収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第三話 「仕組まれた罠」

 結界内に展開されている空間は思っているよりも巨大な町だった。

 

「ニュータウン」と呼ばれる都市開発された土地は一般的に百ヘクタール、ディズニーランド2つ分くらいだ。

 小規模なものなら1ヘクタール、町の一区画分しかない場合もある。

 

 ところが、この町は違った。

 

 案内板を信じるならば「幸福が丘ニュータウン」は、東京都多摩市、八王子市、町田市などにまたがる巨大な住宅地、多摩ニュータウンと同じくらいの大きさがあるのではないだろうか?

 

 もちろん、そんなことは常識ではありえない。

 

 八王子市の山中に、これほどの都市が存在するわけなどない。

 

「上戸さん、探索はできそうですか?」

「残念ながら難しいですね。私の使う鳥は射程が約2キロメートルなので、射程限界まで飛ばしても端まで行き着けません」

 

 もちろん鳥を高く飛ばせば一望することはできる。

 ただ、それは逃走中の人間などを追う時の運用方法だ。

 

 細かく調査となると、高度を下げて人の目線か少し高いくらいの位置に合わせる必要がある。

 

「太陽の位置が地球と同じと仮定すると、南北4キロ、東西は12キロほどでしょうか。高さは500メートルで打ち止めです」

 

 和泉さんに使い魔で観測できた結果を伝える。

 

「もちろん不自然な箇所は多々あります」

「たとえば?」

「まず空間そのものの構造ですね。果てしなく続く森の中に、突然町が出現している。道路も端で唐突に途切れている箇所が多いです」

 

 おそらく、その切れ目が結界の境界線。

 町全体が、横長楕円形——およそ1対:3の比率をもつドーム状空間に収まっていると考えられる。

 

「同じ形の家がコピペしたように何百メートルも並んでいる……というのは、同じ建設会社が作ったニュータウン開発ではよくある話なので除外します」

「地方の新興住宅地にはよくありますね」

 

 横浜の小森くんの家も似たようなものだ。

 同じハウスメーカーによる宅地開発と建売住宅販売だとコピペしたような町ができ上がる。

 

 ただ、人が住めば、庭木やエクステリア、外壁塗装で段々と個性が出てくるものだ。

 

 この町にはそれが全くない。

 

「次に、人の営みが全く感じられない点。家の数に対して車が少なすぎる。バス停も鉄道の線路もない。自転車すら一台も見当たらない。自販機もコンビニもゼロ。ここの住人はどうやって生活しているんでしょう」

「他に気付きがあれば全部教えてください。今は情報が少しでも欲しいです」

「屋根にソーラーパネルもBSアンテナもありません。屋根材はスレートではなく瓦が多い。マンションはほぼなく、集合住宅は団地ばかり。まるで昭和末期か平成初期の航空写真を再現しているような印象です」

 

 一番の違和感はここだ。

 令和の町ではなく、バブル期に建てられたニュータウンと呼ばれた新興住宅地をタイムスリップして見ている感覚だ。

 

 古い街並みなのに建物自体は新しい。

 新品の骨董品という矛盾。

 

 古い街並みを再現した人工的な都市だと考えると別の気付きもある。

 

 郵便ポストが円柱型。

 路上に放置されている自動車は軒並み平成初期のラインナップ。

 電柱に光ファイバーケーブルがぶら下がっていないなど。

 

「最後に敵の話です。町中に黒い人影のようなものが徘徊しています。数は最低100。正体は不明ですが、これだけの多くの敵が存在しているとなると、先に入った調査チームや救助チームの安否が気になります」

「一般人は?」

「ぱっと見た感じだといないですね。道を謎のモンスターが闊歩しているので、恐れて家に籠っているのか、それとも最初から住民なんて存在していないのか」

「つまり一般人に気兼ねする必要はないですね」

 

 和泉さんはそう言うとアタッシュケースの中から革のナイフケースを取り出した。

 ケースごとコートのベルトに金具で取り付けてぶら下げた。

 

「道中と同じく安坂(あさか)刑事が何かを残しているかもしれません。見逃さないよう注意して進みましょう」

 

 とりあえず町の中心部目指して歩き始める。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町に残された、安坂刑事が残した痕跡は非常にシンプルだ。

 

 歩きながら……時には走りながら、木の棒を通りすがらにブロック塀へ擦り付けていくだけ。

 うっすらとではあるが、塀には木が擦れて削り取られた木屑の一部が黒い線となって残る。

 

 雨が降ったらすぐに消えてしまうような僅かな痕跡。

 

 だが、確実に移動の痕跡をたどることができる。

 

 町中を徘徊する影はなるべく避ける方向で進んでいる。

 迂闊に倒すとそいつが仲間を呼び集める可能性もあるからだ。

 

 俺と和泉さんだけならばともかく、近くに要救助者が身を潜めていたら目も当てられない。

 

「ところで敵の狙いは何だと思います?」

 

 和泉さんが唐突に話しかけてきた。

 

「わざわざ次元の壁の制御施設の建設場所を狙ってのこの空間を作ったのでしょう。都合が良すぎて偶然だと思えません」

「何者かが次元の壁を作るなど許せないとちょっかいをかけてきた?」

 

 何者か?

 決まっている。地球への干渉ができなくなって困るのは「運営」だけだ。

 

「でも、この場所に装置を作ると誰が知っているんでしたっけ?」

「まだ用地選定中の段階ですからね。我々探偵事務所関係者と市ヶ谷議員、あとは総務省の役員と警察庁幹部が数名。伊原さんすら知らないはずです」

「内々から漏れたとは考えにくいですが……盗聴の可能性も考えられますね」

「内通者が存在する可能性は考えた方が良いかもしれません」

 

 和泉さんがスーツのポケットから手帳を取り出して開いた。

 わざとらしくページをめくる。

 

「捕縛した東啓輔(あずまけいすけ)はご存知ですよね」

「元神奈川県の知事ですよね。あの東啓一郎の父親で東議員の祖父」

 

 忘れるわけもない。

 小森くんに化けて不快な行為をしてきた許せないやつだ。

 

「東啓輔氏は元々政界では強い権力を持っていました。息子の東啓一郎氏を通じて、多くの議員に選挙協力をするなどの『世話』を行っていたようです」

「東氏を通じて運営と繋がりを持った内通者がいると?」

「今回の件で音頭を取っていただいている市ヶ谷議員も東家関連の人物ですので、属性だけで計画からの排除はしていませんが……」

「運営と通じている人間が入り込んでいる可能性はゼロではないと?」

 

 和泉さんは首を縦に振った。

 

 その仮定が真実だとすると問題だ。

 早いうちに真偽を確かめて、もし内通者がいるならば排除しないと、今回のように延々と邪魔されることになる。

 

 その時、近くの民家からドカドカと階段を駆け下りるような音がした。

 続いてドアのロックを外す音。

 

 ガチャリとドアが開いて若い男が3人、外に飛び出してきた。

 

 このニュータウンの住人か?

 

 そんな疑問は一瞬で消え去った。

 

 男たちは、現代では夏と冬の祭典でしか見かけないような格好をしていた。

 

 武器、防具はファンタジーゲームの登場人物を思わせるが、金属光沢のある質感からコスプレではないことがわかる。

 実用的な装備だ。

 

 西洋剣を背負った男が一人。

 和装に日本刀を差した男が一人。

 ボウガンを構えた地味な服の男が一人。

 

 暇な大学生の悪ふざけでは説明がつかない。

 

「あんたらは何者だ? 最初の48人にはいなかった!」

 

 西洋剣を持った男が威圧するような低い声をあげた。

 

「48人?」

 

 その数で思い当たるのは、あの異世界で行われたゲームだ。

 

 50人が召喚されて、3人ずつでチームを組まされる。

 そして3人で最初の部屋を脱出。

 16チーム48人でゲームが始まり、端数2は最初の部屋に取り残される。

 

 俺達——運営開催のゲームに巻き込まれた被害者——との共通点があまりに多い。

 

 だが、俺達の同期はもういないはずだ。

 あちらの世界では80年以上が経過している。

 

 そして俺達7人以外の帰還者はいない。

 

 ……結論を出すのはまだ早い。

 まずは、突然に民家から飛び出してきた若者達の目的を確認する必要がある。

 

 内ポケットから手帳を取り出す。

 

 もちろん警察手帳ではない。

 そろそろ来年の手帳を買わないといけないと思って、八王子の駅前で購入したばかりの来年度の手帳だ。

 

 男達が反応を見せて身構えるが、攻撃の意思はないことを示すために両手を頭上に掲げる。

 

「私は警視庁の加古川稲美(かこがわいなみ)と申します。ここにはとある事件の調査で立ち寄らせていただきました」

「……警察?」

 

 西洋剣の男が目を細めて手帳をまじまじと見ようとしたので、先にポケットに戻した。

 

 手帳だけでは説得力が足りないかもしれないが、俺が今着ているのは以前に蘆名さんからいただいた元警察用コートと警帽だ。

 若干体型に合わせたアレンジを加えたとはいえ、現行警察官だと言ってもギリギリ通じる。

 

 和泉さんに視線を向けると、一瞬だけ呆れるような顔をしたが、意図は察していただけたようだ。

 

 同じようにポケットから身分証を取り出した。

 

 こちらは今度発足する新組織のものだが、総務省管轄団体だけあって、顔写真付き身分証のデザインは警察のものによく似ている。

 

「同じく流星(りゅうせい)です。調査中の事件につき、服務規程で話せないことが多いのですが、もしやあなた達も事件の関係者でしょうか? こちらには保護プログラムが用意されています」

「け、警察……本当に警察なのか?」

「ここから出たところにパトカーも停まっていますよ。今は出られないようですけど、あとで確認してください」

 

 和泉さんに代わって男に答える。

 パトカーは間違いなく停まっている。

 安坂刑事が乗ってきたものであるが嘘はついていない。

 

「上戸さん、お知り合いだったりしますか?」

 

 俺は首を横に振った。

 

「いえ……ただ、この方々の境遇は思っている通りなのかもしれません。任せてもらえませんか?」

「……任せます」

 

 和泉さんの許可をいただいた。

 では、まずはこの若者3人の信頼を勝ち取るところから始めよう。

 

「もしかして、夢の中でソシャゲのガチャ演出みたいなものを見て、気が付いたら変な部屋の中にいたりしましたか?」

 

 反応はない。

 

「最初の人数は50人。3人チームを組むと扉が開く。最初に流れた音声はゴールを目指せ」

「それを知っているということは……」

「ちなみにゴールを目指せは罠ですよ。ゴールにある扉からは行き先ランダムにデタラメな場所に飛ばされます。変な場所に飛ばされて苦労した方もいらっしゃいます。警察は以前に発生した同様の事件について把握済です」

 

 背負っていたナップサックを下ろして、中から経口補水液を取り出した。

 

 同じように鞄の中に手を突っ込み、スキルでクッキーを作り出し、そのクッキーをいかにも鞄の中から出したように見せる。

 

「非常食と水ならあります。あまり量はありませんが、必要でしたらお渡しできます」

「水は水道から出るが、食べ物は全然足りない。非常食でもなんでもいいから欲しい。この5日ほどろくなものを食べていない」

「たまに民家の中に買い置きのカップ麺があったりするが、早い者勝ちでもうない。48人で漁れば一瞬で尽きる。全然数が足りない」

「米はあるのか?」

 

 若者3人から次々と質問が飛んできた。

 

 水道から水が出る?

 どういうことだろう。

 

 ここは八王子とはいえ、未開発地域で山の中だ。水道管など通っているわけもないが。

 

「今はクッキーしかありませんが、外に出たら八王子ですよ。コンビニでもスーパーでもいくらでもあります」

「嘘だろ? いくら八王子でもこんなド田舎じゃないぞ」

「八王子でも神奈川との県境に近い山の中です。駅近くではないです」

 

 そう説明すると男達は「ああ……」となんともいえない声をあげた。

 分かっていただけると楽で良い。

 

「ところで今、48人とおっしゃいましたが、最初は50人だったのでは?」

「ああそうだよ。最初の部屋に2人取り残された」

「助けようとしたが、扉は何をしても開かなかった」

 

 それを聞いて、同じ境遇だった友人2人の顔が脳裏をよぎる。

 男たちの話が真実ならば、既に5日……友人達よりも2日長い。

 

 だが、目の前の若者3人を見捨ててそちらに向かうのは、さすがに違う。

 

「最初は扉を抜けた後に全員で行動してたんだが、すぐに意見が分かれてみんなバラバラに動き始めた。殺し合いを始めたやつもいる」

 

 俺の手からクッキーを受け取りながら男が答えた。

 次のクッキーを用意して2人目にも渡す。

 

「あんた達もそうした他人を殺してメダルを奪うやつらだと思ったんだ。まさか警察とは」

「他にも警察は来ているのか?」

「先に安坂というベテラン刑事がリーダーのチームが来ているはずですが、見かけませんでした?」

「いや、見てない。110番は真っ先にそこらの公衆電話から連絡しようとしたが、繋がらなかったんだ」

 

 男の一人が道の脇にあった公衆電話を指さした。

 

 真偽については後で確かめる。

 

「私たちは別の方から通報があったのでこの町に来ました。おそらく繋がる場所があるのでしょう」

「そんな場所があるのか?」

「あるようです。ですので、私たちは通報者の安否を確認しなければなりません。2時間ほど捜す予定ですので、それまで家の中で待機をお願いできないでしょうか?」

「被害者の人数と状況が確認できた時点で救助ヘリを呼ぶ予定です」

 

 和泉さんがハッタリに付き合ってくれた。

 

 いや違うのか。

 レスキューヘリを呼ぶというのは当初の予定通りだ。

 

「最初はどのあたりから出発されたかお分かりですか?」

「いやわからない。似たような家と路地ばっかりでどこからどう来たものやら」

「でも町の外れではなかった。町の中心の大きな建物だった」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 青年たちが家に入るのを確認してから、その場を離れる。

 

「上戸さん、町の中心の大きな建物とは?」

「さきほど空から見たときに役所らしき建物があるのが見えました。おそらくそこがスタート地点でしょう」

 

 優先順位が変わった。

 安坂刑事や調査チームの安否も気になるが、まずは閉じ込められて死に瀕している後輩を助けにいかなければならない。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町の中央にあった市役所支所に踏み込んだ。

 

 影達が盛大に出迎えてくれたが、今更戦力を惜しむ必要はない。

 

 増幅で強化した極光のレーザー光線でまとめて薙ぎ払い、運良く生き残った使い魔達を次々と葬り去る。

 

 不自然な地下の階段を下りていった先に、あの忌まわしい扉を見つけた。

 

 重苦しい金属製の扉。

 何をやっても破壊できず、小森くんとエリちゃんを苦しめた扉。

 

 遺跡のゴールに再度登場して、転移の罠で俺達とハセベさん達を分断した扉。

 

「上戸さん、落ち着いてください。今のあなたは冷静さを失っています」

「私は冷静ですよ。頭だって回っている。ただ、決して許せないものがあるだけです」

 

 和泉さんは何も分かっていない。

 

 扉の継ぎ目に沿ってまっすぐにバルザイの偃月刀を振り下ろした。

 これで扉にかけられた術式の効果は消滅した。

 

増幅増幅射矢(ブーストブーストアロー)!」

 

 増幅魔方陣を二重に重ねて強化した使い魔を放出。

 あの決して開かなかった扉を粉々に吹き飛ばす。

 

 鞄からヘッドランプを取り出して頭に巻き付けて、暗い室内に飛び込む。

 

 部屋の隅で抱き合うように倒れている2人を見つけた。

 

 どちらも子供だった。

 

 小さな手。冷たい頬。

 レルム君やドロシーちゃんよりも更に幼い子供……。

 

 ここの連中は、この幼い子供を見捨てて外に逃げ出したのか……。

 

 いや違う。

 

 みんな自分の命が惜しいのは仕方がない。

 誰もが自分の命を守ることで精一杯だった。

 

 悪いのはこんな環境を作った運営だ。

 

 子供たちは衰弱しているが、まだ息がある。

 

 経口補水液を少しずつ与えると、わずかに喉が動いた。

 何とか飲み込んでくれて安堵する。

 

「和泉さん、手伝ってください。この子供達を安全な場所に運びます」

「それは難しいと思います」

 

 和泉さんが汗を拭いながら近付いてきた。

 子供たちに優しく触れる。

 

「上戸さんは頑張りすぎました。あれだけ派手に大音量を立てて破壊活動を繰り返せば、周囲の敵の注意は全てこちらに向きます」

 

 和泉さんが上方向を指さす。

 すかさず使い魔を階上へと放って、今の状況が理解できた。

 

 市役所支所……俺達が今いる建物に向けて何十という黒い影が蠢きながら波のように押し寄せてきていた。

 

 一体一体は弱くとも、この数相手だとスキルの連続使用ができない俺にはどこかで手が間に合わなくなる。

 

 それでも俺だけならば生存できるだろう。

 ランクアップと限界超越で得た防御力ならば、影の攻撃でほぼダメージを受けることはない。

 

 和泉さんも俺が突破口を開けば脱出できる能力はあるだろう。

 

 だが、ここに倒れたままの衰弱した子供は助からない。

 置いていけば確実に死ぬが、助けるための手段がない。

 

「おそらくこれは罠です」

 

 和泉の声が低く響く。

 

「上戸さんが子供達を絶対に見捨てられないことを敵は知っている。この扉で閉ざされた部屋を見れば激高することもだ。それらを踏まえて仕掛けてきた敵の罠」

「敵?」

「そう、最大戦力であるあなたを封じるための……運営の罠」

「あいつらの……」

「次元の壁を生成する施設の建築を阻止することが第一の目的。日本側の戦力を封じることが第二の目的」

 

 今のままだと市役所に押しかけてきている影たちはこの地下の部屋に達するだろう。

 それを阻止する方法は一つ。

 

「……階段を破壊しろ」

 

 唇を血が出るまで強く噛んだ。

 

 目の前の小さな命を守るにはこれしかない。

 

 鳥たちに命じて地下に至る通路の天井部分を破壊させて階段を完全に塞ぐ。

 

 パワーがない影達にはその瓦礫のバリケードを突破する術がない。

 

「和泉さん、すみません。完全に私のミスです」

 

 素直に頭を下げて謝罪する。

 

 強大な力を得たことで流石に天狗になりすぎていた。

 人間一人で解決できる問題など所詮限界があるのだ。

 

 和泉さんは無言で俺に近づいてきて、頬を平手で打った。

 

 実際の痛みよりも精神的な痛みの方が大きかった。

 

「その通りです。十分に反省して今後に生かしてください」

「もういいんですか?」

「反省しているのはわかりました。今後は繰り返さないようにしてください。だから、ケジメの一発で終わりです」

 

 和泉さんはそう言うと手にしたアタッシュケースの中身をぶちまけた。

 やけくそ気味にも見えるが八つ当たりではないようだ。

 

 あくまで冷静にアタッシュケースの中身全てを取り出した。

 

「ただ、この子供達を見捨てるような選択をしていれば、私はあなたを見切っていました。幼い命が無碍にされて良いわけがない」

 

 そういって床にぶちまけられた様々な道具を手に取っていく。

 

「子供達は一刻も早く医療機関で治療する必要があります。脱出方法を一緒に考えましょう」

 

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