「矢上君が持ち帰ったリストを上司に照会してもらいます」
取引で手に入れたリストを麻沼さんがスマホのカメラで撮影。
更に今度はアプリを起動してもう一度撮影。
「ダブルチェックです。読み取りアプリが正しいかチェックしてください」
麻沼さんに見せられたスマホの画面には印刷されたリストの文字部分が文字データとして取り込まれていた。
「アプリで取り込むと一部文字が変になる時があるんですよね。だから念のために写真も送るんですけど」
「データで送った方が調べるのが早いってことですよね」
「上司も人間ですから入力を間違えることもありますからね。コピペだと間違えないので」
それもそうだと納得して紙と電子のリストをチェックしていく。
流石に漢数字「一」と「-」や漢字が中国の繁体字が混じり込んだりはあるも、概ね合っていた。
おかしなところを指摘。麻沼さんが修正した後にメールで送信する。
そして、校正の時に気付いたのだが、リストのうち2人は僕達の学校の生徒で、先程召喚能力を消したばかりだ。
10人分の情報が手に入ったと思ったら2人分が被って無駄になったようだ。
「ハズレですね。2人分損しました」
「いえ、逆に言うとこのリストの情報は正しいということになります。それでいて、敵はまだ私達の活動を把握出来ていないという証明でもあります。当たりですよこれは」
そういう考え方も有るのか。
理屈を聞くと納得だ。
「次は私達でも出来ることをチェックします」
「このリストで何か分かりそうですか?」
「たとえば住所です。リスト上から港南、磯子、金沢、栄と横浜の南部にある区が3、2、3、2で並んでいます。これで10人」
「区で分かれているとなると、名前の方も並び順に法則がありますね」
「50音順ですね。『え』江田『す』墨田『た』田中の後に『い』飯島『お』織田と」
住所が綺麗に分かれていることと併せると、元々リストが4つあって、その上から順番に抜き出したとしか思えない。
「そして3番目……今の事件に関わる前に和泉が別の事件の調査でメダルを見付けたのと同じエリアです」
麻沼さんは言いにくそうに少し間を開けた後に続けた。
「おそらく能力者同士の戦闘が有り……数名が亡くなりました。犠牲者の名前はリスト3項目の2人目と3人目に収まります」
「これ、リストの上から集めてますよね。なんでこんな雑なことを?」
「時間がなかったんでしょう。メダルを集めろと言う工作は本日の早朝。そして全校集会が今朝の9時から。まさかこの昼過ぎにメダルを持った能力者が早くも換金に来ると思わなかった」
「じゃあ印刷したてっぽい、まだ暖かかったこのリストが出てきたのも……」
「準備が間に合っていなかった上に、矢上君が途中で帰るフリをしたせいで慌ててその場で作ったからでしょう。しかも自分で5分なんて制限まで付けてしまった」
他におかしなところはないかと見ると、リストが印刷された紙の上の方を見るとハサミで切り取ったような跡が有った。
用紙のままだと綺麗な直線になるはずなのに微妙に斜めに傾いている上に一部が歪んでいる。
「わざわざ切ったってことは、もしかしてファイル名が表示されていたんでしょうか?」
「それはあり得ますね。ファイル名だけじゃなくて印刷したユーザ名やフォルダ名も出ていたのかも」
「設定を変更して印刷し直せば良かったのに」
「修正も再印刷する時間もなかったんでしょう。ハサミでファイル名のところだけ切り取る方が早かった」
「雑だなぁ……」
「こっちがスピードで攻勢を仕掛けたのが効いているんですよ。人数不足で細かい工作をするのに手が足りないという証明です」
更によく見ると僕達の学校のリストの部分だけ罫線が二重になっている。
僕達の学校のリストの1番2番は新坂君と友瀬さんなので一度張り付けた後に、友瀬さんが同行していることに気付いて慌てて3番目、4番目を上書きしたせいでおかしくなったのだろう。
「今気付いたことについてもメールで報告します。こうやって何人かで考えを持ち寄れば更に気付きがあるものです」
麻沼さんが今の内容を文章にまとめてまたもメールで報告した。
5分くらい次のリアクションを待っただろうか。
麻沼さんのスマホから電話の着信音が鳴り始めた。
「上司からです。調査結果が出たのだと思います」
麻沼さんが電話を取った後にいくつか話をした後に電話を切った。
「結論から言うと移動です。これから横浜市南のエリア……金沢区の方へ向かいます」
麻沼さんはそれだけを言うと荷物をまとめ始めた。
「以前の事件で数枚のメダルが見つかったと説明しましたよね。実はその際に事件現場近くの高校に通う生徒を容疑者として絞り込んでいます。証拠がないのでそこ止まりでしたが」
「その中の誰かがこのリストに?」
「逆です。容疑者はこのリストに載っていなかった。なので、その容疑者がこのリストの生徒を狙ってくる確率が高いと見込まれます」
「つまり、僕達はこのリストの生徒を護衛しつつ、敵を迎え撃つ。そういうことですね」
「その通りです。時間が惜しいので今からタクシーで向かいますよ」
麻沼さんはそう言うとタクシーを呼び留めた。
僕と友瀬さんは後部座席に乗り込む。
「料金は心配しないでください。経費は事務所が出してくれます」
◆ ◆ ◆
矢上君がリストの入手に成功したという情報は八頭さん経由で一斉に俺達に拡散された。
リストに記載された生徒の氏名と住所は間違いなく実在の人物という確証も取れたらしい。
では、こちらでも改めてリストの吟味だ。
リストが4つあると仮定して、それぞれa、b、c、dと名付ける。
ここからは簡単な計算のお時間です。
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まず、前提条件としてa+b+c+d=35
小森くんの高校からは9名は確定しているのでa+b+cは26である。
26Σa-0……と書いたものの、これだと流石に要素が多すぎるので途中で止めて絞り込み。
神父の発言に「海沿いに行ってみよう」という発言が有った。
あれは、例の幽霊屋敷こと廃アパート地下の施設のことを指していると考えていたが、50人の能力者が揃っておらず、35名でストップしていたと考えるとどこか少ないエリアが有ったと考えられる。
仮に少ないエリアをcと仮定するとa>cでありb>cである。
aとbは現時点だとどちらが多いのかは不明。
わざわざ「少ない」というくらいだから、b>cの差は1ということはないだろう。b-c≧2だ。
その上で、和泉さんが以前に能力者同士のバトルが行われた痕跡と、その過程で出たであろうメダルを入手しているという事実が有る。
探偵達が確保したメダルの数は6枚。
議員や神父の話から、それ以外に2名が亡くなっているようだ。
その際に出現した2枚のメダルは教団に回収されていると思って良いだろう。
また、新坂家でも2人の能力者が死亡してメダルが2枚排出されている。
彼らの所属はa、b、cのどこかは不明。
俺の予想としては新坂家を襲撃したのはbの一団だと予測している。
bに所属する能力者は6名の能力者を倒しており、かなり好戦的なグループと言える。
このことから、偶然に得られた召喚能力で万能感を得たつもりになった能力者が調子に乗って仕掛けて来たと考えている。
つまり、a+b+c=26-10で16になる。
新坂家以外は海沿いで隣接したbとc間で抗争があったと仮定する。
bとcから8を引く。矢上君が入手したリストからbは3、cは2が最低確保されている。
……違うな、bグループにはこの抗争で能力者を倒した容疑者がいるからbは4保証だ。
以上からa+b+c=16であり、b≧4、c≧2であり、a>b>cである。
という条件で計算をしてみると5パターンに絞られる。
a=10 b=4 c=2
a=9 b=5 c=2
a=8 (b=6 c=2) or (b=5 c=3)
a=7 b=6 c=3
ここで10名が犠牲になっているということを忘れてはいけない。
b>cなのだから、10を引く前のcがbより多くなってはいけないのだ。
下3パターンはcが元々bより多かったことになってしまうので除外だ。
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つまりa=10 b=4 c=2かa=9 b=5 c=2の2択だ。
小森くんたちが現在aを調査中。
矢上君達はbの調査に向かった。
ならば俺の仕事は一番簡単なcの調査だ。
2人の名前も住所も分かっているのだから、それを調べれば終わり。
人生手抜きが一番だぞ。
という計算をメモ帳に書き込んでいると、
「数学が素晴らしいとか言っちゃうタイプ?」
「数学者には解けない問題です。むしろ、数学が素晴らしいと言ってる人ならゲバ棒で殴りかかってくるレベルの暴挙ですよ、今やってることって」
今の考察を八頭さん、和泉さん、麻沼さんにメールで伝える。
「因みに答えはa=10 b=4 c=2の組み合わせです」
「根拠は?」
「地下の遺跡に近く、神父が拠点にしていたことから考えてaが多いのは当然です。この学校の能力者の人数からaも9か10のどちらかだと判断しました。人数が多いからこそ管理のために
「答えが推理で出せるのに、さっきの計算って必要だった?」
「数字は嘘をつかないが、詐欺師は数字を使うという言葉を聞いたことは?」
「やっぱり貴方って詐欺師じゃないの?」
「それは流石に失礼ですよ」
だから数学者には解けない問題だと言ったじゃないか。
「手元にある情報から推理で答え出して、その根拠を示すために計算式の方を後から作っているので、絶対に計算は合うんですよ。だからこれは数学ではありません。数字のマジックです」
「情報が間違っていたら?」
「必要なのは答えであって計算式とか聞いていないので、そんなの持ち出してくるのは、もう犯人にして良いんじゃないかと」
「なら計算が間違っているといわれるんじゃ?」
「その場合は『では正しい計算式と答えをください』と要求します。まあ未確定事項が多すぎて計算では解を出せなくて回答出来ないんでしょうけど。人を動かすのに必要なのは正確な答えではありません。納得です」
「後から本当に正しい計算と答えが出てきたら?」
「正しい答えを出せるのは全てを知っている黒幕だと思うので、その場で『あなたを、犯人です』と処刑ショーを始めます」
「あなた『が』じゃないんだ」
「必要なのは答えであって計算式とか聞いていないのに、そんなの持ち出してくるのは、もう犯人にして良いんじゃないかと」
大城戸可奈が何かを言いたいのか口をパクパクと開け始めたが、何の言葉も出てこない。
呆れているのか、他に言いたいことを思いつかないのかは不明だが、これで勝ちだ。
現在の能力者の数は16人。
これは、カーターが持つ魔力結晶で能力を消せる人数だと2人足りないが、赤い宝石を壊して良いのであれば矢上君、柿原さん、友瀬さん、木島君を含めて6名。
教団の中にいる2人の能力者のことをカウントしないならばギリギリ収まらなくもない。
小森くんから能力を消したことにすれば「魔力結晶はすっからかんです。私達は何も出来ません」と探偵達と手を切る根拠にも出来る。
綱渡りだが、何とかハッピーエンドが見えて来た。
「では大城戸さん、一緒に行きますか」
「なんで? 私は敵なんですよ」
「だからですよ。私と一緒にいる間、あなたは教団や議員や父親……東議員の秘書達に連絡を取ることが出来ない。敵の情報源を断つのは基本です。それに、あなたを連れ回す意味は他にあります」
「人質……ですか?」
まあそれもある。
もう一つの理由は、ここで聞き込みと能力者からの能力削除に協力させれば、探偵達には彼女を説得したところ、正義に目覚めて教団と父親を裏切ったと言い訳を出来るからだ。
あとは木島君と同じように保護観察扱いにすれば、高校中退は避けられるだろう。
その後のことは、まあ本人が頑張って欲しい。
全員を取りこぼしなく助ける、完璧に勝つとはこういうことだ。
小森くんや矢上君がみんなを助けたいと言ったのだから、保護者の立場としてはもちろんそれは可能な限りサポートするつもりだ。
そうでなければ会社に嘘をついて休みを取って学生ごっこをやった意味がない。
「もちろんあなたに危害は加えませんし、拘束をするつもりもありません。このまま人質として、しばらく私達の仲間として事件解決にご協力ください」
◆ ◆ ◆
リストcの調査はあっさりと完了した。
現地で須磨さんと合流した後、リストにあった飯島、織田の両名に接触。
須磨さんが警視庁公認団体の名刺を出した上で、今ならば警察が保護するし、変な能力も消して、おかしな連中のターゲットから外せると告げるとあっさり応じてくれた。
あとはカーターが待機している病院に向かって能力を消去すれば終了である。
俺の担当分だけあっさりと仕事が終わって申し訳がない。
八頭さんに報告すると、aの方……弥寺さんが通っていた高校の方でも動きがあったようだ。
その高校内でも能力者同士が集まって助け合いのグループを作っており、情報の収集や交換などを行っていたようだ。
小森くん達がそのグループとのコンタクトに成功したようで、今から話し合いの場を持つらしい。
詳しい状況は分からないが、ここは高校生同士の話し合いの方が綺麗にまとまりそうだ。
例のヒューリーチケットを持った連中さえ来なければ、ある程度平和裏には終われそうである。
「ところで君達の仲間が狙われたはずなんだが、詳しい話を聞かせてくれないかい」
「能力が身を隠すこと特化だったので、何とか逃れられたんだけど……」
助け出した2人のうち飯島君の方が答えてくれた。
「あいつは仲間ごと無差別に攻撃を仕掛けていた。ヤバいやつだったよ」
「他には? 仲間はいなかった?」
「だから言っただろ。仲間ごと一緒に攻撃して暴れまくったんだよ」
どこまで本当かどうかはともかく、敵の能力者の情報が事前に分かるのはありがたい。
事前に矢上君に伝えておくと戦闘の役に立つかもしれない。
ただ、今の話だとかなりの攻撃力の持ち主だ。
矢上君だけだと危ないかもしれない。
少し悩んだ後、和泉さんに電話を掛けて、今の聞き取り内容を伝えた。
「和泉さんは以前にその地域での事件の調査を行っていたと聞きました。調査内容を活かせるかもしれませんので、矢上君や麻沼さん達の援護に向かえないですか?」
『こちらとしても抜け出したいが、これから接触する高校生グループはやはり警察による保護を求めている。私が抜けて高校生だけになると交渉自体が失敗する可能性が高い』
それは確かに分かる。
俺が飯島、織田の2人にスムーズに接触出来たのも須磨さんが持っていた警視庁公認団体の名刺があり、警察が保護すると約束したことの影響が大きい。
須磨さんはというと、たった今確保したばかりの2人をカーターのところに連れて行く役目がある。
能力消去後は、警察が警戒出来る場所への移送だ。
手が空いているとは言えない。
『事情は理解した。こちらも交渉が済み次第、援護に向かうことにする。調査中のファイルも麻沼に転送しておく』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そうなると援護に駆けつけられそうなのは……俺だけだ。
だが、俺は俺で大城戸可奈の動きを封じておかないといけない。
こいつが情報を秘書に伝えたら、現在進行中の電撃作戦は破綻する。
そして、能力者でもない大城戸可奈を戦闘が発生することほぼ確定の現場に連れて行くわけにはいかない。
流石に危険すぎる。
どうしたものか……。
「では行きましょうか」
俺が悩んでいると、大城戸可奈はさも当然のように俺へ呼びかけた。
「行くってどこへですか?」
「矢上君の援護に向かうのでしょう? 早い方が良いですよ。一緒に行きましょう」
「行くって……かなり危険ですよ」
「危険を恐れていては、こんなことなんてしていませんよ。それに……護っていただけるのでしょう」
なんともやりにくい相手だ。
流石、秘書の娘で教団の工作員として様々な活動をしていだけのことがある。
腹が据わっている。
ならばこちらの彼女を精一杯利用させてもらおう。
もちろん、彼女に傷1つ付けさせるわけにはいかない。
全力で護り抜いてみせる。
「ご協力感謝いたします。では、参りましょうか、お嬢様」