収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 6 「第4チームとの再会」

 チェイニー艦長との会話を一旦打ち切って野戦病院に行くと、白衣を着たモリ君とエリちゃんが出迎えてくれた。

 

 モリ君の医師ファッションも似合っているが、エリちゃんの白衣もなかなかだ。

 いっそエリちゃんも看護師あたりを目指すと良いのではないだろうか。

 

「負傷者の方はどう?」

「全員治療済です。回復能力(ヒール)1度では完治しなかった方も数回かけて命に別状がないレベルまでは回復させたので、2、3日安静にしていれば大丈夫かと思います」

「そうか、良かった」

 

 一応、俺達に出来るだけのことはやった。その結果として多くの人を助けられた。

 手遅れだった方には申し訳ないが、それでも救える命を取りこぼさなかったことだけは良かったと思う。

 

「ところで、ラビさん、一度会って欲しい人がいるんですけど」

「もしかして第4チームの方達かな? さっき向こうで艦長に聞いたんだけど」

「そうです。一度ラビさんにも会ってもらった方が良いかと思って」

 

 モリ君は若干興奮気味で俺に告げた。

 

 確かに、4カ月越しに交わした合流の約束が果たされようとしているのだから気持ちは分かる。

 

 エリア51の地下であの映像を見せられた時にはもう二度と会える機会はないと思っていたが、こうして無事に……いや、あまり無事ではないが、一応無事に再会できたのは喜ばしい限りだ。

 

「俺の口から今の状況について一通り説明はしました」

「一通りと言うのは?」

「俺達が最初の部屋を出てからここまでの簡単な経緯と、運営の地下で皆さんのことは目撃して知っていました。今は日本へ帰る旅の途中ですということころまで」

 

 つまりはだいたい一通りか。

 俺から状況を説明しなくても良いのは助かる。

 

 モリ君に案内された先には簡易ベッドに腰かけている女性がいた。

 

 見た目の年齢は大学生くらいだろうか。

 知的でかなり落ち着いた感じに見える。

 

 その横には男女1人ずつ。

 この野戦病院へ移送した時は全員軍服を着ていたので気付かなかったが、確かにタウンティン……南米ペルー在住の方とは人種が異なるようだ。

 

安西海音(あんざいあまね)……アムネジアと申します。貴女が今のモーリス君が所属しているチームのリーダーでしょうか?」

「ラヴィ……上戸佑(うえとたすく)です。リーダーはモーリス君で私はただのアドバイザーです」

「いつもこうなんですよ。面倒ごとは全部俺に押し付けたがりますけど、この人が実質のリーダーです。こんなですけどたまに頼りになるんですよ」

 

 アムネジアさんに自己紹介をしていると、モリ君が会話に割り込んできた。

 

「『こんな』とか『たまに』とか地味に酷いことを言われてる気がする」

 

 モリ君がいつになくはしゃいでいる。

 余程この第4チームとの再会が嬉しかったのだろう。

 

「なるほど。モーリス君は良い仲間に恵まれたようだ。余程良い出会いと経験が有ったのだろう。本当に見違えたよ」

「モーリス君はよく頑張って私達を引っ張ってきてくれました。成長率ならば私達の中で一番ですよ。今では自慢の仲間です」

「それは頼もしい。あの時に無理にでも誘っておけば良かった」

「姐さん、やめてくださいよ。その場合は置いてかれたのはおれですよ」

 

 アムネジアさんと一緒にモリ君をべた褒めしていると、横に立っていた男性から声がかかった。

 

「冗談だよ。私がお前達を置いていくわけないだろう」

「もう、からかわないでくださいよ」

「そういう落ち着きのないところだよ」

 

 第4チームの方も全員の仲が良さそうで安心した。

 

「おれは葛城圭吾(かつらぎけいご)。レットです」

「私は塚山麻衣(つかやままい)。ロビンです」

 

 各々と自己紹介と握手をする。

 

「早速で悪いのですが、もしかしたらこの集落が襲われる可能性があります。手を貸していただけないでしょうか?」

「襲われるって、あの船に乗っていた時に襲ってきたあの化け物が来るかもしれないって話だよね」

 

 それを説明するとアムネジアの表情が曇った。

 

「あいつは私の目の前で何人もの兵士を攫っていった……」

「それは姐さんが悪いわけじゃない」

「いや、私のミスだ。せっかくこの兵士さん達に助けてもらったのに恩を返すことが出来なかった……」

 

 おそらくこの第4チームの方達も襲撃してきた邪神、ゾス=オムモグに対して立ち向かおうとしたのだろう。

 

 負傷しており、体調も万全な状態からは程遠かったが、それでも船員の方々を護るべく立ち向かおうとした。

 

 だが、手も足も出なかった……と。

 

 船の上という行動制限がかかる場所で未知の敵から襲撃されたら誰だってそうなる。

 俺達だってそれだけのハンデを与えられたならば当然そうなるだろう。

 

 だからこそだ。

 

「邪神にリベンジするためにも協力をお願いします。今度はあいつをこちらに有利なフィールドへ誘い出して勝負を決めます」

「あいつは手強いぞ。フォーメーションがどうのという普通の作戦では対抗するのは難しいいだろう」

 

 それについてある程度は作戦を考えていると説明しようとした時にモリ君が割り込んできた。

 

「俺達はあの部屋を出てから巨人(イソグサ)やダゴンという60m級の敵と戦った経験があります。それは今度の敵相手にも生かせると思います」

 

 モリ君がそう説明すると、アムネジアさんは目を大きく開いて驚きの表情を見せた。

 

 こちらが巨大な敵との戦闘については既に経験済ということだけではなく、モリ君が自信満々に答えたこと……成長について驚いているようだ。

 

 ずっと保護者をやってきた俺もそう思う。

 

 最初の頃の……どこか現実を見ておらず、なんとなく頼りがなかったモリ君はもうどこにもいない。

 俺は特に何もしていないが、冒険を通じて精神的に強く、立派に育ってくれた。

 

「大丈夫です!」

「……強くなったね」

「もちろんです、うちの頼れるリーダーですから」

 

 エリちゃんも会話に参加してきた。

 

「そこの子供達やタルタロスのオッサン、別れた仲間達もみんな世話になってるからな。大した奴だよ、こいつは」

 

 今度はカーターだ。

 珍しくモリ君をべた褒めしている。

 

「こいつはこいつで別れたリプリィさんや、そこのエリスとラビ助の世話になってるし、持ちつ持たれつというわけだ」

「いつまで経ってもあの部屋から出て来なかったので、どうなったのかを心配してたけど、杞憂だったみたいで安心したよ」

 

 アムネジアさんがそう言いながら立ち上がった。

 

「私としてもリベンジマッチの機会があるなら挑むつもりだ。作戦が決まったら教えて欲しい」

 

   ◆ ◆ ◆ 

 

 俺はゾス=オムモグ撃退作戦のために集まった一同の前に北米の地図を広げた。

 

「正直に言って100m級の巨体があり、高速で海を泳ぎ回る生物に対して私達が出来ることなんてほぼありません」

「そんなことは分かっている。我々は完調の状態からここまで被害を受けたのだから」

「そこでこの地形を使って、まずはこの敵の動きを封じます」

 

 まずは現在位置の集落の場所に鉛筆で丸を書いた。

 

「この北はデラウェア州のデルマーバ半島と大陸本土に囲まれたチェサピークという湾があります。ここへ誘い込みたいと思います」

 

 そのまま地図を指で辿って川の河口付近の先まで進めていく。

 

 川と言っても大型の船舶も余裕で通過出来る海峡のようなものだ。

 

「更に北上してポトマック川を入り、更に進むとワシントンDCに行き着きます」

「だが、ここで行き止まりだ」

「行き止まりだから良いのですよ」

 

 ポトマック川を進んだ先にあるのがアメリカの首都、ワシントンDC。

 そこから少し入った場所にあるのが大統領府……ホワイトハウスだ。

 

 もちろん、この時代にはホワイトハウスどころか集落すらない無人の湿地帯が広がっているだけなのだが。

 

 逆に何もないからこそ、決戦の場所にするには相応しい。

 

「この浅瀬に奴を追いやれば、逃げ道を断った上で、こちらは陸戦で攻撃を仕掛けることが出来ます」

「だが、奴には異常な再生能力があるぞ」

「それについては作戦があります。私が巨人(イソグサ)を倒した時もですが、あまりに受けたダメージが大きすぎると瞬時に再生は出来ません」

「つまり逃げられないように追い込んだ後に再生速度を上回る攻撃を与えれば倒せると」

「だからこそ陸に上げることは絶対条件です。深い海の底へ潜られると私達の攻撃はほぼ届かなくなるのでその間に回復されてしまいます」

 

 一応、極論として倒す方法は何パターンかはあるのだが、周辺環境に厳しかったり、俺自身によろしくなかったりと問題が山積みだったりする。

 島に追い込む、洋上で巡洋艦ごと爆破なども考えたが、どれも確実性に欠ける。

 

 やはり陸に誘い込んでやるのが一番だ。

 

 ただ、問題はここからだ。

 この作戦が成功するかどうかは、艦長の許可が出るかどうかにかかっている。

 

「それ以上話を進めなくとも理解出来る……奴を引き付けるために艦を囮にしろと言っているのだな」

「大変申し訳ないのですが、その通りです。奴が狙いを絞っている巡洋艦を囮にして、湾内へ誘い込んでいただきます。私としてはなるべく艦を護るつもりではありますが」

「分かっている。これ以上船体にダメージを受けたら、流石にこの艦の修復は不可能……それどころかその場で沈没も在り得る」

「ですが、他に奴を引き付けられそうな存在はありません。ましてや水量が少ない川へ追い込むことなんてとても……」

 

 ここから先は艦長の決断に全てがかかっている。

 

 艦を壊すのはなしだとするならば、また別のプランを1から考えるだけだ。

 

 ただ、今以上のプランはないと思っている。

 

 少なくともゾス=オムモグの逃げ道を塞ぐには一度地上へ誘い出すしかないだろう。

 

 今すぐに揃えられる手札で出来る役はこれくらいしかない。

 

「確かにこの作戦は効果的ではあるが、艦を潰すような作戦は私の一存では決められない。艦隊司令に連絡を取ってからになる」

「そこはお願いします」

「その役目を私にやれと」

「大変心苦しいのですが、それだけは部外者である私には出来ません」

 

 他に有効な作戦があれば良い。

 

 だが、他にない以上は大変心苦しくはあるが艦長に任せるしかない。

 

 しばらくの沈黙。

 様々な葛藤が有ったのだろう。

 

 チェイニー艦長が口を開いた。

 

「この船を壊すつもりはないが、囮は引き受けよう。奴をそのワシントンDCとやらに誘い込んで見せる」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

 

 概ねの方針は決まった。

 後は実際に船員……タウンティンの軍人達への命令権を持つ艦長に細かいプランを詰めてもらおう。

 

 作戦準備に8時間。

 作戦決行は18時間後だ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 作戦準備が開始された。

 

 まず、艦長の指示で亡くなった方の遺体を巻き添えにならないように全て降ろした。

 

 続いて船員の私物、不要な予備資材、外せる装甲、壊れて役にたたない砲塔などについても降ろしていく。

 

 こちらは少しでも船の速度を稼ぐための軽量化とのことだ。

 

 どのくらい効果があるのかは分からないが、何もやらないよりはマシなはずだ。

 たとえ1ノットでも速度を上げられた方が作戦の成功率は増す。

 

「この機関砲用の弾丸はどうする?」

「機関砲本体と一緒に車へ積んでください。分解と再組み立ては砲手を務めている方がやってくださるとのことです」

 

 艦内に有った武装の類も全て外して、タルタロスさんに装甲車まで運んでもらう。

 元々残弾は残り少ないので、これを船に積んでいても大した攻撃は出来ない。重いだけだ。

 

 クレーンも重機も不要で機関砲をひょいと担いで運べるタルタロスさんの怪力がありがたい。

 

「車に乗るかの?」

「うちの装甲車は下手なトラックよりサイズもパワーも大きいので大丈夫でしょう」

「なるほど」

 

 それでも機関砲と銃弾を載せると、流石に装甲車の車高が大きく沈み込むくらいには重かった。

 

 ただ、この機関砲にも担ってもらう役割が有る。

 手間ではあるが作戦場所まで運んでもらうことにする。

 

「残ってる砲弾はどうする?」

「艦長の話だと3発だけは艦内に残せとのことです。なので、これも有効活用しましょう」

 

 砲弾についてもタルタロスさんに車まで担いで運んでもらった。

 

 全てを乗せると流石のチート装甲車も積載過多で悲鳴を上げ始めたが、この世界には過積載取り締まりなど来ないので、なんとか頑張って欲しい。

 

 車の運転はカーターに任せて、タルタロスさんと現地に向かってもらうことにした。

 

「運転は任せたぞ。機関砲は現地に着いたらタルタロスさんに降ろして貰い、その後は艦の砲手が設置と組み立てをする予定だ」

「オレは運ぶだけだぞ。こんな銃器の取り扱い知識なんてないぞ」

「運転だけで十分だよ。ただ、現地で荷物を降ろしたら、今度は乗組員の皆さんを運ぶので戻って来てくれ。何回かピストン運転することになることになると思う」

「全く……直接戦闘には参加しないからな」

「ああ、大丈夫だ」

 

 続いて船員の皆さんにも作戦場所まで移動してもらう。

 

 相手がイソグサ級ならば少しでも火力は欲しい。

 ライフル銃での援護射撃でもダメージソースになるので攻撃支援に入っていただけるのはありがたい。

 

 他に作戦に使用するということで、廃材を利用して急造された衝角が船の舳先に取り付けられた。

 これを奴に体当たりして突き刺すということだろうか?

 

 明らかにバランスが悪く強度もたいしたことはなさそうだが、決戦の間だけ持てば良いという考えだろう。

 

「沖合10kmの地点に敵……ゾス=オムモグを確認!」

 

 そうやって準備を進めていると、船の上から双眼鏡で海の方を監視していた船員から報告が届いた。

 

 やはり敵もこの巡洋艦を仕留めることを諦めていないようだ。

 

 だが、この港がある浅瀬部分には入ってくることを躊躇しており、こちらが痺れを切らして出て来るのを待ち構えているようである。

 

 逆にこちらがいつまで経っても出ていかないと諦めて戻っていく可能性は高いだろう。

 

 一度外洋に出られるともう奴がいつどのタイミングで襲ってくるか分からなくなる。

 そうなれば誘い込み作戦は失敗だ。

 

 その前に作戦を開始する必要がある。

 

「作戦決行まであと何時間でしょうか?」

「3時間……この間に全ての準備を整えるぞ」

 

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