収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 16 「セレファイス解放戦」

「師匠、僕の能力じゃエレベーターを上げるだけですけど」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 俺は装甲車の屋根の上で腕組みをして陣取る。

 レルム君以外のメンバーは、全員車の中で待機してもらっている。

 

 マンハッタン島にある動力炉を占拠して、紅玉のエネルギーを吸収させる。

 

 色々と作戦を考えた結果、一番良いと判断したのは速攻の電撃作戦だ。

 

 こちらの侵入が察知される前に最速で包囲網を抜けて、目的を達成する。

 

 住民さえ解放してしまえば、レン人や怪物化した人たちはどうとでもなる。

 要は、体制が整う前に全部終わらせてしまえばいい。

 

 ロングアイランド島からマンハッタンまでの橋や道路状態は確認済みだ。

 最速で駆け抜けて作戦を果たした後は、そのまま車に乗って逃亡する。

 

「じゃあ、始めますよ」

 

 レルム君の能力で、地下駐車場に一時的に照明が点った。

 それと同時に車用の昇降機が機械音を立てた。

 

 装甲車を乗せた車用のエレベーターが少しずつ天井に向けて上昇していく。

 

 だが、天井部分のハッチは閉じたままだ。

 別の操作が必要なのだと思うが、レルム君は1人なので同時には動かせない。

 

 なので、俺がどうにかする。

 

 まずは鳥を5羽召喚。

 5羽の鳥を五芒星を描くように配置する。

 

 通常盾(シールド)は3羽の鳥で正三角形を作る。

 これを5羽で図形を作る。

 

 蟇(ひきがえる)の神に旧神の印(エルダーサイン)を作り込んだ時からの発展。

 タラリオンで怪人を倒した時に旧神の印で極光を収束させた時からの応用。

 

 そして、坂下が使っていた魔術の威力を強化するための魔法陣を取り込んでみるテスト。

 

 拳を握り、そこで極光を限界……21秒溜める。

 

「これが今までの旅で培ってきた、俺が放てる最大の極光だ!」

 

 拳を天に突き出すと同時に、放たれた虹色の光線が五芒星の中央を射抜いた。

 

 衝撃と熱を伴う光線は鳥たちが描いた五芒星によってさらに収束。

 エレベーターの移動を妨げるハッチを一瞬で撃ち抜き、空の彼方へ消えた。

 

 ハッチの残骸が降りしきる中、雲一つない満天の星空が見えた。

 

 まだ肌寒い夜の空気を感じながら、車の屋根の上での腕組みをなおも継続する。

 

 格納庫の第七ハッチが開いて外に出る時には腕組みのまま上昇するのは伝統芸能だからだ。

 貴重な文化は未来に受け継いでいかないといけない。

 

 車が地上に出たタイミングでレルム君はドアを開けて中へ入って行った。

 

 俺は背負っていた箒を右手に構える。

 

 エレベーターが上昇した場所は、宮殿の庭だった。

 そこからは真っすぐ市街地へと道が伸びている。

 

「発進!」

 

 構えた箒を前に突き出すと、それを合図に車が走り出した。

 

 幸いにも、まだ反応しているレン人の商人や怪物はいない。

 夜間なので出歩いている住民もいない。

 

 敵が動き出す前にカタをつける。

 

 30秒経ってスキルの再使用が可能になった。

 鳥の使い魔を喚び出して、空に放つ。

 

 これが俺が外に出ている理由の一つだ。

 町の様子を鳥の使い魔の目でチェックして、なるべく邪魔が入らない最適なルートをナビゲーションする。

 

 俺は屋根の上から指示を出すだけでいい。

 車を運転しているカーターが細かい判断は全部やってくれる。

 

「次の角を右折。2つ路地を越えて左折」

 

 空から見ると、早くもレン人が動き出したのが見えた。

 だが、こちらの電撃作戦に対応できていないようだ。判断が遅い。

 

 石畳が装甲車の重量に悲鳴を上げ、道の脇に出したままだった木箱を跳ね飛ばす。

 

 路地に入ると、今度は視界に建物の間に張られたロープが迫ってきた。

 おそらく洗濯物を干すためのものだろう。

 

 車には影響ないが、屋根の上で仁王立ちしている俺には直撃するコースだ。

 しゃがんで避ける。

 

 1、2、3本……意外と多い。

 頭上を数え切れないほど多くのロープが通過していく。

 

 不老不死だの無限の町だの言ったところで、人はこうやって普通に生活していくのだ。

 

 道路の段差は意外とあるようだが、装甲車の8つのタイヤとサスペンションがそれを受けとめている。

 振動は思っていた以上に少ない。

 

「後ろから追っ手があるが、車の速度に追いつけるわけがない。気にせず全力で道なりに直進!」

 

 車は住宅街や商店街を通る微妙に曲がりくねった道を駆け抜けた。

 後方にチラリと見えた追っ手ははるか後方に置き去りになった。

 

 すさまじい勢いで景色が後ろに流れていく。

 

 体全体が走行風で押されるが、何度も空を飛んでいる俺にとっては、風を受けるのは慣れている。

 

 あっという間にロングアイランド島の端までやってきた。

 

 先にあるのは、イースト川の中州、ルーズベルト島を経由してかかる橋。

 そこを越えればマンハッタンだ。

 

 だが、さすがに相手もバカではなかったようだ。

 地の利を生かし、先回りしたレン人が橋を通過させまいと、進路上に木箱などを積み始めた。

 

 車の中にいるメンツの中で、この状況に対応できるのは誰だ……。

 少し考えた後に車の中に呼びかけた。

 

「モスマン退治の時の要領だ。ドロシーちゃんのハイドロカノンで橋の前にあるバリケードを撤去してくれ! 合成バージョンじゃないぞ。ノーマルの威力が弱い方だ」

 

 了承の意味なのか、クラクションが一度鳴った。

 外部スピーカーがないのは面倒だが、こうやって意思疎通ができるならば問題ない。

 

「爆裂的に鎮圧せよ!」

 

 俺の掛け声の意味が分かったのかそうでないのか。

 車の前面に水の塊が生成されたかと思うと、高圧の水流と化して、進路を邪魔する木箱を薙ぎ払った。

 

 レン人たちも吹き飛ばされて川に転落していったが、今ので死ぬことはないだろう。

 

「爆鎮完了!」

 

 車は速度を保ったままそのまま橋を抜けた。

 連中は直に追いついてくると思うので、可能ならば橋を落としたいところだが、それはできない。

 住民に迷惑がかかる。

 

 川を一気に越えて、ついにマンハッタンに潜入した。

 町に立ち並ぶのは、夜の暗闇の中でも目立つ白亜の尖塔群だ。

 月明かりに照らされて、摩天楼のようにも見える。

 

 その中でもひときわ高い塔こそが、この町のエーテルリアクターの設置場所だ。

 

 今のところ、マンハッタンにはレン人の姿は見受けられない。

 

「鬼の居ぬ間に洗濯といこうぜ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 車は運営の動力炉がある塔の前にたどり着いた。

 正面入り口を塞ぐように横向きに停車すると、ドアが開き、モリ君が顔を出した。

 

「予想通り住民の反発はないですね」

 

 モリ君の言う通りだ。

 

 俺たちの一連の大立ち回りに対して、敵対的な姿勢を見せているのはレン人ばかりだ。

 

 住民たちは騒ぐ気配がないどころか、窓から手を振るなどしているのが見えた。

 歓迎されている感すらある。

 

 レン人からの報復を恐れてか、さすがに表立って味方をしてくれる者はいないが、少なくとも敵対する様子は今のところ見せていない。

 

「でも、よく気づきましたね。住民は運営や日本人の能力者に対して協力的だって」

「ハンザラさんがそうだっただろう。俺たちの装甲車を見ただけで、消えたクラネス王の関係者だと誤解したんだから」

 

 今の作戦は、塔へどうやって忍び込むかを相談しているうちに思い付いたものだ。

 

 住民はレン人や怪物を恐れており、逆に長い間町を支配してきた運営は味方だと思っている。

 そして、俺たちが乗り回している装甲車は、運営が使用していた乗り物だ。

 

 ならば、隠密行動を取るより、堂々と車を晒した方が動きやすいのではないかと考えてのことだ。

 

 予想はぴたりとはまってくれた。

 

 セレファイスの住民にとっては、俺たちは行方不明の王の命令を受けて、町を解放するために送り込まれた救いの船に見えた可能性がある。

 

 アデレイドたちがこの町に2か月ほど滞在しており、仕事をしていたというのも効いているだろう。

 住民にとっては、日本人の能力者は味方だ。

 

 実際、怪しい連中や紅玉から住民を解放するためにやってきたので、大きな意味では間違いではないのだが。

 

「兵は拙速を尊ぶ……だったか。スピードを重視するなら、時には大胆に行動してもいいってことだ」

「信玄公も似たようなことを言っていたな」

 

 真っ先に武田信玄の話が出てきて、しかも「公」が付いているあたりは、さすが山梨出身のカーターだ。

 

「風林火山の話なら、元は同じ孫子の兵法だし、だいたい合ってる」

 

 塔の内部に入るのは俺と坂下さん。それにカーターの3人。

 

 坂下さんの術がないと始まらないというのはあるが、もし可能ならばカーターにも手順を覚えてもらいたい。

 実行できるならば、二手に分かれて残り3つの動力炉を操作したい。

 

「他のメンバーはここで入り口の防衛を頼む」

「分かったよ、任せて!」

 

 エリちゃんの頼もしい言葉だ。

 

 今のところ敵の強さはさほどでもない。

 なるべく傷つけないというハンデがなければ、苦戦することはないだろう。

 

「ドロシーちゃんのハイドロカノンを活用してほしい。水をぶつけるだけならば相手を負傷させる可能性は低い。できるね」

「まかせてや。ラビちゃんには負けへんで」

「その意気だ」

 

 ドロシーちゃんと拳を打ち合わせる。

 

「これが終わったら俺たちの荷物の回収も忘れるなよ」

「分かってますよ」

 

 アルフとティナもなんだかんだで協力してくれるらしい。

 

「ブロードウェイがあれば見たかったんだけどな」

「ブロードウェイは元からないと思うよ。自由の女神が見られただけでもよかったとしよう」

 

 エリちゃんはこのマンハッタンでブロードウェイのミュージカルを観たかったようだ。

 だが、ここはたまたま場所が同じなだけの違う町だ。

 ニューヨークではないので諦めて欲しい。

 

「じゃあ行くぞ。さっさと終わらせよう」

 

 カーターがライフルを片手になぜか先頭に立って歩き始めた。

 

「おい、お前が先頭を歩くな。まずは鳥に先行調査させてからだ」

 

 鳥を喚び出してまずは塔の中に侵入させる。

 いくつかセキュリティがあるが、突破方法はいくつか思いつく。

 

「私も戦闘はできなくはないが」

「露払いは私がやりますよ。坂下さんは後の大仕事のために控えていてください」

 

 ここからが正念場だ。

 なるべく早い解決が求められる。

 

「じゃあ急ぎましょう。レン人が戦力を整えてここに来る前に勝負を決めないと」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 エレベーターは動かなかったので非常階段を地味に降りていく。

 セキュリティで封じられたドアなどはだいたい物理破壊で突破する。

 

 収斂進化というか、効率を求めると構造が似るというか。

 

 建物の内部はマインガルにあった水力発電所を思い起こさせる構造をしていた。

 

 金属製の非常階段を降りると、タンタンと甲高い音が鳴り響く。

 隠密行動には向かないが、まあ仕方がない。

 

 空気が埃っぽく、濁っているように感じるのは、やはり空調が動いていないからだろう。

 

「確認したかったんだが、この町の住民のことはどうする?」

 

 坂下さんが突然話しかけてきた。

 

 内容としては、紅玉のエネルギーを奪ったところで、運営の動力炉がなければ、彼らの不老不死も自己修復も失われたままという話だろう。

 

「どうしようもないです。環境が変わった以上は今までどおりの暮らしはできない。俺たちにできることはありません」

「飢餓感から暴走するという話ではないのかね?」

「ただ、前に見た資料にはこうもありました。ただの人間に戻ると」

「彼らは何百年と運営から与えられるだけの生活をしてきた。それが突然、ただの人間として生きろと言われて生きられるとでも?」

「辛かったり悲しかったりしながらも、それでもみんな生きているんです。この世界や地球の人たちは」

 

 今のところ、ここの住民たちに対して俺たちにできることはない。

 頑張って立ち上がってくれることを祈るだけだ。

 

 ただ、運営のエネルギーがなくなったからといってすぐに暴走するとは思っていない。

 

 同じ作られた人間でも、子供たちやタルタロスさんmクリスさんやマークさんたちは暴走しなかった。

 強い意志があれば暴走なんて……いや、なんか操られて暴れ回ったことはあったけど、あれは運営から毒電波で操られていただけだ。

 

「そういえば、運営の毒電波って、もう消えていると解釈していいんだろうか?」

 

 念のためにカーターに確認しておく。

 

「タルさんや子供を操っていたやつか? まあ、操るやつがいなければ大丈夫だと思うが」

「それならまあいいか」

「良くないぞ。私に説明してくれ」

 

 坂下さんからツッコミが入った。

 階段を下りながら、クローン人間が操られたことがあるという経緯を簡単に説明する。

 

「もしも動き出した時に、止め方を知っていたりするか?」

 

 しばらく考えていると、脳裏に1人の人物の顔が浮かんだ。

 どうでもいいやつだったので忘れてしまいたいが、あいつに頼らざるを得ないかもしれない。

 

「カーター、サンディエゴでクローン人間を操っていた眼鏡マンと戦っただろ」

「あいつか。クローン人間をある程度操っているようだった。確かに、あいつを問い詰めれば、何か出てくるかもしれないな。今はどうしていたっけ?」

「伊原さんが例の地下牢に投げ込んでいると思う」

 

 案としてはこれが安全パイだろう。

 坂下に眼鏡マンと話をしてもらう。

 

「坂下さん、面倒かもしれませんが、この件が片付いたら一度伊原さんに会いに行っていただけませんか?」

「伊原? あいつにか!?」

 

 坂下は露骨に嫌そうな顔をしながら声を荒げた。

 よほど伊原さんのことが嫌らしい。

 

「昔からあいつは苦手だ。言動がいちいち鬱陶しいし、妙に馴れ馴れしい。真面目な安藤と、ユーコシューコの変人2人。いつも3人でつるんでいたのは謎しかなかった」

「そうは言っても、世界を守るためなんですよ。協力してください。可能ならばタウンティンの度会州知事とも」

 

 俺が頼み込むと、坂下は大きなため息をついた。

 実にわざとらしい表現だ。

 

「まさか同窓会をすることになるとはな。一応考えておく。どうせ同期は私たち3人しか残っていないんだろうし、思い出話に花を咲かせるのもいいだろう」

「中村は……」

「あいつはもう死んだよ。動いているのは無貌の神に操られている抜け殻だけだ。生きているとは言えない」

 

 坂下はそこで口を噤んだ。

 無言のまま、暗い螺旋階段をぐるぐると回りながら、ひたすら下りていく。

 

 しばらく進むと、アクリルのような透明の壁の向こう側に巨大な卵状のタンクが姿を現した。

 高さは10メートルほど。

 下部にはいくつもの金属製のパイプや配線が取り付けられており、そのパイプは壁を伝って別の部屋に伸びているようだ。

 

 階段はそのままメンテナンス用の通路に繋がっている。

 制御室もすぐ近くにありそうだ。

 

「これがリアクター本体か」

「完全に機械だな。私にはさっぱり分からんぞ。2人もこの構造が分かるのか?」

「分かりません」

「知るわけがない」

 

 俺もカーターも包み隠さず正直に答えた。

 ここで知ったかをしても意味がない。

 

「大丈夫なのか? 紅玉の力をエーテルの代わりに集めたら、爆発するかもしれないんだぞ」

「いや、大丈夫だ。変換術はオレがサポートできる」

 

 カーターはそう言うと、胸ポケットの中から布に包んだ小さい塊を取り出した。

 その包みを解いていくと、紫色の水晶が姿を現す。

 

「これは前に別の場所で、似たような次元エネルギーの塊を魔力に変換して吸わせたものだ」

「変換術を知っているのか?」

「全然知らなかった。たまたま知っている術を試したらうまくいっただけだ」

「無茶をする。爆発する危険だってあっただろうに」

 

 坂下の言葉を聞いて思わずカーターの顔を見る。

 

 あの時はカーターができると豪語したので、それを信じて俺もすぐ近くで見ていたからだ。

 一歩間違えると爆発に巻き込まれたかもしれないとは洒落になってない。

 

「爆発はしないと確信していた。気にしていたのは成功するかどうかって話だ」

「それならそうと言ってくれよ」

 

 俺が無駄に肝を冷やしただけだった。

 

 そもそも過ぎた話だ。今更どうこう言うつもりはない。

 大切なのは過去に何をしたかよりも現在だからだ。

 

「ともかく、術が成功した実績はある。オレとあんたの術を重ね掛けすることで、制御できる」

「やれやれ、術の重ね掛けがどれだけ面倒な計算が必要なのかも知らんのか?」

「知らんよ。だけど、あんたならできる。だからこそ、賢者なんて肩書きを名乗っているんだろう」

 

 カーターの言葉に坂下は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ああ。魔術を研究して30年だ。この程度の問題なんぞ簡単にこなして見せるさ」

「さすが賢者」

 

 そうしているうちに、リアクターの制御室が見えてきた。

 後は坂下とカーターに頼るしかない。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 結論から言うと、術はうまく発動した。

 

 カーターが変換のために使用した術を説明。

 

 坂下がそれを踏まえて制御室に短剣で細かく魔法陣を刻み込んだ。

 そして、持っていた赤い宝石を初期起動のために使用した。

 

 少なくとも俺の目にはそれだけの内容に見えた。

 魔力が見えない俺には分からない手順があったと予想はされるが分からないことに変わりはない。

 

 ともかく、術は無事に発動したらしい。

 

 成功を証明するように、まず真っ暗だった制御室に明かりが灯った。

 

 空調が音を立てて淀んだ空気を入れ替え始めて、各種メーター類が一斉に動き始めた。

 

 制御室の外に出ると、さっきまでは真っ暗だったリアクターが緑の光に照らされて、不気味に輝いている。

 

「もしかして成功ですか?」

「何度でも言うぞ。私は賢者アタルだ。この程度の魔術の行使など朝飯前だ」

 

 坂下の大口も、こうして功績を見ると全く嫌みに聞こえないし、むしろ賞賛すべきだろう。

 さすが賢者だ。

 

「カーター、今の術は覚えられそうか?」

「複雑すぎてオレの手にはあまる。残り3基も爺さんに任せよう」

 

 これは問題なし。

 カーターが覚えられなくとも坂下がいるので大丈夫だ。

 

 むしろカーターの変換術があったからこその完璧な成功なので、文句を言うはずもない。

 

「もしかして、帰りは長い階段を上らなくとも、エレベーターを使えるのか?」

「多分な」

 

 エレベーターの前に歩いて行ってボタンを押すと、電子音が鳴った後に自動ドアが開いた。

 中に入ってボタンを押すと、あっという間に入り口のある1階まで戻ってくることができた。

 

「あとは、しばらくここに誰も入れないようにしておく必要があるな」

「タルタロスさんに頼んで、バリケードを作ってもらおう」

 

 塔の外に出ると、どうやら戦闘があったらしい。

 

 周りはドロシーちゃんのハイドロカノンの後なのか水浸しだ。

 車の周りには瓦礫などを積み上げた簡易のバリケードが築かれていた。

 

 エリちゃんやタルタロスさんはもちろん、モリ君も服はあちこちが汚れている。

 近くではアルフとティナの2人が座り込んでいた。

 

 負傷はないようだが、かなりハードな戦闘だったようだ。

 

「お帰りなさい。町の様子を見ていてだいたい察しはつきますけど、成功ですか?」

 

 モリ君が聞いてきたので、まずはハイタッチ……をしたいところだ。

 しかし、肩の負傷で手を上げるのが辛そうなので目の前で軽く手を合わせるだけにする。

 

「もちろん成功だ」

「急に町のあちこちに明かりがつき始めたので、作戦成功は分かりました」

 

 近くには蛙のようなぶよぶよした皮膚を持つ、灰色の怪物が数体倒れていた。

 口は長虫のように八分割されており、そこから無数の触手が生えている。

 

 これが変質してしまった人造人間の末路なのだろう。

 どの個体も絶命している。

 

 さらに観察すると、その遺体から線香のような細くて淡い煙が立ち上り、塔の中へと吸い込まれて行っているのが分かった。

 紅玉が持っているエネルギーをエーテルリアクターが吸うという目的は達成されているようだ。

 

「この状態になると、元には戻せないんでしょうか?」

「手遅れだ。人間としてはとっくに死んでいて、死体だけが動いているようなものだ。気に病む必要はない」

 

 坂下は怪物を見て吐いて捨てるように言った。

 

 気休めかもしれないが、そう言ってもらえると助かる。

 

 町の方を見ると、かなり距離があるというのに住民たちが歓喜の声を上げるのが聞こえてきた。

 

 鳥の使い魔を空に放つと、町のあちこちにいたレン人たちが一斉に港の方へ駆け出していく途中だった。

 セレファイスでの工作が失敗したと分かり、逃走しようとしているのだろうか?

 

 無理に追いかける必要はない。

 まだこの町でやることがたくさんあるし、行く先はだいたい予想が付く。インガノクだ。

 

 紅玉もインガノクから持ってきた可能性があるのならば、そこが最終決戦地になる可能性は高い。

 

「坂下さん、大変だと思いますが」

「ああ、分かっている。残り3基の動力炉でも同じことをやるぞ」

「俺たちの荷物の回収も忘れずに」

 

 アルフが付け足した。

 

 一応は解決の道が見えた。

 あとは細々とした処理を終えて、次の町、インガノクを目指そう。

 

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