収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 15 「邪悪な魔女」

 地下の構造はサンディエゴの近くに有った施設とほぼ同じだった。

 

 薄暗い通路を進んでいくと、やはり電子ロックで閉ざされた部屋があったが、カーターの指紋と顔認証で一発クリア。

 

 管理室の中もコンソールやモニターが並んでいるという構造自体はほぼ同じだ。

 これならばカーターに任せて良いだろう。

 

「じゃあまずは日本語化と。流石に慣れたものだ」

「慣れても今後こんな経験を活かせるところなんてないのが欠点だな」

「全くだ。技能手当とか欲しいぜ」

 

 カーターは慣れた手付きでキーボードを叩いて次々とモニターにウインドウを表示させていく。

 

「それでこの町の状況は?」

「良いニュースと悪いニュースがある。どちらを聞きたい?」

 

 カーターはモニターに何かの文章を表示させて、それを読みながら答えた。

 どうせなら良い話から聞こう。

 

「まずは良いニュースの方で頼む」

「じゃあそちらからだ。元々この町は地球の100倍の速さで時間が経つこの世界で運営が活動するための拠点だ」

「どういうことだ?」

「要するに、運営が少し目を離している隙にこの世界では数十年が流れてしまうので、せっかく管理施設を作っても凄まじい勢いで朽ちていく。だから、自分達が不在の間のメンテ要員が必要だった」

 

 理屈は分かった。

 

 運営もゲームを50年に一度しか開催しないが、その間に用意した基地などが劣化してしまうと困る。

 

 そのために決して朽ちない町と、滅びずに運営の活動へ奉仕続ける作業要員が必要だったということか。

 

「なので建物には自動修復するように魔術式を組み込んだ。それがこの町……セレファイスの仕組みだ」

「人の方はどうだ?」

「こちらも似たようなものだな。自動修復する魔術式を体内に埋め込んだクローン人間を作って労働者として働かせていた」

「やっぱり不老不死なのか?」

「いや違う。老化はしないってだけだ。物理的には普通に死ぬ」

「なら、もし欠損要員が出たらどうするんだ?」

「その時は同じタイプの人造人間を再生産して入れ替え……ひでえ話だ」

 

 そこでふと気付いた。

 

「もしかして良いニュースってのは?」

「自動修復のためのエネルギー源は奴らの撤退により品切れだ。だから、この世界に運営が作った施設は次の50年後には何も残らない」

「つまり、運営の拠点を捜して潰していかなくても勝手に朽ちていくってことか」

「そういうこと」

 

 確かにこれは良いニュースだ。

 

 この世界の人達は運営が残した訳の分からない置土産に苦しめられることはこの先ない。

 

 もし運営が方針を変更してこの世界でゲームを再開しようとしても、次の50年後には各種管理施設は経年劣化で崩壊して使えない、結果としてゲームは再開出来ない。

 

「じゃあ悪いニュースってのは?」

「エネルギー切れは覆らない。なのでこの町はもう元には戻らないし、住民達を助ける術もないってことだ」

 

 カーターはお手上げとばかりに両手を真上へ上げた。

 

「そんなことはないだろ。何かあるだろ。何か?」

「あれば良かったんだけどな」

 

 カーターの顔には諦めの表情が浮かんでいた。

 

「クローン人間達は運営の作った施設の維持をするためだけに作られたロボットのようなもんだ。その役割がなくなったんだから終わりだよ」

「与えられた役目がなくなった奴は生きちゃいけないってのか?」

「作られてから400年間、運営のロボットとして生きてきたこいつらには自由意志ってものがない。町の外に出ないのも運営が禁じていたという理由だけだ。解放されて自由なのに何かの命令なしには自由に生きることが出来ないんだ」

「なんとかならないのか……」

 

 俺が呟くとカーターは今度は何かのリストを表示させた。

 

「1人や2人ならなんとか出来るだろうが、こいつらの総数は3万だ。オレ達だけでどうにか出来る次元を越えてる」

「3万は確かに俺達の手に余る……」

「自由意志がどうのは置いておくとしても、自動修復のガス欠問題は手に負えないな。定期的に燃料入れなきゃダメって時点で解決のための展望が見えない」

 

 数人ならば俺がバルザイの偃月刀でバッタバッタとなぎ倒していけば、術式の破壊は出来るかもしれない。

 

 だが流石に3万は無理だ。数が多すぎる。

 

 ……うん?

 ここで何かが引っかかった。

 

「俺は魔術のことなんて何も知らないので素人質問をするが良いか?」

「まあオレも別に素人に毛が生えた程度だからいいぞ。分かる範囲でだけ答える」

 

 やはり専門家が皆無なのは不便だが、だからと言って突然何の脈略もなく通りすがりの魔法使いが最後の希望だと生えてきて、全部解決するようなことはないので仕方がない。

 

「エネルギー源がないのに自動修復の術式はなんで動いているんだ?」

「えっ?」

「だって、自動修復の術式が動こうとするから住民に飢餓感が生まれて暴走しているんだろう」

「確かに。ガス欠なのにどうやって動いているんだ。別に電池みたいなのがあるのか?」

 

 やはりカーターも分からないのか。

 だが、ここに突破口が有る気がする。

 

 ようは術式が正常に動いていないのに動作し続けることが問題なのだから、そもそも動かないように変更してしまえば良いのだ。

 

 方法はなんでもいい。

 リセットでも強制電源断でも別の命令上書きでも、止まりさえすればなんでもいい。

 

 住民が自由意志を持っていないことについては流石にどうしようもないが、そちらならば何とか出来そうだ。

 

「この中にデータは入っているみたいだが」

 

 カーターは困惑しながらモニターに大量のドキュメントファイルを表示させた。

 

「この町の設計図だな。内容が内容だけに胸糞な表記もあるだろうが……お前も読むか?」

「運営のやることだし、胸糞なのは今更だろう。手分けして進めよう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 それから数時間。

 

 無言でマニュアルを読み続けた結果、おおよその内容は把握できた。

 

 周囲のエーテル(?)を電波のように放出する魔法陣が町のあちこちにあり、この電波がワイヤレス充電のような仕組みで自動修復の術式を維持させている。

 

 自動修復の術式は起動しても、動作するには運営の用意した燃料が必要なので、ガス欠状態で無理矢理術式が起動するために飢餓感が生まれると。

 

 分かってしまえばシンプルな構造だし、停止方法も単純だ。

 

「ようするに、この町にあるワイヤレス充電器的なやつを壊してしまえば術式は成立しなくなる。自動修復もなくなってここは普通の人間が住む普通の町になるってことだ」

「ワイヤレス充電器って何だよ」

「名前は適当に付けたが、要するに、自動修復の術式を維持している装置だ」

「特定出来たのか?」

「これ見よがしに建っているだろ。建物上に尖塔が」

 

 俺が言っているのは町の各所にヤケクソ気味の本数が建てられている水晶の埋まった尖塔だ。

 おそらくそこに埋め込まれている水晶が何らかの発信機の役割を果たしているのだろう。

 

「町の景観は破壊されるだろうけど、そこは人命優先なので諦めて欲しいところだ」

「でも、どうやって町中の尖塔を壊すんだ? 相当時間がかかるぞ」

 

 カーターがまたも悩まし気な顔を見せた。

 

「いや、そんなに時間はかからないだろ。多分30秒で決着がつく」

「30秒って……何をする気だよ」

「決まってるだろ。この町全部焼き払うんだよ」

 

 世界中を焼いて回れと言われたら困るところだったが、思っていたより簡単な話だった。

 

 人が住んでいない高さにある尖塔を薙ぎ払うだけだ。

 これならば被害など気にせず熱線を放てば解決なので何も考える必要はない。

 

 よく分からない術式でどうにかするよりも分かりやすくて良い上に手っ取り早い。

 景観がこの町の自慢なのかもしれないが、それは今日までのことだ。諦めて欲しい。

 

「この町……セレファイスは本日、突如現れた悪の魔女によって壊滅する!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 まずは運営が残した管理施設を破壊。

 宮殿から全員で撤収し、装甲車のところに戻り、調査結果と方針をハンザラさんを含めた全員に話した。

 

「そういうわけですので、あなた達に仕込まれた自動修復の術式が動かなくなるようにします」

「それがなくなれば、暴走はなくなるのだな」

「飢餓感からの暴走というのはなくなると思います。ただ、今までの国王がいなくなったことで発生する混乱による争いは止められません」

「王を連れ戻すことは出来ないのか? 誰も居場所を知らないのか?」

 

 ハンザラさんは俯いて何やら考えているようだった。

 仮面で表情は分からないのだが、それなりに葛藤はあるのだろう。

 

 運営によって作られた人造人間がどうの以前の問題として、突然に国家元首が消えて、それまで社会を支えていたインフラが崩壊すれば混乱するのは当然の話だ。

 

「こればかりは部外者でただの通りすがりの私達には何も出来ません。この町に住んでいる方達の間で解決をお願いします」

「そんなことを急に言われてもどうすれば……王に代わるリーダーを決めろなんて」

 

 そうは言われても俺達にはどうしようもない。

 

 通りすがりの俺達に出来るのは、ただ暴走している自動修復機能を動かなくして、この運営に作られた運営だけに都合の良い町と人を、ごくごく普通の町と人に戻すことだけだ。

 

 しばらくは混乱が続くだろうが、外的要因さえなくなれば、あとは住んでいる人の意識の問題だけだ。

 交易路も繋がっているし、この町の外の人達と触れ合うことで、自然にこの世界に馴染んでいくことだろう。多分。知らんけど。

 

 ハンザラさんは俺が丸た……箒に乗せて町まで運んだ。

 

 後はこの町の尖塔を薙ぎ払うだけだ。

 

「結局、この町で買い物は出来なかったな」

「ブロードウェイも見たかったのにな」

「ブロードウェイは元からないと思うよ。自由の女神が見られただけでもよかったとしよう」

 

 エリちゃんはニューヨークでブロードウェイを観たかったようだが、ここはニューヨークではないので諦めて欲しい。

 

「じゃあちょっと町を焼き払ってくる」

「その言い方だと、なんか町を滅ぼすみたいに聞こえるんですけど」

「ある意味そうかもな。400年間この町を支えてきたシステムが崩壊するわけだから」

 

 どの道、運営が撤退した時点で終わっていたシステムだ。

 

 そもそもの話として、運営が撤退時にこの人達を解放していれば俺達は何もしなくて良かったのだ。

 

 もしかしたら最後の町で買い物や食事を楽しめたかもしれないことを思うと、またふつふつと運営に対しての恨みが湧いてくる。

 

「まあすぐに戻ってくるよ。数分で片付けてくる」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 運営が几帳面だったのか、デザイン性の問題でそうしたかったのか、尖塔に取り付けられている水晶はどれも高さが揃えられている。

 

 だからこそ狙いやすい。

 

 俺は8羽の鳥を解放(リリース)しながら箒で空高く飛び上がった。

 

 尖塔の高さと合わせて飛ぶだけの簡単な仕事だ。

 

 まずは箒の先端から発生した放電(プラズマ)の触手で最も大きい宮殿の上に建てられた巨大な尖塔を破壊しつくした。

 瓦礫が無人の宮殿の上へ降り注ぎ、例の運営が残した管理システムごと圧し潰した。

 

「照射!」

 

 続いて町の中心部へ飛行しながら熱線を放った。

 

 まずは直線上にある尖塔を全て焼き払う。

 

 尖塔には対物理や対魔法の処理が施されていた可能性もあるが、そんなものは関係なく全て消し炭へと変えた。

 

 ただ、そのまま一方向へ撃っただけでは、全ての尖塔を焼き払うのにいくら時間が有っても足りない。

 

 熱線を照射しながら360度旋回。

 巨大な閃光の剣(ビームサーベル)と化した熱線は、半径約10km内にある全ての尖塔を一瞬で薙ぎ払った。

 

 スキルの発動時間30秒でこの町が誇る尖塔……自動修復の術式を維持していた電波塔は完全に消滅した。

 

 町には燃え尽きた尖塔だったものの煤だけが黒い雪のように降り注ぎ、阿鼻叫喚の声が地上から響いてくる。

 

 当然の話だ。

 町を何百年も見守り続けてきた美しい水晶が埋め込まれた芸術的な尖塔が、突然に現れた邪悪な魔女によって尽く破壊されたのだから。

 

 むしろ、俺がこうやって滅ぼしたことが良い結果に繋がるかもしれない。

 

 王……運営が理由も分からずいなくなり、住民が理性を失って暴れ出したことによってじわじわ町が滅んでいくよりも、突然に邪悪な魔女が現れて町を滅ぼしていったというストーリーの方が分かりやすいのだから。

 

「俺達に出来ることは一通りやった。これからどうなるかはこの町の人次第だ」

 

 町中に煤と煙が立ち込める中、虹色の光の軌跡を残して飛び去った。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 流石にニューヨーク近くで野営をする気にはなれず、少し進んだ先にあるコネチカット川を渡河したところで夜を明かした。

 

 いよいよボストン……アーカムに到着だ。

 

 そこでセンティネル丘陵の情報を入手すれば、いよいよ旅のゴールである日本が見えてくる。

 

 大西洋に面したアメリカ東海岸の端だけあって、朝になると美しい朝日が登ってくる。

 

 陽光を受けながら柔軟体操をしていると、モリ君が声をかけてきた。

 

「ラビさん、こっちに来てください。ヒールを試します」

「ああ、頼む」

 

 モリ君に回復能力(ヒール)をかけてもらうと、ティンダロスに受けた傷口からズキズキと伝わってくる痛みがようやく消えた。

 

 その代わりに痒みがやってきた。

 これは、ほぼ完治が近いということだろう。

 

「ありがとう。この分だと明日には治ると思う」

「俺はあと2日ってところですかね」

「モリ君も無事に治りそうで安心したよ」

 

 あまりに酷い重傷ならば、一度フィラデルフィアの病院に戻る、もしくはメダルを使ってのランクアップでの回復も考えたが、その必要はなさそうだ。

 

 これならば無事にアーカムでの情報収集を進められそうだ。

 

「では、リハビリがてら朝食でも作ろうか」

 

 用意するのは近くの岸壁で穫ったスズキ。

 

 こいつを塩とそこら辺に生えていた草を擦り込んで臭みを抜いて、小麦粉をまぶした後に、脱脂粉乳、オリーブオイルでソテーする。

 

 ほうれん草缶を開けて中身を取り出す。

 

 ほうれん草はこの時代の缶詰らしくて茹ですぎているのか食感がなくてフニャフニャなので、そこら辺に生えていた草の茎を混ぜて魚を焼いた後の残りの脂でソテー。

 

 クルミを練り込んだ小麦粉の生地で丸いパン……ピタパンを焼いて魚を挟み込めばピタサンドの完成。

 

「デザートは野生で甘みがイマイチのオレンジ。飲み物はコーヒーならぬ濃く入れた麦茶。ヒイイオシャレーなんかアメリカーン」

「何ですか、その不思議な料理は」

「フイッシュサンドだよ。新鮮な魚で作ったから美味いぞ」

「変な工程が挟まった気がしたんですが」

「気のせいだよ」

 

 量は多めに作って昼食も簡単に食べられるようにしておく。

 これで、一食分楽が出来る。

 

 朝食の準備が終わったあたりでみんなが起き出してきた。

 

「おはよう。朝食は出来てるよ」

「ラビちゃんもう怪我は大丈夫なの?」

「もう1日安静にしていたら治るかな。モリ君はまだ2日ってところ」

「そうなの。2人とも体は大事にしてね」

「まあ、今日は単に早起きしただけだから」

 

 まずは朝食。

 そして、着替えなどの準備を済ませて出発だ。

 

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