収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第14話 「酒場での寸劇」

 紛失防止タグの信号は目黒区の商店街に並ぶ雑居ビルから発信されていた。

 

 簡易な地図アプリの中心に、紛失防止タグを示す小さな円が、じっと張りついて動かない。

 間違いなく紛失防止タグはそのビルにある。

 

 もちろん、途中で追跡に気付かれてタグだけをそのビルに捨てられた可能性も含めての話だが。

 

 問題は、これからだ。

 

 紛失防止タグの位置情報はバーの入ったビルを指し示しているが、その高さまでは教えてくれない。

 

 バーと上のフロアのテナント、どちらから信号が発信されているのかを別途確認しないといけない。

 

 スマホで住所を確認すると、ビルは4階建て。

 

 1階はバー。

 酒だけではなく、ちょっとした軽食も提供しており、サラリーマンが帰宅前に夕食を食べることもあるようだ。

 

 2階は何かの事務所。

 3階と4階はテナント募集中とある。

 

 現在の時間は20時前。

 歓楽街ではなくごく普通の商店街にあるために、一部飲食店と居酒屋以外の店は営業時間を終えて閉まっている。

 

 その居酒屋などの営業中の店の数もそれほど多くないこと、そして本日は会社が休みの土曜日であるために、路地を歩いている客は思っている以上に少ない。

 立ち止まって店内を覗き込むようなことをすれば目立つだろう。

 

 見た目未成年の集団が酒場の前に立ち止まっていると悪目立ちする。

 

 ビルの前を一度横切り、大通り沿いにあったコンビニの前に陣取る。

 

「さて、どこから調べますか?」

 

 まずは商店街に入る前に、駅近くのコンビニの前で軽く打ち合わせを行う。

 

「バーへ聞き込みに行きたいところだが」

 

 そういう端島もあまり乗り気ではないのは、硬い表情からわかる

 

 未成年者にとって酒場という大人の空間への精神的なハードルは高い。

 そもそも店に入った途端に止められる可能性が高い。

 

 それは俺も変わらない。

 

 この場合、実年齢がどうという話ではない。

 見た目が大事だ。

 

「合田さん、通り過ぎる間に外から店の中に能力者がいるか分からないですか?」

 

 探知能力を持つという合田に尋ねたところ、コンビニの中を覗き込みながら答えた。

 

「ガラスごしなら大丈夫ですね。店の中にいる店員も客もチェックできます。ただ、奥の倉庫みたいなのは見えないです」

「となると、バーも奥に部屋がある場合は見えないのか」

 

 コンビニの店内と倉庫の仕切りがそれほど分厚い壁だとは思えない。

 

 薄い壁ならば透過して中をチェック出来るのに、薄い壁の向こうにある倉庫が見えないということは、探知には壁の枚数、射程距離などの細かい制限があるのだろう。

 

「窃盗犯がバーでのんきに酒を飲んでるとは思えないし、1階のバーが白だと分かれば良いんじゃないのか?」

「その割り切りは悪くないですね。わかる部分から潰していきましょう」

 

 端島の言う通り、まずは出来ることからコツコツ調べていこう。

 どの道、全部調べないといけないのだから、わかりやすいところから調べていきたい。

 

 意見がまとまったので、目標の雑居ビルを目指して歩く。

 

 店の前の立て札にはそこそこのお値段の創作料理らしきメニューの一覧が並んでいる。

 

 横目でスモークガラスごしに覗きこむと、小洒落た雰囲気の店内にはカウンターに店主が1人。

 カウンター席に客が3人ほど、グラスを片手に食事をしている様子が伺える。

 

 視線を上げると、ライトが点いているのは2階のみ。3階はカーテンもブラインドも付いておらず真っ暗だ。

 

 上のフロアの空きテナントを拠点として使用している可能性の方が高いだろう。

 

 もちろん裏をかいてバーを拠点として使っている説も否定できない。

 

 スマホに目を落とすフリをしながら横を歩いている合田に話しかける。

 

「中はどうでしたか?」

「いますね。店主と店の中の3人……4人全員が能力者です」

「えっ!?」

 

 完全に予想外の反応が返ってきた。

 

 バーは白。

 上の事務所が実際の拠点だと考えていたが、バーそのものが拠点だったとは予想外だった。

 

 地下の倉庫から逃走したのは2人。

 つまり、店主ともう1人協力者が存在していることになる。

 

 すぐに確認できないだけで、奥の部屋や2階の事務所に仲間がいないとは限らない。

 

「どうする? 今すぐ襲撃をかけるのか?」

 

 端島は相変わらず血の気が多い。

 多少強引にでも制圧を仕掛ける気のようだが、それは最後の手段だ。

 

「いえ、ここは町中ですよ。派手に暴れると他の一般人に被害が出ます」

「ならどうするんだ?」

「落ち着いて端島クン。まずは準備をしてからだよ」

 

 梨本が端島の服の裾を掴んだ。

 端島もそれで少し落ち着きを取り戻したのか大きく深呼吸をした。

 

「そうだな、まずは作戦だな」

「そのためにも、まずは情報を集めて準備しましょう。ここのバーの店主が襲撃者の仲間というならば、色々と情報は調べられるはずです」

 

 スマホで電話帳アプリを開いて電話をかける。

 

「こちらは警察関係者が味方についているんですよ。使えるものは全部使いましょう」

 

 電話をかける先は八頭さん。

 

 まだ火事の後処理があるだろうが、こちらも火事場泥棒の追跡という火急の案件だ。

 すぐに準備を揃えてもらおう。

 

「まずは警察関係者への連絡。合法的に攻め入る準備を進めつつ、私たちも情報を集める作業に入ります」

「情報ってどこで?」

「そこで」

 

 指さした先にあったのはネットカフェ。

 ここならばインターネット環境が使い放題だ。

 スマホの小さな画面よりも効率良く検索で調査を行える。

 

「警察の応援が届くまではまずはこちらでできることから調べてみましょう。情報収集と作戦の会議を」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 まずネットカフェで手分けしてパンフレットや地元タウン誌をチェック。

 バックナンバーも揃っているので調べやすい。

 

 こういう時にタウン誌の特集は頼りになる。

 ネット上には公開されていない地元ならではの情報が顔写真付きで手に入る。

 

「見つけたぞ。バー自体は30年ほど続いているらしい。バーの店長は2代目。他店でバーテンダー修行を経て5年前に先代である父親から店を引き継いでいる。現在28歳」

 

 端島がバックナンバーの中からバーの紹介記事を見つけてきた。

 3か月くらい前の記事だ。

 

「他の従業員についての情報はありませんか?」

 

 念のために確認を取ると、端島はタウン誌のページをめくって他の記事がないか探し始めた。

 

「先代は今は日曜日だけ出てきて昔からの常連の相手をしている以外の情報はない」

 

 そういうことならば仕方ない。調査を再開だ。

 全員でバックナンバーを改めて調べなおす。

 

「店員紹介ならこっちにありました。全員揃って撮った写真がありますけど、4人いるみたいですね」

 

 合田が別の雑誌を見つけてきた。

 こちらはバイト募集の広告だ。

 

 そこには先代店主らしき老人とバーテンダーらしき服を着ている人物。

 他に従業員が2人写っていた。

 

 募集内容が確かならば、従業員2人はバイト店員。

 

 メイン客層である帰宅途中の会社員が溢れる平日夜にだけ呼んでいるようだ。

 老人と従業員2人は白の可能性は高い。

 

「さっきカウンターに立っていたのは店長ですね。ガラス越しなので顔は分かりませんでしたけど、体形はよく似てます」

 

 合田が記事の写真に写っているバーテンダーを指した。

 

「剣士、火の魔法使いは地下にいた人と同じ能力でした。カウンターに立っていた人は銃使い。他には風の魔法使いが1人店内にいました」

「今の話だと、5年以上前からこの店で働いているバーテンダーが先週に召喚されたばかりの能力者ってことになるが……」

「店長と別人と入れ替わっていると」

 

 端島の指摘にある話は、あまり考えたくなかった。

 

 全く別の人物が店長にすり替わり、成りすまして、このバーを怪しげな連中がたむろする拠点として利用している。

 この仮説が当たってしまった可能性が高い。

 

 異世界からやってきた人物がこの地球で拠点(アジト)を手に入れる手段としては、すり替わりが一番手っ取り早いのがわかる。

 

 ただ、それをやるには同じ人物が複数存在する問題をクリアしないといけない。

 ならば、オリジナルの店長がどうなったかは……

 

 一応殺害されることはないと思っておこう。

 短期間滞在ならば、死体の処理が面倒な殺害よりも拘束してどこかの倉庫に投げ込んでおく方が手間はかからない。そう信じたい。

 

「方針は決まったな。他のバイト従業員が出てくる可能性は低い。能力者以外に客はなし。店長も能力者。派手に殴り込んで全員倒しても問題ないんだろう」

「でも、このバーはかなり狭いよ。テーブルも椅子もあるんだし、既に4人いるところに4人で踏み込んだら、武器はまともに振り回せないかも」

 

 梨本がモニタに表示された店の間取り図を指しながら言った。

 

「端島クンの剣を振り回すと敵より先に味方かテーブルに当たるね」

「ならどうすればいいんだ?」

「逆に考えましょう。相手も同じように店の中ではまともに戦闘できないと」

 

 ものは考え方だ。

 うかつな攻撃は味方への誤射に繋がりかねないので、なるべく戦闘を避けようとするだろう。

 

 もしも攻撃が来るとすれば、直線攻撃が出来る店長の銃だ。

 

「店に集まっている連中も、せっかく手に入れた拠点を手放したくはないと考えていると思います」

「だからお互いにいきなり攻撃を仕掛けたりはしないと」

「そのために、まずは警察の方に入ってもらおうと思います。任意の事情聴取から入っていただき、その内容次第で私たちも店内に突入。警察をサポートします」

 

 その時、タイミング良くスマホにショートメッセージが届いた。

 

 相手は以前にも会った安坂刑事だ。

 

 全く知らない警察の方が来ることを予想していただけに、少しでも知っている顔が来てくれるのはありがたい。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 待ち合わせ場所に指定された駅前交番に向かうと、そこには交番勤務の警察官2人。

 そして以前にも会ったことがある安坂刑事と、横川さんが待っていた。

 

 電話で一報を受けて電車で駆けつけてくれたようだ。

 

 交番の警察官2人へ自己紹介と、既知の2人への挨拶を軽くした後に、これからの段取りをまとめていく。

 

「電話でだいたいの事情は聴いたが、能力者がバーを占領しているのか?」

「占拠しているのか、それともただ飲んだくれているだけなのか。少なくとも火事場泥棒がバーの店主とつるんでいるのは間違いなさそうです」

 

 スマホで紛失防止タグから出ている信号を見せる。

 タグからの信号は相変わらず動いていない。

 

 続いてタウン誌の写真を交番勤務の警察官に見せる。

 

「このバーの店主をご存じですか?」

「顔は知っています。巡回中に何度か話をしたこともあります」

「一昨日も会いましたよ。ただ、いつも通りだったので、別人にすり替わっていると言われてもあまり実感が」

 

 交番勤務の警察官から思わぬ発言を聞けた。

 もう少し詳しい話を聞いてみたい。

 

「何か普段と変わった様子はありましたか?」

「そういえば、通販で何か色々と買ったのか、店の前に大きな段ボールを何個も積み上げて、それらを重そうに2階へ運び込んでいました。個人商店ならばよくあることなので特には気にしませんでしたが」

「2階?」

「あのビル自体が先代オーナーの持ちビルで、2階は事務所兼倉庫として使っているはずですよ」

 

 警察官の話から明かりが点いていた2階の謎が解けた。

 

 さすがに1階バーに住むのは狭くて無理だろうが、ビルの別フロアの空き室を宿泊所として使えるというなら話は変わってくる。

 

 そして、1階のバーには4人しかいなかったが、2階にはまだ何人か連中の仲間が潜んでいるかもしれない。

 

「このビルに何人かを泊めていて、その生活用品を買い揃えたってのなら分かる話だな」

 

 安坂刑事も同じ考えのようだ。

 

「逆に言うと、こんな狭いところで数人が生活しないといけないくらい切迫してるってことですよね」

「他に行き場のない連中だからな。逃げ場所がない状況で下手に追い込めば、全力で抵抗してくるかもしれん」

「つまり逃げ道を作ってやれば良いのでは?」

 

 普通に交渉してもほぼ間違いなく失敗するだろう。

 

 何しろ、相手は探偵事務所に火を付けて地下倉庫から物を盗んだ上に逃走している凶悪犯だ。

 

 何者にどんな情報を吹き込まれたのかは知らないが、犯罪に手を染めている時点で相当な認知の歪みが発生している。

 下手な話を持ち掛けても無視か曲解されて終わりだろう。

 

 ならば、適度に逃げ道を用意した上で、自主的にそこへ逃げてもらうように誘導してやればいい。

 

「こういう作戦はいかがでしょう? まずは交番勤務の警察官2人にバーの店長に会っていただきたく思います」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 バーのドアが突然開かれた。

 

 バーテンダーの能生(のう)は一瞬身構えたが、すぐに落ち着きを取り戻して、グラスを洗う作業に戻った。

 

「いらっしゃい」

 

 ドアを開けて入ってきたのは警察官2人ともう1人黒いコートを着た少女だった。

 軽く会釈する。

 

 警察官の制服を見た店内にいた能力者3人も、同じように身構えたが、能生が反応するなと目くばせしたところ、それぞれの席の前に置かれた食事に視線を戻した。

 

「すみません、忙しい時に。少々お時間いただけないでしょうか?」

 

 警察官の1人がチラシを持って店の中に入ってきた。

 能生は無言でそのチラシを受け取る。

 

「どのような御用でしょうか?」

「いえ、この商店街、この時間に制服の高校生らしき未成年が何人か歩いていたと通報がありまして、青少年育成条例のこともあって商店街の店に一応声を掛けてるんですよ」

 

 チラシに目を通すと東京都条例の説明と、未成年の飲酒、摘発の件数が増えている件について記されている。

 

「うちは健全にやってますよ」

「わかってますよ。形の上だけなんで気を悪くしないでください。それにしても、今日は若いお客さんが多いですね」

「土曜は会社が休みなんでね。バイトの従業員とその友人ですよ。みんな大学生です」

「わかってますよ。形の上だけの声掛けなんで」

 

 警察官2人は店内にいる3人に対して、それ以上何を言うつもりも、詮索するつもりもないようだった。

 なるべく警察官に目を向けないように、自然にふるまっていた3人も、少しだけ気を許す。

 

「すみません、コートをかけさせてもらっていいですか?」

 

 その時、警察官2人と一緒にバーの中に入ってきた少女が能生に声をかけてきた。

 

「上着掛けならそこにハンガーがあるので」

「ありがとうございます」

 

 少女はそう言うと黒いコートを脱いだ。

 その衣服はどう見ても中学生の制服にしか見えない。

 実際、少女の外観は中学生だ。

 

「週末にもなると学生も羽目を外して遊びまわるようでしてね」

「多分、商店街を横切っただけだと思うんですがね。もし未成年が飲酒するとしても、他の地域に行くでしょうし」

 

 警察官2人は、どう見ても中学生の少女などいなかったように話し続ける。

 

「あの」

 

 能生はさすがに耐え切れずに警察官に声を掛けた。

 

「今日は2人で回られているんですか?」

「そうです。まあこの後商店街を一回りしたら交番に戻りますので」

「すみません、このシーザーサラダいただいてよろしいでしょうか?」

 

 警察はやはり少女に対して全くの無反応。

 逆に少女は能生に対してメニューを片手に料理の注文を出してきた。

 

「ド、ドリンクは?」

「そろそろ新ワインが出てくる時期ですよね。赤ワインのヌーヴォーを」

「では、ご協力ありがとうございました」

「もし未成年者を見かけることがあれば、声かけにご協力ください」

 

 警察官2人はドアを開けて店の外へ出ていった。

 

 最後にカウンター席に座る白髪の少女だけが店内に残った。

 

 店内にいる4人は一瞬何が起こっているのか分からずに呆気に取られていたが、警察官が店の外に出て行ったことでドアチャイムが鳴り響き、そのおかげで冷静さを取り戻せた。

 

 カウンター席に座る白髪少女は何かしらの能力を使用して、警察の目から自らを隠蔽している。

 

 そうとしか考えられない。

 

 ただ、その正体が分からない。

 最初の部屋に集められた50人の中に白髪少女の姿はなかった。

 

 自分たちの仲間ではない。

 つまりは敵……自分たちをこの世界に呼んで苦しめているやつの仲間。

 

 そいつが……このアジトに乗り込んできた。

 

「後ろの方は風の魔法使いと火の魔法使いでしょうか? あとは剣を使われます?」

 

 客席の3人が動くより先に白髪少女が声を上げた。

 

「なっ」

「バーテンダーさんは銃を使うんでしょうか? あっ抜かなくても大丈夫ですよ。今日は盗まれたものを取り返しにきただけですので」

「盗まれたもの? メダルか!」

「そうですよ。それで、この拠点には何人いるんですか? ここにいる4人だけですか?」

 

 白髪少女が徐に立ち上がった。

 それと同時に白髪少女の背後に光る魔法陣が浮かび上がる。

 

 効果はわからない。

 だが、先ほど警察官をだまし切った術以外の能力があるはずだ。

 

「そこまでだ!」

 

 その時、突然に店のドアが乱暴に開けられた。

 

 室内に剣を構えた青年、格闘家らしき少女、魔法使いらしき少女がドカドカとなだれ込んでくる。

 

 彼らの視線は能生たちには目もくれず、カウンターにいる白髪少女の方だけに向いていた。

 

「また仲間を傷つけるつもりか、悪の魔女め!」

 

 剣を構えた青年が叫んだ。

 その横顔には何となく見覚えがある。

 

 最初に50人が同じ部屋に集められた時に「やったぜSSRだ!」と叫んでいた男だ。

 

 今までどういう経緯が有ったのかは分からないが、白髪少女と何かしらしがらみがあることは分かる。

 

 白髪少女は上着をはだけると、肩から吊していたホルダーに納められていた黒い短剣を引き抜いた。

 

 更にハンガーにかけたコートをひったくる様に掴んで羽織る。

 

 そして、コートをマントのように大きくひるがえしながら、そのまま目にも止まらぬ高速の踏み込みで青年へと近付き、短剣を振り下ろした。

 

 体格、剣の大きさ。

 全ての面で白髪少女が劣っているように見えるが、青年は剣を横に構えた防御の姿勢で何とか受けるのがやっとだった。

 

 剣の技術では白髪少女が圧倒的に上だ。

 

 さほど力を込めたとも思えない一撃で、青年の剣にキキっと金属が擦れる音と共に一本細い傷が入る。

 

「もうこの拠点はダメだ。魔女が嗅ぎ付けたからには、ここは消し炭にされる! それだけじゃない。処刑チームもすぐに攻めてくる!」

 

 青年が剣を大きく振り払い、執拗に攻撃を続ける少女をどうにか押し返しながら叫んだ。

 

「処刑チーム? どういうことだ?」

「ここのアジトはもうバレたってことだ。だからそれまでに早く逃げるんだ」

 

 またも青年が大きく剣を振るう。

 狭い店内に風が渦巻くが、白髪少女には当たらない。

 

「逃げるってどこに?」

 

 白髪少女はドアの方へ回り込み、そのまま後ろ手にドアを開けて外へ飛び出していく。

 

「さっき警察官がここへ来ていただろう。そこを頼れ。交番だ! やつは事を荒立てることを嫌うはずだ。警察にどうどうと敵対したりはしない。警察に睨まれないようにここの住民に偽装しているんだろう」

「わ、わかった」

 

 必死に訴える青年の言葉に能生はそう答えるしかなかった。

 

 剣士と一緒に入ってきた2人も後を追ってバーを飛び出していった。

 

「なんだ今のは?」

「少なくとも敵にここのアジトがバレたことは分かった。このままここに長くはいられない」

 

 能生は舌打ちした。

 せっかく手に入れた拠点だというのに、あっさりと所在地が見つかってしまった。

 

 あの青年の言葉がどこまで真実なのかは分からないが、あの白髪少女……黒幕から、いつ襲撃されるかはわからない。

 

 この拠点はもはや安全地帯とは言えない。

 

「だったらどこへ? リーダーへの連絡は? メダルはどうする?」

「とりあえず落ち着ける状況になってからだ。今のまま再襲撃を受けたら……処刑チームが何なのか分からないが、一網打尽にされるかもしれない」

「だったらどうする?」

「情報がないことには動きにくい。今はあいつが言った通りに交番に一時避難してみよう」

「交番? 警察も敵だったりしないか?」

「だとしても、警察は俺たちが何者かなんてわかるわけがない。このまま一般人に成りすませば、なんとか乗り切れるはずだ。荷物を持って出るぞ」

 

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