収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第60話 「鳥之石楠船神」

 海底遺跡へ繋がるエレベーターはしばらく下って止まった。

 

 自動ドアが開いた先に広がっていたのはざっと10メートル四方の部屋だった。

 

 天然洞窟に手を入れて作り上げた遺跡という点は他の遺跡と共通しているところがある。

 最大の違いはここが海底約50メートルの位置にあるということだけだ。

 

 部屋から左右に通路が延びているようだが、どちらのルートも、部屋を出てすぐのところで90度曲がっている。

 先で繋がっているのかもしれない。

 

 天井部分はどういう仕組みなのかは不明だが、ほんのりと淡く光っている。

 ただ、やはり暗いので他の照明は欲しいところだ。

 

 照明の謎は気になるが、今のところ重要なのはミイラと東啓一郎(あずまけいいちろう)氏の行方だ。

 

「まずは追跡からだな。床を照らせ」

 

 1羽の鳥には懐中電灯を持たせ、灯りを担当する。

 床を照らさせるとうっすらと石畳の上に濡れた靴の跡が残っている。

 

 エレベーター内や遺跡内には海水は浸水していないようだが、ヨットの甲板は常時波を受けて濡れている状態だった。

 

 そこを歩くからには靴が濡れることを避けられなかったのだろう。

 

 結果として、乾いた床にしっかりと靴の跡が足跡として残っている。

 

 しかも残った水滴が蒸発していないことから、ここに入ってからそれほど時間が経っていないことも分かる。

 

「足跡のサイズが全部違うことからして2人? 否、3人はいるな」

 

 1人の足跡は若干すり足気味。

 

 残る2人の足跡。

 1人は順向きだが、もう1人は逆方向を向いている。

 

 脳内でイメージする。

 

 2人で何か重いものを両側から持ち上げて運んでいると仮定する。

 

 通路の幅は狭い場所があるので左右に並ぶのは難しい。

 そうなると1人は順方向で歩けるが、もう1人は後ろ向きに歩くこととなる。

 

 その2人の後ろから啓一郎氏が続く……と。

 

「先行している連中も何かしらの照明を持っているはずだ。気付かれないようにするには懐中電灯で遠くを照らすのは避けた方が良いな」

 

 鳥に命じて灯りは可能な限り下向きで遠くを照らさないようにさせた上で、慎重に足跡を追跡させる。

 

 同時にポケットから手帳を取り出して鳥の移動距離からマッピングを施していく。

 

 思っているよりもかなり広い遺跡で分岐も多く、足跡を見失えばすぐに迷ってしまいそうだ。

 

 その複雑な迷路の中を足跡は躊躇いを見せずに着実に歩みを進めている。

 まるで何かに導かれているようにも見える。

 

「もしかして実際に導かれているのか? こうやって使い魔を遠隔操作している俺には何も感じられないだけで?」

 

 ホンジュラスにあった蟇の神殿ではカエルの声に導かれるかのように多くの人が遺跡の奥へと誘い込まれて、その道すがらで寄生生物にやられて苗床にされた。

 

 それと同じことがこの海底遺跡でも起こっているのかもしれない。

 

 無機質な遺跡を足跡を辿ってしばらく進むと、先の方に人工の白い灯りが見えた。

 

「ライトを消せ。ここからは物陰に潜みながら近づけ」

 

 慎重に進むとそこは5メートル四方の小さい部屋だった。

 

 ただし、構造が明らかに異質だ。

 壁は金属光沢があり、海面から突き出た円柱の柱と同じ材質に見える。

 

 中央には祭壇らしき台が置かれており、その上には装飾台に埋め込まれた赤い宝石が見える。

 

 祭壇だけは旧校舎地下にあった遺跡とほぼ同じ構造をしているが、異なるのは祭壇の先の奥の壁だ。

 

 微妙にカーブを描いたツルツルの構造をしており、まるでイベント会場などにある巨大な曲面モニターのように見える。

 

 赤い宝石だけはなんとしても確保したいところではある。

 

 だが、その前に解決しなければならない問題がある。

 祭壇の前で何やら口論をしている老人、中年男性、青年男性の3人だ。

 

 老人は啓一郎氏で間違いない。

 

 中年男性は教団の能力者だろうか?

 もう1人は青年だ。かなり若く、高校生かもしれない。

 

 所在が不明だった4人の能力者のうちの1人か、木島君と同じく教団の協力者かと推測できる。

 2人のうち、どちらかが啓一郎氏を自宅から密かに脱出させた能力者である可能性は高い。

 

 鳥の使い魔は視覚のみで音声を伝えることができないので彼らが何を言っているのかは一切分からない。

 

 だが、状況からして、啓一郎氏が何か理不尽な命令をしたことに対して、2人が反発しているように見える。

 

 彼ら3人をどうにかするのがミッション1。

 

 問題はミッション2。

 こちらが厄介だ。

 

 部屋の隅にはやはり奈良の地下で見たのと同じ怪生物……「いにしえのもの」のミイラが置かれている。

 

 否――既にミイラではない。

 

 皮膚? 表面の組織は乾燥しきったミイラではなく、生気を取り戻しているのがひと目で分かる。

 

 あえて近いものをあげるならばイソギンチャクだろうか?

 

 身体のあちこちから生えた触手や皮膚は僅かではあるが胎動し、蠢いている。

 

 今にも動き出して、口論している3人へ襲いかかりそうな雰囲気だ。

 

 そんな危険な状況だというのに3人は口論を止めそうにない。

 あからさまに危険なクリーチャーを前に人間同士の争いを優先とか、お前等はB級ホラーの登場人物か。

 

 明らかに怪しい敵が動き始めているというのに、この3人を無視するのは、単に犠牲者を出すのと同義だ。

 だからといって使い魔の遠隔操作だけで倒せる相手かというと否である。

 

「俺自身が行くしかないか」

 

 今のところ遺跡はそれなりに頑丈そうで、すぐに崩れて生き埋めになってしまうという悲惨な目に遭うのは避けられそうだ。

 

 どの道、赤い宝石は絶対に回収しなければならない。

 多少のリスクはあっても、それ以上のリターンがある。

 

 そう思って重い腰をあげて椅子から立ち上がった時に、地下で状況が大きく動いた。

 

 足? 触腕?

 

 なんと言えば良いのかは分からないが、ともかく「いにしえのもの」が床に接している部位を動かし、ゆっくりと移動を始めた。

 

 今までミイラだと思っていたものが突然動き出したのだ。

 祭壇の前で口論をしていた3人の視線も一斉に「いにしえのもの」に向いた。

 

 啓一郎氏が「いにしえのもの」に対して両手を広げて何かを訴えているようだ。

 それを、他の2人が、啓一郎氏の腕にしがみついて止めようとしている。

 

 次の瞬間……ヨットの船室にいた俺の前に、地下の祭壇にいたはずの3人が突然出現した。

 

 2人のうちのどちらかの能力……瞬間移動能力だ。

 

 啓一郎氏は状況を理解できないのか、腕を広げた間抜けなポーズのまま固まっている。

 

 少し遅れて、瞬間移動で船へ強制的に戻されたことに気付いたのか、その表情が呆然としたものから絶望……そして怒りに変わった。

 

「何故戻した? 儀式の最中に中断など、何が起こるか分からんのだぞ!」

「何が儀式だ! 又聞きの怪しげな方法がたまたまうまく行ってただけだろ! あいつは神じゃない! ただの化け物だ!」

「オレも同じ意見だ。いくら金を積まれても、あの場に残り続けるなんて御免だ!」

 

 3人は俺など目に入らないようで、地下にいた時と全く同じように罵り合いを始めた。

 

 すぐ真横を抜けても誰も見ようとしない。

 

 それはそれで助かるとキャビンから甲板に出て、無線機を取り出して呼び掛けた。

 

「海上保安庁ですか? こちら警視庁の加古川と申します。実は――」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 船内で揉めている3バカの対応は海上保安庁に通報済みなので、そちらに任せてしまっていい。

 優先すべきは海底遺跡の方だ。

 

 できればすぐにでも海底遺跡ごと生き埋めにしてやりたいところではあるが、さすがに赤い宝石をここで見逃す手はない。

 矢上君たちを救済するには赤い宝石はここで絶対に回収する必要がある。

 

「3羽で増幅魔法陣を形成! 1羽は赤い宝石を奪い取れ!」

 

「いにしえのもの」の動きは復活してすぐだからか、その動きは緩慢だ。

 今ならば何かやる前に先行して動くことができる。

 

 1羽をコントロールして祭壇の上に安置されている赤い宝石を回収させた。

 

 赤い宝石を咥えた鳥ともう1羽は増幅魔法陣を抜けて一気に加速。

 増幅魔法陣はその後に速やかに解除。霧散させる。

 

 同時に動かす鳥の数が増えると流石に緻密なコントロールができない。

 赤い宝石を回収したこいつらを脱出させることを最優先とする。

 

「おいお前! 一体何者だ? そこで何をしている!」

 

 今頃になって、船に転移して戻ってきたうちの1人……中年男の方が俺の存在に気付いたようだ。

 だが、先程決めた通りで3バカの相手は後回しだ。

 

 2羽の鳥は地下遺跡を一気に飛行して、エレベーターの入り口までたどり着いている。

 俺自身も甲板を駆けて金属の円柱に駆け寄り、エレベーターのボタンを連打する。

 

 1羽の鳥を高速回転させた後にエレベーターの扉目掛けて体当たりをさせた。

 開いた穴から赤い宝石を咥えさせた鳥を金属の円柱内へと飛び込ませる。

 

 柱の内部は予想とは異なり空洞が広がっていた。

 エレベーターを動かすためのエレベーターシャフトやワイヤーなどは見当たらない。

 

 どうやってエレベーターを動かしているのかは気になるところではあるが、今はそれどころではない。

 

 上昇するゴンドラを下から鳥に追いかけさせる。

 

 エレベーターのゴンドラが海面にまで到達。

 俺の目の前で扉が開いたところで、ゴンドラの床目掛けて手のひらを向けた。

 

「圧縮極光!」

 

 ゴンドラの床が一部破壊されて穴が開いたと同時に、赤い宝石を咥えた鳥の使い魔が飛び出してきた。

 宝石ごとコートのポケットに潜り込ませる。

 

 そうしていると誰も乗る者などいないのに、エレベーターの扉が閉じた。

 

 それが合図になったのか、今まで海面から突き出していた円柱が海の中へと沈んでいく。

 

 柱の上端から船を係留していたロープが外れ、波に揺られたヨットが大きく揺れ始めた。

 

「とんでもないことをしてくれたな……貴様ら警察は!」

 

 キャビンの中から怒気をはらんだ声を出しながら老人……啓一郎氏が甲板に上がってきた。

 

 何故、俺が警察と呼ばれたのか一瞬だけ悩んだが理由はすぐに分かった。

 今は蘆名さんからいただいた、警察のコートを着ているせいだ。

 

 デザインは現行のものと異なる旧式なので、偽警官だと一発で分かるはずだ。

 だが、夜の闇に紛れてはっきり見えないことと、認識阻害魔法による、違和感の喪失の影響が利いているのだろう。

 

「警察が来たのか? もう終わりだ」

 

 中年男は俺と啓一郎氏の顔を交互に見ながら言った。

 

「終わりではない! 貴様の能力で祭壇の前に戻せば全部解決だ! 儀式を継続する!」

「こんな割の悪い話があるかよ! オレはもう抜けるぞ! 前金は迷惑料だと思って貰っておくよ」

 

 そう言うと足元に魔法陣が出現した。

 

 中年男が瞬間移動能力者だったようだ。

 今の会話から推測するに、啓一郎氏を置いて自分だけ逃走する気なのだろう。

 

「待て! ワシだけでも祭壇に戻せ!」

「知るかバカ! 勝手にやってろ!」

「まあ待ってくださいよ」

 

 ここで中年男に逃走されるのは、それはそれで困る。

 

 瞬間移動であちこち飛び回るという、どんな犯罪でもやりたい放題な能力者を野放しにするわけにはいかない。

 

 コートの下に隠していたバルザイの偃月刀を抜いて魔法陣目掛けてエイっと斬りつけると、そこから亀裂が入り、魔法陣は霧散消滅した。

 

 瞬間移動キャンセルは何度目だと思っている。

 

 中年男はまだ転送されないのかと疑問に思っているのだろうか?

 間抜けなポーズと表情のまま固まっている。

 

 こいつはしばらくはこのままでいいだろう。

 

「まさか……能力を消したのか!?」

 

 老人がわなわなと震え出す。

 

 俺たちの誰かが能力者から能力を消すことができるという情報が断片的でも伝わっており、勘違いしたのか?

 

 ならばその勘違いは利用させて貰おう。

 

「そうですね。もう戻れませんが」

「なんてことしてくれたんだ! この世界は滅ぶぞ!」

「それはどういう――」

 

 その時、ヨットが突然に大きく傾いた。

 

 何かに強い力で船底を殴られたような強い衝撃の後に振動が伝わってくる。

 船が海面ごと高く持ち上げられた。

 

 明らかに遠くの海域と海面の高さが違う。

 

 甲板にいた全員がまともに立っていられず、バランスを崩してその場に座りこんだ。

 

「地震!?」

「ここは海の上だぞ!」

 

 ただの時化による波で起こるような揺れではない。

 まるで、海全体が震えているような、そんな苛烈な揺れだ。

 

 軽量級のヨットはなすすべなく振り回される。

 

 海面を見ると次々と深海魚が浮き上がってきている。

 やはり海底遺跡で何かが起こっているのだ。

 

 俺だけならばヨットが転覆しても箒で飛行して脱出できるが、先程昏倒させて拘束した男を含む4人は助かる見込みがない。

 

 せめて船を安定させる何かはないか……

 

 見回すと閉じたままの帆が見えた。

 

 素人ばかりなので、帆の使い方が分からず、モーターボートのようにエンジンだけでここまで移動してきたようだが、こいつはあくまでもヨットだ。

 帆を立てて風を受けた状態の方が船体のバランスは安定するはずだ。

 

「帆を立てます! 全員の協力が必要です! 手伝ってください!」

 

 精一杯の大声で呼び掛けた。

 

 帆から伸びたロープを辿ると、そこにはロープを自動で巻き取るための道具……電動ウインチが付いていた。

 

 さすが、議員所有のヨットだ。

 見た目通りかなり金が掛かっている。

 

「わしは何もせんぞ!」

 

 ジジイには聞いてない。

 

 キャビンの中から俺の声を聞いた青年が飛び出してきてウインチの周りを探し始めた。

 

「このボタンで上げ下げできるみたいだけど」

 

 青年がウインチのコントローラーを見つけたようだ。

 

 ボタンを押すと帆が張られていく。

 ただ帆に風を受けただけなのだが、どういう理屈か船体の揺れはかなりマシにはなった。

 

「次はこの海域からの離脱です」

「よし任せろ! ヨットには興味はあったんだ」

 

 今度は中年男だ。

 キャビンの中に入って行って少し経つと船のエンジンが唸り始めた。

 だが、まるで動く気配がない。

 

「ダメだ、高梁(たかはし)じゃないと分からねえ」

 

 高梁というのは、俺が昏倒させて拘束した男のことだろう。

 非常事態だ。

 

 キャビンに駆け込んで手錠の鍵を外して拘束を解いた。

 

「オイ起きろ! 船を動かしてくれ!」

 

 中年男がペットボトルに入った水を掛けると高梁が呻き声をあげながら身を起こした。

 

「大丈夫か? 操船できるか?」

「全身痛い……代わりに操船してくれ」

「無理だから頼んでるんだよ!」

「知るか。説明書を読め。そこの棚に入ってる」

 

 高梁はそう言うと目を閉じた。

 揺さぶっても、全く起きる気配がない。

 

 その説明書らしき本は先程大きく揺れた時に床にぶちまけられている。

 

 拾い上げてパラパラと捲る。

 重要なのは、海が荒れた時の船体を安定させるための項目だけだ。

 速読して、内容は概ね把握した。

 

「だいたい分かった」

「だいたいじゃ困るんだよ! オレに貸せ!」

 

 中年男が俺の手から強引に説明書を奪って読み始めた。

 

「面舵いっぱーい!」

 

 その間に俺はレバーを強く握り、舵輪を操作して船を発進させる。

 

「面舵って意味が分かるのか?」

「雰囲気でそれらしい言葉を言っているだけの私に意味を聞いてはいけない」

 

 それを聞いた中年男の表情がたちまち青くなった。

 

「待て、オレに代われ!」

 

 俺を突き飛ばすようにして舵輪を掴むと操船を始めた。

 

「えっとどれだ? 圧力計を確認してエンジンの出力を……」

 

 後の操船はこの中年男に任せて良いだろう。

 

 俺がわざとやったザル対応を見かねて、瞬間移動を再挑戦することも忘れて操船の方に集中している。

 

 再度甲板に戻ろうとすると、入れ替わりに青年が老人を連れてキャビン内に入ってきた。

 

「興奮して倒れたみたいです」

「椅子に寝かせて水を飲ませておいてください。救助はすぐに来ます」

 

 敬礼で青年を見送る。

 まあ、来るのは海上保安庁の巡視船なのだが別に安全が確保されたら何でも良いだろう。

 

 ヨットは第三海堡があった海域から急速に離れている。

 

 先程までヨットが停泊して円柱が突き出ていた場所の周辺は泡立ち、黒くて大きい「何か」が海底から浮上しようとしているのが見て取れた。

 

 やがてそいつは姿を現した。

 

 海面を割って現れたそれは、エレベーターのあった円柱と同じような金属光沢を持った巨大な紡錘形(ぼうすいけい)の物体だった。

 葉巻型宇宙船……そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

 かなりの質量を持った物体が、海底から急速浮上したことにより、海面が大きく盛り上がった。

 それは高波となり、荒々しい波音と共に俺たちが乗っているヨットへ押し寄せてくる。

 

 帆がどうの、操船がどうので解決できるレベルの波ではない。

 一瞬で船が飲みこまれるだけではなく、近隣の沿岸地域にもそれなりのダメージが残るだろう。

 

 何か解決策はないか?

 

 焦る中でも、俺の思考は冷静に働いてくれたおかげで、一つの答えを導き出していた。

 最近はすっかりコーラを飲んでるだけのニートと化した魔女も協力してくれたのだろう。

 

《当然だよ。これを解決しないととんでもない惨事が起こる》

 

 助かる。

 俺たちが出した結論は、高波以上のエネルギーをぶつけて、相殺というものだ。

 周囲に喚び出していた使い魔3羽を解放(リリース)する。

 

「鳥を3羽解放! 発射!」

 

 幸いにも、この海域は地元漁師が頻繁に漁にやってくるほど水産資源が豊富な地域だ。

 海中を泳ぐ魚を分解、霧に変えてエネルギーを瞬時にチャージした。

 

 発生した高波に向けて、即座に熱線を放つ。

 

 海面から盛り上がった高波の全てを蒸発させ、少しでも被害を抑える。

 

 超高熱の熱線は、海水に当たった直後に蒸発、水蒸気と化した。

 周辺にもうもうと蒸気が立ち込める。

 

 高熱の蒸気は、上昇気流に乗って、どんどん上空へ上っていくのだが、やはり海水の量は膨大だ。

 少々消し飛ばしてもキリがない。

 

 だが、全て撃ち落さなければ、高波は近くの町に押し寄せて大きな被害が出る。やるしかない。

 

 視界内にある波に向けて熱線を横薙ぎに払う。

 

 しばらく高波と格闘を続けてなんとか抑え込みには成功した。

 海が静けさを取り戻したとき、そこにはもう何も残っていなかった。

 

「ついでに撃墜を狙ったんだけどな……」

 

 一瞬だけだが、海中から浮上した物体は、岩をも蒸発させる超高熱の魔女の呪いの直撃を受けたはずだ。

 

 だが、あの金属光沢を持つ外装は、核反応級の高熱に堪えきった。

 

 10秒、20秒と当て続ければ、さすがに外装に穴を開けられただろうが、一瞬の照射では、今のように逃げ切られるだろう。

 

「あいつは一体何なんだ。Iフィールドでも付いてるのか……」

「鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)」

 

 青年がキャビンの中から甲板に上がってきた。

 

「神が地上に顕現される際に使用される船……です」

「アメノトリフネの別名ですかね? 建御雷神(たけみかづち)の使者を地上へと運ぶ役目を果たした。古事記にも書いてある」

「日本書紀では、最初に産まれた蛭子(ひるこ)を流した船ともされている。出来損ないの子供を捨てるための船ですよ」

 

 空を見上げると、水蒸気が作り出した雲の一部に不自然な大穴が開いていた。

 海底から飛び立った「それ」が空の彼方に浮上したとしたら……これから何が起こるというのか?

 

「祖父がご迷惑をお掛けしました」

「祖父? ということは?」

「東啓耶(あずまけいや)と申します。啓一郎は祖父にあたります」

 

 青年から挨拶があったのでこちらも加古川を名乗って挨拶を返す。

 

 どこから人を連れてきたのかと思ったら身内か。

 

 あれ? 東議員に息子なんていたんだっけ?

 

 ただ、実際に目の前にいるのだからそれが正しいのだろう。

 

 ややあって海上保安庁の巡視船がやってきた。

 

 俺の通報と、先程の怪物体の調査、そして、高波を止めるために発生させた膨大な水蒸気の調査にやってきたのだろう。

 今も上空には、まるで大爆発が起きたかのように、水蒸気が作り出したキノコ雲が残っている。

 

 一応俺の任務は啓一郎氏と教団の能力者の身柄確保、市ヶ谷議員のヨットの状態確認だ。

 

 それだけではなく赤い宝石まで手に入れられるというオマケまでついて来たが、全く気は晴れなかった。

 

「本当にこれで解決で良いのか?」

 

 いいわけがない。

 海底から浮上した宇宙船を追いかけるしかない。

 

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