収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第69話 「迦具土」

 新幹線の最寄り駅、新横浜まではカーターが車で送ってくれることになった。

 つまり、ここで横浜の高校生組とはお別れだ。

 

 もちろん今生の別れではない。

 

 3月の連休にはランドとシーのリベンジだし、Web勉強会でも定期的に顔合わせする予定だ。

 感動の別れとか、そういう雰囲気は一切ない。

 

 それは全員同じようで、どうせまた来るだろうという雰囲気だ。

 

 ちなみにランドとシー以降当分来ることはない。

 

 そもそも横浜までの往復で毎回4万近く使っているのだから、流石に俺の財布が持たない。

 次は文化祭までお預けだろう。

 

「で、次のランドとシー巡りは全員参加でいいの?」

「オレは行かない。金払って人混みに突っ込むとか拷問でしかない」

「カーターには聞いてない」

 

 本当にこいつは……。

 

「私も仕事の予定が未定なので何とも。学生の皆さんで楽しんできてください」

 

 麻沼さんも参加せず。

 

 流石に仕事があるから仕方ないだろう。 

 彼女とはこれで別れることになる。

 

 学生組と違って積極的に会うことはないだろうが、俺達が異世界絡みで動いている限りは、また思いがけない場所でばったりと再会することもあるだろう。

 

「行きたいんだけど、財布がねぇ……みんなそんなにお金の余裕あるの?」

 

 柿原さんが困った顔で一同を見回した。

 

「来月には8万円入るらしいから貯金を崩せば」

「私もなんとかなると思います」

「そうそう、来月には8万入るんだろ。8万だぞ!」

 

 矢上君、友瀬さん、木島君は参加と。

 

 やはり8万円は偉大だ。

 

 残金の心配を翌月には8万円入ってくる狸の皮算用で打ち消している。

 

「お願いします上戸様。哀れな高校生に資金援助を」

 

 そう頼まれたら仕方ない。

 

 まあ1人分の入場料くらいは良いだろうと思ったら、小森くんが俺の方へその必要はないとばかりに手のひらを向けてきた。

 

「甘やかしちゃ駄目ですよラビさん。女子高生に金を渡したら人生が詰みます。お巡りさんが来ますよ」

「そうかな? そうかな?」

「だから柿原は俺と一緒にリサイクルショップへガラクタを売りに行こう」

「ガラクタ?」

 

 何の話だろう。

 ガラクタとは何の話なのか?

 

「打ち合わせで家に行ったときに部屋の中に変なものが溢れていて」

「家に行った? 部屋に入った?」

 

 小森くんのこの発言にエリちゃんが食いついた。

 声が一段低くなる。

 

「違うんだ。打合せなんだ。矢上君も友瀬さんもいたし、なんなら木島すらいた」

「すらってなんだよ」

「だって無関係だろ」

「無関係じゃなくて仲間だろ」

「元は敵だろ!」

 

 渦中の柿原さんとエリちゃんを置いて小森くんと木島くんがワイワイやり始めた。

 

 本当に君達仲が良いな。

 

 仲が悪くて常に喧々しているよりは良いだろうが、5年以上親交がなかったというのが嘘としか思えない程の親密さだ。

 

 そもそも小森くんは柿原さんの告白を蹴ったのだから、本来ならもっとギクシャクしていてもおかしくない関係のはずである。

 

 幼なじみ同士気が合うのだろう。

 

 ……

 

 まあ今更、取り返しがつかないものは仕方ない。

 魔女(ユイ)は俺と一緒に家に帰ってのんびりしよう。

 これからの人生、ずっと一緒なのだから。

 

「じゃあそろそろ行くか。渋滞に巻き込まれるかもしれないし、早めに出るに越したことはない」

「じゃあキリがないからもう行くよ。みんなまた」

「また会おうね」

「それでは皆さん、また会いましょう」

 

 麻沼さんは助手席に。

 俺達は後部座席に乗り込む。

 

 カーターが「新横浜、新横浜と……」とナビを設定しているのを尻目にリアウインドウ越しに外を振り返ると、みんながまだ手を振っていた。

 

 ようやくここに来て全部終えたという実感が湧いてきた。

 

「今度こそ全部終わったんだな」

「まだ後始末が大量に残ってるけどな。『いにしえのもの』との交渉もこれからだ。運営と組んでいた神父や東啓輔の扱いなんかは未定。異世界に連れ去られたやつ対策も未定。宇宙船からバラまかれた汚染物質の扱いなんて議題に上がってすらいねえ」

 

 カーターが次々に課題を挙げていく。

 正直頭が痛い。

 

「汚染物質は何か起こる前に中断させただろ」

「中断したところで既にバラまいたものが消えるわけない。濃密な魔力の塊がバラまかれてるんだ。絶対近いうちに首都圏で何か起こるぞ」

「聞かなかったことにしたい」

「見なかったし聞かなかったことにしよう。警察が何とかするだろ」

 

 今の話の通り、警察や探偵事務所が解決しないといけない問題はまだまだ山ほどある。

 

 それに加えて、市ヶ谷議員が次の国会に日本人大量失踪事件についての議題を出す予定である。

 

 異世界とは明言しないものの、行方不明者が多数いるという事実は世間を騒がせることになるだろう。

 

 もちろん、今回の事件も含めた異世界の事情にも詳しい俺達にも仕事の依頼も飛んでくるに違いない。

 だが……

 

「俺はやらないぞ」

「オレもやらない」

「私もやらない……と言いたいところですけど、会社勤めなので」

 

 探偵事務所所属の麻沼さんは流石に逃げられないだろう。

 社会人の悲しいところだ。

 

「もう辞めちゃってもいいんじゃないか? 実家が面倒な感じか?」

「辞めようかって考えたんですけど、給料が良いんですよ。実家はともかくとして」

「そりゃ辞められないな」

 

 生きている限りは何かしら仕事はやらなきゃいけない。

 人生は色々と大変だ。

 

 俺だってそうだ。

 

 恩のある麻沼さんや和泉さんに頼まれれば、たぶんまた何かしら仕事をしないといけないだろう。

 

 日本を離れて久しい伊原さんからも同じだ。流石に拒否は出来ない。

 

「結婚して家を継ぐなら辞めていいとは言われてるんですけどね」

「魔術師の家を継げるような都合のいい相手なんていないだろう」

「変な年寄りと見合いなんてしたくないので片倉さんが貰ってくれると嬉しいんですけどね」

「それはダメ。もっと自分を大切にすべき」

「そうそう。オレは単なる公務員で満足してるんだ。魔術師一家だなんてよく分からないものを継ぐなんて」 

 

 麻沼さんがドサクサでカーターへの誘惑を始めたので流石に止める。

 それは良くない。

 だってカーターだぞ。

 

「ままならないですね」

「世の中そんなもんだ。後はどこで折り合いを付けるかって話なんだから」

 

 カーターがナビの設定を終え、指先で軽くハンドルを叩く。

 無駄に馬力のある車が地球に厳しい爆音を鳴らしながら勢いよく走りだした。

 

 窓の外の景色がゆっくりと後ろへ流れていく。

 

 見送りの高校生達の姿が徐々に小さくなり、最後は光の粒のように消えた

 

「なんかBGMをかけるか。麻沼さん、ダッシュボードにカセットテープが入ってるから何か適当に掛けてくれ」

「なんで今時カセットテープなんだよ!」

「カッコいいだろう。わざわざ取り寄せたんだぞ」

 

 確かに最新型の液晶パネルが並ぶコンソールの真ん中に、場違いなカセットデッキが鎮座している。

 

 灰皿とシガーライターまで完備。最新とレトロの混在が、いかにもカーターらしい。

 

「車の中にカセットテープを入れっぱなしだと熱でやられるぞ。うちの車もオールドカーだから分かる」

「確かに日本の夏は地獄だからな。対策を考えるか」

 

 そうしているうちに無駄に高性能なカーオーディオのスピーカーから古いロックバンドの声が、車内に広がっていく。

 

 本当にこいつはアメカジが好きなんだな。

 

「私もなんか聞いたことある」

 

 流れる曲を聴いてエリちゃんが言った。

 

「流石にビートルズは全世代でメジャーだから知ってるだろう」

「なんて曲?」

「元居た場所へ帰ろう。家へ帰ろう」

「今の状況に会っていますね。私の曲選に間違いはなかったようです」

 

 麻沼さんが自慢げに言った。

 

「ロレッタマーティンは女と思ったけど男だったのさ」

「俺のことじゃねえか」

「逆だろ」

 

 まあそうだけど……そうなんだけどさ。

 

「家に帰ろうジョジョ。これにて2部完」

「3部も4部も最後はGet Backだよ」

 

 車は新横浜駅へ向けて走る。

 そうだ、家に帰ろう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「事故はするなよ」

「ああ、分かってるよ。お前等もほうとう食べに来いよ」

「真夏の暑い中で食べたくないし涼しいうちに行くよ。ゆるキャンの聖地巡りもしたいし」

 

 カーターとは新横浜の駅前で別れた。 

 この後は麻沼さんを東京まで送って、その足で自宅まで帰るらしい。

 

 あいつも今回は色々と頑張ってくれた。

 埋め合わせは考えておかないと。

 

 もう横浜に未練はないので駅舎に入って新幹線のチケットを買う。

 

 俺は新神戸まで。

 エリちゃんは岡山まで。

 3人座席の2席を隣同士で。

 

 通路側に1席空いているが、空席が多くある時間なので、隣の指定座席を購入してくるような空気を読めない人はいないと思いたい。

 

 3時間近く知らない人と相席はキツい。

 

 せっかくなので構内で昼食として崎陽軒のシウマイ弁当を買って新幹線に乗り込む。

 横浜に来たら買わざるを得ない。

 

 通は弁当ではなくシウマイ15個入ったセットを買ってそれを当てに酒を飲むらしいが、俺達はそこまで拘りはないので弁当一択である。

 

 新大阪で551蓬莱の豚まんを買うよりも周囲への匂いによる攻撃性能が低いのは救いだ。

 

 ついでに自販機で販売しているスジャータのシンカンセンスゴイカタイアイスも買っておく。

 

 昔は客席までワゴンでこのアイスを販売に来ていたらしい。

 

 ハーゲンダッツ並みの価格なだけあって、濃いバニラミルクの味わいが堪らない。これも美味しくて好きだ。

 

「崎陽軒のシューマイ弁当って名前は聞いたことあるけど食べるのは初めだよ。どんな感じなの?」

「付け合わせのタケノコの煮物が少し辛めでご飯が進む。でも配分を計算して食べないと米の方が先に尽きて煮物だけを食べることになる。すごく辛い」

「……難しいね」

 

 そう、難しいのだ。

 米をもう少し増やして欲しい。

 

 難易度の高い煮物を避けてメインディッシュである王道のシュウマイから食べ始めていると、大きな荷物を持った数人の乗客が車内に入ってきた。

 

 宇宙船からエレベーターを引き出すための儀式を行うために探偵達が京都から呼んだという魔術師達だ。

 

 見覚えのある顔ばかりで、俺とエリちゃんが軽く会釈すると、向こうも気付いて小さく頭を下げてきた。

 

 何の因果か同じ新幹線で帰ることになったようだ。

 

 こういうのを縁というのだろう。

 人の縁というのは本当にどこで繋がるか分からない。

 

 通路を挟んだ反対側の席の荷物棚に彼らは次々と大きなスーツケースを載せていく。

 金属の留め具がぶつかる音、車内の静けさの中に妙に響いた。

 

 騒がしくなければ良いなと思っていると、その中の1人、スーツ姿の女性が「相席すみません」とチケットを見せながら俺のすぐ隣の席に座った。

 

 チケット番号はまさに俺の隣の席。

 空気を読めないやつがここにいた。

 

「昨日お会いしましたね」

「どうも」

 

 顔には覚えがなかった。

 

 ただ、言葉のイントネーションから関西出身……しかも京都人だとすぐに分かるのでお仲間であることに違いない。

 

 俺がたまたま気付いていないだけでどこかにいたのだろう。

 昨日中華街まで送ったというカーターなら覚えているかもしれない。

 

「お互い、お仕事ご苦労様です。私は京都までですけど、貴方は?」

「私は新神戸まで行きます」

「私はその先の岡山まで」

「同じ西の方やったんやね。まあ2時間ほど相席よろしゅうお願いします」

「こちらこそよろしく。旅は道連(みちづ)れと言いますし」

 

 その程度の社交辞令的な会話で終わるはずだった。

 

 思考を弁当に戻し、タケノコの煮物とご飯とどう調和を取って食するべきか思案に戻ろうとしたところ、突然に女性が声を掛けてきた。

 

「お仕事の話ですけど少しよろしいでしょうか?」

 

 そう言われて流石にノーとは言えない。

 だが、真剣に聞く気もしない。

 

「オフですし、他に人もいますし、軽い雑談くらいでしたら」

 

 適当に相槌を打つつもりで軽く返す。

 

「大丈夫です。人払いをしましたので誰にも聞かれません」

「えっ?」

 

 突然、新幹線の車内から窓の外から聞こえる走行音以外の音が消えた。

 

 慌てて立ち上がると、車両の前から後ろまで、席はすべて空。

 

 俺とエリちゃん、そして隣に座った彼女以外……向かいの席にいた京都の連中を含めた乗客が誰ひとりとしていない。

 

 窓の外には、静岡県の景色が流れている。

 

 だが、その景色もゲームのバグのように同じ風景が短い間隔で何度も繰り返されているように感じる。

 

 完全な異常事態だ。

 

 身構えようとした俺より早く、彼女が口を開いた。

 

 その声は落ち着いていて、しかし不気味なほどに静かな車内に響いた。

 

「危害を加える意思はありません。今回はお礼に参りました」

「お礼?」

 

 お礼参りか?

 警戒を強めたところ、座ったままのエリちゃんが俺の服の袖を掴んだ。

 

「大丈夫だと思うよ。敵意は感じない」

「流石ですね。まあこの身体じゃ、私も力を存分に振るえないし、大丈夫ですよ」

 

 女性は微笑んだ。

 

 だが、その笑みは、人間離れしているように感じた。

 

 それでも敵意や殺気などは感じない。

 エリちゃんの直感も安全と告げているのならば一応は大丈夫なのだろう。

 

 椅子に座り直す。

 

「貴方は何者ですか?」

「私は別の世界から来たものであり、この姿は仮のもの……ここに適応するための殻です」

 

 異世界人か? 運営か?

 様々な可能性について考える。

 

 だが、可能性が多すぎる。

 それらを分析するにもあまりに情報が足りない。

 

「貴方の話は……そうですね、トナカイさんから聞いております」

「トナカイ?」

「ええ。(やっこ)さんは大山羊やのに、えらく気に入ったのか自らトナカイと名乗っとりました」

 

 トナカイの知り合いというと伊原関係か?

 それとも……。

 

「本題に入りますね。私の古い知り合いに人の不幸を見るのが好きな悪趣味な奴がおりましてね。そいつが人を騙して変なもんをこの世界に持ち込ませたんです」

「酷い知り合いもいたものですね」

「でしょう。それでなんとかしようと、うちの若い衆をこの世界に送り込んだんですがね」

「うまくいかなかったと」

 

 彼女は首を縦に振った。

 

「自分の欲望を満たすために動く人間は多くても、良心で動いてくれる人はあまりいなくて……でも、最後の最後で良い子らに巡り合えて良かったです」

 

 曖昧な言葉が多くて何とも返答し難い。

 それでも思ったことを言うことにする。

 

「神様がやらかしたことなら神様に任せたいんですが」

「直接奴が出てきたら私も出張りますよ。何度かあのアホを焼いたことはありますので。でも、今回のように人間に道具を渡すだけで本人は何もせずってのは流石に手を出しかねて」

「何故ですか?」

「人間同士の諍いは人間同士で何とかして欲しいという方針なんで。トナカイさんや貴方の旦那さんも同じですね。風の神さんもそうやったかな」

 

 なんとなく分かってきた。

「変なもの」とはあのメダルシステムのことだろう。

 

 彼女はそれを破壊したかったようだが、機械を見つけることが出来なかったのか、それとも送り込んだ部下が神父や議員達に邪魔されうまくいかなかったのか。

 

「私達があの変な機械を壊したので、裏にいたあなたが確認のために顔を出してきたと」

「そうです。ようやく事件を解決してくれそうな人間が出てきてくれて安心してます」

 

 彼女はここで言葉を切った。

 

「言いにくいんですけど、実はあのアホが持ち込んだ機械はまだ3つほどこの世界……日本にあるんです」

 

 突然にとんでもない話を持ち出してきた。

 あんなはた迷惑な装置が他にまだあるのか?

 

「それを全部探しだして壊せと?」

「貴方一人に全部やれ……とは言いません。ただ、放置していると人の世界が無茶苦茶になります。だから解決出来る能力のある人に動いてもらえると助かります」

 

 とんでもない無茶振りだ。

 

 神様だかなんだか知らないが、何故俺だけに全部丸投げしようとするのか。

 

 だが、対策は既に講じており、それは動き始めている。

 それを説明すれば良いだろう。

 

「異能関連の事件について、速やかに調査、解決のための仕組みを知り合いの政治家や探偵達が作る予定です。試みは始まったばかりですが、軌道に乗れば私個人が動くよりも的確かつ早く対処が出来るようになります」

 

 市ヶ谷議員や探偵事務所の蘆名さんがこうしている今も頑張って動いてくれている。

 

 異世界から伊原さんがやってきて手を組めば、更にこのプロジェクトは良い方向に進むだろう。

 

「貴方自身はどうですか?」

「私個人で出来ることは限られています。だから1人で頑張るよりも大勢の人を巻き込んで、みんなで協力して世の中を良くする方向に持っていきたい。それが私の方針です」

 

 女性はゆっくりと瞬きをした。

 

 そしてオレンジ色の……炎のような瞳で俺の目を覗き込んだ。

 まるで俺の本心を図るように。

 

 しばらくして彼女が口を開いた。

 

「それなら安心ですね。にべなく断られたらどうしようかと思ってました」

 

 彼女が音もなく席を立った。

 

 滑らかな動きでで荷物棚から無音でスーツケースを下ろし、通路を静かに歩いていく。

 

 靴音は響かず、まるでない。

 

「貴方のような人がいれば安心です。旦那さんにも伝えときます。よう頑張っとると」

「せめて名前をお願いできないですか?」

 

 彼女はドアの前で一度だけ振り返った。

 

「この国では迦具土(カグツチ)と呼ばれとります。まあ火の神というやつです」

 

 彼女は一度だけ微笑んで、ドアを開けて通路の向こうに消えた。

 

 瞬間——音が、戻った。

 

 鼓膜に刺さるほどの現実音。

 車輪の振動とアナウンス、ざわめき。

 

 通路を挟んだ席では京都の魔術師たちが、慌ただしくスーツケースを降ろしている。

 ついさっき乗ったばかりなのに、もう降り支度とはどういうことだ。

 

 その答えは、車内アナウンスが告げた。

 

『まもなく京都——京都でございます』

 

 俺は慌てて立ち上がり、扉を開けて車両の連結部に出た。

 通路の先を見渡すが、迦具土を名乗った女性の姿はどこにもない。

 

 車内に戻り、帰り支度途中の京都の魔術師達に聞いてみたが、そんな女性は知らないということだった。

 

 ——本当に、いたのか?

 夢ではなかったのか?

 

 簡易テーブルの上ですっかり冷え切ったご飯とタケノコの煮物が時間の経過を証明していた。

 

 カタイアイスは流石なもので、辛うじて溶けずに残っていた。

 

 途中の停車駅、名古屋はどこに消えた?

 

※崎陽軒の濃い味のタケノコは冷えても美味しいので、この後、美味しくいただきました。

 

 

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