収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Extra Eposode 2 Period

 4月……高校3年になってから早くも2週間が過ぎた。

 

 校庭を薄紅に染めていた桜の花は既に散り、代わりに若々しい青葉が枝を満たしている。

 窓から差し込む日差しは、もう夏を予感させるほど強い。

 

「――事件が終わってから、もう2か月か」

 

 本当に月日が経つのは早い。

 春休みにみんなでランドとシーで大騒ぎしたのが遠い過去の思い出のようだ。

 

 ただ、そんな楽しかったイベントもすっかり色褪せて霞んで感じる。

 

 憂鬱の原因は春にしては暖かすぎる陽気や目の前にある空欄の進路希望票だけではないだろう。

 

 恐ろしく、おぞましく、

 だけど確かに生きている、充実しているという実感があった。

 絶対に忘れられないあの濃密な1か月。人生で最高の瞬間。

 

 日常に戻れたことは、喜ぶべきことのはずだった。

 平穏は望んでいたもののはずだった。

 

 それでも、あの日――カボチャ頭との別れと共に、大切な何かを失った気がしてならない。

 

 弁当代わりの菓子パンを持って校庭に出る。

 

 運動場の片隅では今日も小森君と木島君がバスケの1on1の試合を行っていた。

 

 2人はほぼ毎日、こうやって昼休み1時間のうち30分を使って、秘密のバスケ特訓を続けている。

 

 もちろん、秘密と言っても、学校のどこからでも見える運動場でやっている練習に秘密要素などないのだが。

 

 むしろ、2人のボールを巡る激しい攻防は自然と注目を集めて、今では毎日のようにバスケのスーパープレイを見学する人垣ができている。

 

 2人の特訓の光景は、新入生へのバスケ部の宣伝にもなっているらしい。

 

 木島君の話では、今年のバスケ部は例年よりも入部希望者が増える見込みらしい。

 去年に出したベスト8入りの実績も利いているのだろうが、実演が目に見えるのは分かりやすい。

 

 普通バスケットボールは屋内で行うが、2人が競っているのは昼休みで空いているだけの砂地の校庭だ。

 近くの森から飛んできた落ち葉や枝だって大量に落ちている。コンディションは劣悪だ。

 

 それでも2人は小石を蹴飛ばし、砂煙を巻き起こし、バウンドさせたボールが不規則に暴れまわる凸凹した路面を素早く駆け回る。

 ドリブルからのフェイントを織り交ぜた高速かつ高度なボールの取り合いが始まる。

 

「フェイント2と3、どっちだ?」

「3だ!」

「残念、1だよ」

 

 軽口を交わしながらも、動きに迷いはなかった。

 

 木島君がボールとつま先を鋭く切り返し、小森君に背中を向けた。

 身体に手が接触すれば反則……その一瞬の躊躇が小森君の動きを止めた。

 

 その隙に木島君は小森君をかわしてシュートする。

 ボールは放物線を描き、ゴールリングをかすめるようにして吸い込まれた。

 

 ギャラリーから歓声が上がる。

 

「2択じゃないのかよ」

「フェイントの種類が増えるほど瞬時に判断しないといけない選択肢が増える。効果的だろ。今は4種類の組み合わせだが、大会までに10種に増やして相手の思考力を奪う」

「根性だけで戦ってたやつが頭を使うようになるとは」

「フィジカルだと俺より強いやつは山ほどいる。技術を伸ばすのも専門コーチのいない公立高校じゃ限界。じゃあ頭を使うしかないだろ」

 

 木島君がこめかみをトントンと指でつつく。

 

「なら、ちょっとスピードを上げていいか?」

「ほら、そうやってムキになる。そういうところがダメなんだよ」

 

 かつて、木島君が勝率ゼロだった頃を思えば、随分と様変わりした。

 

 木島君が小森君用の対策を確立してからは勝率は2:8くらいになった。

 

 これが五分五分になれば県大会優勝も見えてくるだろうということらしい。

 小森君のフィジカルをテクニックで越えることができれば、高校バスケどころかプロの世界にも敵はいないとかなんとか。

 

「まだ時間はあるだろう。もう一試合だ!」

「残念。今日は俺の勝ち逃げだよ。続きはまた明日」

「はい、2人ともお疲れ。タオルと昼飯ね」

 

 校舎の影に立っていた綾乃が、2人にタオルと菓子パンを投げて渡した。

 続けてギャラリーに向かって、少し声を張った。

 

「はいはい、見世物じゃないよ。ほら、散った散った」

 

 その一言で、ざわめきが静まり、集まっていた生徒たちは「今日も解散か」と立ち去っていく。

 

 2人には女子のファンも増えてきているらしいが、誰ひとりとして告白しないのは、綾乃が2人の彼女役としてしっかりガードしているからだ。

 

 嫉妬はあるらしいが、綾乃が精神的にも強く、行動力もあるので、誰も何も触れようとしない。

 さらに言うと、綾乃には強い後ろ盾がいる。

 

「私は見世物のつもりで見ていますけど」

「大城戸さんはいいの」

 

 綾乃の横で腕組みして小森君と木島君を見ていたのは大城戸可奈だ。

 

 東議員の秘書の娘。

 東議員は「体調上の問題」で3月に議員職を辞し、長年務めていた秘書も解任された。

 

 そのせいで、家庭の事情はかなりややこしいことになっているらしいが、彼女の表情にはそれを感じさせるものがない。

 相変わらず、静かで、芯がズ太い。

 

「なあ柿原、なんでお前は俺たちの邪魔すんの?」

「赤土さんと弥寺さんに頼まれてるからに決まってるでしょ。2人に変な虫がつかないようにガードしてくれって」

「嘘だ。絶対それだけじゃないだろ!」

「それだけだけど、何か?」

 

 綾乃が淡々と言う。

 

「じゃあみんなで昼ご飯タイムね」

「まあ、みんなで菓子パンなんだけどね」

 

 やや遅れて友瀬さんも合流した。

 

 みんなでベンチに座って菓子パンを食べる。

 昼休みは残り15分なので、それに合わせると必然的に昼食はこうなる。

 

「小森は今日も予備校?」

「ずっと通いっぱなしだよ。冬までな」

「寂しくなるね」

「でもないさ。昼にこうして身体を動かせるだけでも、いい気分転換になってる」

 

 小森君は放課後、予備校に直行する生活を始めた。

 

 医学部を目指すには避けて通れないらしい。

 

 3月末までは、上戸さんが開いてくれていたWeb勉強会にも毎回顔を出していたが、4月になってからは、それも途絶えている。

 けれど、それには誰も何も言わなかった。

 

「素人の勉強会だけじゃ足りないと感じるのは、それだけ真剣だってことだよ。親離れみたいなもんだし、むしろ歓迎したいくらいだ」

 

 少し寂しそうに上戸さんが言ったのを忘れられない。

 

 彼女――品田結依さんは、僕たちの幼馴染でもある。

 

 小森君が遠くへ行く。

 その事実を、静かに受け入れているようでいて、完全には飲み込めていないように見えた。

 

「そういえば木島は進路希望をどうするんだ?」

「未確定だからまだ誰にも言うなって釘を刺されてるけど、実は大学のスポーツ推薦の話が来てる。まあ今年の大会で成果を出せばって条件がついてるが」

「地元?」

「じゃないな。ちょっと北の方……なのでまだ少し悩んでる」

 

 口では言わないだけだと言い訳しながら、足で簡単な地図を書き始めた。

 形で分かる。東北だ。

 宮城か、山形か。

 

「プロになれるなんて思ってない。スター選手じゃないし、ただの補欠枠。扱いも特別じゃない。知り合いのいない土地で一人暮らし……それでも、大学でバスケを続けられるなら、それも悪くないと思ってる」

「俺たちは何も言わない。お前が決めることだ」

「分かってる。でもまずは、インターハイだ。そこで勝てば別の選択肢も出てくる」

 

 木島君は、手にしていたビニール袋をくしゃりと握り潰した。

 その音が風の中で妙に響いた。

 

「柿原や矢上君は?」

「私は地元の大学。進路はとりあえず4年間保留」

「僕は……うん、僕も地元かな」

 

 言葉にしてみると、それがどこか小さく聞こえた。

 広がる未来の中で、地元という言葉は、不思議と足かせのように感じる瞬間がある。

 

「綾乃ちゃんは、小森と一緒の大学じゃなくていいのか?」

 

 木島君が、少しおどけたように尋ねた。

 

「残念だけど、それは私のやりたいことじゃない。一緒の大学は――彼女さんに任せるよ」

「うん……本人はその気みたいだけど、行けるかなぁ」

「そんなにダメそう?」

「俺に聞いてはいけない」

 

 赤土さんは小森君と同じ大学の医学部……の看護学科を目指しているという。

 

 だが、その話になると、上戸さんはいつも苦笑して、ため息を混ぜた笑いを漏らすだけだった。

 多分、全然ダメなんだと思う。今のままでは。

 

「矢上君は何か悩んでる?」

「実は……まだ思いついただけなんだけど」

 

 口に出すまでに、少し時間がかかった。

 けれど、ここで言わなければ、きっと自分の中で曖昧なままになってしまう気がした。

 

「警察官になろうかって考えてる」

「警察?」

「うん……あの事件で分かったんだ。世の中には、困っている人が本当にたくさんいる。そういう人の力になれる仕事って何だろうって考えたら、やっぱり警察かなって」

 

 言いながらも、心の奥ではどこか引っかかっていた。

 

 もしかしたら――あの奇妙な体験を忘れられず、ただ刺激を求めているだけなのかもしれない。

 そんな動機で人生を決めてしまっていいのか?

 

 その迷いのせいで、まだ決めかねている。

 

「いいと思いますよ、おまわりさん」

 

 軽やかに笑う声。友瀬さんだった。

 その何気ないひと言に、張り詰めていた何かがふっと緩む。

 

「警察は体力勝負だぞ。今から鍛えておかないと」

 

 小森君が言う。彼の声はいつも現実的だ。

 確かに、今の自分は走り込みひとつでも息が上がる。

 

「選択肢としてはあの探偵事務所もあるんじゃない?」

 

 綾乃が……おそらく思いつきで深く考えてはいないかもしれないけど、突然別の候補を挙げてきた。

 

「これから首都圏でいろんな事件が起きるかもしれないんでしょ。あそこ、絶対に人手が足りなくなるよ」

 

 その通りではある。

 警察という方向しか見ていなかった視野が、少しだけ広がる。

 

「でもさ、あの人たち――何かを隠してる気がしない? 麻沼さんはともかく、和泉さんとか須磨さんはちょっと怪しい」

「だけど悪い人じゃない。少なくとも、誰かを救おうとはしてる。選択肢として考えるのは有りだと思う」

 

 もちろん即断は出来ない。

 そもそも、能力をなくした僕があそこで働けるのかどうか、門前払いされないかどうかというのはある。

 

「何にせよ、まずは体力だな。警察でも探偵でも、身体が動かないと始まらない」

「それは確かに」

「じゃあ決まりだ。矢上も明日から特訓に参加」

 

 木島君が笑いながら、僕の肩を軽く叩いた。

 その手の重さが、不思議と心地よかった。

 

「新聞部も写真部も放課後に回せば大丈夫だろ?」

 

 新聞部と写真部は部員の人数が少ないので一時的に合併して活動している。

 

 今年の新入部員は3人だ。

 

 籍を置いていただけの小森君が予備校に通い始めて抜けたので、今は6人体制だ。

 なんとか部の存続要件は果たせているものの、なかなかに厳しい状況だ。

 

 部としての成果を出していかないと存続は出来ない。

 

 なので、僕は3年として後輩を指導していく役割がある。

 残された時間は少ないのに、教えるべきことはまだ山ほどあった。

 

「今日は先輩と私で、裏の山に登って写真を撮りに行くんです」

「今度のテーマは?」

「新入部員の研修も兼ねて、学校周辺の遊べるスポットを紹介する特集です」

「それなら、ハイキングコースよりもあの団地の新しい店がいいんじゃないかな。アクセサリーショップが入ったって聞いた」

 

 星の智慧教団が撤退したあとの古団地には、小さな店がいくつか入っている。

 

 その一角に、手作りアクセサリーを扱う店ができたと聞いた。

 市販品に混じって、ビーズや金具を組み合わせた一点ものが並び、価格も手頃らしい。

 

 そこまで繁盛するような店ではないだろうが、変なヨガ教室が入ることを考えたら良かったと思う。

 

 マイナスしかなかったあの団地……この町に、わずかでもプラスの要素が入ってくれた。

 それだけでも苦労の甲斐はあったと思う。

 

「それもありかな。来週の課題にしよう」

「来週はもうゴールデンウィークだよ。部活以外のことを考えたら?」

 

 と、部長のはずの綾乃が無茶苦茶なことを言い始めた。

 

「別のことって?」

「りょ……旅行?」

「何処に?」

「鎌倉?」

「頑張れば自転車で行けるんじゃないかな」

 

 今のところは思いつかない。

 ただ、例の報酬8万円のおかげで高校生にしては十分な資金はある。

 

 高校生にとっては世界が変わる金額だ。

 それだけあれば、何にも縛られない。

 

 どこにだって行ける。

 なんだってやれる。

 

「受験があるとはいっても時間はいっぱいあるんだ。高校生最後の一年。色々考えながら決めていけばいいよ」

 

 高校生活最後の一年……悔いがないよう過ごしたい。

 

   ◆ ◆ ◆

 

『君は東京に来ないのか? 私だけじゃさすがに忙しいんだが』

 

 久々に電話連絡してきた伊原さんから無茶振りが飛んできた。

 

 伊原さんは東京で市ヶ谷議員、蘆名さんと今から顔合わせ会に参加する。

 その会談に俺にも参加しろというのだろう。

 

 もちろん、急に参加しろと言われても不可能だ。

 

 この電話は俺の勤めている会社……兵庫県で受けている。

 

 今から新神戸まで移動して新幹線に飛び乗っても、東京までは最低3時間かかる。

 

「政治的なことは苦手なんですよ。任せます」

『じゃあ政治以外の仕事を振るけどいいよな』

 

「んんん……それも拒否するゥ!」と言いたいのを何とか堪えた。さすがに失礼すぎる。

 

「前向きに検討した上で後日回答をさせていただきたく思います」

『私は既にこの世界の住民でも人間でもない。全権大使のような扱いを要求されても困るぞ』

 

 前から何となく察していたが、伊原さんの口からついに「人間ではない」宣言が飛び出してきた。

 

 伊原さんは東啓輔とは、ランクアップを繰り返していることや、実年齢が百歳を超えているという共通点がある。

 

 その東啓輔は、ランクアップを繰り返しているうちにどんどんと人間味を失っていき、俺と対峙した時には化け物専門のはずの旧神の印(エルダーサイン)が効果を発揮していた。

 

 トナカイの言葉を思い返した。

 老いを克服して不死に近付いた生物は、もはや人間ではないのだ。

 

 元々伊原さんは異世界の邪神、イートラーの加護を受けていた。

 その加護はランクアップに度にどんどん力を増し、ついには邪神の化身になったのだろう。

 

『移住希望の「いにしえのもの」と、運営からの情報を得られそうな「東啓輔」は私の世界に連れて帰る。持っている情報は影響のない範囲で伝える。それ以上何をしろと?』

 

 割とそれだけで十分ではある。

 

 特に扱いに困る「いにしえのもの」を別の世界に連れて行ってもらう。

 これが、伊原さんを巻き込んだ一番の理由だ。

 

 俺たちの世界には、どこにも「いにしえのもの」が過ごせる場所はないが、あちらの世界ならば、まだ人外の怪物でも生きていける場所がある。

 

 だけどもう一声ほしいと欲張りたい。

 

「運営はまだ何か企んでいるでしょう。東啓輔と連絡を取り合っていたあたり」

『それは分かっている。おそらく次は前回までと趣向を大きく変えたゲームを行うはずだ。もちろん異世界召喚という拉致も込みでだ』

 

 そこまで分かっているならば俺の言いたいことも分かるはずだ。

 

 市ヶ谷議員が国会に提出した大量失踪事件についての質問主意書だ。

 

 世間の混乱を抑えるために「異世界」に関する記述は意図的に削られている。

 それでも、特定組織が毎年日本人を100名以上拉致しているという事実は変わらない。

 

 市ヶ谷議員は、異世界の名称こそ出さなかったが、これは日本国に対する挑戦であり、放置することは法治国家として許されざると強く主張した。

 

 当初はこの質問主意書と共に出された資料の真偽をめぐって紛糾した。

 

 そこに、警察庁と警視庁が合同で国会に追加資料を提出して、市ヶ谷議員が提出した資料は全て本物だと実証された。

 そのことで、日本人が大量に拉致されているという事態が報道され、事件を多くの人間が知ることとなった。

 

 以後、新聞やテレビ、ネットを含めた報道機関が毎日のように、行方不明事件について報じている。

 

 取るに足りない嘘だらけのゴシップも多いが、鋭い切り口で異世界転移や運営の存在に迫った推論もある。

 

 この流れを政府も無視できず、今夏から被害者調査と再犯の阻止を目的とする組織設立が決まった。

 

 予算がつけば、政府と警察……それに例の探偵事務所が一体となって運営を含む異能事件への対策組織が作られることになる。

 

 こちらの世界と時間の流れが違いすぎるので、拉致被害者を日本に連れ帰ることはもうできない。

 だが、残された家族に何らかの金銭的な保証を届けることくらいはできるかもしれない。

 

 迦具土から聞いた、運営によって、日本には3台の機械が持ち込まれたという話も伝えてある。

 現状だと雲を掴むような話だが、これはある程度の人数を集めた組織で動けば、解決に向けて進んでいけるだろう。

 

 ついでに九州の先輩が取られた所得税もなんとか出来るかもしれない。

 さすがに、あれは理不尽すぎる。

 

 この新組織は当然ながら、事件について、より詳しい情報を欲している。

 

 当初は俺が情報源として呼ばれていたのだが、俺よりも事情に詳しく、所持している情報も多い伊原さんを紹介したのだ。

 

 そこで、今回の顔合わせが実現した。

 

 初回は手始めに自己紹介を兼ねた顔合わせと、今後の報酬を含めた打ち合わせ。

 そして市ヶ谷議員が個人的に理乃さんの話を聞くという簡単な内容だ。

 

 それならば俺が別にいなくてもいいだろうとあえて参加表明はしなかったのだが、伊原さんはそれが不満だったようだ。

 

『私も運営を倒すためなら協力は惜しまないつもりだが、それでも君が何もしないというのは納得出来ない』

「何もしないわけではありません。組織発足後の会議には参加しますよ。異世界への拉致被害者が現れたら調査や日本へ連れ帰るための活動にも協力するつもりです」

 

 これは本当の話だ。

 事件が起これば俺も協力したい。

 

 ただ、今の政治的な話し合いに何の権力も情報も持っていない俺が参加したところでできることなどない。

 事件が発生してから呼んで欲しいということだ。

 

『そういう政治的なことは私がやる。君は運営を引っ張り出すための囮の役目を担ってほしいんだが』

「囮?」

 

 囮という言葉からは嫌な予感しかしない。

 

「囮というのはどういうことですか?」

『具体的には誤情報を流す。ターゲットとして丁度良い一般人の少女がいるという内容だ。運営が見事に騙されて君をターゲットと間違えて接触してきても君なら迎え撃てるだろう』

「はあ……まあ……多分……」

『もちろん私も護衛につく。そうすれば本来のターゲットも護れる。接触してきた運営も捕縛出来る。一石二鳥でいいことづくめではないか?』

 

 言っていることが無茶苦茶すぎる。

 俺の存在をなんだと思っているのか。

 

「それは私が危険なのでは?」

『もちろん危険がないようにする。本来の目的は運営側の人間を捕らえることだからな。少なくとも、それで連中が使っている次元間移動のシステムを読み取れる』

「私の身の安全は保証されているんですよね」

『……多分』

 

 急に回答が曖昧になった。

 もう不安しかない。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

 念のために再度確認する。

 

『大丈夫だ。そもそも、今から情報を流しても今日明日には動かないだろう。来週くらいにもう一度作戦を練ろう』

「来週ですか? ゴールデンウィークなんですけど」

『私の世界にそんなものはない。それよりも会議の時間だ。また連絡するぞ』

 

 電話は突然に切れた。

 今から会議が始まるのだろう。

 

 これから会議の結果、どうなるのかまでは分からない。

 ただ、確実に良い方向には進んでいってくれるだろう。

 

「ゴールデンウィークか。小森くんは受験対策で忙しいみたいだし、優紀と一緒にカーターのところにほうとうでも食いに行くか」

 

 今はこれでいい。世の中が1人の力で突然変わることなどないのだ。

 だから、なるべく多くの人を巻き込んで、少しずつ積み上げていく。

 

 組織が発足すれば俺も忙しくなるかもしれないが、今は「いにしえのもの」と主犯連中を連れて行ってくれるだけでいい。

 

 もう横浜で事件が起こることは多分ない。

 あとは、時間をかけて、これを日本中……世界中……全ての異世界に広げていくだけだ。

 

「平和が一番だよ。何もない平穏な日々が続きますように」

 




次話は本当の意味で番外編です。
小説家になろうの「異世界魔法学校4泊5日の旅」の再編集、改稿版です。
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