収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第13話 「ショップ機能」

 壁一面に並んだスチールラックと書類棚。

 その中の金属製の引き出しが豪快に引き抜かれた。

 

 2人の男は、通路に背を向けるようにして同様に他の引き出しも開けていく。

 

「何かヒントはないか?」

「今年の日付が入っているらしい。2月から6月までの間だ」

「じゃあこれか?」

 

 男が少しだけ分厚い茶封筒を取り出した。

 

 封を開けると薄いクリアケースが中から滑り出してきた。

 ケースを開けると中に銅色のメダルが2枚入っている。

 

「こんなところにあったぞ」

「聞いていた話の通りだな。まだあるはずだ」

 

 それを合図にしたように、2人は周囲の引き出しに手を伸ばした。

 

 同じようなクリアケースが入った封筒を探して中身を改めては、不要な書類は床に捨てる。

 その動作をただひたすら繰り返す。

 

「こっちは3枚も入ってるぞ」

「こっちは1枚だけ。まだありそうだな」

 

 そうしているうちに、近くの机の上にクリアケースが積み上がる。

 次々に開封して中身を取り出すと、銅色のメダルが7枚集まった。

 

 更に1枚、別の色のメダルがあった。

 

「こいつは色が違うな」

「銀……か。特別扱いってわけだ」

 

 銀色のメダルをつまみ上げ、男は満足げに口元をゆがめた。

 

「間違いない。こいつらが黒幕でなきゃ、こんなにたくさんメダルを隠しているわけがない」

「俺たちを戦わせていたのはこいつらか。ということは、これが犠牲者」

 

 ちょうどその時だった。

 閉ざされた扉の向こうから、靴音が聞こえてきた。

 

 コツコツと鳴る足音が、だんだんと近づいてくる。

 

「日高か? それとも佐藤か?」

 

 男のひとりが、予定にあったはずの仲間の名を呼ぶ。

 しかし返ってきたのは、聞き覚えのない声だった。

 

「ここに侵入者がいるぞ!」

 

 短く鋭い叫びとともに、廊下を歩く足音の数が一気に増える。

 

「壁越しに探知は?」

「これくらい壁が薄ければ出来ます。火を出す系の魔法使いタイプと剣術スキルを使うタイプの2人です」

「そいつが放火魔か!」

 

 次々と知らない声が聞こえてくる。

 

 1人や2人ならば押し切れるだろうが、ドアの外側には声が聞こえただけでも最低4人はいる。

 

 さすがに数が多すぎて力づくで逃げられる状況ではない。

 

 別行動を取った日高と佐藤はどうなったのか、気にならないと言えば嘘だ。

 

 だが、2人が今の状況で戻ってきたところで数の不利は変わらない。

 それぞれ何とか逃げ切っていることを祈るしかない。

 

「どうする?」

「やむを得ない。ショップを使おう。できればメダルの無駄遣いはしたくなかったが」

「待て、外の仲間たちは……日高や佐藤はどうする?」

「どうすると言われても、俺たちだけでこの包囲を突破するのは無理だ」

 

 部屋のドアを叩く音は益々強くなっている。

 

 施錠はしているが、それだけではたいして持ちこたえられないだろう。

 

 そもそも、相手はこの施設の管理者側だ。

 この部屋の鍵を持ち出されたら、室内からのロックなど何の意味も持たない。

 

 そこらの棚や机を積み上げてバリケードを作ったところで、自分たちが逃げ出せないのでは意味がない。

 

「全滅よりマシだ! 俺たちだけでも逃げるぞ」

「あいつらも無事だといいんだが」

 

 コートを着た男がポケットからタブレット型の端末を取り出した。

 

 電源を入れた後に何度か操作すると、何もない空中にメダルの投入口が出現した。

 

 そこに手に入れたばかりの銅色のメダルを1枚投入する。

 

 軽妙な音楽の後に「欲しいものを選んでね」という合成音声が流れだした。

 

 タブレットの画面上には、まるで通販サイトのような品々が並ぶ画面が表示されている。

 

「食料……サバイバルキット……強化武器……どれも違うな、どこにあるんだ?」

「最初に表示される画面はおススメだけだ。一度メインメニューに戻ってから特殊効果を選べってことだ」

「それってどこ情報だ?」

「リーダーだ」

「なるほど。使用者の意見か」

 

 剣士がメモ帳をめくり、そこに記載された手順を読み上げた。

 その指示に従って、コートの男がタブレットを操作する。

 

「まるで牛丼屋だな、このメニュー」

「ファミレスやハンバーガー屋も今時みんなこれだぞ」

「便利なんだか不便なんだか」

 

 メインメニューに戻ると「アイテム」「特殊効果」「マニュアル」が並んでいたので「特殊効果」を選択。

 

 またもリストが表示される。

 

「傷の治療」「コンディション回復」「能力の一時強化」

 

 リスト中には様々な効果が並んでいるが、それらには目もくれない。

 目的の効果「離れた仲間との合流」を探し当てて選択する。

 

「同時に4人まで移動可」「移動距離は10キロメートル以内」「同時行動時間が10分以内の人間は仲間と見做されません」

 次々と表示される注意書きを読み飛ばして「OK」をタッチ。

 

 ボタンを押した直後に足元に光る魔法陣が出現した。

 

「4人までなら、どの道、全員は運べなかったみたいだな」

「マジかよ。俺たちを切り捨てること前提なのか?」

「今更そんなことを言っても仕方ない。アジトまで飛ぶぞ」

 

 タブレット上では60秒のカウントダウンが始まっているが、とても待っていられない。

 

 フードの男は机にあったメダルを全てポケットに投げ込んだ後に「スキップ」ボタンをタッチする。

 

 すると、カウントダウンが5に切り替わった。

 4……3……2……

 

 剣士はフードの男の服を握る。

 

 直後に部屋のドアが開いたが、2人の姿は既に消えていた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「ダメですね。メダルは持っていかれました」

 

 和泉さんが床に散乱した封筒や書類を拾い上げて机の上に置いていく。

 

「我々が事前に回収していた6枚は全て盗っていかれたようです。後から教団事務所などから回収した分は無事なようですが」

「メダル以外の品は?」

「これからリストと突き合わせて確認しますが、床に散らばっているのは書類とメダルが入っていたケースのみですね」

 

 合田がドア越しに室内を確認した時には間違いなく2人が中にいた。

 それが一瞬で掻き消えた。

 

 突入前に室内から何らかの電子音声とやり取りは聞こえていた。

 おそらく「ショップ機能」の自動音声だろう。

 

 そのやり取りを信じる限りは、ショップの機能に使用者を「アジト」まで瞬間移動させる機能があったと考えられる。

 

「2人のやり取りと電子音声を他に聞かれた方は齟齬がないようチェックお願いします」

 

 和泉さんと合田が手を挙げた。

 俺を含む3人で会話とショップの機能の確認を行う。

 

「移動できるのは10キロだけってことは、何か手掛かりがあれば追えるんじゃないですか?」

「ダメ元で試してみましょう」

 

 和泉さんが合図すると須磨さんがスマホを取り出した。

 

 何かのアプリを開き、操作して表示させたリストのようなものを読み上げる。

 

「3番ケースにタグ68番が入っていたはずだ」

「3番ケースと」

 

 床に散らばったクリアケースを拾い上げては、そこに貼り付けられているテープの番号をチェックしていく。

 そのうちの一つの番号を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「かかった。連中はよほど急いでいたのか、ダミーごと持ち去ったようです」

「ダミー?」

「紛失防止タグにガワを被せただけの偽物です」

「紛失防止タグというのは市販のものと同じでしょうか?」

「市販のものです。追跡サイトを見れば、現在位置が表示される仕組みですので、どこに逃げたのか追跡できます」

 

 紛失防止タグには周囲へ定期的にBluetoothの電波を送信する機能が組み込まれている。

 

 その電波の範囲内にスマホやフリーWi-Fiなどがあれば、タグの現在位置を公式サイトに載せる仕組みだ。

 なので、タグが取り付けられた品が紛失、盗難されることがあっても、ある程度の位置を追うことができる。

 

 電波が届かない山の中に持ち込まれたり、タグが廃棄されたりしても、途中までのルートが分かれば、ある程度ならば追跡することができる。

 

 それをメダルと一緒に保管していたということか。

 

「元は教団の残党や東議員への対策だったのですがね。連中がメダルを狙っていたのは明白だったので」

「それが今回思わぬ形で役に立ったと」

「そういうことです」

 

 和泉さんはその場でメモ帳に、ログインユーザ名とパスワードを書き留めていく。

 

「念のために他の侵入者がいないかどうか確認してから追跡を再開します。もうしばらく協力をお願いします」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 今のところ他の倉庫は荒らされていないようだ。

 

 施錠されたままのところも鍵を開けて中を覗いたが手付かず。

 メダルが保管されていた倉庫は引き出しを引き抜かれたり、紙の封筒が引き裂かれたりと激しく荒らされていたが、それがない。

 

「侵入者は6人以外にはいなかったということか」

 

 カメラに映ったのは6人。

 それ以外にも侵入者が存在しており、他の倉庫を荒らしている可能性を懸念していたが、今のところ杞憂なようだ。

 

「ただ、今回のことは次の襲撃の下準備という可能性もあります」

「下準備?」

 

 意味が分からず尋ねる。

 

「この倉庫の防犯装備ですが、防犯シャッターなども含めて、もはや機能していません。ですので、なるべく早いうちに保管されていた品を別の場所に移送する必要があるわけですが」

「そこを狙われる……いえ、下準備というからには、この襲撃は次の計画の布石だと?」

「小さい品が少数ならば、私と須磨の2人でピストン輸送すれば済みますが、これだけの量……数十キロのものもあるので、どうしてもトラックを使って陸路で運ぶ必要があります。そこを狙われると」

 

 それは問題だ。

 

 トラックにここの倉庫の品々を一通り積み込んだところで、車ごとハイジャックされてどこかに持っていかれる可能性がありうる。

 

 むしろ、今回侵入してきた賊がメダルしか盗っていかなかったのは、あまり大きな品を持ち出す手段がなくて諦めただけかもしれない。

 

「そこのメンテナンス通路から地下鉄に入ることが出来るので、営業時間後に鉄道路線を使って移動はできないでしょうかね?」

「一般の地下鉄、もしくは貨物列車で運ぶということですか?」

「いえ、もっとシンプルにトロッコ的な何かで。鉄道の営業形態を知らないので、ただの思い付きの域を出ませんが」

「調べてみます。敵はメンテナンス通路自体を知らないようですので、鉄道ルートを使えるならば、トラックで一般道を走るよりは安全に運べる可能性がありますので」

 

 やることが次々とやってくる。

 

 しかも、今のところ対応は完全に後手後手だ。

 

「運営」サイドの動向を全く把握できていないので、仕掛けてきた攻撃に対して対症療法しかできていない。

 どこかで動きを事前に掴んで、計画を未然に阻止しなければ、手数の差でそのうち手詰まりになり、押し切られる。

 

 まだ辞令前だと思うが、ニュータウンの事件で協力いただいた安坂刑事や横川さん、明山さん達にも協力を頼みたいところだ。

 

「これで終わりですかね?」

「念のために独房のチェックもしていきましょう。大丈夫だと思いますが」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 倉庫エリアの奥にある拘置所エリアは、魔法を使う犯罪者や、異世界からやってきた獣など、一般の警察では手に負えない能力者や異世界からやってきた魔物を一時的に預かる場所だ。

 

 高度な魔法封じの陣が張られており、並みの魔術師ならば何もできなくなるはずだ。

 

 そんな拘置所エリアの一番奥に分厚い鋼鉄の扉で仕切られた独房がある。

 

 中に収監されているのは、春先に交戦して倒した星の智慧教団の「神父」だ。

 

 扉は閉ざされたまま。

 侵入者たちもこの怪人には手出しはしなかったようだ。

 

 分厚いアクリルが入った監視穴のカバーを開いて独房内をのぞき込むと、ベッドの上に座り込んでいる男の姿が見えた。

 

 手を膝の上に置き、背筋を伸ばし、姿勢正しく座っている。

 

 服装こそ神父服ではなく襟のある作業服に変わっていたが、飾り気がなく無地一色の作業服から受ける印象は以前と何も変わらない。

 

 そして、狭い独房に半年以上拘束されていたとは思えないほど血色も良い。

 

「いつからこの状態なんです?」

「春先、捕縛直後からです。こちらから何を話しかけても終始無言。それどころか何の反応も示さないのですが」

「食事くらいは摂っているんでしょう?」

「半年以上水も食事も摂っていませんよ。ずっとこの状態です。人間ではないんですよ」

 

 和泉さんがうんざりしたように言った。

 今まで何とか情報を聞き出そうとするも、失敗してきたのだろう。

 

「教団絡みの裁判がまだありますので、それが終わるまでは『処分』はできません」

「ここの倉庫を引き払うということは、この独房も引き上げになると思いますが、彼の処遇はどうされます?」

「倉庫の品を運び終えたら、後で彼も別の場所……警視庁の施設に移監します」

「なるほど」

 

 改めて室内をのぞき込むと、ちょうど目を開いた神父と目が合った。

 

 ベッドから立ち上がり、そのままスタスタと扉の前に近づいてきた。

 

 分厚い扉越しに、数十センチの距離で神父と対面する。

 

「私のいないところで何か始まったようだな」

 

 終始無言なんて嘘だろう。

 そう思うくらい、あっさりと神父が口を開いた。

 

「結局、君たちは何も防げなかったようだ」

「誰かさんが証言してくれないから、情報が全然足りなくて困っているんだわ」

「それは貴女の目が曇っているだけだ。世の中に完全な無などというものはない」

 

 まるで懺悔室で告解を聞くちゃんとした神父のように、扉の向こうの怪人は答え始めた。

 

「先を見通せないのは誤った道にいるからだ。そこからどれだけ進もうと、その先に正しい道はない」

「問答のつもりか?」

「問答をするのは仏教。教会はそういうことはやらない。ただ神の言葉を説くのみ」

「うちは神さんなら間に合っているので、そういうのはいいです」

 

 そう答えると神父が「ククク」と含んだ笑いをした。

 

「道を誤っているならば答えは一つ。『原点に帰りなさい』」

「原点ね……」

 

 神父はそれだけ言うと満足したのか、また独房の奥に戻っていった。

 

「神父が話したことには驚きですが、今のやり取りの意味は?」

「もしかしたら何の意味もない言葉かもしれません。こいつは無貌の神のモノマネ芸人。意味があるようでない話で人をかく乱するのが特技ですので」

 

 もう独房に用事はない。

 監視穴のカバーを閉じる。

 

「ただ『運営』の情報を調べるために原点回帰……見逃している情報がないか洗いなおす作業は、やってみる価値がありそうです」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 入った時と同じようにメンテナンス通路を抜けて、そこから地下鉄の駅経由で地上に脱出する。

 

 探偵事務所の方を見ると、炎は消火されたようだったが、相変わらず白煙がもくもくと上り続けていた。

 

「申し訳ありませんが、私と須磨はここで事後処理があります。逃走者の追跡を引き続きお願いします」

 

 須磨さんが電話をかけ始めた。

 

 おそらく電話先は上司である八頭さん。

 

 拘束した4人をどこか警察関連の施設へ移監。

 並びに、倉庫内の品をどこかに運ぶための調整を行うのだろう。

 

 スマホから追跡サイトを表示する。

 

 先ほどいただいたユーザ名とパスワードを入力すると、現在のタグの場所として目黒駅周辺のバーが表示された。

 今のところ動いてはいない。

 

 数少ない手がかりだ。

 追跡しないという選択肢はない。

 

「合田さん、私と同行してください。地下から逃走した人物と同一人物なのか確認したいので」

「はいわかりました」

「なら、俺も行かないとダメだろう」

 

 合田が承諾した直後に端島も割り込んできた。

 

「4人の仲間なら、問答無用で仕掛けてくるかもしれない」

「その可能性は否定できませんが、なるべく戦闘は避けてください。今から乗り込むのは敵の『アジト』ではありますが、それ以前に市街地、商店街のど真ん中みたいですので」

「派手にやると一般人に被害が出ると」

「はい」

「難しいもんだな。せっかく異世界チートがあっても思うとおりに戦えないなんて」

 

 念を押すと納得してくれた。

 今回は一般人に被害が出かねないと説明したことが良かったようだ。

 

 端島は決して悪人ではないので、何がダメなのかを説明すれば、きちんと理解してくれる。助かる。

 

「このトリモチランチャーは借りていいのかな?」

 

 梨本が地下でも使ったトリモチランチャーのトリガーガード部分に指をかけて器用にクルクル回しながら言った。

 

「和泉さん、良いですかね? 逃走者を無傷で捕縛するにはこのトリモチとローションは強力です」

「あまり一般人の前で使わないようにしていただけたら」

「使いません使いません。目立たないように使います」

 

 使用許可は出た。

 梨本には引き続きトリモチ弾を使ってもらおう。

 

「身柄を確保したらまた連絡します」

「はい、よろしくお願いします」

 

 俺と端島たち3人の計4人は再度レンタカーに乗り込んだ。

 

 目指すは紛失防止タグが示す目黒区のバーだ。

 

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