収穫祭の魔女   作:れいてんし

151 / 367
Chapter 8 「アルフとティナ」

 ガレー船から救出した魔術師は男の方はアルフ、女の方はティナと名乗った。

 

 どうやら船にいた時にはろくに水や食料を貰えなかったらしく、衰弱が激しかった。

 傷はモリ君の回復能力(ヒール)で癒したが体力までは戻らない。

 

 なので、水と食事を取らせた後は少し休ませている。

 

 車はワシントンD.C.……じゃない、ダイラス=リーン近くを流れるポトマック川に沿って南下をしている。

 とりあえず町をどうするのかの情報収集と方針を決めないことには先に進めないからだ。

 

 バックモニターに映る町は、紅玉(ルビー)から立ち上った光でまるで摩天楼のように強く輝いている。

 港町だからか、夜間でもそれなりに人工の明かりはある。

 それでもなお、紅玉からの光の方が強い。

 

 どんな発展した大都市なのか、ここは現実のアメリカなのではと少し錯覚する。

 

「上がっている光だけでも相当だと思うけど、あのエネルギーはどこから湧いてるんだよ」

「そりゃ紅玉からだろ」

 

 ハンドルを握るカーターがしれっと言った。

 

「モスマンを倒した時に出てきた欠片ですら相当なエネルギー量があった。町にある大きな宝石ならばなおさらだろうな」

「どのくらいのエネルギーなんだ?」

「すごい」

「なるほど」

 

 謎の単位や理屈を言われても分からないが、カーターがすごいというならば実際スゴイのだろう。

 人体にもあまりよろしくないらしいので、ウラン235の仲間だと考えることにする。

 

 町に溢れかえるウラン235の山。

 チェレンコフ光で夜も明るい町並み。

 

 ……現在進行形で町で起こっている危険の度合いが実感できた。

 早くなんとかしないといけない。

 

「あまり離れすぎても戻るのが大変になるし、そこらで車を停めるぞ」

「ああ、そのように頼む」

 

 川沿いに走っているうちに、背の高い雑草が多く生えている地帯があったので、そこに車を隠れるように停車させた。

 タイヤが若干沈み込む感覚があったので、もしかすると湿地帯なのかもしれない。

 

 前照灯を切れば、追手があったとしても簡単に見つかることはないだろう。

 

「一度情報をまとめよう。ここは運営が作り出した偽物の町だ。それは間違いない」

「船もダミーなんでしょうか?」

 

 モリ君が聞いてきたが俺は首を横に振った。

 

「船から脱出する時に窓を粉砕したけど、地面みたいに発泡スチロールみたいな素材じゃなかった」

「木でもなかったですよね」

「オールが突き出ているのに漕ぎ手もいないし、ガレー船なのは見た目だけで、実際にはハイテク船なんだと思うよ」

 

 実際に漕ぎ手などいないというのに港から船が出ていく光景も見た。

 少なくともハリボテではない。

 

 そこで寝ている2人がここに連れてこられたという話も含めると、それなりの高性能の船のはずだ。

 もしかすると、紅玉をエネルギーに使った、俺たちの理解を超えた謎動力の船かもしれない。

 

「サンディエゴ近くで見つけた偽物の町の情報が正しいならば、作られた人間は、エネルギー供給が途切れた際には飢餓感から暴走する可能性が高い」

「でも、暴走はしていない」

「多分、そこに繋がるのがあの紅玉だと思う。謎のエネルギーの塊みたいなあの宝石が、暴走を食い止めているんじゃないかと」

「でも確証はない。それに、あの紅玉がプラスじゃなくてマイナス要素だったとしても、とてもじゃないけど回収はできない」

「数が多すぎますもんね」

 

 町はまだ少し歩いてみただけだが、紅玉は町の至るところにあった。

 それら全てを俺たちだけで回収するのはほぼ不可能だ。

 

 それこそ華麗な技術と奇抜な発想で盗みをするルパンでもいなければどうしようもない。

 

「しかも、タダで配られたものではなく、この町の住人がそれなりの金を払って買ったものだ。それを取っていくのはただの泥棒だ」

「でも、このまま放置していると悪影響がありそうなんでしょう」

「そこで、根本的な解決方法を取りたいと思う」

 

 俺は装甲車のコンソールを操作して地図を表示させた。

 現在地はワシントンD.C.だ。

 

「ガレー船はここから北にあるセレファイス、そしてイング……インガ……インガオホー」

「インガノクな」

 

 カーターが補足してくれた。助かる。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 地図を動かしてそこから北方向にある町を表示していく。

 

「地球だと、ここから先にある大都市はボルチモア、フィラデルフィア、ニューヨーク、プロヴィデンス、そして俺たちの目的地、ボストンだ」

 

 正確にはボストン周辺にあるアーカムという町であり、そこから少し離れた場所にあるというセンティネル丘陵にある遺跡だ。

 ただ、その具体的な場所が分からないので、とりあえずボストンを目指すという方針に間違いはない。

 

「セレファイスとインガノクはこの町に重なるようにあると?」

「そういうことだ。あのガレー船は見た目よりも高性能とはいえ、荒れた大海を乗り切るパワーはないように見えた。比較的近い距離を往復しているだけだと思う」

「つまり、セレファイスかインガノクに立ち寄っている、もしくはどちらかが母港ということですか?」

「そういうこと。どちらかの町に連中の拠点があるはずなので、紅玉の出所や目論みについて調べる」

「結論として、先に進むということですね」

 

 モリ君が締めてくれたがそういうことだ。

 この町でその場しのぎの対応をやったところで根本的な解決にはならないということだ。

 

「もちろん、連中の拠点で、解決策が分かれば、この町に戻ってくることも考えている」

「それでいいと思います。他のみんなは何かあればコメントを」

「特にないでーす」

 

 エリちゃんから何も考えていないであろうコメントが届いた。

 

「出発の前に、この町で管理施設を探してみないか?」

 

 ここで意見を出したのはカーターだった。

 

「前の偽物の町にも管理施設があっただろう。ここも同じように、人や物を管理している場所があってもおかしくはない」

「なるほどな。そこを調べれば、何か情報は得られるかもしれない」

「カーターさんの言う通り。先に進むのはいつでもできます。まずはこの町の調査をしたいです」

 

 モリ君はこの町の調査を優先という方針のようだ。

 俺も反対するつもりはない。

 

「みんなは連中に顔を見られているかもしれない。今度はワシらが中心に調査に入ろう」

 

 タルタロスさんや子供たちも賛成の方向のようだ。

 

「問題は、前と違って運営の機械が電波を出しているのか不明なところなんだよな」

「少し調べてみるか」

 

 カーターがメニューを操作して無線機能をオンにするが、何も聞こえてこない。

 前回はビーコンのような音が定期的に聞こえていたが、今回はそれはなしだ。

 

「つまるところノーヒントか」

「一応ヒントはある。ここの住民たちがその管理施設を見つけている気配はない。巧妙に隠されている上に、住民たちが近寄らないポイントに隠されているんだろう」

「分からないことがヒントか……それこそ雲を掴むような話だな」

「それでもやらなきゃいけない」

 

 調査の方針は固まった。

 救出した2人はまだ眠っていることもある。

 俺たちはその間に町の調査を行うことにした。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 黒い布を被せた鳥を空に放つ。

 発光する鳥は夜に飛ぶと目立って位置がバレバレなのだが、今は町中に立ち上っている光に紛れるおかげで視認しづらくはなっている。

 

「空から見て何か分かりますか?」

「発想を変えるんだ。多分、この紅玉は運営が提供したものじゃない」

「根拠をお願いします」

「運営はあっさりとこの世界から手を引いたせいで、カナベラル基地はあんな感じになっていた。なのに、この町にだけ紅玉というエネルギー源の差し入れがあるとは思えない」

「あの商人たちは第三勢力だということですか?」

「その考え方で調査を進めていこうという話だよ。そうなると、運営の施設には紅玉の差し入れは行われていない可能性が高い」

 

 紅玉は現在も活動中の町の住民たちに配られていると解釈する。

 ならば、当然この世界から撤退した運営のところには紅玉はない。

 

「逆に言うと、今こうやって光が上がっていない場所が運営の元管理施設である可能性が高いってことだ」

「なるほど。それで見つかりそうですか?」

「もう見つけた」

 

 民家や商店、この町の支配者の住まいだか役所だかがある場所。

 それらの大半から光が上がっているというのに、まるで光がない地帯がある。

 

 見た感じは町の至るところで見かけるレンガと黒い石を組み合わせて作られた建物でしかない。

 ただ、そこの建物の前には雑草が伸びており、コケまで生えている。

 人の出入りがしばらくないという証だ。

 

「増援部隊、行け!」

 

 追加の鳥たちを送り出す。

 候補の建物は数件あるので、人海戦術……ならぬ鳥海戦術でなんとかするつもりだ。

 

 本当にただの打ち捨てられた廃墟が多数だ。

 だが、その中に明らかに周囲とは異なる雰囲気の内装を持つ建物があった。

 

「調査に向かおう。俺とカーターは必須。あとはタルタロスさんと……」

「僕が行きます」

「私も行く!」

 

 レルム君とドロシーちゃんが名乗りをあげた。

 

「じゃあこの5人で行こう。モリ君とエリちゃんはここで車と眠っている2人の番を頼む」

「分かりました。ただ、ラビさんも例の商人にしっかり姿を見られています。服装は変えてください」

「……うん、まあ、あまり気乗りはしないが仕方ない」

 

 荷物の中から着替え用に持っていた村娘風の服を引っ張り出す。

 女装……というか、今の体は女なので、普通の服装なのだが、あまり着る気はしない一品だ。

 

「とりあえず着替えていくから、みんなは先に町に向かってくれ」

「分かった。車の外で待っているから、着替えたら出てきてくれ」

 

 カーターとタルタロスさん、子供たちが車を降りていく。

 

 まずはローブを脱いでブラウスとショートパンツ姿になる。

 これだけでも印象は変わるのだが仕方がない。

 ブラウスを脱ぎ始めたところ、なぜか車の中に残っていたモリ君と目があった。

 

「なんで車に乗ってんの?」

「えっ? 俺は留守番なので大丈夫です」

「大丈夫じゃないんだよ!」

「でも、ラビさんは中身オッサンだから、別に見られても気にしないんですよね」

「気にするんだよ!」

 

 モリ君はいつもそうだ。

 全く自覚なしにそういうことをしようとする。

 

「そう言うところが本当にモリ君のダメなところだと思う」

「なんで俺が怒られるんだよ!」

「そういうとこだぞ」

 

 仕方なくエリちゃんと一緒にモリ君の背中を押してなんとか車の外に追い出した。

 眠っている2人の魔術師のところは布で覆っているので問題はない。

 

「本当に油断も隙もない」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「師匠、よく似合っています」

「やめてくれよ」

 

 レルム君がいつもの称賛をした直後にドロシーちゃんが鋭いローキックを入れてくる恒例行事があったが軽くいなした。

 

 着替えた服は襟付きシャツにスカートという、ごく普通の村娘スタイルである。

 白い髪は布をバンダナ風に巻いて隠す。

 これならばそれほど目立つことはないだろう。

 

「じゃあ案内してくれよ。さっさと終わらせようぜ」

 

 カーターの態度はいつもと何も変わらないノーリアクションだ。

 これはこれで腹が立つ。何かコメントはないのか。

 

 一応は、商人たちが追手を出している可能性を危惧して、空から人の流れをチェックしておく。

 よほどのことがなければ、迂回して人に会わないよう進みたいところだ。

 

 町に入って少し歩き始めると、タルタロスさんが胸を苦しそうに抑え始めた。

 レルム君とドロシーちゃんもどこか体調が悪そうだ。

 

「どうしたんですか?」

「いや、急に全身が痛み始めて」

「もしかしたら、この紅玉の光が悪影響なのかもしれないな」

「でも、俺たちはなんともないぞ」

「単に魔術への防御力が違うだけかもしれない。前にホンジュラスの遺跡でも似たようなことがあっただろ」

 

 カーターの言う通りだ。

 ホンジュラスの遺跡では、蛙の声がどうのと言い始めた時、魔法使い系だけはノーダメージということがあった。

 ただ、その理屈だと同じ魔法使い系のレルム君やドロシーちゃんまで苦しそうなのが分からない。

 

「もしかして、作られた人間に対して特別な効果があるのか?」

「そうかもしれない。念のために、タルタロスさんは子供たちを連れて戻ってもらっていいですか?」

「すまない、役にたてんで」

「いえ、これは体質みたいなものなので、気にしないでください」

 

 とりあえず、タルタロスさんには子供たちを連れて戻ってもらった。

 結局カーターと2人だけになってしまった。

 

「どうする? 継続するか?」

「3人の体調が心配だ。さっさと終わらせよう」

 

 小走りで事前に鳥の調査で調べた建物に向かう。

 

 構造はサンディエゴの近くにあった施設とほぼ同じだった。

 

 薄暗い通路を進んでいくと、やはり電子ロックで閉ざされた部屋があった。

 だが、エネルギー切れだったからか、動く気配は全くなかった。

 仕方なく、力技でロックを破壊して、強引に室内に入る。

 

 管理室の中もコンソールやモニターが並んでいるという構造自体はほぼ同じだ。

 ただし、電源は落ちており、動作はしていない。

 

「非常電源みたいなものはないのか?」

「あれじゃないか?」

 

 周りを見回すと、部屋の片隅に四角い箱があった。

 停電時にコンピューターなどの電源を落とさないために使うUPS装置に似ている。

 

 もしやと思いボタンを押すと、1台だけだがモニターの電源が付いて、何かのシステムが起動してきた。

 

「じゃあ操作を頼む」

 

 カーターは慣れた手付きでキーボードを叩いて次々とモニターにウインドウを表示させていく。

 

「それでこの町の状況は?」

「良いニュースと悪いニュースがある。どちらを聞きたい?」

 

 カーターはモニターに何かの文章を表示させて、それを読みながら答えた。

 どうせなら良い話から聞こう。

 

「まずは良いニュースの方で頼む」

「元々この町は地球の100倍の速さで時間が経つこの世界で運営が活動するための拠点だ」

「どういうことだ?」

「要するに、運営が少し目を離している隙にこの世界では数十年が流れてしまうので、せっかく管理施設を作っても凄まじい勢いで朽ちていく。だから、自分たちが不在の間のメンテ要員が必要だった」

 

 理屈は分かった。

 

 運営もゲームを50年に一度しか開催しないが、その間に用意した基地などが劣化してしまうと困る。

 そのために決して朽ちない町と、滅びずに運営施設のメンテナンス要員が必要だったということか。

 

「もちろん電源切れでシステムは停止。住民の不老不死は解除されて、普通の人間になっている」

「じゃあ悪いニュースってのは?」

「エネルギー切れで暴走するかもしれない」

「それは分かっている。他には?」

「紅玉の話は一切出てこない。ここのシステムでも管理されていない。つまり運営とは無関係の第三勢力の登場ってことだ」

 

 カーターはお手上げとばかりに両手を真上へ上げた。

 

「そんなことはないだろ。何かあるだろ。何か?」

「あれば良かったんだけどな」

 

 カーターの顔には諦めの表情が浮かんでいた。

 

「こっちの町は予備で、ニューヨークの位置にあるセレファイスの方が本命みたいだ。そっちに行けば色々分かるかもしれない」

「じゃあ、あの商人は何なんだよ?」

「ガレー船は運営が用意したエーテルリアクター装備の乗り物……ようは、あの装甲車の仲間ってことだけは分かったんだが」

「つまり、運営が放棄した乗り物や施設を勝手に使っている何者かがいるということか」

 

 そこまで話した時に、重要な事実が抜け落ちていることに気づいた。

 

「インガノクは? ここやセレファイスとセットじゃないのか?」

「いや、インガノクなんて町の情報はどこにもない」

「じゃあ、あの商人はなんでインガノクとやらに行くんだよ」

 

 そうしているうちにモニターの電源は暗くなり、システムと共に切れた。

 再度UPSのスイッチを押すが、二度と起動することはなかった。

 

「今度こそ電池切れだ。もちろんこれをチャージする方法なんて分からない」

「とりあえずセレファイスだな。もっと詳しい情報があるかもしれない」

「それと、インガノクだ。あの商人は、おそらくその町からやって来ている」

 

 方針はまとまった。

 とりあえずここの管理システムでどうにもできない以上は、俺たちがこの町でできることは現状存在しない。

 

「紅玉のことも気になるが、今は出発しよう。まずはセレファイス、それにインガノクに向けて」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。