収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 3 「ポウハッタン集落」

「えっと、これどうしよう」

 

 オーガスタを抜けて4日。

 俺達は現代の地球ではバージニア州リッチモンドの位置に到着したのだが、いつの間にか装甲車は何人もの武装した人間に取り囲まれていた。

 

 肌は褐色だが、顔貌は日本人と同じモンゴロイド族。

 

 綿を編んだであろうカラフルな衣服を身にまとい、それぞれが弓矢で装甲車に対して威嚇をしている。

 

 全員が若い男。

 鹿のような動物を蔦で編んだであろうロープで長い木の枝に括り付けて運んでいるので、狩りの帰りに偶然、俺達に出くわしたのかもしれない。

 

「こいつらって、アメリカの現地人で良いんだよな」

「衣服は南米っぽいんだけど現地人で良いと思う。まあ、異世界人ではないかなと」

「それで、こいつらの武器で装甲車の装甲を突破できる可能性は?」

「0。使っている弓の鏃や槍の穂先は黒曜石みたいだから、この合金製の装甲を貫通するのは不可能のはず。ヘッドライトやカメラは分からんけど」

 

 問題はそれよりも落とし穴を仕掛けられたり、テコの原理で車体をひっくり返されることか。

 

 生体、動態、赤外線センサーでスキャンを行うと数は6。

 

 モニターで確認できるのは4人で、2人は泥を被って赤外線の探知と目視でのチェックを逃れ、しかもモニターの死角にうまく隠れて奇襲しようとしているようだ。

 

 視覚情報だけならば騙されたかもしれない。

 

「どうする? 叩きのめすのか?」

「そんなことするわけないだろ。装甲車を正体不明の物体だと認識してるからこの反応なだけなんだから、姿を見せて、これはただの人間の乗り物だと認識してもらえれば襲っては来ない……はず?」

「疑問形やめろ」

 

 そうは言っても確証がないのだからこういう言い方になるだけだ。

 

「信じてもらえるという根拠は、地球におけるこの人達を滅ぼしたイギリスの開拓者への反応がこれと全く同じだからだ」

「良く知ってるなそんな話」

「アニメや実写映画にもなったポカホンタスって話が有るだろ。あれは、このバージニア州の現地人と入植してきたイギリス人との抗争を書いた現実の歴史ベースの物語だよ」

 

 交渉材料としてクッキーを1枚取り出す。

 

「まずは平和的交渉からだぞ」

「砂漠の村と同じように物々交換で良いんでしょうか?」

「この際無償提供でもいい。こちらは友好的だという態度を示そう」

 

 そう説明するとモリ君が備蓄食糧の中から何か物々交換に使えそうなものが何かないかを探し始めた。

 

 その間にクッキーの枚数を揃えていく。

 相手は6人いるようなので、7枚あれば良いだろう。

 

「フロリダで手に入れたココナッツの実はどうでしょうか?」

「食べ物とわかりやすいし有りだな。モリ君、一応護衛を頼む」

「護衛って何をするんですか?」

「矢が飛んできたら槍で叩き落として。青白く光るプロテクションは気味悪がられるかもしれないから、槍で叩き落とせなかった時の最後の手段で。俺もなるべくスキルは使わないつもりなので」

 

 俺は帽子を脱いで、車のドアを開けて外に出る。

 

 すぐに矢がこちらに向けられるが、モリ君が守ってくれるだろうと信じて地面に降りてココナッツの実を頭上高く掲げた。

 

 だが、男達は何やら警戒するような動きを解除しようとしない。

 

 ここでふと気付いた。

 もしかして、俺の白い髪と赤い目が怪しまれているのだろうか?

 

 ただ、後から黒い髪のモリ君が姿を現すと、彼らの警戒が少し解けた様子が動作から伝わってきた。

 モリ君も槍を持っていない左手でココナッツの実を高く掲げる。

 

「私達は怪しいものではありません! これは乗り物です!」

「敵ではありません!」

 

 大声で訴えると、男達は番えていた弓を下におろした。

 

 まだ警戒は解けてはいないようだが、少なくとも敵ではないとわかってくれたようだ。

 

 男たちのうち一人がジリジリとこちらに近寄ってきた。

 

「モリ君、このココナッツの実に少し穴を開けて貰えないか?」

「穴ですね」

 

 地面にココナッツの実を置くとモリ君が槍で一突を入れる。

 

 硬いココナッツの実に綺麗な穴が開いた。

 中から甘い香りのココナッツミルクが垂れてきたので、全部零れないように優しく持ち上げて近寄ってきた男に手渡す。

 

 男はあの穴の中に指を入れると、そのままペロリと舐めた。

 

 他の4人の男達も次々にココナッツの実の近くに集まってきて味見をしていく。

 

 残り2人は潜伏したまま姿を見せない。

 まだ警戒状態は続いているようだ。

 

「もう一つありますよ」

 

 モリ君が実を差し出すと、別の男が奪うようにして実を取って行った。

 

「誰か言葉が分かる方はおられますか?」

 

 4人の男達は顔を見合わせるが、反応はない。

 

「オレは少し分かる」

 

 茂みの中から顔に泥を塗りたくった男が姿を現した。

 

 ずっと潜伏しており、俺達へ奇襲か何かを仕掛けようとしていたうちの一人だろう。

 

「お前たち、どこから来た?」

「南」

 

 そう言いながら南の方向を指差した。

 

 分かりやすように単語で話したほうが良いだろう。

 続いて装甲車の方を指差す。

 

「これは乗り物です。人が乗って移動するためのものです」

「船?」

 

 急に船と言われて面食らったがすぐに理解出来た。

 

 彼らの世界の中の乗り物とは船のことなのだろう。

 つまり返すべきワードは――

 

「陸の船で車と言います。荷車は分かりますか?」

「荷車は分かる。車も分かる……これは車!?」

 

 やや無理矢理な説明では有ったが、どうやら話は通じたらしい。

 

 男達は俺達には理解出来ない言語で装甲車を指差しながら何やら話している。

 

 ようやく装甲車が車の一種だということが伝わったようだ。

 

「蒸気で動いてる? 煙はどこからも出ていない」

 

 急に蒸気というワードが出て来たので驚きを隠せない。

 

 この世界だと蒸気機関を使用しているのはタウンティンくらいなので、もしかしたら交易路があるか、蒸気船が探索か何かで近くを訪れたのかもしれない。

 

 少なくとも異文化との交流がない、完全に孤立した現地人の集落というわけでもなさそうだ。

 

 蒸気と答えても良いのだが、ここは嘘偽りなく答えておこう。

 

「エーテルリアクターです。何も出ません」

 

 男達の表情がまた理解不能という表情になって固まった。

 

 装甲車は謎テクノロジーてんこ盛り過ぎるので、理解出来ないのは仕方ないところはある。

 

 俺達もどういう原理で動いているのかよく知らないのだから。

 

 ただ、男達を見ると、驚きはしたものの、敵対的な態度や、警戒心のようなものは見られなかった。

 

 珍しいものを見たという好奇の目で装甲車を見つめているので、バッドコミュニケーションというわけではなさそうだ。

 

 次の段階に移行して良いだろう。

 

「私達からの贈り物です。これはクッキーという食べ物です」

 

 俺はクッキーを顔に泥を塗った男に1枚手渡した後に、食べ物だと分かりやすく説明するために自分でも1枚食べる。

 

 それを見た男も同じようにクッキーを頬張る。

 

「全員分ありますので、皆さんで召し上がってください」

 

 残りのクッキーを差し出すと、次々と男達の手が伸びてきた。

 

 全く残らなかったので、誰かが2枚以上持って行ったのではなければ、どうやら潜伏していたもう1人も姿を現して取りに来たようだ。

 

「まだあるか? 子供にも食べさせたい」

「あります。おそらく皆さんの集落の全員に配れるとは思います」

 

 俺は即答すると、顔に泥を塗った男は付いてこいとばかりに背を向けて歩き始める。

 

「集落へ行く。一緒に来てくれ」

 

 どうやら交渉は成功したようだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 カーターに運転を代わってもらい、俺はひたすらクッキーの量産を開始した。

 

 狩りに出ていた男の数は6人。

 

 村の男性の6割が出ていたと仮定すると、村の成人男性は10人。

 

 その配偶者、子供、老人が数名と考えると約40人ほどの集落だと推定されるので、50枚あれば足りるだろう。

 

 もし足りなければ、備蓄の小麦粉と脱脂粉乳で大量生産するという手もある。

 

 小麦粉があるのだから、別にスキルだけにこだわる必要はないのだ。

 

「ラビちゃん、それでクッキーと何かを交換するの?」

「交換は期待できないかな。今は3月頭という微妙な時期だから」

 

 モニターの外には真っ黒な空き地が広がっている。

 

 土の色からして、おそらく焼き畑農法を行い、雑草などを焼き払ったので、燃えた草の灰で大地が黒く染まったのだろう。

 

「長い冬が開けて、春これから種を撒こうって時期だから、今が一番食料の備蓄がない時期だと思うんだ。だから向こうも交換できるものはないかなって」

「なら、なんで村に向かっているの?」

「敵対して追われるよりも友好関係を築いて、惜しまれながら旅立つ方が気持ちいいだろ」

「それは分かる」

 

 エリちゃんにも納得して貰えたようで良かった。

 

「ここはフロリダと、それほど距離が離れていないから、この部族の人間と険悪な関係になると、ハセベさん達にも迷惑がかかるってのが本当の理由だろ」

 

 カーターが運転しながら俺に言った。

 

「いや、そんなことは……まあ少しはあるかな」

 

 俺は否定せずに答える。

 ここで嘘を付いて見栄を張っても仕方ない。

 

「まあ、悪いことをしてるわけじゃねぇから、オレは別に止めないけど、危ないことだけはするなよ」

「ああ、わかってる」

 

 流石に危険なことはなるべく避けるつもりだ。

 

 もうラスボス(暫定)であるダゴンは倒したのだから、なるべくなら平和に戦いなしで終わらせたい。

 

「それにしても、なんでこんなにあちこちで木を燃やしているんでしょう」

 

 モリ君が半ば炭化したまま立っている木を指差す。

 

「焼き畑農法じゃないかな」

「畑を広げるためなら分かるんですけど、何かおかしくないですか? 木を燃やしている範囲が手当たり次第というか」

「そう言われてみればおかしいな」

 

 同じように燃やされている木は何十本も有った。

 

 畑を広げるために邪魔な木を燃やしてなくしたかったのなら分かるが、畑に隣接していなかったり、雑草は手付かずなのに木だけが燃やされている理由は分からない。

 

 それに、完全に黒焦げにしたわけではなく、表面の皮を焼いただけのような木も有るようだ。

 

「木を燃やすこと自体が何かの目的なんでしょうか?」

「木の病気が広がりそうとか、変な虫が付いたとかそんなのかな?」

「後でさり気なく聞いてみましょう。何もないと良いんですが」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ポウハッタンという名の集落に案内されると、アルパカの群れがお出迎えしてくれた。

 

 アルパカを見たのは北米に入って初めてだ。

 

 アルパカは全頭が柵の中におり、近くにはアルパカ専用らしい小屋も見える。

 家畜としてここで飼われているのだろう。

 

「カピバラさん久しぶり」

 

 エリちゃんがアルパカに声をかけているが、もはや突っ込んだら負けの気がする。

 

 アルパカの方もカピバラ呼ばわりが気に入らなかったのか臭い唾を連続して飛ばしてきた。

 

「うわっ危ない」

 

 エリちゃんが咄嗟に避ける。

 

「アルパカってこんなところでも飼われてたんですね」

「地球だと南米にしかいないはずだよ。気候と植生的には住めないってことはないから自力で移動してきた可能性もあるけど、それよりもインカの勢力が歴史以上に拡大したせいで、ちょっとずつ歴史がズレてきてるんだと思う」

 

 集落のあちこちにはモンゴルのゲルのような木のフレームに布を張ったテントのような簡素な家が立ち並んでいた。

 

 家のすぐ近くには畑が作られており、何かの作物の新芽が土から少しだけ顔を出している。

 

 地球でも焼き畑農法を行う文化がある民族は、農作物が取れなくなると別の肥沃な場所へ家ごと引っ越す習慣がある。

 

 家の構造が簡素なのも、いつでも引っ越ししやすいように家を折り畳める構造にしているのからなのだろう。

 

 それに綿羊……じゃない綿アルパカを酪農しているから、遊牧民のような生活形態になり、それに合わせてモンゴル風に近付くのも理屈として合っている。

 

 畑の近くには高床式倉庫のような建物。

 

 これは見たまま穀物を保存する倉庫なのだろう。

 建物を支える柱部分には丸い円盤状のネズミ返しも付いている。

 

 こちらも簡単にバラして運べそうな構造をしている。

 

 そんな中で一際目立つ細長く大きな木造の建物が有った。

 集会所か公民館的なポジションなのか、何人もの人々が出入りをしている。

 

 あれが、この集落の城にあたる存在なのだろう。

 名付けるとしたら見たままロングハウスか?

 

 俺達が村の様子を眺めていると、1人の中年の男が近付いてきた。

 

「どうも、私は少しなら言葉が分かります」

 

 俺は帽子を取って挨拶をする。

 他の仲間もそれに続く。

 

「あなた達は何故この集落に」

「私達は北へ旅をしている途中です」

 

 あまり言葉は通じなさそうだったので、なるべく分かりやすい単語で意図を伝えるようにする。

 

「もしかしてタウンティンの方ですか?」

 

 男は俺達にそう聞いてきた。

 

 タウンティンの名前が出たことで、少しだが言葉が通じること、アルパカが集落で飼われていることや、蒸気機関について知っていることなどに説明が付いた。

 

 おそらくこの集落はタウンティンと交易か何らかの交流を定期的に行っているのだろう。

 

 全く無関係だと思っていたが、完全に予想外のところで俺達と縁が繋がっていたようだ。

 

「そうです。私達はタウンティンの方から来ました」

「タウンティンの方にはお世話になりました。アルパカや食料もたくさん貰いました。何度も助けられて感謝しています」

 

 そうなると、やはりアルパカは南米ペルーからはるばる旅をしてきたのか。

 同じところからスタートして出会ったのだから、そういう意味では俺達とアルパカは仲間と言ってもいい。

 

「恩人の仲間なら歓迎したいところですが、今は時期が悪い。明るいうちにここを出た方が良いです。暗くなるとやつが出ます。襲われると危険です」

「やつ?」

「蛾人間です」

「蛾人間?」

 

 妙な単語が出てきたので、鸚鵡返しに問い返す。

 

 言葉の意味だけを拾うと蛾のような特徴を持った人間ということになる。そんな特撮怪人のようなモンスターが出現するのだろうか?

 

「やつは夜になると、大きな蛾を引き連れて村を襲う。卵を産みつけられたらすぐに芋虫が孵って作物も木もみんなやられる。卵を産まれたら焼くしかない」

「もしかしてあの木って?」

 

 モリ君が半ば炭化した木を指差した。

 

「そこも蛾にやられたので焼いた」

 

 男は悲しそうな表情を浮かべた。

 焼き畑農法以外に焼かれた場所があるのはそういうことか。

 

「ラビさん、これは対処しますよね」

「困っている人がいるなら、流石に助けないと」

 

 モリ君もエリちゃんも乗り気だ。

 もちろん俺もそのつもりだ。

 タウンティンに多少なりとも縁がある集落ということなら、余計に無碍には出来ない。

 

「ああ、袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端、共に踊れば繋がる縁とも言うし、流石に無視は出来ないだろう」

 

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