収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 17 「ケープ・カナベラルへ」

 チェイニー艦長との会話を終えて、臨時設営された野戦病院に行く。

 そこでは、白衣を着たモリ君とマリアちゃん、そして巡洋艦に乗っていた軍医たちが治療を始めていた。

 

 エリちゃんもサポートとして参加している。

 近くではドロシーちゃんが新しい真水を提供しており、治療や飲み水として活用しているようだ。

 

 モリ君の医師ファッションも似合っているが、エリちゃんの白衣もなかなかだ。

 いっそエリちゃんも看護師あたりを目指すと良いのではないだろうか。

 

 そこにもう1人、見知らぬ男性が回復能力を使用して、治療に参加していた。

 もしかすると、艦長の話題に出た第4チームのメンバーだろうか?

 

 とりあえずモリ君に状況を確認する。

 

「負傷者の方はどう?」

「3人がかりなので、すぐに終わりました。回復能力(ヒール)では体力までは回復できませんが、傷は癒えたので、2、3日安静にしていれば大丈夫かと思います」

「そうか、良かった」

 

 一応、俺たちにできる限りのことはやった。

 その結果として多くの人を助けられた。

 

 手遅れだった方には申し訳ないが、それでも救える命を取りこぼさなかったことだけは良かったと思う。

 

「それでそちらの方は?」

「レットと申します。第4チーム? でいいのかな。アムネジアさんにはお世話になっています」

「例の第4チームの方です」

 

 やはり俺の予想通りだったらしい。

 まだ治療があるかもしれないので、手を洗っていない俺は握手をせず、挨拶のみをする。

 

「ラビさん、その第4チームの方で会ってほしい人がいるんですけど」

「もしかして、そのリーダーのアムネジアさん?」

「はい。一度ラビさんにも会ってもらった方が良いかと思って」

 

 モリ君は若干興奮気味で俺に告げた。

 

 最初の部屋を出る前に、一度合流しようと約束した相手だ。

 その約束が数か月越しに果たされようとしているのだからはやる気持ちは分かる。

 

 エリア51の地下であの映像を見せられた時にはもう二度と会える機会はないと覚悟はしていた。

 それが、こうして無事に……いや、あまり無事ではないが、一応無事に再会できたのは喜ばしい限りだ。

 

「俺の口から今の状況について、簡単ですが説明はしました」

「簡単というのは?」

「最初の部屋を出てからここまでの簡単な経緯と、運営の地下で皆さんのことは映像で見たこと、今は日本へ帰る旅の途中というところまで」

 

 つまりはだいたい一通りか。

 俺から状況を説明しなくても良いのは助かる。

 

 モリ君に案内された先には簡易ベッドに腰かけている女性がいた。

 

 見た目は大学生くらいだろうか。

 知的でかなり落ち着いた感じに見える。

 

 スウェットスーツのようなピッタリした服を着た女性だ。

 

 その横には別の若い女性が1人。

 この野戦病院へ移送した時は全員軍服を着ていたので気づかなかったが、確かにタウンティン……南米ペルー在住の方とは人種が異なるようだ。

 

「こちらがアムネジアさんです」

 

 モリ君の紹介を受けて、まずは頭を下げて礼をする。

 

「安西海音(あんざいあまね)……アムネジアと申します。あなたが今のモーリス君が所属しているチームのリーダーでしょうか?」

「ラヴィ……上戸佑(うえとたすく)です。リーダーはモーリス君で私はただのアドバイザーです」

 

 快く握手を受ける。

 

「いつもこうなんですよ。面倒ごとは全部俺に押し付けたがりますけど、この人が実質のリーダーです。こんなですけどたまに頼りになるんですよ」

 

 アムネジアさんに自己紹介をしていると、モリ君が会話に割り込んできた。

 

「『こんな』とか『たまに』とか地味に酷いことを言われてる気がする」

「だって、すぐに人に丸投げしようとしますよね。俺は仕方なくリーダーをやっているだけですよ」

「こんな感じですがリーダーをやってもらっています」

 

 モリ君がいつになくはしゃいでいる。

 よほど、この第4チームとの再会が嬉しかったのだろう。

 

「なるほど。モーリス君は仲間に恵まれたようだ。良い出会いと経験があったのだろう。最初の部屋にいた時とは別人かと思うくらい見違えたよ」

「モーリス君はよく頑張って私たちを引っ張ってきてくれました。成長率ならば私たちの中で一番ですよ。今では自慢の仲間です」

「それは頼もしい。あの時に無理にでも誘っておけば良かった」

「姐さん、やめてくださいよ。その場合は置いてかれたのはおれですよ」

 

 アムネジアさんと一緒にモリ君をべた褒めしていると、先ほどのレットさんから声がかかった。

 どうやら治療は片付いたらしい。

 

「冗談だよ。私がお前たちを置いていくわけないだろう」

「もう、からかわないでくださいよ」

「そういう落ち着きのないところだよ」

 

 第4チームの方も全員の仲が良さそうで安心した。

 

「おれは葛城圭吾(かつらぎけいご)。レットです」

「私は塚山麻衣(つかやままい)。ロビンです」

 

 各々と自己紹介をする。

 

「早速で悪いのですが、巡洋艦を襲撃してきた怪物に、この町が狙われる可能性があります。撃退のために協力していただけないでしょうか?」

「あいつがこの町に? ここに立ち寄ったのは良かったのか悪かったのか」

 

 アムネジアさんの表情が曇った。

 

 先ほど艦長の話を聞いた時にも思ったが、悪いのはゾス=オムモグだ。

 この艦の乗組員や第4チームの責任ではない。

 

 ただ、当事者であるアムネジアさんはそうは思わなかったのだろう。

 

「あいつは私の目の前で何人もの兵士を攫っていった……なのに何もできなかった」

「それは姐さんが悪いわけじゃない」

「いや、私のミスだ。せっかくこの兵士さんに助けてもらったのに恩を返すことができなかった。それが無念だ」

 

 話しぶりからして、この第4チームの方たちも襲撃してきた邪神、ゾス=オムモグに対して立ち向かおうとしたのだろう。

 

 負傷しており、体調も万全な状態からは程遠かったが、それでも船を守るべく立ち向かおうとした。

 だが、手も足も出なかった……と。

 

 船の上という行動制限がかかる場所で未知の敵に襲撃されたら誰だってそうなる。

 俺たちだってそれだけのハンデを与えられたならば当然そうなるだろう。

 

 だからこそだ。

 

「邪神にリベンジするためにも協力をお願いします」

「あいつは手強いぞ。フォーメーションがどうのという普通の作戦では対抗するのは難しいだろう」

 

 それについてある程度は作戦を考えていると説明しようとした時にモリ君が割り込んできた。

 

「俺たちはあの部屋を出てから巨人(イソグサ)という60メートル級の敵と戦った経験があります。それは今度の敵相手にも生かせると思います」

 

 モリ君がそう説明すると、アムネジアさんは目を大きく開いて驚きの表情を見せた。

 

 こちらが巨大な敵との戦闘については既に経験済みということだけではなく、モリ君が自信満々に答えたこと……成長について驚いているようだ。

 

 ずっと保護者をやってきた俺もそう思う。

 

 最初の頃の……どこか現実を見ておらず、頼りなかったモリ君はもうどこにもいない。

 俺は特に何もしていないが、冒険を通じて精神的に強く、立派に育ってくれた。

 

「大丈夫です!」

「……強くなったね」

「そこの子供たちやタルタロスのオッサン、別れた仲間たちもみんな世話になってるからな。大した奴だよ、こいつは」

 

 今度はカーターだ。

 珍しくモリ君を持ち上げている。

 

「こいつはこいつで別れたリプリィさんや、そこのエリスとラビ助の世話になってるし、持ちつ持たれつというわけだ」

「扉を出てすぐの場所でしばらく待っていたものの、いつまで経っても出てこなかったので、心配してたけど、杞憂だったみたいで安心したよ」

 

 アムネジアさんがそう言いながら立ち上がった。

 

「まだ体調は完全ではないが、今すぐに対決という話ではないんだろう」

「はい。なので、まずは準備からになりますが、今は倒すべき敵の情報が必要です。実際に対峙した方から話を聞くのが一番だと思いまして」

「私としてもリベンジマッチの機会があるなら挑むつもりだ。そういうことならば、作戦が決まったら教えて欲しい」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「プロトコル333と洋上の邪神か……あまりのボスラッシュに頭が痛いな」

 

 クロウさんが余裕なさそうな表情で頭をかいた。

 それはみんな同じだ。

 

 重すぎる問題が山積みだ。

 それでもどれも放置できないが、一つずつでも解決していく必要がある。

 

「クロウさん、このフロリダに発生していた魔物はどうなりました?」

「それについては今は小康状態にある」

「私とクロウがいるんだぞ。それくらい朝飯前で終わるに決まっている」

 

 レオナさんはいつも強気だ。

 その自信満々な表情を見ると、今回の件もクロウさんがいれば楽に解決できるのではないかと思えてくる。

 

「敵はキューバの島と同じく半魚人の群れだった。とりあえず数を倒しまくったら、発生数が3日に1回、少数が出るか出ないかくらいまで落ち着いたんだが……」

「魚人とは別の敵が海から現れるようになったんです。半透明の粘膜を持った芋虫みたいな敵で、粘液が毒で……」

 

 クロウさんの話にマリアちゃんが付け足した。

 

 その話を聞いて俺とモリ君、エリちゃんの3人が反応した。

 

 独特な特徴がある敵だ。

 この世界の生物がいくら多様とはいえ、似たような敵がそんな何種類もいるとは思えない。

 

「タウンティン……ペルーで巨人との戦闘後にも似たような敵が出現しました。熱に弱いのですがとにかく数が多くて……」

「熱に弱かったのか。芋虫はとにかく物理耐久性が高くて、倒すのに必死だったんだが」

 

 飄々とクロウさんは語るが、その表情が相当苦戦したと訴えている。

 実際、あの敵を物理のみで倒そうとなると大変だろう。

 

「その芋虫……ユッグはゾス三神の眷属です。状況からして、洋上にいるであろうゾス=オムモグが放ったのではないかと」

「火に弱いというのはどれくらいなんだ? スキルの火が必要なのか、それとも一般人が松明を持って倒せるくらいなのか」

「松明でも倒せた実績はありますが、火を押し当ててても、瞬時に焼き払えるというわけではありません。可燃性の油が必要です」

「そうなると、火炎瓶のようなものを用意しておけば自衛はできそうだな」

 

 ユッグ対策はそれでいいだろう。

 もしかしたら入港してきた巡洋艦の中に、可燃性の油が積まれているかもしれないし、赤熱した石炭を投げつけるのも効果がありそうだ。

 最悪、資材の提供を頼むという手もある。

 

「それで、モーリス君、まずは何から手を付けるべきだと思う?」

「戦力的には余裕がないのですが、日数の制限があるプロトコル333を先に片付けたいと思います」

 

 クロウさんが頷いた。

 順番から考えればそれだろう。

 

「重要な任務なのは分かるが、当然町の防衛もあるので人はあまり割けない」

「なので、こちらはラビさんとカーターさんに行ってもらいたいです」

「その2人が必要な根拠は?」

「運営の情報に詳しいのがこの2人だからです。後は電波探知ができるレルム君に行ってもらいたいと思います」

 

 モリ君から直々の使命だ。

 ゾス=オムモグ対策に魔女の呪いを使える俺が残りたいところだが、プロトコル333の調査も必要だ。

 俺とカーター、それに電波探知ができるレルム君が外せないのは事実だ。

 

「前衛不足なので、タルタロスさんに参加してもらって4人で行こうと思います」

「4人で大丈夫なのか? 仮にも運営の拠点だった場所なんだろう」

「それでも、こちらにゾス=オムモグやユッグが来ることを考えると、あまり人を割けないというのは事実です」

 

 正直に言って戦力的には不安だ。

 何が起こるか分からないという状況なので、もう少し連れて行きたいところではある。

 

 それでも、タウンティンでユッグとの戦闘経験があるのはモリ君とエリちゃんの2人は残しておきたい。

 

 火に弱いという弱点や、粘液への対策、負傷した時の治療法、その他細かくて伝えきれていないノウハウも含めた情報は絶対に必要だ。

 

「とりあえず行ってきます。その間に町の防衛はお願いします」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 カナベラル基地にはその日の夜に出発した。

 右手に大西洋の海を望みながらひたすら北上する。

 

 マイアミの町に来るまでの間に、ある程度の道は把握している。

 なんなら、行きに通った轍がそのまま残っているので、そこをなぞるように進めば、安全に走行できることは保証されている。

 

 距離はそれなりにはあるが、朝までには十分到着できるだろう。

 

 レルム君は到着まで寝かせている。

 基地に着いたら頑張ってもらうので、今はこれでいい。

 

「しかし、いないな」

「何がいないんだ?」

「オレはアポロ11号だとか言いながらスカイフィッシュを飛ばしてくる人とかアニメのキャラクターを実体化させてくる敵とか」

「寝ぼけているのかお前は?」

「でも、ここはフロリダだぞ。今からカナベラルに向かうんだぞ。そういう妨害があってもいいと思うんだ」

「何の話なんだよ」

 

 スカイフィッシュは出てきそうだったのに。

 そう思いながら車を進める。

 

 カナベラル基地がある岬へは北の方が大陸と陸続きになっているので、そこから回り込めそうだ。

 

 8輪の装甲車は少しくらいの湿地ならばスタックせず走ることができるのは、ミシシッピで証明済みだ。

 多少海水を浴びるくらいならば特に問題はないだろう。

 

「それで電波の状況は?」

「無線はオンにしているんだが、何の電波も拾わない」

「何かこちらから呼びかけてみればどうだ?」

「何をだよ」

「Hello CQ!とでも繰り返しておけ」

 

 カーターは俺が言った適当な文言を繰り返し呼びかけ始める。

 真面目なのかいい加減なのかわからんやつだ。

 

「反応はあるかな?」

「分かりません。あればラッキーくらいのことなので」

 

 しばらく呼びかけると「ガッ」とノイズのような音が一瞬入った。

 

 こちらの呼びかけの反応ではないかもしれないが、ノイズの発生源がわかれば、何かの目安になる。

 

 再度呼びかけると、一瞬だけノイズが鳴る。

 意味のある音声は一切返ってこないが、これはこれで収穫だ。

 

「今のは応答なのか?」

「さあ? 自動的に反応する仕掛けが用意されているけど正常動作していないのかもしれない」

 

 どのみち情報などないのだから、できることを総当たりで試していくしかない。

 いつものトライアンドエラーだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 海岸線沿いをしばらく走ると、突然に舗装路が現れた。

 

 さらに、舗装路の脇に何やら赤い光が明滅している。

 この光が誘導する通りに進めということだろうか。

 

「この光って罠だと思うか?」

「この装甲車は元は運営の物だから、本当に誘導されているんだと思う。無理に突破しようとしてセキュリティか何かに引っかかって敵が出現しても面倒だし、このまま進もう」

「了解。敵が出たらその時にまた対応を考えよう」

 

 誘導灯通りに進むと、地面に円形の線が刻まれた場所へ着いた。

 

 周辺には何の建物も見当たらないようだが、誘導灯は、明らかにその円の中へ入れと促しているように点滅を繰り返していた。

 

「ここが基地なのか?」

「立体駐車場のエレベーターなのかもしれない。まずはその円の中に駐車を」

「毒を食らわば皿までってか。駐車料金はどうする?」

「料金案内もなかったしタダでいいだろう。いざとなれば踏み倒す」

 

 カーターは装甲車を案内に従って移動させて、停車した。

 

 なお、料金所はなかったので、料金は払わなくて済むようだ。

 もちろん、払う気など一切ないが。

 

 円の内側に車を停車させると、周囲に取り付けられた誘導灯が点滅を繰り返し始めた。

 

 何かの機械がひそやかに動き始め、モーター音が鳴り響くと、車は円形のプレートごとゆっくりと地下へと降りていく。

 動きそのものは都会の立体駐車場と同じだ。

 

 エリア51でこの装甲車を地下から出す時も同じ仕組みだった気がする。

 

 薄暗い照明がエレベーターの内壁に反射し、わずかな揺れとともに地下の世界が広がり始めた。

 

 上から響いてくるかすかな機械音だけが、現実と非現実の境界を曖昧にしているかのようだ。

 エレベーターが地下階に到達すると、誘導灯が点滅した。

 

 光の先には武骨なコンクリ造りの駐車場のようなスペースが広がっている。

 

「この先に停めて良いものやら」

「でも、停めるしかないだろう」

 

 カーターの運転で誘導灯が示す通りに駐車場内部へと進める。

 背後で大きな機械音が響き、今まで車が乗っていた円形のプレートが地上へと上がっていった。

 

「閉じ込められたか?」

「帰る時にはさすがにエレベーターは戻ってくるだろう。立駐と似たようなもんだと考えたい」

 

 地下駐車場には一応ラインが引かれていたので、そのスペースに車を停める。

 薄暗い照明が照らす駐車場内には他の車は一切停車していない。

 

 少し離れた壁際に「EXIT」の文字が書かれているのが見える。

 すぐ近くには黒塗りの金属製の扉もあるようだ。

 そこが入り口で間違いない。

 

「さて、ここからが本番だな」

 

 ここまでは順調だった。

 ただし、ここからは運営の元拠点である謎の基地だ。

 プロトコル333とやらが何なのか分からないが、まずはその情報を入手せねばならない。

 

 その上で、俺たちだけで解決できるならばそれで良し。

 他の仲間の協力が必要ならば、すぐに引き返して、仲間を連れてくる必要がある。

 

「タイムリミットは残り2日を切っている。まずはプロトコル333の正体を確かめるしかない」

 

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