収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Episode 7 Period

 目を開けていられないような眩い光に全身が包まれたところまでの記憶はある。

 

 次元の狭間を越える瞬間に、虹色球体様ことヨグ=ソトースの姿を一瞬だけだが垣間見た。

 

 俺達があの世界から飛び出した直後に、律儀にも次元の壁を閉じて修復するところまでは見えた。

 

 時間と空間と俺の関係。

 宇宙の全てとは、進化とは、ゲッターとは。

 

 様々なことが一瞬脳内に入ってきたような気もするが、途中でハロウィンのことを考えると急にどうでもよくなって、全て脳内から出ていったことは覚えている。

 

 宇宙のことを知りすぎると、今度はハロウィンのことしか考えられなくなるという話があるが、あれのことだろう。

 ハロウィン!

 

 ・

 ・・

 ・・・

 ……

 

 ゆっくりと目を開けると、そこは社会人生活2年と半年にして、ようやく第2の実家としての愛着が湧いてきたマンションの一室だった。

 

 まずは現状を確認する。

 

 飾り気の全く無いローブ、タウンティンで買ったリボンを巻き付けた三角帽。

 右手にはやはりタウンティンで購入した鐙を付けた、乗り慣れた箒。

 腰にはバルザイの偃月刀。

 

 帽子を脱いで髪の色を確認すると、白いままだ。

 

 ローブのポケットの中にはカードとメダル。

 

 なんかオイルライターが入ったままなんだけど、これどこで手に入れたやつだっけ?

 

 オウカちゃんが所持していた小刀。

 装甲車から出てきた登録証。

 

 肩から下げる小さい鞄に詰め込んできた着替え一式。

 そういえば家にある男性用の下着や服はもう着られないのか。

 

 そしてカーターがポケットにねじ込んできた……銀の鍵。

 

魔女(ラヴィ)も居るか? あの世界へ置き去りになってないか?」

《前にも言ったとおり、僕は最期まで君と一緒だよ》

 

 間髪入れずに声が返ってきたので胸を撫で下ろす。

 

 なお、異世界転移のドサクサで成長していることは一切なかった。

 悲しい。

 少しくらいサービスしてくれても良かったのではないだろか?

 

 どうやらセンティネル丘陵の祭祀場で転移した状態そのままで日本へ帰ってきたようだ。

 

 所持品は全て持ち帰ることが出来たならば、愛用の鞄くらいは一緒に持ってきても良かったのではと考えるが、済んだことを今更気にしても仕方がない。

 

 ベッド脇の時計を確認すると、10月31日のAM5:00になっていた。

 

 カーテンを開けて外の様子を見るが、さすがに10月末となると日の出にはまだ早い。

 

「それにしてもなんなんだこの部屋の男臭さは。普段から体臭には気を使っていたはずなんだけど……」

 

 昔の自分の体臭のはずなのだが、今のこの身体には全く知らない男の臭いとしか感じられない。

 

 それどころか、知らない男の部屋に投げ込まれたことによる不安しか感じることが出来ないのが悲しい。

 俺の……自分の臭いだぞ……。

 

 窓を開けて換気をすると、寒い風が室内へ一気に吹き込んできた。

 

 ここでミュールを履いたままだったことに気付いたので脱いで靴箱に入れた。

 同じく臭い靴下も脱ぎ捨てて洗濯かごへ。

 

 ベッド脇に体感5ヶ月、実時間では数時間放置していたスマホを見ると、友人からの未読メールが3件届いていた。

 

「明日はハロウィンだからカボチャ料理を作れ」「食べに行くから早く帰ってくれ」「泊まる」

 相変わらず無茶な要求メールだ。

 

「ハロウィンのカボチャ料理は冷蔵庫の中に入れておく。勝手に食え」

「3日ほど家には帰らない」

「帰ったら重要な話がある」

 

 ショートメールを返信すると、秒で返事が帰ってきた。「どこに行く気だ?」

 なんなの早朝にこの超反応は?

 あいつは俺のストーカーなの?

 

 少し悩んだ後に

 

「異世界」

「邪神と戦いに行ってくる」

 

 と返しておいた。

 

 続いて会社に体調不良で11月5日まで休みますとメールを送信。

 

 ……いや、この状態で本当に会社に出社して良いのだろうか?

 

 伊原の認識阻害魔法なんて一切なくて「誰だよお前」となったらどうしよう?

 

 色々と悩みは尽きないが、困っていても誰も助けてはくれない。

 

 まずは出来ることからやろうとPCの電源ボタンを押すと、無駄に高性能のグラボを積み込んだゲーミングPCが虹色の光を放ち、爆音冷却ファンを回転させ始めた。

 俺はこのPCとお揃いだったのか。

 

 最後に「この時間はまだ寝ているかな?」と思いつつもモリ君に「この番号に掛け直せと」ショートメールを送信。

 

 これならば起床したタイミングで連絡してくれるだろう。

 

 PCが起動するまでの間、冷蔵庫からペットボトルのコーラを取り出し、椅子に腰掛けながら味わって飲む。

 

 数カ月ぶりに飲むコーラは全く印象が違う。

 まるで初めて飲むような気がする……

 

「げっぷっ」

 

 ゲップまで可愛かった。つらい。

 

《もっとコーラを》

「ダメです。コーラは1日1本まで」

《ちぇっ》

 

 PCが起動してデスクトップ画面が表示されたら早速調査開始だ。

 

 俺達の元になったゲームの攻略サイトにも興味があったが、まずはこちらだ。

 

「島根県出雲市 行方不明 中村夕子と」

 

 検索をしてみると、両親らしき人物が17歳の娘がいなくなったので捜して欲しいとSNSに書き込みしていたという話が出てきた。

 

 ただ、調べてみると「17歳ならただの家出だろう」と煽るような書き込みが続いて、そこで話は終わっている。

 

 場所の詳細は記載されていないが、その両親らしき人物がSNSにアップロードした他の画像を適当に画像検索をかけていくと、そのうちの1件、庭の植木に咲いた花の画像がストリートビューの一部と一致した。

 

 今度はそれで得られた住所を元に検索を絞り込んでいくと、地元中学校に通う中村夕子が地元郷土史研究で市長から表彰されたという話が出てきた。

 

 完全に位置は特定できた。

 

 研究発表には黄泉比良坂の伝承がどうの、常世の国がどうのと書いているとこだけが気になる。

 

 イザナミが死んだ時にイザナギが探しに行った死者の国だったか。

 

 この頃は異世界召喚も何も関係ない時期のはずだが、引っかかるところはある。

 

 そんなことを思いながら、周辺の地図と合わせて印刷してクリアファイルに挟んでおく。

 

 さすがに17歳が失踪するくらいでは新聞には載るようなニュースにはならないだろう……と思ったら、日本全国で行方不明者が相次いているというニュースが次々と出てきた。

 

 学生から会社員まで無差別に50人。

 

 「理由もわからず突然に失踪する若者たち」という見出しであることないことが書かれている。

 

 ただし結論に関しては何もなし。

 

 まあ当然だ。異世界に召喚されていましたなどという結論が出せるわけもない。

 

 未成年者が多いのか名前はほとんど出ていないが、度会繁(わたらいしげる)という人物の名前が引っかかった。

 

 繁の名前は以前に聞いたことがあるし、度会は知事の名字だ。

 

 つまり、この人と知事が結婚して、伊原と中村はその友人だったと。

 

 男1人に女3人……何もないわけはなく。

 

 いや、実際何かあったので、度会夫妻はペルーに残って国を発展させる方向に進み、あぶれた負けヒロインの2人は

「おのれ運営め」

「もういい日本へ帰る」

 とあてのない旅に出て、それぞれ喪女をこじらせたのか。

 

 ちょっと男女が揃っただけで、くっつく、くっつかないの恋愛話になってしまうあたり、やはり陽属性はダメだ。

 

 俺達は男2人女2人でずっと旅していても、一切何もなかったというのに。

 

 ……いや、モリ君とエリちゃんはもう少し何か有っても良かったんじゃないかな?

 

 喪女をこじらせて、やっかみで異世界でテロを繰り返した67歳のババアを倒しに行くだけと考えると、一気に気が楽になった。

 

 そんなこんなをしていると、いつの間にか夜は開けてAM7:00になっていた。

 

「9時になったら近くの店へ適当に安い服でも買いに行くか。さすがにこの魔女のコスプレのままでウロウロしてるとどこかで通報されるだろ」

 

 時間もあるし一度風呂に入るかと思ったタイミングでモリ君から折返しの電話がかかってきた。

 

『もしもし、モリ君か?』

『ラビさんですか? あっ、やっぱり女の子のままなんですね』

『まあ、そうだな。こればっかりは仕方ない』

 

 相槌を打ちながら椅子に腰掛けた。

 

 そういえばこれからずっと女子として生きていかないといけないのかと思うと少しだけ憂鬱になる。

 

 下着や服や服なども全て買い揃えないといけないし、他にも必要な品は山ほど有るはずだ。

 他にも覚えないといけない作法、生活スタイルなど、問題はこれから色々と出てくるだろう。

 

 やることが……やるべきことがあまりに多い……。

 

『それで他のみんなはどう? 連絡は取れた?』

『はい。ラビさん以外は全員。タルタロスさん、レルム君、ドロシーはみんな記憶がなくて大変そうですが、報告をくれる限りは何とかうまくやっているようです』

『それは良かった。それだけは気になっていた』

 

 記憶がない3人はうまく日本に馴染めるか不明だったが、何とかやれているようだ。

 

 そのうち暇を見つけて会いに行こう。

 

『カーターさんは月末は仕事がクソ忙しいから当分は電話してくんなと言ってました』

『あいつらしいな』

 

 みんな元気そうで何よりだ。

 

『とりあえず明日には出雲に行きたいと思うけどどうかな? 土日祝を挟むからちょうど良いと思う。ちょっと距離があるから、多分3日くらいの旅行になる』

『大丈夫ですよ。行きましょう。恵理子(えりこ)にも連絡しておきます』

『なら、後で口座番号を送ってくれ。横浜から合流場所までの交通費を振り込むので』

『助かります。調べたら自宅から姫路まで25000円くらいかかるので、さすがに高校生には辛くて』

 

 意外とかかるなと思うが、伊勢までの特急でも5千円くらいかかった記憶が有る。

 

 東京? 新横浜?

 モリ君の最寄りの新幹線の駅が分からないが、地元の駅からだと新幹線なら3万くらいかかるのかもしれない。

 

『どうせバスに乗ったりもするんだろう。足りないといけないから6万振り込んでおく。差額は弁当代にでもして』

 

 ここでモリ君は今から通学。

 昼休みになったらまた電話を掛けるということなので一度電話を切った。

 

「さて、今日1日はどうするかだけど」

(たすく)、何があった!」

 

 電話を切ったそのタイミングで突然に部屋のドアが勢い良く開かれて、1人の女性が飛び込んできた。

 

 俺の高校以来の友人……春日優紀(かすがゆき)だ。

 

 伊原の認識阻害魔法が効いていれば、特に何の反応もなく対応してくれるはずだが……

 

「よう、久しぶり」

「えっ? お前、佑か? いや違う。お前は誰だ?」

 

 明らかに魔法が効いているとは思えないおかしな反応が返ってきた。

 

(やっぱり効いてねえ! 何やってんだ伊原ぁ!)

 

 と、心の中で絶叫するが、まずはこの場を取り繕う方法を考える必要がある。

 

「俺は佑だけど、急に何言ってるんだ?」

「確かに佑だ……何もおかしくないはずなのに……何かがおかしい……」

 

 優紀が突然に頭を抱えて座り込んだ。

 

「優紀!」

 

 思わず優紀に駆け寄った。

 

 何故優紀はこれほど苦しんでいるのか?

 伊原は一体俺に何の魔法を掛けたのか?

 

 まだ頭を抱えて苦しんでいる優紀のためにコップに水を汲んできて飲ませた。

 

「大丈夫か? まだ痛むか?」

「もう大丈夫……多分私が混乱しているだけだ」

「いいから、いつもみたいにソファに寝ていろ」

 

 酔い潰れた時と同じようにソファへ運ぼうとするが、今の身体だと優紀の体を支えるだけの体力がない。

 それでも何とか引きずって寝かせることには成功した。

 

「やっぱりな。中身は佑だけど佑じゃない。お前は何者なんだ?」

「それは……」

 

 旅に出た後でゆっくり説明と思ったが、これは今すぐに説明する必要があるだろう。

 

「俺は5ヶ月間異世界を旅して、たった今日本へ帰ってきたんだ。だけど、異世界に飛ばされた時に強制的に少女の体に変えられた」

「それ何のゲームの設定?」

「残念ながら事実だ」

 

 俺は群鳥……スキルを使って、5羽の青白いウィップアーウィルを喚び出す。

 

「この力を使って異世界で戦い抜いて、たった今帰ってきた」

「その嘘を言えない性格はやっぱり佑だな」

 

 優紀が目を開けそうになったので、手を目に添える。

 

「今の俺には認識阻害の魔法がかかっていて、前の俺に見えるようになっているはずだが」

「えっ? 全然違うぞ。私はなんで佑の部屋に女の子がいるんだと思ったら、頭の中からこいつは佑だって声が聞こえてきて、そんなことはないと否定したらこうなった」

 

 こちらの方が頭が痛くなってきた。

 

 伊原は一体どんな認識阻害魔法をかけてくれたのか?

 邪神か? ……邪神だったわ。

 

「そういうことなら、俺の言葉を信じてくれ。外見は……身体は14歳の少女に変えられたが、俺は俺のままだ。中身は同じだ」

「中身は……同じ?」

「ああ、高校以来お前とはずっと長い付き合いで、あちこち旅行にも行った上戸佑だ」

「そうか、少し整理させてくれ……」

 

 優紀はそう言うと目を瞑った。

 

 その間の来客用の毛布を引っ張り出して、かけようとしたところ、突然に腕を掴まれた。

 

「あさおんキタアアアアア!」

 

 優紀が突然に奇声を上げながら勢い良く立ち上がった。

 

 その生き生きとした表情からは先程まで頭痛で苦しんでいた様子は一切うかがえない。

 

「お、おいお前、頭痛は?」

「いやいやいやいや、知り合いがTSしたんだぞ。しかもこんな可愛い美少女だ。こんなレア体験を楽しまないと損だろ」

 

 突然に知的女性の外観に見合わないキモイ言動を始めた。

 

 そうだった、こいつは前からそういう奴だった。

 こんなのだから、俺以外に嫁の貰い手もないんだぞ。

 

「お前の話を信じて少女の佑を受け入れたら、なんか頭もスッキリした。すごいな認識阻害魔法? どういう原理? やっぱり魔法少女が使ってるのと同じ奴? 変身できる? それで異世界に行っていたらしいけど、どんな世界だった? 勇者とかエルフとかいた? やっぱり冒険者ギルドに入って冒険――」

 

 何やら早口で語り始めたが、途中から聞き流した。

 

 またも頭が痛くなってきた。

 何故俺の周りはこんな変人ばかりいるのか。

 

「結論は?」

「とりあえず可愛いキャラなら全て愛でることにしている」

「俺は可愛いキャラではない。以上だ」

「やっぱりそういうところが佑だ」

 

 優紀はそう言うと、突然俺に抱き着いてきた。

 

「何があったのか教えて欲しい。助けになれると思う」

「別に助けは求めてないが、事情は話そうと思っていた。まあ聞いてくれ。この5ヶ月間の俺の冒険の話を――」

 

 何から説明しようかと考えた時に、今日はハロウィンであることを思い出した。

 ならば、まずはここから始めないといけないだろう。

 

 虚空からクッキーを取り出して、優紀に手渡す。

 何度も繰り返したので何の淀みもなくスムーズに行えた。

 

「ハロウィンです。クッキーをどうぞ」

 

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