収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 12 「砂蟲」

 メキシコの砂漠をひたすら東へ走る。

 

 ここが舗装されたアメリカのハイウェイならばラジオでも流しながら適当に走るだけでもどんどん進むのだろう。

 

 だが、残念なことにここは未開のアメリカ大陸だ。

 

 どうやらフラニスからの移動は海路が中心らしく、陸路は荒れ地ばかりで人の手が入った痕跡がない。

 なので、路面も石やサボテンのような背の高い植物が障害物になり、地面もデコボコしている。

 

 謎の陥没もあちこちにあり、走るだけでも意外と気を使う。

 

 馬車の場合だと、馬が空気を読んで避けてくれたり、そもそも速度がそれほど速くはないので避けるのも楽だったが、車ではそうはいかない。

 

 細かくハンドルを切ったりアクセルコントロールしたり。

 時には車の性能を頼りに豪快に窪みを飛んだり、隆起を乗り越えたり。

 

 まるで耐久ラリーでもやっているような気分になってくる。

 

 メニューには自動操縦の項目もあるが、確かな動作保証のない機能に人生というチップを全ベットする気にはなれない。

 

 ギャンブルはダメだぞ。

 やるにしても、事前に勝つための種を仕込んでからだ。

 

 俺がそうやって装甲車を運転する様を、ハセベさんはすぐ横についてじっと見ていた。

 

「基本的には乗用車と同じで良いかね?」

 

 どうやら運転に興味を持っていただけたようだ。

 せっかくなので簡単に運転方法を説明することにする。

 

 管理者権限を持っているのは俺とカーターだけなのは変わらないが、運転だけならば誰でもできる。

 

 ここで何人かが運転できるようになっていれば、運転手を交代できるので、1人あたりの負荷を減らせる。

 運転方法を教えておくのは悪い選択ではないだろう。

 

「アクセルとブレーキは足のペダルで操作。ハンドルを切ると曲がるのは普通の乗用車と同じです。オートマなのでクラッチはありません。車と違うのは前進、バック、パーキングのギア切り替えがタッチパネルでの操作ってだけですね」

「前のモニターにやたら表示されている数値は?」

「気圧とか温度とか色々な情報を出せますけど、走行には関係ないですね。速度も見なくていいです。スピード違反の取り締まりはないので」

 

 オービスなんて光らないと言おうとした時に、モニターの片隅、振動センサーに警告が表示されていることに気付いた。

 

 慌ててメニューを展開して振動センサーの結果と周辺地形図を重ね合わせる。

 振動の波形は、装甲車の動きを追うように近づいてきていることが分かった。

 

 しかし、後方モニターには何も表示されていない。

 地響きを立てる何かが透明でなければ、考えられる理由としては……地下だ。

 

「この先、車が揺れます。手すりや吊り革におつかまりくださーい」

 

 ただの偶然の可能性もゼロではない。

 念のために後方客室にアナウンスをした後にハンドルをあえて大きく切って右左折を繰り返す。

 

 優秀なサスペンションが効いているので車体の振動は吸収されているものの、慣性の法則だけはどうにもならない。

 雑に積まれていた荷物が床に落下する音の後に、後方シートから、様々な声が聞こえてくる。

 

 だが、その急な動きにも、振動は正確に追随してきた。

 自然現象や偶然だとは思えない。

 

「いきなりどうした? 朝の通勤バスかよ」

「山梨の通勤バスは峠でも攻めてんのか?」

 

 カーターがシートから苦情を申し立ててきたが、無視して車体を立て直してアクセルを踏み込む。

 

 こちらが加速して時速50キロになると距離が開く。

 障害物を避けるために時速30キロ台に減速するとすぐに追い付いてくる。

 

 地中にいる物体の移動速度は時速40キロというところだ。かなり速い。

 

 地中を走る物体は相当細長い。

 地下鉄長堀鶴見緑地線がこの辺りを走っているのでなければ、蛇かミミズかその類の「何か」かもしれない。

 

 地面を掘り進んでいるのか、それとも既に完成品のトンネルを進んでるだけなのかまでは分からない。

 

「この装甲車の車幅と比較して想定すると、幅と高さが10メートル。長さは100メートル。地中から車を追いかけてきている地下鉄サイズの何かがいる」

「ファンタジー世界だし、サンドワーム的な何かがいるのか?」

「ここはメキシコだから、グラボイズかもしれないな。トレマーズに出てくる地中の怪物だ」

「加速して振り切れるか?」

「障害物が多いので難しい」

 

 言った傍から目の前に巨大なサボテンとデコボコした地面が現れた。

 ブレーキを踏んで軽く減速。

 蛇行運転でなんとか障害物を回避しながら現状を説明する。

 

 今の減速で地中からの追跡者との距離がまたも縮まったが仕方がない。

 

「路面状況も悪くて速度を上げられないのでジリ貧だな。路面が悪くなれば、そのうち追いつかれる」

「映画だと巨大ミミズをどうやって倒したんだっけ? もちろん1の話だぞ」

「4とブラッドラインも好きなんだけど」

「2以降の話は聞いていない」

「地中を進む相手は谷の存在に気づかず、地中から宙に勢いよく飛び出し、谷底まで落下して終了」

「ネタバレありがとう」

 

 カーターが何の感情も込めずに返してきた。何の参考にもならなかったようだ。

 

「じゃあ、ラビ助は運転に専念だ。その間のオレたちで作戦を考える」

 

 まずはカーターとハセベさんが打ち合わせを始めた。

 その後に後方シートにいる他の面々に状況を伝えに向かう。

 

「こちらは運転で精一杯なので、作戦が決まったら教えてください」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「遠距離組のスキルにしろ、銃にしろ、相手が砂の中にいては攻撃が通らない。なので、まずは地上に引きずりださないと戦えそうにない。これをどうする?」

 

 ハセベさんが中心になって、地中から迫る敵の迎撃をするための対策会議を始めた。

 

「そいつの重量は? 軽ければガーニーの風で空に舞い上げられると思うが」

 

 ウィリーさんがガーネットちゃんの顔を見ながら言った。

 

「マークの盾で受け止めて、ガーニーの風で吹き飛ばす。この方法でやろうと思う」

「スキルで盾の強化をできるので、ダンプの突進くらいなら止められる自信があります」

 

 マークさんが自信満々に言った。

 

「ラヴィ君、敵の重量を分析して表示できるのかね」

 

 運転中、ハセベさんに急に話を振られたので慌てる。

 

 俺の能力や推測ではなく、装甲車に搭載された機能で分析できないかと聞かれていることに気づいた。

 冷静に答えることにする。

 

「車には分析機能はありません。今は地面からの振動を拾って表示させているだけで、X線的なもので見ているわけではありません」

「ならば地中から何か巨大な物体が迫ってきている以上の情報はないのか」

 

 サイズについても振動センサー情報だけを頼りにした曖昧なものだ。

 あくまでも参考用と前置きした上で雑に答える。

 

「目安ということであれば10×10×100で水と同じ質量と仮定した単純計算で良いなら1万トンです」

 

 生物なら一部は空洞。

 虫ならば胴体の中に空洞部分があるはずなので、水よりは少し軽いはずではある。

 まあ、この質量ならば少々多かろうが少なかろうが誤差でしかない。

 

「朝の8両編成の通勤電車が真正面から突っ込んでくるようなイメージで」

「1万トンとか無理だよ、そんなの」

 

 エリちゃんからギブアップの声が上がる。

 

 どうやら、力任せに持ち上げるという、いつも通りの物理ゴリ押しのつもりだったようだ。

 力自慢のタルタロスさんと力を合わせても1万トンはさすがにどうにもならないだろう。

 

 走行する電車を真正面から受け止めるなんてテリーマンだけで間に合っている。

 

 盾役のマークさんもこれには絶句だった。

 

「こちらのスキルなんてまともに通用するのか?」

「近接組が囮になるのもなしだな。質量で押し潰されたら終わりだ」

 

 とりあえず近接組が殴り掛かって倒すのは無謀という結論は出たようだ。

 

 ゲームなどに登場する巨大ワームも、5メートル四方の頭部に50メートルほどの長さの胴体だ。

 それよりもはるかに巨大な敵ということになる。

 

 ウィリーさんの銃弾も怪しいかもしれない。

 サイズがあまりにも違いすぎて、銃弾くらいでは表皮に阻まれて終わるだろう。

 

 最終的には俺が出て魔女の呪いで仕留めるしかなさそうだが、その間の運転をどうするのかの問題が残る。

 

 何しろ、少しでも速度を落とすとすぐに追いついてくる。

 もし謎の敵を倒したところで装甲車を破壊されたら俺たちの旅は移動手段がなくなり詰む。

 

「質量で押し負けるなら、それ以外で勝つしかないな」

「それ以外って?」

「僕の電気はどうでしょう」

 

 レルム君が挙手した。

 確かに電撃ならば、相手の神経、内臓系に直接ダメージを入れて倒すことができるかもしれない。

 

「だが、相手は地中だ。電気はそこまで通るのか?」

「そうですね……やっぱり無理ですか」

「なら、ドロシーの水で濡らすのはどうでしょう? それならば電気は通っていくかもしれません」

 

 モリ君の提案に一同からどよめきが上がる。

 

「いや、さすがに無茶だ。ドロシーのハイドロカノンの水量はせいぜい5トンってところだ。砂漠に撒く水の量としては少なすぎる」

 

 冷静に考えると、それこそ霧吹きで水を吹き付けるようなものだ。

 全て砂に吸収され、敵に届く前に消えるだろう。

 

「逆に考えよう。全体を潰さなくてもいい。頭だけでも潰せばそれで勝負はつく」

「それなら何とかなりそうだな。ガーニーが砂を吹き飛ばす。砂漠の砂は塊で見ると大きいが、一粒一粒は軽い砂の集まりだ。一定時間、吹き続ける風にはさしたる問題はない」

「はい。それならばできると思います。特定の方向へ飛ばすのは無理ですけど、全部適当に散らせば良いんですね」

 

 俺はガーネットちゃんのフルパワーの風のスキルを見たことはない。

 

 だが、付き合いの長いウィリーさんが言うからにはかなりの威力なのだろう。

 

「そして敵の頭が出たところにドロシーのハイドロカノン。全部じゃなくても頭だけでいい。できるな、ドロシー」

「もちろんやるよ!」

「というわけです。タイミングは俺が調整します」

 

 ドロシーちゃんの攻撃のタイミングはモリ君が合わせてくれるようだ。

 

「最後のトドメはレルム……やれるな?」

「はい、タロさん」

 

 レルム君が攻撃するタイミングを合わせるのはタルタロスさんがやってくれるようだ。

 

「ラヴィ君、作戦は固まった。あとは車体のコントロールを任せる」

「任されました。では、今から後部ハッチを開きます。車から振り落とされたり、荷物が落ちないように注意してください!」

「なら、荷物は私が」

 

 エリちゃんが車内を素早く駆け回って、床に置いたままの荷物を棚へ納めていく。

 収まりきらない荷物はロープを巻き付けて壁に固定した。

 

 準備が整ったところで後部ハッチを開く。

 車体の後方50メートルほど位置の地面が不自然に盛り上がって、車の動きを追尾してきていた。

 

 先ほどまではこれほど地面が盛り上がってはいなかった。

 車を攻撃するために、より浅い位置に移動したのだろう。

 

「渦巻く旋風!」

 

 ガーネットちゃんの叫びとともに、地面から真上へ竜巻が吹き荒れた。

 砂や石が上空へと舞い上がっていく。

 

 それによって謎の敵の頭部が地中から露出し、姿を現した。

 

 地中を進んでいたそれは、目などの感覚器官は見当たらず、鱗もない、ぬめりのあるミミズのような不気味な長虫だった。

 腐葉土のような悪臭と共に、粘液を垂らしながら鎌首をもたげる。

 

 底面には無数の繊毛がグネグネとうねり、見ているだけで嫌悪感が湧き上がってくる。

 

 虫が苦手なのは克服できないモリ君が「ヒィ」という情けない声を上げたが、さすがにこれは仕方がない。

 至近距離で見るものではない。

 

「ドロシー! あの気持ち悪いやつにハイドロカノン!」

「気持ち悪い! 消えて!」

 

 ドロシーちゃんの腕の先から超高圧の水流が放出された。

 

 攻撃を受けた長虫の先端部……おそらく頭部が四方向に開いた。

 どうやらそこが口らしい。

 

 質量差があるので、これだけで倒せるとは思えないが、それなりにダメージは入ったようだ。

 顎をパクパクと開閉させ、体をのけぞらせる。

 

「レルム今だ!」

「エレクトロビーム!」

 

 レルム君の両手の先から青白く光るビームが放たれ、長虫の頭部に直撃した。

 

 長虫の粘性のある皮膚から水分が急速に失われ、黒く焼け焦げていく。

 

 水流による水だけではなく、粘液も電気を伝えるのに役立っているようだ。

 バチバチと青白い火花を飛び散らせながら、長虫の全身に電撃のダメージが広がっていくのが分かる。

 

「やったか?」

 

 おい、誰だ? たった今「やったか」とかいうフラグ満載のセリフを言ったのは?

 

 やはり、電撃だけで即死するようなことはなく、長虫は苦しそうに身体を震わせて暴れまわり始めた。

 地震のような振動で車体が大きく揺れ、後部ハッチを開けたままの車内にも砂や石が飛んでくる。

 

 だが、それなりにダメージは与えている。

 今まで通りの時速40キロでは動けないだろう。車を走らせれば逃げ切ることは十分できるかもしれない。

 

 それでも、この状態から再生して、追跡を再開されるかもしれない。

 完全にとどめが必要だ。

 

「おい、スキルを使い切ったのにどうするんだ?」

「問題ない。私が決める!」

 

 ハセベさんが刀の鞘を左手で掴み、腰溜めの姿勢のままで疾風の如く駆け出して長虫に向かって高く跳躍した。

 

「無理だ、刀の長さじゃそいつの表皮を貫けない!」

 

 クリスさんが叫ぶが、ハセベさんはそれでも止まらない。

 

 長虫の前まで飛んだ後に、少し離れた場所に着地。

 懐から紙を取り出し、いつの間にか抜いていた刀から粘液を拭った後に鞘へ納刀した。

 

「えっ、いつ刀を抜いたんだ?」

「終わったぞ」

 

 ハセベさんが車の方に歩いてくると同時に切断された長虫の頭がズルリと地面へ落下した。

 

 胴体からは白っぽい不気味な液体がドクドクと流れ出し、やがて胴体も地面に倒れ込み、動かなくなった。

 

 明らかに刀が届いていない範囲の外……10メートル以上に斬撃が届いたということになる。

 もうここまで来たら長距離攻撃だ。

 

「みんな、一度車を停めるぞ」

 

 今のままだと車から飛び降りたハセベさんが置きざりになってしまう。

 

 念のため振動センサーで再スキャンを行い、周辺に他の敵がいないことを確認してから装甲車を停止させた。

 

「他に敵はいません。装甲車の機能で確認済みです」

 

 全員に聞こえるように精一杯の大声で報告した。

 これで一息つけるだろう。

 

 車が停止したことを確認したので、俺は車に向かって走ってくるハセベさんに声をかけた。

 

「ハセベさん大丈夫ですか?」

「ああ。みんなが弱らせてくれたお陰で首を切り落とせたよ。動き回る相手にはこうはうまく決まらないからな」

「凄いですね今の必殺技。いつの間に習得を?」

 

 俺は気になって尋ねた。

 

「ラヴィ君たちと再会したあの遺跡にやたら強い敵がいただろう。あいつのような攻撃が効かない相手がまた現れた時の切り札として密かに開発していたスキル3つ重ね合わせだ」

 

 ハセベさんが言うのはホンジュラスの蟇(ヒキガエル)の遺跡にいたあの邪神だろう。

 

 あんなのが頻繁に出てくるとは思えないが、対策だけはしておいても損はない。

 

 俺たちもそれなりに強くなったとは思っていたが、ハセベさん達も相当鍛錬と経験を積んだようだ。

 予想よりもはるかに強くなっている。

 

「動き回る相手には当てるのは難しいんだが、まあ決まって良かったよ」

「いやいや、見事に決まってましたよ」

 

 一人で戦うわけではない。

 誰か仲間と一緒に戦うならば、誰かが足を止めるために役割分けをすれば良いのだ。

 

 一人で万能で戦える必要はない。

 

「それにしても、この虫は一体……」

「この世界に元々住んでいる生物なのか、それとも異世界から連れてこられたものなのか。まあ、みんな怪我なく倒せて良かったです」

「ああ、そうだな。力を合わせて巨大な敵と戦うのは初めての経験だったが、なかなかうまくいったと思う」

 

 本当にその通りだ。

 

 俺たち全員の力を合わせて無事に事態を解決することができた。

 このチームなら、これからどんな困難があっても乗り越えられるだろう。

 

「では先を急ごう。今日中に砂漠を抜けるのだろう」

「そうですね。ただ、車内に砂や石が入り込んだので、まずはその掃除から……聞いてるな12人目」

 

 俺は特に何もしていなかった12人目の仲間……カーターに呼びかけた。

 

「運転を俺と代わってくれたら、すぐに魔女の呪いで仕留められたって話をする?」

「いや、ラビ助に負担をかけるんじゃなくて全員で解決をする流れに持っていきたかったから。何もしてないんじゃないから」

 

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