収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第32話 「地下遺跡からの脱出」

 まず全員合流した上での状況確認だ。

 

 最下層に向かった俺とカーター、麻沼さん。

 5層に残った小森くん、矢上君、柿原さん、友瀬さん、和泉さん。

 教団の命令で襲撃を仕掛けて来た木島君と弥寺景(みでらけい)さんという女子高校生。

 

 全員揃っているということで間違いないだろうか?

 

「君達以外に遺跡に侵入した者はいない。それで間違いないね」

「ああ。オッサン以外の奴は見ていない」

 

 和泉さんに木島君がぶっきらぼうに答えた。

 

「他に人がいないことはアル君のレーダーで調べてますので間違いないと思います」

 

 友瀬さんがコンソールを見ながらその話をフォローしてくれた。

 つまり、ドサクサで生き埋めになったり、俺達が脱出した後に取り残されるような可哀想な人はいないということだ。

 

 地上へと続く階段は大量の土砂と破壊された石材によって埋もれていた。

 

 被害は階段だけではない。

 衝撃が地下1階……それだけではなく、この遺跡全体に伝わったからだろう。

 

 天井を支えていた石材が床に落下して砂粒がポツポツと落ちてきている。

 すぐにではないだろうが、いつ崩れてきてもおかしくない状況だ。

 

 俺達が地下最深部を目指して移動している最中にも落石などをいくつか確認したが、もしかするとこの落盤の影響があったのかもしれない。

 

 神父や教団がこの遺跡を放棄したというのは分かっていたが、まさかここまでやるとは予想外だった。

 下手をすると上に建っている旧校舎はもちろん、現校舎にも被害が出るだろうに。

 

 それだけ俺達にここの地下にある次元の裂け目を渡すつもりはなかったのだろう。

 

「ここにいる木島と一緒に襲撃してきた時に真っ先に逃げ出した奴が1人いたんだけど」

 

 柿原さんが説明した後に友瀬さんが埋もれた土砂を指差した。

 

「その人が1階に出た途端にこの階段でいきなり爆発が起こりました。表でもボヤで騒ぎになってるみたいです。警察や消防も来たみたいですね」

 

 友瀬さんが出したコンソール上には学校の旧校舎をやや上空から映した光景が映し出されていた。

 学校の外にはパトカーと消防車の赤色灯の光が見えており、旧校舎からは煙が立ち上っている。

 

 旧校舎の中にも警察や消防が入ってきていたが、この地下の出入り口を見付けられないために煙の発生源が分からず右往左往しているようだ。

 どうやら一般人にはこの遺跡への下り階段は見えないようだ。

 

 何にせよ、こうやって地上の様子が分かるのはありがたい。

 この情報がなければ途方に暮れていたところだ。

 

 爆発が能力によるものなのか、それともダイナマイト的な爆発物を持ち込んでいたのかは不明ではあるが、今のところ死者や負傷者が出ていないのは不幸中の幸いだ。

 

「この映像を見ている限りだとただのボヤ騒ぎで終わるな。何しろ火元が見つからないのだから」

 

 和泉さんが眉をしかめながら呟いた。

 

「旧校舎で工事なんて何もしていなかったこともバレただろう。これで学校内にいた教団関係者をまとめて処分するつもりか」

 

 学校から教団の関係者が消えるというのは良い話なのだが、全てが教団の手の平の上で踊らされているという状態は明らかに悪い状態だ。

 

「逃げ出したやつの所在は?」

「すみません、アル君の力だと学校の周りを映すのが精一杯です」

 

 それは仕方ない。

 むしろ、よく時間制限がある中で地上に端末を送り込んでくれたと褒めてあげたい。

 

「私達の仲間に須磨という者がいます」

 

 和泉さんがスマホの写真を俺達に見せて来た。

 そこにはコワモテのガッシリした体格の中年男が写っていた。

 

 この男が3人目の「探偵」なのだろう。

 

「須磨はこの現場近くで我々のサポートのために待機していますが、もし逃走者に気付いていれば何か行動を起こしているはずです」

「では、逃走者については須磨さんの活躍に期待して、こちらはこちらで出来ることをやりましょう」

「そうですね、それが建設的です」

 

 和泉さんの同意も得られたことで、まずは脱出方法について検討したい。

 

「見ての通り、崩れて来たのは結構な量の砂だ。ここにいる総出で作業しても全ての砂の除去は難しいだろう」

 

 和泉さんが土砂の山を指しながら言った。

 

「そして、天井から降ってきている砂……これは健全な状態とは言い難い。いつ崩落して来てもおかしくないだろう」

 

 崩れてきた土砂を手で触ってみる。

 

 かなりサラサラした乾燥した土だ。

 土自体は柔らかいので増幅(ブースト)した使い魔で地上まで掘り進むことは簡単だが、掘った後からすぐに崩れて埋まってしまうだろう。

 それで脱出口を作るのは不可能だ。

 

「スキルで脱出口を掘るのは無理ですね。振動も発生するのでそれが大規模な崩落にも繋がりかねません」

「上戸さんの魔術でもダメか」

「私は他人の能力を強化することが出来ます。ですので、誰か穴を開ける能力をお持ちであれば、それを強化するという方法もあると思います」

 

 一応ダメ元で提案してみたが、和泉さんは無言で首を横に振った。

 誰も穴を掘る能力を持っていないのだから強化しようがないということか。

 

「ラビさん、魔女の呪いは?」

 

 小森くんが起死回生のアイデアとばかりに尋ねてきた。

 確かに魔女の呪いの貫通力と破壊力ならば大穴を開けることも可能ではある。

 

 ただし、これには大きな欠点がある。

 

「ダメだな。魔女の呪いはパワーの制御が効かない。上にある旧校舎や現場検証に来ている警察や消防の方達もろとも吹き飛ばすことになる。高度次第だけど上空を飛んでいる飛行機も撃墜するぞ」

 

 この遺跡が何もない僻地に有るのならば、壁も土も石材も全て貫いて穴を開けられる魔女の呪いが最適解ではあるが、現代日本で使うには巻き込み被害が大きすぎる。

 特にこれほど住宅地が近い場所だと何が起こるか分からない。

 

 使うにしても最後の手段にしたい。

 

「吹き飛ばす……と聞こえましたが、どれほどの威力が出るのですか?」

「上に建っている旧校舎が塵1つ残さず消し飛ぶと考えてください。更に5Kmくらい射程があります」

「ええ……」

 

 和泉さんのドン引きした声が聞こえた。

 

 気持ちは分かる。

 明らかに個人で出して良い火力ではないのだから。

 

「ですので、他に何も手がなかった時の最後の手段です。死ぬよりはマシかという」

「絶対に止めてくださいね。流石にそれだけの威力を出されては、貴方を討伐対象に認定しないといけなくなります」

「それは御免被りますので止めておきましょう」

 

 では、他のプランだ。

 1階へ続く階段はもう使用出来ないものとして……どうなる?

 

「ピラミッドに隠し回廊があるという話は御存じですか?」

 

 麻沼さんが突然に突拍子もない話を始めた。

 だが、この空気の中で冗談や関係ない蘊蓄(うんちく)を披露したとは思えない。

 今の状況を打破する何かがあるのだろう。

 

「遺跡を作った作業員達が正規の入り口を塞いだ後に外へ脱出するための脱出口だという説が有力視されています」

「この遺跡にもそれがあると?」

「こことは別の旧支配者の遺跡を調査したことがありますが、私が出入りしようしたのはその脱出口でした」

 

 それを聞いて思い出したのは異世界でケルベロスとヘルハウンドが拠点にしていた洞窟だ。

 坑道から繋がった洞窟以外にも別の場所に出入口があったようで、ヘルハウンド達はそこを利用して俺達の背後に回り込んで奇襲をかけてきていた。

 

 確かに出入り口が1つと決まったわけではない。

 何しろこれだけの規模の遺跡だ。

 

 例のパラカス人……土蜘蛛一族がここで生活していたとするならば、出入口が1つなのは不便すぎるだろう。

 

「もちろん、この遺跡に支道があるかは分かりません。でも、この砂山を掘るよりは前向きだと思います」

 

 雲を掴むような話ではあるが、もし別の通路が見つかれば安全に脱出出来ることは間違いない。

 俺としては賛成だ。

 

「皆さんはどう思います?」

「隠し通路って面白そうじゃないですか、やりましょうよ!」

 

 柿原さんはとても思考がシンプルだ。

 こんな状況でも前向きに考えられるのは良い。

 

 どこかの誰かを思い出すのだが、そういうところが根っこの部分では小森くんと相性が良いのだろう。

 運命とは残酷なものだ。

 

「わ、私はどうすれば良いですか? 地上の様子と地下の分析同時には出来ないんですけど」

 

 こちらは友瀬さんだ。

 確かにアルゴスの能力はあれば捜索範囲はかなり広がるが、その場合は地上の様子を確認する手段がなくなってしまう。

 

「友瀬さんは地上の端末を維持し続けてください。調査は私の使い魔で行います」

「お願いします」

「とはいえ、あるかどうか不明なものを探し続けて体力を無駄遣いするのもどうかと思いますので時間を決めましょう」

 

 和泉さんも条件付きで賛成ということのようだ。

 

「2時間というのは如何でしょう? 既にここまでの調査に2時間かかっています。体力的にも辛くなってきますし、ライトのバッテリーも限界です」

「それで行きましょう。ところで、隠し通路がありそうな場所に目星はついていますか」

 

 ここは情報源である麻沼さんに期待だ。

 何か過去に対応した事件にヒントがあるかもしれない。

 

 全員の期待が集まる中で麻沼さんが口を開いた。

 

「て、手当たり次第?」

 

 全員がその雑過ぎる答えに沈黙した。

 

「何か見当がついているとか」

「ないです」

 

 ダメだった。

 何故芋から摂取した栄養を胸ではなく脳に送ることが出来ないのか。

 

 と言っても、流石に遺跡の全てを調べ直すような時間はない。

 果たしてどうしたものやら。

 

「カーターは何か思いつかないか?」

「隠し通路がメンテナンス用途という推論が正しいならば、出入口や最下層、どちらにも移動しやすい真ん中に作る可能性が高いと思う。となると、必然的に1階の入り口付近や最深部ではない」

「どちらにも行きやすいとなると、地下5階のダダッ広いスペースが怪しいのか」

 

 どの道、情報などないのだ。

 地下5階から全員で手分けして地道に探していくとしよう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 地下5階は天井の高いホールのような場所だ。

 

 天井はゆるやかなドームを描いており、プラネタリウムのように夜空が再現されている。

 それらの装飾を維持するためのメンテ通路が有っても不思議ではないし、カビにやられて黒ずんだ壁画にも何かのヒントがあるかもしれない。

 

 手元のLEDライトを見るとバッテリー残量は30%になっていた。

 一応捜索時間は2時間という時間を設定したが、このままのペースだと先にライトのバッテリーが尽きて、周囲は暗闇と化してまともに動けなくなるだろう。

 

 バッテリー切れの前に決着を付けたい。

 

 探偵の2人やカーターが持参した高照度のライトも同じ状況のようだ。

 性能が高い分だけバッテリー消費が激しいのは仕方がない。

 

 逆に高校生組が持って来た明るさや照射範囲が頼りない乾電池式のライトのバッテリー残量はまだまだ大丈夫のようだ。

 光量が全てではないということか。

 

「全員で手分けして隠し通路を探す。通路がどういうものかはまるで検討が付かないが、とにかく違和感がある場所を探してくれ」

 

 和泉さんの指示で全員が広いホールのような地下5階に散っていく。

 

 ……否、全員ではなかった。

 

「今だけでもこの拘束を外しちゃくれないか。俺達にも手伝わせてくれ」

 

 両手を手錠で拘束されている襲撃者のうちの1人、木島君が声を上げた。

 

「そうは言っても私は君達を完全に信頼してはいない」

「でも、あいつらは俺達もここへ生き埋めにするつもりだったんだろ。許せねえんだよ、そんなことは」

「俺からもお願いします。こいつの能力は人数が必要な今の状況だと役にたつはずです」

 

 小森くんが木島君の肩に手を置きながら主張した。

 

「こいつはそんな卑怯なことをするやつではありません」

「だが……」

 

 気持ちは分かる。

 つい先ほどまで戦っていた相手が突然に協力したいと言い出しても信じられないのは当然だ。

 

 だが、俺は小森くんを信じている。

 木島君の人となりは分からないが、その小森くんが暴れないと確信しているのだから、それを信じたい。

 

「私からもお願いします。もしも暴れ出すようなことがあれば、速やかに制圧いたしますので」

 

 俺も小森くんのフォローに入ることにした。

 もし木島君が暴れたら速やかに制圧が出来るのも本当の話だ。

 

「聞いた話によると、彼は数体の使い魔を同時に操ることが出来るとか。今は猫の手でも熊の手でも借りたい状況で」

「お願いします!」

「まあ、死なばもろともと自暴自棄になって暴れるような感じじゃないか」

 

 和泉さんは小さい鍵を取り出すと木島くんとその彼女の拘束を解いた。

 

「ふふふばかめだまされたようだな」

 

 驚くほど棒読みのセリフの後に5体の二足歩行の獣、バグベアが姿を現した。

 その熊達がそれぞれ手探りで何か隠れていないかを探すというシュールな光景が始まった。

 

 なんだこれ。

 

「セリフに感情が乗ってないので30点」

「50点くらいは貰ってもいいだろ」

「ダメだ。お前は赤点な」

「ちょっと成績優秀だからと思って」

 

 小森くんが楽しそうで実に微笑ましい。

 

 もちろん木島君が突然暴れ出すようなこともないので安心だ。

 

 全員で手分けして壁画や壁、床などに隠し通路がないかを探している。

 

「ところでこの壁画って何なんだろう」

 

 柿原さんが5階の壁面に描かれた壁画を見ながら呟いた。

 

「前に足の生えた蛇のいた部屋にあったやつと同じよね」

「カビで無茶苦茶になってるけど多分同じだな。4色の馬にバッタに鳥。あとは虎か」

 

 柿原さんの疑問に小森くんが答えた。

 

「ラビさんは一体何だと思います、これ?」

「黒赤白青だから多分四神に対応していると思うんだけど」

「違いますよ。方位が違います。玄武、白虎、朱雀、蒼龍は東西南北に対応してるはずですけど、ここの壁画は並び順番が無茶苦茶です」

 

 麻沼さんが壁画の馬を指しながら言った。

 

「ただ、他の遺跡でもこの変な並び順は見たことがあります。多分何か意味があるはずですが」

「四神じゃなくてヨハネの黙示録だろ」

 

 カーターが壁に描かれた赤い馬の絵を指して言った。

 

「黒ずんでいて判別不能部分もあるから解釈違いがあっても勘弁な。白は支配、赤は戦争。黒は飢餓。青は死。バッタじゃなくてイナゴ。鳥は死を告げる天使。虎に見えるのは黙示録の獣。そしてバビロンの大淫婦と呼ばれてる龍」

 

 ヨハネ黙示録の話は俺も知っているし、カーターの理屈は通っている。

 少なくとも方位がおかしいという四神説よりは説得力がある。

 

「でもここは日本だぞ。そこの古代遺跡にヨハネの黙示録とかいうキリスト教系の絵が描かれているのは不自然じゃないか?」

「だからキリスト教系の絵でもないんだろう。たまたまモチーフが被っただけで、別の似た『何か』だ」

「たまたま被るものなのか?」

「イナゴによる蝗害とか戦争で飢餓からの死なんて世界中どこでもある話だろ」

 

 気になる話ではある。

 ただ、この黒ずんだ壁画からはこれ以上調べようがない。

 それよりも今は脱出口を探す方が重要だ。

 

 そんな中、和泉さんが天井のプラネタリウムのように埋め込まれた光る石を見つめていた。

 

「あれはどういう原理で光っていると思います?」

「石自体は光っていなくて、反射しているだけだと思います。ガードレールに取り付けられている反射板と同じ原理ではないかと」

「ということは、裏に制御のための何かが埋め込まれているということはなさそうですね」

「目の付け所は悪くないかもしれません。天然洞窟の天井部分を削って綺麗なドーム状に加工するよりも、予めドーム状に加工した板を張り付ける方が綺麗に出来ますよね」

「つまり、天井部分には空洞のスペースがあると」

 

 そこに隠された通路があるかどうかは別の話ではあるが、人目につかない場所だ。

 探さないという選択肢はない。

 

 現在地下にいる中で切断系の能力持ちとなると……。

 

「矢上君、君の死神の鎌であの天井の板部分だけを切断してくり抜けますか?」

「やってみたことはないですけど、単に壊すだけではダメですか?」

「この遺跡は崩れかけているのでなるべく振動を与えたくありません。なので、なるべく破壊ではなくて切断したいのですが」

「分かりました。やってみます」

 

 矢上君が炎の柱を何もない空間に向けて空撃ち。

 そうやって出来た火の柱からカボチャ頭の怪人は鎌を取り出し、天井へとその刃を突き立てた。

 

 刃は驚くほどあっさりと天井に突き刺さり、一瞬で真四角の切れ目が入った。

 

「小森くん、今からパネル状の板が降ってくるので振動を与えないよう受け止めて欲しい」

「分かりました。プロテクション!」

 

 カボチャ頭が鎌の柄で軽く小突くと正方形に切断されたパネルが落下してきた。

 それを光の壁が受け止めて床へと落とした。

 

 遺跡全体に与えた振動は最小限。

 崩落も今のところ発生していない。

 

「2人もありがとうございます」

 

 鳥にライトを持たせて開いた天井の穴に躍らせる。

 

 ライトで照らしていくと、端の方に不自然に斜め上方向へ延びていく穴が有った。

 それほど広くはないが、少し屈めばなんとか人間が通れそうなサイズだ。

 

「穴を見付けました。通路かただの空気穴かまでは不明ですが、一応確認してみます」

 

 この報告に一同がどよめきたった。

 ようやく発見出来た一応の成果なのだから。

 

 穴は少し進んだ後に横方向への通路に変わった。

 その床には土などの堆積物があるが、その中に泥や落ち葉が混じっており、ダンゴムシらしき虫が動いていることに気付いた。

 

 間違いない。

 この穴は外部のどこかに通じている。

 

 しばらく進むと穴はまたも斜め上向きに変わった。

 そこから50mほど昇っていくと、大きな岩で塞がれて行き止まりになっていた。

 

 ただ、その岩の隙間からわずかだが水が流れてきている。

 どこに繋がっているかは不明ではあるが、間違いなくこの遺跡の外だ。

 

「皆さん、隠し通路……出口を見付けました」

 

   ◆ ◆ ◆

 

増幅射矢(ブーストアロー)!」

 

 増幅で強化した鳥の体当たりで出入口を塞いでいた岩を粉砕して外に出て辺りを見回す。

 

 周辺には人気(ひとけ)も人口の灯りもない山の中だが、耳を澄ますと自動車の走る音が聞こえてくる。

 スマホを取り出してGPSで現在位置を確認すると、どうやら学校の裏にある自然公園の中のようだ。

 

 ハイキングコースから若干離れているものの、少し歩けば町中に出られるだろう。

 

 遺跡内に流れ込んて来た水や泥は近くにある水溜まりから流れ込んだもののようだ。

 ある程度は通路の途中にあった排水溝を通って外へと放出されるようだが、そこを抜けた一部が遺跡内に流れ込んできていたようだ。

 

 遺跡の壁画がカビに侵食されていたのはここから入った湿気のせいか。

 脱出のためのヒントはそこに有ったのだ。

 

 問題はここからだ。

 俺1人ならば箒で飛んでこのように地上まで簡単に上がることが出来たが、他のみんなはそうはいかない。

 

 どうやって全員を天井に釣り上げるか?

 かなりの傾斜がある斜め上への通路をどうやって移動してもらうかが問題だ。

 

 相談すべく遺跡内部に戻ると、木島君のバグベアがどこからか大きめの石を運んでは階段のように積み上げていた。

 

「これはどういう状況?」

「天井まで移動するための方法ですよ。ないよりマシだろうって木島が」

 

 石段を少々積み上げても天井には到底届きそうにないのだが、それでもやらないよりはマシだろう。

 5mほど積み上げて貰えれば、小森くんのプロテクションと俺の(シールド)で踏み場を作って何とか上がることも可能だからだ。

 

「それよりも地上へのルートはどうでした?」

「自然公園の中に出られるようです。昔から手を付けられていない自然がそのまま残っている場所です。ただ、途中かなりの傾斜があるのでどうやって上がるかが問題ですね」

「須磨に連絡を取れませんか? 車にロープや縄梯子を積んでいるはずなので、近くまで道具を運んで貰えれば」

「というか、地上までの穴を開けたのでギリギリ携帯の電波は入りませんか?」

 

 そう説明すると和泉さんはスマホを頭上に掲げて歩き回り始めた。

 

「ギリギリセーフ。アンテナが一本立ちました。須磨をここに呼びます」

 

 和泉さんはスマホを操作してどこかにメールを送信し始めた。

 通話ではなくメールなのは、流石に回線が安定しないからだろう。

 

 脱出までのプランが見えて来た。

 

「上戸さん、小柄な友瀬さんだけでも一緒に運べませんか?」

 

 矢上君からそう提案された。

 確かに男性陣や身長の高い麻沼さんや柿原さんだと狭い通路を通る時に引っかかって進めないだろうが、小柄な友瀬さんならば箒に相乗りで運べそうではある。

 

「わ、私だけいいんですか?」

「友瀬さんは梯子やロープを上ったり出来る?」

 

 矢上君がそう言うと友瀬さんは顔を真っ赤にして首を横に振った。

 

「うちの景も頼めないか? こいつも小柄だから行けると思う」

 

 木島君からも同様の提案があった。

 弥寺さんも見たところ小柄なので行けそうではある。

 

「でも(あつし)は?」

「ちょっと遅れるだけだって。先に行って待ってろ」

 

 では、まずはこの2人を地上へ運ぶことにしよう。

 

「あの、私は?」

 

 柿原さんが挙手しながら俺に尋ねた。

 

「柿原さんは大きいので諦めていただけますか?」

「なんで!? 私はそんなに重くない!」

「身長が高いと通路に引っかかるんですよ。体重の話はしていません」

 

 俺よりも麻沼さんよりも背が高い、推定身長170cm近くの柿原さんは見ただけでアウトである。

 

 横にバスケ部らしい巨漢……190cm近い木島君を始めとして小森くん、カーター、和泉さんという体格の良いのが立っているせいで誤魔化されてはいるが、女子にしては明らかに大きい。

 無理に箒に乗せても移動中に通路に頭を打ち付けて身動きが取れなくなるのがオチだ。

 

「小森からもなんとか言ってよ。上戸さんは知り合いなんでしょ」

「俺は関係ないだろ。一緒に梯子を上がろう」

「梯子とか無理なんだけど」

「落ちないように後ろから支えてやるよ。それでもダメなら尻を叩いて何とか上れるように」

「待て、それは良くない」

 

 流石に小森くんがいつも通りデリカシー皆無の発言を放ったので突っ込みに入る。

 

「女子高生に対して何を言ってるんだ、君は」

「サポートするって意味ですよ。それ以上の意味はありません」

 

 ダメだった。

 少しは成長したと思ったのにあまり成長していなかったようだ。

 

「上戸さん、こいつってずっとこんな感じだったんですか?」

「ずっとこんな感じだったよ。それに騙されたのが今の彼女だ」

 

 それを聞いた柿原さんの目つきが鋭くなった。

 

「うわ最低! 石でも投げちゃお。この女の敵!」

「女の敵! セクハラ魔人! ナチュラルジゴロ!」

「この女の敵!」

「いや待て木島。お前は関係ないだろ」

 

 いつの間にか柿原さんと俺に混じって木島君も石を投げるような動作をしていた。

 もちろん、実際に石を誰も投げていないので単に茶化しているだけなのだろうが。

 

「須磨と連絡が取れました。すぐに向かうということなので、誘導をお願いします」

 

 和泉さんがスマホの画面から顔を上げてこちらを見た。

 いつまでも遊んでないで早く行けという催促だろう。

 

「ではここから脱出しましょう。皆さん慌てず冷静に対応をお願いします」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 須磨さんが持ち込んだ縄梯子とロープを使って何とか全員遺跡からの脱出に成功した。

 

 通路内には泥がそれなりに流れ込んでいたためか全員泥だらけではあるが、大きな怪我もなく脱出出来たことは大きい。

 

「ここの出入り口はどうしましょう? 開けたままだと支障がありそうですが」

「とりあえず埋めとくか」

 

 木島君がバグベアを喚び出して俺が破砕した岩の残骸を積み上げて入口を隠していった。

 まるで最初から仲間だったような馴染み方と仕事ぶりだ。

 

「では、ここで一時解散としましょう。木島、弥寺の両名は私達と一緒に車へ」

「まあ仕方ないな。俺達と家族の安全は」

「分かっている。保護する約束だ」

 

 木島君と弥寺さんは和泉さんに付いていくようだ。

 

「じゃあオレ達も一緒に行くか。それでいいよな、ラビ助」

「ああ。木島君達の能力を消さなきゃいけないからな。それに、和泉さん達の上司に会うという約束もある」

 

 もちろん俺達も木島君達に同行するつもりだ。

 

 木島君達の2人の能力を消すことも重要ではあるが、それ以外にも捕縛された2人が違法な処罰を受けないかどうかを監視する役目もある。

 基本的には善人であろう和泉さんと麻沼さんは信じられても、組織全体を信じる程に俺の頭はお花畑ではない。

 

 それに今後のことの相談もある。

 お互い足りない情報を補うことで、今後の方針も決められるだろう。

 

「流石に部外者を連れて行くというのは」

「ならば木島君達の移送もなしです。部外者ですし、警察でもない貴方達に拘束の権利はありませんよね」

 

 和泉さんは何とか俺達を諦めさせたいようだが、それならばこちらは幾らでも攻撃……ならぬ口撃をするつもりだ。

 元々は敵だったかもしれないが、小森くんの友人で未成年の子供が不利益を被ろうとしているならば、こちらはいくらでも戦う準備は出来ている。

 

「昨日の昼に約束したよな。あんた達が指定した真桑(まくわ)ってやつの能力を消してくれって。どの道その件でオレが行かなきゃいけないんだろう」

「もちろん私も同行しますよ。約束ですよね」

 

 和泉さんはまだ何か言おうとしていたが、その肩を須磨さんが軽く叩いた。

 

「お前の負けだ、和泉。この2人も連れて行く」

「そうですよ。私達は別に悪の組織と言うわけではないのですから、ここで躊躇する理由などありません。上司への説得はお願いしますけど」

 

 須磨さんとさりげなく酷いことを言っている麻沼さんもOKのようだ。

 2人が賛成しているということで、和泉さんはここで折れた。

 

「では私達も連れて行ってください。貴方達の拠点に」

 

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