収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第二話 「無線機を手に入れろ」

「現状はこの通りです」

 

 木々が紅葉し、散り始めた11月の森の中。

 その奥に突如として現れた異質な空間。

 

 一見すると、ただもや(・・)が立ちこめているだけ。

 

 だが、そのもやの向こうには確かに「町」がある。

 

 鳥の使い魔の視界には、住宅、道路、電信柱……

 日本全国どこにでもあるような風景がそこに存在していた。

 

 まずは鳥を一羽を偵察のために「町」に突入させてみたが、もやの向こうへ消えた直後に連絡が途絶えた。

 

 同じような事例は何度か体験したことがある。

 

 結界のような異空間に使い魔を突入させると、こちらからの命令や使い魔が存在を維持出来なくなって消滅する。

 これは使い魔が射程外に飛び出した時と同じ動きだ。

 

 俺達が立っている場所と、目の前にある謎の「町」との間には射程距離である2キロメートル以上の距離……異空間による隔たりがあるということだ。

 

「異変の中心は、ここで間違いありません。安坂(あさか)刑事が残した痕跡もあります」

 

 和泉さんが木の枝に結びつけられたこよりを外し、中の紙片を広げるが、何も書かれていない。

 書く時間がなかったのか、書く必要はないと判断したのか。

 

「さてさて……まずはこの空間を破ってみましょうかね」

 

 おそらくこの異空間への入り口の破壊は簡単だろう。

 

 バルザイの偃月刀でも良し。

 

 増幅(ブースト)を何回か重ねがけした極光……時間と空間の神でもある、うちの神さんのパワーで強引に押し切るのもありだろう。

 

 何かしらのアクションを起こそうとしたところ、和泉さんが手を広げて制してきた。

 

「止めておきましょう。無理に次元境界を破壊すると何が起こるかわかりません」

「経験ですか?」

「勘です」

 

 勘なら仕方ない。

 

 和泉さんはある程度、こういった魔術がらみの事件の調査を行っている。

 

 その過去の経験と照らし合わせた上で、危険だと感じ取ったのだろう。

 

 ただ、それをうまく言語化出来ない故の「勘」という言葉。

 

 経験者の直感は、こういう何も情報がない状況だと十分判断材料になる。

 

「中の状態が分からない以上は、要救助者を危険に晒す可能性があります」

「人命救助が最優先ということですね。それには私も異論はないです」

 

 言葉にして、自分にも言い聞かせる。

 

 あくまでも最優先事項は行方不明者の救出だ。

 

 迂闊に次元の境界を破壊することで支障があるというならば、さすがにそれは実行できない。

 

「その代わりに内部から脱出する際に上戸さんの力を借りることになるかもしれません。隔離された空間から外に出ることは困難である場合が多いですので」

「中で起こっている事件を解決して、この空間が自然消滅するのがベスト、破壊は次善の策ということですね」

 

 方針はだいたい固まった。あとは突入するだけだ。

 

「繰り返しますが、内部はどうなっているか分かりません。突入する覚悟は良いですか」

「この戦いから帰ったら結婚するんだとでも言っておけば良いですか?」

「やめてください、縁起でもない。ただでさえ同僚が寿退社で困っているというのに」

「ああ、そっちですか」

 

 冗談めいた言い回しだが、表情は冗談には見えない。

 和泉さんは本気で困っているようだ。

 

「転職はしませんよ」

「わかっていますよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 雨戸を何者かが何度も殴打する音が鳴り響く。

 

 それでもアルミサッシの丈夫な雨戸はビクともしない。

 断熱性能は低いとよく言われるが、台風にも耐えるアルミサッシの頑丈さが、外部からの攻撃に耐える頼もしい防壁となっていた。

 

「またか……」

 

 突破される心配は少ない。

 だが同時に、自分たちの脱出を阻む壁でもある。

 

 安坂宏(あさかひろし)巡査長と調査チームの3人は、一軒家に立てこもっていた。

 

 声を押し殺して、ただ嵐が止むのを待つ。

 額に浮かぶ汗を、手の甲で拭う。

 

 わずか三分にも満たない時間。

 

 音を立てないように息を潜めていると、やがて雨戸を叩く音は収まる。

 

 若手警官2人と、調査員2人は近くの別の建物に避難したはずだが、どこにいるのか連絡を取る手段がない。

 

 通常の携帯も不通。

 どういうわけか、衛星回線すら繋がらない。

 

 ここは東京都の山中。

 電波が弱くなることはあっても、完全に遮断されるなどありえない。

 

 逃げ込んだ家には固定電話があったが、受話器を持ち上げてもノイズすら返さない。

 

 電気と水は使えるのでインフラが死んでいるということではなさそうだが、逆にそれが不気味である。

 

 2階へ上がってカーテンを少し開けて窓から外を見る。

 道を全身が真っ黒の「影」としか形容しようがない人型の「何か」が歩いているのが見えた。

 

 この影はゴム人形のように全身をグニャグニャと変形させながら迫ってきて、鞭のようにしなる腕を振り回して攻撃してくる。

 表情などないので何の目的で襲ってくるのかも不明。

 

 森の中にあった無人の町……幸福が丘ニュータウンなる謎の集落に入った途端にこの怪物に襲われた。

 

 接触を回避しつつ、小さな物置に隠れていた調査チームに何とか合流することは出来たが、全員で町を脱出しようとしたところ、この影の怪物集団に包囲された。

 

 仕方なく二手に分かれ、分断されてしまったのが現状である。

 

 この集落から出る手段はなく、外部との通信も絶たれた。

 時間が経つほどに体力と精神力が削られていく。

 

 若手二人、横川(よこかわ)と鑑識の明山(あけやま)と共に逃げた調査チーム2人のうち片方は怪物に襲われて負傷している。

 医療器具も医薬品もない現状。どれだけの応急手当が出来るのかは未知数だ。

 

 逃げ込んだこの一軒家にあった食料は冷蔵庫に入っていたバターや調味料、それに漬物。

 あとはわずかな乾燥パスタと米櫃の底に溜まった米だけだ。

 

 パスタは二人前。

 米は全部併せて0.6合と言ったところ。

 4人が籠城するにはあまりに心許ない。

 

 仕方なく常温の水道水に長時間漬けてふやかして戻したパスタにマヨネーズで味を付けて食べたが、あまり長くは持たないだろう。

 

 水道から水は出るので渇死だけは防げそうなのが唯一の救いだ。

 

「テレビはどうでしょう? 何か映るかもしれません」

 

 伊東という調査チームの一人が2階の部屋に備え付けられていた古い液晶テレビを叩いた。

 

「リモコンは見つけています」

「音量はミュートでな」

「もちろんです」

 

 テレビの電源を入れると画面にざらついた映像が映し出された。

 

 山間部で電波受信状況があまり良くないのか、映らないチャンネルも多い。

 

 しかもノイズが多くて見辛いが、見たいのは番組の中身ではない。

 電波が届くか否かだ。

 

「最近はテレビを見ませんが、ずいぶん古い番組の再放送をやってますね」

「おれも仕事柄、テレビなんて飯屋で流れてるやつくらいしか見ないが、今の時間帯は再放送ばかりだぞ」

 

 腕時計を見ると14時。

 この時間にニュースは放映されていない。

 

 画面には1990年代、安坂がまだ学生時代に放映されていたドラマが流れていた。

 記憶にあるのは主題歌くらいだが、登場する役者でだいたいの年代がわかる。

 

 目の前にいるまだ若い調査員は存在すら知らないだろう。

 生まれる前のドラマなのだから。

 

「電波が入ることは確認できた。携帯が繋がらない理由は不明だが、これは進歩だ」

「ミュートでも結構機械のノイズ音が出ているみたいなので、もう消しますね」

「ああ、音は出さないに越したことはない」

 

 伊東がテレビの電源を切ったので奥の部屋に移動する。

 

「電波が受信できるならば送信もできるだろう。問題は発信手段だな」

「何かあてが?」

「タクシーだ」

 

 安坂はカーテンを少しだけ開けて外の様子を見た。

 路上には何台もの車が路上に放置されている。

 

 その中にタクシーが混じっているのを見つけた。

 

 しかも、都合良く運転席のドアは開いたままだ。

 期待薄ではあるが、エンジンキーが刺さったままならば、乗ってどこかに移動できるかもしれない。

 

 本当は交番かパトカーを探したいところだが、近くに在るのかどうかは不明。

 怪物から逃げながら探すのはあまりに無謀だ。

 

「タクシーならば営業所との連絡用に無線機が積まれているはずだ」

「車にバッテリーは残ってますかね?」

「不明だし、車に張り付いて通信をするのはリスクが高すぎるので、無線機だけを拝借する。この家は電気が使えるのだから、コンセントから電源を取って動かせばいい」

 

 無線機の電源として考えているのは、2階の書斎らしき部屋に放置されていた古いデスクトップパソコンだ。

 

 いつから放置されていたのか定かではないが、前面にはWindows95のステッカーが貼られていた。

 

 ネット接続も満足に出来ると思えないパソコンに期待できることは何もない。

 

 重要なのは、パソコンには100V電源から車やバイクで使われているのと同じ12V電源ユニットがついていることだ。

 簡単な配線だけで無線機を動かせる。

 

 タクシーまでの距離は300メートルといったところ。

 黒い影に気付かれずに何とか接近できれば希望はある。

 

 警官としては失格な行動であり、後で問題になるかもしれないが、怪物が徘徊して要救助者もいるこの状況だ。

 緊急避難としてなんとか許してもらいたいところだ。

 

「黒い影が少なくなったタイミングでおれだけが向かう。3人はここで待機していてくれ」

「全員で行きますよ」

「ダメだ。もしおれが倒れたら、狼煙なりなんなりで外部と連絡する手段を模索してほしい」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 立てこもる家の周囲から黒い影が消えた瞬間を狙い、安坂は玄関を開けて一気に飛び出した。

 

 ただちに調査チームの一人、工藤がドアを閉める。

 

 ただし施錠はしない。

 安坂が無線機を回収して戻ってきたら迎えるためだ。

 

 施錠するときは安坂が家にたどり着けなかった時だけ。

 

 安坂は家に残る三人に言い残している。

「黒い影が入ってこようとしたら、俺を見捨てろ」と

 

 安坂も見捨てられるつもりなどない。

 だが、警官の自分を助けるために民間人が犠牲になってはいけないと感じている。

 

 もちろん自ら犠牲になるつもりなどない。

 

 そのために生涯現役を誓い、日頃から鍛えている。

 加齢で若いころに比べると衰えはあるものの、必要とあれば何時間でも走り続けられる体力ならばある。

 

 目標は三百メートル先のタクシー。

 若干の上り坂で平地より体力の消耗は激しいが、大きな問題にはならない。

 

 右手には物置で見つけたモンキーレンチが一本。

 本格的な工具が欲しいが贅沢は言えない。

 

 武器として拳銃を所持しているが、残弾は三発。

 調査チームを助ける際に2発を発砲したためだが、さすがにこれだけで戦い抜くのは厳しい。

 

 銃弾が命中すれば影は霧散するので一体だけならばなんとかなるがが、弾数以上の数が一斉に現れたら終わりだ。

 

 分断された仲間も武器を持っていない。

 

 新人の横川は特殊警棒のみ。

 鑑識の明山に至っては調査用ツールしか持っていない。

 

 つまり、仲間と合流しても弾が補充されることはない。

 

 無線で助けを呼んだ後も、三人の警官で市民五人を護らないといけない。

 その際にまともな武器がなくなるのは困る。

 

 タクシーまで残り五十メートルの地点で、安坂の足音に気付いたのか、黒い影が路地の角を曲がって姿を現した。

 だが、安坂までの距離は200メートル以上。

 それだけのアドバンテージがあればなんとかなる。

 

 安坂は更に加速してタクシーの運転席に飛び込み、勢いよくドアを閉めてロックした。

 エンジンキーは……刺さっていない。

 

 スマートキーではなく物理鍵を使ってエンジンを始動する古いタイプの車だが、どの道、エンジンキーがなければ車を動かすことはできない。

 期待していなかったといえば嘘だが、それはそれで残念だ。

 

 気持ちを切り替え、当初の予定通りに無線機を取り外しにかかる。

 

 ダッシュボードのプラスチックのカバーを外すと無線機を固定しているステーと内部配線が現れる。

 無線機を固定しているボルトは二本。ステーの左右だけだ。

 

 手元にあるモンキーレンチは水道用の調整か何かに使っていたであろう大きなもの。

 小さなボルトを外すのは難航するが、なんとかやり遂げる。

 ようやく一本外したところで、ドアが外から激しく叩かれた。

 

 黒い影が追いついたのだ。

 ドアを力任せにこじ開けようとしている。

 

「先客ありだ。営業所に電話して次のタクシーを待ちな」

 

 安坂は短く息を吐いて、自分を鼓舞するように何度か呟いた。

 

「タクシーのドアは意外に頑丈だ。簡単には壊れない」

 

 根拠などない。

 外からのプレッシャーに惑わされず、冷静に作業を完遂するための単なるおまじないだ。

 

 残るボルトを外して、無線機から自動車のアクセサリ電源に伸びたハーネスを辿り、カプラから引き抜く。

 

 マイクを無線機本体に巻き付け、小脇に抱えると、体重をかけてドアを蹴り開けた。

 

 勢いよく開いたドアが前にいた影をはね飛ばした。

 

 これで影が消滅するようなやわな敵ならば苦労はしない。

 だが、ダメージ0というわけではないようだ。地面に転がって気持ち悪く回転しながら、のたうち回っている。

 その隙に、安坂は地面を蹴った。

 

 ラグビー選手のように力強く駆ける。

 新手の影が道の端から現れるが、ステップをこまめに踏み、進路を小刻みに変え、フェイントでかわす。

 

 2体の影を振り切り、距離を取る。

 

 順調だ。あと少しで家だ。

 

 その瞬間、足の回転が追い付かなくなり、安坂は一気にバランスを崩した。

 

 老化か? 疲労か?

 おれの運動能力はそこまで低下していたのか?

 

 どれも違う。

 

 一軒家からタクシーまでの往路は登りだった。

 必然的に復路りは下り。

 

 平地と同じように走ったり、小刻みなステップなどを取れば、思わぬ加速がつくせいで、足の動きと脳の制御にギャップが生じる。

 

 理屈は分かっていても、一度崩れたバランスはそう簡単には元に戻せない。

 それでも無線機を落として壊すわけにはいかない。

 

 転倒を避けるために近くのブロック塀へもたれかかるように、ぶつかった。

 

 衝撃で腕が痺れて、右手に握っていたモンキーレンチが手から滑り落ち、鈍い音を立てて転がった。

 

 それでも無線機だけは落とすまいと抱え込む。

 

 だが、黒い影が追いかけてきているこの状況での減速は致命的だった。

 

 たちまち背後から追跡してきた黒い影が追い付いてくる。

 

 残弾……。

 

 一瞬だけ躊躇したが、ホルスターから拳銃を引き抜いた。

 素早く目の前に迫っていた影に一発だけ発砲。

 

 弾丸は正確に影の顔面に当たる位置に命中。

 影は跡形も残さず霧散消滅した。

 

 足元に落ちたモンキーレンチを拾い上げて力任せにもう一体の影に向かって振り下ろす。

 怯んだところに蹴りを入れて更にもう一発。

 

 うずくまったところで、右手の痛みを堪えながら再度駆け出した。

 壁に激突したところに銃の反動。更にモンキーレンチを使った殴打。

 腕にダメージが溜まっている。

 

 その時、家の中から調査チームの伊東ともう一人、羽田が飛び出してきた。

 手には、家の中で武器になるようなものを探したのだろう。

 金属バットと土産物らしい木刀が握られている。

 

「今の状況で安坂さんがいなくなればみんなピンチなんです」

「これくらいは助けになりますよ」

 

 2人が倒れた影に向かってバットや木刀を振り続けると、影はじわじわと薄くなり、やがて姿を消した。

 

「みんな、早く家の中に!」

 

 工藤が急かすように叫び、外に出ていた全員はそれに促されるように家の中に入ってドアを施錠した。

 

 やや遅れてまた路地の向こうから別の影が現れたが、外を歩いている者はもう誰もいない。

 

 影二体を倒した相手を探しているのか、隣の家のドアを殴打し始めたが、そこには誰もいない。

 すぐに今の建物に移動してきてやはりドアを叩くのだろうが、居留守を決め込めば、何も問題ない。

 

 手元には無線機。

 全員で勝ち取った成果の品だ。

 

 早速パソコンをばらして電源ユニットから伸びているケーブルに無線機を直結する。

 アンテナが必要らしく、家にあったラジオのアンテナを外して取り付けた。

 ないよりはマシだろう。

 

 スイッチを入れると、わずかにノイズが走った後にランプが灯った。

 安坂は周波数を調整して呼びかける。

 

「CQCQ。この無線を聞いている人は誰かいるか?」

 

 周波数を変えながらしばらく呼びかけていると、反応があった。

 ノイズが多くて聞き取りにくいが、間違いなく人間の声だ。

 

『聞こえているか? ノイズが酷くてはっきり聞き取れない』

 

 相手もうまく電波を拾えないようだが、ギリギリ会話は出来る。

 

「こちら警視庁の安坂巡査部長。そちらは?」

『こちら、通りすがりでこの町に閉じ込められた者。外に出られなくて困っている』

 

 どうやら無線に出た相手は外にいる人間ではなく、同じ立場の被害者のようだ。

 

 一同は落胆したが、すぐに切り替えた。

 

 即脱出には繋がらないだろうが、この街に来て初の人間との接触だ。

 情報交換くらいは出来る。

 これ以上不利な状況にはならないだろう。

 

『何か外に連絡できる手段はないか? 公衆電話はダメだった。今は消防署の無線でこれを受けている』

「消防署の無線でもダメなのか?」

『ダメだ。外には繋がらない。昨日から定期的に呼びかけているが、反応があったのはあんたらが初めてだ』

「テレビは受信できるのに?」

『テレビが映る?』

 

 無線の相手が突然に急に黙り込んだ。

 10分ほど経ってようやく反応があった。

 

『テレビはあんたらの言うとおりだ。時代劇が流れてた。情報交換したい。籠城するにしても備蓄食料や水があるこの消防署の方が有利だ。合流したい』

「そうは言われても場所がわからない」

「あれじゃないですか?」

 

 伊東がカーテンを少し開けて遠くを指さした。

 民家の屋根の向こう側にわずかに火の見やぐらと防災用のスピーカーが付いた鉄塔が見えた。

 

 400……遠くとも500メートルくらいか。1キロはない。

 

「だが影が」

『影ならなんとかする。だいたいの方向を教えてもらえれば、そちらに向かって駆除しながら歩いていく』

「駆除? 武器があるのか?」

『説明すると長くなるが、俺達には戦える力……スキルがある』

 

 安坂はマイクをオフにして内々で相談することにする。

 

「聞いての通り、通信先はかなり怪しい。そして接触や移動にも高いリスクを伴う」

「だけど、この家に引きこもっていても先はありません」

「情報は必要です。ここから脱出するためにも」

 

 伊東や羽田の言うとおりだ。

 水だけはあるが食料は乏しい。

 

 どの道、近いうちに移動しなければならないのは事実だ。

 

 あてもなく歩くよりはマシかもしれない。

 籠城を続けるにしても、消防署の方が建物も頑丈だろう。

 

 安坂は改めて調査チーム3人の顔を見る。

 

 顔にも疲労が浮かんでいる。

 あまり今の籠城生活を続けられないのは明白だ。

 

「今の話を受けることにする」

 

 マイクをオンにして相手に了承の旨を呼びかける。

 

『ありがとうございます。俺はラバン。レアリティはSSRです。仲間はSRが二人です』

「SSR?」

 

 意味が分からなかった。

 一体通信相手は何者なのか?

 何が起こっているというのか?

 

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