めない文字で何か書いてあるダイアログがポップアップしてきた。

 どうやら操作の確認画面なのだろう。

 

「『本当に解除して良いですか?』と聞いているみたいですけど」

「もちろん解除で良いだろう」

「では、押しますよ」

 

 再度ボタンを押すと、モニターに表示されていたカウントダウンをしていた数字が消えた。

 

「これで終わりなのか?」

「無事に解除出来て良かったが、あまりにもあっさりと終わりすぎていないか?」

「それは確かに気になりますけど、解決したならそれで良いじゃないですか」

 

 あまりにあっさり終わったので、また何か始まるのではとしばらくモニターの表示を見ていると、突然にサイレンのような大きな音が鳴り響いた。

 

「何だ? 侵入者がいると気付かれたのか?」

 

 全員で身構えると、室内に突然にアナウンスの音声が鳴り響いた。

 

「本部との通信が確認出来ないため自動的にプロトコル333が実行されます。キャンセルする場合はあと30日以内に本部の通信機器を回復するかカナベラル基地の装置を操作して直接リセットしてください。繰り返します――」

 

 アナウンスが流れ終わったと同時にモニターに再度29日と24時間を示すカウントダウンが表示されている。

 

「これって、もしかして根本的な解決になっていないのでは?」

「もしかしなくてもそうですね。今のままだと30日ごとに、ここにやって来てボタンを押す作業が必要ってことになります」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 作戦会議が始まった。

 

 課題はもちろん、このプロトコル333が何なのかということだ。

 

「あれだけ大規模無線で警告して解除しろと言ってくるということは、ろくなことは起こらないと思います」

「紐か何かでボタンを縛り付けて自動的にボタンを押せる状態にしておくというのか?」

「一度押すと確認のダイアログが上がってくるので、その状態でもう一度押さないといけない構造なのでダメですね」

 

 試しにボタンを押しっぱなしにしてみる。

 

 リセットのダイアログは表示されるが、ボタンを押しっぱなしだと、そのままダイアログは閉じず、時間リセットも出来ない。

 

 一度手を離した後に再度ボタンを押すとリセット。そして、ややあって警告メッセージが流れた後に再度カウントダウンが始まる。

 

 ただボタンを押すだけなので、誰でも出来る作業ではあるが、無人で今の操作をやるのはそれなりの仕掛けを作る必要が有るだろうし、もしその仕掛けが何かの弾みで壊れたら終わりだ。

 

「それでも何かやれることはあるだろう」

 

 クロウさんがカウントダウンが表示されているモニターの隣にある席に腰かけてコンソールを操作してみると、モニターにはパスワード入力画面が表示された。

 

「パスワードか……何かヒントはないのか?」

「雑なセキュリティの会社なんかだとモニターに付箋でパスワードが貼ってあったりはあると思いますが」

「それってこれですか?」

 

 マリアさんが床に落ちていた靴跡の付いている付箋を拾い上げた。

 そこにはパスワードらしき文字列が記載されている。

 

「まさか、そんな安直な……」

「でも、一応は試してみよう」

 

 クロウさんが付箋に記載されていたパスワードを入力するが、認証は通らなかった。さすがにそれほど甘くはない。

 

「いや待ってくれ。パスワードって定期的に変更するものだろ」

 

 カーターが突然によく分からないことを言い始めた。

 

「セキュリティがしっかりしているところだと、当然そうなるな」

「オレもそうなんだけど、定期的にパスワードを変えろと言われるんだけど、面倒なので最後の一文字だけ変えるんだ。こんな感じに」

 

 カーターがクロウさんの席に割り込んでパスワードを入力始めた。

 

 途中までは付箋の通り。たが、最後の一文字だけを「7」で終わっていたところ「8」に変える。

 

 やはり解除されないので、今度は最後の一文字を「9」に変えて入力する。

 

 すると、パスワードが解除されて、デスクトップ画面が表示された。

 

「世の中ズボラが一番だぞ!」

「あ、ああ……確かにズボラが一番だ。ズボラに感謝!」

 

 なんとも反応に困るが、これはカーターの成果だ。

 

 褒めていいのか? いや、褒めておこう。

 

「前と同じでWindowsでもMACでもない謎のOSなので操作がよく分からないな……まあなんとなく分かるか」

 

 以前と同じ操作を行い、ランゲージ設定を変更して日本語に変える。

 

 流石に二度目なので動きに無駄がない。

 

 クロウさんが操作をするのをしばらく見守っていると、何かの文章がモニターに表示された。

 

「おそらくこれが333の説明だな。全部英文みたいだが……」

 

 全員でモニターに表示された文章を見る。

 

 解釈違いがないように俺とハセベさん、クロウさんの3人で声に出して読み合わせをする。

 

「ようは俺達のような召喚者が基地へ攻め入って勝ってしまった時の対策プランですね。手動発動、もしくは本部との通信が断絶して30日で自動発動。今回は後者の条件が適用と」

「内容は、最もプレイヤーの数が多い場所へこの基地の地下に封印している最終ゲームの敵として設定されたキャラを自動解放して転送」

 

 どうやらマイアミの町が瞬時に吹き飛ぶといった類の現象ではないようだが、色々と判断に困る内容ではある。

 

「あちこち旅してきたラヴィ君ならある程度は把握をしていそうだが、全部で50人のうち、居場所が分かっているのはどこだい?」

「タウンティンは眼鏡マンとタイツマンを送り付けたのと、第4チームが確保されたはずなので5人。ニューオーリンズに住んでいるマサムネさん夫妻が2人。アデレイド達はメリダの町に行ったので3人」

 

 指を折って数えていく。

 

「それに、既に死亡が確定している人が何人か。先日サンディエゴでゾンビのように復活してきた相手が5人ほどいました。あとはハセベさん、ウィリーさんの元仲間が3人。マサムネさんの仲間が1人。あとおそらく最初の遺跡でも推定5人は亡くなっているかと思われるので、これで24人です」

「それに君達が10人。オレ達が3人。それに昨日捕縛した2人を合わせるとマイアミに15人か。これだと、残りの所在不明の仲間が一か所に固まっていたとしても、ボスキャラが来るのはマイアミだな」

 

 色々と面倒なことになった。

 

 同じ場所に纏まって居ると、そこ目掛けてボスが送り込まれてくる。

 

 だからといって散らばってしまうと、この世界のどこにボスが出てくるかは分からない。

 

 もし町中で平和にランチを摂っている最中に出現などされたら、どれだけの被害が出るのか分からない。

 

「最終ゲームのボスは既に召喚済でこの基地の地下にいるというならば、もし物理破壊でプロトコル333を無理矢理停止したとしても、近いうちに封印は破れてボスはこの場所に出現する。そうなると、どの道、狙われる確率が最も高いのは一番近いマイアミの町だ」

「それで、ここに出現するはずのボスは一体何なんだ? どの道マイアミの町が危険だというならば、ここへ仲間を全員集めてから、封印中の敵を直接迎え撃った方が良いかもしれない」

 

 ハセベさんの提案通り、いつどのタイミングでボスが出現するか怯えるよりも、ボスの討伐計画を練って、ボスを倒してしまった方が手っ取り早いかもしれない。

 

「用意されているボスはこいつだな。魚人の神、ダゴン」

 

 ドキュメントの最後に小さい写真が添えられていた。

 

 巨大な魚に手足が生えたようなデザイン。

 

 海水を操って津波を起こしたり水流を操って超水圧で打ち出す技。

 

 身体の半分が水に浸かっていると腕力などが強化される上に傷などが癒やされるという特徴が紹介されている。

 

 おそらく真正面からバカ正直に戦えばイソグサと同じくらいの強さの可能性があるだろう。

 

 これが海辺の町に出現すると脅威だろう。

 

 この基地にいる間に俺が全力の魔女の呪いで吹き飛ばすにしても、水に浸かっていると回復スキルと津波が厄介すぎる。

 

 もし一撃で撃破出来ないと再生される上に、ここで津波を出されるとマイアミの町にもろに被害が出るだろう。

 それは看過できない。

 

 

 ……逆に考えれば良い。

 

 出現時間も確定しているし、人数が一番多く集まっている場所に現れるというならば、予め罠を用意した場所へ人数を集めて誘い込んでやればいい。

 

 出現時間と場所が分かっているボスを倒すなど、こんなに楽な話はない。

 

 海辺の町に出て脅威になる水棲生物が出現するならば、そいつが一番困ることをしてやれば良いのだ。

 

 しかも準備期間は30日もある。

 

「ラストバトルにしては盛り上がらない展開になりそうですけど、どう罠を仕掛けるか……楽しくなってきましたね」

 

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