収穫祭の魔女   作:れいてんし

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最終話(前)

 日本に帰ってきてから早くも2ヶ月が過ぎた。

 

 季節はクリスマスイブ。

 

 世間の家族は幸せなホームパーティーなどを行い、恋人達はリア充爆発スーパーダイナマイト、科学剣必殺稲妻重力落としなるイベントに興じているのだろうが、俺は毎日の仕事と、小森くん、エリちゃんへの勉強会のための資料作成に追われて何も出来ていない。

 

 その小森くんとエリちゃんはWeb会議での勉強会なんてとっくに終了したというのにステータスがずっと通話中のままである。

 

 このクリスマスイブに俺の用意したWeb会議システムを使ってキャッキャウフフな会話をしていることは確定的に明らかだ。

 

 管理者権限を使って強引に2人の会話を盗聴することも可能だが、そんな無粋なことはしない。

 

 せいぜい「遅くまで勉強お疲れ様。冬休みだといって遅くまで起きていないように」と牽制のチャットを送るだけに留めておく。

 

 この2カ月の勉強の成果としてはエリちゃんが期末テストでは赤点ギリギリラインからなんとか脱出出来た。

 少子化で定員割れしてる大学なら引っかかるくらいだろうか。

 

 本人は「看護師も良いかな」などとのたまっているが、正直、今の成績だとかなり頑張ってもらわないと厳しい。

 

「進路指導の先生と同じことを言っている」

 

 とエリちゃんから文句を言われたが、その教師は正しいことを言っている。

 

 もちろん俺としては合格ラインまでサポートするつもりではあるので、諦めろとは言うつもりはない。

 

 小森くんは地元大学の経済学部を第一志望で模試を受けるとA判定。

 医学部の方はC判定だったらしい。

 

 微妙な判定ではあるが、理数系の点数だけならば医学部も十分に合格圏内だ。

 

 苦手の英語で総合点を落としているという分かりやすい弱点があるので、ここを克服出来れば一気にB判定……否、合格安泰のA判定まで上げていけるだろう。

 

 残る問題は本人のやる気だけだ。

 

 あと1年……いや、半年でどこまで成長させられるかで2人の人生が大きく変わってくる。

 俺ももう少し頑張らないと。

 

 オウカちゃんの刀を九州に持っていくという大仕事については未だ手つかずだ。

 

 どうやったら日本刀を検問で引っかからずに九州へ運べるかについては未だ検討中。

 

 認識阻害魔法に全てをかけて九州新幹線に乗っても大丈夫なのだろうか?

 だが、もし改札で止められたら即アウトなので、流石に方法は検討したい。

 

 年末年始の旅行についても全くのノープランだ。

 

 仕事が忙しくて、結局ホテルの予約を取れていない。

 

 俺一人だけならば漫画喫茶で夜を明かすか楽しい冬キャン△でも良いのだが、流石に2人を連れていくならばそれでは難しい。

 

 何とか空いているホテルを探して予約を入れないといけない。

 

 本当にやるべきことが多すぎて、何も進んでいない。

 

 いっそ魔女(ユイ)さん、俺からまた分裂して2人がかりでマルチタスクをお願い出来ませんか?

 出来ませんかそうですか。

 

 ……いや、これ出来るんじゃないか?

 

 何とか魔女に仕事を任せられないか俺の脳内で魔女との壮絶なバトルを開始しようとしたところで来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

 時間は22時。

 

 こんな時間から誰だろうと思い、モニターを確認しようとした矢先に、先に玄関のドアが勢い良く開いた。

 

「メリークリスマァース!」

 

 やたらテンションが高い女性の声が響き渡る。

 

 こんな夜中にハイテンションで施錠してあるドアの鍵を勝手に開けて室内に入ってくるのは友人くらいしかいない。

 

 そう思って玄関に行くと、そこに立っていたのはサンタ服を身にまとった伊原さんだった。

 

「若い女性一人暮らしにしては結構良いマンションに住んでるな」

「賃貸ですよ。田舎だから安いんです。それに会社からの住宅手当だってある……それよりもなんでここに居るんです?」

 

 怪訝な顔をしながら俺は伊原さんを見るが、向こうは気にもしていないようだ。

 

「クリスマスだからサンタがクリスマスプレゼントを持ってきてやったぞ」

「あなたはサンタというよりもサタンに近い方でしょう」

「あんだって? あたしゃ神様だぞ」

 

 そう言うと許可もしていないのにズカズカと家の中へと入ってきて、勝手にソファーに腰掛けた。

 

 小さいショルダーバッグから、どうやってもそこには入らないだろうというサイズのワインの瓶を取り出すと、指で栓を弾き飛ばしてラッパ飲みを始めた。

 

 何をしに来たんだ?

 

「お前も飲むか? ペルーのワインだ」

「身体は未成年なので遠慮しておきます」

「固いこと言うな。正真正銘のペルーのワインだぞ」

「ラッパ飲みした瓶を他人に差し出すのはマナーとしてどうかと思います」

「本当に固いやつだな。向こうじゃ普通だぞ」

 

 そう言うと、小さいショルダーバッグから2本目のワインを取り出した。

 どこに入っていたのか? というのは突っ込むだけ無駄だろう。

 

「ラベルを見てみろって。ちゃんとペルー製だぞ」

「はいはい」

 

 どう見ても日本語のラベルが入っているワインを受け取ると、確かにそこにはカタカナでペルーと大きく書かれていた。

 

 可愛いアルパカの絵が描かれたコンビニなどではあまり見ないデザインだ。

 

「なんかパチモノ臭いんですけど。本物のペルー産はカタカナでペルーって書いてあるものですか?」

「タウンティンだけどさ、去年から若い新大統領の下で新体制を始めるってことで国名を地球と同じペルーに改名したんだわ。これは大統領夫人から直接手渡しで貰った正真正銘のペルー製第1号ワイン。今年一番のペルーヌーボーだぞ」

「異世界のペルー製かよ!」

 

 思わず突っ込んだ。

 

 俺達が異世界の物はなるべくこの世界に持ち帰らないと気にしていたのは何だったのかと言いたくなる。

 本当に伊原さんはフリーダムだ。

 

「そして、こちらは君へのクリスマスプレゼント」

 

 そう言ってまたショルダーバッグの中からクリスマス用の赤白緑の包装紙に包まれた箱を取り出した。

 

 とりあえず「ありがとうございます」と言って受け取る。

 

「はい、開封はよ! 開封はよ!」

「分かりました。開ければ良いのでしょう」

 

 包装紙を破らないよう箱を裏向けにして丁寧に包装紙を止めているテープを外そうとすると、横から伊原さんの手が伸びてきた。

 

「こういうのはバリバリと包装紙を破って中身を取り出すものなんだよ!」

 

 伊原さんは俺から箱を奪い取ると、自ら包装紙をバリバリと雑に破って中身を取り出した。

 

 何をやりたいのか分からない。

 

 破れて散らばって床にぶちまけられた包装紙を掃除するのは誰だと思っているのか?

 

「こちらはなんと銀の鍵となっております!」

 

 そう言って取り出しのは、先月に俺が伊原さんへ渡したはずの銀の鍵だった。

 

「これを返しに来ただけですか?」

「それもあるけど、本命はこちら」

 

 伊原さんはそう言うと、箱の隅からUSBメモリを取り出して、俺に渡してきた。

 

「これが本当のクリスマスプレゼント。これは1人分だから、君が複製して全員分に届けてやってくれ」

「何を勝手な……あれ?」

 

 伊原さんの姿はいつの間にか消失していた。

 

 ただ、それが白昼夢でなかったことの証明として、床にはラッパ飲みして空になったワイン瓶、床に転がったワインの栓、バラバラに千切られた包装紙だったものが散らばっている。

 

 そして、俺の手には未開封のワインとUSBメモリがある。

 

「まさかウイルスとか入ってないよな」

 

 念の為、ノートPCにUSBメモリを挿して中身を確認すると、4Kの1時間近い動画ファイルが1つだけ入っていた。

 

 ノートPCでは4K動画を再生するにはスペック不足なので、デスクトップPCに挿し直す。

 

「でも動画って一体何なんだ?」

 

 再生させてみると、伊原のアップが表示された。

 

――――――――――――――――――――

 

 この動画は君達が日本へ帰ってから10年後に撮影をしている。

 

 そちらの世界ではまだ1ヶ月しか経っていないだろうが、こちらでは10年が過ぎた。

 

 この動画を届けるのは次元の壁の修復が完了した後を想定しているので、20年……いや50年かもしれない。

 

 だから、撮影された映像と届けた時点の状況は全く別になっているだろうが、ともかく10年後の映像だ。

 

 なおこの映像は自動的に消滅したりはしない。

 複製して仲間にも見せてやって欲しい。

 

 特定個人宛のメッセージも含まれているので、絶対に仲間全員へ届けること。いいな。

 

――――――――――――――――――――

 

 計算が面倒だがあちらではもう20年くらい経過しているはずだから、これは10年くらい前の映像か。

 

 何が録画されているのかは不明だが、内容が気になることは確かだ。

 

 ただ、自動的に消滅しないというのは嘘かもしれないと思い、ファイルを複製して別のメディアに保存。

 

 更に、ビデオカメラを設置して映像が表示されたモニター自体を録画しておく。

 これでどれかが自動的に削除されても全滅ということはないだろう。

 

 伊原さんがカメラを操作したのか、腕のアップが表示された後に映像が切り替わった。

 

――――――――――――――――――――

 

『その道具で光景を残すことが出来るのか?』

 

 そこに映っているのは異世界からやってきた冒険者のフォルテとマルス、レフティの3人だった。

 

 同行していたはずのスーリアの姿は何故かない。

 

 その代わりに、ホンジュラスで出会った探掘家のパタムンカさんが加入している。

 

 10年経ったからなのか、全員がそれなりに老けているのは分かるが、何故スーリアが抜けて、代わりにパタムンカさんが居るのかは分からない。

 

 場所はどうやら酒場のような場所で撮影されているようだ。

 たまに後ろの方を給仕が歩き回っているのが見える。

 

『モーリス達がこれを見てるってことでいいんだよな? エリスとはうまくやってるか? もう結婚はしたのか? こっちはもうすぐ子供が産まれるぞ』

 

 フォルテはビデオカメラというものを理解できないのか、カメラの前で不審な動きをしながらこちらに呼びかけてきた。

 

『オイオイ、そんな話だと何も伝わらんだろう。あれから10年の間に、こいつとスーリアは結婚したんだよ。それでもうすぐこいつはパパになるってわけだ』

 

 急に髭面コワモテの謎のオッサンが登場して何事かと思ったが、顔をよく見るとマルスだった。

 

 髭を生やしただけではなくて、えらく恰幅が良くなって別人のようになっている。

 

『パタムンカだ。覚えているか? いつぞやの遺跡では世話になった。今はこいつらと組んであちこちの遺跡巡りをしている。まあ、稼がせてもらっているよ』

 

 パタムンカさんは相変わらずだ。

 

 腕周りの筋肉が一回り膨らんで、更にパワフルに見えるようになったが、年齢を感じさせない若々しさに溢れている。

 

『今のところ遺跡の調査はうまく行ってる。かなり利益が出たので待望の船も買えた。だけど、そろそろ30歳。体力も落ちてくるし、近いうちに大きく稼いでから引退することを考えてる』

『貴方なら40まで働けますよ』

 

 こちらはレフティだ。

 元から微妙に老け顔だったので、外見はほぼ変わっていない。

 

『小さい子供が家で待っているのに無茶は出来ないだろう。嫁と子供のためにも、なるべく家にはいてやりたい』

『それは確かに』

『フロリダから来たやつが、コーヒー農場を作るって張り切ってるらしくて、そちらに協力するか、それともエビの養殖で一発当てるかと色々考えてる。まあ、誰も大きな怪我をすることもなく、楽しくやってるから安心してくれ。もしよければ、そっちから連絡をもらえると嬉しい。じゃあな』

 

――――――――――――――――――――

 

 映像が別の場面に切り替わった。

 

 そこにはベッドから半身を起こしている黒髪の大人の女性が映っている。

 

 腹が大きくなっていることから、出産が近いということは分かる。

 

『ラヴィが見ているのかな? 私だよ。スーリアだよ』

 

 前に会ったときには俺とほとんど変わらない体型だったのに、その面影は全く無くて、綺麗な大人の女性へ変わっていた。

 

 スーリアが手を伸ばすと、その手の先に青白く光り輝くカラスが出現した。

 

『使い魔を出すのもうまくなったよ。空からの偵察に体当たりに……多分ラヴィと同じことが出来るようになった』

「そりゃすごいな」

 

 映像なので相手に伝わらないことは分かっているが、素直に感心する。

 

『魔術もうまくなったし、好きな人と結婚できたし、今度母親になるんだ。ラヴィはそろそろ好きな人は出来た? モーリス君はあなたとエリスちゃん、どちらとくっついたの?』

「エリちゃんだよ」

『もし、暇が出来たら子供の顔を見に来てくれると嬉しい。それじゃあ』

 

 画面が暗転してスーリアの映像はそこで途切れた。

 

 日帰りで行けるなら出来れば会いに行きたいところだが、俺達があの世界に行くことはもうない。

 

 せめて何か言葉だけでも伝えられたら良いのだが。

 

――――――――――――――――――――

 

 場面は切り替わり、石材加工の町、テロスが映った。

 

 ただ、様子が何やらものものしい。

 蒸気機関の機械が走り回って、以前のような石材加工をしたのんびりとした雰囲気がなくなっている。

 

 カメラが移動して商店へ入っていく。

 アルバートさんの店だ。

 そこにはカウンターで店番をしている1人の青年男性がいた。

 

『レルム、ドロシー、分かるかな? ケビンだ。あれからもう10年経ったのか。本当に時間が経つのは早いな』

 

 タラリオンの地下にいた10歳くらいの子供が確かケビンだったが、何の面影もない。

 

『こののんびりした町も、石炭が出たってことでもう物凄いことになってる。あのケルベロスが住み着いていた洞窟だ。おかげでうちの店も大繁盛なのは良いけど、毎日忙しくてたまらないや』

「あそこで石炭が取れたのか」

 

 山の雰囲気からして取れてもおかしくはないなとは思っていたが、まさか本当に石炭が出るとは思わなかった。

 

『オヤジも昔は海の近くに引っ越すって言ったのに、儲かるからって毎日走り回っているよ。オレもこんな小さな店じゃなくて、いっそ大きな店を建てて独立しようかと思ってる。今度嫁さんももらうし』

「はっ?」

 

 一瞬意味が分からなかった。

 

 だが冷静に考えるとケビンくん……もといケビンさんも20代だ。

 そういう話が出てきても別におかしくはない。

 

 おかしくはないのだが、子供のイメージしかないので、理解が追いつかない。

 

『レルムとドロシーも結婚したのか? それとも全く違う相手となのか? 近くに来ることがあったら、オレの店を見てくれよ』

 

 ケビンさんも、まさかレルム君とドロシーちゃん、どちらもまだ子供のままとは思ってもいないだろう。

 

 はっきりと分かることは、この映像は絶対に子供達へ届けないといけないということだ。

 

 ケビンさんは他にいくつか子供達へのメッセージを伝えたところで映像は終わった。

 

――――――――――――――――――――

 

 今度は突然に画面いっぱいにヤシの木が映り込んだ。

 

 フロリダか? と思ったが、どうも違う。

 

『どうも、マサムネです。覚えておられますか?』

 

 どう見ても農夫のオッサンにしか見えない人物がスコップを片手に名乗った。

 

 以前に会った時はマサムネさんはまだ若い侍の雰囲気が残っていたが、映像では腕も身体もゴツくなり、服装も動きやすい作業着を着ているので、どう見てもただの農夫のオッサンにしか見えない。

 

『ラヴィさんの言ったとおり、本当にこの地域はハリケーンが多いですね。今は防風林を植えて備えています』

 

 画面の前を10歳くらいの小さい子供と、少し小さい子供が横切っていった。

 

『待ちなさい、今はビデオを撮ってるでしょ』

 

 子供達の後ろを腹の大きな女性が必死になって追いかけている。

 確か今のは奥さんのミリアさんだったか。

 

『作物は色々と試しましたが、この土地はサトウキビの耕作に向いていますね。沖縄と気候が似ているのかな? なので、今は伊原さんにゴーヤの苗が手に入らないか聞いています。沖縄と似ているなら育つかも』

 

 アメリカでゴーヤか。それも面白そうだ。

 

『フロリダ町長になったハセベさんともたまに会っています。半年ほど前に少し剣術の練習をしましたが、最近は農業ばかりだったのでさっぱりですね。でも、モンスターが出てきたら村のみんなを護れないので、そろそろ剣術の練習を再開したいです!』

 

 待って、町長って言った?

 

 なんだかこれから映る映像のネタバレを噛まされた気がするが、ここは忘れることにしよう。

 

『あと、もしも日本にいる家族へこの映像が伝わるならば、両親に送ってもらえませんか? 俺は元気で生きていますって。住所と本名は――』

「おいおい、急に話すなよ。メモ帳、メモ帳はどこだ?」

 

 机の上を慌ててメモ帳を探し回っていると、画面が急に暗転して、伊原さんのナレーションが聞こえてきた。

 

『本人からの要望もあるので、こいつからのメッセージは私が直接家族に別のビデオレターとして送っておく。君達は何もしなくていい』

「サービスが良いのか悪いのか分からんな」

 

――――――――――――――――――――

 

 またもヤシの木が映った。

 

「さっきも見たぞこの構図。もう少し考えろ」

 

 ヤシの木にヤジを飛ばすと、カメラが移動して、今度は学校の木造校舎らしき建物が映った。

 

 校舎がある奥の方から子供達と一緒に30代くらいの男女が走ってくる。

 

 黒いレザーコートを着ていなかったので一瞬誰かは分からなかったが、男性の方はクロウさんだ。

 

 ということは、もう1人はレオナさんかと思ったが、顔をよく見るとマリアさんだった。

 

『ラヴィさん、モーリスくん、エリスさん。私だ。スケアクロウだ。今は見ての通り、このフロリダで子供達に勉強を教えている。レルム君とドロシーちゃんもちゃんと勉強してるか?』

『マリアです。私も夫と一緒に先生として子供達に勉強を教えています』

「夫? えっ?」

 

 マリアさんがレオナさんとクロウさんを狙って争っていたことは知っているが、何故そうなったのか?

 

 この10年の間に一体何があったのか?

 

『このフロリダの町も10年ですっかり大きくなった。農業や水産業も安定していて、順調に町は大きくなっていっている。それにつれて子供の数も増えたので、私達が託児所兼唯一の教育機関として子供達を保護していくことになった。この世界へ連れてこられた時には諦めた教師の夢だが、まさかこんな形で続けられるとは思わなかったよ』

『私も何か出来ることはと思って教師を始めてみました。こうやって子供達に頼られるのは、本当に楽しいです』

 

 クロウさんの話の通り、映像からは幸せな雰囲気が伝わってくる。

 周りにいる子供達も笑顔がいっぱいだ。

 

『私達は夢を叶えることが出来た。諦めずに続けていればきっと夢は叶う。だから、君達も日本で夢を諦めないで頑張ってくれ。きっと幸せを掴み取ることは出来るはずだ』

『最後に、みんな一緒に言おうね』

 

 マリアさんが子供達に呼びかける。

 

『ありがとうございました!』

 

 クロウさんとマリアさん、そして子供達が一斉に挨拶をしたので、俺も映像だと分かっているが頭を下げる。

 

――――――――――――――――――――

 

『またサンドワームが出たぞ!』

『任せろ!』

 

 今度はどこか荒野に切り替わった。

 地中から姿を現した10mほどのサンドワームに対して男女二人の魔術師が攻撃を加えて撃退する。

 

『よしやったか』

『やってない。詰めが甘いぞ』

 

 突然に伊原の声が聞こえたと思ったら、片手で地面から別のサンドワームを引きずり出す映像が見えた。

 素手で体重数トンの長虫を持ち上げるな。

 

『そういうことがダメなところだ。もっと真面目にやれ』

『すみません』

 

 謝罪する2人の魔術師は、かつて錯乱してフロリダの町を襲い、その罰として開拓の手伝いをさせられているアルフとティナの2人だった。

 

『俺達はまだこうやって開拓の手伝いをしている。契約であと5年はこうやって戦うことになっている』

『まあ、最近は色々と自由時間ももらえるので、待遇は少しずつ良くなっているとは思う。町の人もちょっとずつ優しい声をかけてくれるようになった』

 

 2人の魔術師がひたすら頭を下げているのは、カメラを持っているのが伊原さんだからか。

 

『完全に解放されて自由になったら、俺達はここにティナと一緒に農場を作って住もうと思う』

『まだまだ大変なことは多いけど、頑張っていきたいと思う』

『そうそう、あの時のカレーは本当に美味かったぜ。あれでもう少し生きていこうと思うことが出来た。だから、もう少しここで罪を償っていきたいと思う』

 

 2人がカメラに向かって手を振っている。

 

 あの2人も罪を犯したが、それなりに反省して今ではやり直せているようだ。

 5年で解放ということなので、今頃は農園を開いて幸せに暮らして行けているのだろうか?

 

――――――――――――――――――――

 

 何度目だよヤシの木。

 

 このテンプレート演出にはもはや突っ込んだら負けなのだろう。

 

 画面が切り替わると、突然に織田信長が映し出された……そうと思って改めて見直すと、ハセベさんだった。

 顎髭と口髭を伸ばすと本当に織田信長のイメージ通りでびっくりする。

 

『このビデオレターはラヴィ君達に伝わると思って良いのかね?』

『ああ、日本への帰還組へ送信するつもりだ』

『ありがとう。それならば私からの言葉を伝えようと思う』

 

 そう言うとハセベさんは椅子に腰掛けた。

 その横には何故かレオナさんが立っている。

 

『このフロリダの町もどんどん大きくなっており、農作物も安定した量が確保できるようになったので、近隣の町と交易を始めることになった。そうなると調整役が必要ということもあり、住民の方々の支持もあり、私がまとめ役、初代町長として就任することになった』

「それ、さっきネタバレされました」

『私は現場向きの性格なので、リーダーにはクロウさんを推すつもりだったのだが、クロウさんはどうしても教師になりたいとのことで、私に町長の役割が回ってきた。全く、とんだ貧乏くじだよ』

「でも、それもハセベさんらしいです」

『日本への帰還に未練がなかったと言えば嘘ではある。だが、こうやって町を護り、発展させていくというのは、日本に住んでいては出来なかった体験だ。私の選択に後悔はなかったと信じている』

 

 ハセベさんはここで一度言葉を切った。

 

『ラヴィ君、モーリス君、エリス君。カーターさん、タルタロスさん、ドロシー君、レルム君。決して自分の選択には間違いなかったと言える人生を歩んで欲しい。たまには間違えることもあるだろう。うまく行かないこともあるだろう。だが。自分の選択を後悔だけはしないで欲しい』

「はい」

『これだけははっきり言える。私の人生に間違いはない。これからも幸せな人生を歩んでいく。だから、君達も幸せな人生を』

 

 いつの間にか涙が浮かんでいた。

 ハセベさんには本当に世話になった。

 俺も後悔のない人生を歩んでいこうと思う。

 

「本当にありがとうございました」

 

 映像なので相手に伝わるわけはないのだが、画面に向かって頭を下げる。

 

『そうそう重大な話を言い忘れていた』

 

 映像はまだ続いていた。

 ハセベさんがレオナさんを抱き寄せた。

 

『実は5年ほど前に彼女と結婚した』

「はっ?」

『どうも『町長夫人』のレオナです』

 

 レオナさんが「町長夫人」を強調しながら画面に向かってお辞儀をした。

 

『クロウさんが教師になり、私が町長になるタイミングで彼女から私に話があってな』

「騙されてる。ハセベさん騙されてますよ。その女が欲しいのは町長夫人のトロフィーですよ」

『人生の選択に間違いはなかったと言える』

「待って、それは間違いだと思って。後悔して!」

『君達も良い人生を』

 

 映像はそれで途切れた。

 

 まあ、よく聞く話ではる。

 ハセベさんは前からレオナさんのことを胸と尻がすごいと語彙喪失して絶賛していたので、そこを突かれたのだろう。

 

 だが、本人達が納得しているのならばそれで良いだろう。多分。

 

 人生の幸せなんてどこに転がっているのか分からないのだから、意外と幸せな人生を送ることが出来るかもしれない。知らんけど。

 

 ここで一時停止して一息。

 

 冷蔵庫からペットボトルのコーラを持ってきて飲む。

 

 以前はこれほどコーラを飲むことはなかったのに、魔女(ユイ)と融合してからは、毎日のコーラがすっかり習慣になってしまった。

 

 糖分の取りすぎにはならないように注意しないといけない。

 今のところ毎日豆乳も飲んでいるので多分大丈夫だと思う。

 

 さて、後半の再生だ。

 

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