収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第51話 「ジャック・ザ・リッパー」

「おい、なんでこんな事になってるんだよ!」

 

 峰岸冬也(みねぎしとうや)君がストレッチャーに乗せられて運ばれている2人に駆け寄った。

 

「おいっ、しっかりしろよ! 何があったんだよ……」

 

 峰岸君はその腕を掴もうと手を伸ばした刹那、脇から救急隊員が鋭く声を上げた。

 

「危ないから下がって!」

「でも、こいつら俺の――!」

「ダメだ、処置の妨げになる!」

 

 救急隊員に何を言われても食い下がる峰岸君の前に事情聴取にやってきていた警察官が手を広げて立ちはだかった。

 

「友達か? 気持ちは分かるが落ち着いて」

 

 峰岸君が警官に制止されている間に救急隊員は2人を救急車に乗せた。

 扉が閉められ、サイレンを鳴らして救急車が走り去る。

 

「くそ……なんでこんなことに」

 

 峰岸君はそのままうずくまった。

 ただ嗚咽の声だけが聞こえてくる。

 

「上戸さん、あの人は?」

「リスト3番目の峰岸君です。矢上君から連絡を受けてから、すぐに使い魔を飛ばして自宅を見たら、丁度自転車でどこかに行こうとしていたところだったので、こちらに連れてきました」

 

 2人は流石に間に合わずに負傷させてしまったが、それでも1人は何とか襲われる前に身柄を確保することが出来た。

 負傷した2人とは友人だったのだろう。

 

「犯人は多分まだ近くにいます。容疑者は和泉が追っていた大胡一誠(だいごいっせい)

 

 麻沼さんが和泉さんから送られたという資料を見せてくれた。

 顔写真もあるので、これは追跡の参考になるだろう。

 

「上戸さんの能力で追跡出来ますか?」

「流石にこれだけだとちょっと……もう少し情報が欲しいです」

 

 ただ、流石にこの広い町の中から1人の人間を探すというのは難しい。

 

 友瀬さんのアルゴスもこれだけ人間が多い町の中だとキャパオーバーだろう。

 

 もう少し調査範囲の絞り込みが必要だ。

 そのための情報源……キーパーソンが峰岸君だ。

 

 彼はまだうずくまったまま微動だにしていない。

 辛い気持ち、今はそっとしておいて欲しい気持ちも理解できるが、それでも今は少しでも情報が欲しい。

 

「私達は2人を負傷させた犯人を追おうと考えています。ただ、それには情報が必要です。力を貸してください」

「話すことなんてない……」

 

 峰岸君は震える声で答えた。

 

「それでもお願いします。あなたの協力が必要です」

「そもそも何なんだよお前は! お前らがやったんじゃないのか? この前の報復で!」

「報復?」

 

 つまり、誰かに何かをやったのは相澤、烏野、そしてこの峰岸君のグループの可能性があるということか。

 そして、今回の事件はその報復だと思っていると。

 

 どうも素直に同情出来る感じではなさそうだが、それはそれだ。

 そういう立場ならば、ここは国家権力の力を借りよう。

 

「麻沼さん、お願いします」

 

 麻沼さんに声を掛けると、意図を察してくれたのか名刺を取り出して峰岸君に近付いた。

 

「峰岸君ですね。幸徳井(こうとくい)探偵事務所の麻沼と申します」

「探偵?」

「はい。警視庁公認団体で警察とも協力して刑事事件の調査協力などを請け負っております」

「警察?」

 

 峰岸君がびくりと肩を震わせた。

 だが、まだ視線は上げない。

 

「先日発生した事件との関連について調査をしております。よろしければ少しお話を」

「し……知らない」

 

 峰岸君がよろよろと立ち上がった。

 

 視線を麻沼さん、すぐ後ろにいる警察官、そしてパトカーの間を行ったり来たりさせながら後ずさりを始める。

 

「大胡一誠君とはお友達ですか?」

「知らない! 俺は何も知らない!」

「落ち着いてください。別にあなたに危害を加えようなどとは思っていません」

「だから知らないって……」

 

 知らぬ存ぜぬで逃げ出すつもりか。

 ならばこちらもアメとムチを用意しよう。

 

「私からも少しよろしいでしょうか?」

 

 挙手しながら峰岸君に近付く。

 

「おそらくあなたも命を狙われています。いつ相澤君達のようになるか分からない状況です」

「まさか……そんなことは……」

「なので、警察があなたの保護をします。いかに凶悪犯相手とはいえ、あなたに手出しはさせません」

「凶悪犯? ああそうだ。おかしな連中が俺達を襲ってきておかしくなったんだ。助けてくれ」

「おかしな連中というのは?」

「なんか……他の高校の連中だ。詳しいことは分からないが、いきなり襲われたけど大胡クンが護ってくれたんだ」

 

 知らない話が出てきたな。

 

 この峰岸君の証言が正しいのであれば、和泉さんが追っていた事件はこの地域と別の地域の能力者同士で戦闘になり、お互い数名が死傷したということになる。

 

 これは一方の証言だけなので、どこまでが本当の話なのかはこの場ですぐに確認する方法はない。

 

 ただ、和泉さんが追っていた事件については後回しにしても問題はない。

 

 既に終わってしまっている事件だ。

 

 ここで新事実が判明しても、亡くなった犠牲者が急に生き返るわけではないのだから、後でじっくりと調査していけば良い。

 

 現在、俺達が最優先で解決すべきは、この学校に通う能力者2人をナイフのようなもので刺して逃走した凶悪犯を確保することだ。

 

 犯人を野放しにすると更なる犠牲者が発生する可能性が高い。

 それだけは阻止しなといけない。

 

「はいもちろんです。ただ、その大胡君も、もしかしたら凶悪犯に狙われる可能性があります」

「そう……そうだよ! 俺も大胡クンもその凶悪犯に狙われる。狙われてるんだ!」

 

 最初に出た「報復」とはこのことか。

 

 自分達がやり過ぎたことは自覚しており、友人達が刺された今回の事件も報復だと考えている。

 

 大胡君とやらが主犯の可能性は考えていなさそうだ。

 

「では、大胡君も保護が必要です。行き先について何かかご存じないですか? どこかに行く用事が有ったとか?」

「昨日の夕方にリストが届いて……そう、バイト。バイト先からリストが届いたので、多分今日はそのリストに載ってるとこに向かったんだ」

 

 リストというと、矢上君が入手した能力者一覧を連想するし、状況からしてその可能性は高そうである。

 

 おそらく秘書か教団から能力者のリストを送られたので、それを元に襲撃の計画を立てたのだろう。

 昨晩の新坂家襲撃もその一環である可能性は高い。

 

 もしかしたら刺された2人はその襲撃計画に反対した結果、ああなったのかもしれない。

 

「バイト先からですか。そんなものを直々に送ってもらえるとかすごいですね。大胡君は余程信頼されているようで」

「そうだよ、大胡クンはすごい」

 

 すごい。

 全部喋ってくれそうだ。

 

「そのリストは大胡君だけに届いたのですか? それともお仲間6人全員に?」

「あれ、仲間が6人って言ったっけ? リストは大胡クンだけに届いたけど、全員に転送してくれたよ」

「なるほど。では、そのうち2人が大胡君に抜け駆けしてリストの一番上に向かったんですね。許せないですよね」

「ああ。その上で戻ってこないのは返り討ちにあったんだろうな。今はどんな状況か知らねえけど、キチンとやり返さないと」

 

 これで確証が持てた。

 

 こいつらの仲間は刺された2人、峰岸、大胡、そして昨晩に新坂家に襲撃を掛けてきて返り討ちにあった2人だ。

 

 こいつが持っているリストに新坂君の名前があれば、それは分かりやすい証拠となる。

 

 では、次はそのリスト提出といただこう。

 上着のポケットからスマホを取り出す。

 

「では、いつまでもここにいると危険ですが、連絡を取り合えないと不便ですので、連絡先の交換をいただけないでしょうか? LINEで良いですよね?」

「ああ、もちろんだ。俺のIDはと」

 

 峰岸君がスマホを取り出してロックを解除したところ、素早くそれを取り上げる。 

 

「何やってんだ! 返せ!」

 

 などと言って向かってきたので腕を掴んで勢いを生かして投げ飛ばす。

 

 峰岸君が倒れているうちに素早くメーラーを起動。

 

 一覧から大胡君から転送されたであろうメールを発見。そのまま八頭さんのアドレスを素早く打ち込んで転送する。

 

 転送後はメールを開いてリストの中身を確認する。

 

 リストのフォーマットは矢上君が入手したものと同じだ。

 もちろんリストに記載されている名前は異なる。

 

 たとえば、相澤、烏野、峰岸というこの学校の生徒達の名前は載っていないし、小森くんが交渉中の学校の生徒一覧のメンツも違う。

 

 何より決定的な違いはリストの1番上は新坂君。2番目は友瀬さんになっていることだ。

 

 これでほぼ確定だ。

 こいつらはこのリストに従って新坂家に襲撃を掛けた。

 

 スマホを麻沼さんに投げて渡す。

 

特殊詐欺(・・・・)事件に関連したと思われるメールがあります! そこには昨晩襲撃を受けた新坂家の住所があります!」 

  

 麻沼さんや、事情聴取に来ていた警察官も今の一言で状況を理解出来たようだ。

 

 世間的には昨晩の新坂家襲撃は特殊詐欺グループによる犯行ということになっている。

 

 横浜市内の各高校で行われた全校集会でも、そのような説明がされて生徒は注意しろと勧告まで出ている。

 

 そんな状況で新坂家の名前と住所が記されたリストが送付されたメールがスマホの入っている人間はどういう扱いを受けるか?

 

 もちろん、これだけで実刑に繋げるのは難しいだろう。

 

 それでも、事件に関する重要な証拠を持っている参考人として任意の事情聴取を行うには十分な正当性はある。

 

 更に凶悪犯に狙われている可能性があるので保護しないといけないという理由も重ねられる。

 

 麻沼さんがその画面を確認後、峰岸君に突きつけた。

 

「すみません、このメールについて、いくつか聞かせていただけますか?」

「し……知らない。迷惑メールだろ」

「はい、迷惑メールの可能性もありますね。ただ、このメールは『大胡クン』という人物から転送されています。彼にも事情を聞きたいのですが、今はどこに?」

「え……駅」

「どこの?」

「能見台……」

 

 それだけ分かれば十分だ。

 

「麻沼さん、この学校での事件の処理と峰岸君については任せて大丈夫でしょうか?」

「はい。大胡クンとやらを確保したら連絡ください」

 

 後のことは任せても良さそうだ。

 

「矢上君、友瀬さん、連戦になりますけど行けますか?」

「僕は大丈夫です」

「わ、私も」

 

 2人はOKのようだ。

 

「大城戸さんももう少しお付き合いください」

「仕方ないですね。速やかに決めてください」

「それはもちろん」

 

 俺達は待たせていたタクシーに全員で乗り込んだ。

 目指すは大胡とやらが待っている駅だ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 駅に到着したのは学生達の帰宅後、社会人の帰宅ラッシュはまだもう少し先という合間の時間帯だった。

 

 わずかに歩いている学生達も少しでも早く駅に帰ろうとしているのか、すぐに駅舎の中へと消えていき、ターミナルで待っている人間はほぼいない。

 

 そんな中、何をするでもなく駅舎の壁にもたれかかっている高校生らしい少年が1人いた。

 

 顔やフード付きのコートは和泉さんから送っていただいた資料の通りだ。

 大胡一誠で間違いないだろう。

 

 コートはミリタリーチックのカモフラージュ柄。

 もし返り血が付いてたとしても、元々のデザインに紛れて気付くことはなさそうだ。

 

 ただ、俺の推理通りならば相手は召喚能力者を何人も倒している手練れだ。

 

 戦闘するにしろ話し合うにしろ、慎重に事を進めたい。

 

 タクシーの運転手には一度駅前ターミナルを一周してもらった後に、少し離れた公園で降ろしてもらった。

 

 街路樹や建物が間にあるので、大胡君が俺達に気付くことはおそらくないだろう。

 

 カードで料金を支払って領収書を貰って車を降りる。

 

 タクシーが引き返してから作戦開始だ。

 

「友瀬さん、お願いします」

「分かっています。あの駅前に立っている人ですね」

 

 すぐに分析が開始されてデータが表示される。

 

 大胡一誠の名前に間違いはない。

 

 使い魔の名前は「ジャック・ザ・リッパー」

 

 刃状のエネルギーを自由に出して攻撃が可能なようだ。

 

 ついに神話の神やモンスターですらなくなったが、都市伝説の怪物という意味では同じか。

 

 どうせ、伝説上のモンスターを喚びだしているのではなく、別世界から召喚された不確定な精霊的なものにイメージで形を与えているだけなので、モチーフは何でも良いのだろう。

 

 全員で友瀬さんの出したコンソールを眺めていると、突然にその画面が真っ暗になった。

 

「ダメです、倒されました」

「倒されたって、監視の子機が?」

「はい」

 

 まさかもう気付かれたのか?

 大胡の動きを把握出来ないのはまずい。

 

 仕方なく、俺も鳥の使い魔を喚び出して1羽を駅方面へ向けて放つ。

 

 偵察に出した鳥の使い魔の視点をチェックする。

 

 標的まで300m……200m……100m……

 

 50mまで近付いた時に突然に映像が途絶えた。

 

「まさかやられたのか?」

 

 ある程度の距離まで近付いたら察知されて攻撃されることは予想はしていたが、それでも相手の攻撃を見切れないまでとは思わなかった。

 

 2羽目の使い魔を放つ。

 

 ただし、今度は1羽目と異なる動きを取らせる。

 

 顔などは分かっているのだから、近くから詳しく視る必要はない。

 だいたいの動きを把握出来れば良い。

 

 上空から俯瞰させるように高く真上へと飛行させる。

 

 大胡本人は駅前から俺達がいる公園の方までゆっくりを歩いている。

 

 両手はコートのポケットに突っ込み、使い魔は出していないように見えるのだが……

 

 ここからは検証作業だ。

 

 3羽目の使い魔を放ち、2羽目より高い位置に移動。

 

 2羽目は現在の高度は約100m。

 これを大胡君に向けて降下させる。

 

 周辺のビルや電柱などが高度の目安だ。

 

 90m……70m……何も起きず。

  

 50mに入った時に大きな変化があった。

 

 鳥の真上……死角に突如として巨大なカミソリのような刃が何の予兆もなく出現して、鳥の使い魔を一撃で分断した。

 

 道理で攻撃が見えないわけだ。

 

 しかも、刃が出現してから鳥を分断するまで、大胡は一切空を視ていない。

 

「半径50m内に接近した相手に対して刃を出現させて攻撃する能力。その発動は自動(オート)

「自動攻撃って……」

「その能力プラス任意発動出来る能力もあると考えて良い。今のところ使い魔が一瞬でやられているだけだから攻撃力については不明だが、過去の事件を見る限りは並の人間ならば直撃すると危険なことは分かる」

「そんなのどう対処すれば……」

「万能の能力なんてない。冷静に観察すれば対応策はあるはずだ」

 

 再度鳥を5羽召喚。

 5羽を一斉に放つ。

 

「友瀬さんも子機を複数飛ばしてください」

「わ、わかりました」

 

 赤いクジャクの尾羽から複数の眼球のような子機が現れて飛び出した。

 

「3、2、1でかかります。タイミングを併せてください」

「カウントお願いします」

「3……2……1!」

 

 アルゴスの子機と鳥の使い魔が一斉に接近する。

 

「両方併せて数は10体……これをどう捌く?」

 

 まずはアルゴスの子機2体に刃が襲いかかる。

 

 3秒間隔を空けて再度子機2体を撃破。

 

 更に3秒後に今度は鳥の使い魔2体が撃破。

 

「3秒間隔だと分かれば、その瞬間に回避運動を取ればいい!」

 

 残る3羽の使い魔をランダムに高速移動させると、2枚の刃が動きが遅いアルゴスの子機を襲った。

 

「狙いを付けられない場合は弱い個体から仕留めにかかる」

   

 3秒後に再度攻撃が来たが、今度も避けることは出来た。

 

 更に3秒後……攻撃は来ない。

 

 成果としては十分だ。

 鳥達を帰還させる。

 

「同時攻撃数は2回。一度攻撃を放つと3秒のクールタイムあり。最大10回に達するとインターバルが必要。速すぎたり複雑な動きをする相手には対処出来ない」

 

 今の一斉攻撃で分かった結果を報告する。

 

「もう1つ分かったことがありますよ」  

 

 同行していた大城戸さんが口を開いた。

 

「一般人や野生のカラスなどは攻撃されていません。相手は何らかの方法でターゲットを絞っていますね」

「ええと……」

 

 大城戸さんの分析は正しい。

 

 近くを歩いている学生などが誤爆で攻撃されているということはない。

 大胡本人が攻撃されないのと同じで、自動攻撃の対象に何らかの条件付けをしているのだろう。

 

 その条件から漏れると攻撃されないと。

 

「私まで巻き込まれてはたまりませんからね。自衛のためなら頭は使います」

「つまるところ……」

「私が囮になって近付けば攻撃はされないということでしょうかね」

 

 どういうぶっ飛んだ神経をしているんだこいつは。

 そのくらいの図太さとふてぶてしさがなければ、到底悪の幹部の娘なんてやっていられないのだろうが、もちろん却下だ。

 

「ダメです。あなたは私が護ると約束したでしょう。危険な目に遭わせられません。それにまだ本人と直接話を出来ていません」 

「では、上戸さんが直々に赴くおつもりですか?」

「僕も行きます。ジャッコのスピードだと何とか刃から防御は出来ると思います」

 

 ここで矢上君が立候補してきた。

 

 防御スキルを持っている小森くんなら安心感はあるのだが、攻撃スキルしかない矢上君だと懸念は残る。

 

 だが、俺1人では完全に対処する自信がなく、誰かサポートについて欲しいというのは本音だ。

 

「大丈夫ですか、先輩」

「正直怖いのは怖い。でも、友瀬さんや……ええと、大城戸さんを前に出すわけにはいかないだろ。上戸さん1人に任せるのも危険だし、僕がここでやらないと」 

 

 良く言った少年とは流石に言えないが、ここは矢上君を頼るしかない。

 

「大変申し訳ありませんが、護衛をお願いします。ただ、交渉で済むならばそれに越したことはありませんので、お願いしますね」

 

 そこまで覚悟を決めているならばもう何も言うことはない。

 お互い怪我を負わないように協力するだけだ。

    

「自動攻撃は2回が3秒間隔で10回まで。それ以外にも任意で攻撃出来るというのは忘れないでください」 

「分かりました。合計10回ですね」

 

   ◆ ◆ ◆

 

(シールド)!」

 

 まずは自動攻撃2回を盾で反射して防ぐ。

 50m走ならば8秒かければ何とかなる。

 来るであろう自動攻撃は3回だ。

 

 盾を解除して自由に飛び回らせる。

 

 3秒後のタイミングで再度盾を形成。

 2度目、3度目の攻撃を防ぐ。

 

 盾の強度は十分だ。

 奇襲攻撃と発生の隙のなさが怖いだけで火力はさほどでもない。

 

 もちろん無防備な人間の身体に当たると重傷は不可避なので気は抜けないが。

 

「大胡一誠さんですね」

 

 3度の攻撃をくぐり抜けてようやく大胡の前に近付くことが出来た。

 もちろん、接近したところで自動攻撃が止むとは思えないので警戒は怠らない。

 

「私達は警察の協力者です。少しお話を聞かせてください」

「そんなことを言って不意打ちするんだろう! もう葉山(はやま)の二の舞は御免なんだよ!」

 

 大胡は血走った目で吼えるように叫んだ。

 その叫びに呼応して両手に大型のナイフを持った人型の白いもやのようなものが出現した。

 

 顔の部分には道化師の仮面が付いているが、その下には顔のパーツは見えない。

 

 こいつが使い魔の本体か!

 

「その葉山という人のことは分かりませんが、話を聞いてください。今ならまだ何とかなります」

   

 呼びかけるも意味のない呻き声のようなものしか返ってこない。

 説得は無理か?

 

「刻め、ジャック・ザ・リッパー!」

「手の速さで負けるな、ジャック・オー・ランタン!」    

  

 2人の怪人同士が高速のラッシュを始めた。

 

 霧の怪人のナイフ捌きはサーカスの曲芸のようにトリッキーだ。

 

 踊るように全身を横回転させて勢いを付けたり、右手攻撃をフェイントに左手で鋭い突き。またはその逆。

 

 ジャグリングのように空中へ片手のナイフを投げてはもう一方の手に持ったナイフと持ち替えるなど。

 

 カボチャ頭の方が手の動きは速いが、霧の怪人の先を読めない動きに翻弄されており、守勢に回っている。

 今は捌けているが、そのうちナイフの動きを見失えば大ダメージを受けるだろう。

 

 隙を見て反撃したいところではあるが、ただ、やはり無手と武器ありではリーチの差があるためにカボチャ頭は避けるのに必死で攻撃を当てることが出来ない。

 

 その間にも自動攻撃は継続している。

 

 本体のトリッキーな動きに対して自動攻撃は思ったよりも単調だ。

 

 攻撃タイミングに合わせて盾を展開するだけで簡単に防ぐことが出来るが、そちらに手一杯で矢上君のフォローに入ることが出来ない。

 

 極端な話、増幅(ブースと)で強化したスキルを当てるだけでどうとでもなる話ではあるが、それは大胡の死亡とイコールだ。

 

 本当の最後の手段としたい。 

 

 もう一手……今の状況を変えられる何かはないか?

   

「ところで」

 

 突然に近くで女性の声がした。

 そこには飛び交う刃をものともせずに大城戸さんが立っていた。

 

「そこのあなたに確認したいのですが、何が楽しくてこんなに無差別に暴れているのですか?」

「おい、危ない!」

 

 警告を飛ばすもどこ吹く風だ。

 大城戸さんは大胡を指す。

 

「何かご友人に不幸なことがあったのか、それとも許せないことがあったのかは分かりませんが、あなたがやっていることに合理性はありません。ただの八つ当たりです。そういうのはサンドバッグ相手にやってなさい」

「何だと! お前は何様のつもりだ!」

「あなたが何様のつもりですか? 自分の感情を抑えられない幼稚園児ですか?」 

 

 大胡の……霧の怪人の注意が完全に大城戸さんの方へと向いた。

 その隙を見逃す矢上君ではなかった。

 

 カボチャ頭が至近距離から霧の怪人の顔面に火の玉を打ち込み、燃え上がらせた。

 そして、攻撃の手が止まったところ、霧の怪人の両腕を掴み、力任せに握り潰し、更に締め上げた。

 

「矢上君、そいつを上空に投げ飛ばして!」

「分かりました!」

 

 カボチャ頭が霧の怪人を掴んだまま、その場で回転を始めた。

 その勢いを利用してハンマー投げのように豪快に空へと投げ飛ばす。

  

 空中のその位置ならば周囲への巻き込みは発生しない。

 まずは鳥の使い魔3羽を連続して突撃させる。

 

 更に滞空中の霧の怪人に向けて真下から持ち上げるように極光を打ち上げる。

 

 もろに熱と圧力を持つ極彩色の光線のエネルギーを受けた霧の怪人は空中で爆発。

 粒子と化して宙に消えていった。

 

「なんで……なんで……俺は……」

 

 大胡は宙から降ってくる霧の怪人だった粒子へと、まるで助けを求めるように手を伸ばす。

 

「事情は警察で話せ。俺達はお前の事情なんて知らん」

 

 再召喚される危険を考えて、大胡の顎に鳥の使い魔を体当たりさせた。

 

 もちろん、全力でぶつけると頭が胴体とさようならしそうだったので適度に手加減はしてある。   

 

 それでも脳を揺らして意識を昏倒させるには十分だったようだ。

 大胡はその場に倒れ伏した。

 

 自動攻撃を繰り返していた刃の攻撃も止まっている。

 何とか勝利することが出来たようだ。

 

 すぐに起きあがるようなことはないだろう。

 

 急いで大城戸さんに駆け寄る。

 

「怪我はありませんか? なんでこんな戦闘中に出てきたんです?」

「怪我はありません。心配いただきありがとうございます」    

 

 大城戸さんはわざとらしく服の埃を払いながら答えた。

 

「自動攻撃は私には来ないと確信出来たからです。私ならば前に出てきても大丈夫だと」

「最後、大胡の注意はあなたに向いていました。任意攻撃は可能なんですよ。攻撃される可能性はありました」

「そちらについても護っていただけると信じていたからです」

「限度ってものがあります!」

 

 強く責めると大城戸さんは何とも言えない苦笑いを浮かべて倒れたままの大胡を見た。

 

「流石にこの方を見ると、何もせず……何も言わずには言われなかったのですよ……この人も少し前まではごくごく普通の日本人だっただろうに……私や父がその平穏を壊してしまった」

「何か深い哲学とか考えがあるのは分かりましたが、そういうモラトリアム的なやつは後日に安全なところでやってください。私達は無駄に傷つくのは見たくないので」

「そうです。戦うのは僕達でやりますので、後ろで見ていているだけにしてください。応援なら聞きますから」

 

 矢上君も流石に大城戸さんに文句を言いにやってきた。

 いいぞ、もっと言ってやれ。

 

「矢上君はそんな性格だったんですね。クラスの隅の方で何か書いているか、柿原さんの荷物持ちみたいなことをしていて、もっと非社交的な方かと」

「クラスの隅でやってるのは部の仕事だよ! あと荷物持ちじゃなくてそっちも部活!」

「あら失礼。でも頑張っているならそのアピールはした方が良いですよ。社会では他人からの評価というのも大切な要素です」

「えっと……それは考えときます」

 

 ダメだ。矢上君が負けた。

 本当にこの大城戸さんは何なんだよ。

 

「では皆さん、ここは引き上げましょうか」

「仕切らないでください。まずはこの倒れた大胡君をどうにかして運んで能力を消す必要があるので」

 

 一応このエリアについては、これで一段落のはずだ。

 

 あとは小森くんや和泉さんの交渉次第で能力者同士のバトルを防ぐことが出来るはずだ。

 

 早く戻って状況の確認をしよう。

 

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