鳥たちが洞窟の奥から金の腕輪を抱えて戻ってきた。
大きな宝石が埋め込まれた純金製の腕輪だ。
これは水源である洞窟の奥にある水たまりの底に沈んでいたものだ。
芸術や工芸品にそれほど詳しいわけではないが、装飾が日本古来のものや近年のブランドとは全く異なるのは素人目に見ても分かる。
緻密な彫刻は、どこかの博物館で展示されていてもおかしくなさそうな一品だ。
真新しい古代の秘宝という矛盾した表現が脳裏に浮かぶ。
先輩たちが俺たちと同じ、ペルー発でサンディエゴまでの旅をしたのならば、途中で宝を手に入れていてもおかしくはない。
「これ一つだけだということはないだろう。とりあえず水たまりに沈んでる人工物を全部拾ってこい」
鳥たちに命じて再度洞窟内に潜らせる。
少し待つと、今度は両足一杯に様々なものを抱えて運んできた。
金の指輪、宝石、金貨。
南米、黄金の国エル=ドラドを通過しているからなのか、やはり金の装飾品がやたら多い。
宝物以外にも謎の金属バッジ、見慣れた銅のメダル、水に長期間浸かっていたからか錆びたナイフなどが運ばれてきた。
最後にはそれらの宝の出所を証明するように、麻らしき植物を編んで作られたナップサックの残骸が運ばれてきた。
底が破れて袋として機能していないのは、おそらく洞窟内の尖った岩か何かに鞄の底を引っ掛けたのだろう。
水たまりの中に大量に色々なものが沈んでいたのは、そのせいに違いない。
ここからは完全に想像だ。
帰還者2人が向こうの世界から日本に戻って来た時、出口はこの洞窟の中だった。
その際に、帰還した最低2人の先輩たちが持っていたであろう袋が破れて、中身が水の中にぶちまけられた。
ある程度は回収出来たのかもしれないが、洞窟内は明かりがないために水底に沈んだ小さい宝石類までは回収出来なかった。
そうやって紛失したものに含まれていたもののうち、軽いカードだけが流されて下流に八千代さんが仕掛けている金網に引っかかった。
細部は違っても、この推測はそこまで大きく外れてはいないと思われる。
先輩たちが向こうの世界から持ち帰ったお宝。
指輪などは純金のようだし、腕輪にはめられた巨大な宝石は国宝レベル。
全て売ればそれなりの金額にはなるだろうが、元は先輩たちの持ち物だと考えると、落とし物は返すのが筋だ。
ネコババすれば小森くんの学費の足しにはなるだろうが、所有者が分かっているのにそういうことはしたくない。
小森くんの方も、出所がそういう金ならば受け取るのを嫌がるはずだ。
本当に俺たちは損な性格をしている。
金目のものではないもの……例えばバッジなども当人たちには大切なものなのかもしれないので、一通り持ち帰って、後で当人達に選別してもらうつもりだ。
裸のまま置いておけないので、鞄から巾着タイプのビニール製エコバッグを取り出し、回収した宝をまとめてその中に入れて洞窟の脇に置いた。
それなりの重量があるので風に飛ばされてしまうことはないだろう。
帰還者の問題はとりあえず置いておくとして、まずは喫緊の問題を解決する必要がある。
鳥からLEDライトを回収。
手に持って洞窟を進んでいく。
水源である水たまりを越えてほんの数メートル歩くと、硬い岩盤が立ちはだかり進路を阻んでいた。
――終わっているように見えた。
少なくとも肉眼では行き止まりにしか見えない。
松明や、一昔前は主流だった電球式の懐中電灯の光では、洞窟内を照らしきれず、先には何もないと判断したに違いない。
だが、今は違う!
現代の高照度LEDライトが作り出す強烈な光は暗い洞窟内を昼間のように照らし上げた。
その光によって影が岩の壁を突き抜けるという不思議な動きを見せてくれた。
足元に転がっていた小石を掴んで壁に向かって投げつけるも、跳ね返ることはなくそのまま奥へと消えていった。
「つまりはただの幻影。実際には存在しない」
視覚情報を無視して歩みを進めると、何の感触もなく壁の奥へと突き抜けた。
幻影の岩盤を抜けた先にあったのはおそらく手彫りで正方形に削り出された空間だった。
幅や奥行き、それに高さ。全てが目算3メートルで統一されている。
古墳の玄室的なものか。
床には円や直線を組み合わせた何やら幾何学模様の溝が彫り込まれており、使い魔の目で視ると溝からはわずかに光が放たれている。
もちろん、その幾何学模様の溝は高度な3Dレーザー投影技術などが仕込まれたハイテク機器には見えない。
科学ではなく、魔術的な仕掛けが施してあるのだろう。
日向神話や古事記や日本書紀に出て来る高千穂の伝承と何か関係あるのか?
気にならないと言えば嘘ではあるが、一介の新人サラリーマンが貴重な余暇を潰してボランティアで解明する謎でもない。
本日の俺のタスクは先輩の所在とまっくろくろすけたちの出所の解明だけだ。
それ以外は欲張らないことにする。
「魔法陣は放置のままでいいか。下手に一般人が迷い込むのを防ぐことが出来るわけだし」
一番奥の壁はスライドドアのような構造になっており、半開きの扉の先には更に下方向へ続く階段が続いていた。
玄室が墓だと仮定すると、水源である水たまりから流される水で穢れを浄化。
扉の向こうにある階段を下って死者の国……根の国へ至る。
そんなところか。
「ならばこの先にいるのは地獄の主か。閻魔様だかアヌビスだか」
LEDライトを照らしながら階段を降りていく。
「まさか現代日本に帰って来てもダンジョンへ潜ることになるとは思わなかったけど」
以前に潜ったことがあるホンジュラスの
それに対して、ここは人の手は最小限に天然の空洞をそのまま利用した構造のようだ。
近いのはタウンティンの海岸近くにあった
あそこは海蝕洞窟に階段や通路などを整備した、自然環境を生かしたものだったが、そちらとかなり共通する点が多い。
「南米と同じ文化圏……というよりも、向こうの世界の南米と直接繋がっている可能性の方が高そうだな」
白いやつが異世界のことを知っているというのは、次元を越えた通信能力を持っているのではなく、実際に往来できていたと考える方が自然だ。
おそらくこの通路の先には次元の境界……まさに
先輩たちはその端境を利用して日本への帰還に成功した。
これならば全ての理屈は通る。
床面には上の水源から流れ出した水が常に流れている。
地上を歩いていたら靴も靴下も水浸しだっただろうし、足を滑らせることにも気を付ける必要があっただろうが、今は箒に乗った状態で浮遊しているので何の支障もない。
それでも水が流れているからか、洞窟内の温度はかなり低い。
冷水が天然の冷蔵庫として機能しているおかげだろう。
コケやカビもほとんど生えておらず、悪臭などはほとんどないのはありがたい。
もちろん、寒くてたまらないという別の問題もある。
早く解決して帰りたいところだ。
長い階段を降り切ると、今度は横向きの通路になった。
先の方からは淡い光が差し込んでいるように見える。
「さて、最深部には何が待っているのやら」
これほどのまっくろくろすけを垂れ流しているのだ。
奥には何があっても不思議ではない。
別の世界に繋がるゲート?
それとも俺の想像を超える何か得体の知れない存在?
その答えはすぐに明らかになった。
◆ ◆ ◆
「やあ」
洞窟最深部で俺を待ち構えていたのは巨大な黒くて長い毛を持つ四本足の生物だった。
現代の地球に現存するどの動物にも似ていない。
ただ、頭部から生えた樹木と見間違うくらい無数に枝分かれした巨大な角からは山羊、もしくは鹿との類似性を見出すことは出来る。
山羊と呼ぶべきか、鹿と呼ぶべきか?
体長は5メートルほど。
胴体はまるで触手のような黒くて長い毛に覆われており、その毛から黒い水のようなものが滴り落ちている。
地面に落ちた雫はボコボコと音を立てて泡立ちながらまるでアメーバのように動き回り、それがいくつか集まってある程度の大きさに育ったところでヘドロ状のまっくろくろすけとなり動き始める。
近くを水源からあふれ出した清流が流れているのでマシではあるが、獣からは強烈な腐敗臭が漂ってきている。
間違いない。
こいつにこの世界から消えてもらわないことには俺の目的は果たされないようだ。
ただ、今の挨拶から考えて言葉は通じるようだ。
出来れば戦闘なしで説得により穏便に退去いただきたいところではある。
「人間を見るのは久々だね……いや、君も純粋な人間ではないようだ」
まあこの謎の生物の言う通り、自分が真っ当な人間でないことくらいは分かっている。
普通の人間は箒で空を飛んだり鳥を喚び出したり全身からゲーミングカラーの光を放ったりしない。
男だか女だかよく分からない生物でもないからだ。
俺はまだ一応人間のつもりではあるが、本質的には目の前にいる存在と大差ない
「貴方も純粋な鹿ではないようですが」
「鹿などと一緒にされるのはいささか不満ではある」
「失礼いたしました。トナカイですよね」
念のために確認してみる。
こいつはおそらく何か偉そうな肩書き付きの邪神だったり神話生物だったりするのだろう。
この手の人間のイメージのフィードバックを受けて生きてるような存在に
雑に扱って矮小化させるのが有効な対策だ。
人間の恐怖心を糧とする邪悪な異次元からやってきた魔神を下水に住んでるクソ映画を勧めてくる変なおじさん扱いして無力化させるようなものだ。
ということで決めた。
こいつはただの喋るトナカイだ。
私がそう判断した。
「そうだよトナカイだよ。サンタクロースを知らない? いや、私も別にサンタのそりなんて引いたことないんだがね」
トナカイ? はヤケクソ気味に答えてくれた。
本人が認めた以上はトナカイ扱いで良いだろう。
「クリスマスも済んで世間は新年一色ですが、最近は如何ですか?」
「最近が冬至だったし、陽が落ちるのが早いな。この時間だというのに気分と同じでいつも真っ暗。ゲーテの心情だよ」
「『もっと光を』は今際の際の言葉なんですが、体調不良なのですか?」
「最近は運動不足で良くないな。この地上でわずかばかりの喜びや微かな幸福の光を楽しむことができないのは閉口だ。われわれの本性は、怠惰へ傾いているとはいえ」
「スポーツなど如何ですか? 活動へと心を励ます限り真の悦びを感ずるとも言います」
「ならば、そり以外のスポーツでも始めてみるか。ボブスレーとか」
こちらの突拍子もない話に反応して小粋なジョークを返してくるあたり、単に毛のないサルの猿真似をしているわけではない。
それなりの知識と知能を備えていることは分かる。
何故、喋るトナカイがこんなところに閉じ込められているのか?
それを把握することが先決だ。
「それで何の用事で魔女がこんなところまでやってきたんだい? 力が欲しい……ってわけじゃなさそうだね」
「サンタならともかくトナカイにプレゼントを貰うってのは何か違う気がしますので結構です」
「でも何か欲しいもの、望むものくらいあるんだろう。言ってごらん。私は力だ。常に悪を望みつつ、常に善をなす」
メフィストフェレス気取りなのか知らないが、本当に頭の回転が早い奴だ。
「やあ旦那。飛んだご無礼いたしました。蹄を隠していらっしゃるものだから、どこの有象無象のトナカイかと」
「何か俺にできることがあるんだったら、ヴァルプルギスの夜に遠慮なく言ってくれ」
ファウストで魔女から秘薬を受け取るメフィストの下りか。
何のネタを振ってもすぐに返してくるのが厄介すぎる。
その必要はないわと返したいが、欲しいものを聞きたいようなので、一応答えておこう。
「城崎温泉のカニ付き宿泊券を。もちろんタラバや紅じゃなくてタグ付き松葉ガニをお願いします」
「カニ? いや、そういうのには対応していないんだが」
万能のように語っておきながら、いざこちらから頼みごとをすれば急にこの塩対応である。
JTB旅行券のプレゼントすらできないとは使えないやつだ。
まあカニ一杯5万はトナカイと言えども渋って仕方ない金額だ。
ならばこちらもプライスダウンで対応しよう。
「すぐに欲しいものだとコーラでしょうか? 500ミリのノンシュガーじゃないやつ」
「この寒い中コーラ?」
「そこをあえてコーラで」
「赤いラベル?」
「この際青いのでもOKです」
「トナカイというかサンタが赤以外を出したら、もうそれは戦争だよ」
ダメ元で言ってみたが、どうも反応は渋い。
「どちらも無理だよ。まあ分かっていたけどね。私を前に畏れも敬いもせず会話している相手に普通の反応なんて期待できないって」
「普通の反応のつもりですが」
「常人の対応という意味だよ。ややこしいけど」
どうやらトナカイには別にコーラを超能力などで取り出せるような自販機的な能力があるわけではないようだ。
結果はともかくとして、これで会話のきっかけは作ることが出来た。
今度はこちらの質問ターンだ。
「何故こんな洞窟の地下におられるのですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
そういうとトナカイは待ってましたとばかりに歌劇のように大げさに快哉を叫んで大きく首を振った。
角が大きく振れて風音が鳴る。
「この洞窟は次元の境界になっているようでね。ちょくちょくこちらの世界へ遊びに来ては、出会う人間の願いを叶えたりしていたんだ。神様ごっこだよ。迷える子羊よって」
羊というか山羊はお前だという無粋なツッコミは喉元で堪えた。
「ということは、ここを作ったのはあなたではない?」
「そうだよ。私が来るよりも前に他の誰かが住んでいて、そいつを敬う誰かが作ったんだろうね」
そう聞いて少しだけ安心した。
このフランクなトナカイが日本創世神話に関わっているとなるともう色々と台無しである。
つまるところ、アナグマの掘った巣穴に住み着くゴミパンダのような特定外来種という解釈で良いだろう。
「失礼なことを考えていないかね? ゴミがどうのとか」
「気のせいです」
「それならいい、何日か前から元の世界に帰ることができなくなったみたいなんだ」
トナカイはそこまで軽快に話した後に言葉を突然に切った。
目をつむると同時に、胴体の毛の下に隠れていた数え切れないほど多くの目と口が一斉に開いた。
面白い構造をしている。
「やったのは貴様か?」
トナカイは殺気がこもった凄みのある複数の口から一斉に声を上げた。
セルフ輪唱と共に、同時にどういう原理なのか勢い良く生臭い風が吹きつけてくる。
風が吹く=空気が動くということなので、俺の見えない魔力的な「何か」を放っているようだ。
ただ、魔力を視認できない俺には何が起こっているのかさっぱり分からず、反応に困るのが欠点だ。
怒りに我を忘れて理性を飛ばしているようには見えない。
それなりの知恵と知能を兼ね備えたトナカイが、貴重な情報源である俺に対して無意味な暴力を振るうつもりなどないだろう。
ここで俺を傷つけたり殺したところで、得られるものは何もないからだ。
その上で、威圧による脅しには効果があると考えている。
ならばこちらは何も恐れることはない。
淡々と対応するだけだ。
むしろ怯えることで、威圧することに効果があると思われるとどんどんエスカレートするだろう。
「私ではなく先輩がやったことです」
「そいつは何故そんなことをした?」
「ナイアルラトホテップという邪神をご存じですか?」
邪神の名前を出すと、トナカイが放っていた気配が急に収まった。
「
うんざりするような言い回しから、ニャル子はトナカイにまで悪名が轟く常習犯だったと分かった。
いや、まあ知っていたけど。
「多次元から向こうの世界へ攻撃を仕掛けたせいで次元が崩壊しかけたそうです」
「私の知らないところで、そんなことが起こっていたのか?」
割と騒ぎになっていたはずだが、このトナカイは知らなかったのか。
そう考えると、このトナカイも万能とは程遠いのかもしれない。
「放置していると、今度こそ世界が壊れると次元の壁を修復して向こうの世界を隔離したということです」
「何故そんなことを知っている?」
「本人から直接聞きました」
「本人とは? ただの人間にはそんなことは出来ないだろう」
「先輩は邪神……夢の魔女イートラーと名乗っていました」
トナカイは胴体の目や口を閉じた。
そして元のトナカイの頭の部分に付いている目を開いて大きくため息をつく。
同時に先程までの穏やかな気配が戻ってきた。
「イートラーも知らない関係ではない。直接交渉したいが、何とか連絡を取る手段はないかね?」
「一応メールを送ってみますね。これで連絡がつくか、返信してくれるかは別の話として」
スマホを取り出して以前に伊原さんから送られてきたショートメールに対して返信を試みる――試みようとしたが、さすがに地下まで電波は届かないようだった。
仕方ないので鳥にスマホを持たせて地上まで飛ばし、再送信を試みることにする。
1羽はスマホを支える係。
もう1羽はメール送信の操作を行う分担だ。
「便利になったものだな。手のひらに収まるような小さな道具で別の世界に居る相手と交信できるとは」
「この道具自体に次元を越えて通信する機能なんてないですよ。連絡が届くのは相手の能力のおかげです」
「そういうものか? いや、そういうこともあるのか。ただの電気信号が次元を越えるのは、どういう原理だね?」
「どういう原理なんでしょうね?」
地上に送った鳥の視界でスマホの画面を確認するとメールは無事に送信出来たようだ。
伊原さんはこちらの世界にはなるべくかかわらない宣言を出しているし、その上でずぼらな性格だ。
向こうの世界の時差も考えると、こちらからメールを送ってもすぐに読んで対応してくれるとは限らない。
今のところトナカイには平和裏にこの世界から退去いただける流れではある。
それでも伊原さんと連絡がつかない場合は、俺がここで銀の鍵を使ってヨグ=ソトースを召喚し、このトナカイを送り返すことも考える必要があるだろう。
この邪悪そうなトナカイを向こうの世界に送って良いのかは全く別の問題としてだ。
「最近は、人間はその電気信号を出す機械で通信するのかね?」
「主にこれですね。ただ、携帯電話が通じない地域だと昔ながらの無線機を使うようですが」
「電話と無線機は知っているが、この何年かでずいぶんと変わったものだね。私も電気信号の使い方を覚えないと」
そうして5分待ち、10分待ち。
もう返信はないだろうと諦めようとしていた時に、スマホにメール着信を示すランプが光った。
『何があった?』
どうやらこちらからのショートメールを読んで反応してくれたようだ。
鳥をもう1羽送り出し、電波の届く場所でスマホを操作させて今の状況を簡単にメールで報告することにする。
「そちらの世界と日本を往来していたトナカイが次元の壁修復の影響で取り残されてしまい、穢れを垂れ流している」
ややあって返事が返ってきた。
『トナカイ?』
どうやら目の前にいるトナカイが何なのか伝わらなかったようだ。
「現在位置は高千穂の洞窟の最奥。黒くて長い毛と無数に枝分かれした木のような角を持つ大山羊。胴体に目や口が付いてる」
トナカイの外見を改めて確認しながら、特徴をメールで送信する。
『黒い大山羊なら最初からそうと言え。今から行く』
どうやら対応していただけるようだ。
ありがたい。
「今からこちらに来るそうです」
トナカイに伝えると、呆れたように首を振った。
表情豊かなトナカイだ。ちょっとかわいく見えてきた。
首のあたりの毛に手を突っ込んでもふもふしたい。
「私が言うのも何だが随分と無法だな。世界の法則も何もあったもんじゃない。次元間を移動するってとんでもないことなんだぞ」
「私もそう思います」
次元間の移動がとてつもなく大変なのは、向こうから日本に帰還した俺も実感している。
ちょっとコンビニに行ってくる感覚でホイホイ移動する伊原さんがおかしいだけだ。
「ところで、再度問うが、何か願いはないかね?」
「だから、コーラを出してください」