収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第11話 「防犯カメラ」

「学校内でおかしなことをしてるやつを調べるんでしょ。だったら部室に行かないと」

「調べるにしても一度帰った方が良いんじゃないか?」

「帰っていたら何かしようとしているやつに逃げられちゃう可能性があるでしょ。やるべきことはやっておかないと」

 

 今も生徒達が講堂に向かって大移動している。

 あまり部室で何かをやっている時間はないはずだ。

 

 だが綾乃はそんなことを気にする様子もなく、新聞部の部室へダッシュで飛び込んだ。

 キャビネットの縁に手を引っ掛けて流れるような動きで新聞部に伝わる秘伝の書……校内の構造図や防犯カメラの位置などが記された図を全員が見られるように長机の上に広げる。

 

「ドアに鍵かけて!」

「うん……まあそれはかけるけど」

「あと照明は付けない。この部室に人がいて何かやってるのがバレるから。巡回中の先生に見つかると面倒くさいことになる」

 

 僕は綾乃の指示通りにドアを施錠し、窓際のカーテンを閉めて新聞部部室を臨時の作戦本部へ仕上げていく。

 午前中だと言うのに一気に室内が暗くなり、部室PCだけが光源となって資料と僕達の顔を照らしている。

 

「小森はうちの学校の防犯カメラの数は知ってる?」

 

 綾乃が慣れた手付きでキーボードを高速で叩きながら小森君に尋ねた。

 

「あちこちにたくさん付いてるのは知ってるけど……10個くらいか?」

「8台。それ以外は全てダミー」

 

 綾乃は淡々と答えて操作を続けると、画面には何かのアプリが起動してきた。

 飾り気の一切ない実用性重視の手帳を広げて、そこにメモされているであろうユーザ名とパスワードを入力するとモニターには4分割された防犯カメラの映像が表示された。

 画面右上には「1/2」と表示されている。

 

「1が正門、正面玄関、職員室、校長室」

 

 マウスを操作して「切り替え」のボタンを押すと別の4箇所の映像に切り替わった。

 

「2が講堂、渡り廊下、職員室前の通路。あと裏門」

 

 講堂には既に多くの生徒が詰めかけており、渡り廊下も同じく移動する生徒達で溢れかえっていた。

 

 あまりに一気に移動することになったので、講堂の入口が狭すぎて入場待ち渋滞が出来ているようだ。

 

 これならば僕達がもう少し遅れたとしても言い訳は立つだろう。

 人混みに埋もれて動けませんでしたと言えばよいのだから。

 

 それはそれとしてだ。

 

 「なんでこんな映像にアクセス出来るんだ?」

 

 小森君が当然の疑問を口に出した。

 僕も種を知らなければ信じられないところだ。

 

「防犯カメラの設定は外部からの接続を遮断する設定が入ってるんだけど、学校内からならば、アドレスを知っていればアクセスし放題なの」

「いや、そういうことを聞いているんじゃなく」

「前に取材で職員室に入る機会があったんだけど、その時に先生の机の上にアドレスとユーザ名、パスワードが書いてあったメモが置きっぱなしになっていてね」

「まさか盗んだ?」

「そんなことするわけないでしょ。ただ、内容を全部覚えただけ」

 

 綾乃がボロボロになった手帳を広げてみせた。

 手帳は真っ黒になるほど書き込みがされてあり、その中には防犯カメラのアドレスがあった。

 

 ただパスワードの文字列は英数字が不規則に入り交じるかなり長いもの……1 、2……20桁くらいあった。

 よく一瞬でそんなものを覚えられたものだと感心する。

 

「すごいな柿原。よくそんなアドレスを覚えられたもんだ」

「伊達に新聞部やってないわよ。こういう記憶力には自信があるの。もっと私を称賛しなさい」

「学校の勉強には役に立ってないのだけが残念だな」

「うっ」

 

 綾乃はかなり痛いところを突かれたのか動きを止めてピクリとも動かない。

 

「すまない。悪口のつもりじゃないんだ。ただ、そんな能力があるのに勿体ないなって」

「人間は万能じゃないから、その能力をどう割り振るかは個人の自由ってわけ。私はあえて勉強を犠牲にして、新聞部として最大限のパフォーマンスを発揮しているのよ」

「勉強にも少しは能力を割り振った方が良いんじゃないかな」

 

 僕もそう思う。

 

 友瀬さんも同じ感想を持ったようで無言でウンウンと頷いている。

 ブレザーの隙間から顔を出したアルゴスまでもが、意味が分かっているのかは不明だが、同じように何度も首を縦に振り始めた。

 

「待って、鳥類にまでバカにされるのは納得行かない」

「綾乃落ち着いて。あんまり刺激するとレーザーが飛んでくるよ」

 

 半分冗談、半分は本気で警告すると綾乃も渋々と納得してくれた。

 いつブレザーの隙間から目玉の付いた尾羽が飛び出してくるか気が気でならない。

 

「でも、この防犯カメラに都合良く犯人が映り込むってことはないだろ」

「上戸さんが言ってたでしょ。校内で明らかにおかしな動きをしているやつがいるはずだって。そういう人物は多くの生徒や教師と全く違う動きをして、ここに映るはず」

「でもおかしな動きって?」

「たとえば……生徒は講堂、教職員は学校の見回りを終えたら職員室に集まるはずなのに何故か逆方向へ向かってる人とか」

「それは僕達だよ。今のところ他にそんな人はいないみたいだけど」

 

 防犯カメラの映像を視るが、今のところ怪しい人物はいない。

 

 たまに講堂へ向かう生徒達と違う方向に行く男子生徒もいるが、隅でトイレに入っていくのが見える。

 

「まあトイレくらい行くよね」

「他に何か映ってない? 少しくらいおかしな動きをしてるやつ」

 

 綾乃と僕は画面を凝視するが、流石にそんな都合良く怪しい人物が「犯人でござい」とばかりに映ったりはしてくれない。

 推理もののように全身黒ずくめの見た目だと分かりやすいのだが。

 

 映像を見ていると、トイレに入った男子生徒もすぐに出てきた。

 やはり何も怪しいところはない。

 

「流石にこの数分で都合良く協力者は見つかったりはしないだろう。でも、俺達にはここで延々見張っているような時間はない」

「それも織り込み済よ。ここで防犯カメラの画面を起動したまま、リモート接続アプリを起動させる」

 

 綾乃はそう言いながら別のアプリを起動させる。

 ユーザ名とパスワードを入力すると画面の隅に赤い縁が表示された。

 

「こうやっておけば、いつでもスマホやパソコンから学校外からは見られない防犯カメラの映像にいつでもアクセス出来るってわけ。しかも防犯カメラは48時間常時録画されている」

「暇な時にチェックすれば良いのか」

「そういうこと」

 

 映像を見ていると巡回していたであろう中年男性の国語教師、鳥飼(とりかい)先生がトイレの中に呼びかけた。

 その後に誰もいないことを確認して出入り口にテープと張り紙を張っているのが見えた。

 

 張り紙には「キケン! 立入禁止」と書いてあるのが読み取れた。

 

「これ何をやってるの?」

「トイレの中へ入れないようにしているとしか……」

「トイレの何が危険なわけ? もしかして中にモンスターでも湧いてる?」

 

 綾乃の推理が正しければ、鳥飼先生も廊下に溢れる正体不明の「何か」を視認出来るということになる。

 やはり「神父」の協力者なのだろうか?

 

「いや、少し待ってくれ。怪しい人物は警察とか消防がすぐに帰るよう仕向けたいんだよな」

「上戸さんの推理だとそうね。私もそう思ってる」

「じゃあダミーにどういう理由を用意すると思う? 旧校舎へ近付けたくないってのは大前提として」

「旧校舎では建前上は工事をやっているんだよね。だからガスが出たという話になれば真っ先に工事でミスったと疑われるのが自然」

「だから、旧校舎には行かせたくないなら、本校舎の方で目立つ原因を作らなきゃいけない」

 

 小森君がそう言いながらモニタに映る鳥飼先生とトイレの張り紙を指差した。

 

「ガスが出そうなのは科学室や調理室を考えていたんだけど、トイレが原因ってのも考えられるかなって」

「トイレね……掃除の時に混ぜちゃいけない系の洗剤2種類が使用されたとか?」

 

 小森君の説も有りそうだ。

 その場合も鳥飼先生が協力者ということになる。

 

「つまりこういうことですね」

 

 友瀬さんの前に半透明のコンソールが複数表示された。

 頭上でパラボラアンテナのような物体が回転を始めると、そのコンソール上に様々な情報が表示される。

 

 ぼんやりとではあるが、鳥飼先生が封鎖したばかりのトイレを外から見た映像が映し出された。

 

 能力の問題なのかそこまで鮮明な映像ではないが、何が起こっているのかを確認するには十分だ。

 

「もしかして防犯カメラの映像チェックなんてしなくても、最初から友瀬さんに頼めば早かった?」

「いえ、今回は調べる場所が分かっているから出せるだけで、どこにいるか分からない相手は見付けられないですよ」

 

 映像がトイレの中に移動していくと、床に金属の缶が倒されているのが見えた。

 アルゴスが中継する映像では何の缶なのかまでは分からないが、何かの薬品が入っているようにも見える。

 

 虫や這い回る影などの謎の「何か」については廊下と同じで特別数が多かったり、サイズが明らかに違う個体が紛れ込んでいるなどの違いはない。

 

 小森君が言うところのガス説の方が有力そうだ。

 

「こんなのでガスが発生するかな?」

「もう生徒が何人も体調を崩しているって事実があるんだから、実際にガスが出るとかどうでも良いんじゃない? あとは多くの人が納得出来る説明を付けるだけ。小森説が当たりかな」

 

 映像はトイレから離れて元の廊下に戻った。

 講堂とも職員室とも違う方向へ歩いていく鳥飼先生へとズームされる。

 

 コンソール上に映る鳥飼先生の後ろ姿のすぐ横に「能力なし」「人間」の文字が表示された。

 

「もしかしてこれってゲームみたいなステータス表示が出来るの?」

「そ……そうみたいですね」

 

 友瀬さんが表示されるコンソールを見ながら他人事のように言った。

 実際、友瀬さんもこの能力について全てを理解しているわけではないのだろう。

 

「他に何か出せないの? 考えているところとか弱点とか」

「弱点ってなんですか?」

「『ブフに弱い』とかそういうやつ」

「ど、どういうことなんですか?」

 

 綾乃の無茶ぶりを受けた友瀬さんが何やら操作をするがそれ以上何も出てくることはなかった。

 ゲーム的なステータス表示も出ない。

 

 あくまでもアルゴスの目が見た情報を表示できるだけなのだろう。

 

「それでどうする? 鳥飼先生が怪しい方向で進める?」

「科学室や調理室には防犯カメラは届かないんだよな」

「残念ながら。友瀬さんのアルゴスなら追跡できそうだけど……」

「友瀬さんに長時間監視をさせるわけにはいかない。鳥飼先生という候補者が見つかっただけで良しとしよう。答え合わせは後で警察がやってくれる」

 

 小森君の言う通りだ。

 後は当初の予定通り、防犯カメラの映像を見ながら判断しよう。

 

「結構時間が経ったし、そろそろ講堂に行こう。クラス委員が首を長くして待っていそうだ」

「それでこの後はどうする? 旧校舎の地下に行くなら事前の打ち合わせを集まってしておきたいけど」

 

 打ち合わせは確かにやっておきたい。

 ただ、学校を早退しているのにイオンのフードコート辺りに集まるのも少し気が引けるし、親からも怒られかねない。

 それに、先生に見つかったら後で色々と言われそうだ。

 

 少し考えて、一応勉強をしているということにすれば怒られないのではと気付いた。

 

「図書館はどうかな? 授業が中断になったけど、試験が近いから自主的に勉強はしてましたと言えば親も反対しないと思う」

「先生達に見つかっても言い訳も立つってことね。勉強してましただと文句も来ない。小森と友瀬さんもそれで良い?」

「もちろん」

「わ、私も行きます」

 

 否定意見もなかったので、一度帰宅した後、図書館に集まろうということになった。

 僕達は新聞部の部室を出て講堂へ向かった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 図書館に集まったという小森くん達から連絡があった。

 鳥飼なる教師が隠蔽に関わっている可能性が高いという話は気になる。

 

 仮にも社会的地位のある大人が何のメリットもなしに、そんな幼稚な隠蔽工作に関わるだろうか?

 

 何らかのリターンがあるものと考えて、ただの教師がそれらを実行する動機としてはどんなものが考えられるだろうか?

 

 教育委員会だかなんだかにバックがいて昇給や昇進など直接金銭的なメリットがある?

 矢上君のような超常的な能力が与えられる?

「神父」からの単純な連想であるが、宗教的な組織があり、その中でのランクが上がるなどだろうか?

 

 調査はそういうアプローチで進めていくのが良さそうだ。

 

「その鳥飼って教師が厄介だな。旧校舎の見張りを任されているかもしれない」

『それについては柿原が良い作戦を思いついたらしいので、それを実行予定です。新聞部の底力ってのを見せてくれるとか』

「分かった。ただ、くれぐれも慎重に行動して欲しい」

 

 俺が手を貸せない以上は小森くんや柿原さんを信頼するしかない。

 くれぐれも無茶はしないようにお願いしたい。

 

『それでラビさんの方はどうですか? 折戸先生の本から何かわかりましたか?』

「内容については伝えておいた方がいいな。旧校舎地下にある遺跡と関係する話だ」

 

 元々情報は共有するつもりだった。

 これから旧校舎の地下に赴くならば尚更必要な情報だろう。

 

「折戸教授の研究テーマは著書を読んでみてわかったけど、世間的には『異端』と呼ばれる内容だ」

『異端というのは?』

「まあ平たく言うと、日本の古代史にはほぼ中国が関係しているんだけど、折戸教授は中国以外の太平洋側の海からやってくる全く別の勢力が有ったという説だ」

 

 中国は古代から日本への移動には冬になると大荒れになる日本海を避けて、黒潮に乗って太平洋経由で移動していたというのはそれなりに有名な話だ。

 この移動ルートは古代の古墳時代から使われており、それが伊勢や熊野の天孫降臨……海の向こう側から神の子が降臨して支配したという古事記にも書いてある話の元になったとも言われている。

 

 伊勢湾には平安時代までは国際貿易港があり、三重県の「津」の由来も港を意味する言葉であり、それくらい頻繁に中国からの船が伊勢湾に入ってきていた時代があったのだ。

 

 折戸教授の学説が「異端」なのは、黒潮に乗ってやって来た勢力は中国以外にも有ったが、大和朝廷と中国の連合軍に破れて歴史の闇に消えたというものだった。

 

「教授と大学チームは、こうした太平洋……海からの来訪者が作った国の1つが熊野だと考えた」

『熊野ってどこでしたっけ?』

「本州最南端の潮岬から少しずれたところ。和歌山、奈良、三重の県境あたり」

 

 そう説明するとおそらくスマホで地図アプリを起動したのか電話の向こうでワイワイと言っている声が聞こえた。

 

『歴史の授業はわかりましたけど、それと俺達の学校の地下と何の関係が?』

「太平洋側から来た勢力と言っただろう。だから、和歌山だけじゃなく、日本列島の太平洋側はほぼ全てが対象だ。鹿児島や高知、静岡や房総半島にも海外勢力が上陸して拠点を作っていたと想定している」

『つまり、横浜……三浦半島にも開国シテクダサーイと来ていた可能性があるってことですよね。ペリーみたいに』

 

 分かってくれたようだ。

 年代こそ違えど日本にとっては黒船来航だ。

 

「古代の関東地方にはまだ源頼朝の鎌倉も徳川家康の江戸もなかった。なので、連中は三浦半島に到着してから最寄りの山の中……次元境界のある磐境に古墳を作った」

『そういえば、折戸先生が日曜日にハイキングに行くって言っていました。金沢文庫の近くに岩に囲まれた切通があるって』

 

 小森くんに代わって矢上君が答えてくれた。

 それはもしかすると、折戸教授は地方の高校に移っても、まだ自分の研究を諦めていないということではないだろうか?

 

『もしかして折戸先生も何かこの事件に関係している?』

「状況だけ見るとそうかもしれない。地下に行く時は鳥飼先生だけではなくて、折戸教授の動向にも注意して欲しい」

『はい、注意しておきます』

 

 敵ばかり増えて大変だろうが、何とか頑張って欲しい。

 では、最後のヒントだ。

 

「ともかく、海の向こうから来た連中が日本列島の太平洋側に拠点を作りまくったってことは分かったよな。問題は、この連中がどこから来たかだ。ここに攻略のヒントがある」

『中国以外の海の向こう側から来た勢力なんですよね。インドネシアとかオーストラリアですか?』

「いや違う。全く信じられないと思うけど、連中の出所は教授の説によるとムー大陸だ」

 

 おれがそう告げると電話の向こう側でどよめきが走った。

 

『ムー大陸ってオカルトですよね』

「俺もそう思った。教授は何か妄想に囚われてるんじゃないかって。だけど、教授の著書を読んでいると信頼せざるを得ない写真が載っていたんだ。ムー大陸が事実かどうかはともかくとして、俺や小森くんなら地球に存在しちゃいけないと一発で正体が分かるものだ」

『俺とラビさんなら一発で分かるということは……異世界関係ですか?』

 

 流石に勘が良い。

 鞄の中から教授の著書を取り出して該当ページをカメラで撮影。メールで送信する。

 

「和歌山県の遺跡で発掘されたという石像の写真なんだけど、俺と小森くんはサンディエゴで伊原さんに全く同じ像を見せてもらっている。なんならこいつの実物とも戦っている」

『サンディエゴで見せてもらったってもしかして……』

「そうだよ。ゾス=オムモグの像。旧校舎地下にある遺跡を作った連中は、こういう邪神を崇めていた勢力だ」

 

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