収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第七話 「西にある学校へ」

「警察の方から来ました。開けてくださーい」

「警視庁刑事課の横川です。救助に参りました」

 

 俺と和泉さん、横川さんの3人は消防署から少し離れた場所にある一軒家を訪れていた。

 

 ここは、最初に放送を行った際に反応があった場所のうち、未だに確認できていない場所の一つだ。

 

 早いうちからコンタクトをもらったが、すぐに行ける場所ではなかったという理由で放置したままというのは、相手も困るだろうし、こちらもあまり良い気がしない。

 

 使い魔で上空から敵の動きは常時チェックしている。

 

 この区画の巡回係は、今は少し離れた民家のドアをバンバンと乱暴にノックしているところだ。

 そうやって一軒一軒の家のドアを叩いては移動を繰り返している。

 

 戻ってくるまではまだ30分くらいかかるだろう。

 

 倒すのは簡単だが、倒すと仲間を呼んで次々と敵が集まってくる。

 

 うまく回避して遭遇しないようにするのがベストだ。

 

 腕時計を見ると、そろそろ日が変わる頃。

 家に明かりは点いていない。

 

 町を徘徊している影に見つからないように身を潜めているからなのか、時間的にもう寝てしまったのか。

 

 念のために数度呼びかけると、家の中からガタンという音が鳴り響いた後に、階段をバタバタと降りてくる音が聞こえてきた。

 

 玄関のロックが外れる音が鳴った後にドアが少しだけ開いた。

 

 本職の警官である横川さんが身分証を見せると、ドアが大きく開いた。

 

「ほ、本物の警察なんですか?」

 

 ドアの奥からはファンタジーゲームのコスプレのような少女が3人現れた。

 やはりこのゲームに参加させられた被害者だ。

 

「もちろんです。到着が遅れてしまい申し訳ありませんでした」

 

 横川さんが優しく声をかけると、玄関前でヘナヘナと腰が抜けたように崩れ落ちた。

 救助がきたという安心感から、張りつめていた気が抜けたのだろう。

 

「ただ、今は車などの乗り物がありません。ですので、集合場所までここから20分ほど歩いていただきます。同行いただけないでしょうか?」

「行きます! 歩きます! それで助かるならいくらでも歩きます!」

 

 少女の一人が大きな声をあげたので、人差し指を立てて口元に持っていった。

 

「静かに! あまり大きな声を出すと、そこらを徘徊している『影』が襲ってきます」

 

 そう説明すると、少女3人も口を閉じて同じポーズを取った。

 念のために周囲を確認するが「影」はいないようだ。

 

「『影』はこの周りを周回しています。戻ってくる前にここを退避したいので、手早く手荷物をまとめてすぐに出る準備をしてください」

「荷物は特に何も持ってないんですけど」

 

 これは初期装備の話だろうか?

 

「この町を出てもレスキューヘリ到着までは時間が少しかかりますので、待ち時間の間に飲める水や食料を準備しておいてください。タオルなどもあると良いでしょう」

「水道から水は出るんですけど、入れ物が……」

 

 そういう根本的な問題があったか。

 

 何かしら水筒かその用途で使えそうなものはありそうだが、水道の栓を捻れば蛇口から水が出るだけに、その発想もなかったのだろう。

 水がなくなれば水道から出せば良いと。

 

 仕方ないので、子供たちに飲ませた経口補水液が入っていた空のペットボトルを一本と、あらかじめ準備していた袋に入れたクッキー12枚を渡す。

 

 ペットボトルは水筒代わりに使えるので持っておきたかったのだが、要救助者優先だ。

 

「ペットボトルは洗ってあります。中に水道水を詰めて持っておいてください。食料は救助が来るまではこれを分けて食べてください」

 

 少女たちはよほど腹が減っていたのか、渡したばかりの袋をすぐに開けると3人でクッキーを分けてガツガツと食べ始めた。

 

「この近くに他の方が潜んでいるかご存じですか? なるべく多くの方を助けたいのですが」

「わかりません。いきなり武器を振り回して暴れる人が出たので、怖くてここに逃げてからずっと隠れていたので」

 

 先頭にいた少女が何か恐ろしいものを思い出すように怯えながら答えた。

 

 今のところ分かったことは、現代人だというのに殺人に忌避感を持たない危ない連中が、この町のどこかに潜んでいるという事実だけだ。

 

「上戸さん、その人物はどうします?」

「ここにいない人間の心配をしても仕方がないでしょう。会ってから考えます」

 

 とりあえずは後回しだ。

 ベッドのシーツを剥がして風呂敷代わりにした後に、民家にあった使えそうな生活用品をまとめさせた。

 

 要救助者3名追加だ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 消防署に戻った後に全員で移動を始めた。

 向かうは町の南端部。

 

 町並みや道路が途切れて突然に森が現れるという明らかに不自然な場所だ。

 

「今から儀式を行い、外への出口を開きます。ただし、あまり長くは持ちません。速やかに退避をお願いします」

 

 この結界内から脱出するのは調査チーム5名、衰弱した子供2名。

 それにこのゲームに参加させられた被害者6名。

 そして、民間人の護衛と、外にいる警察や政府関係者に中の状況を伝える役目を担った警官3名だ。

 

「私たちもなるべく早く脱出するつもりですが、それまでの対応はお願いします」

「こちらは任せておいてほしい。まずは救助を呼んだ後に上に報告だな」

 

 警官のリーダーポジションである安坂刑事から頼もしい返事が来た。

 

「はい。まずは最優先で救助を呼んでください。特に子供2人と負傷した勝山さんはかなり衰弱しています。なるべく早く病院で医師による治療が必要です」

 

 俺が念を押した後に和泉さんがメモに電話番号を書いて安坂刑事に渡した。

 

「警察庁長官と私の上司への直通ダイヤルです。深夜でもつながります。異世界絡みで緊急事態が発生していると伝えてください。それで伝わります」

「警察庁長官!?」

 

 さすがの安坂刑事も突然出てきた大物の連絡先に息を呑んだ。

 

 俺も驚きだ。

 

 前に異世界関係のレセプションを開いた時に総務省の偉い人が来ていたのは知っていたが、この政府による異世界絡みの事件の対策は思っている以上の規模で動いているようだ。

 

「でも警察庁長官までが動く事態か?」

「調査チーム5名だけのはずでしたが、事情が変わりました。最悪の場合、この結界内の影が八王子市街に現れる可能性があるのですから、そうなると地方自治体の警察署長クラスでは権限が足りません」

「わかった。必ず伝えておく」

 

 これで外は安心だ。

 

 和泉さんも納得したのか、儀式の準備を始める。

 

 内容は以前に麻沼さんが行っていたものとよく似ている。

 

 東西南北を確認した後に、10メートル四方に(しきみ)代用のそこらの木の葉っぱを入れた筒を置く。

 

 筒と筒の間に塩や米や石などを置いてナムナムナムと密教の真言にも似た呪文を唱えながら練り歩く。

 

 一応、俺も和泉さんの後ろに付いて、そこらの木の枝を折った棒を持って振りながら歩いていく。

 

 これで良いのか疑問に思ったが、そこまで厳密な形は必要ないらしい。

 

 三周ほど歩いたところで和泉さんが両手の指を組んで「オン!」と高らかに声を上げたところで動きがあった。

 

 今まで何もなかった森にアーチ形のゲートが突然出現した。

 

 あまりの突然な現象に一同が動きを止めた。

 

「早く! あまり時間は持ちません!」

 

 和泉さんが叫ぶと、みんなそれで我に返ったようだ。

 

 子供たちを背負った調査チーム2人がゲートの向こうへ駆け出して行った。

 負傷した勝山さんの手を引いた伊東さんが後に続く。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

 笠取が軽く会釈した後に他のチームメンバーと走り抜けた。

 先ほど助けたばかりの少女3人も同じようにゲートの向こうに消えていく。

 

「安坂刑事、あとはお願いします」

「わかっている。時間もないので後ほど」

 

 安坂刑事、横川さんが敬礼をしながら調査チーム最後の1人と一緒に抜けたところでゲートが消えた。

 

「なんとか全員救助できましたか」

「ごめんなさい、全員ではないです」

 

 残ったのは俺と和泉さんだと思っていたところ、第三者からの声が聞こえてきた。

 慌てて声の方向を見ると、調査用の機材を抱えたままの鑑識の明山さんが残っていた。

 

「すみません、荷物が大きかったので出遅れました」

 

 そう言う明山さんに取り残されたという悲壮感はなく、顔には笑みが浮かんでいる。

 

「もしかしてわざと残られましたか?」

 

 和泉さんも驚き半分、諦め半分で明山さんに尋ねる。

 少なくとも明山さんの言うことを全く信じておらず、わざと残ったと信じていそうなのはわかる。

 

「そんなことはありません。3人増えた分だけゲートを走り抜ける時間がなかったのは事実です」

 

 そう言われるとこちらもそれ以上突っ込めない。

 最後に救出した少女3人が増えた分だけ時間がギリギリになったのは事実だからだ。

 

「残ったからには協力させていただきますよ」

「ですが、明山さんには戦闘能力はありません。なるべく安全地帯から危険を避けるようにしてください」

「もちろんです。体育会系ではないので危ないと思ったらすぐに逃げます」

 

 色々と大変なことになったが仕方がない。

 なんとかやるしかない。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 当初の予定通り、ラバン達3人を加えた6人で西の学校にあるという敵の発生源を目指す。

 

 ラバンの能力は

 

・剣の威力を上げる

・第3の能力のためのエネルギーチャージ

・ドラゴンの召喚

 

 の三種類だった。

 

「来い、ドラゴン!」

 

 叫びと共に巨大な生物が出現する。

 

 体は頭部、胸部、腹部と三つに分かれた構造で、胸部からは6本の細い脚。

 頭部の先端には触覚があり、背中についた羽根で飛行が出来る。

 

 これだけ書くと完全に大きな蜂なのだが、手足の先に付いた爪、鋭い牙を持つ尖った顔、全身の鱗などは爬虫類に似ている。

 翼の形状は蝙蝠に似ている。

 

 俺たちのスキルはアイコンしか情報がないため、正式な名称はわからない。

 使い魔の場合は本人(?)が自己申告してくれたらしいが、それ以外の場合は情報がないので、当然スキルの名前も使用者が勝手に名付けるわけだ。

 

 必殺攻撃のエネルギーチャージ攻撃に「レイジングインフェルノ」とかいう中二感満載の名前を付けてしまうお茶目な受験生もいるが、それはそれだ。

 

「受験科目が得意科目(赤点ではない)の英語と国語だけで受けられる国際学科志望」

 

 というのを聞いた時には、さすがに一度は止めたが、本人の選択なので仕方ない。

 一度は止めたからな。

 

 なので、この場合も使用者本人がドラゴンというならばドラゴンなのだ。

 他人が茶々を入れても仕方がない。

 

 ともかくラバンのドラゴン?が道中に現れる影を薙ぎ払ってくれる。

 楽といえば楽である。

 

「このドラゴン?はどれくらい出していられるんですか?」

「3分だ。それを過ぎたら再度召喚する必要がある」

「スキル3のインターバルって何分でしたっけ?」

「3分なのでずっと出していられる計算だ」

 

 厳密にはずっとではないだろう。

 3分経って切れた直後に一度消えて、再度喚び出すまで5秒くらいのタイムラグがあるはずだ。

 

「端……リーダーが派手に倒すと敵が寄ってくるんですよ」

 

 魔法使いのソーラが眼鏡をかけ直しながら俺に小声で話しかけてきた。

 

「大変ですね」

「大変ですよ。仲間なのでフォローはしますけど。もう少し落ち着きを持ってほしいです」

 

 だいたい分かった。

 このソーラという少女はチームの世話焼きがかりで過労枠だ。

 ポジション的には他人の気がしない。

 

「上戸さん、よろしいでしょうか? 今の間に作戦会議を済ませておきましょう」

 

 和泉さんが手招きするので、ソーラと一緒に近付く。

 

「明山さんから話があるそうです」

「あのテレビドラマに仕込まれたメッセージでしたけど、いかにもゲーム的でしたよね」

 

 それは明山さんの言うとおりだ。

 現実や推理ものよりも、謎解きゲームに近い謎の出し方だ。

 

「学校のプールに敵の発生源があるということでしたが、おそらくまたゲーム的な仕掛けがあると思うんです」

「ゲーム的というとたとえば?」

「プールには水が張られているけど、それを抜くためのポンプ小屋に入るためには学校を歩き回って鍵を見つけるとか」

「ああ……ありそうですね」

 

 学校はいかにもランドマーク的な建物であるため、そこを拠点にしている参加者もいるだろう。

 だが、ノーヒントでプールに何かあると気付けるだろうか?

 

 おそらく学校の中でも何かしらの謎解きの仕掛けがある可能性は高い。

 

「そろそろ学校が使い魔の射程圏内に入るので、先行して偵察させておきます」

 

 使い魔を喚び出して空に放つ。

 

 学校は遠くからではわかりにくかったが、近付いて確認すると小学校だということが分かる。

 

 校庭には鉄棒などの遊具。

 白線が引かれて作られたトラックは高校のものと比べると明らかに狭い。

 

 校舎の前に花壇などがあるのもそれらしい。

 

 だが、敷地内に肝心のプールが見当たらない。

 

 体育館の中に屋内プールがある近代的な学校のパターンか?

 と思って窓から中を覗き込ませるも何も見つからない。

 

「プールがない?」

「そこは小学校なんでしょう。他に中学校か高校があるのでは?」

「探してみます」

 

 鳥を再度高度限界ギリギリまで上昇させて町全体を俯瞰させるが、他に学校らしい建物は見当たらない。

 

 これ以上空から探させても意味はない。

 一度解放(リリース)する。

 

「これはまた新しい謎の提供ですよ。プールのない学校の中でプールを探せという」

「プールという言葉が何を指しているかですね」

 

 おそらくテレビの時のように、ヒントは何か別の形で埋め込まれているのだろう。

 まずはそのヒントを探さないことには先に進めない。

 

「どうせ偽物なんだし、学校ごと全部吹き飛ばした方が早い気がしてきた」

「何が起こるか分からないですし、それは結界内から敵がいなくなるまで自重をお願いします」

 

 面倒なのはこれだ。

 

 八王子の市街地に敵がバラまかれる危険を考えるとゴリ押しが使えない。

 

 そう考えると、電気や機械の知識に詳しい明山さんが残ってくれたのは良いことなのかもしれない。

 

「みんな、学校が見えてきたぞ」

 

 ラバンの言う通り、特に方針も決まらないまま、学校まであと数百メートルの距離に近付いていた。

 

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