収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第21話 「発信源はどこに」

 御本尊であるペンギンからの情報は一通り入手した。

 

 だからといってすぐに帰るというわけにはいかない。

 

 知識と技術に関しては東京の探偵事務所よりも高い、日本一の魔術集団である京都の組織にはやってもらわないといけないことがある。

 

「宇宙船が撒き散らした黒い粒子の分析ですか?」

 

 京都の組織所属の桂に一通り情報を伝えた後に、黒い粒子がどのような信号を受信して動作するかの確認を取る。

 

「はい。あの黒い粒子は何らかの手段で命令を受け取っているはずです。それが何なのかがわかれば、命令の発信源を追跡することが出来ます」

「あの粒子は人類では解明できない未知の粒子であるとご存知ですよね」

「承知の上です。その上で、あえて尋ねています」

「では、論理的に考えましょう。我々ほどではありませんが、東京の魔術師たちも魔力波やテレパシーなどの精神波などについて察知や探知を行えます。それに、異世界から来られた伊原という方は次元間の技術にも詳しいと」

「はい、その通りです」

「そんな彼らでも、黒い粒子に対して何か命令が送信されていれば、何かしら気付けたはずです。でも、それは出来なかった。その理由は何だと思います?」

「命令は少なくとも魔術によるものではない。なぜならスペシャリストがとっくに気付いていないとおかしいから」

 

 桂は頷いた。

 

 理屈は分かる。

 魔術に詳しい様々な人物が東京に出入りしているのに、誰も何も気付けなかったというのはおかしい。

 

「通信手段は魔術によるものではないならば、使用されている技術は科学の分野です」

「科学か」

 

 大気中を伝わるならば、簡単に考えると音波、電波、光波の三種だ。

 

 もちろん今の人類には不明な方法を使って通信している可能性も否定できない。

 

 ダークマターや重力波、タキオン粒子だのヒッグス粒子だの、今の人類では手を出せない技術は山ほどあるのだから。

 

「粒子を大学の研究室に持ち込んでも、すぐには分かりそうにないですよね」

「春の段階で宇宙船の外装の破片と黒い粒子は既に調査依頼済です」

 

 桂がそう答えた。

 

 さすがにそれは知らなかったが、何か結果報告は出たのだろうか?

 桂の口から結論が出てくるのを待つ。

 

「ですが、どちらも大学にある機器では地球外の未知の物質としか判明しませんでした。宇宙船はチタンを主素材とする謎の合金、黒い粒子は珪素ベースの未知の化合物の分子配列が非ユークリッド幾何学的な構造を成している『何か』。それ以上のことは分かっていません」

 

 謎と『何か』

 おおよそ科学的とは言い難い言葉が返ってきた。

 

「『何か』とは?」

「それ以上のことは不明ということです。これはアメリカやCERNなどの研究機関に持ち込んでも同じ結論でしょう。現代の人類の科学技術を超えているんです」

 

 そうなると、正攻法ではダメだ。

 

 何十年も研究すれば分かることもあるだろうが、それまでに時間も金もかかりすぎる。

 

 何より時間の問題がある。

 

 考え方を根本的な部分で変えるべきだ。

 

 頭を振って、考えを一度リセットしてから最初から推理をやり直すことにする。

 

 そもそも、別に黒い粒子の動作原理を科学的に解明しろとか、そういう話など一切求められていないし、してもいないことに気付いた。

 

 もっとシンプルな話しかしていない。

「命令の発信源があるから、そこを叩け」

 それだけだ。

 

 俺たちは科学者でも数学者でもない。

 化学式も計算式も論文も不要だ。

 そんな専門的なものを見せられても、どうせほとんど理解できない。

 

 だけど、与えられた情報、過去の経験、犯人の人物像から推理することは出来る。

 

 重要なのは、宇宙船の合金も黒い粒子も魔術的なフワっとした物理法則ではなく、科学で法則(ルール)を説明できる物質だということだ。

 

 再現性があり、人間の意志や操作で動作する「機械」ならば、理屈に合わない動きはしない。

 

 続いて犯人像。

 

「運営」は効率にこだわり、無駄なことはほとんどしない。損失が大きくなる見込みならば、早々に計画を切り上げるということは分かっている。

 

 ならば、黒い粒子に命令を出す場合にも、同じように効率を考えて、最低限のコストで最大の効果が上がるように動くはずだ。

 

 そこから導き出される答えは——

 

「黒い粒子は横浜の保土ヶ谷、東議員の自宅から約半径40キロメートルの場所に対して放射状に散布された。ならば、同様に黒い粒子に命令を出すには、その中心点付近から放射状に出すのがベストです。それが最も無駄がない」

 

 これは神父が出したヒントにも繋がる。

 全ては始まりの場所だ。

 

「いにしえのもの」がばら撒いた粒子に命令を出すならば、その投下地点が命令を出すのに最も効率が良いというのは当然の話だ。

 

 無駄なエネルギーの放射なんてすれば敵対勢力……俺たちが察知する確率が高まるのだから当然だ。

 

「電波にしろ、未知の波動にしろ、何もない虚空からは出すことはできないという仮説を立てます。現地には無指向性のダイポールアンテナのようなものと動力源を備えた基地があると思われます」

「その説は同意です。黒い粒子がナノマシンに該当する『機械』であれば、命令を送るための装置や基地のようなものを作った方が効率が良いはずです」

「議員宅の周りは住宅地で、少し離れた場所に公園がありました。何かの施設を作るならば、公園の方がやりやすいでしょう」

 

 俺と桂の話を聞いた他の京都の組織所属の職員がキーボードを叩き始めた。

 

「議員宅近くの公園……我々が儀式を行ったあの場所に、災害対策の設備が設置されるための工事が最近始まったようです。これは神奈川県と横浜市。両方の広報が情報を出しています」

「災害対策とは具体的に何を作ろうとしているか分かりますか?」

「予算報告書には防災無線のスピーカーと、災害発生時の非常用電源とあります。今年の9月に議題に上がって即承認。かなりのスピード対応ですね」

 

 気になったので画面を彼の背中越しに覗き込んだ。

 

 神奈川県と横浜市。両方の自治体のホームページで、県の事業として公表されている。

 

 工事業者は選定なしで指定業者に依頼しているために、そのことを野党県会議員数名に突っ込まれているが、スピード重視の公共工事ではよくある話として、特に大きな話題にはなっていない。

 

 少し調べれば、この案を議会に出した議員や県庁の担当者の名前は分かるだろう。

 

 9月というのは、市ケ谷議員が提出した異世界対策の法案が臨時国会で可決された時期だ。

 

 急ピッチで「運営」対策が進み始めたことに脅威を覚えた「運営」が、慌てて手駒を動かしたようだ。

 

 誰もが見られるホームページにあからさまに怪しい工事の予定がごく普通に掲載されていたり、野党県議会議員に突っ込まれたりと、計画としてはかなり雑である。

 

 隠蔽を含めた工作をする余裕などなく、よほど切羽詰まっての計画なのだろう。

 

「工事期間はどうなっていますか? おそらく東京に異変が起こった11月からになっていると思われますが」

「10月末から年末にかけてとなっています。工事を始めて翌日に装置が完成して稼働はさすがに無理でしょうし、ここらの日付は誤差でしょう」

 

 県のホームページから開いたPDFには、公園利用者へのお詫びの文章と共に工事期間が記載されている。

 

 ビンゴだ!

 

 国会議員や官僚はもちろん、地元神奈川県庁や横浜市役所に、東啓輔氏の息がかかった政治家や官僚が多く在籍していることは分かっている。

 

 彼らは、あからさまな汚職に手を染めるほどではないだろう。

 

 だが、恩人の派閥から、表面を舐めるだけでは怪しいところなどない公共工事の書類が流れてきたならばどうするか? という話だ。

 

 一切の悪気なく、ハンコを押して書類を流すくらいはやってしまうのではないだろうか?

 

 なので、おそらく下っ端の中に「スパイ」はいない。

 

「スパイ」がいるのは更に上。

 政治家や官僚などの人を動かせる要職にいるはずだ。

 

「この工事について、可能な限り調査いただけますか? その結果を東京の探偵事務所代表である蘆名さんの個人メールに直接送ってください」

 

 実際に議員や県庁の役人を足で調べてもらうのは、警察に任せたい。

 

 警察庁長官経由で警察組織を動かせる蘆名さんに連絡すれば、シロである安坂刑事や横川さん、鑑識の明山さんたちを動かせるだろう。

 

 日本国内で合法的な調査を行うならば、警察の右に出るものはいない。

 

「あて先は探偵事務所のメールでなくて大丈夫ですか?」

「事務所のアドレスへの連絡は、おそらく『運営』に漏れています。我々が発信源の調査をしていることを知られてはいけません」

「それで、個人に伝えると」

「はい。そちらも漏れている可能性がありますが、事務所アドレスよりはマシです」

「では、バイク便で紙の手紙を送りましょう。盗聴やハッキング対策ならばそれが一番です」

 

 確かにそれならば情報漏洩も盗聴も不可能だろう。

 

 最後に手紙を焼いてしまえば何も残らない。

 

「この施設をすぐに破壊するのですか?」

「破壊は最終手段です。少なくとも『スパイ』の特定と身柄確保までは。それに、可能な限り、この施設を逆に利用して修復命令を出させたいと思います」

「それでも動向くらいは掴んでおきたいところですね。誰か横浜周辺で動けそうな人はいないのですか?」

 

 一応、受験から解放されて動けそうな高校生がいないわけではない。

 

 スポーツ推薦を決めた上で部活はもう引退した木島君や、早々と推薦入試で私大の国際なんたら科に合格した柿原さんなどだ。

 

 ただ、黒い粒子に命令を出しているような送信設備があるならば、何かしらの警戒態勢が敷かれているだろう。

 そんなところに、何の能力もなく、無防備な一般人を近付けさせるわけにはいかない。

 

 気軽に頼めるのは、近くに飯屋がないから調べておいてというくらいだ。

 

「人が動けば、必ず警戒されます。調査するとしても、ノーマークの人間がたまたまを装わない限りは難しいかと」

「とはいえ、ここは多くの人が出入りする公園です。何かしら調べる方法はあるのではないかと……県か市、区役所の広報に何か出ていないか?」

 

 桂が近くにいた職員に尋ねると、画面に神奈川県、横浜市、保土ヶ谷区のホームページを表示した。

 マウスを動かしてリンクを次々とクリックしていくうちに、その手が止まった。

 

「これなんてどうでしょう?」

 

 画面に表示されていたのは、区のページにあった、公園のゴミ拾い会。

 みんなで使う公園の美化にご協力くださいとあり、2時間ほどかけて公園やその周辺施設のゴミ拾いを行うらしい。

 主に近所のお年寄りに対しての呼びかけのようだが、昨年度は近所の中学生、高校生も参加実績があるようだ。

 

「公園に多くの人が出入りするので、その光景をカメラで撮影していても誰も不審に思わないのではないかと」

「普通、この手のイベントは工事中は危険を避けるために中止になると思うのですが」

 

 一応、公園には工事車両出入りのために、一部区画の清掃は行いませんとの注意書きはある。

 ただ、別に区切りなどないので、ついうっかり入ってしまうことはあるだろう。

 

 これならば、最小限のリスクで調査は出来る。

 だが、しかし——難しい問題だ。

 

「人を雇って、このイベントに参加してもらいましょうか?」

「一応、横浜にいる知り合いに話をしてみます。危険かどうかは自分で判断。辞退は自由だと。それで拒否されたら、お願いできますか?」

「はい、連絡をいただけたら、こちらで手配はします」

 

   ◆ ◆ ◆

 

『ちょうど良いタイミングですよ。私に相談して良かったですね』

 

 柿原さんに連絡したところ、何故か自信満々の返答があった。

 

「良いタイミングというのは?」

『前の事件の時、能力者の被害に遭った高校生同士で連絡網を作ったのを覚えていますか?』

 

 俺は直接関わっていないので伝聞だけだが、そういう話があったのは聞いている。

 

 特殊能力を与えられた高校生同士で、もしかしたら殺し合いが始まるかもしれない。

 実際に被害者も出ている。

 

 そんな状況で、無駄な争いを回避するために、近隣の高校と連絡を取り合って協力関係と互助会を構築。

 

 連絡を取り合い、うまく争いを避けて平和的に解決したという話だ。

 

「詳しくは知らないけど連絡網があったのは覚えている。あれからどうなったの?」

『あの事件がきっかけで、せっかくだから横浜の高校生同士のコミュニティグループをもっと大きく盛り上げていこうって話になったんです。なので、それ以降は文化祭で共同イベントとか、ボランティアとか勉強会とかで協力してました』

 

 それに関しては全く知らない話だ。

 

 ただ、高校生の活動としてはとても良い話だと思う。

 

 ゆるい協力関係だったとしても、誰の目から見ても正しい活動だ。

 悪いことなど何もしていない。

 

 高校生同士が協力して地域のボランティア活動をしたところで、どこからも文句が出ることはないだろう。

 

「ということは、この前の文化祭も裏で協力をしていた?」

『文化祭? 何を言ってるんですか。今年、うちの学校では文化祭なんてやってないですよ』

「えっ? だって乱入ありのバンド大会にガールズバンドで乱入して君が代を——」

『——文化祭は去年にもうやったでしょ!』

 

 柿原さんは何を言っているんだ?

 何枚も文化祭で撮った写真はスマホに残っているし、文化祭はちゃんとやった——

 

 ——そうだった。文化祭なんてなかった。

 

 夏だと思っていたら、いつの間にかハロウィンになっていた。

 

 後で実は文化祭の開催は9月だった気づくも、時すでにお寿司。

 

 その後、11月に東京で事件が始まってそれどころではなくなったので、文化祭には結局行っていない。

 という設定だ。

 

 ステージに乱入してガールズバンドで君が代を歌い、スタンディングオベーションを受けてステージから去った黒歴史などなかった。

 

 少なくとも柿原さんの中では文化祭はなかったことになっている。

 

『うちの学校では今年は文化祭はやっていない。いいね』

「アッハイ。文化祭はなかった」

『よろしい』

 

 柿原さんは最近、妙に押しが強くなった気がする。

 

 どこかの誰かに悪影響を受けていそうだが、いったい誰の影響なんだ?

 

『それで、その高校コミュには保土ヶ谷の高校も入っていて、ちょうどタイミング良く公園の清掃ボランティアの話も来ていたんですよ』

「横浜の高校コミュに?」

 

 それが本当の話ならばナイスタイミングすぎる。

 

 さすがに都合が良すぎるので、あとでその高校コミュの活動内容を調べておきたい。

 

 と思ったら、横にいた京都の職員がパソコンで検索をしてくれた。

 こちらの会話を聞いてのことだろう。

 

 高校生らしい手作り感溢れるホームページには湘南の海岸で海水浴客が残したゴミを拾う活動の写真が掲載されていた。

 

 参加校に小森くんや柿原さんたちが通う高校はもちろん、保土ヶ谷の地元公立校の名前もある。

 

『でも、受験も近いしどうしようかという話を服部さんとしていて』

「服部さんというのは?」

『隣の学校の生徒会長……今は後釜を譲って今では「元」ですけど、事件が切っ掛けで、色々とイベントに誘ってくれてます。学校のイベント以外だと買い物とかプールにも行きました』

 

 なるほど、それならば自然な形で調査はできるだろう。

 

 さすがに区役所のホームページで公募しているボランティアに地元高校生が参加しても「運営」は怪しんだりはしないはずだ。

 

 これならば、調査を頼んでも大丈夫だろう。

 動向だけはチェックできる。

 

 ただ、今の話には一つだけ気になったことがある。

 

 高校コミュのホームページの「発足人」として掲載されている服部さんとやらの写真を見ながら柿原さんに尋ねることにする。

 

 ちょっとほっそりとした体型ともっさりデザインの眼鏡から、体力的には頼りない印象を受けるが、なかなかのイケメンではある。

 

 加工されているかもしれないが、写真からも清潔感と真面目さは伝わってくる。

 そういうところは小森くんと同タイプである。

 

 生徒会長の肩書きや、清掃ボランティアに参加するなどから、清廉さは保証されている。

 少なくとも悪い人物ではないだろう。

 

「一応確認したいんだけど、その服部さんは柿原さんを何度も誘っていたりする?」

『そうですね。受験で忙しいのに、どこかに遊びに行こうとか、一緒に勉強しようとか』

「プールにも行ったと」

『せっかく新しい水着も買ったし、島だけじゃもったいなかったので』

 

 普通に考えたら脈有りなのだが柿原さんだしなぁ

 

『時間を見つけて会うようにはしていますけど、さすがに勉強の邪魔をしちゃ悪いと思ってるので最近は控えています』

「小森くんたちと会ったことは?」

『みんな会ってますよ。恵太を弟と勘違いしたりとか。あと、小森とは相性が悪いみたいですね。お互いに微妙な顔をしてました。2人して私を指さして首を横に振ってたのは感じ悪かったですけど』

 

 なるほど。

 柿原さんの方はイマイチ脈なしのようだが、うまく行って欲しい。

 頑張れ服部君。

 

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