収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第五話 「青い流星」

 ドローンに偽装させた使い魔がスマホと拡声器を持ち帰ってきた。

 今のところ、首尾はそこそこというところか?

 

 まずは上空から確認した町の全体地図を手帳に書いていく。

 

 似たような……というよりもコピペしたとしか思えない同じ形状の建物ばかりが並んでおり、迷路のようになっているこの町では、この地図は重要な情報になるだろう。

 

 飛行可能な能力者がそれほど多いとは思えない。

 正確な地図の需要は大きいはずだ。

 

 町の中心である現在位置には市役所の支所がある。

 

 ランドマークになりそうな建造物は、市役所に隣接する形で大きな公園がある。

 北方向には消防署、南方向には警察署。東側には団地群。西側には学校。

 

 町を真北から南東に向けて川が伸びており、橋がかかっている。

 

 これらの場所が分かれば、現在位置の把握はやりやすいだろう。

 

 そして、商店や病院は不自然なほどに全く見当たらない。

 

 歯医者を含む個人経営の病院などがあっても良さそうなものだが、それも見当たらないあたり、ここが人工的に作られた空間の証明だろうか。

 

 この町の規模にしては変電所も水道局もないのも気にかかる。

 電気や水はどうやって供給されているのだろう?

 

「放送に対して反応があったのは4か所。そのうち使い魔の射程2キロメートル内で移動できるのは3か所。そのうち1か所は最初に出会った若者3人なので、実質の新規は2か所です」

 

 和泉さんに偵察で得られた情報を伝えていく。

 

「Wifiの範囲内にいるのは?」

「2か所どちらもです。そのうち、1か所から警察官の横川淳(よこかわじゅん)さんと鑑識の明山大介(あけやまだいすけ)さんの姿を確認できました。まずは、ここに連絡を取ってみます。敵だと誤解される可能性が低いのはここだと思いますので」

 

 手帳を破いて1枚目には今の状況を簡単に記入する。

 

 2枚目にはWifiのログインパスワードを記載した上で、Wifiで利用できる通話アプリかチャットアプリがインストールされているスマホがないかを確認。

 

 3枚目には町の地図だ。

 

「私の名刺も持たせてください。全く知らない相手ではなく、名前くらいは知っている相手の連絡だと伝われば、警戒心も下がると思います」

「ありがとうございます。名刺お借りします」

 

 和泉さんから名刺を受け取り、3枚の手紙と合わせて使い魔の鳥に持たせて、向かわせる。

 

 並行して最初に出会った3人に二時間以内には戻れなくなった旨の謝罪の手紙と、クッキー10枚を持たせて送り出した。

 ただ、こちらには能力者ではなく警察だと伝えている。

 

 急に鳥の使い魔がやってきても、変な警戒をされそうなので、手紙とクッキーは郵便ポストに投げ込み、ドアを何回かノックするに留める。

 

 しばらくして、若者の一人が家の中から出てきた。

 

 ポストの中に入っている手紙とクッキーに気付いて回収したのを見届けたところで、使い魔を解放(リリース)する。

 

「もう一か所は消防署ですが……屋上には2名の能力者らしき人物がいました」

「どのような人物でしたか?」

「男の戦士と女の魔法使い。どちらも高校生くらい。ただ、こちらの放送を完全に疑っている感じでしたね」

 

 4か所のうち、警察官の横川さんがいた場所を含む3か所は使い魔に対して何らかのコンタクトを取ろうとしたのか、シーツなどの布を振るなど、自分たちの現在位置を報せるアクションがあった。

 

 ただ、消防署の屋上にいた2人だけは、こちらの動きに対して一切警戒を緩めようとしなかった。

 

 しかも、一度屋上から階下に戻っていったなと思ったら、別の全身黒ずくめの人間を連れてきて使い魔の動きを観察していた。

 

 うちの使い魔の眼でも真っ黒な人間にしか見えなかったあたり、何らかの偽装スキル持ちなのだろう。

 

 剣士と魔法使いの姿は既に視られているのに、自分が視られるのは嫌がるあたり、よほど正体や能力を見せたくないと分かる。

 

 黒ずくめがチームのリーダーで、他の2人を部下として扱っているのかもしれない。

 

 それでも魔法使いと入れ替えで屋上に上がってきたということは、正体バレの危険を冒してもなお出てくる必要があった。

 

 探知系の能力があるか、視力を含む五感が優れていて、ドローンに偽装させたこちらの使い魔の正体を見破ろうとしたのかもしれない。

 

「かなり警戒心が強い相手ですね。自分たちの敵が警察を名乗って接近しようとしている可能性を考えてのことでしょう。迂闊に近づくと攻撃されていたかもしれません」

「もしや、我々は無駄に敵を作ってしまったのでは?」

「ですが、警察の名前を出さないと、他の方々が建物から出てきてくれなかったのは事実です」

 

 俺の使い魔は視覚情報しか共有できないので、どこかに引きこもられた相手を捜すのは困難を極める。

 

 友瀬さんのアルゴスのようなレーダー機能があれば楽だったのだが……ないものを僻んでも仕方がない。手持ちのカードで勝負するだけだ。

 

 そうしている間に、警察官である横川さんとコンタクトが取れた。

 

 和泉さんの名刺と手紙でこちらの状況は伝わったようだ。

 人差し指と親指で丸を作り、OKを示してくれた。

 

 その後に、調査チームの一人からスマホを借り受けて、チャットアプリがインストールされている画面を見せてくれた。

 

 これならば文字で情報交換が可能だ。

 

「一歩前進です。まずは情報交換から始めましょう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 横川さんとチャットアプリでまずはお互いの現状報告を行う。

 

 その場にいるのは警官の横川さん、鑑識の明山さんと調査チームの2名。

 

 町を移動中に敵の襲撃を受けて安坂さんと他の3人とは分断されたという。

 

 調査チームの1人が負傷しているということだったので、気休めにしかならないかもしれないが、包帯と痛み止めを送ることにする。

 

「救助対象4名は発見出来ないままですね」

「考えられる理由は3つ。1つは使い魔の射程圏外に出た。もう1つは消防署にいた能力者のところに匿われている。もう1つは——」

「——安坂さんが付いているのです。さすがに大丈夫でしょう」

 

 最悪の結果を言う前に和泉さんが遮った。

 

 今の状況で後ろ向きに考えても仕方がない。

 前向きに考えよう。

 

「消防署の勢力は未知の部分が多すぎます。ですので、ここは横川さんに協力していただく方法で考えたいと思います。もちろん本人の同意を得られればの話ですが」

 

 チャットを送ると『負傷者に危険が及ばない範囲でならば』と連絡が返ってきた。

 

 では、状況確認だ。

 

『電気やガス、水道について教えてください』

『電気や水はどこでも使える。ガスはプロパンガスのボンベが近くにある家ならば使える』

 

 電気や水が使える?

 電線も電柱もなければ、水道局もないのに?

 

 いや、今はそこらの考察は後回しだ。

 プロパンガスのボンベがあるならば、できることが変わってくる。

 

『私の考えは、他の方が潜伏している場所から離れた場所でプロパンガスのガスボンベを爆発させる作戦です。爆音と炎で影たちをそちらにおびき寄せます』

 

 無人の町、人工的に作られた町だからこそ出来る荒業。

 

 派手な爆発を起こして、そちらに注目を集めて市役所支所を取り囲んでいる影の数を減らす。

 

 こちらの手数で間に合う数まで減らせば、あとは強行突破出来る。

 

『家の二階から離れた場所に公園が見える。爆発を起こすならそこだ』

 

 地図を確認すると、市役所横の大きな公園とは別に野球場らしきグラウンドのある公園がある。

 

 グラウンドならば、木や可燃物へ延焼する危険も少ない。

 

 それに、市役所からは適度に近いので、陽動にはぴったりだ。

 

 ここに集められた人たちが潜んでいる場所からは適度な距離があるので、影に巻き込まれる可能性も低いだろう。

 

『そこで爆発させましょう』

『ガスボンベは重い。こちらには怪我人がいるので警官2人が抜けだすわけにはいかない。影も徘徊している。他の協力者が必要だ』

 当然の話だ。

 

 負傷者がいるのに、放置して出ていくわけにはいかないだろう。

 

 抜けられても横川さん一人だけか?

 

 なんとか手が足りないというハードルをどうにかしてクリアしないといけない。

 

「あの若者たちに協力を頼みましょう。ダメ元でもやれることはやるべきです」

 

 和泉さんが言っているのは町に入ってすぐに出会った3人のことだろう。

 

 手伝ってくれるかどうかは別の話として、協力してくれるならばハードルは下がる。

 

 横川さんに相談して、例の若者3人と警察官として合流出来ないかを頼んでみる。

 もちろん、こちらから遠隔で鳥たちを護衛として送るつもりではある。

 

 だが、それなりの危険を伴う任務だ。

 ダメならば別の方法を考えよう。

 

 まずは反応を見るために計画について説明を書き込むとすぐに承諾の回答があった。

 話が早い。

 

『プロパンガスのボンベを爆発させるなら良い方法があります』

 

 その直後、チャットに別のコメントが書き込まれた。

 

『鑑識の明山です。この家にある家電を分解して遠隔の点火装置を作れそうです』

 

 どうやらチャットの相手が横川さんから明山さんに変わったようだ。

 

 なんという頼もしい発言。

 

 遠隔の点火装置があれば、作戦の成功率が変わってくる。是非頼みたい。

 

『ボンベの外装は破壊できるのですよね。自動でガスを噴出させるにはさすがに道具も機材も足りません』

『大丈夫です。こちらでボンベを破壊してガスを噴出させます。うまく爆発するかどうかは不明でしたが』

『密閉空間と違って空気との比率の問題もありますからね。それを踏まえて遠隔の点火装置を作ります。一時間ください』

 

 あまりにも話の進め方が早い。

 

 こちらが最低限のチャットをしただけで、自主的にどんどんプランを立ててくれる。

 

『横川です。ガスボンベを運ぶだけで良いのですね』

『はい。ボンベの破壊と点火装置のスイッチを押す作業はこちらで(うけたまわ)ります』

 

 鳥は5羽。

 3羽で増幅魔法陣、1羽が点火装置のスイッチ係、1羽でボンベの外装を破壊すればなんとか回りそうだ。

  

「言った通りでしょう。新組織には優秀なのを集めていると」

「本当にそうですね。頼もしい限りです」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 不気味な獣の咆哮だけが、闇に沈んだニュータウンの空気を震わせていた。

 

 消防署の屋上から見える街並みはどこにも光はなく、灯りの消えた街並みは、夜の闇に溶け込んでいた。

 

 なぜこれほど暗いのか……民家の灯りだけではない。

 

 街灯も信号も自販機も……普通の町ならばどこにでもあるはずの設備が、何一つなかった。

 

 人が住むためではない。

 まるで映画のセットのように特定の目的のためだけに本物を模して造られた偽物の町。

 

「まだ見てるのかい?」

 

 屋上に上がってきた刑事、安坂(あさか)が転落防止柵にもたれかかっていた端島(はしま)の隣にやってきて、同じように柵に手を置いた。

 

「あの警察を名乗った放送について……動くとしたら、いつ頃だと思われますか? 本職の方にお聞きしたいです」

「恥ずかしい話、本職っつっても、まだ打ち合わせの段階だからなぁ」

「今までの経験、もしくは一般論で構いません」

「おれの勘で良ければ、そろそろ動くころだ。これ以上遅くなると、敵さんに準備の時間を与えちまう」

 

 安坂は暗く沈んだ市役所支所の方向を睨みながら呟いた。

 

 暗闇に包まれたこの町においてもなお、町を徘徊している黒い影は輪郭がはっきりと分かるくらい「漆黒」だ。

 それらが大量にうごめいている様は、何か巨大な生物の器官のようにも見える。

 

「詳しい説明を聞いたわけじゃないが、今度作られる組織には、この手の超常現象的な事件を密かに解決していた連中がいて、そいつらがあんたらと似たような能力を使うそうだ」

「俺たちと同じ……?」

「そう。だから、来るとしたらド派手に仕掛けてくるだろうな。たとえば——」

 

 安坂は特に何かを指すつもりはなかったのだろう。

 

 だが、偶然なのか、安坂の指の動きに合わせるようにして、地上から真っ直ぐ空へと昇っていく青い光の線があった。

 

 線の数は四本。

 

 青白い粒子で構成された四羽の鳥の使い魔たちが、展示飛行のように光の軌跡を残しながら、空の彼方へと消えていく。

 

 偶然ながら動きを指で追うような形になった安坂も、ただ口をぽかんと開けて、光の残像が消えるのをただ眺めていた。

 

「おれは専門家じゃねえから聞くけどよ。あれは何をしようとしてるんだ?」

「俺が能力を使えるようになって、まだ五日ですよ。他の能力者に詳しいわけでもない」

「そうだな……そうだよな」

 

 ややあって、雲の隙間から再度、鳥たちが姿を現した。

 今度は螺旋を描きながら地面へと進んでいく。

 

 まるで地上で獲物を見つけた猛禽類のように。

 

 地上が近づいたところで、三羽の鳥たちが虚空に弾けるように溶けた。

 

 その粒子は空中に光る幾何学模様——魔法陣へと形を変える。

 残った一羽の鳥がその魔法陣に突入した直後——

 

 ——鳥は青い流星と化して、目も止まらぬ速さで地面へと突き刺さった。

 

「誰か説明してくれよ……いったい何がどうなっているんだ!?」

 

 直後、視界の端で眩い閃光が弾けた。

 

 町中に爆音が響き渡り、猛烈な熱風が吹き付ける。

 

 消防署の窓ガラスがガタガタと鳴り響く音が聞こえてくる。

 

 流星が墜ちた地点はやや離れた場所にある野球のグラウンド。

 その中心に高く青白い火柱と黒い煙がもうもうと上がっている。

 

 ややあって、再度爆音、そして爆風、青白い火柱。

 

 端島は思わず腕で顔を庇い、爆風の向こうを睨んだ。

 

「ただのスキルであんな破壊力が?」

「あれは能力じゃないな。ガス爆発だ」

 

 安坂は興奮しながら額に手をかざして言った。

 

「着弾地点をよく見てみろ。グラウンドのど真ん中にガスボンベみたいなのが積み上げられている」

「ガスボンベ?」

 

 吹き上がった炎に照らされたおかげで端島にも安坂が指摘するものがはっきり見えた。

 

 グラウンドの中心にはプロパンガスのボンベらしきもの横倒しになって転がっているのがあった。

 そのガスボンベが爆発の高熱にあぶられて、空気を入れすぎた風船のようにパンパンに膨れ上がっていた。

 

 ガス爆発だと証明するように、爆風に乗ってプロパンガス特有の悪臭が流れてくる。

 

 常識的に考えてガスボンベがそんなグラウンドのど真ん中に置いてあるわけがない。

 

 誰かが仕込んだのだ。

 

「無人の……こんなハリボテみたいな町でしかできないことだな。どうやら、おれのお仲間さんには派手好きの花火職人がいるらしい」

 

 安坂が身をかがめた直後に三度目の爆発。

 そして爆音と爆風。

 

 可燃物は他にないのか、その後には炎も光も嘘のように消えた。

 ただ黒煙だけがもうもうと上がり、悪臭が漂ってくる。

 

「あんなところで爆発なんて、一体何をやりたいんだ?」

「誘導だろ。見ろよ、さっきの爆発に反応して、市役所に張り付いていた影どもが動き始めた」

 

 安坂の言うとおり、市役所に群れていた人の形をした黒い影が、まるで呼ばれたように一斉にグラウンドの方へ動き出した。

 

 あまりの数のせいで、黒い波が道の形に沿って流れているようにも見えた。

 

「こりゃ事態が大きく動くぞ」

「その通りだ。こんなところで黙ってみてる場合じゃない!」

 

 端島は慌てて階下に降りる。

 それを見た安坂も後に続く。

 

「合田! 梨本! 今から討って出るぞ!」

 

 端島は大きな声で2人の寝室に向かって叫ぶと、仲間の女子2人が飛び出してきた。

 

 先ほどの爆発音を聞いて、臨戦態勢を取るべきだと理解したのだろう。

 どちらも戦闘用の装備は身に着けており、いつでも出られる状態だ。

 

「『影』は外部からの侵入者があの市役所から出て来ると知っていた。だから、それを阻止するため、迎え撃つため、一か所に集まっていたんだ」

「それが爆発音を聞いて移動した? なんで?」

「俺達と同じで、あの爆発に気を取られたんだ。何にしろ、影どもが市役所を抜け出した今が最大のチャンスだ」

「罠って可能性はないのかな?」

 

 梨本がいぶかしげな視線を端島に向けた。

 

「もちろんその可能性もある。だけど、もし罠じゃなかった場合……本当に俺達を助けに来た人達だった場合には、他のチームにアドバンテージを奪われることになりかねない」

「うーむ、ラバン君はこのゲームにのめりこんでいるねぇ」

「ゲームじゃない。現実だ。俺達を良く思わない連中にあることないこと吹き込まれたらたまらない」

「それは安坂さん達を保護してるんだから大丈夫だとは思うけど」

「うるさいな。今は警察に恩を売るチャンスなんだ。合田は援護を」

 

 端島は(はや)る気持ちを抑えられないのか、真っ先に消防署の建物から飛び出した。

 後から梨本、合田。そして安坂が続く。

 

「安坂さんはここで待っていてください。警察の方と合流出来たなら、すぐここに連れてきますので」

「ああ、おれだって分をわきまえちゃいる。武器もないのに一緒に戦うとか言いやしないさ。化け物退治はあんたらに任せて、ここを護るのに全力を費やすよ」

「お願いします。俺達が戻るまでシャッターを閉めて、誰も入れないでください」

「あいよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 なるべく音をたてないように。

 それでいて可能な限り早く。

 

 影の大半が移動したのを確認した後に、天井の明かり取りの窓を破壊して地上への脱出口を作り上げた。

 

 そして、まずは俺一人が地上へと脱出。

 周辺の影たちを速やかに仕留めて安全を確保する。

 

 市役所内の倉庫を開けると、丈夫そうなテントの幌布があったので、それを箒と紐で固定。

 簡易ストレッチャーを作った後に、地下へと下ろす。

 

 まずは和泉さんを地上へと送り届けて、地上部分の監視を行ってもらう。

 

 続いて子供たちを一人ずつストレッチャーに載せて地上へと運ぶ。

 ここで失敗は許されない。

 

 なるべく揺れないように、慎重に地下と地上を二往復。

 

 無事に全員の脱出を確認できたので一息つく。

 

「では、まずは横川さんと合流しましょうか」

「いえ……先にお客さんが来られたようですよ」

 

 和泉さんが視線を送った先……市役所の裏門の方から近寄ってくる人影があった。

 数は3人。

 

 最初に出会った若者たちが迎えに来たのかと思ったが、よく見るとシルエットが全く異なる。

 

 男の剣士に魔法使い、それに格闘家か?

 男一人に女二人がこちらへと近づいてくる。

 

「当方に敵対の意思はありません。衰弱している子供2人を保護しており、一刻も早く休ませたいと考えています」

 

 あまり大きな声を出せば影に気づかれる。

 声のトーンを落とした上で、聞き取りやすいようにハッキリとした発音で呼びかけた。

 

「何者だ? 警察関係者か?」

 

 男から返答があった。

 

 こちらが警察関係者と分かっている?

 もしや安坂さんと何らかの接触があったのだろうか?

 

「こちら総務省管轄組織所属のものです。ご協力をお願いいたします」

 

 和泉さんが例の警察そっくりの身分証を男に見せた。

 

「こちら4人保護している。ヤザワ、エトウ、クロウ、タダの名前に聞き覚えは?」

 

 全員和泉さんから見せていただいた資料にあった名前と微妙に違う。

 カマかけだろうか?

 

「私たちは行方をくらました8人を発見、救出するためにここにやってきた救出チームのメンバーですが、あなたが挙げた4人とは微妙に名前が異なります。安坂、伊東、工藤、羽田もその中に含まれています」

 

 和泉さんが腹の探り合いなど時間の無駄だとばかりに4人の正しい名前を挙げた。

 

「他の4名とも接触済み。その中には負傷者もおられます。全員を少しでも早く医療機関に運びたいと考えております。繰り返しにはなりますが、ご協力をよろしくお願いします」

 

 今度は若干語気を強めて言った。

 

「すまない。あんた達が敵の可能性を考えてカマをかけさせてもらった。安全な場所まで案内するからついてきてほしい」

 

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