収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Extra Eposode 3 End 「呪いと共にある人生を」

 寮の窓を外から何回かノックをすると、窓が開いてアイリスが顔を覗かせた。

 

「窓を開けてください。ピーターパンです」 

「えっ? エクセルさん何故ここに? それに、ここは一階じゃないですよ!」

「ちょっと忘れ物をね」

 

 箒を空に滞空させたまま、窓から室内に入る。

 

 消灯済みの室内は既に真っ暗だったが、幸いにも全身に浮かんだ虹色に光る紋様が暗い室内を照らしてくれた。

 

 その淡い光を頼りに運営が残した手紙や使い古しの下着などの「エクセル・ワード・パワーポイント」というふざけた名前の女生徒が存在した記録を全て回収。

 窓からへと次々投げ捨てた。

 

 それらのものがまだ滞空中に手から閃光を放って次々に焼き払っていく。

 

 エクセルという名の人間がいた痕跡はこれで消える。

 何も残らない。

 

 アイリスはさすがに呆けていた。

 当然だ。

 

 元ルームメイトが全身から光を放ちながら空を飛んで窓から室内に入ってきて、意味不明な行動を取っているのだから、思考がついていけなくとも仕方ない。

 

「アイリスさん、ごめんなさい。今日はお別れを言いに来ました」

「えっ?」

「今日、学校にドラゴンが出たのは知っていますよね」

「は、はい……ただ出たと思ったら雷と凄い光が降り注いで、その後に熱風が吹いたと思ったらもういなくなっていて……」

「ドラゴンを倒したのは私です」

「えっ?」

「ただ、そのせいで、邪教の教団の一員で邪神を崇める魔女として追われることになりました。なので、私は処刑されたことになりました。ただ、死人が堂々と町にいてはおかしいので、私はこの町からいなくなります」

 

 本当のことは流石に話せないが、辻褄を合わせて説明するとそういうことだ。

 

「でもエクセルさんがドラゴンを倒したって……えっ? でも、その全身に光る紋様は……」

「これは力を使うと浮き出るんですよ。こういうところも魔女みたいでしょう」

「そんなことありません……そんなことは」

 

 かくいうアイリスの足は恐怖からか後ろへとじわじわ下がっている。

 

 身体も小刻みに震えている。

 まあ当然だ。

 この全身に浮かぶ光る紋様と、闇に光る赤い目を見て何も思わないのは流石におかしい。

 

 長年付き合いのある友人ですらそうだったのだ。

 つい数日前に知り合って数度会話しただけの娘が怯えないわけがない。

 

「服を買いに行く約束もしていましたが、それも行けそうにありません。その件については謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

「い、いえ……いいんです」

「なので、もしかしたら明日以降にエクセルという人物についての事情徴収などがあるかもしれませんが、全部知らないで通してください」

「でも、私はエクセルさんに優しくしていただいて……」

「それはあなたを油断させるための罠だったことにしてください」

 

 学校の謎の究明に時間を使いすぎて、アイリスとあまり話せなかったことだけが残念だ。

 

 だが、アイリスが学校に通う上での障害は限りなく排除しておいた。

 あとはアイリスの頑張り次第でいくらでも良い人生を送ることは出来るだろう。

 

「アイリスさん、最後に尋ねますが、学校は楽しいですか?」

「はい。毎日楽しいです。それもエクセルさんが最初に色々と優しくしてくれたおかげです」

「そう良かった。なら、これからも友達をたくさん作って、頑張って勉強して悔いのない人生を送りなさい」

「でもエクセルさんは……」

「いいですね。私のことは忘れなさい。私は悪い魔女です」

「でも」

「だから『でもでも』はやめなさい」

 

 庶務の男とは仲良くなったようだが、本当にあの男に任せて大丈夫だろうか?

 出来ればもう少し滞在して、学校の授業の世話などもしたかったが、それらをやるための時間はもうない。

 

「あなたがしっかりしないと、安心して旅立てません」

「私がしっかりすれば、エクセルさんは安心できるんですね」

 

 そう言ったと同時にアイリスの震えが止まった。

 

「今すぐは無理ですけど、この先ちゃんとしっかりしてみせます! だからエクセルさんも安心してください」

「そう、良かった」

 

 確かにアイリス自身が言うとおり、今は無理だろう。

 だが、強く心を持ち続けていてくれるならば、それはきっと叶うはずだ。

 

「では、アイリスの今後に期待します。体調を崩すことなく、お元気で」

「はい! エクセルさんもお元気で!」

 

 良い返事だ。

 これで心置きなくここを立ち去れる。

 

 箒に乗って夜空へと舞い上がった。

 

    ◆ ◆ ◆

 

 既に日は完全に落ち、夜の帳があたりを包み込んでいた。

 

 それでも、学校の裏山「だった」場所での現地調査はなお続いていた。

 

 つい半日前までは、ただの雑木林と岩肌が続く穏やかな山だった。

 

 だが今やその面影は跡形もなく、視界に広がるのは、まるで活火山の噴火口を思わせる、異様な光景だった。

 

 山麓は半ば崩壊し、地盤はひび割れ、黒ずんだ岩石がむき出しになっている。

 山の中心には、地の底へ通じるかのような深い縦穴が穿たれていた。

 

 覗き込めば、底のほうで赤熱した溶岩が泡立ち、ぐつぐつと音を立てて沸騰している。

 

 時おり吹き上がる熱風が肌を焦がし、硫黄の臭いを含んだ噴煙が夜空を濁らせていた。

 

 まるで活火山の噴火口。

 伝承に語られる地獄そのものの光景がそこに広がっていた。

 

 マントを羽織り、立ち上る熱気を防ぎながら、この事態を引き起こした存在の痕跡が残っていないかを探す。

 

 絶対に見つけなければならない。

 

 その存在がどこに行ったのかの手がかりを見つけて、接触しないことには一生後悔することになる。

 

 そんな奇妙な確信があった。 

 

「隊長、もう何も見付かりませんよ」

「レッドドラゴンが火で倒されてしかも燃え尽きるはずがないだろう。骨か鱗かくらい残っているはずだ」

「ないですよ! そもそも岩を溶かして溶岩やガラスにするようなものは火ですか? 山の形を変えるのは火ですか? これはもはや魔法じゃないですよ」

 

 兵士の1人が地面にあった冷えて固まった巨大なガラスの塊をつかみ取り、そのまま無造作に投げた。

 

「火じゃないなら何なんだ?」

「ソドムを焼いた硫黄の火」

「バカな話はもういい。今日はもう撤収するぞ。こう暗くなっては、もう何も見つかるわけもない。続きは明日だ」

 

 デイヴィット、第二王子は手を叩き、兵士たちを解散させた。

 

「お前たちも連勤で疲れただろう!専門の調査隊は王都から呼ぶ。お前たちは少し休め!」

「しかし」

「命令だ」

 

 指示を受けた兵士たちは、しぶしぶながらも兵舎へと引き上げていった。

 

 そして、自分だけが残った。

 

「エクセル……タスク……お前は一体何なんだ?」

 

 虚空に向かってポツリとつぶやく。

 

 普通に考えれば、周りに誰もいないのだから、答えが返ってくるわけがない。

 

 だが、つぶやきに呼応するかのように、空を飛ぶ「何か」が頭上を通り過ぎた気配を感じた。

 

 そして、やや後ろ。

 ちょうど死角になって見えない位置に「何か」は降り立った。

 

「言ったでしょう、異世界人……通りすがりの魔女だって」

 

 その「何か」の声が聞こえてきた。

 

 声が発せられた位置からは禍々しい虹色の光が伸びて、足元を不気味に照らしあげた。

 

 目の前には虹色の光を受けて出来た自分の影が伸びている。

 

 だが、後ろに立っている声の主の影は、どこにも見えなかった。

 

「これはただの魔法ではないな? 人間の魔法で出せる威力ではない」

「魔法ではありません。先程の兵士がソドムとゴモラを焼いた硫黄の火とおっしゃっていましたが、性質はそれに近いものです。神を限定的に顕現させることによる力の一部解放」

「……神の力とでも?」

「この世界の神ではありません。この世界の基準だと邪神にあたると思います」

「つまり邪神と契約した――」

「――魔女です。具体的には邪神の巫女です」

 

 魔女。

 

 伝承にある、悪魔や(よこしま)な神と契約して力を得た穢らわしく呪われた邪悪な存在。

 

 決して人間とは相容れない、人ならざるモノ。

 倒さなければ……滅ぼさなければならない人間の敵。

 

 わざわざ兵士達を連れてきたのも、ドラゴンを消し去るだけではなく、この破壊をもたらしたものの正体を突き止め、討伐するためだ。

 

 この能力を町や城に向けられたら、間違いなく国は滅ぶ。

 

「……私はこの国を愛するものとして、次期国王として、国を護るため、お前を処刑せねばならない」

「どうぞ。邪神の手先である悪の魔女はこの国に邪神教団を作り、様々な陰謀を巡らせていたところ、正義の心を持つ王子に倒されて、この国は平和になった。良いカバーストーリーです」

 

 ごく平然と自らの破滅について語る魔女にはさすがに怒りが込み上げてきた。

 なぜ自分を第一に考えられない?

 

「お前はそれで満足なのか? 物語の悪役として誰にも評価されないどころか、忌み嫌われてこの地を去ることになるんだぞ」

「名声や利益のためにやっていたわけではありません。みんなが救われたなら、私はそれで満足です」

「所詮は別の世界の話、他人事だからか」

 

 答えはない。

 

 振り向いて、どんな表情をしているのかを確認したい。

 だが、それはできない。

 

 顔を見てしまえば、それ以上何もできなくなる。

 邪悪な魔女を、国を護るために殺すことができなくなる。

 

「今日の昼頃までは、みんなに惜しまれながら帰ることができると思ったのですが」

「それについては、作戦が二段仕込みだったことに気付かなかった私のミスだ」

「いえ、私のミスですよ。ヒントは見つけていたのに、それを怠ったせいで、こうやって後始末をすることになったわけですから」

「だが、結局何とかしてくれただろう」

「ダメですよ。この世界の人達だけで解決できなかった時点で失敗です。だから、これで終わりです」

 

 手の震えが止まらない。

 それでもなんとか使命を果たすため鞘からサーベルを引き抜いた。

 

 小指から一本ずつ、力を込めて柄を握り直す。

 

 できる。

 振り向きざま、顔を見ないで一気に斬りつける。

 

 邪悪な魔女は完全に油断をしている。

 今ならば倒せる。

 

 倒す?  何故?

 

 なんのために?

 

 今までずっと予備(ストック)扱いしていたくせに、自分たちの都合で手のひら返しをしてすり寄ってきた者たちのために?

 そんな国のために大切な友人を?

 

 もう何も分からない。

 

「私との友人関係も捨てていくのだな……私という人間も」

「そうなりますね。どこで間違えてしまったのやら。裏山をきちんと調べていたら、こんな寂しい別れにはならなかったのに」

「ドラゴン討伐くらい、私たちに頼れば良かっただろう。あのくらいの相手など簡単に倒すことができた。怪物を倒すために、わざわざ兵士を呼んでいたのだから」

「その過程で誰かが犠牲になってもですか? それは私にとっては負けです」

「自分が犠牲になっているだろうが!」

 

 振り向きざま、サーベルを後方に立っていたタスクに突きつける。

 

 ……見ないようにしていた、予想していた通りだ。

 

 魔女のあまりにも穏やかな顔を見た途端、突きつけていた切っ先から力を失い、手の震えも激しく戻ってきた。

 

 無理だ。

 こいつは邪悪な魔女などではない。大切な友人だ。

 

 動けずにいると、タスクの方が迷いなく動き出した。

 

 無言で、サーベルの刀身をためらうことなく掴み、力任せに奪い取った。

 

 素手で無理に刀身を握ったことで、タスクの手のひらから鮮血が流れ出す。

 

「やめろ!」と叫びたかったが、声が出ない。

 血を流すタスクを見て、胸が引き裂かれるような痛みを感じた。

 

 だが、タスクは全く動じずに着ていたケープを脱いで地面の上に投げ捨て、その上に血を垂らし始めた。

 

 ケープの中央が鮮血で赤く染まった後、サーベルを深く突き立てた。

 まるで、サーベルによって致命傷を負わせたように。

 

「王子との激しい死闘の末に、邪神教団を裏で操っていたエクセル・ワード・パワーポイントを名乗る邪悪な魔女は倒されました」

「私は誰も倒してなどいない」

「それだと、この話は完了しません。殿下が魔女を倒すことで、ようやくこのストーリーは完結です」

「無能な私にそんなことなどできない」

「自分を無能などと卑下しないでください。みんなが不安になります」

 

 もうダメだ。

 全てが終わった。

 

 私の望むものは何も手に入らない。

 

 膝から崩れ込むように、その場に座り込んだ。

 

 顔を見られないよう、両手で顔を塞ぐ。

 

「私は王になどなりたくはなかった……ただ、どこかの貴族の養子に入って気楽に生きるつもりだった」

「私と同じで貧乏くじですね。誰かが引かないと話は終わりませんが、それならば自分が引いてしまえば周りには迷惑はかからないだろうと」

「何が楽しいんだ、その生き方は?」

「少なくとも身内や知り合いが苦労をするのを見なくて済みます。殿下も、たとえ自分が犠牲になっても守りたい人がいるのでしょう」

「つまり、弟が……みんなが辛い目に遭わないよう、私が王になれ、貧乏くじを引けと、いうのか?」

「はい。それは最初から申し上げていることです。色々と問題は山積みで苦労の連発でしょうが、それでも支えてくれる人はいると思います。もし足りない場合は、学生時代の今のうちにそういう人を1人でも増やしてください」

 

 そう言うと、手を伸ばしてきた。

 

 何度目だろう、こうやって立ち上がるために手を差し伸べてくれるのは。  

 だが、これが最後だ。

 

 このまま何も伝えられずに別れて良いのか?  そんなわけない。

 

 差し伸べられた手を強く払い、叱咤するように震える膝を抑え込んで立ち上がる。

 

 最後の瞬間が近付いているのが分かった。

 友との永遠の別れは避けられない。

 

 何もしてもしなくてもそれは必ず訪れる。

 

 だから、もう助けはいらない。

 独りでも再び立ち上がることができると、見せないといけない。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 王子がよろめきながらだが、自分の力だけで立ち上がった。

 これは魔女へのメッセージだ。

 

 もう助けはいらない。

 これからは自分の力で歩んでいけると。

 

 だからもう手は出さない。

 

 様子を見ていると、王子は立ち上がり、そのまま勢い良く抱きついてきた。

 

 慌てることなく両腕の小指を掴んで逆方向に曲げると痛みからか力が緩んだので、そのまま肘を捻って引き離し、抵抗しようとした力を利用して投げ飛ばす。

 

 王子の体は綺麗に放物線を描いて少し離れたところに落ちた。

 

「自分でやっておいてなんですが、大丈夫ですか?」

「お前は決して支えてはくれないのだな」

「はい。残念ながら。私は悪い魔女ですから」

「私はお前にここに残っていて欲しかった。友人としてずっと支えていてほしかった」

 

 もちろんそんなことは不可能だ。

 たまに様子を見にくる程度には力になりたかったが無理だ。

 

 あらゆる意味で住む世界が違いすぎる。

 

「なので、私はこれからも、あなたの実績になって支えましょう。国を脅かす魔女を倒したというトロフィーとして」

「そして、私を一生、足元から支えてくれるというわけか」

「はい。実績でも自信の上でもあなたを支えます。一生どころか、死後もあなたの功績としてついて廻る悪質な魔女の呪いです」

 

 そう説明すると王子はこの日、初めて笑った。

 涙も浮かんでおり、悲痛さも感じるが、それでも笑ってくれた。

 

「もし、私とお前が同じ世界の住人なら、私の下に残ってくれたか?」

「いえ。今回と同じことをやって、そのまま誰にも迷惑を掛けないように1人で旅立ったと思います」

「ああ、分かってる。お前はそういうやつだ。決して私の横には立ってくれない」

「残念ながらそういうやつです」

「やはりお前は邪神のしもべの魔女だよ。私に一生、苦労するし辛い目を見ろというとんでもない呪いを掛けてくれた」

「残念ながらそういうことになりますね。これから未来永劫、魔女の呪いで苦しんでください」

「ああ。これから苦しいこと、辛いことがあればお前の憎たらしい顔を思い出して恨んでやるよ。よくもやりやがったなと呪い返してやる」

「私も忘れませんよ、これほど強く呪い呪われた相手のことは」

 

 王子と握手をした。

 最後はこのまま笑顔で別れたい。

 

 悪の魔女は倒された。

 

 友人はその功績を踏み台にこれからの輝かしい未来に繋げるのだから、こんなに嬉しいことはない。

 

「あなたは激しい戦闘の末に魔女を殺害しました」

「ああ。我が友人のエクセルは処刑した。魔女は死んで塵になった。もうこの世界のどこにもいない」

 

 王子が血まみれのケープからサーベルを引き抜いて空に掲げた。

 

 もう大丈夫だ。

 この世界でやるべきことは全て終えた。

 

 箒に乗って空へと舞い上がった。

 

「もう二度とこの国には来るなよ、通りすがりの魔女よ」

「はい。私は死んだので、もう来ることはありません。それではデーブ、これからも呪いと共にある人生を」

「ああ、タスクも良い人生を」

 

 月の光を受けながら、勢い良く飛び上がる。

 

 魔法学校が有った町は段々と小さくなり、すぐに視界から消えた。

 

 これで5日間の魔法学校生活もおしまいだ。

 

 一通りの事件は解決できたし、学校の中で進行していた陰謀も無茶苦茶にすることが出来た。

 もう心残りはない。

 

 まだこの世界では何かの事件は起きるかもしれないが、それは自分が解決するべきことではない。

 

 この世界の人々が解決すべき問題だ。

 

 だが、ここで知り合ったみんなが協力すれば、きっと解決していけるだろう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ふと気付くと日本にある自分の部屋に戻っていた。

 

 ベッド脇に置いてある目覚まし時計を見ると、あの魔法学校の寮へ送られたのと同じ日の深夜だった。

 

 全て夢だったのかと思いたいところだが、例の魔法学校の制服を着たままなことが夢ではないことを主張している。

 

「結局、あの世界は何だったんだ? ゲーム世界か何かか?」

 

 机の上に置いてあるPCの電源を入れてブラウザの検索画面に魔法学校というワードと出会った人達の名前を入れて検索してみるが、それらしいゲームもマンガもアニメも一切出てこない。

 

 割とテンプレート通りの乙女ゲームに近い世界観だったので、似たような雰囲気を持つ作品は山程出てくるが、その登場人物はどれも彼等ではない。

 

 まあ、別にどうでもいいだろう。

 

 あそこがゲーム世界だろうが、異世界だろうが、あそこで生きていた彼等は本物だった。

 それで十分だろう。

 

 翌朝も早いのでPCの電源を切って寝ようとするが、寝間着が異世界の魔法学校の制服にすり替わっていることに気がついた。

 

「クソ、運営からの最後の嫌がらせかよ」

 

 仕方ないのでTシャツと短パンを引っ張り出して寝間着代わりに着ることにした。

 

 ワークキャップは帽子掛けに。

 

 制服はクローゼットから余っていたハンガーを取り出してかけようとした時、上着のポケットから四つ折りにした紙が出てきた。

 

「なんだこれ? いつ入り込んだんだ?」

 

 殿下に渡したままの退学通知書の裏側に血で書かれたもののようだった。

 

 あの場には紙も筆記用具も他になかったので、即興で用意したものだろう。

 

 ポケットに入ったのはおそらく抱きつかれたタイミングだ。

 

 殿下からの最後のメッセージは単語1つだけ。

 非常にシンプルだが、色々なものが伝わってくる良い手紙だ。

 

「Friend」

 

 机の中を探すと未使用の写真立てが1つ出てきたので、その中へ殿下からの手紙を入れて机の上にある他の写真を一緒に並べて置いた。

 

「それじゃあおやすみ。異世界の友人」

 

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