収穫祭の魔女   作:れいてんし

148 / 367
Chapter 5 「害虫駆除」

 モスマンの襲撃があった翌日。

 

 俺たちは朝一番に集落の若者6人を連れてモスマンの棲息地である南西の森を訪れていた。

 

 こちらの人数は最低限。

 俺とモリ君の2人だけで、他の仲間には待機をしてもらっている。

 

「なんで今日は俺たち2人だけなんですか」

「俺だけでも良かったんだけど、怪我人が出る可能性を考えると、回復スキルを使えるモリ君にサポートで来てもらうのが一番かなって」

「巣の場所が分かっているんだから、全員で来て遠距離からスキルを連発して、すぐに倒した方が良いんじゃないですか?」

 

 俺は首を横に振った。

 

「それじゃあダメだ。俺たちは明日にはいなくなるんだから、現地人にモスマンの倒し方と、巣の駆除方法を教えておかないと、次に出現した時にまた困ることになる」

「それで2人だけなんですか」

「そういうこと。なので俺たちは特に何もせず、現地の人だけで決着を付けてもらう。それが次にモスマンが出た時に自分たちだけでも対処できるという自信に繋がる」

「なるほど」

 

 モリ君はウンウンと頷いている。

 納得して貰えたらしい。

 

「それでモスマンはどうやって倒すんですか?」

「巣を燃やす。現地の人も既に似たような戦法で戦ってきた経験を生かせる上に、下手な武器を使うよりも効率が良い」

 

 実際、モスマンの巣を火で焼き払うと説明しただけで、集落の若者2人が樽に詰めた油を自主的に運んできた。

 

 巣の場所だけ説明すれば、後は彼らの技術と経験でうまくやってくれるだろう。

 

 この森は彼らの狩場だ。

 迂闊に延焼させてしまう可能性も低いだろう。

 

 しばらく歩くと、鬱蒼とした森がなくなり、広々とした空間が現れた。

 草が綺麗に刈られ、木が枯れたことで、広場ができ上がったようだ。

 

 もちろん、この広場を作り上げた原因は、蛾の幼虫である芋虫の大量発生だ。

 

 足元を見ると、それをやり遂げた何十、何百という巨大な芋虫がうねうねと地面を這い回っている。

 芋虫が通った後は見事に植物が食い尽くされており、黒っぽい土が残るのみだ。

 

 こんなものが農地に入ってきたら、そりゃ焼くしかなくなるだろう。

 

「ひっ」

 

 モリ君は一瞬、俺に抱きつきそうな動きを見せたが、なんとか留まったようだ。

 

 以前までだと青い顔をして遠巻きに見守っているだけだったが、今は槍の穂先で芋虫を突いてなんとかしようとしている。

 わずかではあるが成長しているのが見える。

 

「こいつら、どうすればいい?」

 

 集落の若者が尋ねてきた。

 

 わずかではあるが日本語で会話ができるということは、昨日顔に泥を塗って潜伏していた男と同じ人物なのだろう。

 

「今回は準備期間がなかったので、私が芋虫を潰しますが、次回以降は対処をお願いします」

「どのように対処すれば良い?」

「ある程度集めたところで油をかけて焼くのがいいでしょう。そこら辺に生えている草……ミントなどのハーブで虫除けの薬を作るのも効果があるかもしれません。作り方は後で教えます」

「頼む」

 

 以前にホンジュラスの遺跡探索を手伝ってもらったパタムンカさんから教えてもらったレシピだ。

 蛾人間はともかく、蛾の幼虫には効果てきめんのはずだ。

 

 駆除できなくとも、薬で農作物への被害を抑えられる可能性はある。

 

 本当はこれらの芋虫の対策も住民にやってもらいたかったところだが、今回ばかりは準備の時間がなかったので仕方がない。

 

 第3のスキル「極光」による閃光で地面を這い回る芋虫をまとめて薙ぎ払い、進路を確保する。

 

 さらに進むと、洞窟のような場所が見えてきた。

 

 遠目で見ても、洞窟の内部に人影のようなものが数体いるのが確認できた。

 

「日中は太陽の光を嫌って暗い場所に潜んでいるようですね。なので明るいうちに倒してしまいましょう」

 

 鳥を5羽召喚し、近くにあった立ち枯れしていた木にぶつけてバラバラに粉砕。大量の木片を作り出す。

 

「まず、蛾人間があの穴から簡単に出てこられないよう枯れ木を使って出入り口を塞ぎます」

 

 ここからは集落の方々に作業をやってもらう。

 

 普段から柵を作るなどで木の扱いには手慣れているからか、手際よく動いてあっという間に枯れ木で洞窟の出入口を覆い尽くした。

 

「あとは油を撒いて火を点けます。枯れ木の中に少し生木を入れると煙の量が増えて効果的かもしれません。しばらく燻してやれば、蛾人間は熱と酸欠に耐えきれなくなって飛び出してくるはずなので、そこを袋叩きにしてください」

 

 それ以降の動きは早かった。

 

 手慣れた動きで枯れ木の位置を調整した後に油を撒いて着火。

 

 集落の周辺でもモスマンの襲撃が有る度に同じような方法で火を付けて駆除を繰り返していたのだろう。

 

 瞬く間に火は燃え広がった。

 

 入口に積み上げた枯れ木全体に燃え広がり、火によって発生した熱と煙が洞窟の中へ流れ込んでいく。

 

「でも、これだと逃げられる可能性もありますよね」

「逃げたら逃げたでいいんだよ。巣さえ潰して、ここで酷い目に遭ったと学習すれば、この集落には近寄る可能性は減る」

 

 しばらく様子を見ていると、予想通り入口に積み上げた枯れ木を力任せにかき分けながら1匹のモスマンが飛び出してきた。

 

 だが、待ち構えていた男たちが一斉に矢を射掛けた。

 一瞬のうちに蜂の巣にされたモスマンは燃えている枯れ木の上へ横たわった。

 

 羽に引火し、それをきっかけとして全身に燃え広がっていく。

 

「敵だと分かっていても、こうも一方的だと何か可哀想になってきますね」

「まあ確かにそうなんだけど、やっていることは害虫駆除だから仕方ないといえば仕方がない」

 

 俺は燃え盛るモスマンの死骸を無言で見つめていた。

 

 火が消えてモスマン、サナギ、芋虫を駆除するまで5時間ほどかかった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「色々と助かった。特に何の礼も出来ずに済まない」

「いえ、こちらも大したことはやっていませんので」

 

 一応はモスマン騒ぎは片付いた。

 今のところモスマンおかわりは出ていないが、なるべく注意はして欲しい。

 

「せめて、これは気持ちだ。持っていってくれ。集落の若いものが獲ってきた」

 

 言葉が分かる中年男性が大きな魚を手渡してきた。

 

 魚の種類は鯛系という以外には分からない、青色の魚だ。

 体長は1メートル近い。

 ブダイの仲間だろうか?

 

 かなり大きなサイズなので、一尾あれば、7人全員で分けて食べられるだろう。

 

「せっかくですのでこの魚は頂戴します。ありがとうございました」

 

 魚を受け取り……どうしようこれ。

 それなりの重さがあるために、俺の腕力では保持できないので、とりあえずカーターに渡して持ってもらう。

 

「いや待って、重いんだけど? スーツが魚臭くなるんだけど?」

「そういうのは後で言って」

「いや、でもなぁ」

 

 カーターが右往左往していると、タルタロスさんがカーターの持っていた魚をヒョイと掴んで持ち上げた。

 

「ならワシが持っておこう」

「サンキュー、助かったよタルさん」

「いやいや、力が必要なことならワシに任せてくれ」

 

 カーターとタルタロスさんはいつの間にか仲良くなっていたようだ。

 最近は一緒に酒を飲んでいることが多かったので打ち解けたのだろう。

 

「では私たちはこれにて」

「ありがとうございました」

 

 俺たちは全員で別れの挨拶した後に装甲車に乗り込む。

 別れる時は笑顔だ。

 

 車が走り出すと、手を振る集落の人々の姿はあっという間に消えていった。

 

「それで次の目的地は?」

「空から見た時に、あちこちにモスマンが湧いたであろうポイントが見えたんだよ。とりあえず、それを追ってモスマンがどこから来たのか確認してみたいと思う」

「もしもモスマンの発生源が近くにあるなら潰しておきたいですよね」

 

 モリ君の言う通りだ。

 もしも、モスマンが発生しているポイントが近くにあるならば、あの集落の人たちがまた襲われることになる。

 

「北東方向ならば、行きがけの駄賃だし、少し探してみよう」

 

 すると、モリ君が急に運転席のシートにもたれてきた。

 そのまま、さり気なく俺に耳打ちをしてくる。

 

 モリ君は急に声のトーンを下げて、後部座席でドロシーちゃんの相手をしているエリちゃんの方をチラリと見る。

 

「ところで……運転を俺に代わってもらっても良いですか?」

「良いけどなんで?」

「ラビさんが1日運転手をやると、それを理由にエリスがまた食事当番に立候補するでしょう。そうすると今晩の夕飯もまたうどんが出て来ますよ」

「確かにそれはまずい。いや、うどんはまずくないがまずい」

 

 うどんは嫌いではないが、さすがに微妙なうどんが毎日続くとなると飽きてくる。

 退屈な車の移動が長時間続くので、食事時間くらいは楽しみを持ちたいところだ。

 

「それで、食事のメニューのご希望は?」

「何でも良いですよ」

「出た、何でも良い! それだとメニューを考えるのが難しいんだけど」

「なんでそんな主婦みたいな会話してるんだ?」

 

 飯の話をしていると気付いたのかカーターが寄ってきた。

 

「日本にいた頃は友人にこんな感じで夕飯を用意していたんだけど、レパートリーが尽きるので聞くんだよ。何を食べたいかって。そうしたらなんでもいいって」

「やっぱり主婦だろお前」

「主婦ではない。未婚だ」

「異性と半同棲状態で暮らしてる未婚はいねえよ」

「いやいるだろう。新時代のなんとかいうやつ。それで夕飯の御要望は?」

「貰った魚が有っただろ。あれで何か」

「モリ君よりはマシってくらいで相変わらず分からんな。まあ何か考えるよ」

 

 俺は集落の人から貰った、ブダイらしき魚の調理方法について頭を悩ませるのだった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 集落を出てから、モスマンの巣を一つ潰したところで夜になった。

 モスマンは夜行性とはいえ、巣を潰したばかりだ。

 夜間に再襲撃はないだろう。

 

「とりあえず今日のところの調査はこれでいいだろう。飯にするか」

 

 集落の人から貰った魚は事前に塩とハーブに漬け込んで臭みを抜いている。

 

 これを一人分サイズに切り分け、小麦粉をまぶし、ココナッツから取ったオイルでソテーしていく。

 甘い香りがなかなか良い感じだ。

 

「この匂いって何ですか?」

 

 匂いに誘われたのか早くも人が集まってきた。

 

「ココナッツオイルだよ。フロリダで集めたココナッツの実だけど、あまり長く置くと臭くなるらしいから早めに使い切らないと」

 

 火が通ったところで別途炒めた野菜と一緒に皿へ盛り、そこら辺に生えていたクレソンを刻む。

 火にかけてアルコール分を飛ばした白ワインで仕上げたソースをかければ完成。

 

「長い間、レストラン料理とはご無沙汰だったので、それっぽい料理を作ってみました。白ワインソース仕立てのブダイのムニエルです」

「待って、オレが大事に残していた白ワインを使った?」

「共有財産だから諦めろ」

「クッソー!」

 

 カーターが何やら嘆いているが、7人分で100cc程度しか使っていない。

 それくらいは我慢してほしい。

 

「脱脂粉乳とココナッツオイルでそれっぽく仕上げたクリームパスタと缶詰のほうれん草も添えて。レストランっぽくナイフとフォークでお召し上がりください」

 

 時間があればこんなものだが、やはりちゃんとした食堂で食事を取りたいものだ。

 この先に人が住んでいる町があれば良いのだが。

 

「レルム君もドロシーちゃんもテーブルマナーは覚えているかな?」

「はい、大丈夫です」

「これくらいちゃんと出来るから」

 

 子供たち2人はきちんとマナーが出来ているようだ。

 

 モリ君とエリちゃんも育ちが良いのかきちんと食事のマナーを守れている。大変よろしい。

 

 モリ君は横浜の……なんだっけ? 関東の地理に疎いので詳細不明だが、何とか台とかいうところの一軒家。

 エリちゃんも家の中で土佐犬を飼えるくらいのやはり一軒家住まい。

 どちらも、それなりに良い家のお坊ちゃん、お嬢様なのだろう。多分。

 

 タルタロスさんもきちんと出来ている。子供たちの規範になるのでありがたい。

 

 その点、問題なのが約一名。

 

「カーターは子供たちに悪影響だから、ちゃんとナイフを使え! フォークで串刺しにして食うな! 箸を持ち出すな! 一瞬の隙をついて缶ビールを開けようとするな!」

 

 1人だけマナーガン無視なのがいるから困る。

 全く油断も隙もないとはこのことだ。

 

「魚料理にはビールよりも白ワインだろ。ビールはまたの機会にとっておけ」

「す、すまねぇ」

 

 仕方ないのでグラスを持ってきてワインを注いでやる。

 

「すまんが、ワシにもワインをいただけないかのう」

「わかりました。タルタロスさんもどうぞ」

「オレのワインの残量が減っていく……」

「だから共有財産だっての」

 

 洋風の魚料理はなかなか好評のようだった。

 

 もうすぐ目的地なので、こうやって自炊での食事も残り数回だろうが、最後まで美味しいものを食べてゴールしたいものだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「これで3つ目か」

 

 翌日もモスマンの巣潰しは続く。

 

 空から見えた円状の空き地……木々が立ち枯れした区域には、予想通りモスマンの巣があった。

 ただ、日中ならばモスマンも蛾も大半は陽の光を避けるように暗がりに隠れている。

 

 なので、巣に向かって俺とレルム君が遠距離からスキルを連発して普通の蛾を全滅させる。

 

 その後に飛び出てきたモスマンを撃退するだけ。

 最後はドロシーちゃんの水による攻撃で森の木々に延焼するのを防いで山火事に発展しないようにする。

 

 この作戦で比較的楽に駆除することができた。

 

「いくらなんでも数が多すぎないですか? こんなに大量にいたら、森の木なんてすぐになくなりそうなのに」

「それは俺も考えていた。昔からこんな生き物がいたら、もっと生態系が変わっているはずだ。登場したのは比較的最近なんだろう」

「やっぱり異世界から来たんでしょうか?」

「異世界から来たならば3年だろう。それだけあればもっと増えていると思う」

 

 気になるのはモスマンの巨体だ。

 身長3メートル近い巨体を支えるには、それなりの食料が必要なはずだ。

 

 引き連れている蛾も数千という数だ。

 これだけの虫は何を食っているのかという話に繋がる。

 

 何か手がかりがないか、モスマンを駆除した後に巣の跡を調べていく。

 

 焼け焦げた蛾の残骸をかき分けていると、その中に赤く輝きがあった。

 

 レルム君の電撃を受けて一部は黒く焼け焦げ、半ば破壊されていたが、紅玉(ルビー)のような宝石だ。

 

 赤い宝石というと、ホンジュラスの遺跡で見た妙な寄生生物を連想してあまり気持ちの良い物ではない。

 焦げている時点で別物確定なのだが、だからと言って素手で触る気などしない。

 

 箒の先で軽くつつくのみにしてみる。

 

「こいつは何だと思う?」

 

 一番詳しそうなカーターに見てもらうことにする。

 

 赤い宝石を見たカーターは露骨に顔をしかめた後に、懐からメモ帳を取り出した。

 一枚引きちぎり、宝石に近づけると、瞬く間に発火した。

 

 カーターは冷静に燃えた紙片を投げ捨てた後に、靴で踏みつけて消化する。

 

 今の行動からして、相当ろくでもないものであることは分かる。

 問題は、その正体だ。

 

「また寄生生物か? それともまた運営か?」

「寄生生物じゃない。運営が関与してるかどうかは分からんが、こいつは純粋な魔力の塊だ」

「具体的には何が起こっているんだ?」

 

 そう言っている間に宝石は粉々に砕けた。

 たちまち色を失い、燃え尽きた炭のように白い粉になり、炭化したモスマンの死体に埋もれて分からなくなった。

 

「前にネバダの砂漠に飛ばされたフィラデルフィアの町に行っただろう。その時にも似たようなものを見たはずだ」

「なんか爆心地みたいなところにあった赤い宝石か。あれと同じものなのか?」

「簡単に言うとそうだ。高エネルギー体が電池になって、別の生き物を怪物化させている」

「ということは、元々はただの蛾が、この赤い宝石の力でモスマンの形になっていると?」

「元々は蛾なんだろうか」

 

 意味深に言うカーターの顔を思わず見る。

 

「べースは人間の可能性もあると?」

「分からん。フクロウかもしれないし、全然違う生き物かもしれない。もちろんただの蛾の可能性もある」

 

 人間が犠牲になっているということだけは避けてほしいところだ。

 

 あと少しで日本に帰ることができる。

 運営も撤退して、残りは消化試合だけという状況で、こんな厄介なものが出てくるとは思わなかった。

 

「今まで倒したモスマンからは、こんなのは出なかったよな」

「エネルギーを使い切ったら壊れる仕組みなのか、それとも死んだタイミングで壊れるのか」

「それすら分からないと」

 

 カーターは無言で頷いた。

 つまるところ、今のところは何も分からないというだけだ。

 

「他の巣を潰してモスマンを倒した時に、同じ宝石が出てくるかのチェックだな」

 

 今のところモスマンの巣は北方向に向かうほどに増えてきている。

 もしかすると、発生源や宝石の謎もそちらにあるのかもしれない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。