収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 20 「巡洋艦ドリフト」

 ゾス=オムモグの撃退作戦が始まった。

 

 最小限の船員だけが乗り込んだ巡洋艦が港から出航する。

 

 この艦を動かしているのは必要な最低限の技師と操舵士、艦長と副長のみ。

 

 それ以外の乗組員には船を降りてもらった。

 作戦方針が「いのちをだいじに」という理由もあるが、少しでも船体重量を軽くして、ゾス=オムモグの追跡から逃れるための船速を稼ぐためという目的もある。

 

 あとは甲板の上で待機している俺とサーフボードを持ったアムネジアさんの2人だけだ。

 

 アムネジアさんは別にふざけているのではなく、サーフボードを使って、波に乗るように空中を飛行して移動できるらしい。

 律儀にトラパーならぬ光る粒子の波も吹き出る。

 

 どういう原理で高くゲットライドできるのかについて考えるのは止めた。

 ファンタジーはどこに消えたんだとツッコミどころしかないが、まあソシャゲといえばソシャゲらしい。

 

 要するに空を飛べて、万が一には自力で逃走できる2人が残ったという話だ。

 

「言い出しっぺが船に乗っていなければ、船員や艦長も良い気分はしないでしょう。よく分からない外部の人間が船を危険に晒せと言って逃げたと」

「とんだ貧乏くじだね」

「でも、アムネジアさんまで乗らなくても良かったんですよ」

「私は復讐したいだけだよ。目の前で私たちを助けてくれた人が食われたんだ。一発くらい殴り返してやらないと気が済まない」

 

 実に分かりやすい人だが、嫌いではない。

 この人たちと早いうちに合流できていたら、また違う冒険があっただろう。

 

「私もこのシャークトパスを目的地に誘い込むまでは船を護らないといけませんので」

「何なんだその呼び名は?」

「こいつに似た怪物が出て来るサメ映画があるんですよ。2作目の名ゼリフ『イケメンは死なない』は有名ですね」

 

 そうしているうちに、煙突が白い煙を吐き始めた。

 汽笛が鳴った後に、巡洋艦はゆっくりと動き出す。

 

 すると、さっそく洋上にいた流線型の黒い影が動き始めた。

 

 話に聞いていた通り、サメの頭の後ろにクリオネがくっついたような怪物……ゾス=オムモグ。

 バッカルコーンを閉じて真っ直ぐに船へ接近してくる様子はまるで魚雷だ。

 

 巡洋艦の巡航速度はカタログスペック上は27ノットらしい。

 

 軽量化と後先考えずに機関部を最大出力でぶん回すことにより30ノットまでは出せるはず……というのは話半分でいいだろう。

 どうせそこまでの速度が出るコンディションでもない。

 

 どのみち、敵の方が圧倒的に速く、一瞬で追いついてくる状況に変わりはない。

 まともにやったら囮などできない。

 

 ただ艦が沈められて終わりだ。

 それを解消するために俺たちがいる。

 

「イケメンは死なない。良い言葉じゃないか。それでそのイケメンはサメから生き残るのかい?」

「言った直後に超速で死亡フラグを回収して死にますよ。あとイケメンを殺害したのはサメではなくプテラノドンとオニカマスの合体生物です」

「イケメン死ぬのかよ!」

 

 そんなものだ。

 ホラー映画は現実と同じで、油断した奴、慢心した奴から先に死んでいく。

 

「では少し下がってください。一発大きめのをぶちかまします」

「一発?」

 

 アムネジアさんが距離を取ったのを確認して鳥3羽の「魔女の呪い」を放って船に伸びてきた触手を全て焼き払う。

 

 熱線は一瞬で本体にまで到達するが、甲板からの発射では射角を取れないので、ゾス=オムモグ本体の機能を停止させるまでは至らない。

 ただ、触手を何本も失い、本体にもそれなりのダメージが入ったからか、奴は海の奥底へと逃げ込んでいった。

 

 3羽消費の魔女の呪いを一発当てた程度で、超再生能力を持つ100メートル近い巨体にはどうにもならない。

 それは巨人戦で体験済なので、特に悔しがる必要もない。予測の範疇だ。

 

 そして、こちらも予想通りというかなんというか。

 周囲に焼きイカの匂いが立ち込めた。

 

 さすがにこいつを食おうとは思わないので、後日、別のイカを獲って炙って食べよう。

 

「とんでもない火力のスキルだね。そのまま倒せたんじゃないのかい?」

「いえ、巨人の時はこうやって全体の90%を焼き払いましたが、その状態から復活されたんですよ。一撃で倒せる保証がなければいくら撃っても無駄です」

「そこまでなのかい、奴の再生力ってのは」

「だからこそ軍の皆さんも苦戦しまくったんですよ。単独では倒せない。だから作戦を練った上での連携が大切なんです」

 

 一度水中に没したゾス=オムモグはさすがに一瞬で再生ができないのか、それとも熱線に対して警戒をしているのか。

 なかなか浮上して新たな攻撃を仕掛けてこようとはしなかった。

 

 もちろん、巡洋艦への攻撃を諦めたわけではないのは分かる。

 

 航跡を追うようにして、海面に不自然な波が立っているのが見えるからだ。

 

 ただ、こうやって攻撃を繰り返していれば、速度が遅い船でもやつを誘い込むことができるし、追いつかれることもない。

 

 その波を振り切るように船は煙突から白煙を高く吹き出しながら外洋からビスケーン湾内へと入った。

 

 左手にはキーズ諸島の入り口、エリオットキー。

 右手にフロリダ半島の海岸線が見える。

 

 ようやく入り口に到達したが、作戦地点にはまだまだ距離がある。

 

 目指すはこの海が切れたその先……キーラーゴ島だ。

 

「来たよ!」

 

 アムネジアさんが突然サーフボードに乗ったかと思うと、甲板を滑るように飛び回る。

 そして、ボードのエッジを使い、船の横から回り込んできた触手をまとめて数本切断した。

 

「こいつどこから?」

「船の死角に入ってそこから細い触手を伸ばしてきた。さっきのラヴィさんの攻撃がよっぽど怖かったようだね」

 

 アムネジアさんが一瞬だけ船の外へ飛び出した後、すぐに戻ってきた。

 

「船の斜め下に隠れているよ。本体は見えない位置に潜んで、触手だけを長く伸ばして攻撃しているようだ」

「では、本体を直接叩きに行きましょう」

 

 使い魔の一体を海中に沈めて直接目視で確認するようにする。

 

 アムネジアさんの言うとおり、船の死角にうまく隠れているのが分かった。

 俺の最初の攻撃を受けた時点で、迂闊に真正面から攻撃を仕掛けるのは危険だと学習したのだろう。

 

 知能は野生動物並みのようなので甲板や船体への攻撃で済んでいるが、船の弱点がスクリューだと気づかれるとマズい。

 奴が学習する前に、なんとか作戦地点に到達する必要がある。

 

「少し船から離れます」

 

 箒に乗って少し浮上して、魔女の呪いを発動させる。

 

 甲板から離れた俺を仕留めるべく伸ばしてきた触手を逆に分解してこちらの技の発動に必要なエネルギーに変える。

 そこから、海中にいる敵に向かって熱線を放つ。

 

 一瞬の水蒸気爆発と共に海中に巨大な穴が開く。

 

 だが、やはり今回も倒しきれなかった。

 熱線が身体の大半を焼き尽くす前に、本体は深い海の底へ消えていく。

 

 強力な再生能力があるからこその戦法だ。

 搦手を繰り返してこちらがミスするのを待ち構えているようだ。

 実にやりにくい相手だ。

 

「持久戦になりそうですね」

「元々陸に誘い込む作戦なんだ。洋上で倒そうなんて思っちゃいないさ。気楽に行こう」

 

 アムネジアさんの言う通りだ。

 ここで焦っても仕方がない。

 

 巡洋艦は順調に南下を続けている。

 今の調子でこのまま進んでいこう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 それから5分に一度は襲撃があり、それを俺とアムネジアさんが攻撃して追い返すということが続いた。

 

 巨人(イソグサ)は巨体からの格闘やらビームという強力な攻撃を備えていたが、こいつは攻撃力に欠ける分だけ狡猾さとスピードがある感じだ。

 どちらにしてもやりにくい相手ということに変わりはない。

 

 クロスキーと呼ばれる大きな島が進行方向に見えてきた。

 ゴールは近いという感じだ。

 

 だが、ここからどうやって奴を陸へ押し上げるつもりなのか?

 

 ここの部分は艦長や副長に一任はしているが……。

 

 そう考えていると、突然に船の右舷で大きな爆発が起こった。

 

 もしかして、艦内に残しておいた砲弾はこのためか?

 

 船の右側で爆発が起こったことで船体は大きく傾き、反動で急速に左方向へ倒れ込んだ。

 

 甲板の上にいた俺たちは当然この急な動きにまともに立っていられる状態ではなくなった。

 

 慌てて箒に飛び乗って浮上する。

 アムネジアさんも同様にサーフボードに乗って浮き上がった。

 

「一体何が起こったんだ? まさか自爆?」

「まさか、爆発で急速ブレーキをかけるつもりなのか?」

 

 さらに追加で爆発。

 

 船体が耐えきれないのか、あちこちから激しく悲鳴を上げるような金属が軋む音が聞こえる。

 

 船はそのまま沈没するかのように大きく傾くが、何とか堪えた。

 

 船体の半分近くを水中に沈めながらも、左方向に急旋回を始めた。

 ターンとかそういうレベルではない。

 

 衝撃で実際にフレームの一部が破断しているのだろう。

 錯覚ではなく、船が目に見えて歪んでいる。

 

「ブレーキじゃない、これスピンターンだ」

 

 理屈では分かるが半分自爆、下手すればそのまま沈没する可能性だってある無茶苦茶な動きだ。

 

 だが、この意表を突く動きは、追跡中のゾス=オムモグにも予想外だったようだ。

 

 全速力で艦へと向かっていたゾス=オムモグはこの急な旋回運動に対応できず、船尾を掠めてそのまま一直線に陸地へと突っ込んでいく。

 速度的に陸への乗り上げは避けられない。

 

 そこに360度ターンを果たした艦が後ろから突き上げる形になった。

 

「まさか、この船であのデカブツを押すつもりか!?」

 

 そのまさかだった。

 

 巡洋艦の煙突が、明らかに正常とは思えない真っ黒な黒煙を吐き出す。

 そして、聞いたこともないような爆音を上げて前進を始めた。

 

 ゾス=オムモグの方も何とか体勢を立て直そうとするが、艦の動きの方が一歩早かった。

 

 無防備な敵の横っ腹に急遽取り付けられた廃材製の衝角が深々と突き刺さる。

 船体のあちこちがゾス=オムモグと巡洋艦、巨体同士のぶつかり合いに耐えきれずに音を立てて砕けていく。

 

 ゾス=オムモグはサメの口と、クリオネの口、両方から苦悶の悲鳴を上げた。

 

 もちろん巡洋艦はそれで止まらない。

 オーバーロードしたエンジンでの加速を受けたゾス=オムモグは陸の方へどんどんと押されていく。

 

 何とか水に戻ろうと身体を捻って暴れるものの、急造の衝角が胴体のど真ん中に突き刺さっているので逃れることはできない。

 逆に突き刺さったそれがその身体を引き裂いていく。

 

 周囲に空気を震わせるような轟音が響いた。

 

 巡洋艦が浅瀬に近づきすぎて船底を海底に打ち付けたようだ。

 エンジン部分も限界が来たのか、あちこちから火の手が上がっている。

 

 その勢いで急造の衝角はポッキリと根本から折れて巡洋艦とゾス=オムモグとの距離が開いた。

 

 ただ、巡洋艦の特攻により、ゾス=オムモグの巨体の大半は海中から引き揚げられ、湿地帯の泥と草の上にその身を投げ出した。

 

「やってくれたよ艦長は!」

 

 いよいよここからは俺たちの戦いだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 巡洋艦は完全に動きを止めていた。

 

 煙突からは相変わらず黒煙を吐き出しているが、全く動く気配はない。

 当然だ。

 船体の大半はゾス=オムモグと同じように湿地帯の上に上がり、船底も激しく損傷している。

 

 自沈でもするつもりなのかという砲弾の爆発を使った無理のある旋回。

 機関へ過剰な負荷をかけた特攻まがいの体当たり。

 

 元々ダメージを受けていた船体にとどめを刺すようなこの動きを繰り返したために、もう限界なのだろう。

 

 乗組員が負傷していないかは気になるが、それは後回し。

 まずは奴の撃滅が優先だ。

 

 火蓋を切ったのは、事前に運び込んでいた機関砲からの攻撃だ。

 

 これはかつて巡洋艦に装備されていたものを取り外し、この作戦地点に再設置したものだ。

 

 残弾数は少なく、20秒ほどで全弾撃ち尽くした後はもう何もできなくなるが、それでも手持ちのライフル銃とは桁違いの威力がある。

 

 衝角による突撃で大きく抉られたゾス=オムモグの傷をさらに抉って広げていく。

 

 続いて第二撃。

 

「もう少し陸の方へ移動してもらうぞ!」

 

 タルタロスさんの全身がスキルによる青い光に包まれた。

 

 シンプルだが、それ故に強くて応用範囲が大きい筋力強化のスキル。

 その怪力で巡洋艦の主砲で使用されていた砲弾を素手で掴み、そのまま勢い良く投擲した。

 

 さすがに主砲による砲撃とまではいかないが、それでも相当な速度で飛んだ砲弾はゾス=オムモグの巨体に突き刺さった。

 

 さらに2発目、3発目と投擲された後にレルム君がボールのように丸い電気の塊、エレキボールを杖の先に生み出した。

 

「行けっ!」

 

 エレキボールは鋭い回転と共にタルタロスさんが投げつけた砲弾に着弾する。

 それが雷管代わりになったのか、一気に大爆発を起こした。

 

 奴の巨体は、その爆発に吹き飛ばされ……そして発生した炎から逃れるように、さらに水辺と巡洋艦から離されていく。

 

 続いて巡洋艦の乗組員たちによるライフル銃での銃撃だ。

 規律正しい動きでライフルを構え、一斉に射撃を行う。

 

 こちらは致命傷には程遠いが、それでも機関砲と砲弾で与えた傷を抉り、足止め……そして乗組員たちの復讐を果たすには十分だ。

 やられっぱなしの乗組員たちの鬱憤(うっぷん)も少しは晴れただろう。

 

 そのライフルによる一斉射撃も止まった。

 元々船に積んでいた弾丸の量はさほど多くないからだ。

 

「邪神相手はまず俺がやらないと始まらないな」

 

 なので、ここからは俺たち能力者のターンだ。

 

 箒に乗って突撃。

 奴の巨体の上へ飛び乗り、素早くバルザイの偃月刀で旧神の印(エルダーサイン)を刻み込んだ。

 

 これで回復能力や防御能力も少しは低下するはずだ。

 

 そのままその場に残っていると、味方の攻撃に巻き込まれるので速やかに退避する。

 

「追撃頼む! 目標はこいつに刺さったままの衝角!」

「ドロシー! レルム! お前たち2人の番だ!」

「ハイドロカノン!」

「エレクトロビーム!」

 

 ドロシーちゃんの超水圧による水流が、連続攻撃によって受けたダメージをさらに広げる。

 続いて、突き刺さったままの衝角に向けてレルム君が放ったビームが空気を焼く轟音と共に飛んだ。

 

 ビームは避雷針に落ちた稲妻のように廃材製の衝角へと吸い込まれた。

 ゾス=オムモグの巨体に電気によるダメージが広がり、全身から白い煙が立ち上り始めた。

 

 匂いはやはりイカだった。

 

「近接組が仕掛けるための隙を作るぞ、できるな新米盾!」

「もちろんです!」

 

 マークさんとレオナさんがそれぞれ盾を構えてゾス=オムモグに向かって走った。

 2人を薙ぎ払おうとゾス=オムモグが触手を振り回すが、それをウィリーさんが放ったライフルとガーネットちゃんの風が迎撃する。

 

 ある程度近づいたところで、マークさんとレオナさんの2人が盾を中心に、光る円形の力場を広げた。

 ゾス=オムモグが触手を振り回すも、その盾が作り出した力場が全てを受け止める。

 

 熟練のレオナさんに対してマークさんは若干押され気味ではある。

 それでも、何とか大地を踏みしめ、歯を食いしばり、両手で構えた盾を必死で支えている。

 

「意地があるんだよ! たとえ半端者でも!」

 

 盾から放たれた光が強くなり、一瞬だが触手を大きく押し返した。

 

「近接組、任せた!」

「任された!」

「任されました!」

 

 すかさずモリ君とエリちゃん、そしてクロウさんが一気に駆け出した。

 

 盾役2人が触手攻撃を受け流した隙を狙って、一気にゾス=オムモグの巨体に接近する。

 アクロバット競技のように軽やかに飛び跳ねながら、一気に胴体部分へと移動した。

 

「衝角に集中攻撃だ!」

 

 狙うはゾス=オムモグの中心……突き刺さったままの衝角。サメとクリオネを繋ぐ中間点。

 

 モリ君とクロウさん、2人が能力で作り出した巨大な斧がまるで薪割でもするかのように激しく打ち込まれる。

 さらにその斧の上にエリちゃんがスキルで強化した飛び蹴りを入れる。

 

 蹴りの勢いが加わったことで、斧がより深く食い込んだ。

 

 だが、その巨体を分断するにはあまりにも遠い。

 第4チームのロビンさんの弓攻撃が追加で入るが、まだ足りない。

 

「もちろん私も参加させてもらうよ!」

 

 ここでアムネジアさんが来た。

 

 サーフボードを巧みに操って飛行。

 勢いを付けてモリ君が作り出した斧の上へ攻撃を入れた。

 

 斧はさらに深く食い込み、衝角が抉りだした傷にまで到達。

 傷をさらに広げて、大きく引き裂いた。

 

「とどめはラビさんですか?」

「いや、違う。とどめは巡洋艦のリベンジに決まっているだろ」

「巡洋艦? これ以上何ができるんですか?」

「正しくは、巡洋艦が運んできた砲弾だ!」

 

 俺の合図で、近接組が全員素早く撤退する。

 

 あまり時間を掛けると、再生が始まってしまい、一連の攻撃が無駄になってしまう。

 だが、心配はしていない。

 このタイミングならば十分に間に合う。

 

「全員、この場から退避! とどめはタルタロスさんに任せる」

「そういうことですか。分かりました」

 

 モリ君たちが退避したのを確認して、タルタロスさんへ手信号で合図を送る。

 タルタロスさんが最後に残った砲弾を持ち上げ、全員の連携攻撃で大きく広がった傷口へと投げつけた。

 

 傷口から奴の内臓へと深く砲弾が食い込む。

 最後にレルム君がエレキボールを投げつけて点火すると、大きな爆発が起こり、ようやく奴の巨体が大きく真っ二つに引き千切られた。

 

 船の乗組員たちから一斉に大歓声が上がった。

 

「じゃあ最後の片づけは俺の仕事だな。あいつが二度と再生できないようにトドメを刺してくる」

「気を付けて。手負いの獣が一番危険だ」

 

 アムネジアさんへ頭を下げた後に鳥を召喚しながら箒で近付いていく。

 

「まずは鳥を5羽解放(リリース)」

 

 一気に10羽分を解放するとキャパオーバーで俺にもダメージは入る。

 なので、こうやって5羽ずつ処理していくことにする。

 

 まずはスキルの力で出現した黒い球体を上半身……サメの頭部分へと叩きつけて分解して黒い霧へと変えていく。

 さすがに半分になっても50メートル級の巨体を全て霧化させるのは不可能だ。

 

 分解した時点で、熱線を下半身に向けて照射。

 

 スキル再使用間隔の3分を待って、魔女の呪い2回目の発動。

 

 出現した黒い球体に食わせることでようやく上半身全てが霧化して消滅した。

 

 2回目の熱線で残っていた下半身を全て焼き尽くす。

 

 もう安全であるという合図のために箒を頭上に掲げて大きく振り回すと、巡洋艦の乗組員たちがバケツを片手に走ってきた。

 

 バケツの中に入っているのは可燃性の油。

 巡洋艦の予備の燃料として積まれていたものだ。

 

 これを、それでもなお残っているゾス=オムモグの破片へとかけて、念入りに火を点けて焼いていく。

 

 破片も一応は再生をしようとプルプル動いてはいるが、やはりこの状態から完全再生はできないのだろう。

 肉塊が動いているだけだ。

 

 さすがに小さな破片から再生することはないとは思うが、念には念をだ。

 放置していて良いものではないので駆除してしまいたい。

 

 また、今の状況で巨人の時と同じように追い打ちでユッグが現れても、こうやって油と火を用意しておけば容易に対処できるという理由もある。

 

「ラビさん、俺たちも手伝った方が良いですか?」

「いや、モリ君とエリちゃんは艦の方を見に行って欲しい。巡洋艦であんなアクロバティックな動きをして中に乗っている人が怪我人がゼロってことはないと思う」

「分かりました。行ってきます」

 

 モリ君とエリちゃんは器用に海面から出ている岩にピョンピョンと飛び乗りながら艦へと走っていった。

 

「私たちも参加した方がいいかね?」

 

 今度はアムネジアさんと第4チームの2人だ。

 

「アムネジアさんたちは艦の方の救助に向かってください。特にレットさんの回復能力には期待しています」

「分かった。今から3人で救助に向かう」

 

 それから3時間ほど……日没前には何とか全ての破片を焼いて駆除することができた。

 

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