件の駐車場までは10分ほど歩いた。
神父も律儀に付いてきているあたり付き合いは良さそうだ。
このまま国道沿いに横須賀や三浦半島の端まで歩いて行ったら付き合ってくれるのかは少し気になった。
今いる場所は流通のトラックの待機場のようだ。
倉庫から荷物を積み下ろしをしたり、その待機のためにトラックを停めておくスペースのようだが、今は深夜便が出払った直後の谷間の時間で丁度ガラ空きになっているようだ。
検索して調べてみると、次に集まってくるのは早朝だ。
それまでに決着を付ければ何も問題はない。
はるか遠くに倉庫があり、数人の作業員がウロウロしているが、そこまで巻き込むことはないだろう。
「まずは……話し合いというのはどうかな」
須磨さんがわざとらしく格納容器をアスファルトの路面に置いた。
「神父さんはご高説が得意なんだろう」
「聞く耳を持たぬ相手と話すのも時間の無駄だろう」
神父は両手をパンと音を鳴らして打ち合わせ、合唱するようなポーズを取った。
それと同時に矢上君、麻沼さん、和泉さんが腰を落として身構えた。
顔には焦りとも警戒とも取れる表情が浮かんでおり、神父の背後に視線を向けている。
おそらくこの3人に神父の後ろに魔術的な何かが見えているのだろう。
ただ、俺には全く何も見えないので、傍から見ると今からダンスバトルでも始まるのかというように見える。
「そちらのお嬢さんは恐怖で身動きも取れませんか」
「いや知らん」
流石に今の状況だと完全に部外者なので鳥を喚び寄せて、その視線で見ると神父の背後には後光のような光が浮かび上がっていた。
仏教なのかキリスト教なのか他のカルトなのかハッキリしてくれ。
ただ、ハッキリと言えることがある。
こいつはやはり無貌の神……ナイアルラトホテップではない。
本物ならば出雲で戦った時の恨みつらみを愚痴るなり皮肉るなりして、もっと捻くれたコメントを出して来るだろう。
それがない以上は別の誰か……何かだ。
それを踏まえるとこいつは何者なのかを明らかにしないといけない。
「須磨さんは戦闘に参加しなくとも大丈夫です。その格納容器を護り抜いてください。戦闘中のドサクサで奪われたというのが一番シャレにならないので」
「そうです。現場での荒事は私に任せてください」
「……ああ、分かった」
須磨さんが格納容器を掴んで一歩下がった。
戦闘要員は1人減るが、まあ何とかなるだろう。
矢上君、麻沼さん、俺の3人で神父を取り囲むような位置取りに立つ。
「少年は私からの贈り物をお気に召したかね?」
「その節はどうも。ただ、こんな能力は要らないので返品させてください。僕と、綾乃と、友瀬さんと……みんなの分を」
「なんと勿体ない。能力を使いこなせず自滅する者も多いというのに、君は既に自分の身体の一部のように使いこなせている。それは誇っていい」
「好きで手に入れた能力ではないですけどね」
矢上君がそう言うと神父は「ククク」と喉を鳴らした。
「逆だ。結晶によって力を得られるのは自ら力を望んだ者だけだ」
「どういう意味なんだ」
「心の底で能力を拒否していれば自ら喚び出した使い魔に食われて終わる。逆に能力を使いこなしているということは、君が力を望んだということだ」
「僕が選んだ?」
「そうだ。君の心の底に眠っていた破壊を望む心が形となって現れたのだ」
矢上君が口を閉ざした。
「あの時は何とか助かりたい、力が欲しいと願ったことは事実だ……だけど、破壊を望む心が眠っていたというのは……」
「強制的に二択を強いている状況を自ら望んだとは言いませんよ」
矢上君が神父の言葉に惑わされているようなのでフォローに入ることにする。
「お腹が空いたなとコンビニが良いか食堂に入るかと選ぶのが自由意志だ。キャッチセールスで買うか買わないかの二択を迫る悪徳商法に望んだも選んだもない」
「だが、それも個人の意思――」
「――屁理屈こね回す暇があったら契約関係の本を読んで消費者庁に殴られて脳を令和最新版にアップデートしてから出直してこい、この昭和残滓の悪徳業者め。さっさとクーリングオフさせろバカ」
「神との契約は――」
「――何が神だよ。今の日本の契約は民法で定義されている要件に沿っていなきゃ無効なんだよ。契約内容の提示もない、法人格も認められていない自称神を名乗る野生動物の代理者を名乗る不審人物が一方的に結んだ契約に有効要件の欠片もないだろ。無効だ無効」
「私をこの国の法律で縛ることは――」
「――ここは日本だ。日本の法律守れバカ」
この手の相手と会話が成り立つと思ってはいけない。
そもそも人殺しの敵なのだから、相手のことなど聞かずに一方的に言いたいことを言った方が勝ちだ。
「相手は意味深ワードを多用して人の心を惑わすことに特化したトリックスターですよ。会話が成り立つなんて思うだけ無駄です」
「じゃあ、能力を僕が選んだというのは?」
「自分からくれと頼んだわけじゃなく、一方的に光を浴びせられて能力を使えるようになったという話のどこに矢上君が選んだ要素が? 起こった事実だけを見て思ったことを言えば良いんです。なんか押し売りされたと」
「押し売り」という言葉で矢上君も納得したようだ。
さて、仕上げといくか。
「自分が一方的に与えた力で他人から選択肢を奪っておいて、それを当たり外れなどと評価する権利なんて他人にはない。自分の人生は自分で決めるものだ。しかも神父……悩める者達に指針を与えるような扮装で逆に他人を惑わしたお前を許すわけにはいかない」
「この世界の魔術師でもない、私が与えた能力者でもない。邪神に力を与えられているようだが、他人から与えられた力で好き放題しているのはお前もだろう」
「その通りだ。この力は望んで与えられたものではなく無理矢理押し付けられたものだし、それは否定しない。だが、その能力をどう使うか、何をするのかを決めるのは個人の意思だ。だからこそ、俺はこの能力で他人の人生を踏みにじるお前を倒す」
「何と身勝手な。貴様は何様のつもりだ」
「俺は通りすがりの魔女だ。覚えておけ!」
さて戦闘開始だ。
背後関係とか全部話してくれると楽だったのだが、まともに会話出来そうにない相手なので仕方がない。
こちらの勝利条件としては撃退、もしくは捕縛。
胸からぶら下げている赤い宝石を奪えば勝利だ。
敗北条件としては何の情報も得られることなく逃走されるだ。
「麻沼さんは結界的なものは張れますか? あいつが逃げ出さないように、ここへ封じ込めたいです」
「殴る方が得意ですけど、一応は出来ます。前に片倉さんと一緒に儀式をやったのを見てましたよね」
見ていたからこそあえて聞いたのだ。
バルザイの偃月刀を彼女に投げて渡す。
「それは魔法陣を描くことに特化した儀式剣です。おそらく和風の魔法陣でも使えると思いますので、それを使ってこいつが逃走出来ないように結界を」
「確かにこれならば未熟な私でも十分な効果を出せそうです」
麻沼さんが満足げに短剣を振り回した。
ここは彼女に任せよう。
さて、この神父はどのような戦法を仕掛けて来るか?
警戒していると神父は拳法のような構えを取った。
右手右ひざを軽く曲げて左足は延ばして半身の姿勢に。
左手は腰。
姿勢は相当低く、空手とも拳法とも違う奇妙な構えではあるが、何かしらの格闘技を仕掛けるつもりだということは分かる。
しかも目線からして、最初の狙いは手ぶらで明らかに近接戦闘に向いていなさそうな俺だ。
先程の挑発が効いたのか、それとも見るからに弱そうなウィークポイントを狙って来たのか?
「来る!」
神父が恐ろしい速さで俺に向かって突撃してきた。
タックルか? パンチか?
相手の腕を取って投げる格闘術はオウカちゃんの置き土産として備わっているので初撃はそれで避けられる。
まずはそれを凌いで近接は矢上君の使い魔、ジャック・オー・ランタンに任せて、俺は後方支援に回りたい。
相手の腕を取るべく半身になって身構えていると、ただでさえ低い神父の姿勢が更に下がった。
地面に付けた右腕を軸に回転蹴り。
そこからの地面から顎を狙う蹴りによる鋭いアッパーカット。
何とか避けたところ、軸の腕を左手に変えての更に回転蹴り。
こいつ……カポエラ使いか?
オウカちゃんから受け継いだ剣術オマケの無手格闘術では、腕で立った逆立ち状態から連続した回し蹴りを出して来る相手に対していなす技術はない。
「
何とか俺の身体と神父の脚の間にすかさず光の壁を展開して何とか防御する。
だが、盾の特性……瞬間的な衝撃には強いが盾を空中に固定する力はなく、押せば動くという欠点のために近接攻撃は完全に止められない。
盾ごと蹴りで数メートル吹き飛ばされて、激しく地面に叩き付けられた。
とんでもない剛力だ。
盾がなければ今の一撃で骨の数本は折れただろうし、内臓にも大ダメージを受けて瀕死になったに違いない。
威力自体は盾で防いだので、
鼻血が口に回ったようなので、唾と一緒に吐き出す。
「今のを防ぐとは……これならばどうです?」
神父が手のひらをかざすと、そこから白く光る球体が現れて俺の方に飛んで来た。
格闘だけではなく、魔法も使えるのか?
だが、こちらは先程の蹴り技に比べると精彩に欠ける平凡な攻撃だ。
「跳ね返せ!」
追撃のために向かってきた光の玉を盾の斥力で余裕で弾き返した。
2発、3発と飛んで来たが、全て跳ね返せるし、盾が消える気配も見せないので、攻撃魔法はそれほど得意分野ではなさそうだ。
あくまでも戦闘補助でしかないのだろう。
「来たれ、アルスカリ!」
神父がまたも両手を合掌させると、今度は神父の背後に3mほどの灰色の肌の巨人が出現した。
顔は中央に大きな目が1つ。
サイクロプスとかそういう類の巨人の仲間か?
格闘に攻撃魔法に召喚術。思っていたよりも多才な奴だ。
「パズズ! ラマシュトゥ! アポルオン!」
神父の叫びに答えるように、今度はライオンの頭と翼を持った男女と、馬の頭と翼を持った男……3体の使い魔が追加出現した。
多い、多い!
流石にこの数はなかなか厳しい。
小森くんとエリちゃんの2人がいれば何とでもなるだろうが、ここにいない人間の話をしても仕方がない。
手持ちのカードだけで戦うのが俺達の流儀だ。
「こいつは僕が止めますので、上戸さんは他の奴らを!」
神父は更に召喚を続けようとしたとこ、矢上君のジャック・オー・ランタンが飛び蹴りで飛び込んできた。
「アサルトラッシュ!」
「なんの!」
カボチャ頭が鋭いパンチを連打するが、それを神父はスウェーでギリギリ避ける、もしくはいなして防いでいく。
決定打には欠けるようだが、神父の両手はカボチャ頭の攻撃をガードするために塞がっている。
助かった。
これ以上数を増やされたら流石に対処が間に合わないところだ。
矢上君が攻撃を続けている間は、追加の召喚も、光るエネルギー弾の攻撃も来ることはないだろう。
召喚された使い魔連中の数を減らすのは今がチャンスだ。
盾を一度解除。
組み替えて増幅魔法陣に。
そしてまずは一番最後に現れた馬頭に狙いを絞る。
「
収束かつ増幅させた虹色の光を一瞬で叩き込んで最後に出現した馬頭が何かやる前に先手を打って粉微塵に吹き飛ばした。
顔と名前が一致しないままだが、数の時点で不利な状況で飛べる奴にウロウロされると更に不利になる。
出来れば他のライオン頭も巻き込むつもりだったが、こちらはライオン女の左腕を奪うだけに留まった。
今度は反撃で、ライオン頭の男女が何やらエネルギー弾を広範囲に無差別に撒き散らしてきた。
「くっ」
「こちらは何とか避ける。戦闘に集中してくれ」
攻撃は俺だけではなく、結界を描いている最中の麻沼さんや格納容器を確保している須磨さんの方にまで飛んでいった。
何とかエネルギー弾の直撃は避けたようだが、地面に着弾したエネルギー弾によって剥がれたアスファルトが飛び石となり、2人はそれで傷を受けたようだ。
流石に誤爆を恐れてか、神父と接近戦をしている矢上君の方にはエネルギー弾は飛んでいないが、こんな広範囲攻撃をいつまでも避けきれるわけもない。
「矢上君、増幅魔法陣が生きているうちに攻撃を!」
「
神父との小競り合いの合間にカボチャ頭が火の玉を放った。
その軌道上に増幅魔法陣を割り込ませることで威力を強化させる。
火の玉は1つ目巨人に命中して巨大な炎の柱となった。
強化された炎の柱の熱風が俺の方まで伝わって来て、チリチリと肌を焦がす。
ただ、強化した火柱でも流石に一撃で1つ目巨人を即死させる程の火力は出せなかったようだ。
巨人は肌を黒く焼かれながらも、火の玉を放った矢上君の方へ向かって歩いて行く。
あのまま神父に合流して1対2の勝負になるとまずい。
「大丈夫。トドメはこちらが」
そこへ銃声が4回鳴り響いた。
麻沼さんが隙をついて例の特殊弾を大盤振る舞いで4発撃ち込んだようだ。
1つ目巨人の胴体に空いた大きな穴は致命傷だったようで、巨人はそのまま霧散して消えていった。
これで2体。半分か
「弾切れです。後は任せます」
何故わざわざ弾切れを説明した?
残弾数の情報を出さなければ相手の油断を誘えたというのに。
……いや、流石にこれは弾切れだと相手を油断させて攻撃するかそのための布石だろう。
そうだと信じたい。
こちらも今のスキル大盤振る舞いで手品の種は品切れだが、それは言わずにスキルの次のチャージまでの90秒を持たせようとしているというのに。
とりあえず出来ることは鳥をまた5羽喚び出して次の攻撃に備えるだけだ。
「
早速全羽使い切って盾を展開。
空飛ぶライオン頭夫婦がまたも広範囲に放ったエネルギー弾から麻沼さんや須磨さんへの被害を防ぐ。
盾の強度は高いので一瞬で破られることはないが、このまま続けばジリ貧ではある。
「上戸さん、これを!」
その時、須磨さんが俺の方に何か棒状のものを投げてきた。
手を伸ばして空中でキャッチする。
それはひんやりと冷たい頑丈そうな金属の棒だった。
表面には何やら細かい紋様のようなものが彫り込んである。
よく見ると漢字だ。経文か何かか?
「
「ありがとうございます!」
警棒の先を掴んで延ばすと1.2mほどの長さになった。
この長さならば、刀の感覚で振るうことが出来る。
侍の能力を生かすには丁度良い。
まずは飛び回っている奴の翼を封じる必要がある。
「盾を解除! 全羽真上から翼を狙え!」
鳥達に命令して空を飛んでいるライオン頭2体を真上から狙わせる。
火力が低いのでそれだけで倒せるとは思わないが、鳥達のヒット&アウェイによる連続攻撃を鬱陶しがったのか、空を飛んでいたライオン頭が若干下に降りて来た。
狙うは先程左腕を爆散させたライオン女の方だ。
腕を失ったことでバランスを崩していたようなので、隙があった左足の脛目掛けて警棒を力任せに振り下ろした。
肉にめり込み、骨にヒビが入る感触と共に、ビリビリと俺の腕にも振動が返ってきた。
合金製の警棒も反動でメキメキと悲鳴をあげる程のクリティカルヒット。
流石にこれで効果がなければ嘘だ。
ライオン女の脚がダランと垂れ下がり、苦悶の声を上げた。
続けて今度は左足の膝頭を叩き割るように正眼に構えて振り下ろす。
俺の警棒から逃れようと高度を上げようとしたが、痛みによって冷静さを失ったのか非常にシンプルな動きだ。
この隙を逃す手はない。
鳥達を翼に向かって突撃させて一枚を付け根から抉り取った。
飛行状態を維持できなくなって高度を落としてきたところに今度は脇腹目掛けて胴薙ぎ。
返す刀で下方面から上へと振り上げる逆袈裟。
怯んで無防備になった腹へと鳥を突撃させて大きく傷を刻み込んだ。
連続攻撃のトドメは腹の傷目掛けて至近距離からの圧縮極光。
増幅なしではあるが、流石にスキルの全てのエネルギーを傷口から体内に流し込まれたらひとたまりもないはずだ。
ライオン女はそのまま何歩か後ずさりで歩いた後に、万歳のポーズをして……爆散した。
「何故爆発した! お前は特撮の怪人かよ!」
◆ ◆ ◆
神父は思っている以上に強かった。
カボチャ頭の連続攻撃がまるで通用しない。
ひたすら速度を上げても単純な攻撃だと巧みに裁かれてしまう。これが技術の差か。
「ジャッコ、防御を!」
ガード姿勢を取らせるも、強烈な蹴りでガードの上から吹き飛ばされる。
力でも負け、技術でも負け……このままでは負ける。
横目で今の状況を確認する。
須磨さんは格納容器を持ったまま走り回ってライオン頭からの攻撃を避けている。
それを阻止しようと上戸さんが残ったライオン頭に攻撃を仕掛けるが決め手がない状況だ。
麻沼さんは地面に何か魔法陣のような図形を描くことに集中している。
僕1人で決めるしかない。
「なら火を放て!」
カボチャ頭が手のひらに火の玉を浮かべた。
これを何も考えずに放ったところでまともに当たるとは思っていない。
なので、この火の玉を真下……足元へと叩き付けた。
当然カボチャ頭の全身が炎に包まれる。
もちろんカボチャ頭だけではない。
攻撃の隙を狙って飛び込んできた神父も気付いた時には既に炎の絨毯に巻き込まれていた。
しかも逆立ちの姿勢から踊るようにして攻撃を仕掛けるカポエラの構えだったからこそだ。
元に腕と顔へもろに地面から吹き上がった炎を受けた。
逆立ちの姿勢を止めて足を地に付けて逃れようとしたところ、カボチャ頭が全身を燃やしながらその背中を力任せに踏みつけた。
「ラッシュだ。反撃の隙を与えるな!」
命令を受けたカボチャ頭は、そのまま神父の背中に高速でストンピングを開始した。
ここで決めるしかない。
逃れられるとまた一気に不利になる。
地面から噴き上がる炎が止まったら終わり。
カボチャ頭が炎のダメージに耐え切れず消滅しても終わり。
それまでに神父へ再起不能のダメージを与える必要がある。
「こいパズズ! 私の援護に入れ」
「そうはさせません!」
上戸さんが相手をしていたライオン頭の胸に大きな穴が開いた。
麻沼さんの手にはハンドガンが握られており、その銃口からは硝煙が立ち昇っている。
どうやら麻沼さんが特殊弾を発砲して、その銃弾が胸を貫いたダメージのようだ。
「弾は尽きたはずじゃ……」
「知らなかったんですか? 女性は嘘つきなんですよ。少年は覚えておきなさい」
更に2発目が放たれた。
今度は脳天を貫いたことでライオン頭は跡形もなく消滅していった。
ここで炎の柱による炎は消え、アサルトラッシュの効果も終了した。
ただ、神父がまともに立てないくらいのダメージを与えることは出来た。
「よくやってくれたよ、ジャック・オー・ランタン」
ライターを消火してカボチャ頭を送還する。
「だが私はまだ動ける……第二ラウンドの開幕だ」
神父がよろよろと力なく立ち上がる。
だが、この勝負が決していることは僕も、上戸さんも、麻沼さんも理解している。
「第二ラウンドはありません。気付いていないのですか?」
上戸さんが指で空を指した。
今は冬の夜空はまるで見えず、ただ黒いドームのような空間が周囲を覆いつくしている。
「奇門遁甲。私が先程から描いていた陣です。この中では先程のような召喚術はもう使えず、脱出することも出来ません」
「そんな中途半端な陣など力任せに破ってやる」
「無駄ですよ。賢者バルザイの作った伝説の儀式刀、バルザイの偃月刀で描かれた魔法陣。効果は通常の数倍あるでしょう」
麻沼さんが黒い刀身の短剣をわざわざ見せつけるように神父に向けた後に上戸さんに渡した。
短剣を受け取った上戸さんは神父へ近付き、胸元にぶら下げていた赤い宝石の鎖を断ち切った後に、神父の胸に星マークのようなものを刻み込んだ。
「
「こんなもの、傷で上書きしてやればすぐに消える!」
神父はまだ抵抗するつもりのようだ。
「言っただろう、第二ラウンドの始まりだと」
「それほどダメ押しが希望ならば望みどおりにしてやろう。行けるな、矢上君」
上戸さんが僕に下手糞なウインクをしてきた。
意図は分かるが、かなり下手糞だ。
綾乃がギャグでやる時よりも下手糞だ。
片目をつむった時にもう片目が白目を向いていたり、無理に目をつむろうとしているからなのか、何故か口角まで上がっているのがなお酷い。
「ジャッコには負担がかかるかもしれませんが、まだいけると思います」
「では2人がかりで行こう。俺達の怒りはこの神父にぶつけよう」
ライターを再点火してカボチャ頭を喚び出す。
まだ全身が焼け焦げており、ダメージは癒えていないようだが、最後のトドメだけだ。もう少しだけ頑張って欲しい。
その気持ちが伝わったのか、カボチャ頭は僕を見て頷いた。
そして上戸さんも鳥の使い魔を喚び出した。
数は5羽だが、それだけでは終わらないとばかりに、右手に警棒を構えて神父へ近付いていく。
「行くぜダメ押しラッシュ!」
「ジャッコ! アサルトラッシュ!」
カボチャ頭が拳の連打を神父の全身に打ち込んだ。
もはや神父にはガードする体力が残っておらず、サンドバッグを打つような打撃音だけが辺りに響き渡る。
更にカボチャ頭の攻撃の合間に上戸さんが警棒での乱打と鳥の使い魔の体当たりを当て続け、神父の全身が一瞬でボロボロになっていく。
「これでトドメだ!」
ラッシュ完了後にカボチャ頭が回し蹴りを放ち、完全にトドメを刺した。
「勝負ありだ! 知ってることを全部吐いてもらうぞ!」