収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 18 「スリーピー・ホロウ」

 地球のプロビデンス周辺には存在しないはずの高い岩山を迂回して、ようやくインガノクの町が見えてきた。

 

 町までは、まだ数キロ離れている。

 しかも、岩山と、奇妙な形をした木々の合間から覗ける一部だけだというのに、そこがインガノクだとはっきり分かる。

 

 建物が燃えるように赤く染まっているからだ。

 

 屋根の形は球状だったり、三角だったりするが、壁に使われている材質は共通だ。

 セレファイスの舗装と同じく、コンクリートだか漆喰だかに大量の縞瑪瑙(しまめのう)を埋め込んでいるのだろう。

 

 町のあちこちからは中東風の尖塔に混じって、高い煙突がいくつも突き出している。

 

 煙突からはもくもくと、いかにも体に悪そうな灰色の濃煙が空へと昇って行く。

 

 普通の灰色とも少し違う。

 色が付いているというよりも、色が抜け落ちたという表現が合う。

 虚無という言葉が適切であろう灰色だ。

 

 上空が暗いのは、単に天候が悪いだけではなく、ここの工業排煙による環境汚染の影響もあるのだろう。

 そういう地球に厳しいやつは昭和の時代で終わった認識だが、この世界に環境規制などあるわけがない。

 

 まずは偵察のために鳥を放つ。

 町は射程2キロよりも離れた場所にあるが、だからと言って見えないわけではない。

 

 空から見て分かったのは、俺たちが今いるのは、採石場に近い場所だということだ。

 採石場では、どうやら縞瑪瑙を掘り出していたようだ。

 

 セレファイスなどで使われる縞瑪瑙を掘り出して建材に加工するための集落というならば分かる。

 だが、現在はそちらの鉱山はほぼ放棄されているようだ。

 

 煙突の下には、他の建物とはまるで雰囲気が異なる工場がある。

 コンクリートと鉄骨だけで作られた直方体の建物のあちこちからは無骨なパイプが何本も飛び出し、隣のやはり四角い建物と繋がっている。

 

 デザインラインが違いすぎて、同じ町だとは思えない。

 

 主産業は採掘から工場で何かを生産する方向に変わってしまったようだ。

 

 問題は、工場で作られているものだ。

 

「何を作っているんだと思う?」

 

 今の状況を理解できそうなのはカーターか坂下のどちらかだ。

 まずはカーターに相談をしてみる。

 

「この町から紅玉(ルビー)が各町に運ばれているんだろ。ならば、人工の紅玉だ」

「これだけ煙が噴き出すのは石炭か石油を燃やしているんだろうけど、それらの燃料置き場がどこにもないんだけど」

「ああ、石炭の煙に見えるのか」

 

 カーターは服の袖で口元を覆っていた。

 坂下も同じように臭いを嗅ぎたくないような仕草をしていたので、魔力がない俺たちには見えない何かがあるのだろう。

 

「何色に見えるんだ?」

「何色ってそりゃ……油が水の上に浮かんでいると変な反射をするだろ。あの色だよ」

「つまり虹色か。俺が魔女の呪いを使ったら浮かぶ紋様みたいなもんか」

「ラビ助の色はゲーミングカラーだろ。そこの町から出ている煙は……虹色なんだけど虹じゃない」

 

 改めて煙を見るも、やはり灰色にしか見えない。

 使い魔の鳥の視界を共有しても、灰色にしか見えないので、単に目の問題ではなくて、脳の処理が対応していないのだろう。

 

 だからと言って、魔力を持たない人間には無害かというと、そうでもないだろう。

 単に見えないだけだ。

 

 工場を停止させるだけならば簡単だ。

 

 この位置から「魔女の呪い」を放って、工場を焼き払えば全部解決する。

 もちろん町ごと焼き払うようなものなので、当然ながら却下。

 

 町の中心部には円形のようで、微妙に角ばった高い塔が立っている。

 その屋根からいくつもの小さい塔が生えている。

 西洋の城でみる建築様式だ。

 

 もしも支配者的なものがいるとしたら、中心に立っている塔だろう。

 

 港には、セレファイスから逃げ出してきたであろうガレー船が所狭しと詰め込まれていた。

 

 町の構造自体は別だが、人間が住めそうで住むには不便すぎるだろうという点は、セレファイスやダイラス=リーンなどとよく似ている。

 そういうところも含めて運営が作った町なのだろう。

 

 登録を抹消されていた理由は不明だが。

 

「坂下さん、念のために確認しますが、この位置に町はありましたか?」

 

 坂下は、昔からアメリカ全土を放浪していたはずだ。

 今よりも北にあるボストン近郊の遺跡も知っていたくらいなので、当然この町についても知っているはずだ。

 

 そう考えて、確認をしてみる。

 

「岩山も町もあったが、工場はなく、小さい採石場の周りに細々と暮らす集落があっただけだった。住民も家も少なかった」

「町がこんな風になった時期などは分かりますか?」

「常にアメリカ全土を監視しているわけではないし、分からんよ」

「ありがとうございます。参考になりました」

 

 この世界は地球に似ているようで微妙に違う世界だ。

 地球には存在してない岩山があってもおかしくはないだろう。

 

「もしかして、元々あった別の町に異世界の工場が混じり合ったのか?」

「町が何もない荒野にばかり出現するってことはないだろうし、あり得るか」

 

 運営の管理システムから見ると、異世界から謎の町が飛んできたことで集落は消滅した扱いになって、登録抹消されたのかもしれない。

 

 だが、町は残っていた。

 

 ただ、余計な遺物が紛れ込んで、それに占拠されたせいで、別の物と認識されただけだ。

 

 状況から推測するに、運営が管理していた町に対して侵攻を始めたのは、異世界から来た勢力の意向が強いのだろう。

 

 セレファイスなどを攻めたのは、果たして単に距離が近いだけなのか、それとも運営に恨みがあるのか。

 どのみち、放置しているとろくなことにはならないのは分かる。

 

「状況からして、レン人というのが異世界からやってきた連中だと思う。紅玉と工場も同じ」

「ガレー船や縞瑪瑙が埋め込まれた建物は運営が用意したものか」

 

 そう考えると、この町の攻略方法はなんとなく見えた。

 

 セレファイスと同じように、運営が作ったリアクターで紅玉のエネルギーを吸い取る。

 紅玉さえ無力化してしまえば、あとはどうとでもなる……はずだ。多分。

 

「まずは情報収集だな。今のところセレファイスのような地下トンネルはないだろうし、地道に調査していくしかない」

「そうなると、少人数で真正面から旅人を装って町に入って聞き込みか」

 

 結局いつもの流れだ。

 俺とカーターと坂下の3人は基本として、あとは護衛に誰か付いてもらうというのでいいだろう。

 

「モリ君は怪我の方は?」

「だいたいは治っています」

「なら、大事を取って、もう少し休んでいてもらおう。そうなると、エリちゃんか」

 

 タルタロスさんは、前に一度紅玉の影響で体調が悪くなったということがある。

 身体が大きいレン人に負けないくらい大柄なタルタロスさんがいてくれると、相手に舐められないだろうが、リスク管理としては避けた方が良さそうだ。

 

「まずは車を町から離れた場所に置いて、歩いて近づいていこう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 岩だらけの山中を歩いているとテロスの町を思い出す。

 あそこは山を切り崩して石畳になる石材を切り出していた。

 

 異なるのは、テロスは石材に必要な分だけ山を切り崩していたということだ。

 

 ここは、狙っているのは縞瑪瑙だけなので、目当ての物が出てくるまでひたすら掘りまくるというところだ。

 

 なので、掘り起こした石や砂は特に使われずに、そこらに積み上げているせいでボタ山ができあがっている。

 そういうところは、炭鉱があった町に似ている。

 

 気になるのは、町に近づくにつれて植生などがおかしくなっていることだ。

 

 そこらの木に付いている葉が肥大化、葉の中から葉が生える、枝から根っ子が生えるなどの異常な成長を見せていることだ。

 雑草なども含めて、おかしなことになっている。

 

 しかも、枯れた植物は色が抜け落ちたように灰色に変わり、そのまま灰のようになって崩れている。

 

「思っていたよりも公害が酷いな」

「排煙が悪いのか、それとも紅玉が悪いのか」

「しかも、これを外の町にばら撒いているんだろう。さすがに許されていいことじゃない」

 

 一応は平和的に解決したいところだが、最終的には力任せでねじ伏せる必要があるかもしれない。

 

「いや、待って……そこのところ……」

 

 エリちゃんが突然立ち止まった。

 顔色を悪くして、今にも吐きそうになって口に手を当てた。

 

 理由は聞かなくとも分かる。

 原因はすぐに分かったからだ。

 

 道の先には人間の死体が倒れていた。

 ただし、首から上がない。

 

 いくら冒険には慣れたとはいえ、こんな惨殺死体をまともに見てしまっては、精神的によろしくないのは分かる。

 

「全員後ろに下がれ! 警戒を怠るな!」

 

 モリ君がいない現状は俺が仕切るしかない。

 他の面々を下がらせながら、白木の柄の短刀を抜いた。

 

 鳥の使い魔を喚び出して、倒れている遺体に向かわせる。

 

 数は3体。

 全員の首から上が切断されているが、出血の跡はほとんど見られない。

 

 理由は分かった。

 流れ出した血は赤黒くなることはなく、そこらの枯れた植物のように灰色の砂のようになって地面の上に乗っているからだ。

 

 遺体の方も腐敗はせず、灰色の灰と化して末端部からどんどん崩れてきている。

 まともに残っているのは非生物である衣服だけだ。

 

 残っている体の状況からして、殺害されてから数日は経過しているだろう。

 

 全員が後方から首を切断されており、抵抗した形跡がない。

 そして、町を背にしてうつ伏せに倒れている。

 

 町から一心不乱に逃げ出している最中に、町の方からやってきた「何か」に後ろからバッサリやられた感じだ。

 

 地面には一定間隔で足跡が付いており、町の方まで続いている。

 足の歩幅の間隔と、凹み方からして、これは馬の蹄が付けたものだ。

 

「馬に乗った何かがすごい勢いで走ってきて、町からの逃亡者を背後から切り捨てたってところか」

「この住民への扱いからして、町で何が起こっているのかすぐに分かるな」

 

 この残忍な行為で、人を人とは見ていないのは理解できた。

 

 他の町の状況からして、紅玉の力で暴走させたり怪物化させたりで、町を実質乗っ取ろうとしている。

 セレファイスは現在進行形での乗っ取りだったが、この町はほぼ乗っ取りが完了しているのだろう。

 

 分析していると、早速その犯人らしき馬が走ってくる音が遠くから聞こえてきた。

 

 鳥の視線を向けると、土煙を上げながら、高速で俺たちの方に迫ってくる存在があった。

 

 見た目は影のように黒い馬に乗った、西洋鎧を身にまとった騎士だ。

 

 ただし首から上に頭部が存在しない。

 

 首無し騎士はどこからどう見ているのか、馬を操って町から道なりに俺たちの方を目指して走ってきている。

 

 まずは口頭で鳥の視点で得られた情報を全員に共有する。

 

「首無し騎士……デュラハンってやつか?」

「ここはアメリカでニューヨークから少し移動した場所なんだから、スリーピーホロウに決まってるだろ」

「ああ、ジョニーデップのやつか」

 

 カーターはライフルに銃弾を込めながら言った。

 合っているようで微妙に違う。

 

「元々はアメリカのニューヨーク近郊の都市伝説だ。独立戦争の時に死んだドイツ人傭兵ヘシアンが亡霊になって彷徨うとかいう内容で、ハロウィンの時に語る怪談の定番らしい」

「ハロウィンならラビ助の親戚じゃないか。話が通じたりしないか?」

「トリック、オア、トリートのレベルを超えた悪事だぞ。クッキーを渡してはい解決とはいかないだろう」

 

 既に人が死んでいる。

 その上で、町への侵入者である俺たちに向けて殺意マシマシで迫ってきている。

 

 さすがにお菓子をくれなきゃいたずらするで済ませていい話ではない。

 

「接近してくる前に遠距離で仕留めるぞ」

「ああ、まずはオレからいくぞ」

 

 馬の蹄の音が確実に迫っている中、カーターがライフルの銃床を肩に当てて狙いを定める。

 お互いに姿が見えたところで首無し騎士(ヘシアン)が腰から下げていた剣を抜いた。

 

 馬上で無駄に空中で剣をくるくると回転させながら、足で合図を出して馬を加速させる。

 よほど高速回転なのだろう。

 まだかなり距離があるというのに、蹄が土を蹴る重い音に混じってヘリコプターが飛ぶような空気を切る鋭い風切り音が聞こえてくる。

 

 馬の移動速度も相当速い。

 ただの一般人である住民の足と反応速度で対処できる相手ではない。

 

 それを、カーターが構えたライフルが冷静に迎え撃った。

 

 鈍い発砲音の直後に、ヘシアンが構えた剣が一瞬で砕け散る。

 

 薬莢が地面に落ちる前に放たれた二射目で、ヘシアンの利き腕の肘から先を吹き飛ばす。

 

 三射目は胴体に直撃。

 ヘシアンは勢い良く馬から振り落とされて地面に叩きつけられた。

 

 馬の方はというと、ライフルの射撃音に驚き、前足を高く上げて後ろ足で二本足立ちしている。

 

 その馬の足元に四射目が着弾する。

 さすがカーターが使っているオートマチックライフルは、この世界の現地銃とは連射力と威力が桁違いだ。

 

 馬はライフルを恐れてか、主を残したまま、踵を返して町の方へ逃げ出していった。

 

 よく見ると、馬も普通の生物ではなく、若干形状がおかしなUMA(ウマ)的な生物だったが、逃げる相手を追う必要はない。

 

 ヘシアンが頭もないのに、頭を振る姿勢を見せながらゆっくりと立ち上がる。

 元は人間で、生前の習慣が残っているのか?

 それとも最初からこういうモンスターなのかは不明だが、無駄な動きには違いない。

 

「21秒チャージ、圧縮極光!」

 

 そこへずっと手元で溜めていた極光を放つ。

 光速で放たれた閃光が、立ち上がったばかりのヘシアンの上半身を一瞬で粉微塵に吹き飛ばす。

 

 残った下半身はそのまま後方にばたりと倒れた。

 

 真正面から接近戦をすればそれなりの強さだったかもしれないが、今更このレベルの敵に後れを取ることはない。

 

「ゼリー飲料のCMみたいな技名はどうにかならんのか?」

「まあ、別に技名は言わなくても出せるけど雰囲気だ」

 

 倒れたままのヘシアンの下半身に視線を戻す。

 

 今までの強敵ならば、この状態から再生して立ち向かってきた。

 果たして今回の相手はどうなるのか。

 

 様子を見ていると、地面に倒れたままの下半身は溶けるようにして消滅してしまった。

 

「侵入がバレているのは問題だな。ここから先は注意して進むようにしよう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 道端に適当な穴を掘って遺体は埋めておいた。

 

 公害で変質した得体のしれない花を添える気はしないので、とりあえず手を合わせるだけにしておく。

 

 エリちゃんも少しは落ち着いてきた。

 子供たちを連れてこなくて正解だったと思う。

 

 ここの宗教観でそれが良いのかは分からないが、野ざらし状態よりはマシだろう。

 

「いつもこんなことをやってきたのかね?」

 

 坂下が聞いてきたので、事実のみを答える。

 

「死者を弔うのは、初日に最初の部屋を出てからずっとですね」

「ずっとお気楽にやってきた仲良しパーティーに見えたが、苦労していたんだな」

「まあ、こんな世界だから仕方ないのはありますよ」

 

 そんな話をしていると、またも馬の足音が町の方から聞こえてきた。

 

 鳥の使い魔を飛ばして確認すると、首無し騎士のおかわりが近づいて来るようだった。

 再生はしないが、次々に新しい敵が湧いては襲ってくるパターンのようだ。

 

「とりあえず秒殺しとくか」

「次は私がやるよ」

 

 エリちゃんが無表情のまま近くにあった、サッカーボールほどの岩塊を持ち上げた。

 首無し騎士が道の先に現れた直後に、エリちゃんはそれを大きく振りかぶって投げつけた。

 

 岩塊は見事にヘシアンの胴体に命中。

 そのまま貫通すると、ヘシアンは馬の上に乗ったまま、溶けるように消滅していった。

 

 馬はまたも驚いて逃げていく。

 

「もしかして、あの馬……じゃないUMAが本体だったりするのか?」

「次は馬の方を狙ってみるか? 将を射んとする者はまず馬を射よとか昔から言われてるだろ」

「それはなんか違うけど、多分、真っ当な馬じゃないし、そのパターンで行ってみるか」

 

 鳥の使い魔たち5羽を加速させて、逃走するUMAを全力で追跡させる。

 ただし、まだ攻撃は行わない。

 

 上空で待機していると、UMAは道から外れ、変異した異形の森の中に入って行った。

 

 木々を避けながら追跡すると、UMAは一本の巨大な木の前で立ち止まった。

 すると、そのUMAの背に何やら黒い霧のようなものが立ち込めた。

 

 その霧はやがて人の形となり、段々と形を作っている。

 まず人の手足が生え、そこに黒いインナーが現れ、最後に鋼鉄の鎧が全身を覆う。

 

 そして、最後に武器も生えてきて、元通りの首無し騎士が完全に再生された。

 

「再生のカラクリが分かったぞ。UMAが本体で、上の人はオプション品みたいだ」

「なら、UMAを倒せばいいのか。次に来た時はそう攻撃しよう」

「いや、もう次はない」

 

 今までは卑怯すぎてやらなかった方法がある。

 

 射程2キロの鳥の使い魔でこれをやると酷すぎるからだ。

 どんな敵でも楽勝で倒せるのはいいが、遠隔だと制御が全くできない。

 

 そのために、周りへの被害も大きく、何が起こるのか分からないのでリスクが大きすぎる。

 

 だが、町からは遠い、近くには人はいない。

 こういう限定的な状況ならば、やるだけの価値はある。

 

「遠隔で倒すつもりか? でも、どうやって?」

「こうする。鳥5羽を解放(リリース)!」

 

 首無し騎士の周りに移動させた鳥たちを遠隔で解放する。

 こうなると、使い魔として使用している鳥も消えるので、俺には何が起こっているのか分からない。

 

 ただ、予想はできる。

 

 俺の全身に極彩色に光る紋様が浮かび上がった直後に、少し離れた場所にある森の木々が急速に消滅していくのが見えた。

 要するに、遠隔操作の「魔女の呪い」だ。

 

 今頃は、ヘシアンと本体であるUMAが周囲の森の木々ごと出現した黒い球体に喰らい尽くされて、霧と化して消滅している頃だろう。

 

 ワンテンポ開いて、地上から空に向けて稲妻が数度走った後に、赤い色の光の柱が立った。

 周りにあった全てを吸収、消滅させて熱線へと変わったのだ。

 

 一応発動前に空に放てと命令は与えているものの、何かの間違いで熱線が俺たちや人が住んでいる方に飛んだら目も当てられない。

 これが遠隔で使用しない一番の理由だ。

 

 獣の咆哮にも聞こえる空気の震えと、吹き荒れる熱風。

 

 魔女の呪いを遠くから見るのは初めてだが、思っていたよりも邪悪すぎる熱線だ。

 この世に存在していいものではない。

 

 もしかすると、首無し騎士やレン人たちよりも俺の方が邪悪なのかもしれない。

 邪神の巫女と言われても反論できないのは事実だ。

 

 熱線はしばらく空に照射された後に消えた。

 辺りには空気が焼け焦げた臭いが漂っている。

 それは、町の工場排煙よりも強烈だ。

 

 ただ、朗報が2つ。

 

 今の熱線が町の上空をずっと暗く覆っていた工場排煙と黒雲に大きな穴を穿った。

 そこから、少しだけだが太陽の光が差し込み、暗い町を円形に明るく照らした。

 

 壁材に埋め込まれた縞瑪瑙の石が陽光に反射して赤く煌めく。

 

 もう1つは、首無し騎士はもう襲ってくることはなかったことだ。

 

 巨人(イソグサ)やらゾス=オムモグなどの超再生持ちですら復活を許さなかった「収穫」の直撃を受けたのだ。

 復活できるはずがない。

 

「さて、ド派手な号砲が鳴ったことで、オレたちの侵入が町にバレたわけだが」

「首無し騎士が攻めてきた時点でどのみちバレていたさ。ただ、同時に町の住民たちにもメッセージは伝わったと思う。敵か味方か分からないが、レン人たちに敵対している何者かがやってきたと」

 

 開き直りなのはある。

 

 空を見ると、魔女の呪いで開けた空の穴は工場排煙によってすぐに塞がれ、町はまたも暗い闇に沈んだ。

 

 だが、今の光は、住民たちには明確なメッセージとして伝わったはずだ。

 誰かが町に光を取り戻しに来たと。

 

「つまり、ここからどう住民を味方に付けるかが勝敗を分けると」

「そういうことだ。場合によっては、セレファイスの時と同じように、装甲車でド派手に侵入するのがいいかもしれない」

 

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