収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第九話 「躓く石も縁の端くれ」

 俺は11月の連休を利用して、福井県へドライブにやってきていた。

 

 福井県の美浜町に転移したというレルム君とドロシーちゃん……改め、大町くんと塩原ちゃんに会うためだ。

 

 今回ばかりは少し長距離移動をするために、愛車のビートルではなく、……近所のレンタカー屋にあった、その店で一番足が速いスポーツカーであるインプレッサを借りてきている。

 

 なかなか加速の良い車で、かなり快適に福井まで来ることが出来た。

 

 この先も、かなりの長距離ドライブが控えているので、なるべく足の速い車に越したことはない。

 

 レンタカーを借りる時に

 

「23歳? えっ? 男? えっ?」

 

 と、身分照会に少々時間を取らされたが、認識阻害魔法が効いていたおかげか、きちんと借りることが出来た。

 

 改めて免許証の写真を見る。

 

 そこに貼られている写真は、俺が男だった時に撮ったものがそのまま使われている。

 

「俺ってこんな顔してたっけな?」

 

 さすがに半年も少女の身体で過ごしていると、段々と男の時の記憶が薄れてくる。

 

 23年も男として過ごしたというのに、人間というのは単純なものだ。

 

 23年間連れ添った息子様についても未練が薄くなってきた。

 

 むしろ息子様のことを思い出そうとするとする度に背筋に悪寒が走り、嫌悪感が湧き上がってくる。

 

 この写真も来年の免許更新では今の少女としての顔に上書きされて消えるのだろう。

 そう思うと、なんとも言えない虚しさがこみ上げる。

 

「俺は日本へ帰ってきたけど実質は未帰還で行方不明みたいなものだよな」

 

 女性の感覚に上書きされて男の感覚が薄れてきたと言っても、女として生きるには精神的に抵抗が残っている。

 

 男に抱かれたいかと聞かれると絶対にNoである。

 

 融合した魔女(ユイ)の影響なのか脳内から聞こえてくる「小森くんならいいよ」という声に、それも有りかと思うことがあったり、後で冷静になって流石にそれはないと悶えることもある。

 

 そして同時にエリちゃんのことも思い浮かんで、胸がチクリと傷んだりもする。

 別に失恋もしていないのに失恋したように感じるのは支障しかない。

 

 小森くんとエリちゃんとの良い友人関係を続けるためにも、もう少し心の奥底へ引っ込んで欲しいものだ。

 

 だからと言って、男して生きるほど神経は図太くない。

 

 将来像を思い浮かべようとすると、どうしても伊原の顔が思い浮かぶ。

 

 誰にも頼らず孤独に生きているにもかかわらず一切折れることがない、自分が世界の中心という圧倒的な精神の強さ。

 

 邪神の力を分け与えられた化身という共通点もあるのだろうが、あの1人で生きていける強さに憧れがないと言えば嘘である。

 

「……自爆型の人間ね」

 

 中村の言葉を反芻しながら、待ち合わせの東美浜の駅前で待っていると、余所行きのオシャレな服装をした大町くんと塩原ちゃんが駆け出してきた。

 

 塩原ちゃんは以前にあちらの世界で購入したお高い帽子を被ってきている。

 よほどお気に入りのようだ。

 

「ラビちゃん先生久しぶり!」

「塩原ちゃん、元気だったか」

「もちろん!」

 

 腰を落として両手を構えると、塩原ちゃんがタッチしてきた。

 

「師匠、お久しぶりです」

「大町くんも元気だったか?」

「レルムでいいですよ。大町って名前はまだ2週間経ってもピンと来なくて」

 

 レルム君は悲しそうな顔をして俯いた。

 

 仕方がない。

 

 この2人、そして今から会いに行くタルタロスこと但馬さんはオリジナルの日本人ではなく、運営に作られたコピー人間だ。

 

 ある程度の記憶はオリジナルから引き継いで保持しているようだが、基本的には別人なので、記憶の大半が存在しない。

 

 忘れているのではなく、そもそも存在していないので思い出しようがないのだ。

 

「それで、今日はどこまで連れて行ってくれるんですか?」

「富山まで。長距離トラック運転手のタルタロスさんがそこまで仕事で来るらしいから、SAで落ち合う予定だ」

「タロさんも元気かな?」

「電話でちょっと話したけど元気にやってそうだったよ。まあ、これから会えば分かるだろう」

 

 移動距離はここから250kmほどある。

 

 タルタロスさんも休憩で少し立ち寄るだけらしいし、2人は夕方には家に帰さないといけないので、少し飛ばさないと間に合わない。

 そのためのインプレッサだ。

 

「それでは、おぼっちゃま、お嬢様は後部座席へおかけください。飲み物は好みが分からないので、色々と買って、クーラーバッグの中に入れてあるから適当に開けて飲んでね」

「師匠、僕は助手席が良いんですけど」

「ずるい、うちも助手席がいい!」

「こうやって取り合いになるから、2人とも後ろに乗ってもらおうと思ったんだけど……仕方ないか、ジャンケンでね。途中のサービスエリアで交代だ」

 

 助手席はまずドロシーちゃんが乗ることに決まった。

 

「じゃあ、ちゃんとシートベルトを締めてね。前の謎の超技術満載の装甲車と違って震動はそれなりにあるから、おとなしく乗ること」

「はーい」

 

 2人がシートベルトを締めたことを確認して車を出発させる。

 

 スポーツカーとはいえ、パワステがあるのでハンドルが軽くて良い。

 

「うんしょ、うんしょ」と言いながら必死にハンドルを回さなくて良いのは助かる。

 

 高速道路に入った後に車の速度を加速させて、どんどんと車を追い抜いていく。

 

「ラビちゃん先生、なんかこの車ってスピード速くない?」

 

 ドロシーちゃんが何故か青い顔をしながらこちらを見た。

 

「気のせい、気のせい。このスピードなら捕まっても罰金で済んで免許までは飛ばないから」

「あの師匠、なんか嫌な発言を聞いた気がするんですけど……速度制限はちゃんと守ってますよね。そのスピードメーターに出ている数字は気のせいじゃないですよね」

 

 俺は後部座席を振り向いて答えた。

 

「レルム君、世の中には知らなくて良いことはあるんだ」

「いや、見て! 前を見て!」

「大丈夫、ちゃんと見てるから」

「見てない見てない!」

 

 どうやら2人を不安にさせてしまったようなので、速度を他の車と同じくらいに落とした。

 

「まあ、そうだな。ここからは安全運転で行こう。こういう長時間ドライブは何よりトラブルを起こさないことが重要だ」

「待って、ならさっきまでは何運転だったの?」

「安全運転?」

 

 疑問形で返す。

 

「師匠……これからはずっと安全運転でお願いします」

「はい」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 3時間かけて、富山県魚津にあるサービスエリアまでやってきた。

 

 サービスエリア内で少し待っていると、タルタロスさんから到着したと電話があった。

 

「タルタロスさんが着いたって」

「そうなの? 楽しみ」

 

 ドロシーちゃんが駆けていくと、ちょうど駐車場に停まった大型トラックから運送会社の制服を着たタルタロスさんが降りてくるところだった。

 

「やあドロシー、レルム、久しぶり」

「タロさん、お久しぶりです」

「うちは元気だよ。タロさんは元気?」

「ああ、元気でやってる」

 

 2人が飛びついていったのを見て、俺は頭を下げる。

 

「どうですか、食事でも」

「ああ、ここには食事休憩で寄ったのでそのつもりだ。会社からも規定通りの休憩時間は取るように言われている」

 

 フードコートでそれぞれ好きな料理を注文して、席に着く。

 このメンバーで食事をするのも久々だ。

 

「タルタロス……但馬さんはどうですか? 日本での生活には馴染めました?」

「タルタロスでいいよ。ワシもまだ日本の名前に馴染んでおらん」

 

 タルタロスさんはそう言って、制服の胸ポケットから1枚の写真を取り出した。

 

 そこには幸せそうな顔をした女性と、小学校低学年くらいの男の子、そして幼稚園の女の子が写っている。

 

「どうやら、ワシは結婚していて、この人達と家庭を持っていたらしい」

 

 どう見ても円満で仲が良さそうな家族にしか見えないのだが『この人達』という言い回しが切ない。

 

「この子達の記憶が朧気ながら残っていたので、ドロシーとレルムをなんとしても護らねばと思ったのだろう。でも護れなかった」

「そんなことない。タロさんは僕達を護ってくれたよ」

「そうそう、ちゃんと護ってくれた」

 

 子供達がすがりつくと、タルタロスさんは笑顔を浮かべた。

 

「そうだな。まだ違和感はあるが、ワシはこの家族を守りたい。守っていきたいと思う。思い出せない部分は多いが、それもこれから努力して補っていきたい。それに、家族を守りたいという気持ちには嘘はない」

 

 タルタロスさんはそう言うと俺の腕を取った。

 

「日本に来ることが出来て、本当に良かったと思う。もしあの世界に残ったままだと、この家族を暗い気持ちにさせてしまうところだった。本当に感謝しておる」

「いえ、俺だけじゃなくて、日本に帰ってこれたのはみんなが頑張ったおかげですよ」

「ああそうだな。モーリス、エリス、カーター、ドロシー、レルム……そしてラヴィ。みんなで頑張ったおかげで『帰って』くることが出来た」

 

 ドロシーちゃんとレルム君が手を重ねる。

 

「そのうちタロさんの家族にも会いたいです」

「うちも会ってみたい」

「ああ、そのうち休みを取って、2人にも会いに行くとしよう」

 

 タルタロスさんは食事を取った後に、これからも仕事があるからとトラックに乗って去っていった。

 

 長距離トラックドライバーも大変な仕事だが、身体を壊さないように頑張って欲しい。

 

「それで、ラビちゃん先生はこれからどこに連れて行ってくれるの?」

 

 ドロシーちゃんが俺に尋ねた。

 

「タロさんに会うだけにわざわざ連れ出したわけじゃないんやろ」

「ああ、とりあえず色々考えたんだけど、福井の恐竜博物館にでも行こうと思う」

「恐竜?」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 行きとは逆向きに高速道路をひたすら進み、石川県と福井県の県境周辺、福井北ジャンクションで東海方面へ。

 

 途中の勝山で高速を降りて少し走ると恐竜博物館に到着だ。

 

「2人はここに来たことは?」

「多分ない……です。嶺北(れいほく)にはあんまり来ないみたいなので」

「敦賀より北にはいかないもんね。町に行くなら京都まで出るし」

 

 俺の知らない現地民ならではの話が出てきた。

 

 確かに敦賀から北と若狭湾沿いの福井は何か違うとは思っていたが、それほど文化も人の交流も違うのか。

 

 俺の住む兵庫県でも瀬戸内、真ん中、日本海沿いで文化が違うし、(ユイ)の記憶にある横浜も東京に近い位置と自宅のある鎌倉に近い場所では全く別の町のようになっている。

 

 うん、やっぱり結依ちゃんの記憶が当然のように紛れ込んでくるのは普通に支障があるな。

 

「家の人に旅行へ連れて行ってもらったりは?」

「父さんも母さんもいつも忙しいみたいなので。でも冬休みになったら大阪へ遊びに連れて行ってもらえるって。ユニバですよユニバ」

 

 レルム君が嬉しそうに答えた。

 

「その時にうちもユニバに連れて行ってもらうんや」

「ドロシーちゃんの両親は?」

「やっぱり忙しいって。うちのパパもレルム君のパパも同じところで働いていて大変やって」

「なるほど……やっぱり原発関連?」

「せやで」

 

 それで原発街道沿いの美浜町が出身だったのか。

 

 2人に与えられた能力が原発に必要な水とそこから生み出される電気だったのも何かの縁を感じる。

 

「それで、恐竜博物館って何があるの、ここ?」

「恐竜の化石とか、動く恐竜とか、まあそんな感じの展示だよ。イベントも色々やってる」

「本当だ、あっちに動く恐竜がいるよ!」

 

 レルム君はそれだけ言うと、展示されてあるロボ恐竜に向かって駆け出していく。

 

「全く、これだからお子様はダメね」

「でも、こうやって色々な知識を得てみんな大人になっていくんだよ」

「そうやね。うちもレルム君をしっかり教育しないと」

 

 ドロシーちゃんは大人ぶって言うと、ワンテンポ遅れてロボット恐竜へと駆け出していき、2人で口を大きく開けて恐竜の動きを見ていた。

 

 なんだかんだで楽しんでもらえたようで何よりだ。

 

 俺はそれを横目にラプトル系の骨格模型を見る。

 

「知事が乗っていたのはこのタイプだったな。あの世界のみんなは元気でやっているだろうか?」

 

 他にも南米で見た覚えのある恐竜の近隣種の模型が多数展示されている。

 

 概算だが、日本での1ヶ月は向こうの世界では8年と4ヶ月くらいになる。

 

 来年の正月にはもう16年と8ヶ月……現地に馴染んだみんなも別人のようになって、日本のこと……そして俺達のことを忘れていく頃だろう。

 

 そして春が来る頃には50年。

 

 伊原だけは健在だろうが、その頃にはもう誰も残っていないかもしれない。

 

 分かっていたことだが、辛い事実だ。

 

「アンモナイトの化石があるよ」

「本当だ。ケビン君から貰ったやつよりは小さいけど」

「あれすごいもんね」

 

 子供達も化石を見て向こうの世界の思い出話に花を咲かせている。

 テロスの町で遊んだのは余程楽しい思い出だったのだろう。

 

 2時間ほど、そこで見学をしてから帰ることになった。

 

「土産って買ってもいい?」

「あんまり高いのを買うと家の人がびっくりするから適当な値段でね」

「じゃあうちはこのぬいぐるみ」

「僕はこの帽子でいいですか? 恐竜の絵のついてるやつ」

 

 2人が嬉しそうにそれぞれ抱えてきたので、それと自宅への土産として適当に菓子の詰め合わせも合わせて持たせてやる。

 

「今日はあまり時間に余裕がなかったけど、今度は、もっと時間に余裕を持たせて違う場所へ行こう。どこがいい?」

「師匠のご飯をまた食べてみたいですね。クリームコロッケとか」

「そうだな。前に作ったのは中途半端だったし、ちゃんとした食材を揃えてリベンジはしたいな」

 

 あの時は泥臭くて味が薄い蟹を使ってしまったので失敗したが、今度はうまくやりたいものだ。

 

「うちはカレー」

「バラバラだな。どちらか片方を」

「コロッケだろ!」

「カレーに決まってるやろ!」

 

 2人が後部座席で仲良く喧嘩をしている。

 仲が良いのは良いことだ。

 

 それが10分ほど経つと突然静かになった。

 

 どういうことかとバックミラーで確認すると、いつの間にか2人とも後部座席で眠ってしまっていた。

 

「朝から長時間移動で疲れたんだろうな。このまま寝かせておくか」

 

 そこからは振動がなるべく少なくなるよう安全運転で走り始めた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 予定通り16時30分には2人の自宅がある美浜町へ戻ってきた。

 

 そのまま自宅へ送り届けるつもりだったが、2人は駅までで良いと言うことだったのでそこで降ろす。

 

「じゃあ、今日の遠足はここまで。楽しかった?」

「うん」

「また機会があれば連れて行ってください」

「ああ、また時間を作って来るよ」

 

 2人は仲良く手を繋いで、駅から住宅地の方へ走っていった。

 

 あの2人も記憶がなくて生活は大変だろうが、ああやって助け合って元気で生きていって欲しい。

 

 そろそろ出発という時にスマホに着信があった。

 

 見るとカーターからの電話だった。

 

「タルタロスさんに会ったんだってな。こちらにも電話がかかってきたよ」

「ああ。ついでに子供達を連れて遠足もしてきた」

 

 正直に答えると、電話の向こうで大きなため息が聞こえた。

 

「相変わらず面倒なことをやってるな」

「面倒でもないさ。みんながどうなっているかは気になっていたし。それよりもお前はどうなんだ?」

「まあ、適当にやってる。仕事は忙しいけどな。それよりも、そのうちこっちにも友人さんとやらを連れて一緒に来いよ。山梨観光くらいなら車で回ってやるよ。富士五湖は綺麗だぞ」

「前に忙しいから来るなって言ってなかったか?」

「忙しいさ。でも、忙しいのは平日だけで、別に休みがないわけじゃないからな。今日もやることがなくて朝から飲んでネットの動画をダラダラ見ていたくらいだ」

「寂しい人生だな」

「お前に言われたくない」

 

 確かにそのうちにカーターのところにも行かないといけないなと考えていると、突然にメール着信音が鳴った。

 

「そういや、興味深いネット記事を見つけた。後で見ておいてくれ」

「ああ。今は電話中だから内容を見られないけど、後に見るようにしておく。それで何なんだ?」

「モーリス達の仲間、45人の失踪事件がようやく各地で話題になり始めたみたいだ。送ったURLに、多分あの人のことだろうなという内容が書いてあるから、一応は読んでおけ」

「分かった、後で見ておく」

 

 その後、少し会話をした後に電話を切って、カーターから送られてきたメールを確認すると、大手新聞社のコラム記事のようだった。

 

 それは、この何年かで突然に子供から老人までが何の痕跡もなく消え去るという事件が続発しているというものだった。

 

 某国に拉致から、謎の新興宗教の噂まであることないことデタラメばかりが書かれていた。

 

 入院中の病院のベッドから突然消えた患者。

 

 少年院から失踪した若者。

 

 朝になっても起きてこないので見に行ったらベッドから消えていた少女。

 

 失踪した小学生教師。

 

 出張中のホテルから衣服を含む所持品を残して消えた会社員。

 

 様々な人物達が失踪した状況が簡単に説明されている。

 

 あの人のことかな? とは予想するが、どれも確定的な話はない。

 

 そして、以前に中村の情報を調べる時に別の記事で読んだ度会繁(わたらいしげる)なる人物の両親へのインタビューがこの記事にも掲載されていたので読んでみた。

 

「あの子が無事に生きていれば、幸せでさえいれば、それだけで満足です。だから、どこで何をやっているのかくらいは知りたいのです」

 

 繁さんはもう亡くなってしまったが、その人は愛する人を見つけて家庭を作り、その孫も元気でやっているよと伝えてあげたい気持ちもある。

 

 だが、合理的な説明など出来ないし頭のおかしなやつ扱いされて終わりだ。

 

 それに、俺はあくまでも他人だ。

 

 今の俺に出来ることはない。

 

 特殊事例である俺とカーターを除くと50人のうち、日本へ帰還出来たのは5人だけ。

 

 50年前に至っては帰還できたのは中村のみ。

 

 更にその前、前の前……と溯っていくと、この世界から消えた日本人は何人になるのだろうか?

 

 何人の家族が、この度会さんと同じように異世界に行ってしまった人を捜し続けてるのだろう?

 

 いつかは帰ってくると信じて、その人を待ち続けるのだろう?

 

 そもそも俺も失踪した人間に含まれるのかもしれない。

 

 ここにいるのは23歳の男を名乗る14歳の身元不明少女でしかないのだから。

 

 そのうちに実家の家族にも詳しい説明をしにいく必要があるだろう。

 息子が娘になったと報告すると、うちの親はなんと言うだろう。

 

「そういや、うちにも腹をすかせて俺の帰りを待っている奴が1人居たな……そいつのためにも帰るか」

 

 近くの自販機でペットボトルのコーラを買って車に乗り込んだ。

 

「俺は生きるぞ、この世界で」

 

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