収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 19 「この素晴らしき世界」

 俺は、無表情のまま、淡々とタルタロスさんと一緒にセンティネル丘陵の祭祀場の修復を進めていた。

 

 タルタロスさんが倒れた石柱を起こしている間に、焼け焦げた平地へ魔法陣を描いていく。

 

 ガリガリとバルザイの偃月刀で地面に引っかき傷を入れていくだけの作業。

 土が柔らかいので力はさして必要ないが、面積が広いのでそれだけでも大変だ。

 

 上空に鳥を飛ばして俯瞰で見ながら魔法陣を描いていく。

 

 少しでもズレると効果は半分以下、もしくは発動すらしないという想定なので、間違えるわけにはいかない。

 

 一方でタルタロスさんも石柱を起こすだけとはいえ、相手は数トンある自然石の石柱だ。

 

 いくらスキルによる肉体強化があるとはいえ、相当な負担だと思う。

 

「あまり根を詰めなくても良いですよ。ここは放射線量が高めなので、被曝のことを考えたら作業時間は短めにして、明日に回しても大丈夫だと思うので」

「そうは言っても、中途半端なところでは止められないだろう」

「まあ、こちらも同じですけどね」

 

 以前に何者かが儀式を行った際のものがある程度残っていたので、復旧作業自体は2時間ほどで完了した。

 

 念のために上空から出来栄えを確認してみる。

 ほぼ完璧な状態だ。

 

「終わりましたね」

「ああ……これでワシらの旅も終わりか」

 

 祭祀場の修復もだが、旅の方もこれで終わりだ。

 

 南米ペルーを出発してから、嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと。

 本当に色々なことがあった。

 

「ラヴィさん。今までありがとう」

 

 タルタロスさんはここで一度言葉を切った。

 

「ワシは子供達は必ず護ると誓ったはずなのに、一度はそれを達成することが出来なかった」

「でも、俺達と出会ってからはそれを達成してくれました。子供達は親もおらず、記憶もなく、ずっと不安だったと思います。そんな子供達が元気で明るくやってくれたのは顔見知りのタルタロスさんがいてくれたからです」

「だがレルムは君に、ドロシーはエリスさんに懐いておるようじゃったが」

「なんだかんだで俺達はまだ子供なんですよ。だから本当の親代わりにはなれません。なのでタルタロスさんがいてくれて良かったです」

 

 俺は改めてタルタロスさんと握手をした。

 

「あと一息です。一緒に日本へ帰りましょう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「というわけで、この世界での最後の食事はうどんです」

 

 残った食材はあらかた使ってしまおうということで、大量に余らせている小麦粉を一気に消化するためにメニューはうどんに決まった。

 

 否、違う。

 最初からうどんを作ることは流れで決まっていた。

 

 うどんジャンキーのモリ君とエリちゃんがなんとしても総決算のうどんを作ると無駄に張り切り始めたので、残る小麦粉を全て使ってうどんパーティーの開催が決まったのだ。

 

 モリ君とエリちゃんがうどんをこねるので、その間に俺がうどんのトッピングを調理する。

 

 缶詰の残り、乾燥野菜類などをふんだんに使って豪華な天ぷらとかき揚げを作っていく。

 

 空き缶類は全部車の中に入れて、後で車を自爆させる際に巻き込んで全て処分する予定だ。

 

 それでも残ってしまう乾燥豆などについては、近くの野生動物にでも提供するつもりだ。

 

 食材については、土に埋めればすぐに自然へ帰るだろう。

 

 そう思った時に、別に召喚してもいないのに、よく見た覚えのある鳥が集まってきていることに気付いた。

 

 俺がスキルで出現させているのと同じ、ウィッパーアーウィルの群れだ。

 

 1……2……10……50羽はいるだろうか?

 

 スキルで出現させているのは所詮は偽物(イミテーション)だが、この場に集まってきたのは間違いなく本物の鳥だ。

 

 これだけの数が集まってくるというのことは、近くに棲息地が有るのだろう。

 

 ヨタカはカラスやフクロウに喩えられるようだが、こうやって見るとどちらにも全く似ていない。

 あえて似ている鳥を挙げるならばヒヨドリだろうか。

 

 各々がその大きな目で俺の方をじっと見つめている。

 

 もしかして、俺を仲間だと認識してくれているのだろうか?

 

「野生動物に餌をやるのはダメらしいが、こいつらはみんな仲間みたいなものだし、別に良いだろう」

 

 乾燥豆やら残った小麦粉で作ったパンらしき物体やら……とにかく残った食材を景気よくばら撒いた。

 

「お前達の仲間にはずっと助けられたしそのお礼だ。今日はしっかり食べて帰ってくれ。時期外れだけどハロウィンパーティーだ!」

 

 鳥達は春の前で一番食事がない時期に急に与えられたご馳走ということで、地面に散らばった食材をこつき始めた。

 図々しくも俺の帽子の上に止まっている子もいる。

 

 死を告げる不吉な鳥とか言われているらしいが、ただのデザインがちょっと変なヒヨドリという感じで、おかしなところは特になく可愛いじゃないか。

 

 そうやって食材が無駄にならないように片付けているとカーターがやってきた。

 

「このワインの残りは全部飲み切っていいよな」

「ああ、もう全部飲め。残しても仕方がないから飲み切れ」

 

 カーターがわずかに残ったワイン瓶を持って来たので勧めると、何を思ったのかその場でラッパ飲みを始めた。

 

 食事の時に飲むのではなかったのか?

 

 まあ、ゴミを残さず片付けるというならば、それはそれで良いのだが。

 

 ワインを飲み干すと、空瓶を車の中に投げ込んでいった。

 

「ラビちゃん、うどんが出来たよ」

「ああ、今行く!」

 

 食材が入っていた瓶や袋などを車の中へ投げ込む。

 

 これでまた一つ片付いた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 最後の食材で作ったうどんは、見た目からして今までで一番の完成度だった。

 これを残っていただしに付けて食べる。

 

「それではいただきます」

「いただきます」

 

 全員でうどんをすする。

 

 素人が作った謎の小麦粉、スーパーで特売のうどんという試作品を経て、今回はついに冷凍うどんレベルにまで達していた。

 

 麺だけでも普通に美味い。

 たとえわずかでも積み重ねがこうやって成果に出るのは嬉しい限りだ。

 

「ラビさん覚えていますが、最初にあの遺跡でうどんについて話していたこと」

「そう言えばそうだな。四国のうどんの話だよな」

 

 思い返せば懐かしさしかない。

 

 マチュピチュの話をしていたのに、何故か突然にうどんの話が始まり、それでモリ君とエリちゃんが喧嘩を始めたのだ。

 

「俺達の旅はうどんに始まり、うどんに終わるのか」

 

 モリ君がしみじみと語り始めた。

 

「なんでこんなにうどんばっかりだったんだろうな?」

「うどんが3人を結びつけてくれたんだよ」

 

 なんだそれ?

 まあ、それも人の縁ってことだ。

 

「日本に帰ったらまずは最初の用事は出雲だけど、その帰りにみんなで四国までうどんを食べに行こう」

「出雲から四国までって結構距離がありますよね」

「大丈夫大丈夫、このアメリカに来てからの移動距離の方が長いって」

「まあそうですけど」

「楽しみですよね、香川のうどん」

「おい、出雲に行くのに出雲そばじゃなくてうどんの話なのかよ」

 

 カーターが突っ込んできた。

 

「お前も来るか、出雲そばを食いに?」

「やめとく。俺の仕事は平日は毎日忙しいんだ。日本に帰ったらまた仕事に追われる日々が戻ってくるんだから」

「それは俺も同じだ。こちとらサラリーマンだぞ」

「何を! こちとら地方公務員様だぞ!」

 

 こうして美味しく楽しく最後の晩餐を終えた。

 

 使用済みの食器はどうせこの後に処分するので洗う必要はないのだが、今まで使ってきた礼も込めて全て綺麗に洗った後に車へ収納した。

 

「それでは、各自所持品をチェックしてくれ。不要なものは全部ここで処分していく。この世界から持ち帰る物は最小限にしたい」

「やっぱり異世界の物は日本に持ち込みたくないからか?」

「ああ、この世界の物を持って帰ったら、何の問題が起こるか分からないしな」

 

 とはいえ、俺は日本に帰ったら今の体で着られる服がない状態だ。

 少し考えた後に着替えの下着の類は鞄に詰めて持って帰ることにする。

 

 日本に帰ってからもまだ戦闘はあるので、各種装備品、そしてカードやメダルはもちろん残しておく。

 最初から持っていたハンカチなども当然持ち帰る。

 

「ラビさん、これを持っていってください」

「これは?」

 

 モリ君が手渡してきたのはパナマで撮った記念写真だった。

 

 だが、それを受け取るわけにはいかない。

 差し出してきた手を押し返した。

 

「それはモリ君が持っているべきだ。唯一リプリィさんの姿を残した記録なんだから」

「そう……ですね。じゃあこれは日本に帰ったらデジタル化してメールで送ります」

「それは助かる」

 

 みんな不要と判断した品を次々車の中へ投げ込んでいく。

 持ち帰るのは最小限の荷物だけだ。

 

「師匠から貰った砂漠用のマント……これももう大丈夫です」

「ああ、まだ持っていたんだ」

「大事なものだったので。でも、もうなくても大丈夫です」

 

 レルム君がボロボロの臭いマントを車へ投げ込んだ。

 

「……なんでこんなに臭いんだっけ?」

「ずっと布団代わりに使っていたので」

「そ、そうか……」

 

 レルム君の性癖はもう色々とダメかもしれない。

 本当に悪いことをしてしまった。

 

 その時、大きな化石を抱えていることに気付いた。

 余程大切なものなのだろうが、それでは流石に持ちづらいだろう。

 

「裸じゃ持ちづらいだろうから鞄に入れておきなさい」

「でも要らないものはここで処分って」

「化石を持って帰るために鞄は必要なものだろう」

 

 アンモナイトの化石を鞄に詰めてやり、レルム君の肩へかけた。

 

「友達との思い出は大事にしなさい。それは一生の宝物だ」

「はい」

 

 分かってくれたようで良かった。

 

「オレは大したものはないな」

 

 カーターはそう言いながらポケットから次々とボロボロの女性用パンツを取り出して投げ込んでいった。

 

「どこで拾ったぁ!」

「フィラデルフィアだよ。捨てるのも何なのでポケットにいれっぱなしにしていた」

「あの時のか。まあ、それなら良いが。でも、なんでそんなに山ほど拾ったんだよ」

「……いや、つい出来心で」

 

 こいつは本当に最後までどうしようもない奴だった。

 

 たまには認められるところもあるのだが、それ以外の残念な行動での減点が大きすぎる。

 

「俺やエリちゃんのパンツは持ってないだろうな。ドロシーちゃんのを持っていたら、この場で殺すが」

「そんなすぐにバレるようなことはしていないので安心してくれ」

「うん?」

 

 怪しく思ってポケットの中をまさぐるが、流石に濡れ衣だったようなので安心した。

 

 本当にアラサーなのだからもう少しはちゃんとして欲しい。

 高校生だというのに真面目なモリ君を見習うべきではないだろうか。

 

 実際、モリ君はほとんどゴミを持っていない。

 普段から整理整頓が行き届いているからだ。

 実に素晴らしい。

 

 ドサクサで例の避妊具を車の中へ投げ込んだのは見なかったことにしておこう。

 思春期の男子なのだからそういうこともある。

 

 そうやって各位が次々と不要なものを投げ込んでいくので段々と車の中が、ただのゴミ捨て場と化していく。

 

 俺の思っていた別れの儀式ではないような気がするのは、ただの気のせいだろうか?

 

 最後にドロシーちゃんが隠し持っていたチョコを頬張りながら包み紙をポイっと投げ込んでいった。

 これで一通り片付いたことになる。

 

 ……ゴミだよ!

 半分くらいは燃えるゴミだよ!

 

 みんな普段から燃えるゴミは焚き火と一緒に燃やして処分してくれよ!

 

「じゃあ、これで荷物は全部片付いたな」

 

 全員挙手したので、車を運転してセンティネル丘陵から1kmほど離れたなるべく広い場所に車を停める。

 

 そして、システムメニューを操作して、通常の操作では隠されている自爆機能を表示させた。

 

「今まで色々とありがとうな。本当にお前がいなければ、ここまでたどり着くのに何年かかっていたか分からないし、ダゴンを砂漠に誘い出す作戦も出来なかっただろう」

 

 ハンドルをポンポンと叩く。

 

 運営の地下で発見した時は、この車も破壊予定だったが、本当に破壊しないで良かった。

 

 今まで頑張ってくれた旅の友だが、この技術はこの世界に残しておくわけには行かない。

 

 自爆機能を有効にしようとすると、本当に良いですかの確認ダイアログが何度も表示された。

 

 まるで「嫌だ」と抵抗しているように感じて「Yes」のボタンをタッチする度に涙が溢れてきたが、心を鬼にて自爆装置を起動させると、ハンドルのところに付いていた金属製のプレートがポロリと落ちた。

 

 持ち上げてみると、何やら長い数字が書かれている。

 

 車体番号を記載したプレートのようだった。

 

 おそらく、正しく自爆をしたことを証明するために自爆機能を実行した際に外れる仕組みになっているのだろう。

 

「記念に持って行けということか?」

 

 当然車からの回答はない。

 モニターには自爆までのカウントダウンの時間が表示されているだけだ。

 

「これは貰っていく。今までありがとう。本当に助かったよ」

 

 後部ハッチを全開にして箒で飛び出す。

 

 三分ほどして、空気を震わす爆発音と火柱が上がるのが見えた。

 

「さようなら、最後の旅の仲間」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 満天の星空に照らされながら、センティネル丘陵を登っていく。

 

 それなりの高さがあるので、それなりに体力は使うが、不思議と疲れるような気はしない。

 

 頂上に刻み込んだ魔法陣は何をしているわけでもないというのに、うっすらと青白い光を放っていた。

 完全に夢の中で見たガチャの演出と同じだ。

 

「最後まで子供達を守りきれたのはみんなのおかげじゃ。本当に感謝したい。みんなありがとう」

 

 タルタロスさんはそう言ってみんなに握手をしていく。

 

「では、2人とも元気でな」

「タロさんも今までありがとうございました」

「ました!」

 

 子供達に見送られてタルタロスさんが魔法陣の中央へ歩いていく。

 

「では次は僕ですね。皆さん、助けていただきありがとうございます」

「とんでもない。レルム君のスキルにはずっと助けられたよ」

「師匠にそう言ってもらえると励みになります。なので、最後に一つだけわがままを良いでしょうか?」

 

 レルム君が畏まって俺に言ってきた。

 

「なんだい、言っていいよ」

「キスしてください。ほっぺたでいいので」

「キス?」

 

 レルム君は頑張ってくれたので俺としてはやぶさかでない。

 

 ただ、それをやると完全に性癖破壊になってしまうが、それで良いのだろうか?

 とはいえ、これで最後だ。

 日本に帰ったらもうあまり会う機会もなくなるのだから、少しくらいはサービスしてあげても良いだろうと思い、レルム君に近付いたところ、ドロシーちゃんが久々に強烈なローキックを入れてきた。

 

 普通に痛い。

 

「ラビちゃんにはあげない! レルム君はうちのものだから」

「ちょっ」

 

 ドロシーちゃんはそう言ってレルム君を連れて魔法陣の中央へと走っていって、振り返ってこちらに叫んだ。

 

「みんなありがとう!」

「もう、あの子は最後まで」

「本当に、最後までグダグダだな」

「ああ、本当に」

 

 次はカーターだ。

 

「今だから言えるけど、オレも実はこの世界に残ろうと思っていた」

「何を今更」

「まあ聞けよ。日本にいてもろくなことはなかったし、この世界でグータラ生きるのもありかなと思ったこともあった。たとえ首輪付きのサポートとはいえ、この世界に喚ばれて楽しかったんだよ。この冒険をいつまでも続けていたいって。でも何にでも終わりはあるもんだ」

「そうだな。でも、終わりが……ゴールがあるから旅は楽しいんだ」

 

 カーターは無言で頷いた後に笑みを浮かべた。

 満足しきった顔だった。

 

「だから、オレの旅の終着点はここだ。オレは最後までやりきった。運営にいたオリジナルもオレのことを羨ましがってるに違いない」

「運営のカーターはやりたい映像関係の仕事も出来ずに、デスゲームの監督なんてさせられていたからな。間違いなくお前の方が充実した人生を生きてる。俺が保証する」

 

 俺はカーターに手を差し伸べた。

 

「今までありがとう。お前一体何なんだよ? と思うことは多数有ったが、トータルだと良いヤツだと思ってる。本当に色々と助けられた」

「ああ、オレも良い仲間に恵まれた。モーリスとエリスも、人生の良い出会いなんてそんなにないんだから、これからも仲良くするんだぞ」

「ちょっ、私達はそんなのじゃなくて」

「そんなのだろ」

 

 モリ君がエリちゃんの腰に手を回して抱き寄せた。

 

「カーターさんも良い出会いを探してください」

「ああ。そうするわ。日本に帰ってからがオレの本当の戦いだ」

 

 カーターは魔法陣の中央へ歩いていこうとして、急に駆け足で戻ってきた。

 

「そうだ大事なことを忘れていた。ちょっと耳を貸してくれ」

「いいけど」

 

 カーターに耳を差し出すように近寄ると、両手で顔を掴まれて無理矢理カーターの方を向けさせられた。

 

「おい、いきなり何をするつもりだ?」

「忘れ物だよ」

 

 カーターは片手を放して、ローブのポケットに何か硬いものをねじ込んでくる。

 

「これを受け取れ。お前には必要なはずだ」

「何をだ――」

 

 そのまま額にキスをされた。

 

 一瞬口にキスをされたのかとパニックになり、ローブの裾で口の周りを擦った。

 

「あのレルムの分の権利はせっかくなのでオレが貰っておくよ。これを機会にもうちょっと守備範囲を広げてみるわ。まあ、その対象はお前じゃないのが残念だけど」

 

 カーターはそのまま笑顔で走り去っていった。

 

「本当にあいつ何なんだ?」

 

 カーターがローブのポケットに何をねじ込んだのか気になって手を入れて……意図に気付いた。

 

「なるほど、そういうことなのか……」

 

 執拗に口の周りを擦っていると、エリちゃんがハンカチを持って俺に近付いてきて拭いてくれた。

 

「なんなのあの人! セクハラよセクハラ! セクハラで訴えよう!」

「本当に、あいつ日本に帰ったらセクハラで訴えられるんじゃないか? 山梨の公務員がセクハラで訴えられるとか新聞に載ったら爆笑するぞ」

「無茶苦茶しますね。あの人」

「まあ、でも根っこは悪いやつじゃないんだよ。好きだよ、ああ言う本音で生きてる奴は」

 

 最後はモリ君とエリちゃんだ。

 

 ただ、この2人と交わすのは別れの言葉ではない。

 日本に帰ってからの打ち合わせだ。

 

「出発した時刻に戻すって話だから、多分俺はみんなより3日遅れになると思う。だから、帰ったタイミングで俺の方からモリ君に電話する。行方不明と思わずに気長に待って欲しい」

「電話を受けてから新幹線でいいですか?」

「姫路まで切符を買ってくれ。駅まで車で迎えに行く。口座を教えてくれたらすぐに俺が交通費をネットバンクで振り込む」

「助かります。全然わからないけど、3万くらいかかりますよね」

「俺もよく知らないけど……まあ往復で6万くらい入れておく。足りなくて京都までしかチケット買えませんでしたとならないように」

 

 流石に新幹線の料金までは知らない。

 新幹線は会社でチケットを買ってもらった時くらいしか乗らないので分からないが、横浜からだと片道3万くらいはかかりそうなイメージはある。

 

「モリ君を姫路駅で拾ったら、車でエリちゃんのところへ向かう。そこからは蒜山経由で島根に入る」

「うちの場所は分かる? どこか目印の場所まで移動した方がいい?」

「住所を教えてくれたら後はカーナビがあるので大丈夫。ボロい車が走って来たら俺だと思ってくれ」

 

 手はずとしてはこれで良いだろう。

 

「あとは、限界超越ですね……ラビさんは条件はわかりました?」

「ああ……条件は分かっている。ただ、それを使うのは最後の手段だ」

「俺はおそらく実家にしか限界超越のアイテムはないので、それを持っていきます。忘れるかもしれないので、念の為にメールを送ってください。結依(ゆい)を忘れるなって」

「そんなことをしなくても忘れないだろ、モリ君なら」

 

 モリ君の脇腹をグーで軽く小突くとグーパンで返してくる。

 

 流石にそれなりの付き合いなので、2人の性格は把握済だ。

 

「では、準備はOK?」

「とっくに済んでます。俺達はずっと、この瞬間を待っていたんですよ」

「ラビちゃんは忘れ物とかないですか?」

「もちろん。俺の荷物は全部揃ってる……このやり取り何度目だっけ?」

「3回……いや4回かな? 結構付き合い長いですから」

 

 3人……いや4人で魔法陣の中央へ歩みを進める。

 

(行けるな、魔女(ラヴィ))

《もちろん。まあ僕達はスキルで喚び出すから呪文も儀式もいらないんだけどね》

 

 魔女から答えが返ってきた。

 

 頼もしいんだか、頼もしくないんだか判断に困る返事だ。

 

(どうせならカッコよく行こうぜ)

《俺さんのカッコいいのセンスが分からないけど、それでいいよ》

 

 魔法陣の中央で意識を集中させると、石柱……環状列石、そして魔法陣が青白い光を放ち始めた。

 

 その光はどんどんと速度を上げて加速しながら色を虹色……いや、極彩色へと変化させていく。

 

(ある意味、SSRガチャ確定の召喚演出だったんだな)

《まあそうなるね。最高ランクの神を喚び出す儀式にふさわしい演出だよ》

(そうかな? ……そうかも)

 

 石柱、環状列石、そして魔法陣から集められたエネルギーは渦巻きながら、周囲に有る木々の葉……そして花びらを巻き込んで中心にいる俺達へと向かって集まってくる。

 

 宇宙、地球、石柱と環状列石、そして魔法陣に描かれた中央へ向かって無限に渦巻く回転。

 

 周囲が俺達の門出を祝福しているかのような花吹雪に包まれた。

 

 無理矢理連れてこられた時は本当に酷い……とんでもない世界だと思った。

 

 今でも少し思う。本当にふざけた世界だと。

 

 辛い別れ、悲しい別れ。

 

 命をかけるような強敵との戦い。

 

 砂漠を抜け、海を抜け、アメリカの大平原を駆け抜け。

 

 本当に色々なことがあった。

 

 だからこそ言える。

 

 この5ヶ月の冒険の旅は本当に楽しかった。

 

 この世界は本当に素晴らしい世界だった。

 

 もっと冒険をしていたい。もっと色々な人に会いたい。

 再会して話したい人だっていっぱいいる。

 

 だけど、どんな旅もいつかは終わる。

 

 なので、今日、この旅を終わらせよう。

 

 さようなら、この酷くも素晴らしい世界。

 

《今こそ顕現せよ、我が神、ヨグ=ソトース!》

「俺達の冒険はこれで終わりだ」

 

 周囲が暗黒に包まれた。

 

 虚空から石柱へ向けて次々と放たれる落雷の反射以外に一切の光がない闇の世界で、俺は激しい震動と暴風に耐えながら、極彩色の暗闇という矛盾する存在が次元の壁を開ける光景を見た。

 

 人類には知覚出来ない高次元から顕現した虚空の神。

 全ての時空の門である存在。

 

 世間的には邪神と呼ばれるだけあって、破壊だの支配だの、ろくでもない願いのためにしか呼ばれなかったことは分かる。

 

 だけど、今回ばかりは人を助けるための力になって欲しい。

 

 願いに答えるように、今まで周囲を包んでいた暗闇が反転して、目を瞑っていてもなおも眩しい、激しい光に包まれた。

 

 それと共に、全身がふわりと宙に浮かぶ感覚がある。

 

「転移が始まるぞ! 全員衝撃に備えろ!」

 

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