収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第六話 「無貌の神」

 小森くんを先頭に3人で赤い女と対峙する。

 

 相手がどのような攻撃をしてくるか分からない以上は小森くんのプロテクションの防御力を信じて後ろで身構えるのが良いだろう。

 

「私は暴力的なことがあまり得意ではございません。そこで、貴方たちには別の対戦相手を用意いたします」

 

「赤い女」が手をかざすと、その背後に魔法陣が3つ出現した。

 

 その中から黒い人の形をした影が出現する。

 

 地上で戦った影は完全に黒い塊でしかなかったが、こちらは人の顔のようなものが、うっすらと見える。

 

 長剣を持ち、鎧を纏った青年。

 魔法使い風のローブを着た少女。

 俺と同じような魔女の服装をした少女……いや、向こうの方がファッショナブルだ。

 

 ビスチェ風の服の上にコート風のローブ。

 ローブも折り目や刺繍などデザインに工夫がされている。

 

 生地が丈夫な上に暖かいという質実剛健のみに全振りしたデザイン性皆無の俺のローブとは全く違う。

 

「これは『私』の友人たちのイメージを影の兵士として喚び出したものです。イメージですので、実物よりは強いかもしれません」

 

 私というのは中村の話だろう。

 

 そうなると、あの剣を持った青年が繁(しげる)とかいう、度会(わたらい)州知事の夫。

 魔法使いの少女は度会州知事の若い頃。

 そして魔女は伊原さんか。

 

 友人と決別したというのに、ここで頼るのは昔の友人の影とかどういう神経をしているのやら。

 

「分担は?」

「ラビさんは伊原さんを、恵理子は州知事を。俺はあの剣士を倒します」

「待って、さすがにリプリィさんに似てるあの人と戦うのは無理だよ」

「分かった。なら、あの剣士は恵理子に任せる。残りは俺が戦おう」

 

 手早く作戦会議を済ませて行動を開始する。

 まだ、赤い女が別にいるのだから、こんなザコ戦で無駄に体力を使えない。

 

「小森くん、州知事は炎とビームの2種類が使えるのは分かっている。ビームは多分スキル3」

「わかりました」

 

 各自散開して、それぞれが影と戦う。

 

 俺の相手は伊原さんだ。

 

 まずは鳥を5羽召喚。

 何をするにもこれが基本だ。

 

 影伊原は自らの周囲に青白く光る塊を出現させた。

 

 その塊は床に零れ落ちると、体を青白く光らせている四足の動物……光の粒子で構成された山羊へと姿を変えた。

 数は7頭。

 7匹の子山羊とは、伊原さんには似合わないメルヘンチックな能力だ。

 

「俺の鳥と同じタイプなのか?」

 

 どこまで互換があるのかは不明だが、盾や魔女の呪い的な必殺技に繋げられると厄介だ。

 

「俺の鳥の数は5羽。1頭1羽で相殺されると、競り負ける。ならば!」

 

 スキルだけには頼らない。

 腰帯に吊るされている鞘から日本刀を引き抜いて山羊の迎撃にあたる。

 

 日本刀を武器として使うのは初めてだが、使い方は『知っていた』。

 俺の意思に応えるように、鍔がキンと鳴る。

 

 最初の1頭の突撃を回避。

 無防備な胴体目掛けて刀を振り下ろして山羊を両断する。

 

 続いて2頭目の山羊へ刀を振り下ろそうとした時に、ハセベさんに聞いたアドバイスを思い出した。

 

 意識して、あえて一歩深く踏み込み、袈裟斬りで深く山羊の胴体に刀を食い込ませる。

 

 テクニックはマサムネさんを参考に、手首を返して払い斜め上へ切り上げる逆袈裟斬りでVの字に切り裂く。

 

 隙を潰して次に繋げる戦法はクリスさん参考だ。

 刀を滑らせるようにして、接近してきた3頭目の山羊の首を横一文字斬りで落とす。

 

 俺が魔女として経験を積み、成長したことが、そのまま剣士としての能力にも反映されているようだ。

 

 残る4体の山羊は2頭ずつ左右に分かれた。

 

 どうやら挟み撃ちを仕掛けるつもりのようだが、そうは問屋が卸さない。

 

「盾(シールド)!」

 

 左の2頭の山羊が移動する先に盾を形成。

 鼻っ面をぶつけて動きを止めている間に、右側の山羊2頭に2羽の鳥を当てて相殺する。

 

 左側の山羊は、まだ動きが止まっていたので、その隙に刀で切り捨てた。

 

 山羊は全滅。残るは影伊原本体のみ!

 

 そう思った時、殺気を感じた。

 慌てて飛び退くと、俺がたった今まで立っていた場所を巨大な何かが通り過ぎた。

 

 圧倒的な質量。そして大きさ。

 それは、人間の身長ほど巨大な鉄のハンマーだった。

 

 通過した時の風圧で肌がピリピリと震える。

 

「くそっ……浮遊(フロート)!」

 

 ハンマーは少し離れた場所で反転してまたも襲い掛かって来た。

 

 俺の足では避け続けることは不可能だと判断して、箒に飛び乗り、空中へ退避する。

 

 だが、巨大なハンマーは空中へ逃げた俺を執拗に追跡してくる。

 

 ハンマーの柄の部分には、影伊原がしゃがみ込みサーフボードのようにうまくバランスを保ちながら乗っていた。

 

 空中を逃げ回る俺を逃すまいと執拗に追跡してくる。

 直撃すれば無事では済まないだろう。

 

 以前に伊原さんがハンマーに乗って飛んでいたとは聞いていたが、どうやらこのことだったらしい。

 

 箒に乗る、使い魔を出す、その上に邪神の加護付き。

 

 俺と伊原さんとこれほど共通点があるとは知らなかった。

 度会州知事が俺を気に入るはずだ。

 

 影伊原のハンマーは、移動だけではなく攻撃にも使えるのが俺の箒との違いだ。

 

 回避運動を行ってハンマーの攻撃を避けるが、近くを通り過ぎる度に風圧でこちらの体勢が崩れる。

 いつまでも回避し続けることはできない。

 そのうち集中力が切れて直撃を食らう。

 

「ならばこうだ!」

 

 箒を無理矢理に急停止させる。

 強い慣性で体がつんのめるのに抵抗せず、そのまま前方へ回転しながら落下する。

 巨人(イソグサ)戦で試した空中戦の応用だ。

 

 影伊原とハンマーは俺のこの不規則すぎる動きに対応しきれなかったようだ。

 

 ハンマーの重量のせいで、急停止や急旋回は苦手らしい。

 後ろを取り合うドッグファイトでは俺の方が上だ。

 

 旋回の際に生まれた隙を逃さず、箒を加速させて、影伊原に体当たりをかけた。

 

 不自然な体勢でハンマーの柄に乗っていた影伊原がバランスを崩した。

 

 そのドサクサでハンマーに手を触れた。

 能力が共通ならば、同じ箒の解除コマンドも通じるはずだ。

 

「ハンマーのコントロールは俺がもらう。解除(リリース)!」

 

 影伊原が操るハンマーに、上から停止命令を与える。

 命令は受理されたようで、影伊原が乗ったハンマーのバランスがグラリと揺らぎ、地面へと落下していく。

 

「群鳥!」

 

 スキル1で青白く光る鳥を5羽召喚。

 3羽で落下していく影伊原に合わせて増幅魔法陣を形成。

 

「増幅(ブースト)……極光(オーロラ)!」

 

 魔法陣を抜けた極光は一条のレーザー光線と化し、地獄の第九圏の氷の上に光の柱のように立った。

 着弾地点から、ジリジリと氷を蒸発させる音が響く中で猛烈な水蒸気が舞い上がる。

 

 その光線をほんの少しだけ動かすと、一瞬で影伊原の体はバラバラに引き裂かれた。

 

 まずは1体。

 

 他のみんなはどうなったか状況を確認する。

 

 エリちゃんの足元に腕と足がありえない方向に曲げられた青年剣士の影が転がっていた。

 相手が人型ならば、一度でも掴んだ瞬間に、そこから関節技と極め技で全身の関節を折っていくエリちゃんのコンボが凶悪すぎる。

 

 おそらく青年剣士の影も、開幕直後に腕を極められ、そのまま全身の関節を破壊され、一切剣技を披露できずにトドメを刺されたのだろう。

 

 頼もしさも恐ろしさもあるが、勝負は決まりだ。

 

 最後の1体、小森くんの方はどうなったか確認すると、ただひたすらに影知事が放つ炎とレーザーの攻撃をプロテクションの壁で耐え続けていた。

 

 このままでは反撃できないのでは?

 

 そう思ったのも束の間、小森くんが槍投げ競技のように、手に持っていた槍を勢い良く投げた。

 

 そして、ただ槍を投げただけではない。

 小森くんの腕から槍までは、光るロープのようなものが繋がっていた。

 

 一瞬だけ小森くんの新能力かと思ったが、冷静に考えると正体はすぐに分かった。

 先ほどまで敵の攻撃を防いでいたプロテクションを、ロープの形状に変化させたのだ。

 

 しかもただのロープとしての機能だけではない。

 影知事に突き刺さった槍の根元に巻かれていたロープが、一瞬にしてウニのようにトゲだらけのボールのような形になる。

 

 小森くんがロープを引き寄せて槍を回収すると同時に、影知事はそのまま霧散消滅した。

 

 これで影の戦士は全滅だ。

 

 本物の3人が相手ならばもっと苦戦したかもしれないが、所詮は単純な動きしかできない影でしかない。

 

 残るは、赤い女……ナイアルラトホテップを倒すだけだ。

 

「ラビさん危ない!」

 

 小森くんが咄嗟に光の壁を形成して、俺に伸びてきた触手を受け止めた。

 

「私は暴力は嫌いだと言ったのに……貴方たちが抵抗するから……本気を出さざるを得なくなってきた」

 

 触手は赤い女の胴体部分から伸びていた。

 

 小森くんが作り出した壁はそう簡単に破壊できないと悟ったのか、触手は女の体内へと収納されていった。

 

 赤い女が頭上へと手をかざすと、空中に複雑なカットが施された赤い宝石が出現した。

 黒い宝石の上に無数に赤い線が走っており、それが生物の血管のように胎動している。

 

「まさか……インガノクでデクスターが持っていた輝く偏方二十四面体(シャイニング・トラペゾヘドロン)」

「正解だ」

 

 宝石に亀裂が入り、そこから垂れ下がった無数の血管が赤い女を覆い尽くしていく。

 赤い女の姿は、その血管がまとわりつくことで、人間の姿から異形の生物へと変化していく。

 

「ラビさん、次のスキルの使用タイミングは?」

「鳥はもうすぐ。極光は使ったばかりなのであと2分は使えない」

 

 手持ちの鳥は2羽。これでは増幅も盾も作れない。

 せめて鳥を追加で出せたらできることが増えるのだが……

 

 ここでおかしなことに気づいた。

 

「小森くん、たった今、プロテクションを90秒待たずに出さなかった?」

 

 プロテクションをロープ状に変えて、槍の回収に使っていたはずだ。

 なのに、直後に壁を形成して俺を守った。

 

 どう考えても待機時間を無視して発動したようにしか見えない。

 

「だから小森くんはやめてくださいって……あれ、でも確かにそう言われてみれば……若干待ち時間が短いような」

 

 若干どころではない。

 半分程度の待機時間で発動させている。

 

「実験だ。今からちょっと鳥を召喚するから、見ていてくれ」

 

 何やら赤い女の方が大変なことになっているが、最優先で試さないといけないことがある。

 赤い女が動きを止めているうちに、検証を済ませてしまいたい。

 

 今までは一度鳥を喚びだすと次のスキル使用まで30秒のクールタイムが必要だった。

 確認のためにスキル使用後にカウントダウンを始める。

 

 10、11、12、13、14……。

 

「群鳥!」

 

 15をカウントしたタイミングで鳥を喚び出すスキルを使用すると、5羽の鳥が出現した。

 間違いない。

 

「小森くん、限界超越で得られる能力が分かったぞ」

「なんですか、勿体ぶらずに教えてください」

「スキルの再使用間隔の半減だ。スキル3なら90秒。2は45秒。そして1なら、わずか15秒……つまりこういうことだ」

 

 俺は再度、鳥を5羽召喚する。

 今の会話中の15秒が経ち、2回目の召喚が可能になった。

 

「小森くんだと、おそらくオーラウエポンの連続使用が可能なはずだ」

「オーラウエポン!」

 

 小森くんの槍の周囲が青白い光で覆われた。

 

 現在はただのオーラウエポンだと、武器の威力を若干強化するだけの効果しかない。

 

 連続使用しているうちに、最初の方に使ったスキルの効果が切れてしまう多重掛けには向かないスキルだった。

 

 だが、このスキルを効果時間が切れる前に、短時間で何回も重ね掛けして、火力を上げることができれば……。

 

「あの女の変身が完了するまで、こちらもなるべく戦力を増強させるぞ!」

「でも私はパワーアップはできなかったんだけど」

「エリちゃんは俺がパワーアップさせるから安心してくれ」

 

 増幅魔法陣を形成してエリちゃんの身体を通過させると、腕と足に纏っていたスキルの光がその光量を増した。

 

「すごい……これならいくらでも行けるよ!」

 

 増幅はクッキーにかけると苦くて腹を壊す味に変化するマイナス効果もあることは気にしないことにした。

 

 俺は鳥を追加召喚。

 これで14羽の鳥が待機中だ。

 

 箒は一度上空へ退避させ、片手に日本刀、片手にバルザイの偃月刀を握る。

 

 俺たちが検証を済ませている間に、赤い女の身体の変化はほぼ完了していた。

 

 全身は墨のように黒く染まり、頭部は三角錐のような形状に3つの赤く光る目が付いている。

 

 下半身は大型の肉食獣のようだ。

 四本の足それぞれには鋭いかぎ爪があり、背中からは鷹……いやハゲタカのような翼が生えている。

 

 さらに身体の各部からタコのような触手が何本も伸びてうねっている。

 

 シルエットだけならばスフィンクスのようだが、それぞれのパーツは全く異なって見える。

 

 全体的に統一感がなく、異形さと嫌悪感だけが強調された形態。

 これが無貌の神の戦闘形態か。

 

『では、始めましょうか』

 

 赤い女改め無貌の神ナイアルラトホテップが後ろ足で立ち上がり、俺たちに突進してきた。

 

「増幅射矢(ブーストアロー)!」

 

 先手必勝とばかりに増幅魔法陣で強化した使い魔を放つ。

 

 俺の攻撃を皮切りに小森くんはオーラウエポンで強化した槍、エリちゃんは青白く光る拳で攻撃を仕掛ける。

 

 高速回転する鳥が奴の胴体に命中し、2人が同じポイント目掛けて攻撃を当てる。

 だが、奴は俺たちが放った連携攻撃をノーガードで受け止めた。

 

 それでいて全く怯む様子を見せない。

 

 入った傷はわずかに皮1枚。かすり傷程度にしかなっていない。

 

『もしかして、今のが攻撃のつもりなのかしら?』

 

 無貌の神がそう言った直後に、目にも止まらぬ速さで触手が鞭のように伸びて来た。

 

 軽くかすったものの、限界超越で生えてきた外套の防御力が予想以上に高い。

 触手が跳ねるだけで氷の床を抉るほどの威力があるというのに、傷一つ付いていない。

 

 とはいえ、痛みはあるし、直撃を食らえばどうなるかは分からない。長期戦は不利だ。

 

「仕方ない。全員、蛙の神戦を思い出せ!」

 

 小森くんが俺の目を見て分かりやすく大きな声で言った。

 

 単体だと意味不明な言葉だ。

 

 だが、俺たちには通じる。

 蛙の神戦とは、エリちゃんが攻撃を止めている間に、俺の旧神の印(エルダーサイン)で敵を弱体化させろということだ。

 

「いけますか?」

「当然!」

 

 俺は両手に剣を携えて突撃する。

 もちろん、敵の攻撃が来ることは想定済だ。

 

「増幅! そして盾(シールド)を強化!」

 

 増幅魔法陣と盾を同時に形成する。

 同時に6羽を制御するのはかなり複雑な操作が必要になるが、予想以上に楽に発動できた。

 

 何しろ今までは1人の力で発動していたが、今は3人分のパワーがあるのだ。

 これくらいできて当然だと断言できる。

 

 無貌の神が前足のかぎ爪を振り下ろしてきたのを、増幅で強化した盾で受け流す。

 

 増幅によって盾の強度も倍以上に増している。

 単純な物理攻撃程度ではビクともしない。

 

「跳ね返せ!」

 

 盾の反射能力で前足をそのまま横方向へ動かした。

 それにより、バランスを崩して腹を見せた隙にバルザイの偃月刀で大きく切りつけて、一気に三画を刻み込む。

 

 この短剣の最大の特徴は、どんなものにも魔法陣を刻み込める能力だ。

 その対象は、たとえあらゆる攻撃を跳ね返す邪神だとしても変わらない。

 

 無貌の神に傷が刻み込まれた。

 五芒星完成まで残り二画。

 

『バカな、何故この身体に傷を入れることができる!?』

 

 どうやら奴は俺があっさりと傷を入れたことが理解できないようだ。

 

 もちろん、そのカラクリを説明するつもりなどない。

 

「これがお前も知らない、日本人だけが扱えるチャドーの極意だ」

『チャドー?』

 

 いいぞ。

 こちらの与太話でどんどん混乱しろ。

 

「モードチェンジ! 斧(アクス)!」

 

 小森くんがプロテクションの壁を斧の形状に変化させた。

 槍の上にまとわせると、柄が2メートル近くの長さに伸びた。

 

 限界超越で変化した槍の特性なのか、形態変化に合わせて最適な長さに自動的に伸び縮みしてくれるようだ。

 

「こりゃいいや! せぇのっと!」

 

 その巨大な斧を無貌の神の肩口へと食い込ませる。

 この攻撃も効いてはいないが、これは本命を隠すためのフェイントだ。

 

 無貌の神の注意が俺と小森くんの2人に向いている隙をついてエリちゃんが後方に回り込んだ。

 後ろ足の一本を掴み、大きく持ち上げる。

 

「くっそ、こいつ重い……」

『レディに向かって重いとは失礼な子ね』

「何がレディよ、ブサイクな怪物のくせにぃ!」

 

 エリちゃんが持ち上げた足の裏へ向けて強烈なアッパーパンチを叩き込んだ。

 

 傷は入らないだろうが、それでも物理的な影響は受ける。

 足の裏から無理矢理押し上げられたことで、無貌の神は大きくバランスを崩し、前のめりに転倒した。

 

『倒れたから何? こちらには大空をかける翼があるというのに!』

 

 無貌の神は背中から生えたハゲタカの翼を大きく広げ、転倒状態から空へと舞い上がろうとする。

 だが、そうはさせない!

 鳥の残数は4。5羽を補充して9羽。

 

「盾を連続形成!」

 

 無貌の神の頭を押さえるように、3枚の盾を展開した。

 

 空中に浮かんだ3枚の光の三角形が邪魔になり、無貌の神は飛び上がることができない。

 そこへダメ押しだ。

 

「地面に叩き落とせ!」

 

 3枚の盾から発せられた斥力が、無貌の神を再度地上へと叩き落とした。

 今が最大のチャンスだ!

 

 俺を近寄らせまいと触手が次々伸びてくるが、少々の被弾は覚悟のうちだ。

 外套の防御力を頼みに痛みをこらえながら接近。

 

 バルザイの偃月刀で旧神の印(エルダーサイン)を一気に刻み込む。

 

「旧神の印(エルダーサイン)。お前ら邪神連中にはよく効くだろう!」

『旧神の印だと!? バカな?』

「ラビさん、ナイスアシスト! オーラウエポン!」

 

 小森くんがスキルで強化した光の斧を無貌の神の背に生えた翼の付け根にめり込ませた。

 

 今までとは違って斧は奴の翼はもちろん胴体へと深く食い込み、大きな傷を刻み込んだ。

 

「恵理子、ダゴン戦だ! ラビさんはワイバーン戦!」

「分かってる!」

 

 エリちゃんが高く飛び上がり、小森くんが振り下ろした斧へ向かって飛び蹴りを放つ。

 ダゴンの腕を切り落とした時に放ったコンビネーション攻撃の再現だ。

 

 斧の刃は無貌の神の左の翼を抉り取った。

 

 俺は3枚の盾の形成を解除。

 

 9羽の鳥を一度散開させ、右側の翼に突撃させる。

 上下4羽ずつの突撃に耐えきれず、両翼が引きちぎれる。

 

『なんだこれは……私は無貌の神だぞ……貴様は……貴様等は一体なんなんだ?』

 

 無貌の神が大きく触手を振り回した。

 小森くんとエリちゃんがもろに直撃を受けて吹き飛ばされるが、空中ですぐに体勢を取り戻した。

 

 無貌の神が明らかに動揺している。

 おそらく普通の人間に物理攻撃でここまで追い込まれたことなどないのだろう。

 

 ならば教えてやる必要があるだろう。

 エリちゃんの負傷を小森くんが治療するまでの時間稼ぎだ。

 

 ホンジュラスの遺跡でも同じようなやり取りを赤い女に対してやったが、やはり今回もその再現。

 スーパー説教タイムだ。

 

「お前は多くの人を騙し、争わせることで自分の手を汚すことなく戦いに勝利し続けてきた。常に自分が上位の戦いばかりだったので、自分が不利になった時の立ち振る舞いを知らない。だが、俺たちは違う。これまで、色々な辛くて苦しい、悲しいことがあった。それを乗り越えてここまで来たからこそ、どん底からでも立ち上がる強さを手にしている。だから、どんな状況からだって勝利を掴むことができる」

「その上から目線……貴様は一体何様のつもりだ? 正義の味方気取りか?」

「何様だって? なら教えてやろう」

 

 日本刀を鞘に納め、箒を構えて見得を切り、声の限り叫ぶ。

 

「俺はお前を個人的に許せないだけの、ただの通りすがりの魔女だ。覚えておけ!」

 

 旧神の印は既に刻み込み済み。

 

 攻撃が効かない無敵モードは解除されている。

 後は着実に攻撃を入れて戦闘不能(リタイア)させるだけだ。

 

「とどめは?」

「ホンジュラス地下遺跡!」

 

 鳥の残弾は1。

 5羽を追加召喚する。

 

『ならばこれを喰らえ!』

「盾(シールド)!」

 

 相手の3つの目が輝くのと同時に、相手の眼前に盾を展開させた。

 

「『何か攻撃が出ます』みたいな形をしてるのに、不意打ちできるわけないだろう……跳ね返せ!」

 

 俺が盾に反射命令を出したと同時に無貌の神の頭部が派手に爆発した。

 

 目から何かレーザー的な攻撃を出そうとしたのだろう。

 それが至近距離から盾に跳ね返され、結果として自爆したのだ。

 

 無貌の神の自爆を合図に、俺たち3人は一斉に飛び出した。

 

 鳥は残り3羽。

 ここに5羽を追加召喚して8羽。

 

 すかさず増幅魔法陣を形成。

 

 それと同時にエリちゃんがスキルで筋力を強化した両手を高く掲げた。

 それを増幅(ブースト)で強化する。

 

 小森くんが槍の一撃を見舞うが、これは無貌の神に避けられる。

 だが、それはただのフェイントだ。

 

 エリちゃんが強化した腕で無貌の神の後ろ足を掴んで力任せに持ち上げた。

 

 そのまま、両足を軸にして、その巨体を振り回し始める。

 ホンジュラス地下遺跡で赤い女を仕留めたジャイアントスイングだ。

 

 まるで竜巻でも起こすような高速回転で、振り回している無貌の神の頭部を何度も氷の床へ叩きつけた後に遠くへ投げ捨てる。

 

『貴様たちは、一体何故ここまで私を攻撃する? 私を倒して何を得られるというのだ?』

「お前は知らないだろうが教えてやる。昼になったら宍道湖(しんじこ)近くの店でうなぎを食べる用事がある。その後は可愛いペンギンのパレードとハシビロコウの餌やりが待っている。だからこの戦いは12時前には切り上げたい」

『ふざけ――』

「――コンビネーションアタック!」

 

 知らない技だ。

 だが、まあ俺たちの友情パワーがあれば、どうとでもなる。

 

 俺が説教をしている間に小森くんが槍にオーラウエポンをかけ続けていた。

 通常だと武器の周りをほんの少しだけ覆う光が、槍を完全に包み込み巨大な槍と化していた。

 

 これ、もう本体の槍は要らないだろ。

 

「ラビさん!」

「増幅(ブースト)!」

 

 巨大な光の槍をさらに増幅魔法陣で強化する。

 

「恵理子、とどめは任せる!」

「任せて!」

 

 エリちゃんがその光の槍を受け取り、スキルで強化した渾身の力を込めて無貌の神に投げつけた。

 

「おっと、槍本体は返してもらうよ。壊れちゃシャレにならないので」

 

 小森くんが槍の本体だけを、プロテクションで作ったロープで回収する。

 やっぱり本体はなくとも技として成立していたらしい。

 

 飛んでいくのは3人のスキルで強化された光の槍だけだ。

 

 光の槍は一瞬で無貌の神の巨体を貫いた。

 

 死んではいないようだが、両翼はもがれて、身体は傷だらけ。

 

 いくら化け物の体力があり、もし再生能力があったとしても、しばらくはまともに動くことすらできないだろう。

 

「お前の敗因は一つ。人生を楽しむことをせず、ただ人と世間を恨んで後ろ向きに生きたことだ」

 

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