収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第三話 「黄泉比良坂」

「現在の状況を再確認だ。まず中村夕子の自宅を調べたところ、2名が首を吊った痕跡が残されていた。これが本当に自殺なのか、他殺なのかは不明」

「次にあの影だよね」

「それといつの間にかこの島に連れてこられていたこと」

「影人間の出現と、俺達が島へ誘い込まれたのはほぼ同時なので、これはあの家を調べた者に対して何らかの罠を自動発動させる仕組みがあった可能性は高い」

 

 状況確認としては以上だ。

 このまま推理を進めていきたい。

 

 港に泊まっていた豪華クルーザーに侵入させていた鳥に外壁の隙間から書類を押し出した後に、別のもう1羽の鳥に咥えさせて回収する。

 

 書類は2枚。

 

「船の中に保管されていた船舶登録証と港湾利用の書類。もしこれが完全に別人で無罪の外国人ならごめんなさいというところだが、見事に当たりみたいだ」

 

 書類に記載された情報を読む。

 

「船はペルー在住のナイアというブラジル人が所有者ってことになってる。まあ、うまく言ったものだと思うよ、確かにタウンティンは現在の地球ではペルーの位置にある国なんだけど」

「よくそれで船を買えましたね」

「邪神の化身だからな。こうやって人間社会に入り込んで騙すのは得意なんだろ」

「こっちの書類は? 日本語みたいだけど」

 

 エリちゃんが俺が持っていたもう1枚の書類に興味があるようだったので渡す。

 

「そちらは港湾利用者証。日本で発行するものだな。こちらはアメリカ国籍でカリフォルニア州サンディエゴ在住のミスラの名前で出している」

「なにそれ? 本当にやりたい放題じゃない」

「そうだな。でも、この名前をわざわざ使うあたり、あの世界に未練があるのか恨みがあるのかは、わからなくなってくる」

「同じ場所にずっと住んでいれば、誰でも愛着はつきますよ。5ヶ月向こうに滞在しただけの俺達だってそうなんですから」

「それもそうだ。タウンティンもそうだし、1ヶ月くらい住んでたフロリダも愛着あるからな」

 

 向こうの世界とは別だが、そのうち金を貯めて夏休みを使ってペルーへ旅行にでも行こうかと思う。

 

 別に今の世界のペルーに行ったところで何があるわけでも知り合いに会えるわけでもないのだが、何かを感じられるような気がする。

 

「エリちゃん、さっき影人間がやってきた方向は分かるかい?」

「海と反対側かな? 多分山の方だと思う」

「南側ね」

 

 スマホで周辺の地図を表示させた。

 

 田舎なのでそこまで情報は詳しくは出てこないが、衛星写真くらいは表示できる。

 

 ここからは探偵が推理を披露する場面だ。

 

「この中村は世界中好きなところに住めるし、何なら次元を渡る力があるなら他の異世界にだって住める。なのにわざわざ故郷へ帰ってきた理由は?」

「うーん、親に会いたかった?」

「何十年経っても故郷へ帰りたかった? ですかね」

「俺の考えに近いのはモリ君の方かな。船の登録内容なんてデタラメでいいのに、わざわざ向こうの世界の情報を入れているあたり、中村は相当に執着が強い。そのくせ、他次元で工作して次元間を攻撃できるミサイルみたいなのを作ってあの世界を攻撃する。これについての人物像は?」

「好きなのに攻撃したい?」

「ヤンデレですか」

 

 中村の人物像がようやく見えてきた。

 

 邪神ナイアルラトホテップから力を受けている化身と聞いた時はどんな化け物が出てくるかと思っていたが、こうやって一つ一つ情報から読み解いていくと、驚くほど人間臭い。

 

 いや、誰よりも人間臭い、人の心を持っているからこそ、人の心を読み、弱いところを付いて操ることに長けているのかもしれない。

 

 邪神ナイアルラトホテップ。

 

 人間社会に溶け込み、巧みな言葉で相手を騙すことで混乱を引き起こすことを得意とするトリックスター。

 

 そんな能力を持つ相手に付け入る隙があるとするならば、逆に人間の弱い部分を突くしかない。

 

「そんな拘りが強い人物が、両親が亡くなったから、自宅があんな状態だからと言って、故郷から離れることを選択するかって話。でも、自宅はあんな状態なので住めない。だけど、侵入者に対しては影人間に守らせるほどの拘りがある。こちらのクルーザーはザルなのに」

「あの家に住めないなら、近くに家を建てるか、ホテル住まいか賃貸かですよね」

「でも、中村がこの世界に戻ってきたのはおそらく3ヶ月前。どんなに急いでも新築住宅なんて基礎工事すら終わらない。だからと言ってこの元漁村だと宿は民宿くらいでホテル住まいは出来ないし、賃貸は物件があるかどうか怪しい。そうなると狙いどころは中古物件」

 

 現在位置の住所から検索サイトで中古住宅をスマホ検索。

 更に売約済で絞り込むと1件ヒットした。

 

「近くに企業が保養所として保有していた海の見える温泉付き豪華物件がある。リーマンショックで売却されたものの、あまりに不便な上に個人で持つには広すぎる土地。でもそこまで値下げるするわけにもいかず、高額で誰も買い手がつかず放置されていた。それが最近になって突然に売れて売約済になった。さて、誰が購入した?」

「そんなの1人しかいないでしょう。勿体ぶらないでくださいラビさん」

「エリちゃん、影人間が来たのは南で良いんだよね」

「しかも山の方。まあそういうことだよね」

「そういうこと」

 

 俺は山の方へ顔を向ける。

 

 角度的にクルーザーが停泊している港、先程戦闘を行った道や車を停めた空き地からは角度の問題でまるで見えないが、近くの山の上には中村が購入した物件は存在しているはずだ。

 

「さて、制服からいつもの服に着替えるか」

「修学旅行気分は終わりってことですかね?」

「終わりじゃない。今は班行動の時間。自由時間は後でたっぷり取っていますので、今は先生についてきてください」

「はーい」

「先生、おやつは何円までですか?」

「これが終わったら豪遊しようぜ! うなぎでもうどんでも何でも好きなのを食べよう!」

 

「修学旅行」の言葉を出した時に気付いた。

 

 危険だから来るななんて言わずに、あいつも連れてくれば良かったか……。

 

    ◆ ◆ ◆

 

 中村が現在拠点にしていると推測されれている場所へ向かうためにひたすら山道を登っていく。

 

 綺麗な舗装はされているものの、山道はそれなりに険しい。

 

「なんでこんな不便な場所に保養所なんて建てたのやら」

「どこの会社が建てたとか分からなかったんですか?」

「それについてはさっぱり。まあリーマンショックで保養所なんて無駄なものに維持コストを払い続けられなくなり売却という、よく聞く失敗事例だな」

「なるほど」

 

 山の上の施設へ向かう舗装路はまるで舗装したてのようで綺麗なものだ。

 この保養所は不便すぎてろくに使われないで長期間放棄されていたのだということは分かる。

 

 ただ、人間嫌いなひねくれ者の拠点としては人付き合いを考えなくて良い分だけ最適なのかもしれない。

 

「危ない、何か来る!」

「プロテクション! みんな後ろに隠れて!」

 

 エリちゃんが突然叫んだのと同時にモリ君が青白く光る壁を展開した。

 

 さすがに手慣れたものだ。

 

 俺達はその壁の後ろへ身を隠すと、そこに銃声と共に何か小さい塊が当たって弾けるのが見えた。

 

「この日本でいきなり警告なしに銃撃とは物騒な」

「これただの銃弾じゃないですね。何かの魔法的な攻撃だと思います」

「根拠は?」

「実弾ならこの壁の手前で潰れた弾丸が落ちます。例の遺跡のゴールにいたSFロボみたいに。でもこの攻撃は壁の手前で黒い光みたいなのが飛び散るだけです」

 

 モリ君の言葉を頭に入れて様子を観察すると、霧の向こう側から飛来した何かは壁に当たるも貫通できず、粒子と化して飛び散っている。

 

 確かに実弾ではこうはならない。

 

 俺達から外れた場所に着弾した攻撃を見ると、アスファルトが削れたり、道路脇に生えている木の枝が吹き飛んだりしているので、攻撃力自体は実際の銃とほぼ変わらないだろう。

 

 俺達の身体に直撃すれば命の危険がある。

 

「壁の強度は大丈夫?」

「これくらいだとビクともしませんが、効果時間は無制限ってわけじゃないので、先にスキルの効果が切れて壁が消えますね」

「なら持久戦に持ち込むのはジリ貧か。あいつらの正体を突き止めて反撃する必要があるな」

 

 使い魔を銃が飛んでくる周辺に向けて飛行させる。

 

 霧でハッキリとした姿は見ることは出来ないが、アサルトジャケットやゴーグルを付けた兵士のような形状の真っ黒い影が5体いた。

 

 それらは腕と一体化した機関銃のような形状の何かから自らの体の一部を射出しているようだ。

 

「敵は先程と同じ影人間が5体。全員が銃で武装している」

「ラビさん、まとめて仕留められますか?」

「霧がなければ増幅(ブースト)極光でまとめていけるが、この状況だと4体までかな」

「それでも十分です」

「分かった。増幅射矢(ブーストアロー)!」

 

 3羽で魔法陣を形成した後に1羽の鳥を高速で射出。

 

 増幅魔法陣を通過した青白く光る鳥は高速回転を行いながらドリルのような回転音を立てて霧の中へ突き進み、横に並んだ影のうち、外側にいた1体に突き刺さる。

 

穿(うが)て!」

 

 以前のままだとそこで効果は終了して鳥は消滅していた。

 だが増幅魔法陣で強化された鳥はそれだけでは止まらない。

 

 勢いを落とすことなく人影を突き抜けると、そのまま直線状にいた他の3体の影も同じように貫いた。

 

 人型の影は粉々の破片になって飛び散り、その粒子は高速回転する鳥が作り出した渦巻に巻かれて消えていった。

 

「すまん、1体残った」

「いえ、それなら大丈夫!」

 

 モリ君が光る壁に手を付けて押しながら前進していく。

 

 その間に何度も銃弾が壁に直撃するが、その攻撃は貫通することなく、全て壁の手前で叩き落とされていく。

 

「うおおおおっ!」

 

 叫びと共に壁を影に無理矢理叩き付けて、そのまま勢いを止めることなく押し続ける。

 

「今だ、やれ!」

「分かってる!」

 

 エリちゃんが壁を飛び越えて跳躍。

 

 壁を高飛びのように胸をそらしながら飛び越えて影の後側に着地。

 間髪開けずに影の背に右肘で超高速の肘打ちを打ち込む。

 

 更に右拳での裏拳、左手の正拳突きを食らわせると、影はバラバラに飛び散り、消えた。

 

「はい裕和(ひろかず)、ラビちゃん」

 

 エリちゃんが両手のひらを見せて立っているので、その手のひら目掛けてモリ君と一緒に手を叩きつける。

 

 最後に俺とモリくんで手のひらをタッチ。

 

「機関銃で武装した影が出たということは、スナイパーライフルを持った影による狙撃があるかもしれない。ここからは注意をしながら進もう」

「でも、狙撃に対してどう備えれば良いんでしょう?」

「エリちゃんの直感に頼るしかないかな。でも、念の為に即死は防ぐように頭だけは守って進もう」

 

 俺は箒。モリ君は槍、エリちゃんは道に落ちていた木の枝で顔を隠すようにして坂を進む。

 

「今のと同じ状況をネットのネタ画像で見た記憶が」

「やめんか、それにはわけがあるんじゃ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 幸いにも狙撃手は現れることなく、中村の拠点と思われる建物に到着した。

 

 その代わりに屋内から「何だと殺す」とばかりにドカドカと出てきた影人間の集団は増幅極光を使って一撃粉砕しておいたので安心して欲しい。

 

「ここが拠点だと隠す気なしだな」

「強行突入で良いですよね」

「ああ、ここまでやって無関係とかないだろう」

 

 正直に言うと、一切の抵抗無しで出迎えられた後に

 

「もしもしポリスメン」

「弁護士召喚!」

 

 をされるとこちらは一切打つ手なしになっていたので、こういうストレートでの暴力による出迎えは、こちらも暴力で返せば済むので、むしろ歓迎するところである。

 

 施設は先程影人間が出てきたばかりなので施錠されていないことは分かっている。

 

 入口のドアを開けて中に入ると、施設内は豪邸というよりもホテルのような構造になってスか。

 

「ラビちゃん、あれってプールじゃない?」

 

 エリちゃんが指差す先には水が張られていないプールがあった。

 夏場なら気持ち良いだろうが、既に11月となると、見ても肌寒さしか感じない。

 

「プール以外にも温泉があるんですよね」 

「無駄に豪華な建物だな。そりゃこんなホテルみたい建物なんて企業も管理を放棄するよ。掃除にしろ何にしろ維持管理専門の従業員がいないと回らないだろう」

「中村がいるとしたら2Fですね。10部屋客室があります」

 

 モリ君は入口にある案内図を確認している。

 

 1Fにあるのは今いるエントランス、調理場と食堂、温泉にプール用の更衣室だけのようだ。

 

 中村が居るとしても2Fだろう。

 

「中村の心理を考えると、使いたくなる部屋は?」

「海沿いで、一番見晴らしが良い部屋。真ん中か一番端の角部屋でしょうか?」

「なら真ん中だな」

「何故です?」

「自分が支配者気取りだから」

 

 モリ君とエリちゃんが「なるほど」と感心しながら俺に付いてくる。

 

 階段を登って2Fへ。

 

 そして中央の一番広い部屋の前に立つと、そこには金属のプレートが取り付けられていた。

 

 そこにはラテン語の文字が掘られている。

 

「Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate……ここに入るもの一切の望みを棄てよ。またこれか。ワンパターンだな」

「ダンテの神曲の一節でしたっけ?」

「既視感がすごいな」

 

 プレートを無視して扉をバンバンと雑に音を鳴らして叩く。

 

「開けろ! デトロイト市警だ!」

「そう言えば、パナマでも似たようなことをやりましね」

「あの時も赤い女だったよな……前回はミイラで今回は元日本人なんだけど」

 

 何度ノックしても部屋からの反応はない。

 

 意を決して扉を勢い良く開くと、そこはいきなり下る階段があるだけの部屋になっていた。

 

 ホテルの構造上、2Fにある部屋に下り階段があるのはおかしいのだが、これは俺達に降りてこいということだろうか?

 

 そんな罠には釣られないと無視して扉を閉めて、今度は隣の部屋の扉を開く。

 

 そこもオーシャンビューで海の見える眺めの良い部屋になっていたが、残念なことに窓の外は霧で何も見えない。

 

「ここからバルコニーに出られるみたいですね」

 

 モリ君が窓際のガラス戸を開いた。

 

 そこはバルコニーになっており、そこには小さいテーブルと椅子が置かれている。

 直接海を眺めながら飲食を楽しめる作りのようだ。

 

「なら、こちらから、さっきの隣の部屋に戻ってみよう」

 

 バルコニー経由で先程の中央の部屋に戻ると今度は下る階段などなかった。

 

 鍵はかかっていたが、エリちゃんが力任せに引っ張ると、何やら金属製の部品がカランと音を立てて床に落ちる音がした後にガラス戸は開いた。

 

 屋内は小さいテーブルとベッドが置かれている以外は何もない部屋だった。

 

 テーブルの上に写真立てに入った写真が飾られている。

 

 そこには地味な高校生らしい女子と中年の夫婦の写真。

 これはかつての中村の家族の写真だろうか?

 

 その横には以前に伊原から見せられたものと同じ、少女時代の中村、伊原、度会(わたらい)知事の3人が写った写真。

 

「もっと冷徹な復讐鬼みたいなやつかと思ったら、こいつ未練タラタラすぎるだろう」

「未練があったからこうなったんじゃないですか?」

 

 モリ君の意見も尤もだ。

 

「もしかして中村はあっちの世界に帰りたかったんじゃないですか? もしかして伊原さんに無理矢理連れてこられたと思い込んでいるかも」

 

 ありそうな話だ。

 

 あの住みやすい世界からこんな日本に置き去りにするなんて許せない。あちらの世界を滅ぼしてやる……あれ?

 

「なんか全体的に行動が無茶苦茶だな。愛と憎しみの感情が同時に発生している」

「可哀想な人なんだね。全然同情は出来ないけど」

「もしかしたらナイアルラトホテップに操られているのかもしれないけどな。伝承にある邪神はそうやって人の弱みにつけ込んで、人間社会を崩壊させることを楽しむんだ」

 

 なんと言っても相手は邪神。

 

 しかも、人間を騙して社会を混乱させることが目的というトリックスターだ。

 

 力を与えられたはずの化身の中村が実は道化だったという可能性もあり得る。

 

 ただし、こいつがやらかしたことは、たとえ邪神に操られていたとしても決して許されるレベルではない。

 

 伊原の無責任っぷりにも腹がたつが、だからと言って散々やらかした上に、まだおかわりもやりかねない中村を無罪放免には出来ない。

 

「それで、この中村はどこにいると思う?」

「さっきの階段を降りたところで待っているんじゃないんですか? こうやって大切な写真を見られていても、何の反応もないあたり」

「まあ、そういうことだよな」

 

 頭をかきながらバルコニー経由で元の通路に戻る。

 

「それじゃあ行きましょうか、地獄へ」

 

 モリ君が明るく扉を開こうとしたので、それを制した。

 

「実は、調べた資料の中に中村が中学校時代に黄泉比良坂(よもつひらさか)の民俗学の研究をして表彰されたといたというのがある」

「よもつひらさか?」

「日本の伝承に残るあの世への道のことだよ。国作りの神であるイザナギは死んでしまったイザナミを蘇らせるために黄泉の国へ向かうが、イザナミは復讐に燃える邪悪な神へと変わってしまっていた。イザナギは連れ帰るのを諦めて地上へ戻る。この道が黄泉比良坂。古事記にも書いてある」

「平安時代の哲学者ミヤモト・マサシもそう言っていたというやつ?」

「いや、これは本当に古事記にそう書いてあるんだって」

 

 古事記について悪いミームが広まりすぎている。

 これはガチャと同じで悪い文明。

 滅ぼさないといけない。

 

「つまり、何を言いたいんですか?」

「この先には自分だけが不幸だと思いこんでいる悲劇のヒロイン気取りの67歳の痛いババアが中二病を爆発させているってことだよ」

「ええ……」

 

 モリ君が若干引きつった顔をしている。

 

 ただ、今の状況を歯に衣着せずに端的に説明するとそういうことになってしまう。

 

「いや、中村は少し前に日本へ帰ってきているからまだ37歳くらいなのか」

「どの道、痛いですよそれ」

「現在もこのように絶賛中二病が爆発しているババアなので、階段を下りた先にもダンテの神曲の地獄を完全再現している可能性は高い。ようするにボスキャラオンパレードだ」

「またあのケルベロスとか出てくるの?」

「ダンテの地獄の話だと他にもミノタウロスやハーピーなんかが出てくるはず。戦闘も必然的に増えるだろう。だから覚悟して地獄のデスロードを進んで欲しい。イザナギとかオルフェウスとか鳴上悠の気持ちで」

「最後誰なんですか!?」

 

 俺はポケットに入れた限界超越用のアイテムを握りしめた。

 モリ君も同じ行動を取っている。

 

 もしも戦闘能力が足りなければ使わざるを得ないだろう。

 

 痛いオバサンの中二病テーマパークのイベント要員にされるなど死んでも死にきれない。

 

「では行くぞ。中村を倒して今日の昼飯は宍道湖のうな丼だ!」

「うな丼は上でもいいですか?」

「上? ……うん、まあ今回くらいはいいよ」

 

 財布を取り出して相談する。

 

 うむ、大丈夫だ。

 上うな丼の値段を調べてないが多分大丈夫だ。

 知らんけど。

 

「その後に出雲大社の観光もいいですか?」

「フォーゲルパークでペンギンを見るのもセットにしよう。ハシビロコウもいるみたいだぞ。しかも餌やり体験も出来る」

「やる気が出てきた!」

 

 2人とも単純なものだ。

 

 もちろん、ここまで来たら逃げるという選択肢はない。

 必ず勝って戻ろう。

 

 うなぎが俺達を待っている。

 

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