収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第43話 「一区切りついて」

 捕縛した神父を護送するための車両が到着したのは深夜1時を回ってからだった。

 

 合金製の特殊手錠とワイヤーで拘束しており、麻沼さんが念入りに陣で封じている。

 そう簡単には逃げられない……はずだ。

 

 神父から奪った赤い宝石も格納容器に入れて保管済。

 

 新坂一家の事件から議員宅への盗聴、謎の地下施設の調査に神父の撃破。

 スピード勝負をしないと逃げられる可能性があるとはいえ、とにかく長い一日だった。

 

 神父は黙秘を続けている。

 

 ただ、仮に何か証言したとしても身元不明のアフリカ系外国人で自称神父。

 正体不明の人物でしかないために証拠能力が弱い。

 

 神父の証言から、議員を法的に引っ張る方向へ繋げていくのはかなり難しいだろうということだった。

 

 とはいえ、神父からはまだ聞いておきたい内容がいくつかある。

 

 今のところ、神父は無言、無表情で人形のようにおとなしくしている。

 そのため、須磨さんや麻沼さんが何を質問しても、一切答えようとしていない。

 

「念のために確認しておきたいことがある。お前と無貌の神……ナイアルラトホテップとの関係だ」

 

 搬送のためのパイプベッドに拘束されたままの状態の神父に声をかけた。

 

 あれだけ痛めつけたにもかかわらず、俺が刻み込んだ旧神の印以外の傷はほぼ癒えている。

 とんでもないやつだ。

 

「俺は……俺たちは本物のナイアルラトホテップと戦ったことがある。なので、本人や邪神に操られている人間ならば経験上、ある程度雰囲気で分かるが、お前は何か違う」

 

 やはり返事はないのでこちらが一方的に話すことにする。

 

「俺たちが『運営』と呼んでいる連中がいる。攫った人間を使って悪趣味なゲームを強制させて、それを見世物にしている異世界人だ。お前はもしかして『運営』がこの世界での工作用に作り上げた人造人間か?」

 

 神父の眉がここで初めて動いた。

 

「『運営』が現地でのメンテ要員として不老不死の人造人間を作っていたことは知っている。ミイラをベースに作られた邪神の化身そっくりの工作員とも戦ったことがある」

 

 またも反応があった。

 方向性は合っているようだ。

 

「そこでピンと来た。お前は赤い女と同じで運営が邪神の化身に似せて作った人造人間じゃないかなって。それならば運営のやり口や、生物が死亡時にメダルを出現するように変化させるシステムを持っていることの理由が納得できる」

「赤い女というのは――」

 

 ここで神父が初めて口を開いた。

 

「――深紅のドレスを纏った女性ですか?」

「当たりだ。そいつが邪神のオリジナルだと考えていた時期もあった。まあ、後から本物の邪神が出て来たんだけどな」

 

 しばしの沈黙。

 神父の方から返答があるまで待つ。

 

「やはり本物とは別物でしたか?」

 

 こいつもやはり思うところがあったのだろうか?

 自分は所詮コピーでしかない、ただの物真似でしかないのかと。

 

「全く別の存在だよ」

 

 本物はやったことの規模は偽物とは比べ物にならなかった。

 あいつのせいで世界が1つ崩壊するところだったし、犠牲になった人の数も桁違いだ。シャレになっていない。

 

 ただ、偽物の方もそれはそれで迷惑だった。

 直接、被害を受けた人は勿論のこと、キューバ港の活動が止まったことで発生した経済的な被害は相当なものだっただろう。

 

「偽物の方は残忍で人の感情など知らないという感じで本物よりも邪神ぽかったよ。物真似が『らしさ』で本物を上回ったんだ。本物はもっと人間臭かった」

 

 実際のところの最大の違いはそれだ。

 

 本物の邪神は人間の弱い心を知って、そこを突くのがとにかくうまかった。偽物の方は逆に人の心が分かっておらずただ残忍だった。

 

「取り憑かれた人間の方も、とんでもなく人間臭かった。実際ただの人間でしかなくて……ただの人間として死んだ」

「偽物……工作員はどうなりましたか?」

「遺体は埋めた。肉体はもう朽ちたかもしれないが、魂は今も中米の密林奥地で眠っているだろう」

「では、その女性に指示を出していた人間は?」

「最後に見た時は独房に入っていたが、その後どうなったかは知らない。処刑か獄死のどちらかだろう。おそらくお前も同じになる」

「なるほど」

 

 思っていたよりも話す奴だ。

 この調子でもっと色々と話してくれないだろうか?

 

「効果範囲は200スタディオン。私から言えることはそれだけだ」

「どういう意味だ?」

 

 あまりにも脈絡がない言葉だ。

 スタディオンというのが何かもよく分からない。

 

 ただ、効果範囲と言うからには何かの装置か魔法の話なのだろう。

 

 もしかすると、メダルを発生させるシステムの話なのかもしれない。

 

 これは神父が何かの情報を教えてくれたのか?

 

 ただ、それ以降は何を聞いても神父は口を閉ざして答えることはなかった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「結局、俺を呼ぶなら全員を呼んで、みんなで戦った方が良かったんじゃないですか?」

 

 戦闘で受けた傷は駆けつけた小森くんの回復能力(ヒール)で全員回復できた。

 久々の負傷ではあるが、あれだけの能力を持つ相手によくこれだけの被害で抑えられたものだ。

 

「もう深夜だから未成年を使うと法律で引っかかるんだよ」

「矢上君はここにいたし、俺を深夜に電話一本で呼びつけましたよね」

「その点については悪かった。反省しています」

 

 素直に頭を下げる。

 自分の非は認めないと、他人に示しがつかないからだ。

 

「ラビさんはいつも口だけですよね。それで本当のところは?」

「神父が逃げ出す前に速攻で勝負を決める必要があった。実際、赤い宝石を入手した直後に神父がやってきたので本当にギリギリだったと思ってる。でも、来てくれて助かった」

 

 本当に電話一本で来てくれたのは助かった。

 戦闘での負傷が避けられない以上は小森くんのスキルは生命線だ。

 

「これで一応解決ですかね?」

「いいえ、まだこれからです。事態は何も解決していません」

 

 麻沼さんが須磨さんの足元に置かれた2つの格納容器を指差した。

 

「神父からの聞き込みはこれからですし、町にばら撒かれた能力者の対応も必要です。その過程で議員も何とかしたいところですが」

 

 麻沼さんの言う通り、まだまだ課題が山積みだ。

 中心人物である神父を拘束したので、峠は越えた……とは思うのだが、ゴールが全く見えない。

 

「能力者から能力を消すとなると、入手した赤い宝石の使い道ですよね」

「はい。片倉さんの持っている宝石にチャージができるかどうかです。その確認の意味もありますが、明日……と言っても既に今日の話ですけど片倉さんを呼べないですか? 実際に術を使えるのは彼だけです」

「連絡は取りますが、今日連絡して今日来てくれってのは微妙かもしれません」

 

 カーターは本業が忙しそうではあるが、さすがに来てもらわないことには話が進まない。

 何とか都合をつけて出られないか頼んでみよう。

 

 深夜なので電話は控えてメールを送信しておこう。

 朝に起床したらメールを読んで、こちらに来られる目途について連絡してくれるだろう。

 

「返信は明日朝になるかもしれません。時間的にもう寝ているかもしれないので」

「それは仕方ないです」

 

 と言っている間にすぐに返信があった。

 これはまだ夜更かしして起きているなと思いながらも内容を確認する。

 

『親戚が深夜に急に倒れて危篤になって、明日の昼くらいに死んだことにする』

 

 カーターから急に身内の訃報が届いた。

 しかも未来を過去形で表現とか、あいつはいつから予言者になったのやら。

 

「医師の診断書なら出せますよ」

 

 麻沼さんがさらっと偽装の話を出してきたが、それはあまりよろしくないやつだ。

 その場合は誰が死んだことになるんだよというのと、本当に亡くなった時にどうするんだ問題が解決できない。

 

 カーターには一応「身内の見舞いか何かにしておけ」とメールを返信しておく。

 

「片倉さんには直接東京の事務所に来るよう連絡をお願いします。赤い宝石は事務所の倉庫で保管して、当分外部には出さない予定ですので」

 

 安全面ではその方が良いだろう。

 あちこちに持ち出す方が支障がありそうだ。

 

「私も行った方が良いでしょうか?」

「いえ、上戸さんは木島君のガードを継続しつつ、学校内に能力者が何人いるかの調査を続けてください。何人の能力者から能力を消さないといけないか、全体像を把握する必要がありますので」

 

 カーター1人を探偵事務所に行かせても大丈夫か?

 というのはあるが、少なくとも和泉さんと麻沼さんが居れば酷いことにはならないだろう。

 

 それに、木島君への報復攻撃が行われる可能性は別に減っていないと思う。

 しばらく護衛は続けないといけない。

 

 実際問題として、被害状況の把握は必要だ。

 少なくともリストに載っているメンバー全員に聞き取り調査をした方が良いのは間違いないだろう。

 

 人数が足りていればそれで良いが、能力を消せる人数がギリギリならば、再犯しそうな連中から、能力を取り上げていくように、順番を付けていかざるを得なくなる。

 必然的に誰かが漏れる。

 

 その時に、誰が除外されることになるのか。

 

「では今晩はこれで解散ということで」

「タクシーを使用するならば領収書を探偵事務所の名前で切ってもらってください。後で経費で落とします」

 

 それはありがたい。

 タクシー代もバカにならないので、もちろん断る理由もない。

 

 須磨さんはそのまま車で東京へ戻るようだ。

 麻沼さんと俺はバイクを置きっぱなしなので、まずそれを取りに戻る……。

 

「麻沼さん、バイクは?」

「あっ」

 

 矢上君を迎えに行った時、俺と一緒に駐輪場へ停めてそのままなので、須磨さんと車に乗って東京まで帰ると横浜にバイクを置きっぱなしになる。

 

「一緒にタクシーで駐輪場まで戻りましょう」

「すみません、お願いします」

 

 結局須磨さん以外は全員タクシーに乗ることになった。

 

「では小森くん、矢上君、帰りましょうか。明日も学校ですよね」

「ラビさんも学校ですよね。朝から登校ですか?」

「どうせ偽学生だし、登校時間からズレて屋上からお邪魔するよ。生徒に混じってまともに登校する気はないので大丈夫」

「うちの学校に怪異を作らないでほしいんですけど」

 

 小森くんが心底嫌そうな顔をしていた。

 でも矢上君ならば違う意見をくれるかもしれない。

 

「怪異の正体を調べたら、学校に忍び込んだ不審者でしたとかそんな記事作りたくないですよ。幽霊とは別の意味で怖いんですけど」

 

 ダメだった。

 

 矢上君からも割と辛辣な意見がやってきた。

 実際不審者でしかないので言い返しようがない。

 

「ならどうしよう?」

「正門から堂々と入れば大丈夫ですって」

「でも数寄屋(すきや)さんみたいに見破ってくるのがいるからなぁ」

 

 一応話は付けているが、あんな感じで見破ってくる相手がいた場合は面倒になる。

 それが生徒ならともかく教師ならば猶更だ。

 

「数寄屋ですか……」

 

 数寄屋さんの名前を出すと小森くんが微妙な表情を見せた。

 

「彼女に何かあるのか?」

「クラスに派閥を作って何か色々やってるグループの中心人物ですよ。俺は男子なので女子グループが何をやってるのかまでは詳しく知らないんですけど。頻繁にもめ事を起こしてるなと」

 

 小森くんも、人物について詳しくは知らないようではある。

 

 だが、表情と、微妙に言葉を濁しているところから察するに、あまり評判の良い人物ではないのだろう。

 知らず知らずのうちに敵を作るタイプの人物だ。

 

 結依さんをいじめていた、いじめグループのリーダーの可能性があるというのは言わない方が良さそうだ。

 

 柿原さんみたいなチョロすぎるのはレアケースだ。

 間に小森くんが入ることで、人間関係がややこしいことになりかねない。

 

「ケンカを吹っ掛けられても返り討ちにしないでくださいね。ラビさんが反撃したらいじめになるでしょう。口でも物理でも」

「しないしない。俺はこの学校では空気に徹すると決めて動いている。情報収集以外で学校内の生徒と絡むつもりはないから」

 

 何はともあれ、神父を撃退したことでこれで一段落だ。

 

 教団の方は中心人物を失ったことで放置しておけば勝手に壊滅すると思う。

 なので、残る問題は、どうやって能力者から能力を消すかという問題と、どうやって議員を崩していくかにシフトしていくわけだ。

 

 何もなく無事に終わってくれると良いのだが。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 自宅に帰ったのは深夜2時だったが、それでも通学のためにいつも通りの時間に起きないといけない。

 

 寝ぼけ眼で朝食のパンを齧りながら両親と一緒にテレビを見ていると、駅前近くの廃アパートで変死体が発見されたというニュースが流れていた。

 明らかに昨晩の出来事だ。

 

 発見された遺体の身元などの情報が流れている。

 

 名前や年齢を見ると、全く知らない、縁のない人たちだったが、朝から胸糞悪いニュースだ。

 全く朝食の味がしない。

 

 犯人である神父についての情報を出すわけにはいかないからなのか、警察からはまだ何の発表もされていないようだ。

 

 現場からの中継の映像の端の方に、一瞬だけ移動する僕たちと神父の姿が映っていた。

 だが、幸いにも家族の誰も気付くことはなかったようだ。

 

 とんだテレビデビューだ。

 

 できるならば、このまま学校の誰も気づかないでいてほしい。

 

「朝から物騒だな。ここって恵太が取材に行った心霊スポットだろ」

 

 父親がおもむろに僕に話しかけてきた時は一瞬肝が冷えたが、テレビは音を聞いているだけで視線は新聞に向いたままだ。

 僕の後ろ姿はそもそも見てもいないようだ。

 

「そうみたいだね」

 

 なるべく平静を装い、関心がないように振る舞う。

 幸いにも両親は僕の態度に何も気づかないようだった。

 

「新聞部の活動もいいけど、危険なところに行くのは止めた方がいいぞ。隣の柿原さんのところの娘さんも巻き込んだんだろ」

「綾乃は行ってないよ。取材したのは僕と引退した3年の先輩だけだから」

「それならいいが」

 

 例の廃アパートのニュースはそれで終わり、今度は市内での強盗事件のニュースに変わった。

 見た覚えのある家……昨晩に訪れた新坂君の家だ。

 

 ニュースの内容は強盗事件が発生して一家重軽傷という概要だ。

 

 犯人は逃走しており詳しい情報はなしということになっていた。

 家の中で2人が死んでいたという内容は流れない。

 

 こちらはキャスターが頻発している特殊犯罪との関連について話していた。

 

 探偵たちが情報を制御して、そういう方向で事件を終息させるのかもしれない。

 

「この事件って近所の話でしょ。怖いわね」

「うちはオートロックのマンションだから変な奴が入ってきたら分かるだろうけど、戸締りはしっかりせんといかんな。恵太もなるべく早く家に帰ること」

「はーい」

 

 両親に気のない返事をした後に制服に着替える。

 

 両親は共働きなので、僕よりも先に家を出ていった。

 

 最後に家を出て鍵を締める。

 そのタイミングで、隣の部屋に住んでいる綾乃も同じように家から出てきて鍵を掛けているところだった。

 

「おはよう。今日は久々に一緒に登校する?」

「久々だね。行こうか」

 

 軽い気持ちで綾乃に声をかけるとOKを貰えた。

 

 最近は「一緒に登校して、友達に噂とかされると恥ずかしいし」と古のギャルゲーのようなことを言っていたが、何かがあったのだろう。

 

 マンションから少し歩いたところにある、農園の横からハイキングコースへと入っていく。

 そこを抜けてショートカットするのが学校への最短ルートだ。

 

 昨晩はかなり温度が下がったようで、ハイキングコースに積もった落ち葉も半ば凍っていた。

 パリパリと氷を踏みしめる音を楽しみながら山道を歩く。

 

 人気(ひとけ)のない山道に入ったところで綾乃がスマホを取り出した。

 

 どう考えても聞かれたくない、他人に見られたら困る話を始める流れだ。

 

「ネットでも昨日の廃墟のことは噂になってるよ。ただ、その中に1つだけ気になる情報があるんだけど」

 

 綾乃が表示したのはやたら広告が多いアングラっぽい雰囲気の掲示板サイトだった。

 

 そこのニューススレッドの1つに横浜スレがあった。

 昨晩の廃墟でバラバラ変死体発見と新坂家襲撃事件の2つの記事についてもあることないことが書かれていた。

 

 ただ、その中に意味深な書き込みがあった。

 

『もしかして、もうバトり始めてる? 参加した方がいい?』

 

 その後に茶化すようなレスが続いた後に、また別の意味深な書き込み。

 

『メダルは高値で買ってくれるらしい。銀なら30万で銅なら10万』

『どうやって区別するんだよ。それとも識別能力持ちがいる?』

 

 他の書き込みは完全にスルーで良さそうだ。

 ゲームか何かのネタだと思われているのだろう。

 

「これって戦ってメダルを集めようとしている人たちがいる?」

 

 勘違いならばいい。

 

 だけど、昨日の事件がバトル開幕の合図だと勘違いされると、あちこちで能力者同士の戦いが始まる可能性がある。

 

 もちろん、僕たちが狙われる可能性もだ。

 

 レスに「識別能力」とあったことから、友瀬さんが狙われる可能性も高い。

 

「具体的な金額が出ているあたり、能力を貰ったと同時にメダルの買い取りを持ち掛けられた話があるんだと思う」

「もう神父はいないのに……」

「神父が倒されたことはまだ誰も知らないと思う。昨日の晩の話だし、探偵さんたちは、そこは徹底的に隠すだろうし」

「じゃあさ、もしかして、もしかする?」

 

 綾乃はそう言うと銀のメダルを取り出した。

 

 以前に旧校舎地下の遺跡でボスキャラを倒した時に出現したものだ。

 

「30万円って金額はちょっと心が揺らぐんだけど、それは諦める。この銀のメダルを餌にすれば、買い取ろうとしているやつと接触できる?」

「放課後にみんなで話し合ってみよう。うまくやれば、一気に裏で何か企んでいる奴の情報を手に入れられるかもしれない」

 

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