収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第38話 「ドローン」

 俺が倒した運転手を護送するために警察がやってきた。

 もちろん、これは近所の人達の通報で駆け付けた地元の警察ではなく、和泉さんが連絡して呼んだ事前にこの手の超常現象についての話が通っている警視庁の人間だ。

 

 広域犯罪に関係している容疑者が逃走中に誰もいない小学校に身を潜めようとするも失敗して負傷した。

 逮捕令状は取っていないが、負傷しているので病院へ運ばなくてはいけないという建前で話が動いているらしい。

 

 らしいというのは、たった今合流したばかりの和泉さんから聞いた話だからだ。

 

 細かい手続きは例の八頭さんが担当しているのだろう。

 こういう時に公的機関を動かせるポジションの人が味方にいるというのは心強い。

 

 やや遅れて地元住民の通報で地元の警察もやってきたのだが、先に警視庁が動いていると分かったことで、手続きだけを済ませてそのまま去って行った。

 

「新坂家の処理のために既に近くに来てもらっていましたので、何とか地元警察が来る前に対応出来ました」

「こういうことの地元警察との優先権ってどうなってるんです?」

「実は私もあまり……八頭が全て処理してくれますので」

 

 和泉さんもそういう事務手続きについては八頭さんに任せっきりのようだ。

 ただ、それが役割分担というものだろう。

 

 現場は和泉さんや麻沼さんが駆け回り、裏方の事務手続きは八頭さんが処理する。

 それ以上の政治的な話になると、警視庁OBにしてトップの蘆名天彦(あしなあまひこ)さんが動くのだろう。

 

 適材適所というわけだ。

 

 俺達部外者は、そのおこぼれに預かり、面倒な事務手続きを丸投げ出来るというわけである。

 フリー万歳だ。

 

 責任がフリーな分、金銭的な面もフリーのボランティア状態なのは少し寂しいが、こういった超常現象の対応という体力がものを言うお仕事はスポーツ選手と同じで若いうち限定だろうし、人生をかけてやるものでもないので、これで良しする。

 

「そういえば新坂家の方は?」

「新坂家の3名については既に救急搬送済です。2名の遺体はこれから身元確認と司法解剖が予定されていますが……どうカバーストーリーを用意するかについて八頭が頭を捻っている最中です」

 

 流石に他所の家に侵入して死んだというよく分からない状況に説明を付けるのは難しいか。

 

 広域の特殊犯罪の片棒を担がされたということにすれば、家の中に踏み込んで家人に怪我を負わせたというところまでは行けるだろうが、何故死んでいるのかの理屈を付けられない。

 誰か主犯がいてその人物に尻尾切りされたということにするとしても、流石に証拠が全くなく根拠が乏しい。

 

 一応現場には秘書の大城戸がいたはずだが、こちらも秘書が何かをやったことや、そもそも現場にいた証拠がないので法的に追い詰めるのは難しい。

 確かにこれは頭を抱えざるを得ない。

 

「1つ頼みがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

 和泉さんはスマホを操作して俺にショートメッセージを送信してきた。

 メッセージの内容は携帯電話の電話番号だった。

 

 もちろん既知の和泉さん番号とは異なる。

 

「これは須磨の電話番号です。そろそろ連絡が入っても良い頃合いなのですが、私はこれから取り調べに参加するために警察と同行しなければならず、しばらく電話に出ることが出来ません」

「つまり、私でなければ対応出来ないことが起こる可能性がある……そういうことでしょうか?」

 

 単に電話に出て状況確認するだけならば同僚の麻沼さんで十分のはずだ。

 それなのに、あえて部外者の俺に託してきたということは、俺にしか出来ない何かを要求されているということだ。

 

 状況から考えて、須磨さんが追跡した秘書が向かった先の調査を鳥の使い魔で行えということか?

 

「大城戸が向かった先はここから北方向なのですが、東議員の自宅兼事務所へと向かっている可能性が高いようです」

 

 秘書が登場した時点で何となく察してはいたが、ここで議員が登場するのか。

 

「議員の自宅は横浜の保土ヶ谷にあるのですが、電話で済むところをわざわざ赴くというのは、秘書がメダル回収に赴いてきたのは議員の命令であり、今から直接報告をさせられるのかと」

「つまるところ、その議員宅の調査を行えということですね」

「はい。私達が潜入しようとすると、どうしても下調べに時間がかかりますが、上戸さんの使い魔ならばすぐに調査を行えますし、使い魔自体が見つかったところでほぼデメリットはありません」

 

 それは和泉さんの言うとおりだと思う。

 

 俺の能力は偵察と調査に向いているのは事実だ。

 適材適所なので、長所を活かして協力するのが良いだろう。

 

「承知しました。もし潜入工作が必要な場合は任せてください」

「ありがとうございます。麻沼も便利に使ってやってください。後のことはよろしく頼みます」

 

 和泉さんは俺の返事に満足したのか護送車に乗り込み、そのまま去って行った。

 

 やや遅れて小森くん達高校生チームと弥寺さんの警護にあたっていた麻沼さんも合流してきた。

 ただ、いつまでも野次馬に紛れて夜の小学校前で立ち話も何なので場所を変えることにする。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 とりあえず近くの全国チェーンのコーヒー店に入った。

 ただ、時間も既に19時。

 高校生はそろそろ帰宅の時間だろう。

 

「本日は皆さんお疲れ様でした。ただ、高校生組はこのコーヒーを飲んだら解散。試験前なんだし勉強に励みなさい」

「でも、まだリストは1人目しか回っていないんですよ」

 

 矢上君が「ここで解散させられるのは不本意」とばかりに不満を訴えて来た。

 

「新坂君と同じような目に遭っている人がいると思うと、リストに載っている他の人のところにも行ってみるべきかと思います」

 

 矢上君の焦る気持ちは分かる。

 

 俺は直接見てはいないが、新坂家の惨状は酷いものだったらしい。

 

 だからこそ思ったのだろう。

 

 もし戦いが行われているのであれば止める。

 助けられる命があるならば助けたい。こんなことを二度と繰り返してはいけないと。

 

 その選択自体は間違いではないと思う。

 

 矢上君だけではなく、高校生チームはみんな同じ目をしていた。

 本当に良い子供達だ。

 

 ただ、少し焦りすぎているというのはあると思う。

 

 あまりにもショッキングな映像を見てしまったことと、自分達ならばその事態に対処出来るという自負からだろうか?

 

 俺自身も似たような状況で、何も出来ない自分に苛立ち、少しでも結果を出そうと冷静さを失ってがむしゃらに暴れた時が有ったが、自分1人が焦ったところで事態は好転などしなかった。

 

 無駄に体力と精神力を使うだけだし、調査初日でこれでは、神父を見つけ出して一発ぶん殴る前に体力も気力も尽きてしまうだろう。

 

 俺がハセベさんに忠言を受けた時のように、今度は俺が人生の先輩として、休むべき時は休むのが良いと伝えておく必要がある。

 

「今のところ運転手は捕縛。秘書は逃走中。神父や教団には今すぐ動かせる手駒はありません。今晩中に状況が動くことはないでしょう」

「確かに理屈は分かります。だけど」

「それに時間は既に19時。世間では夕食の団欒の時間です。いくら同じ学校のクラスメイトとはいえ、こんな時間からあまり面識のない家に押しかけるのは流石に少し迷惑だと感じられるかもしれません」

「……確かにその通りです」

「それに、私達の目的はただ能力者かどうかチェックするだけではありません。実際に会って信頼関係を築いて協力してもらえる仲間になってもらうことが重要なんです。なので、出会いでいきなり躓いてずっと印象が悪いということは避けたいと考えています」

 

 俺の考えを伝えると、矢上君が無言で頷いた。

 意固地にならず、きちんと理詰めで説明すると話を聞いて理解した上で納得してくれるのは本当に助かる。

 

「それに、見てください。小森くんは元気ですけど柿原さんと友瀬さんはどちらも顔に疲れが出ています。自分は元気でも付いてくる仲間はそうではない時があります。頑張りすぎが逆にみんなの負担になっているかもしれません」

「それはラビさんもですよ。昔から1人で頑張りすぎなんです」

「おっと、なかなか痛いところを突いてくるな。耳が痛い」

 

 ここで小森くんからカウンターが飛んで来た。

 

 不服はなかった。

 大方その通りであると認識していた。

 

 俺も成長したところを見せるために適当なところで切り上げるとしよう。

 

「私も今のところ仕事を1つ任されていますが、それが終われば今日はホテルに帰って休みたいと思います」

「上戸さんの言うとおりですね。また明日から頑張ります」

「テスト勉強も頑張らないとですね。私もサポートしますので、みんなで頑張りましょう」

 

 そう言うと矢上君でなく、後ろで笑顔で立っていた柿原さんが「うっ」というダメージを受けたセリフを吐いた。

 それほどテスト勉強はダメージなのか……。

 

 どうやら今日の俺に課せられた残作業は2つらしい。

 

「数学って何か高得点を取る秘訣って有ります? 数式とか全然分からなくて……」

「コツを教えますよ。それで70点くらいまでなら安定して取れるかと」

「もう一声!」

「基礎で取れるのはそこまでですよ。後は柿原さんの頑張り次第です。ただ、弱いのは数学だけじゃないですよね」

「出来れば物理と化学も……英語と国語は大丈夫です」

 

 つまり、理系科目が全体的にダメな感じなのか。

 傾向と弱点が分かりやすい分だけ、一度乗り越えることが出来たら意外と伸びるかもしれない。

 

 伸びないかもしれない。

 ……伸びないんだろうなぁ。

 

 うちのエリちゃんと同じパターンだ。

 何か1つ新しいことを覚えると別のことを何か1つ忘れていく。

 

 何故小森くんはそんなのばっかりに引っかかるのか。

 

「では、明日はリストに載っている人の確認とテスト勉強を進めていきましょう。今日のところは解散。それで良いですね」

「分かりました。明日から頑張ります」

 

 高校生組はそれでそれぞれ帰路に付いていった。

 

 あとは須磨さんからの報告次第だ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 高校生組が帰ってからは暇潰しの簡易女子トークだ。

 

 カーターが普段どれだけだらしない生活を送っているかというどうでもいい話で麻沼さんと盛り上がっているうちに気がつくと時間は20時。

 ようやく須磨さんから連絡が入った。

 

 大城戸の乗る車は市内を無駄にグルグルと走り回ったり、赤信号ギリギリで交差点に飛び込むなど、尾行を撒くような動きを繰り返していたが、ようやく東議員自宅のガレージ内へと入って行ったらしい。

 

 今は議員宅が見える高台の展望台から双眼鏡で議員宅を見ているが、暗いのと塀が高いので中でどのようなやり取りが行われているかは不明ということだった。

 やはり俺の出番のようだ。

 

 先程宣言した通りにさっさと調査を済ませて今日のところは終わりとしたい。

 

「では行きましょうか。麻沼さんは作業の確認者をお願いします」

「承知しました」

 

 麻沼さんは注文していたサンドイッチの残りを指で潰して一気に口に押し込んだ。

 軽く栄養補給も終えて準備万端と言うことだろう。

・:・

 まずは2人でバイク駐輪場まで歩き、バイクを回収する。

 

 流石にバイクジャケットを取りに戻っている時間はない。

 ロングコートでバイクに乗ると走行風でバタつきが気になるが、まあ仕方ないだろう。

 

 須磨さんから教えられた住所をスマホに入力してみる。

 まあ、細かい部分はナビに住所を入力すればだいたい分かるだろう。

 

 ナビに目的地の住所を入力すると、約25分と表示された。

 

 須磨さんが秘書の追跡を始めたのはまだ18時台だったので、30分で着ける距離を2時間近く尾行を撒くためにウロウロしていたことになる。

 ご苦労なことだ。

 

 まずはエンジンを暖機運転。

 

 流石に大学時代に捨て値で買ったうちのバイクは、寒い日はしっかり暖気してエンジンを温めないとエンジン出力がイマイチ安定しない。

 元々サーキットで酷使されていた車体らしいので、小修理では色々と限界なのだろう。

 

 その点、麻沼さんのKTMの最新バイクだけあって、これほど寒い冬の日だというのにエンジンスタートのイグニッションボタン一発でエンジンに火が入る。

 本当に羨ましい。

 

 麻沼さんが軽快な単気筒のエンジン音を鳴らして走り出した。

 その後ろを置いていかれないように俺も付いていく。

 

 まずは最寄りの日野ICから横浜横須賀道路に入って北上。

 

 前を走る麻沼さんも手信号を出して、一気に加速を始めた。

 

 負けじと俺もギアを1つ落として6速から5速へ。

 更にアクセルをひねってバイクを加速させる。

 

 曜日と時間の関係なのかガラガラな道を、あまり公言できない速度で一気に駆け抜ける。

 狩場ICで降りてそこから下道。

 

 指定された高台の公園に向かうと、その駐車場に大きめのワゴン車が一台停まっていた。

 更にそこから階段を上った見晴台に双眼鏡を持ったこわもての男が1人……探偵の須磨さんだ。

 

 コーヒー店で連絡を受けてを出発してからここまで20分。

 ここまでなかなか順調と言える。

 

「今はどういう状況ですか?」

「秘書はまだ出て来ていない。もちろん、この距離ではそれ以上のことは不明だ。窓にもカーテンがかかっていて室内の様子を見ることは出来ないからな」

「何かこういう状況で便利に使える術とかないんですか?」

「残念ながらない。カメラ付きのドローンは備えてはいるが、それなりの爆音が鳴るので一発で気付かれる」

「そこで私の出番というわけですか?」

「ああ、上戸さんに任せるように和泉から言われている」

 

 須磨さんは足元に置いていたアルミ製のアタッシュケースを開いた。

 その中にはタブレットPCと小さいアクションカメラが4個入っていた。

 

 アクションカメラは市販品を改造したもののようで、後付けの大きな収音マイクとアンテナが取り付けられている。

 

「これを使い魔で持ち運び出来ないだろうか? 通信SIM内蔵なので、ネットワーク経由でライブ配信出来る」

 

 須磨さんがアクションカメラを1つを取り出し電源ボタンを押すとリズミカルな起動音が鳴り響いた後に、タブレットPCにカメラで撮影したであろう映像が表示された。

 この現代日本ならではなのかもしれないが、装備品が思っているよりもハイテクだ。

 

 カメラを受け取って自分の手で持ってみると、思っている以上に軽いし小さい。

 これならば鳥に運ばせることの支障はなさそうだ。

 

 使い魔は視覚を共有することで偵察や調査に幅広く使えるのは便利なのだが、その視界は他人と共有出来ないことと、音声を拾うことが出来ないのは欠点だった。

 その点、このカメラを使えば、詳しい状況をより正確に仲間に伝えることが出来る。

 

「このカメラのバッテリーはどれくらい持ちますか?」

「ネット経由で配信すると45分というところだな。ただ、バッテリーは寒いと性能が劣化するので更に稼働時間が短くなるので、30分程度だと考えてくれ」

 

 30分とは思っているよりもシビアだ。

 なるべく効率良く忍び込ませて要点だけを拾うようにしないと、肝心な場面が録画、録音失敗しかねない。

 

「ならば、バッテリーを無駄にしないためにも1分でも早く向かわせた方が良いですね。何か重要な場面を撮影出来れば良いのですが」

 

 早速1羽の鳥の足にカメラを持たせ、サポートの鳥3羽を護衛に付けた状態で空へと放った。

 

 高台なのでかなりの距離が離れているように見えるが、実際には500m程度しか離れていないのだろう。

 

 数秒で議員宅の2階部分に到達出来たので、どこか侵入出来そうなポイントがないか捜索を始める。

 

 今のところ懸念点は1つか。

 

「このカメラがもし敵に発見された場合にはどうしましょう? 破壊か、それとも取られたままにするのか?」

「可能な限り回収。不可能ならば破壊で頼む」

「承知しました。では、こいつを使って潜入作戦を開始します」

 

 家屋内へ潜入出来そうなポイントの方も無事に発見出来た。

 2階と屋根との間に換気口が設けられており、そこから2階の天井裏に繋がっているようだ。

 

 狭い空間で人間が入るのは不可能ではあるが、鳥の使い魔のサイズならばカメラを持った状態で十分潜入が可能だ。

 

 サポートに付けた3羽の使い魔達で換気口の蓋を開けてカメラを持った撮影班を屋内へと潜入させる。

 このまま天井裏を移動していけば、目当ての部屋の上にまで移動出来るだろう。

 

 転送された映像を表示しているタブレットPCからは、かすかだが人の話し声のようなものが聞こえてきた。

 このまま声が聞こえる部屋の真上に潜り込めば、確実に会話は拾えるだろう。

 

「このまま音声だけならば安全に盗聴出来ます。映像が必要ならば、どこかで表に出すようにしますが、発見されるリスクが増えます」

 

 須磨さんと麻沼さんに方針を確認する。

 

「どちらにしますか?」

「安全策だ。音声だけで行こう」

 

 須磨さんの一声で方針は決まった。

 そのまま声の方向へカメラを持たせた使い魔を向かわせた。

 

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