収穫祭の魔女   作:れいてんし

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閑話 7 「平和なサマーキャンプ」

 助けてください。部屋の空気が地獄です。

 

 夕食の片付けや居間での団らんも経て、子供達が睡魔に襲われてダウンした21時頃から全員が割り当てられた部屋に戻った。

 

 あとは寝るだけという状態だったが、俺と優紀と麻沼さんによる大人の変人……もとい女子部屋では恋バナという苦手ジャンルの話が始まってしまった。

 

 カーターと結婚して魔術師の家から足抜けする気満々の麻沼さん。

 

 ソースがマンガやアニメ知識しかないのに恋愛について歴戦の勇者のようにドヤ顔で様々なエピソードを語り始める優紀。

 

「それはすごいとおもいます」だけで全ての会話を受け流す俺。

 

 全員が他人の話を聞いているようで、実際には誰も他人の話なんて聞いていない。

 自分の主張を垂れ流しているだけの地獄である。

 

 白馬の王子様などいないぞ。

 そんな人間が迎えにくることなんてない。

 

 俺の知ってる王子は割と頼りないところが多い、手の掛かるヒモタイプだった。

 

 ヒモに貢ぐ女子の気持ちが少しだけ分かったのは良かったのか悪かったのか。

 

「……というわけで、周囲は第一王子に王位を継がせるつもりで、第二王子以降は予備扱い。どうせ政略結婚の駒だしと好き放題させてたからほぼ庶民だったんだよ。良いのか悪いのか」

「王子なのに?」

「王子だけどカーターみたいな感じだった。同じ世界の住民ならこのキャンプにも呼んでたと思う。悪いやつじゃなかったんだけど……」

「片倉さんみたいなら良い人じゃないですか」

「あいつも悪いやつじゃないんだけど、色々とダメ人間だし、考え直した方がいいですよ」

 

 ダメだ。いつの間にかペースに巻き込まれている。

 

「外の空気を吸ってくる」と部屋から脱出した。

 

 他のみんなを起こさないように静かに歩いてホテルの外に出た。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「よう、ラビ助。いいところに来てくれた」

 

 ホテルを出たすぐの場所、門灯の真下にカーターが立っていた。

 

 手にはタバコ。

 ホテルは全館禁煙なので、外に出て星を眺めながら一服していたようだ。

 

「蚊は大丈夫か?」

「深夜になったら出なくなった。あいつら一定温度がないと飛ばないみたいだ」

「日が暮れたら一気に温度下がったもんな。夏とは思えないくらいだ」

 

 発電所からの送電もなく、ホテルの電力をソーラーパネルのみで賄っているこの島では電力を大量に消費する冷暖房機器は使えない。

 

 夏の暑さをどう乗り切ろうが考えていたが、周囲を海に囲まれている小さな無人島だからなのか、昼も快適だし、夜になると一気に冷え込む。

 

 夕食時にあれだけ飛び交っていた蚊はほとんど飛んでいない。

 

 見上げると、空はまるで冬のように澄み切っている。

 

 日本とは思えないほどの星空だった。

 遠くにかすかに見えるのは四国や他の島々の灯や漁船の光がちらつく以外、人工の明かりはない。

 

 波の音と虫の声だけが響く無人島。

 夜の闇を妨げるものは何もなく、満天の星を楽しむには最高の条件だった。

 

「あっちの世界を思い出すな」

「そうだな。向こうは、ずっとこんな静かな夜だった」

 

 2人でしばらく無言のまま空を仰いだ。

 

「そういえば、さっきいいところに来たって言ってたな。どういう意味だ?」

「頼みがあるんだ。実は、どう切り出すか迷ってた」

 

 カーターはカーゴパンツのポケットから携帯灰皿を取り出し、吸い殻を押し込んだ。

 

 そのままポケットに手を突っ込んだまま、神妙な顔でこちらへ歩み寄ってきた。

 

 その表情に、胸の奥がわずかにざわつく。

 思わずつばを飲み込んだ。

 

「いったい何なんだ?」

「オレお前の仲だからこそだ。この話は他言無用……誰にも秘密で進めてほしい」

「秘密って……」

 

 カーターが言いたいことを飲み込んだような暗い表情が浮かんだ。

 なおも躊躇するとは余程の内容なのか。

 

 カーターは一度目を閉じてしばしの沈黙の後に……意を決したのか顔を上げた。

 

「実は明日の朝食はキャンプ風にホットサンドを焼こうと考えていた。ホットサンドメーカーも持ってきた。3つもだ」

「アウトドア感あっていいよな。美味いし」

「目玉焼きを乗せて食うんだ。山梨でも有名な美味いベーコンも持ってきてる。薄く切ってカリカリに焼いてパンに乗せるとさらに美味い」

「ゆるキャンかmonoかヤマノススメか区別がつかんけど、どれかで紹介されてたやつか。日々飯だったかもしれない」

「何を言ってるのかわからんが、ともかく地元のテレビでも頻繁に紹介されてる有名なやつだ」

 

 カーターはそこで言葉を切り、ポケットの中からアメリカンな刺繍の入った長財布を取り出した。

 

 またも深刻な顔をしながら一歩……また一歩と近付いてくる。

 

 こいつが何を言いたいか……何を話そうとしているのかようやく理解できた。

 

「何枚切りだ?」

「具を乗せることを考えると5か6。8以上は薄すぎる」

「在庫次第だな。最悪10枚切りを2枚重ねる」

「それだと全てが変わるぞ。手間も増える。本当に大丈夫か?」

「あっちの世界で誰が飯を作っていたと思ってるんだ」

「そうだったな。お前を信じたい」

「ああ、任せろ……みんなを腹ペコのまま海水浴に行かせたりはしない!」

 

 カーターから千円札二枚を受け取り……一度ホテルの中に戻る。

 

「おい、どこに行くんだ?」

「さすがにコンビニに行くにも寝間着のままはまずいだろう。一度着替えてくる」

「おい、部屋に戻ったらみんなにバレるだろう」

「諦めろ。食パンを買い忘れたお前が悪いんだろ! ホットサンドメーカーだけ持ってきて何を作るつもりだったんだよ!」

「目玉焼き用の卵も買い忘れたから頼むぞ!」

「全部足りねえじゃねえか!」

 

 本当になんなのこいつ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 まさか、またも増幅(ブースト)を使っての高速飛行に再チャレンジするとは思わなかった。

 最寄りのコンビニ(四国)までの往復1時間30分はかなり頑張ったと自分を誉めたい。

 

 なんとかギリギリ日が変わる前に戻ってくることが出来た。

 

「随分早かったな」

「急いだんだよ。お前を深夜まで待たせておけないだろ」

 

 買い物を頼まれた食材を並べていく。

 

 食パン5枚切りを3斤。メーカーが全部異なるのは在庫がなかったので勘弁してほしい。

 生卵10個入り2パック。これは昼食分も含まれる。

 

 注文にはなかったが、ホットサンドを作るならばとスライスチーズも2パック買ってきた。

 余れば夕食のバーベキューで使えばいい。

 逆にバーベキュー用のタマネギをざく切りにして乗せても美味しいかもしれない。

 

「コンビニには食パンなんてそんなに置いてないし、結局は現地でハシゴした」

「本当に助かった。ありがとう」

「いいってことだ。困ったときは助け合いだし、みんなの朝飯のためでもある。パンがないなら昨日炊いたご飯のあまりでおにぎりを作って焼おにぎりにしても良かったけど」

「それは夜のバーベキューで食べたい。おにぎりは炭火で焼いた方が絶対に美味い」

「それもそうか」

 

 そんな話をしていると、矢上君と友瀬さんの2人が海の方から歩いてきた。

 いつの間にかホテルから外出していたのか?

 

 外出の理由はすぐに分かった。

 2人は巨大な三脚を肩に担いでいたからだ。

 

 暗闇の中でシルエットはライフル銃を担いだ歴戦の兵士のようにも見えた。

 首から下げたカメラと三脚でそれだけの戦いを繰り広げてきたのだろう。

 

「2人とも何か撮影を?」

「星を撮ってました。海に星の光が反射して綺麗なんです」

 

 友瀬さんが珍しく興奮した様子で早口で語り始めた。

 

 星を綺麗に撮影するには、三脚を使って手ブレがないようにカメラを長時間固定させること。

 ただ星空を撮れば良いというものではなく、星空と他の何かを写すことで写真作品の完成度が増すことなどだ。

 

「僕のカメラならすぐに確認できますけど、だいたいこんな感じです」

 

 矢上君が自慢のカメラの背面モニタで見せてくれた。

 小さい画面だが、それでも満天の星空とそれらが海に反射して輝いている光景が綺麗に写っているのが分かる。

 

 この2人はずっと夜空の撮影をしていたのだろう。

 矢上君が見せてくれた星空の写真の枚数からそれが察せられる。

 

「せっかくなので、島の反対側からも撮りたいんですけど、そっちは崖でしたっけ?」

「足元がお世辞にも良くないから夜は止めといた方がいいよ。どの道、木が茂って海は見えにくいし」

 

 さすがに暗くて足元がおぼつかない夜道を歩かせるのは危険が多いのでやんわりと注意しておく。

 

 もし足を踏み外して転落しても、木が茂っていてどこかに引っかかると思うので大事には至らないだろう。

 それでも、大怪我を負うことに変わりはない。

 せっかくの楽しい旅行が台無しになる。

 

「明日は朝から遊ぶんだ。まだ初日なんだし、飛ばしすぎると持たないぞ」

「分かってます。だから早めに切り上げて帰ってきました」

 

 なるほどそこはしっかりしている。

 腕時計で時間を確認すると、ちょうど日が変わる時間だった。

 

「上戸さんと片倉さんはなんでこんなところで話を?」

 

 2人の目が買い物してきた食材に注がれる。

 さすがに朝食の食材を買い出しに言ったとは言いづらいが、それを隠すとこんなところにいた理由の説明が難しい。

 

「食材の在庫で明日の朝食に何を作るのが良いかを打ち合わせしていた。ネタバレになるが、朝食はこれらの食材でホットサンドを焼く」

 

 うまい。

 カーターが取り繕ってくれた。

 その答えならば、まだ納得してもらえる。

 

「そういえば、小森先輩と柿原先輩も海にいたんですけど、もう戻ってきてました?」

「いや、まだ戻ってない。あいつら何をやってるんだ?」

 

 待て、その2人が一緒に海へ行ったのか?

 

 俺が知らないことで何かが起ころうとしている。

 

「カーター、他に誰がホテルから出て行ったか分かるか?」

「横浜の高校生4人だけだ。赤土のやつはドロシーのトイレの付き添いで一度部屋から出たけど、またすぐに戻っていった」

 

 尚更よろしくない。

 

 小森くんも柿原さんも、同室の矢上君、友瀬さんが部屋から出て行ったので自分達もと出たのだろうが、その2人の組み合わせはよろしくない。

 

 エリちゃんが同室のドロシーちゃんをほっぽりだして部屋から出て行くことはないと信じていたし、実際その通りだったことについては安心したのだが、今回はそれがマイナスになっている。

 

「ちょっと浮気してないか見てくる」

「お前全然小森を信用してないんだな。心配性すぎるだろ」

「それなら大丈夫じゃないかと」

 

 矢上君がまたもデジカメを操作して写真を見せてくれた。

 

「綾乃が急に砂浜でPV風の写真を撮りたいって言ってきたので、頼まれた通り、何枚か撮りましたよ」

 

 そこに写っていたのは月夜の水際で水遊びをする柿原さんの写真だった。

 PV風というだけあって、まだ電子加工前の素材状態だというのに十分に雰囲気はある。

 

 柿原さんの見た目は悪くないだけに余計に雑誌のグラビアに憧れて素人がやらかしてしまった写真に見える。

 

 写真を見せてくれた矢上君の顔も若干こわばっているように見える。

 

「僕たちは引き揚げてきたんですけど、本人はまだスマホのアプリで撮ると」

「……やるなとは言わないし、気持ちは分かるけど、これは10年後に黒歴史と化すやつだぞ」

「それは私も止めたんですけど、本人がどうしてもやりたいと……」

 

 友瀬さんも困ったように言った。

 横から覗き込んだカーターも「うわぁ」と不躾な声をあげた。

 

「さすがにそれは失礼」

「こんなに痛々しい写真をどうする気だ? 黒歴史の大量生産はラビ助だけで間に合ってるぞ」

「待って」

 

 カーターの話によると、俺の知らないところで俺の恥ずかしいコスプレ写真が公開されている。

 どうなってるの?

 

 犯人はわかっている。

 この件は後日問い詰めることにしよう。

 

「ということは小森くんは?」

「この画面端でたまに見切れてる彼氏設定の人物が小森先輩です」

 

 友瀬さんの説明通り、シルエットだけだったり、手だけだったり、正体不明の人物が写り込んでいる。

 

 浮気要素はないようだが、柿原さんによって別の意味でダメな方向に振り回されている。

 

 そんな話をしていると、小森くんと柿原さんが海の方向から歩いて戻ってきた。

 水辺で撮影をしていたというのは本当だったようで、しかも転んだようだ。

 2人とも全身ずぶ濡れの上に砂があちこちに付いている。

 

「ゲッ、なんで上戸さんと片倉さんまでここにいるの?」

「いるの? じゃない! ともかく、そんなにずぶ濡れだと風邪を引くから、早く着替えてくるように。服も海水で濡れたままだと塩分で生地が傷むから早く着替えて」

「ここって洗濯機かコインランドリーってありましたっけ?」

「無人島にそんなものはない。真水で手洗いをして天日干し」

「それってすぐに乾きます?」

「朝から干せばすぐに乾くんじゃないかな?」

「じゃあシャワー借ります」

「待った。そんなずぶ濡れのままホテルに入ったら通路が湿気にやられる。タオルと着替えを持ってくるから、一度海水浴場近くのシャワー使って」

 

 そう説明すると、小森くんと柿原さんは顔を見合わせた後にゾンビのように生気なく歩いて行った。

 

「まだ初日だぞ!」

 

 なんだこの地獄のキャンプは。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 無人島サマーキャンプ2日目。

 

 朝食は何のトラブルもなく無事に終えることが出来た。

 

 ホットサンドは好評で、みんな焼きたてアツアツの卵とベーコンが乗ったパンを美味しそうに食べていた。

 

 みんなが水着を持って海水浴場に駆け出して行った後、俺とカーターの2人で裏方の片付け作業だ。

 

 昨日に階段近くに見つけた地下への通路から漏れ出す風の音が人の声のように聞こえる問題は入口にゴムを張って解決。

 

 開く度にギギーっと鳴るドアは注油して解決。やはりシリコンオイルはよく効く。

 

 森が近いせいで大きなムカデがホテル内に入り込んでいた問題などついては駆除してこちらも解決。

 このホテルの所有者に財宝の情報と一緒にゴキブリにも効く餌タイプを置いておくことを提言しよう。

 

「他には?」

「窓の外に人が立っていたとJK組が言っていた」

「月の明かりで木の枝の影が窓に落ちてそう見えるだけじゃねえか。枝を払え枝を!」

 

 鳥の使い魔に鉈を持たせて飛び回らせて解決。

 払った枝は夜のバーベキューの薪にする。

 

「謎の獣の骨が!」

「島を泳いできたイノシシがここで力尽きたのか。埋めておこう」

「謎の生物の骨が!」

「マジでなんだこれ? 一緒に埋めておくか」

「謎の怪生物が!」

「圧縮極光!」

 

 事件を解決する過程でホテルの中に謎の隠し部屋があるのを見つけたので、わかりやすいようにマスキングテープを張っておいた。

 

 本来なら館の持ち主のメッセージから、隠し部屋や隠し通路を見つけて海軍の基地や村上水軍の財宝を見付けるという流れなのだろう。

 

 ゴールから探したせいで意味不明な話になってしまったが、私は謝らない。

 

「もう事件に繋がりそうなものは残ってないか?」

「突っ込んだら負けかもしれないが、今の怪生物は何だったんだよ」

「昨日に散々今まで隠れていた通路を歩き回って開放したからな。邪神像って召喚陣も兼ねてるから、昔に呼ばれてずっと隠れていた怪物の生き残りが這い出てきたんだろう」

「謎の骨もそういうことか?」

「多分」

 

 これ以上、俺に聞いてはいけない。

 

 人がいない無人島でこれ以上の情報収集など出来ない。

 出来るのは対症療法だけだ。

 

 なのでこれで終わり。

 

「じゃあ、せっかく海に来たんだから海に行こうぜ」

「謎会話をするな。オレは若い連中の中に入ってキャハハウフフはまぶしすぎるから一人で釣りに回るわ」

「それならそれでやることがあるぞ。みんなの昼飯作りだ。釣りは午後からでもいいだろ」

「まあそうなんだけど」

 

 渋るカーターの手を引いて俺達は海岸……海水浴場へと向かった。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「ウェミダー!」

「海はずっと見えていただろう」

「海に来たらこう言うもんなんだよ」

 

 手早く水着に着替えてみんなに合流。

 

 清潔感のある青い水着のエリちゃん、普段は秘められている本性を開放するような赤い水着の友瀬さんと競ったりしない。

 

 人はそれぞれなのだから、個性を生かしていく。

 

 購入したばかりの新しい水着は綺麗な水色。

 普段使っている鳥のイメージとも共通する。

 

 水色ならばレタス扱いもされないだろうし、なかなか良い選択ではないかと思う。

 

 砂浜に歩いていくと、同じ淡い水色の水着を選択した柿原さんと目が合った。

 

 どうやら俺と柿原さんは同士だったようだ。

 

 柿原さんはビキニ。俺はビスチェタイプと形状こそ異なるが、色はほぼ同じ。

 無言で握手を交わして互いの健闘を誓った。

 

 先達……柿原さんが指差した先にいた小森くんに近付いていき、両手を大きく広げてみせた。

 

「どうだ!」

「ラビさんも可愛いですよ。結依が昔に着ていたやつを意識しました?」

 

 可愛いと口では言っているが反応はあまりに薄い。

 

 そもそも結依さんの水着とか知らないんだけど、どういうことなの?

 

 結依さんからの返事はない。

 

 こいつ、都合が悪くなると消滅したフリをして黙っているだけだな。

 

 ただ、あまりに反応が薄い。

 その棒読みのような感想は何だ?

 

 小森くんの視線を追うと、水際で矢上君と戯れている友瀬さんの姿があった。

 

 友瀬さんが動く度に、揺れる度に彼氏である矢上君だけではなく、小森くんの視線が恐ろしい吸引力で吸い込まれていく。

 

 大胆なデザインの赤いビキニも卑猥さを感じさせずに調和して、更に美しさを更に押し上げている。

 

 近くで睨んでいるエリちゃんの視線も届かない。

 

 たった今、この場に来たばかりのカーターの目視線までも友瀬さんに奪われており、麻沼さんに呆れられている。

 

 ふざけているの?

 

 一度柿原さんのところに戻ることにする。

 

「やはり敵と我々とでは驚異的な差がある」

「ブレスト……ブレインストーミングだ。真正面から挑んでも勝ち目はない以上は作戦を考えるしかない」

 

 敵はあまりに手強い。

 エリちゃん以上の強敵がいるとは思わなかった。

 

「そこで、ここには来られなかった今は亡き木島の意志を継いで、持たざるものの戦いを仕掛けたいと思う」

「柿原さんの作戦とは?」

「あれ」

 

 但馬さんのところの子供たちとレルム君、ドロシーちゃん達は仲良く砂の城を建造している。

 和風、洋風、なんか分からない砦の融合体。

 

「あの4人はさっきまでビーチボールで水陸両対応型のドッチボールをしていたけど、疲れて砂の城の建造に移行したところ。さっきまではドロシーちゃん? が主導していたけど、今は但馬さんのところの武君がリードしている。舞台が変われば、アプローチ方法も強みも変わる。動きがない場面では、別のアピールポイントが重要になる」

「……なるほど」

 

 一気にまくし立てる柿原さんの勢いにただ頷くしかない。

 

 柿原さんが顎で示した先には昼食を用意するための調理場があった。

 

「みんな朝から水遊びをしていて、そろそろ体力的に限界。腹を空かせて昼食を求めてやってきたところに、出来る女が昼食を用意して待っている。テキパキと調理をこなす姿に、腹ペコ軍団はただすごい。早く食べさせてくれと頼み込むわけよ」

「つまり、見た目ではなく行動でアピールするのか」

 

 半分くらい何を言っているのか分からないが、見た目では勝ち目はないので、別方向から攻めてすごいと誉めてもらいたいというところだけはわかった。わからなかった。

 

 まあいい。

 元々昼食は俺とカーターで用意するつもりだった。

 その予定が少し変わるだけだ。

 

「それで上戸さん、今日の昼食の予定は?」

「無人島から連想される島というイメージを強調。ハワイ料理であるロコモコを考えている。材料は全部揃えてある」

「なるほど。ロコモコは食べたことないですけど、腕が光りますね」

「ああ。このハワイアン料理でライバルに差を付ける」

 

 

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