収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 13 「異世界の友人」

 猫の使い魔の本体、まだ逮捕に繋がる証拠が出てこない学長と教授、第二王子を襲っていた追跡者達。追跡者が言っていた「例の場所」

 

 まだ解決してない問題は山程あるが、急にどうでも良くなってきた。

 

 王子の言うように、残り2日は何もせずに通り過ぎることにしよう。

 

 そういえば学食の予算問題は解決したが、寮の賄いの予算問題は解決したのだろうか?

 

 そう考えながら寮に帰るためのショートカットである裏路地を歩いていると、何者かが追跡してくる気配に気付いた。

 

 ふと振り返ると、フード付きマントを着た2人組が何やら指差しながら、物陰から出てくるところだった。

 

 怪しい連中はみんなこのフード付きマントを着ているが、どこに売っているのだろう?

 悪の組織のボスが部下用に何着も発注しているのだろうか?

 

 町の被服屋が注文通りにフード付きマントを大量に縫って作っている光景を想像するとさすがに笑いを堪えきれずに吹き出した。

 

「これが報復か……出来れば暴力はなしにしたかったが、仕方がないか」

 

 階段がある場所では転倒すると大怪我になるので、なるべく平たくて広い坂道に出る。

 ここならば周囲に迷惑をかける必要がない。

 

「敵は相変わらず2体……周囲には他の敵の反応はなし……まだ日も出ており、少し通りに出れば人通りもかなりあるというのに見境なしか、こいつら」

 

 目を瞑って周囲の気配を悟る。

 周囲に敵の反応は2体以外になし。

 

 つまり、速やかにこいつら二体を目撃者なしのまま秒殺すれば勝負はそれだけで終わる。

 

 体格は細身でそれほどでもなく、筋力もそれほどあるようには見えない。

 重心を崩さないような足取りからして、潜伏などの工作は得意そうだが、真正面からの殴り合いなどは苦手そうだ。

 

 一般人と比べると隙はあまりないようだが、それでも武術の達人と比べると棒立ちと大差がない。

 

 暗殺や奇襲特化で直接姿を露わにしての戦闘は苦手なタイプ。そんな連中が慣れない直接的なアクションを仕掛けてきた。

 

 こちらの活動が予想以上にダメージになっており、もう余裕を持って工作を仕掛けるような余裕はないのだろう。

 

「エクセル・ワード・パワーポイント……お前はやりすぎた」

 

 片方の男が口を開いた。

 

 威圧のつもりなのだろうが、いちいち名前を読み上げるせいで何かのギャグかコントにしか聞こえない。

 

「大人しく我々に同行すれば危害は加えない。抵抗すればそれなりの――」

「――同行というのはどこに?」

「それは着いてのお楽しみだ」

 

 気を張っていたのが馬鹿らしくなってきた。

 

 いきなり攻撃を仕掛けてくることを想定していたが、これならば、戦闘をしなくても口だけで立ち回れそうだ。

 

 改めてフード付きマントの2人の男を見るが、やはりお笑い芸人だ。

 

 恥ずかしげもなく町中でこのフード付きマントは空気を読めていなさすぎる。

 

 すく近くは多くの人が歩いている大通りだというのに。

 

「抵抗はしません。大人しく同行しますので、案内をお願いします。どのようにゲストをもてなしていただけるのか楽しみです」

「えっ?」

「抵抗しないのか?」

 

 男達は自分で抵抗するなと言いながら、こちらが抵抗しないと宣言すると何故か狼狽え始めた。

 

 自分で付いてこいと言っておきながら、相手が快諾すると狼狽えるとか意味がわからない。

 

「大人しくついていくなら危害を加えないんですよね。ならば抵抗する意味はないですよね。付いていきますよ」

「えっ、でも」

「早く案内してください。時間が勿体ないので。それに着いたらお楽しみが待っているんですよね? お楽しみとはなんですか? エンタメデュエルですか? 魚も泳ぐ戦国風呂ですか?」

「どこかへ連れて行かれたら、何をされるか不安とかそういうのはないのか?」

「いや、そういう話は良いので早く案内してください。抵抗はしませんので」

 

 世の中、暴力的な解決など無意味だぞ。平和が一番だ。

 

 男達2人は顔を見合わせて何やら話した後に、こちらに背を向けて歩き始めた。

 

「案内する。付いてこい」

 

 男2人が歩き出したので、その後ろを腕組みしながら付いていく。

 

「もし叫び声をあげたり、魔法を使えば抵抗したとみなすぞ」

「そんなことはしないので案内を」

 

 男達は何故か狭い建物の隙間を必死で歩き始めた。

 意味がわからない。

 

「そんな細い道を通らなくても大通りに出たら歩きやすいですよ」

「大通り? この服装でか?」

「そんな細い道とか私が付いて行けないんですけど。もっと歩きやすい道を通ってもらわないと困ります」

「それは抵抗か?」

「いえ、だからちゃんと付いていきますって。人に見られないように移動したいならば、せめて馬車を用意してください」

 

 男達が舌打ちするのが聞こえた。

 

「馬車か何か乗り物を用意していないのですか?」

「あるわけがないだろう!」

「馬車を出す予算もないと。作戦がちょっと杜撰すぎませんか? 抵抗すること前提、勝てること前提、無抵抗の相手を運ぶこと前提……仮定の話が多すぎます。計画はもっとちゃんと練って」

「言うな」

「自分達の裁量で馬車も使えないのに、それでいて給料も安いんでしょう? 別の仕事に鞍替えをおすすめしますよ。学校の清掃員はちょうど募集中ですし」

 

 フードの男達が狭い路地からカニ歩きで出てきたところで、こちらは大通りに飛び出す。

 

「さあ、案内してください。こちらの方が近道ですよ」

「どうする?」

「どうするも何も、このまま行くしかないだろう!」

 

 フードの男の片方がヤケクソ気味な大声で叫んだ後に大通りを歩いていく。

 

 その後ろを淡々とついていくと、通りを歩いている他の人々が何事かと次々に振り返ってこちらを見ている。

 

「これは何かの羞恥プレイか何か?」

「聞くな!」

 

 苛立ちを募らせる男達をからかっていると段々と楽しくなってきた。

 

「あっエクセルさん、何をしてるんですか?」

 

 男達の羞恥プレイを観察しながら歩いていると、庶務と一緒に下校途中のアイリスに遭遇した。

 

「いえ、この方達が『魚も泳ぐ戦国風呂を味あわせてくれる』と言っているので、面白そうなので見に行くところです」

「そうなんですか、夕食までには帰ってきてくださいね」

「ええ、なるべく早めに帰るようにします」

「おい、その前に変な男は本当に大丈夫なのか?」

「気になるなら、風紀の乱れってことでカトレアさんに連絡すると良いと思いますよ」

「そうだな。ちょっと行ってくる。今日はここまででいいな、アイリス。明日また学校で」

「はい、フッド君もまた明日」

 

 そう言うと庶務は駆け出していった。

 アイリスを見送って、男達に付いていく。

 

「おい、勝手に立ち止まって立ち話をするな」

「そうだ、抵抗とみなすぞ」

「はいはい、少々お待ちください」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 オモシロお笑い芸人2人に連れられて来られた先は町の郊外にある豪邸だった。

 家の規模からして、かなりの金持ちだか有力者が付いているのだろう。

 

 門は固く閉ざされており、中へ入ることは出来なさそうだ。

 

「場所はここで合っているんですか? 門が閉まっているみたいなんですけど」

「合っているから早く中へ入れ」

「門が閉まっていて入れないんですけど」

「ここで待っていろ。門を開けるように頼んでくる」

 

 2人の男達は壁を乗り越えて邸宅の敷地内へと入っていった。

 

 いちいち門の前で待っているのも時間の無駄なので、適当に屋敷の周囲を歩いていると、掃除用具を持った使用人らしい老人が歩いていた。

 

「すみません、この立派なお屋敷はどちら様のご邸宅で?」

「知らないのかい? ここは公爵の別邸だよ。今は公爵様は王都におられるので、お付きの使用人が屋敷の維持と管理をしている」

「なるほど、公爵ね。ありがとうございます」

 

 つまるところ、公爵家が隣国の勢力と組んで第三王子を祭り上げて自分達が実質トップになろうとしていたわけか。

 

 ……本当に大丈夫か、この国。

 

 事態を解決できず時間切れになったら、面倒だし、王都にあるという公爵邸を吹き飛ばして全部解決したということにしたい。

 

 王都がどこにあるのかすら知らないけど。

 

 使用人が出入りしている通用口へ行くと、施錠されていなかったので、そこから屋敷の中へ入ってしばらく敷地内を歩いていくと、屋敷の裏に豪邸には似つかわしくない粗末な鳥小屋があることに気付いた。

 

「鶏でも飼っているのか?」

 

 興味が湧いて中を除いてみると、そこには大量の鳩が飼われていた。

 

「なるほど、ここに繋がるのか」

 

 これで教授、学長、公爵、隣国勢力のラインが綺麗に繋がった。

 後は何か証拠の書類などが手に入ると良いのだが。

 

 空を見上げると屋敷の上空を青白い鳥が旋回しているのが見えた。

 敷地内は木が多く植えられているので見えにくいが、まあ何とかなるだろう。

 

 使用人の動きを確認しながら、遭遇しないように屋敷の敷地内を散策すると、明らかに大きな窓のある部屋があった。

 窓から中を覗き込むと、中年男が何やら書類の山と格闘していた。

 

 最初はこの男が公爵かと思ったが、先程使用人の1人が、この屋敷には公爵は不在。使用人数名が維持をしているだけと言っていた。

 つまり、大物の雰囲気を出してはいるが、ただの使用人である。

 

 窓の近くへ身を潜めてしばらく待つと、室内の灯りが消えた。

 

 窓は開いたままだったので、そこから室内へ飛び込み、月明かりで書類の中身を確認する。

 

 中年男が見ていた書類を見ると、そこには隣国政府との密約の文章のようだった。

 どうやらここが悪のすくつ(なぜかへんかんできない)で間違いないようだ。

 

「しかし、こんな冴えない中間管理職のおじさまに、こんな重要そうなプロジェクトを任せちゃうなんて大丈夫なんでしょうかねぇ、この国の公爵様ってのは。案の定、見られたらヤバい書類がてんこ盛りだし」

 

 関係しそうな書類を適当に掴んで近くにあった鞄へ無理矢理にねじ込み、部屋を後にする。

 

「でも公爵の別邸をそのまま悪の巣窟にするとか、公爵というのはアホなのだろうか? それとも部下の暴走?」

 

 あちこちを歩いている使用人を回避しながら、また通用口から屋敷の外に出る。

 

「この証拠と、フードマントの男がここにいたことを王子に伝えるか」

 

 先程は喧嘩別れのようになってしまったが、この書類を有効活用できるのは王子だけだ。

 

 届けない理由などない。

 まだ縁が繋がっているのだから、その縁を頼っていきたい。

 

 一度正門の方へ戻ってきたが、オモシロお笑い芸人2人はまだ戻ってきてはいなかった。

 

 待つ必要もないので、そのまま学校の方へ戻ることにする。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 公爵の別宅から持ち出した書類の山を机の上にぶち撒けると第二王子は笑うやら呆れるやら、何とも言えない微妙な表情をしていた。

 

「お前はなんなんだ? さっき喧嘩別れみたいになったよな。もう来るなって言ったよな」

「残念ながら使えるものは全部使う主義です。人の話も聞かないタイプです」

「いやそういうやつだとは分かってはいたけどな……分かっていたさ」

 

 口ではそう言っているが、拒否しているようには見えない。

 むしろ歓迎されているように見える。

 

「それにしても今回は無茶だぞ。公爵家が怖くないのか?」

「全く」

「公爵家といえば王にも匹敵する権力を持っているのだぞ。極端な話、お前の首を取るためにこの国の軍を全て持ち出すことが出来る」

「それがどうかしましたか?」

「どうかしましたかって……たった1人で軍に勝てるとでも?」

「最初から相手にしないから勝負になりません」

 

 公爵家など怖くないとはっきりと本心を伝える。

 

 それよりも重要なのは、このややこしい事態を解決することだ。

 

 王子は椅子に座って書類を読み始めた。

 

 内容を確認して机の右端、真ん中、左端へと分けていく。

 これは重要度、もしくは見せたい部下ごとに書類の分けているのだろうか?

 

「公爵家を相手にして勝つための筋書きは? 何の算段もなくこんなことをしたわけじゃないだろう」

「公爵家とかそんなものは相手にしません。真正面から戦っても被害が広がるだけです。あくまで私達が相手にするのは邪教教団です」

「どういうことだ?」

 

 王子は首を傾げるが当然の反応だ。話を続ける。

 

「怪しげな邪教集団が公爵の不在を良いことに別邸を乗っ取って拠点化していた事実を掴んだので、それを鎮圧という筋書きにします。そのシナリオでの公爵家の役目は留守中の別邸を勝手に邪教徒に使われた被害者ということになります」

「正気か?」

「もちろん。もし隣国との繋がりの文章が屋敷内から見つかっても、公爵は絶対に自分が関与していることは認めないでしょう」

「当然だな。そんなことを認めれば内乱罪だ。たとえ公爵といえども失脚と処刑は免れられない」

「それを見越して、別邸が得体のしれない邪教教団に占領されていたと広く公表します。そうすれば公爵家は当然被害を訴えることも出来ない。何故なら公爵家も邪教教団とかいうよく分からない組織の被害者だから」

「だが、調べれば邪教教団なんていないとすぐに分かるだろう。そんな証拠はない」

「でも詳しく調べると公爵が雇った連中でしたとバレるでしょう。公爵は内乱罪を回避するため、自分も被害者であり、邪教集団は確実に存在すると主張するしかない。公爵別邸を乗っ取った怪しい連中は実在するので、そいつらは何だという疑問に対する答えは必要だから」

 

 王子は指先で額を何度かトントンと叩いて眉に皺を寄せた。

 

「その理屈ならば、確かにどこのメンツも潰すことはないし公爵家を敵に回すこともない」

「ならそれでいきましょう」

「だが、公爵家からの報復が……」

「忘れましたか? 明後日には私はこの世界にはもういません。公爵家は次元を越えて私の世界へ報復に来ることは出来ません。だから、怪しい部分の責任は全部私に被せてください」

「明後日……そうか、あと2日か」

「はい、あと2日です」

「2日しかないので、その間に出来るだけのことはやりますよ。それこそ殿下が一生忘れられないくらいのインパクトを残して」

「もう十分残ってるよ。こんな変なやつは私の人生において後にも先にも現れる気はしない」

 

 王子は書類の隅を揃えて机の隅に置いた。

 内容の確認は一通り済んだということだろう。

 

「正直、私は未熟だ。兄上がいるから自分には王位など関係ない。どこか隣国の令嬢のところへ婿養子に出されると気楽に考えて、自己鍛錬を怠ってしまった。その結果がこの惨状だよ」

「殿下はまだ若い。これから勉強をして知識を身につければ良いではないですか」

「才能の差だよ。同じ努力をしても弟の方がはるかに能力が伸びる。本当に優秀なのはあいつの方だ」

「なら、誰かに頼れば良いじゃないですか」

「なので、お前に残っていて欲しかった。参謀として、相談役として、そして愚痴を聞いてくれる友人として」

「嫁とか妾じゃないんですね」

 

 それを聞いた王子はあからさまに嫌そうな顔をした。

 

 本当に側室になれなどと言われても困るが、そこまで嫌そうな顔をされるのもそれはそれで気に入らない。

 

「だってお前だぞ。家庭にも親族にも身内にも……家の中にこんな変なのを入れたくない。出来れば今だって会いたくはない」

「なるほど、それはこちらも同感です」

「会いたくはないが、能力や仕事については評価しているし、頼りにしている」

 

 お互い、大笑いした後に握手をした。

 

「お前はこの世界には友人はいないと言った。だが、私くらいは友人の1人として覚えておいて貰えると嬉しい」

「そういうことならば、友人の1人として覚えておくようにしますよ。えっと……」

「デイヴィッド」

「えっ?」

「私の名前だ。友人の名前として覚えてもらえると嬉しい」

上戸佑(うえとたすく)。私の名前です。タスクと呼んでください」

「なるほどタスクね。どういう意味なんだ?」

「人を助ける」

「良い名前だ」

「デイヴィッドも他人から愛される人って意味らしいですよ。ヘブライ語で」

「なるほど、それは父上に感謝だな」

 

 2人で並んで部屋から外に出る。

 

「それで、どういう理由で公爵の別邸に踏み込む? 別邸とはいえ、さすがに公爵の私邸だ。適当な理由では踏み込めんぞ」

「デーブは実際フードマントの集団に襲撃されたじゃないですか。王族への威嚇と傷害殺人未遂の容疑者ですよ。公爵が文句を言えると思いますか?」

「デーブ? それは良い呼び名だ。友人らしい」

「デイヴィッドをフルで呼んだ方が良いでしょうか?」

「いや、愛称で呼び合う方が友人らしい。それでタスクは友人にはどんな愛称で呼ばれていた?」

「殿下に似た友人はラビ助と呼んでいます」

「どこから湧いてきた名前なんだそれは」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 そこからの捕物はつつがなく執行された。

 

 暗殺、隠密に特化したフードマント集団が、キマイラ討伐のために連れてきた精鋭の兵士達に叶うわけもなかった。

 

 公爵別邸を(ねぐら)にしていたいた隣国の工作員あらため邪教教団の教徒達は全員あっさりと捕縛。

 

 隣国や関係者とのやり取りの書類は全て没収された。

 

 公爵の別邸への踏み込みだが、町中に怪しげなフードマントの男達の目撃談が多数残っているため、この証言が公爵の留守中に別邸を乗っ取ったという嘘に説得力を与えている。

 

 書類の精査には時間がかかるだろうが、いずれは、この連中とやり取りしていた学長や教授たち関係者も逮捕されるだろう。

 

 もちろん公表できない情報は山ほど残るが、それは第二王子……将来の国王から公爵家への牽制材料となる。

 

 次に反抗的な態度を見せたならばいつでも潰すと。

 

「しかし公爵の別邸への踏み込みとはねぇ」

 

 カトレアとは公爵別邸の前で合流出来た。

 

 あからさまに怪しい連中が町を歩いていたと聞いて1人で走ってきたが、その先が公爵の別邸ということで何も出来ずに正門前でウロウロしていたのだ。

 

「しかし婚約はどうするんでしょうかね、従兄弟殿は?」

「婚約?」

「そうか、エクセルは知らなかったか。従兄弟殿の婚約相手は公爵令嬢だよ」

「そうなんですか? でも海外のどこかに養子に出されるって聞きましたよ」

「第一王子が病に伏せるまではな。第一王子の健康状態がよろしくないってことで婚約相手が第一王子から従兄弟殿にスライドしてきたんだよ」

「うわぁ、それはお互いに嫌でしょう」

 

 王子もお下がりみたいで嫌だろうし、公爵令嬢の方も貴族だからある程度覚悟していただろうが、扱いが雑すぎてNoを突きつけたくなる気持ちは分かる。

 

 ……もしかしてそれを含めて第三王子へ王位継承権を譲るつもりだったのだろうか?

 

「婚約解消に決まっているだろう。その件は父上にも伝えるつもりだ」

 

 カトレアと2人で話しているところに陣頭指揮を取っていたデーブが戻ってきた。

 

「公爵は今回の件が明るみになっても潰すのは無理だ。だが、発言権を削ぐことは出来る。そうすれば、お飾りと化した公爵家との付き合いでしかない婚約に政治的なメリットはなくなる」

「18歳から婚約者を探し直すとか、有力貴族はどこも埋まっているから、極端に上か下かからしか見付からないけどどうするんだ?」

「それは両親に頑張ってもらおう。将来の国王になる人物に誰も名乗りをあげないなんてことはないだろう。それに公爵令嬢の方がダメージが大きいぞ。親の都合で婚約解消歴有りとかもう貴族社会だと終わりだよ。ざまぁみろ!」

 

 デーブがやたら楽しそうにしているが、公爵令嬢とやらはそれほど嫌なやつだったのだろうか?

 

「公爵令嬢は会長のことが好きで、ずっと従兄弟殿をハズレ扱いしていたんだよ。もう会う度に無能無能って。近くで聞いている私がドン引きするレベルで」

「なるほど、殿下が自分を必要以上に卑下するコンプレックスはそこから」

「いや違うぞ。私は別にあんな女にちょっと悪口を言われたからどうなるような弱い心など持っていない」

「ショックだったんですね」

「そのせいで、ちょっと親切にされただけで真逆みたいなこんなのに落ちた」

 

 カトレアはそう言うとこちらを指差した。

 

「いや違うぞ。さすがに私もこれはお断りだ」

「これ呼ばわりでお断りされていますけど」

「まあ従兄弟殿の気持ちも分かる」

 

 2人から妙に辛辣な評価が飛んでくる。

 

「公爵令嬢は色恋沙汰以外は親と違ってそれなりに良い娘だったから、可哀想ではあるがな」

「そうなんですか?」

「年下の女子からはお姉さまだの令嬢の見本となるべき人物だの絶賛だぞ。エクセルは知らないのか?」

「いえ、私は何も」

 

 まあ、一度も会ったこともない人物など今更別にどうでもいいことだろう。

 

「それなら良い解決策が有りますよ」

 

 人差し指を立てて提案をする。

 

「会長と公爵令嬢を結婚させて会長を新しい公爵にすれば良いじゃないですか? 公爵家としては王族を家に招き入れることが出来てOK。殿下も公爵というポジションに優秀な弟がやって来てOK。令嬢も好きな相手と結婚できてOK。万事丸く収まります」

「おいやめろ、弟はゴミ捨て場じゃないんだぞ。ゴミを押し付けるな」

「ゴミって……公爵令嬢をゴミって……」

 

 なんだこの国?

 公爵令嬢をゴミ扱いとか本当に大丈夫か?

 

「そして殿下とカトレアさんが結婚すれば万事解決です」

「たとえ冗談でも止めてくれ」

「毎日こいつと顔を合わせるなんて嫌だぞ」

 

 似たもの同士なのに流石に嫌い過ぎだろうとは思った。

 

「確かに合理的ではあるが人の心とかないのか?」

「そこになかったらないですね」

「やっぱりこいつ魔女ですよ」

「ああ、的確に表す言葉だな。こいつは魔女だ」

「クソッ魔女狩りかよ」

 

 まあ、この世界の未来は自分には関係ないことだ。

 後はこの世界の人達で好きに決めて欲しい。

 

「では、私は夕食の時間ですので帰りますね」

「ああ。また明日に学校で会おう」

「はい、学校で」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 なんとかアイリスと約束した夕食の時間までに寮に戻ってくることが出来た。

 

 夕食のメニューはトマトスープの煮込み。

 シンプルだがなかなかに美味い。

 本当にこちらも予算が戻ってきて良かった。

 

「アイリスさん、学校は楽しいですか?」

「はい。友達もいっぱい出来ました。授業は難しいですが、どんどん新しいことを覚えられて楽しいです」

「それは良かった」

 

 これでアイリスも安心して学校に通えるだろう。

 

 一通りの障害は排除することが出来た。

 

 やる気になった王子と会長が頑張ってくれるだろうし、さすがにもうおかしな事件は当分は起こらないはずだ。

 

 あとはまだ捕まっていない学長と教授、それに使い魔を操っていた相手が未解決だが、公爵別邸で見つかった書類の数々から追及していけば、後は時間の問題のはずだ。

 

 ……何かを忘れている気がするが、まあ何とかなるだろう。

 

「4日目は平和に終われそうで良かった。あとはもう寝ていよう」

 

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