収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第四話 「空飛ぶブレザー」

 閉じ込められた場所からの脱出プランについて。

 

1 誰かが助けに来る。

2 すごいアイデアが閃いてこの地下の部屋はもちろん、敵の包囲網からも脱出できる。

3 助からない。現実は非情である。

 

 選びたいのは1番だが、残念なことに俺たちがその救助隊だ。

 援軍は期待できないし、イギーが突然生えてきて砂人形で助けてくれたりしない。

 

 3は論外。

 諦めても何もならない。

 

 だとすると2だ。

 

・謎の新能力が覚醒する

 楽観的なご都合主義に頼るのはやめよう。

 

・一度崩した階段の瓦礫を除去する

 問題外。外から侵入する敵を防ぐためのバリケードを作った意味がなくなる。

 

・壁を魔女の呪いで溶かしてトンネルを掘りぬく

 体力のない子供が巻き込まれて真っ先に死ぬ。よって不可能。

 

 スキルが頼りにならないならば、手札……俺と和泉さんの所持品と今の環境を利用して何ができるのかを考えるべきだ。

 

 外には48人の能力者が存在している。

 現状を打破するには、彼らの協力を仰ぐのが一番だ。

 

 ならば、どうやって彼らに接触し、情報交換を持ちかけて協力してもらえるかにかかっている。

 

 ある程度考えがまとまったことに気付いたのか、和泉さんが話しかけてきた。

 こちらの反応を待っていたようだ。

 

「では打ち合わせしましょうか。現状を打破して包囲網を突破する起死回生の策を」

「その前にコートを脱がせてください」

 

 羽織っていたコートを脱いで眠っている子どもたちの下に毛布代わりに敷く。

 

 焼け石に水かもしれないが、さすがに温度が下がって冷え込む石の床の上に寝かせるのには抵抗がある。

 

「こちらも使ってください。防災用のシェルターです」

 

 和泉さんが取り出したのは防災用のアルミ蒸着シートで作られた使い捨ての簡易テント。

 

 ホームセンターなどで安価で買えるものだが、日本の平地部では十分な保温機能がある。

 

 冬場でも体温が逃げることによる体力の消耗を防ぐことが出来る。

 

「前から売っているのは知っていましたが」

「コンパクトなので非常用に常時しておくと便利ですよ。ただ、定期的に買い換えないと、経年劣化で袋から出した途端にバラバラになったりしますがね」

 

 防災用の避難袋の中身は定期的にチェックして入れ替えろとはそのことだ。

 いざという時に使えないと意味がない。

 

「では、上戸さんが現在考えているプランをお願いします」

「天井に明かり取りの小さな窓があります。そこに穴を開けます」

 

 まずは天井を指さす。

 

 室内は基本的にコンクリむき出しのビルのような構造だが、天井部分にはアクリルだかガラスだかが埋め込まれている。

 そこならば簡単に穴が開けられるだろう。

 

「開けた穴から敵が入ってくる可能性は? この建物は包囲されているんですよ」

「なので鳥の使い魔がギリギリ通れるくらいの小さい穴を開けます」

「まずは偵察ですか?」

「違います。私の選択は1番。能力者の仲間を集めます」

 

 鞄から取り出したのはモバイルルーターとスマホ。

 

 スマホには近距離チャットアプリがインストールされている。

 電波がなくとも近距離ならばチャットで会話できるアプリだ。

 

 これの強みは同じWifiに繋がったスマホ同士ならば、キャリア接続しなくとも通話が可能ということだ。

 

 学生向け低価格プランの少ないデータ容量内で必死にやりくりしている高校生達に勧められて入れたアプリだが、仕事でも存外役に立っている。

 

 続いて二台目のスマホ、社用携帯を取り出す。

 こちらにも近距離チャットアプリは入っている。

 

 更に買ったばかりの手帳。

 

 もったいないが、この手帳は全て紙の手紙として使うことにする。

 

「この区役所分署の屋根には防災無線用だと思われる大きなアンテナが付いていました。そこにモバイルルーターのアンテナを取り付けてWifiの有効半径を増やします」

「どれくらいの距離になる見込みですか?」

「即席の工作ですのでせいぜい半径500メートルでしょう……逆に言うと500メートル以内ならば、チャットツールとして利用可能になります」

 

 モバイルルーターには外部有線アンテナをつける口があるが、ここに無理矢理有線イヤホンを差し込む。

 このイヤホンのケーブルを外のアンテナに巻き付けることで、外部アンテナとして無理矢理使用する。

 

「テープか何か持ってないですか?」

「ガムテープなら」

「ありがとうございます。借ります」

 

 ガムテープでアンテナが外れないようにグルグル巻きにして固定した。

 これで簡単に外れることはない。

 

「さっき会った若者たちの話によると、この町の中には最大48人の能力者がいます」

「信頼できるのですか? 意見が割れて殺し合いを始めた人だっているんでしょう?」

「48人全員を信じて仲間に引き込むのは無理です。私たちの同期の中にもメダル目当てにいきなり襲い掛かってきた人たちがいました」

 

 残念ながら人間はみんな善性を持っているというのは夢物語だ。

 

 それに、自分の命が一番大切という非常事態だと、倫理観をあえて壊す、見なかったことにする人も多い。

 

「先ほど会った若者たちは2人残された仲間を助けようとしたができなかったと言っていました。つまり、本当は助けたかったが、力が及ばず諦めたという人が何人かいるということです」

「ですが、悪意を持った相手に妨害される危険もある」

「そこで、この限定された閉鎖空間の中はもちろん、近代戦を制するには必要不可欠の武器を使います。人類200万年の叡智を結集させて作られた現代だと最強の武器です」

 

 スマホのメニューから文章読み上げアプリを起動させる。

 テキストに入力した文章を合成音声で読み上げることができる。

 

 続いて音声加工アプリ。

 人間の読み上げ音声に様々な効果音を足すことができる。

 

 使用するのは各種放送で使われる「ピンポンパンポン」という「ディナーチャイム」と呼ばれる音。

 そして航空機のプロペラ音だ。

 

「上戸さんのやりたいことがわかりました。ではこれも活用してください」

 

 和泉さんが取り出したのはコンパクトな何かの機械。

 折り畳み式のようで、半分のところで折れ曲がる仕組みになっている。

 

 単体だと何の道具かわからなかったが、ペラペラのプラ製の板を機械の周りに円を描くように取り付けて理解できた。

 

 これは拡声器だ。

 

「今回は人の捜索が目的ですから、呼びかけるのに便利かと思って持ってきていました。正解だったようです」

「ありがとうございます。これがあれば効果は倍増できます」

 

 やはりガムテープでスマホに外れないようにくくりつけた。

 

「近代戦では必要不可欠。無線通信を使った『情報戦』でこの運営が作り出したゲームをぶち壊します」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 獣の鳴き声だけが響く、沈みきった静寂。

 

 その闇を、突如としてマイクのハウリング音が切り裂いた。

 

 続いて、プロペラの回転音。

 ピンポンパンポンという広域放送の起動音が、町全体に反響する。

 

 音量は決して大きくない。

 

 だが、静寂に包まれたこの町では、まるで山びこのように何度も反射して響いた。

 

 音の発生源は上空を高速で移動する飛翔体。

 黒い布で覆われてカモフラージュされているが、途切れないプロペラ音から判断してドローンだと分かる。

 

『こちらは……東京都警察……警視庁です……』

 

 ——ボツッ、ガリッ。

 

 ノイズ混じりの音声の合間に警察を名乗っているのが聞こえる。

 

『大規模な組織犯罪が……発生しております……』

『治安維持のため……この地域への機動隊の突入を予定しています……』

『安全のため……近くの建物に避難してください……繰り返します……』

 

 無機質な放送が、同じ文言を何度も繰り返す。

 ドローンは一定の高度で町の上空を旋回し続けていた。

 

合田(あいだ)、あれをどう思う?」

 

 消防署の屋上。

 

 剣を携えた騎士風の装束を身にまとった少年、端島(はしま)は双眼鏡を覗き込みながら、横にいる少女、合田に尋ねた。

 

 合田は黒服の魔法使い。

 

 攻撃系のスキルは持っていないが、分析や補助魔法を得意としている。

 

 突然与えられたスキルだけではなく、本人自身も様々な知識や雑学を持っており、その知恵に何度も助けられてきた。

 

 今回のような謎の飛翔体を調査するには、彼女の分析能力が必要だ。

 

「あれが警察かどうかは横に置いときますね」

「置いとくのか」

「まずは順番。あれが一体何なのかを、今の状況から分析します」

 

 合田は眼鏡を掛けなおしながら飛翔体の動きを見る。

 目を細めた後に眼鏡を掛けなおす。

 

「見えないのか?」

「前は視力はそんなに悪くなかったんですけどね。どうも今の姿になってからよく見えなくて」

「眼鏡でも見えないのか?」

「眼鏡って人生で初めて掛けたので、違和感がすごいんですよ」

 

 眼鏡を上げ下げしながら合田はゆっくりと話し始めた。

 

「まず、あれは外部からドローンを持ち込んだか、スキルで出した何かをドローンっぽく見せているかの二択」

「ドローンっぽい何かを出すスキルってなんだ?」

「そのまんま万能ドローン召喚とか、スマホ召喚と空を飛ぶ使い魔の召喚という二人の能力者の協力とか色々考えられます。少なくとも合成音声の再生、スピーカー、飛翔の三つの能力が必要のはず」

 

 合田は癖なのか眼鏡を改めて掛け直して端島に指を三本立てた。

 

「この町でスマホかドローンを拾ったという可能性は?」

「ゼロじゃないけど、多分ありえない。私たちもこの5日間色々と探したけど、20世紀の機械しか見つかっていないから」

「スキルではないとして、外部の人間が何をやろうとしているんだ?」

「それはさっき助けたあの刑事さんに聞いてみたいと思う」

「それもそうだ。警視庁を名乗っているんだから、関係者に聞くのが間違いない」

 

 2人は屋上から階下に降りて、部屋で待機させている安坂刑事の元に移動する。

 

 外からはなお放送の声が聞こえてくる。

 

「安坂さん、既にお聞きのことだと思いますが、あれはどういうことだと思いますか?」

「直接知っているわけではないが、お仲間だと思う。おれたちは来年度から今度発足する総務省の対策チームへの転属が予定されていた」

「総務省の? 対策チーム?」

 

 合田の話を聞いてもピンと来なかった端島は首を傾げた。

 

「合田は知ってるか?」

「先々月くらいに新聞にも載ってたニュースかな? 日本人の大量拉致事件が起こっていて、その対策チームが作られることが決まったって載っていたはず」

「日本人の大量拉致? それってまさか……」

「私たちの今の状況だと思う。強制的にこんなところに集めてデスゲームをさせるっていう」

 

 ただの高校生だった端島は突然にこの空間に連れてこられた。

 しかも、姿も微妙に変えられ、超常的な能力——スキルを与えられてだ。

 

「ゴール」を見つけると脱出できるようだが、それが何を意味しているのか? どこにあるのかは何もわからないまま5日が経過した。

 

 部屋から出られた48人で2日目まではまとまって行動していたが、それも3日目で限界を迎えた。

 

 民家にわずかに残っていた食料も底を尽いた段階で、メダルと引き換えに食料が提供される「ショップ」機能が解放された。

 

「ショップ」で使用できるのはメダル。

 

 モンスターや人が死ぬ時にメダルが放出され、そのメダルは食料や強化アイテムなどと交換ができる。

 

 その事実が分かってからは、48人の協力体制は崩壊した。

 

 意見の相違からの分断、そしてメダル欲しさに始まる殺し合い。

 

 早めに消防署に残された非常食を確保した端島はまだ余裕があるが、他のチームは食糧不足のはずだ。

 明日以降は更に殺し合いが加速するだろう。

 

 餓死する前に……体力が残っていて殺し合いが出来るうちに他のチームを殺害してメダルを奪えと。

 

 そんな行き詰まった状況を打破するには「ゴール」を見付けるしかないと思っていたが、ここに来て第三の選択が現れた。

 

 端島は安坂の方を見る。

 

「新設じゃなくて転属。つまり、組織としては既に存在するということだ。もちろん、まだ他のメンバーには会ったことがないがね」

 安坂は両手を広げておどけてみせた。

 

「そこのドローンは、対策チームがこの変なニュータウンに突入するための情報を集めているんだろう」

「逆に言うと、ドローンは外部から飛んできて、この空間から脱出する方法を知っている」

「だから、その出入り口へ勝手に詰めかけてパニックにならないように、警察が突入するまで近くの建物に避難しろ、引きこもれってことなんだろう」

「梨本! すぐに来てくれ!」

 

 端島は廊下に飛び出て呼びかけると、仲間の梨本……半裸の少女が姿を現した。

 

「おい、ちゃんと服を着ろ」

「やだよ、面倒くさい」

「外から安坂さんや他のおじさん達も来てるんだぞ!」

「そういやそうだ、忘れてたよー」

 

 梨本は端島が最初の部屋でスカウトした仲間だ。

 卓越した五感と運動能力を持つ格闘家タイプの能力者。

 

 合田を仲間に決めた後に、回復系の能力者が欲しかったが、見つからなかったので次善の策で選んだのが彼女だ。

 

「服を着て屋上に来てくれ?」

「エッチなこと? なら今のままでいいんじゃない?」

「からかうなよ!」

 

 端島は顔を真っ赤にして答える。

 

 梨本も分かっていたのかニャハニャハと変な笑い方をしながら部屋に戻っていった。

 

 梨本は初日からずっとこんな感じで端島をからかっている。

 端島があまりこの町に長居したくない理由の一つでもある。

 

 そのうち理性の限界が来て彼女を襲ってしまうかもしれない。

 

 梨本はすぐに貫頭衣のようなデザインの服を着て戻ってくる。

 

「下を履き忘れているわけじゃないよな」

「元からこのデザインだよ。変態だね、この服を考えた人は」

「それよりも見てほしいものがある。屋上に来てくれ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「あれをどう思う?」

「空飛ぶブレザー」

 

 梨本はドローンを一目見た後にそう評した。

 

 端島の目には黒い布を被った何かが暗闇を動き回っているようにしか見えないが、梨本にはその布の正体がわかるらしい。

 

「中学生の制服みたいにも見えるかな? まあ、ブレザーだね」

「そうじゃなくて、あのドローンの動きを追ってくれ」

「あいよ」

 

 2人でドローンの動きを見守っていると、それはしばらく旋回した後に地上へと降りていく。

 

「なんだ、電池切れか?」

「違うね。まっすぐに地上を目指している。最初からそうコントロールしているみたいに」

 

 梨本からはもうおどけた表情は消えていた。

 他には目もくれないでドローンの動きを追っている。

 

「あれは市役所の分署だね。わたしらが最初に集められた場所」

 

 梨本が端島から無言で双眼鏡を奪い取った。

 自らの目に当ててドローンの動きを追う。

 

「もしかして、あの役所の中に、この町から脱出するための出入り口があったのか?」

 

 十分あり得る話だ。

 最初に集められた部屋が一番出口に近い。

 

 あの時は状況が分からずパニックになっていたせいで、誘導するような3人組を作れという言葉の意味もよく考えずに乗ってしまった。

 

 だが、もう少し冷静になればと今更悔やんでも仕方ない。もう過去の出来事で修正はできない。

 

「知らないけど、空飛ぶブレザーなら、あの建物に入っていったよ。もう見えないから追えない」

「いや、十分だ。あの役所の周りだけ異様になっていることから、だいたい事情は分かる」

 

 市役所分署の周りには道を黒くするほどに黒い影が押し寄せていた。

 

 一体一体は強くないが、3匹も集まると苦戦は必至。

 そいつらが100匹以上は集まっている。

 

 町中を徘徊している影が、それだけ同じ場所に集まって何かをしようとしている動きはこの5日で初めて見る光景だった。

 確実に何かが起こっている。

 

 それは何か?

 

 警察が俺たちを助けに来るというならば、当然、このデスゲームを企画した連中はそれを阻止しようとするだろう。

 

 この町に突入してきた警察もあまりに敵が多ければ、作戦を見直し、突入は延期されるかもしれない。

 

 そうなれば……デスゲームは止まらない。

 

 端島は梨本を待たずに階下へと降りた。

 合田や安坂刑事と相談する必要がある。

 

「俺たちが助かるかどうかがかかってるんだ。知恵を絞れ。作戦を立てるぞ!」

 

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