収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第63話 「エレベーターホールの攻防」

 宇宙船へ繋がるエレベーターのゴンドラは小型のために詰めても4人しか乗り込めない。

 

 そこで、まずは4人だけが先発隊として宇宙船内部へ侵入することになった。

 

 俺――上戸佑。

 偵察能力を持つ友瀬映子さん。

 後続が到着するまでの手数不足を、複数の使い魔で補える木島厚君。

 そして戦闘慣れした矢上恵太君。

 

 エレベーターを上がった先は、広さ10メートルほどの部屋だった。

 中央には円柱がそびえ、その内部にエレベーターが設置されている。

 

 床や壁の素材は金属とも樹脂とも判別がつかない。

 少なくとも石造りの遺跡や木造の建物とは根本的に異質だ。

 

 天井には照明らしきものが埋め込まれており、一定の明るさは確保されている。

 

 だが濃い霧が部屋いっぱいに充満しており、視界は著しく悪い。

 今まで散々遭遇してきた「異界化した部屋」と共通する要素があるため、内部は迷宮のように複雑化しており、道中にはザコ敵が出現すると考えて良いだろう。

 

 ただ、以前調査した海底遺跡とは異なる点が多く、過去の経験がそのまま役立つとは思えなかった。

 

 四方の壁には、それぞれ横開きの金属扉が並んでいる。

 だが、その先がどうなっているかを知る術はない。

 

「まずはどうするんだ?」

「私と友瀬さんで可能な限り、宇宙船内部の調査を行います。ただ、その間は無防備になりますので、2人はこのエレベーターホールに侵入してくる敵を排除してください」

 

 友瀬さんと共に使い魔を喚び出しながら木島君に答えた。

 

 早速エレベーターがあるこのエレベーターホール、そしてその部屋の外へ偵察に向かわせる。

 

「つまるところよ」

 

 木島君も使い魔……5体の毛むくじゃらの獣、バグベアを喚び出した。

 

 バグベアは一体一体はさほど強くなく、同時に出現して操ることが出来る数も5体ではあるが、破壊されたりエネルギー不足でパワーが落ちてきた際に控えと入れ替えて運用出来ることが出来る使い魔である。

 手数が必要な現状だと数のアドバンテージは大きい。

 

 木島君が先発隊に選ばれた最大の理由がそれだ。

 

「俺がこいつらを走り回らせて、攻め入ってくる敵をあんたらに近寄らせなきゃいいんだな」

「はい。お願いします」

「任せておけって。攻撃してくる相手を素早い動きでかき回して点を取らさないように戦うのは俺達の得意戦術だ」

 

 木島君の指示でバグベア達が周囲に散った。

 それぞれの個体は警戒姿勢を取りながらエレベーターを囲むような位置取りに陣取る。

 

「とはいえ、こちとら同時に出せる5匹。交代要員は引っ込むまでは出せねえ。5体以上がまとめて攻めて来るとヤバいぜ」

「――その場合は僕が敵を撃退すれば良いんですね」

 

 矢上君がライターに点火しながら答えた。

 背後にカボチャ頭の怪人、ジャック・オー・ランタンが腕組みした状態で姿を現す。

 

 俺もそうだが、小森くんやエリちゃんはスキルを一度使用すると再度使用可能になるまで一定時間の待機が必要だ。

 今回のように、不特定多数の敵が攻めてくるという状況では十分に能力を発揮しきれない可能性が高い。

 

 その点、矢上君のジャック・オー・ランタンは継戦能力や戦闘能力も高いので、安定して複数の敵と戦うことが出来る。

 

 この4人が先遣隊に選出された理由だ。

 

「キャプテンは俺のポジションだ……と言いたいところだが、この試合の四番は譲ってやる」

「任せてよ。誰も傷付けさせやしない」

「任せた。俺たちは勝つための兵士に徹する」

 

 矢上君と木島君が軽く手を打ち鳴らす。

 以前から面識はなかったらしいが、この事件で知り合ってから何度も顔を突き合わせていたこともあり、連携には特に問題がなさそうだ。

 

 元は敵だった木島君が、こうして協力的なのはありがたい。

 好奇心や報酬目当ての側面もあるだろうが、それでも戦力としては十分に頼れる。

 

「いいですよね、男同士の友情って」

 

 その様子を見ていた友瀬さんが、ふいに俺へ声を掛けてきた。

 

「せっかくなので、私たちもやってみます? ハイタッチでも、円陣でも」

 

 俺が応じると、友瀬さんは驚いたように目を見開いた。

 

「いいんですか?」

「これから大変ですからね。息を合わせる意味でもやっておきましょう」

 

 彼女が控えめに手を差し出してきたので、軽く触れて握る。わずかに震えを感じた。

 

 戦闘慣れした矢上君や、覚悟を固めている木島君とは違い、友瀬さんは慣れているとはいえ普通の少女だ。

 古代に地球へ来た宇宙人の宇宙船という得体の知れない場所に連れて来られ、これから戦闘に挑む。

 

 こんな奇妙な状況に対して不安を抱いていて当然だった。

 

「あの……すみません、このまましばらく手を繋いでいていいですか?」

 

 恥ずかしそうに目を逸らしながら、小さな声で呟く。

 

「分かりました。私は近接戦闘もこなせますから、このまま二人で頑張りましょう」

「はい!」

 

 笑顔を向けると、彼女は勢いよく返事をした。

 

 これは不純異性交遊でも未成年への淫行でもない。

 ユウジョウ――ユウジョウです。

 

 では、男子チームと女子チームで友情を確認したところで作戦開始だ。

 

「ではまずは私達偵察チームが周囲の索敵を行います。敵エネミーが接近してきたら戦闘をお願いします」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 部屋に繋がる4方向の通路のうち、北と東を友瀬さん、南と西を俺が受け持つことになった。

 

 使い魔を操って部屋を出たところで、早くも友瀬さんが声を上げた。

 

 俺の使い魔は目視での確認になるが、友瀬さんの使い魔はレーダー能力だ。

 索敵能力では鳥の使い魔よりも圧倒的に高性能だ。

 

「敵はセラミックスソルジャー! 北と東、それぞれ10体ずつやってきます」

「セラミックスってなんだよ? 陶器?」

「古墳時代の埴輪の兵士みたいな敵です」

 

 コンソール上には鎧兜を身にまとい、剣や槍で武装した土人形……埴輪の兵士が映し出されていた。

 事前にビジュアルで表示して全員に情報共有出来るのはありがたい。

 

「これって僕が最初に旧校舎で遭った敵だ」

 

 矢上君の言う通り、この事件の発端。

 異界化した学校の旧校舎で出現していた敵がこいつらだった。

 

 木島君が友瀬さんの肩越しからコンソールを不躾に覗き込んだ。

 

「出所はなんだっていいんだが、流石に数が多すぎないか?」

「木島君の言う通り数が問題ですね。私の方も……南と西から10体の埴輪が向かってくるのを確認しました。四方向から同時攻撃です」

 

 俺も使い魔の視点で確認出来た敵の情報を伝える。

 

「合計40!? 流石にその数じゃ俺のバグベアでも手数が足りねえぞ」

 

 木島君の懸念も尤もである。

 単体だとそれほど強くない敵とはいえ、流石に数が多すぎるために手も足も足りない。

 

 俺のスキルはチャージタイムがあるために連続使用出来ない。

 なので数で押し寄せられれば、いずれ息切れし、突破されるのは目に見えている。

 

「バリケードのようなものを作って室内に入ってくる数を調整するしかないですね」

「でもバリケードに出来るようなものはこの部屋の中にはないですよ」

 

 霧が充満した屋内を改めて見回す。

 

 室内は中心にエレベーターが埋め込まれている円柱ある以外は何もない空間だ。

 積み上げて壁を作れそうな家具や調度品などは見当たらない。

 

「いっそドアを動かなくしてしまうというのはどうですか?」

 

 唐突に矢上君が提案した。

 

「あのドア、多分横に開くスライドタイプだと思うんです」

 

 矢上君がドアとその横のスペースを指差した。

 

「スライドタイプだとドアはレールに沿って動くはずなので、それを途中で壊してしまえば」

「ドアは完全に開かなくなって、室内に入ってくる数をコントロール出来る……と」

 

 確かにドアは横開きのスライド式に見える。

 レールに沿って移動する構造であれば、途中で引っかかるようなことになれば、それ以上は動かなくなるはずだ。

 

 ここで冷静になって考え直してみる。

 

 宇宙船に来るまで乗ってきたエレベーターのドアも横開きのスライドタイプだった。

 ドアの上下にはスライドを安定させるためのレールも見えた記憶がある。

 

 宇宙人の宇宙船なので謎技術が使われている可能性は0ではないが、エレベーターが地球と同じならば、この部屋のドアも同じ構造だと考えるべきだろう。

 

 懸念は尽きないが、今は可能性の話をしていても仕方がないし、何より時間がない。

 出来ることを一つずつ試して、やれることは全部やっていきたい。

 

「やるだけやってみましょう。木島君は矢上君のサポートを」

「分かりました。フォローお願い」

「俺のやることは別に変わらないぜ。軍団を走りまわらせて遊撃させるだけだ」

「まずは北の扉に向かってください。もう数十秒で来ると思います」

 

 友瀬さんがコンソールに表示されている情報を確認して2人に伝えた。

 

「北ってどっちだ?」

「あちらです!」

 

 友瀬さんが指した方向へ2人が駆け出した。

 

炎の柱(フレイムピラー)!」

 

 矢上君の使い魔であるカボチャ頭が手をかざしてそこから火の玉が飛び出し、金属製の扉に着弾した。

 

 もちろん攻撃はこれで終わらない。

 炎の柱は次の攻撃への前段階の準備だ。

 

死神の鎌(グリムリーパー)!」

 

 カボチャ頭が炎の中に手を突き入れて巨大な軸棒を取り出した。

 その先端に炎が集まり、刃の形へと変化する。

 

「全力で振り下ろせ!」

 

 カボチャ頭の怪人が大きく鎌を振りかぶった後に体重を乗せて金属製の扉の横にある壁に向けて叩き付けた。

 

 鎌と壁の材質どちらも金属製ならば甲高い金属音が鳴り響くのだろうが、炎の鎌と得体のしれない謎素材の壁がぶつかりあった時の音は予想外のジュウという何かが焼けるような音だった。

 それほど高くない温度で溶けるということは、素材は樹脂に近いのか?

 

 炎で形成された刃はガスバーナーで金属扉を焼き切るように溶断しながら壁に深く食い込んだ。

 

 そのまま刃は猛烈な焦げ臭さと黒煙を立ち昇らせながら刃はじりじりと壁をえぐっていく。

 

 20cmほど斜めに切れ目を入れたところで目的は果たしたとばかりにカボチャ頭は鎌を引き上げた。

 

 直後に金属製の扉がバタバタと前後に揺れながら、扉が開いた……開こうとしたが、金属同士が擦れる不快な音の後に、扉は微振動を繰り返すのみで全く動かなくなった。

 

 レールが歪んだことで扉が変なところで引っかかるようになり、そのまま進むことも戻ることも出来なくなったのだろう。

 

 扉が動いたのはわずか50cmほど。

 埴輪兵は1体ずつ体を無理矢理ねじ込んで室内に入ってくるが、単体ならば対処は簡単だ。

 

 室内に侵入してきた最初の一体の頭部をバグベアの鋭い爪を振るって粉々に打ち砕いた。

 作戦は成功のようだ。

 

「モグラ叩きは俺に任せろ。矢上は他の扉を潰しに行け! 他の場所から部屋に入られたら意味がなくなる」

「友瀬さん、次はどっち?」

「東はまだ余裕はあります! 上戸さんの方はどうですか?」

「南に向かってください。扉のすぐ近くまで敵が近寄ってきています!」

 

 東にはまだ時間的な余裕があるならば、矢上君には南側に回ってもらった方が良さそうだ。

 

 今と同じようにやれば失敗することはないだろう。

 友瀬さんと一緒に部屋の反対側へと駆け出していく矢上君の背中を見守る。

 

 とはいえ全く余裕はない。

 次は東西から入ってくる敵の対処方法を考えないといけない。

 

 矢上君、木島君は南北でかかりっきりになるだろうから、東西の敵は当然俺と友瀬さんで対応しなければならないが、矢上君と同じ戦法は使えない。

 

 俺のスキルだと扉を跡形もなく破壊することは出来ても、中途半端に破壊してドアレールを歪める術がない。

 友瀬さんのスキルだと火力が足りない。

 

 使える手札があまりに少ないが、今更そんなことを言っても仕方がない。

 手持ちのカードでどうにかする方法を考えるだけだ。

 

 何か使えるものはないかと改めて周囲と使い魔の視点で状況を確認する。

 

 木島君のバグベアが室内に侵入してきた埴輪兵一体の足を掴み、そのまま力任せに振り下ろすように相手の背中と頭を地面に叩き付ける投げ技、パワーボムを炸裂させている光景が目に入ってきた。

 

 派手な技ではあるが、中身が空っぽで内臓などない埴輪にはそれほど効いているようには見えない。

 

 土器ボディのあちこちにはヒビが入り破損しているが、なおも立ち上がって反撃してこようとしている。

 

「こいつっ!」

 

 追い打ちで手足をもぎ取られ、破片をまき散らしながらもなおも動いていたが、最終的に頭部を鋭い爪で砕かれてようやく機能停止した。

 残骸を含めて粒子になって跡形もなく消滅していく。

 

 思っていたよりもしぶとい。

 四肢を砕かれても頭部か胴体の大半を破壊されないと機能停止とはみなされないのか。

 

 倒したと思っていたら倒れていなくて、思わぬ反撃を食らうことになるかもしれない。

 

 残骸が残っていることが機能停止したかしてないかの指針になりそうだ。

 油断しないようにしよう。

 

「いや、これは逆に使えるか?」

「何か気付きました?」

「機能停止しなければ残骸は残る……つまり、埴輪の残骸を積み上げればバリケードを作ることが出来るかもしれないという話です」

 

 思ったことはまずは実行。

 考えても答えなんて出ないのだから、トライアンドエラーで試せることを試していくしかない。

 

 使い魔を追加召喚して東西のドアの前で待機させる。

 

「まずは私が試してみます。成功したら友瀬さんも続いてください。私1人だけでは手数が足りません」

「分かりました」

 

 そうしているうちに東西のドアがほぼ同時に開いた。

 

 埴輪兵達が一斉に室内へと雪崩れ込んでくる……そのタイミングで先頭にいた埴輪兵の足目掛けて鳥の使い魔を体当たりさせた。

 

 最初に室内に入ってきた埴輪兵は足を破壊されて転倒。

 

 流石にそれだけでは埴輪兵の群れは止まらない。

 倒れた敵を乗り越えて次の敵が入ってくるが、同様に足を破壊する。

 

「木島君、こちらにバグベアを送ってください! 倒れた敵のパーツを出入り口に投げ飛ばして!」

「次から次にっ!」

 

 愚痴を言いながらも東西のドアに向けてバグベアを送ってくれた。

 足が破壊されて床を這いまわっている埴輪兵の体をバグベアが頭上に担ぎ上げ、そのまま豪快に出入り口に向けて投げ飛ばした。

 

 室内へ侵入してこようとしている埴輪兵敵数体がそれを避けようと一瞬足を止めた。

 

「アルゴス! ホーミングレーザー!」

 

 そこを見計らって友瀬さんが命じると同時に赤い孔雀の尾羽からレーザー光線が放たれた。

 

 レーザー光線と埴輪の土器ボディとは相性が悪いのか一凪で撃破とはいかなかったが、数体の脚部にダメージを与えるには十分だった。

 

「極光!」

 

 追い打ちで光線を放って命中させると、流石に限界を超えたのか埴輪兵達の脚部が崩壊を始め、次々と床に倒れ込む。

 

 それらをバグベアが次々に掴んで出入り口方向へとヒョイヒョイと投げ飛ばしては積み上げていく。

 簡易バリケードの完成だ。

 

「こうやって積み上げていきゃ入ってくる数を絞れるんだな」

「その通り」

 

 とはいえ、流石にそれだけでは手数が足りない。

 既に室内に侵入してきている埴輪兵が数体いる。

 

「友瀬さん、すみません。流石に私も打って出ます」

「気を付けて」

 

 友瀬さんはエレベーターのある円柱に背を預けて立たせる。

 そうすれば少なくとも背後から奇襲されることはない。

 

 手持ちの武装は奈良の遺跡で回収した謎の金色の剣。

 なんらかの魔術効果があるだろうと信じて持ってきたが、早速使うことになるとは。

 

 まずは手近なところにいた埴輪兵の脳天めがけて、ただまっすぐに振り下ろす。

 

 当然のように剣で防御されるが、もちろんこれは次の攻撃に繋ぐためのフェイントだ。

 

 注意が俺の方を向いた隙をついて矢上君の操るカボチャ頭が埴輪兵の背中めがけて鋭い蹴りを入れた。

 

 埴輪兵がバランスを崩して前向きに倒れこもうとしたところ目掛けて金色の剣を渾身の力で振るった。

  

 木島君が早くも趣旨を理解したのか、攻撃を爪での打撃から関節技での部位破壊に切り替え始めた。

 

 もし反撃をされて使い魔が破壊されてもすぐに代わりを出せるバグベアの特性を生かせている。

 

 反撃覚悟で1体の埴輪兵に2体のバグベアが取りつき、腕やら足やらを力任せにもぎ取ってはポイポイと雑に扉の前へ投げ捨てて侵入者を塞ぐ壁を作り上げていく。

 

 室内に入ってくる敵の数を絞る戦法は確立出来た。

 

 あとはミスなく積み上げるだけだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 短いようで長い10分が経過した。

 

 室内で動いている埴輪兵は0。

 すぐに敵が発生することはないだろうが、バリケード代わりに積み上げた埴輪兵の残骸はもうしばらくそのままにしておく。

 

 友瀬さんが念の為に再チェックをかけているが、今のところ周辺に敵は残っていないようだ。

 

 地上に残してきた使い魔に安全が確保出来たことを伝えるよう合図を送ってしばらく待つと、部屋の中心にある円柱に切れ目が入り、エレベーターの扉が開いて中から第二陣の面々が降りてきた。

 小森くん、エリちゃん、柿原さんと麻沼さんの4人。

 

 カーターは儀式を行った京都組と共に地上での残作業が有るので、ここにいる8人が全員だ。

 

 仲間達の顔を見るとようやく一仕事終えたと実感出来て、安心感からその場にへたり込んだ。

 

 それは友瀬さんも同じようで、一緒に座り込んだので、そのまま背中合わせで体重を預けた。

 

「お疲れ様です、ラビさん。差し入れです。少し休んでください」

 

 小森くんがカバンからペットボトルを取り出して投げてきた。空中でキャッチする。

 

 中身はシュガーゼロじゃないコーラ。

 俺の好みを押さえてくれているのはありがたい。

 

 ありがたいんだが……炭酸飲料を投げるな。下手すれば栓を開けた瞬間に暴発するんだぞ。

 

 何故小森くんは、丁寧なときと雑なときの差が激しいのか。

 

「友瀬さんの分は?」

「もちろん用意してます。紅茶でいいですよね」

 

 そう言って小森くんがもう一本投げてきたので、空中で受け取る。

 

 だからそういうところだぞ。

 

「裕和はその辺、はっきりして欲しい」

「気が利くのか利かないのかはっきりしてほしい」

 

 案の定、エリちゃんと柿原さんが今の行為について詰め寄っている。

 

「ラビちゃんはともかく、年下の女の子にそれはダメでしょ」

「そうそう。友瀬さんは上戸さんと違って繊細なんだから」

 

 待て。なんで俺は「ともかく」扱いされてるのか?

 俺のはコーラなんだけど。

 下手に振ると爆発するんだけど。

 

 騒ぎに気づいたのか、出入口で警戒していた矢上君と木島君も戻ってきた。

 

「じゃあどうすればいいんだ? 手渡しがいいのか?」

「女子にはちゃんと気を使ってあげて。男には投げてもいいけど。ほら、恵太」

 

 柿原さんはそう言うと小森くんからペットボトルを奪い取り、矢上君に投げつけた。君達何なの。

 

「言った舌の根も乾かないうちに投げるのはどうかと」

 

 エリちゃんはそう言ってスポドリを木島君に手渡した。

 細かいところで教育が行き届いているのが見えるのはよろしい。

 

「あなたが神か?」

「安いな、神」

 

 唯一きちんと飲み物を手渡しされた木島君は満足そうだ。

 

「なあ小森、どこでそんな良い彼女見つけたんだよ。優しいしスタイルいいし、綾乃を選ばなかった理由も分かる」

「オイそこ、聞こえてるぞ!」

 

 柿原さんも怒りも分かるが、今回の場合は自業自得感もありなんとも言い難い。

 

「どこでって、一言で説明するなら異世界だよ」

「クッソうらやましい。俺も異世界行くわ」

「やめとけ。あとお前、彼女いるだろ」

「それはそれ、これはこれ」

 

 本当に君達仲がいいな。

 敵がいないこともあり、一気に和やかな雰囲気になったが、まだここは敵地のど真ん中、最前線だ。

 

「皆さん、あまり気を抜かないように。ここからが本番ですよ」

 

 麻沼さんがパンと手を叩いた後に俺の言葉を代弁してくれたかのように、締めてくれた。

 やはり学生が多いとまとめるのは大変だ。

 成人がいてもらえると色々と助かる。

 

「魔力を感じられない皆さんには分からないかもしれませんが、ここは空気が酷いです。何が起こるか分かりません」

 

 麻沼さんは眉をひそめて俺の方を見た。

 

 魔力を感じられないのは俺も同じだが、立ち込める霧といい、油断してはいけないということは分かる。

 

「ここからはポジション交代です。矢上君、木島君、友瀬さんはこのエレベーターホールを安全地帯として守り抜いてください」

「僕はまだ戦えますけど」

「戦えるからこそです。このエレベーターがなくなると私達は帰る手段がなくなるのですから、なんとしても死守してください。重要な任務です」

 

 麻沼さんが説得すると、矢上君も理解してもらえたようだ。

 

「任せたぞ木島。俺達が帰る場所を守っていていてくれ」

「小森こそ彼女達に良いところ見せようと思ってミスったりすんなよ」

「お前じゃないからそんなミスはしない」

「何を言ってるんだ。ハーレムじゃねぇかハーレム」

 

 小森くんと木島君はお互いの肩を叩いて軽口を叩きあう。

 

「上戸さんは連戦で酷でしょうが、同行をお願いします」

 

 麻沼さんの言う通り、俺はこのまま更に奥に向かう必要がある。

 偵察、防御、攻撃のスキルがあって、他の遺跡の探索経験もある俺が抜けるわけにはいかない。

 

 コーラをひと口飲み、炭酸の刺激で喉を焼きながら「よいしょ」と声を洩らして立ち上がった。

 疲労は溜まっているが、立ち上がれないという程ではない。

 

「ただ、体力的に前線で戦うというわけにはいきませんので、後ろで楽をさせてもらいます」

「大丈夫だって。私と裕和の2人で護るから。泥舟に乗った気でいて」

 

 エリちゃんにそう言ってもらえると心強い。

 安心して泥舟で……。

 

「戦いはここで終わらせて、3年からは勉強を頑張ろう」

「そうだね。その前に舞浜だけど」

「そうだ、舞浜だ。前にチャラになった分を取り戻そう」

 

 何か目的を持つのはモチベーションを保つ上でも重要だ。

 単純な話だが、精神的なことで意外と成功率は上がるものだ。

 

「ここからは後半戦のスタートです。このまま一気に攻め入りますよ」

 

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