収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第五話 「さよなら結依」

 ただ真っ白い空間にいた。

 

 その中に俺……小森裕和(こもりひろかず)結依(ゆい)だけが浮いている。

 

「ここはどこなんだ? 確か地獄を頑張って降りていって……」

 

 既に戦ったことがあるケルベロスや新顔のミノタウロスなどのモンスターを倒して地獄を降りていき、ついに最下層の第九圏まで降りたことは覚えている。

 

 ただ、そこからの記憶が繋がらない。

 一体何が起こったのか?

 

 俺は槍を携えて外へ向かって歩き出そうとしたところ、結依が服の裾を掴んだ。

 

「小森くん、どこに行くの?」

「結依はもういないんだ。だから、こんなところにいるのは、幻覚か妄想でしかない」

「なんでそんなことを言うの? 小森くんの……カズ君のせいで私は死んで、こんな地獄に落とされたんだよ」

 

 結依は恐ろしい力で俺の体を引き寄せて、鬼のような形相で俺を睨みつけてきた。

 

「なんでまだ生きてるの? 早く死ねばいいのに」

「違う、結依はそんなことを言わない!」

「私のことなんて何も知らないくせに! 私の身体が欲しかっただけなんでしょう! ちょっと昔に仲が良かったからってそれを利用して近付いてきて!」

「違う!」

「その癖、中途半端な嘘をついて私をからかって。私を虐めていた連中と同じだったんでしょう!」

「違う、俺は……話を聞いてくれ」

 

 うなだれて言うと、突然に結依の姿が消えた。

 

「ヒロカズさん、こんなところで何をやっているんですか?」

 

 背後から急に声がかかったので振り向くと、今度はリプリィさんが立っていた。

 

 いやおかしい。リプリィさんはあの世界の住人だ。

 もう二度と会うことは出来ないはずだ。

 

 こんなところにいるはずがない。

 これは偽物だ。

 

 頭の中では理解しているのに、目を離すことが出来ない。

 

「どうして私達の世界を捨てていったんですか? どうして残ってくれなかったんですか?」

「それは前にも話したはずだよ」

「違うでしょう。本当はあの世界に1人だけで残るのが怖かったんでしょう。ラヴィさんやエリスさんに冷たい目で見られて嫌われるのが怖かったんでしょう」

「止めろ!」

「それなら、あの時、一言でも私に付いてきて欲しいと言ってくれたら、私は貴方に付いて行ったのに……」

「これはただの幻覚だ! リプリィさんとはちゃんと話をして別れたんだ。今になってそんな嫌な言葉を言うはずがない!」

「どうして最後に何も言ってくれなかったんですか? そのせいで笑顔のまま見送れなかったじゃないですか」

「そうだよ……俺はあの時も恥ずかしいって感情のせいで一歩踏み出せなかった。結依の時と同じことを繰り返してしまった……」

 

 目を瞑って頭を振っていると、リプリィさんの声は聞こえなくなった。

 

「なんで頭を振り回すとかバカなこと何やってんの裕和?」

「そうだよ、モリ君。バカみたいだぞ」

 

 今度は恵理子(えりこ)とラビさんが出てきたが、やはり何か2人とも様子がおかしい。

 この2人にも罵倒されるのか……

 

「俺達だけでもう中村を倒しちゃったよ。本当に役立たずなんだから」

「裕和は全然役にたたないもんね」

「ラビちゃん、あんなのは無視して2人だけでうどんを食べに行こう」

「そうそう、香川へうどんを食べに行こう。モリ君は、せいぜい、うどんの水を切って揚げた麺に野菜たっぷりの中華餡をかけた熱々のかた焼きそばならぬ、かた焼きうどんを食べて麺が口の中に突き刺さったり、熱々の餡で火傷したりして地獄を味わうが良い」

 

 遠巻きに俺の悪口を連呼しながら、2人だけで装甲車に乗ってどこかへと走り去っていく。

 

「待ってラビちゃん、そのかた焼きうどんってどこで食べられるの?」

「小さな中華屋なんだけど『かた焼きうどんあります』の張り紙に釣られて入ってみれば、それはもう美味い美味い」

「2人とも待ってくれ、俺にもそのかた焼きうどんを食べさせてくれ!」

「こんがりと揚げた小麦粉生地の旨さは揚げ餃子や春巻きなどで御存知だとは思いますが、それをシンプルな小麦粉で作る麺であるうどんをきつね色になるまで揚げることで、カリっとした食感と香ばしさが口の中に広がり、そこに、おそらく乾燥ホタテから取ったであろう海の香りが濃厚な中華だしが中華餡にコクを与え、見た目からして業務用冷凍シーフードを解凍しただけの具材の力を倍増させる! 九州独特の甘い醤油、そして口の中に入れると甘さだけを残してトロリととろける新キャベツに、更に甘ーい新玉ねぎ。突然にやってくる甘さのトリプルアタック。だが、なんだこの上に乗っている菜の花のような野菜は! 苦い!? でもその苦味は全体的に甘いこの料理に強烈なアクセントを与えてくる! 甘さが苦さを、苦さが甘さを引き立てる。大事なのはコントラスト。そして、ここでお茶を飲むと、それは実はハーブティーで、爽やかな味がすーっと効いてきて……」

 

 ラビさんの詳細なレビューが食欲をそそらせる。

 

 カリカリのうどんに中華餡? そんなの絶対に美味しいに決まってるじゃないか!

 

「あと、その店にはうどん肉団子なる謎のメニューがあってだな。結局頼まず店を出たんだが、やっぱり気になってる。今度近くに寄ったらチャレンジしてみる」

「うどん肉団子!? それも気になる! でも裕和にはあげません」

「うどんー!」

「うどんー!」

 

 おかしい。

 

 なんとなく……いや、完全にいつもの2人だ。

 幻覚に違いないのだが、何かがおかしい。

 

 それはともかくとして、俺もかた焼きうどんを食べたい。

 

 涙を浮かべて地面へ握り拳を叩きつける。

 

 何故俺はかた焼きうどんを食べられないんだ……。

 

 ふと顔を上げると、車で走り去ったはずのラビさんが前に立っていた。

 

「限界超越だ。それを使えばその球体を破って自由になれる」

 

 先程までと雰囲気がまるで違う。

 

 まるで俺に何かを教えるために戻ってきてたように思える。

 

「限界超越を使う?」

「そう、カズくんも出来るはず。自分の心の中で無意識にかけているブレーキを壊して限界を越える。カズくんを縛っているのは僕への罪悪感」

「えっ?」

「もう一度、その手を伸ばして。仲間を……友達を信じてみて」

 

 気付くとラビさんの姿はどこにもなかった。

 

 俺がいる場所も真っ白な空間ではなく、見覚えのある光景……俺の通っている高校の裏庭に変わっていた。

 

 結依と再会した場所。

 何回か一緒に昼食を食べた思い出の場所……。

 

「ここは?」

「よう、俺。限界超越を使うつもりなんだな」

 

 突然に声を掛けてきたのは、学校の制服を着た俺と同じ姿をした「何か」だった。

 

「お前は誰だ?」

「お前の中の負の感情だよ。さっきまでありえない幻覚を見せた奴には一時退場いただいた」

「さっきのかた焼きうどんの話もそいつの仕業か?」

「いや、俺の精神を攻撃しようとしてた奴なら、あんなことを言わせるはずがないんだが……何故ああなった?」

 

 俺と同じ顔をした何かが、露骨に嫌そうな顔をした。

 どういうことだろう?

 

 俺と同じ姿をした「何か」は裏庭の奥へと歩いていった。

 顔の半分が闇に沈み、その表情は見えない。

 

「さっきラビさんが言っていただろう。お前の心を縛って成長に制限をかけているのは過去の後悔だ」

「俺が過去を捨てきれないということか?」

「いや違う。過去は捨てるものでも忘れるものでもない」

 

 俺と同じ姿をした「何か」が指差した先には子供の頃に結依と遊んだ思い出。

 

 そして、高校になってから結依と再開してからの僅かな思い出の光景が動画のように浮かんでいた。

 

「そもそも俺は結依とはそれほど親しくはなかったんだよな。それこそマスクで顔も分からない昔の友達と大差ない。偶然再会するまで存在すら忘れていたくらい。だから、思い出はそこに浮かんでいるそれで全てだ」

「確かにその通りだ。本当に親しい仲なら、結依をあんな状態まで放置することはなかった。何とか助けられるかもとか、希望を与えてしまったとか、それは全部勝手な思い込みだった」

「でも、あの時にもう一歩踏み出せば、助けられたかもしれない。そうすればまた違う未来はあった」

「だけど出来なかった。そして、それを謝罪することはもう出来ない。奇跡でも起きない限りはもう結依と話すことは出来ない。だから、お前はこれから死ぬまで、ずっと後悔して生きるんだ」

 

 ふと気付くと、校門の前に恵理子、ラビさん、リプリィさんの3人が立っていた。

 

 その後ろにも大勢の人がいる。

 

 ハセベさん、ウィリーさん、ガーネットさん、フォルテ達、アデレイドさん……異世界で出会った多くの人達。

 

 リプリィさんが俺に笑顔で手を振りながら裏庭……過去の方へと歩いていった。

 

 異世界に残ったので、もう会うことも出来ないハセベさん達もどんどんと裏庭の方へと歩いていく。

 

 だが、誰も消えはしない。罵ったりもしない。

 

 みんな過去から俺のことを見守ってくれている。

 その人達の中には結依の姿もあった。

 

 校門前には恵理子とラビさんの2人だけが残った。

 

「お前はどうする? 過去を忘れて進むのか、それとも過去へ戻るのか?」

「どちらも選ばない。過去は背負ったまま、先へ進む。どんな酷い過去も、悲しい過去も、全部背負って生きていく」

「そうだ、絶対に忘れるな。過去も未来も全部繋がっている。過去の思いを受け入れた上で、未来へ進むんだ」

 

 ここで気付いた。

 あの2人は俺の希望だ。

 

 だからこそ、あの2人を悪役にすることは出来ずに、単にうどんの美味しさを語るだけの変なキャラクターになってしまった。

 

 もちろん、過去のみんなが見守ってくれていることも忘れない。

 

 過去のみんながいて、未来に待っている2人を信じられるからこそ、前へ進める。

 

「さあ行って」「一緒に行こう」

 

 結依とラビさんが手を伸ばしてきた。

 

「未来へ」

 

 俺はポケットからカードと結依の形見……文化祭で作ったガラスの勾玉を取り出して、握り潰した。

 

「限界超越!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「お帰り小森くん」

 

 小森くんが球体を突き破り、外に飛び出してきた。

 

 見た目は普通の布の服にポンチョと初期状態に似ている。

 

 だが、よく見ると服は細かい刺繍などが入っており、ただの村人服だった初期と比べれば雲泥の差だ。

 

 そして、大幅に変化したのは槍の形状だ。

 

 今までは1m50cmくらいの長さだった槍が、50cmくらいのバトンのようなサイズになっている。

 これではまともに槍としては使えないのではないだろうか?

 

 小森くんも何故そうなった? とばかりに自分の槍を見つめていると、突然にガシャンと音を立てて槍が形を変えた。

 

 まるでクロウさんの武器のように、剣、槍、斧と次々と形状を変化させていき、その度に柄が伸びたり縮んだりする。

 

「これは……俺の思う通りの形に変化するのか? プロテクションの武器化に対応した武器の進化」

「残るはエリちゃんか」

 

 ふとここで気になった。

 

「エリちゃんって限界超越のアイテムを持っているんだっけ?」

「何も聞いていませんけど。ラビさんは何か聞いてますか?」

「こちらも全然。自宅から何か持ってきたとか、異世界でそれらしいアイテムを見つけたとかももなかったし……」

 

 ふと嫌な予感がした。

 

「エリちゃん、もしかして限界超越出来ないんじゃ?」

「えっ?」

 

 エリちゃんが囚われている球体を見るが、まるで起きる気配はない。

 

「すみません、恵理子を助けに行って来ます!」

「どうやって?」

「あとはラビさんの判断に任せます!」

 

 小森くんは一切躊躇わずにエリちゃんが入っている球体の中へと飛び込んでいく。

 そしてエリちゃんを抱きしめると、そのまま目を閉じて……動きを止めた。

 

「いやちょっと待って、確かにエリちゃんが大事なのは分かるけど、もっと考えようよ!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 色々な人が次々に現れては私を罵倒していく。

 

 それに耐えられず、私……赤土恵理子(あかつちえりこ)はパパとママから離れて岡山にある祖父母の家で暮らすことになった。

 

 小学校の頃から運動なんて全く出来ない。

 マンガが好きなだけの、ただの地味な眼鏡の学生。それが私だった。

 

 マンガは好き。

 

 何も出来ない私と違って、マンガの中のヒロインは心も身体も強くて……私にはないもの全てを持っていた。

 

 だから、嘘をつくようになった。

 嘘で語るのは理想の自分。

 でも、嘘をつく度にどんどんと友達は減っていった。

 

 今もそうだ。

 私は明るくて運動が出来てみんなと仲良く出来るキャラを装っているけど、根っこの部分は何も変わっていない。

 もし、この嘘がバレたら……ラビちゃんも……裕和もいなくなってしまうんじゃないだろうか?

 

 だから、この昔の姿は絶対に誰にも見られたくはない。

 もし見られてしまったら、全部バレちゃう。

 

 もうみんなに嫌われるのは嫌だ。

 

「なんだ、恵理子は男に媚びるようなキャラを無理矢理作って演技してたのかよ。失望したよ」

 

 顔を上げるとそこには裕和がいた。

 その表情は呆れにも怒りにも見える。

 

「こんな奴だと知っていたなら、あの世界に残ってリプリィさんと結婚すれば良かった」

「やめて、そんなことを言わないで!」

「いやもう、お前は話しかけるなよ」

 

 裕和は私に一切顔を向けることなく去っていく。

 

 裕和の姿が消えると、今度はラビちゃんが立っていた。

 

「出雲は出雲そばが名物です。出雲そばの特徴はつなぎの小麦粉が少なめでそば粉の比率が多めなのと、殻を多く入れることでそばの風味が強いのが特徴ですが、そのため十割そば程ではないものの、ボソボソとした食感になり、好みは分かれるところだと思います。ただ、この蕎麦を宍道湖で穫れたしじみの濃厚な出汁で食べる温かい蕎麦は評価がまた違ったものになります。そういう意味では、出雲で割子のそばを食べる以外にも松江で食べる出雲そばという選択肢を含めるのもありかとは思います」

「うどんの話は?」

「出雲なら蕎麦だよ! 日本海沿いの町はどこも蕎麦祭りだ! ちなみに土産物屋で売っている濃厚しじみ醤油を買ってとろろ昆布にかけた後に熱湯で薄めると簡単にしじみ汁を作れる上に美味いぞ」

「ラビちゃん、うどんの話をして」

「せっかく出雲に来たんだから出雲そばを食おうぜ! そこのお前! うな丼一杯の値段は蕎麦六杯分だぜ」

「そんなに?」

「6000円ですけど」

 

 そう言って何処かへ駆けだしていった。

 

 全体的に意味が分からなかったけど、私の味方をしてくれないということだけは分かった。

 

 また暗闇に私だけが残された。

 

「もう誰も助けてくれない……」

「そんなことない」

 

 さっき私に厳しい言葉をぶつけてきた裕和が戻ってきていた。

 

「今度は何なの?」

 

 裕和は私の問いには答えず、私の真横にわざとらしくドシンと音を体重をかけて立てて座った。

 

「こんなところに1人でいないで、俺と一緒に行こう」

「私には行く資格はないよ。私はただの嘘つきだよ。体を動かすのが得意なんて嘘。明るく振る舞っているのも嘘。本当は1人で本を読んでいるのが好き」

「なら、俺のことが好きというのも嘘なのか?」

 

 少しの沈黙。

 

「それも嘘かも。ただ見捨てられなくなくて、強そうな、助けてくれそうな人に媚びを売っているだけなのかも」

「それならドロシーの面倒を見ていたのもあれも嘘か?」

「あの子は寂しかったんだよ。構って欲しくて色々と暴れていただけ。それが分かったから、あの子には優しくしないとって」

「なら、それは本当のことだ」

「リプリィさんとの別れで泣いたのは?」

「それも本当。リプリィさんは最初に出来た友達だから」

「うどんが好きなのは?」

「うどんは大好き。子供の頃から四国の親戚の家に行く度に食べる思い出の味だから」

 

 そこまで言うと、裕和が私を手を持って立ち上がった。

 暖かく、力強いその手は、私に再び立ち上がる力を与えてくれるようだった。

 

「こんなにたくさん本当のことが有るじゃないか。なら、君は嘘つきじゃない。心の優しい人だ。それに、君は本音を隠せないから、すぐにバレるような嘘しかつけないんだ。根は正直者だから」

「そんなにすぐにバレる?」

「ああ、下手な嘘しかつかないからすぐに分かる。長い付き合いなんだから分かるよ」

 

 裕和が私を抱きしめた。彼の暖かい心が伝わってくる。

 

「だから、最初は助けて欲しくて媚びを売っていたというのも嘘じゃなくて本音だと分かる。そして、今は俺のことを好きだということも嘘じゃない」

「なんか、私のことをただのバカ扱いしてない?」

「ごめん、恵理子のことはちょっと頭が悪いなと思ってる」

「いくらなんでも酷すぎなんですけど、それ」

 

 元の調子が戻ってきた。

 

 なんで私はこんなに落ち込んでいたんだろう。

 昔と違って今はこんなに頼りになる人が要るのに。

 

 よく考えたらおかしい。

 裕和が私にあんな酷いことを言うはずがない。

 

「恵理子はバカだから、俺が付いていなくちゃって思う。出来れば、俺のことは助けてくれる都合の良い存在扱いで良いから、ずっと側にいさせて貰えたらって思う」

「それなら、ずっと面倒を見て欲しい。ずっと頼りにしてるから」

「ずっとっていつまで?」

「死ぬまで」

 

 私達は初めてキスをした。

 

 今までは何度もチャンスが有ったのに、ずっと関係が壊れるのが怖くて踏み込めなかった。

 

 だけど、今なら大丈夫だ。

 この人なら、私と一緒に、楽しみも苦しみも分かち合っていける。

 

「それでここはどこなの?」

「地獄の中。俺とラビさんは敵の仕掛けた罠から限界超越を発動して脱出出来たけど、恵理子だけ出られなかったので助けに来た」

「なるほど。それで私達はどうやってここから脱出するの?」

 

 それを聞いた裕和はバカにしたような顔で笑った。

 

「何笑ってるの? せっかく裕和は脱出出来たのに、私を助けるために一緒に捕まっちゃ意味がないじゃない!」

「やっぱり恵理子ってバカなんだなって」

「バカにしないでよ」

「だって……閉じ込められた俺達を助けてくれる人なら、そこにちゃんといるだろ」

「ああそういう」

 

 そう、今の私には信頼出来る友達がもう1人いる。

 

 あの人ならどんな状況からでも絶対に私達のことを助けてくれる。

 

 ほら、今もすぐそこに来ている。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 あの球体は何らかの魔術であるならば、そこへエネルギーを供給しているエネルギー源を断てば術は維持出来ずに解除される。

 

 それが魔法陣ならば、バルザイの偃月刀でそれを無茶苦茶な落書きで上書き出来るはずだ。

 

 と、ただの思い付きで試してみた作戦が大成功だったようだ。

 

 増幅(ブースト)で強化した鳥にバルザイの偃月刀を咥えさせて球体の外壁を貫通させるというゴリ押し。

 

 俺はそもそも魔法のことなど知らないので、スタイリッシュさには欠けるが、これで勘弁してもらいたい。

 

 何はともあれ、球体から2人は解放された。

 

「信じていました、ラビさん!」

「俺が助けられる範囲にも限度ってものがあるんだから、あんまり無茶するなよ」

「でもラビさんに任せれば大丈夫って信じてました」

 

 流石にそこまで信頼されると、こちらとしても強く言いにくい。

 

「それで、2人とも無事か?」

「はい、俺達は大丈夫です」

「それならいい。これから3人で力を合わせて、あの勘違い中二病の婆さんをぶちのめすぞ!」

 

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