遺跡の入り口が開いてもやることは基本的には同じだ。
俺自身は危険回避のために入口で待機したまま、次々と鳥の使い魔を喚び出して淡々と調査を行うだけ。
先陣を切る係、ライト係、カメラ撮影係と役割を決めてどんどん調査を進めてもらう。
人間ズボラが一番だぞ。
遺跡内部は日本で発見されたどこの古墳とも似つかない構造をしていた。
あえて似ている場所を挙げるならば異世界のホンジュラスで訪れた
エジプトのピラミッドや王家の墓などと言い換えても良い。
かなり高度な技術によって切り出された巨石を積み上げ、組み合わせて壁や天井、床を形成している。
古墳は基本的に柱を立てていた穴や水路の溝などの過去に建造物の址が残っているだけにすぎない。
棺桶を格納するために作られた玄室なども遺体を収められるスペースと、それが押し潰されないような囲いがあるだけだ。
埼玉の吉見百穴もだいたい同じで、規模こそ巨大ではあるが、1つ1つの穴は棺桶1つ分しかない。
それに対してここの遺跡は明らかに中で人が住むための構成になっている。
太陽光線に弱い、気候の変化に適応出来ないなど表に出られない理由が何かあったのか?
地中に潜っている一族だから付いた蔑称が土蜘蛛。
直球で分かりやすいネーミングだ。
「確かにこれはムー大陸なんて言葉が出て来てもおかしくないよな。文化が違いすぎる」
もちろんムー大陸が実在して、その末裔が遺跡を作ったなんて思ってはいない。
別の次元の人間が日本へやってきて何かをやっていたのだろう。
そして、昔の日本人と対立した結果、熊野のえらい人達によって滅ぼされた……ということか。
地下の様子は鳥達に持ち込ませたコンデジで撮影をしていく。
フラッシュ搭載なので、暗い場所の撮影でも安心だ。
何枚か適度に撮影したところで一度地上へ戻らせてデータをスマホからクラウドストレージにアップロード。
転送が終われば再度突入。
鳥達にはブラック労働を強いて悪いとは思うが、俺の安全のために頑張ってもらいたい。
何度目かの撮影をしたところでスマホに着信があった。
優紀や小森くんからと思ったが、電話はカーターからのものだった。
一度調査を中断して電話を取ることにする。
『お前、一体何の遺跡を掘ってるんだ? 俺達の連絡用共有フォルダにとんでもない写真がガンガン流れ込んできてるんだが』
開口一番に俺がアップロードした写真の話をされた。
クラウドストレージは異世界からの帰還者の連絡用として俺が用意したもので、メンバーなら誰でもアクセスが可能にしてある。
そこに新規の写真が大量にアップロードされていることに気付いたのだろう。
「奈良県の御杖村だ。ここに折戸教授が発掘しようとしていた旧支配者の遺跡がある」
『ちゃんと撮った写真の中身をちゃんとチェックしてるのか?』
「してない。データ紛失に備えてガンガンクラウドにバックアップを取ってるだけだ。調査を終えてから振り分けるよ」
そう答えると電話の向こう側からため息のようなものが聞こえてきた。
『人骨だらけのグロ画像祭りになってるぞ。ちびっ子達が見たらどうするんだ。何が写っているのかはチェックしてからアップロードしろよ』
改めてアップロードした写真を確認すると、レルム君とドロシーちゃんが撮影した微笑ましい日常のスナップ写真に混じり、異様に後頭部が長い頭蓋骨を持った異形の人骨が複数混入していた。
経年劣化による損壊が激しくてはっきりとはしないが、胴体部分には革で作ったような鎧を着ていたであろう痕跡や、そこに突き刺さって折れた両刃剣の残骸も見られる。
誰だよ綺麗な花畑にゴミを投げ込むようなことをしたのは?
……俺だよ。
「ありがとう。子供達も閲覧できるということはすっかり失念していた。起きてくるだろう朝までには消しておく」
ともあれ、2千年前に昔のえらい人が交戦して打ち倒した土蜘蛛一族の亡骸と考えて間違いなさそうだ。
「でも紀元前にこいつらは金属を使っていたのか」
『パラカス人って知ってるか』
カーターが突然によく分からない話をしてきた。
パラカスの名前を聞いた途端に脳内でデデーンというSEが鳴り響く。
「ブロリーのオヤジのことか?」
『ブロリーってなんだよ。古代ペルー……インカよりもはるか昔に住んでいたと言われる後頭部が異様に長い人類とは別の原人種だ。それと写真に写っている連中はそっくりだ』
社用携帯がポケットに入っていたので「パラカス人」で検索してみると、確かにコンデジで遺跡内を撮影した写真に写っている人骨と瓜2つのものが複数表示された。
『発見されたペルーの遺跡でも地下に穴を掘ってその中で暮らしていたらしい』
「特徴は一致しているな」
『メソポタミアやエジプトでも似たような頭蓋骨が発見されていて、こいつらが今のホモサピエンス以前に地球を支配していたという説もある』
「まさに旧支配者ってわけか。でも、なんでこんなのが日本にいるんだ?」
『その頭蓋骨はペルー……つまり、タウンティンで発見されているんだ。分かるだろ』
そう説明されて気付いた。
こいつらがいた2000年前は、まだマチュピチュも地母神の遺跡も現役だったはずだ。
そこを使って日本へ転移してきた連中がいてもおかしくはない。
「ということは、例の地母神の遺跡や
『邪神信仰も含めてな。次元を越えて邪神の信徒が侵略にやってきたんだ。対抗勢力なんていないはずの古代日本に』
この土蜘蛛一族はどこか次元との境界線が薄い場所からこの地球……日本へ侵略のために攻めて来た。
そして太平洋沿いに移動したり、そのまま北上したりで次元との境界が薄そうな場所に拠点を作りながらここまで侵略してきたのだろう。
「出身地が違うだけの普通の人間だと思ったけど、完全に別の亜人種とか予想外だな。しかもエルフでもゴブリンでもない謎の亜人種だ」
『問題はそいつらが遺跡で何をやろうとしていたかだ。単に住むだけなら山の中にこだわる必要はない。どこでも平地のもっと住みやすい場所に穴を掘れば良いんだから。おそらく他の次元に繋がる場所で何かをやりたかったんだ』
「その答えはすぐに分かりそうだぞ。鳥達が怪しい場所を見つけた」
通路を進んでいるとそこには横開きの石の扉が有った。
そこには岩に紋様……五芒星の中央に目玉がのようなものがある絵が描かれていた。
俺も頻繁に……本来の用途とは異なる使い方をしているが、これは本来の目的通り。
外なる神などの力を弱めて封印するための魔法陣、
ただ、絵の雰囲気が何か違う。
旧神の印は少し傾いた五芒星だが、これは綺麗に線の長さが同じの五芒星だ。
墨で描かれたようで、隅には何やら漢字のようなものまで書かれている。
鳥達に撮影させた後に地上でカメラを回収。
それらについても撮影してクラウドにアップロードする。
「何かが封印されていそうなポイントを見付けたが、この亜人種どもの仕業か?」
『自分達を外から封印なんてしないだろう。この遺跡に攻め入った古代人の方だと思うぞ。おそらくその先の地下にあった問題を解決出来なかったから封印に切り替えたとみて間違いない』
そう言われてみると確かに納得の理由だ。
倒しきれなかったので封印。
その上で遺跡を土の下に埋める。
それでこの遺跡は歴史の山に葬られて誰も触るものはない……そうなるはずだった。
『それでここから先はどうするんだ?』
「ご先祖様には悪いけど、この封印をぶった切って遺跡の地下には何が有るのかを見極める。でなきゃ横浜の事件をいつまで経っても解決出来ない」
これは俺が考えていたことだ。
ご先祖様が解決済の遺跡で何か情報を得ることが出来れば、横浜の遺跡も同じような方法で攻略出来ると。
『封印を解けば何が出て来るか分からない。それを理解しているんだな』
「一応勝算はある。ご先祖様も何も出来ずに逃げ帰ったということはないだろう。俺がやるのは2千年越しの宿題だけだ」
『だけど、もし手に負えなければ……』
「分かってる。命を無駄にするようなことはしない。近くの道の駅で優紀を待たせてるからな」
『ってお前、春日さんを連れて来てるのかよ! なんでそんな危険があるかもしれない場所に連れて来るんだ』
「だからこそだ。あいつのところには一切危険が出ないように解決する」
これでカーターとの通話を切った。
ただ、実際のところ勝算はある。
何故ならここは既に制圧済みのダンジョンなので、大した敵は残っていないはずだ。
身を隠すための迷彩色のコートを脱いで木の枝にかける。
ここからは鳥に往復させて調査というわけにはいかない。
敵が出現した時には俺が直接解決する必要があるからだ。
早速地下へ入って高照度ヘッドライトの灯りで遺跡内を照らす。
一応は米軍も採用しているという触れ込みの品を通販で買ったのだが、値段が異様に安いのと、「Made In China」な時点で少し怪しいところはある。
ただ、庶民でも買える値段で性能は十分なようなので使わせてもらう。
石の壁に描かれたもしかしたら国宝クラスかもしれない五芒星を縦一文字に切り裂き、重い石の扉を「よいしょよいしょ」と押して開ける。
「それじゃあ古代ダンジョンのソロ攻略を始めますか」
◆ ◆ ◆
ソロ攻略と言ってもやることは同じである。
鳥を先行させて安全確認を行い、その後ろから
流石に昔のえらい人が制圧済だったおかげで、そこらに朽ち果てた異形の人骨が転がっているくらいで敵はいない。
たまに靴で骨の残骸を踏み潰してしまい、足の底に不快な感触が伝わってくるが、それでも骸骨が突然に起き上がって「我らの眠りを妨げるものー」などと襲い掛かってくるようなこともない。
何のへんじもない、ただのしかばねのようだ。
そもそも生き残っていたものがいたとしても、2千年近く外へ出られることなく、光も水もない閉ざされた環境に封じ込められていたのだ。
降水量が本州トップクラスの大台ケ原に近い場所だというのに天井からは水滴1つ落ちてくることもない。
こんな環境では虫も含めてほぼ全ての生物は餓死しているはずだ。
まともな生物が生存しているということはないだろう。
いるとすれば、ロボやバイオテクノロジー的な技術で作られたであろう疑似生命体くらいだ――
――そう思った直後に超速のフラグ回収が行われた。
先行させていた鳥が天井から襲ってきた何者かに攻撃を受けたのだ。
敵の姿を確認する前に先んじて増幅魔法陣を形成。
有無を言わせず攻撃してくる時点で敵という認識で間違いない。
ならばこちらも相手が準備を整える前に仕留める。
「
天井近くを強化したレーザー光線で薙ぎ払うと黒っぽい塊が両断されて階段へとドスンと落下してきた。
同時にそいつの体液だろうか? 強烈な刺激臭が漂ってくる。
酸か毒か?
何にせよ接近されたら不利なだけだ。
そいつは不定形の身体を震わせて癇に障る高周波……テケ……リリ……と鳴き声ともノイズとも判断しがたい音を立ててこちらに向かってきたが、極光のスキル持続時間は30秒だ。
接近前にレーザー光線で全身をズタズタに切り裂いて処分した。
切り刻んだ残骸はドロドロに溶けて、後には汚れたエンジンオイルのような粘性の液体しか残らなかった。
ただ、元々が不定形の生命体。
スライムのようなものならば、核さえ無事ならば再生する可能性は高い。
明日の出社が面倒だが、認識阻害魔法の効果に期待するとしよう。
スキル3の再使用間隔、1分半を待って久々の魔女の呪いを発動させる。
「鳥3羽を
手に構えた箒の先に低く唸る獣のような咆哮に似た音と共に黒い球体が出現した。
同時の俺の全身から虹色の光が放たれて暗い遺跡内をゲーミングカラーに照らす。
放置していても周囲の生命体を分解して霧へと変えて吸収する仕組みではあるが、いちいち待ってはいられない。
黒い球体を階段下にこぼれたオイル目掛けて直接叩き付けた。
オイルのような不定形の疑似生命体も普通の生命体と同じ扱いらしく、黒い霧と分解されて球体へと吸い込まれた後は跡形も残らなかった。
これならばもう復活することはない。
その後も同様の疑似生命体が二体襲い掛かってきたが、同様の方法で相手に何もさせずに滅殺。
2千年もこんなところで待ち続けた挙句の末路がこれなのはご愁傷様としか言いようがないが、こんな怪しげなモノが表に出て来ても困るので速やかに始末。
先へと進んだ。
◆ ◆ ◆
迷宮最深部で俺を待っていたのは、奇妙な生物のミイラだった。
中央が丸くて先端に行くほど細長いサツマイモのような胴体からは5本の腕が延びており、胴体との間にはコウモリのような被膜が張られている。
頭頂部は更に特徴的でヒトデのような5角形の星のような物体があり、全体のイメージは花瓶に入った花だ。
各部、経年劣化で崩壊しつつある部位には繊維的な構造も見られるので、性質としては植物に近いのかもしれない。
そいつは胴体部分に1mほどの長さがある金属製の武器を串刺しにされて息絶えているようだった。
……息絶えている……よな?
「古代の両刃剣か……これも国宝ものだろ」
柄が日本刀などに比べるとかなり長く、その先端には円形の飾りが付いている。
まだ刀身と刃を別の金属で作る技術はないのか、剣は鋳造の一体成型。粘土で型を作ってそこに溶けた金属を流し込んで冷やして固める方式で作られているようだ。
技術力不足だと不純物が混入しやすくて、その分だけ脆い。
刀身には何かの象形文字が彫り込まれているようだが、こちらは経年劣化により見た目では判読出来ない。
当時としては金属にこれだけの装飾を施すというのは相当な手間と技術が使われているはずだ。
一般兵が使う量産型の武器とは思えない。
謎の敵を倒すためにわざわざ用意したものだと考えられる。
剣は各所は錆びて黒ずんでいるが、2千年という歳月を経てもなお欠けている箇所は全く無い。
ライトに照らされて金色に反射する箇所があることから、素材は金……にしては固そうなので、真鍮か何かだろうか?
とりあえず記録のためにコンデジを取り出してフラッシュを炊いて撮影。
写真はスマホに転送しておく。
地上の電波が届く場所に出たらアップロードしてカーターに見てもらおう。
その後に、謎の敵が突然復活して襲い掛かってこられても困るので遺体は箒の先に浮かんだ黒い球体を叩き付けて粉砕。黒い霧へと変えておいた。
この謎の存在も、先程の不定形……おそらくショゴスと同様に通常の方法では倒せない存在かもしれなかったが、流石にうちの神さんの方が格上だったようだ。
塵1つ遺さず分解されて黒い霧へと溶けて消えたことで、刺さっていた儀式刀がガランと音を立てて床へと転がり落ちた。
ここで熱線のチャージが完了したので、そちらは適当に真上へと放っておいた。
出来た穴は後で土をかぶせて埋めよう。
「今の謎の敵が土蜘蛛一族を仕切っていたとして、わざわざこいつらは次元境界で何をやっていたかだな」
ライトであちこち照らしてみるが、遺跡としてはそこが行き止まりだ。
更に先へ通路が延びているなどもなく、他次元へと繋がっていそうな割れ目などもない。
次元の壁については高千穂と同じく、伊原さんが修復した際に消えてなくなった可能性は大いにあり得る。
足元を見ると、小さい石がいくつも転がっていた。
だが、この遺跡の構成素材に使われているものとは種類が違う石だ。
1つ拾い上げてみると、何か彫刻のように人の手で彫り込まれた跡が見えた。
おそらく元々は石像や石造りの祭壇などがあり、何かの儀式に使われていたのだろうが、昔のえらい人……儀式刀で敵を串刺しにした人がついでに破壊していったのだろう。
そんな小石に紛れて、ライトの光を受けて赤く反射するものがあった。
箒で掃いて石を取り除いて見ると、そこにはうずらの卵ほどのサイズの赤い宝石があった。
例の寄生生物の種が脳裏をよぎって慌てて飛び退いた。
だが、冷静に考えると、寄生生物の卵ならば先程の魔女の呪い発動時に現れる黒い球体によって分解されているはずだ。
ならば少なくとも生物ではないと考えることが出来る。
もちろん、素手で触るとどんな悪影響があるかは分からないのは同じだ。
喚び出した鳥の使い魔に赤い宝石を掴み取らせて目の高さの位置に浮かべて見せた。
元は精巧にカットされていたであろう赤い宝石は一部が欠けて歪な形になっていた。
残った部分も内部に無数のヒビが入っており、全体的に白く濁って見える。
いつ砕けてもおかしくない状態だった。
これは経年劣化なのか?
それとも他の石像などと同じでここを制圧時に破壊されたのか?
保管する方法が分からないので、とりあえず撮影をした後に、鞄からゴミ袋代わりに入れているコンビニのレジ袋を取り出して宝石を中に入れた。
雑な扱いではあるが、今の手持ちの道具で直接触れずに持ち運ぶ方法となると思いつくのはこれくらいだ。
おそらく何かの力が秘められているであろう儀式刀も撮影後に拾い上げたが、流石にこちらは大きくて鞄に入れられるスペースがない。
少し悩んだ後に、オウカちゃんの形見の刀がなくなって空のままになっている腰のベルトに付いているホルダーに吊るして持ち帰ることにした。
この遺跡で手に入る手掛かりはこれくらいだろう。
俺は階段を上った後にまた石の扉を閉めて念のために旧神の印を刻み込み直して遺跡を脱出。
周辺の地面を壊して上から砂をかけて出入口を隠しておいた。
「あとはカーターがこれをどれだけ分析出来るかか……」